狂乱劇 第二幕 ─二匹の気高き狼─ ◆dGUiIvN2Nw
キョウとカービィには、アドレーヌを迎えに行ってもらうように指示し、他の四人は離れた所に位置する茂みに身を隠した。
このまま物量で倒れてくれれば願ったり叶ったりだが、瀬多の心の中は不安でいっぱいだった。
「瀬多君。君に少し聞きたいことがある」
おもむろに、オタコンが言った。
「今じゃないと駄目なのか?」
オタコンは何も言わず、黙ってゲーム機を取り出した。
「……なんだそれは?」
「支給品のゲーム機だよ。この殺し合いの黒幕と思われる人物の介入があった。三つの情報を僕達に教えてくれるんだそうだ」
そう言って画面を見せる。
主催の正体。殺し合いを開催した理由 。ここがどこの島なのか。その三つの選択肢が画面に大きく映し出されている。
「……イザナミか」
「知ってるの!?」
「ああ。人を作り、世界を作った造物主。そして、マヨナカテレビ事件の主犯格だ。もっとも、俺もついさっき知ったばかりだが」
千枝がもっと詳しく聞こうと瀬多に詰め寄る前に、咲夜が止める。こういうことはオタコンに任せた方がいい。
「その口ぶりからして、君達の方にも介入があったようだね」
「今の惨状は、ほとんどあいつが作り出したようなものだ。俺が甘かったばっかりに、決定的な隙を作ってしまった」
それは悔いても悔い切れないもの。あの毒物事件の時、全員のデイバックを検めていればこういうことにはならなかったのだ。
「……ゲーム機が支給されたと言ったな」
オタコンが黙って頷く。
「それはおそらく、最重要アイテムだ。イザナミの介入っていうのは気になるが、それ自体おそらくフェイク」
「やはり僕の考えている通りか……」
「ちょ、ちょっと待って! 二人で納得してないで私達にもちゃんと説明してよ!」
「要するに、主催側も一枚岩じゃないってことだよ」
千枝の問いかけに、オタコンは簡単に答えた。
「俺はどんな支給品があるのか、全てを把握できる本を持っている。そこにこんなゲーム機なんて存在しなかった。つまり、本を作った人物と支給品を用意した人物との間に何らかの齟齬が発生したということだ。
ここまで入念な殺し合いに、こんな初歩的なミスがあるとは考えづらい。それなら、支給品を用意した人物が敢えて秘密裏にこのアイテムを忍ばせたと考えた方が納得がいく。要するに、俺達を貶めようとする奴と、それとは逆に──」
「私達に味方してくれてる人がいるってこと!?」
「最高に希望的に見れば、だけどな」
オタコンは常々疑問に思っていた。今回の殺し合いが、どうにも一つの目的に集約していないように感じていたのだ。
だが、主催側の意思が複数あったと考えればそれも納得できる。
殺し合いを強要する意思。自分達を縛る首輪を簡易にし、こちらが抵抗する余地を残す意思。そして、脱出のかけ橋となるアイテムを支給する意思。
これらは要するに、様々な思惑が錯綜した結果なのだ。
「じゃあ、このイザナミって奴は何なの? こいつはあたし達を貶めようとする奴なんだよね」
ゲーム機がこちらに有利なものとするならば、イザナミがこうして出てくるのは不自然だ。マヨナカテレビ事件を引き起こすような神が、こちらの味方をしてくれるとは思えない。
「……あくまでもこちらに都合の良い仮説だが、もしもそのゲーム機が俺達に味方してくれる誰かからの支給品だったとする。
ならそれは、殺し合い事態を危うくする非常に厄介なものだ。当然殺し合いを進めたい者、イザナミからすれば破壊したいと考えないか?」
「まあそうよね。ほっといたら何が起こるか分からないんだし」
「なのに破壊しない。その時点で矛盾してる。……おそらくイザナミは、あまりこの殺し合いに介入したくないと考えているんじゃないか?」
「これだけ好き勝手やっといてって気がするんだけど……」
「千枝の言い分も分からないわけじゃないが、少なくともあいつはその姿を俺達の前に現してはいない。
いつも必ず傍観者として観客席に座ってる。そこから少し助言をしたり、声援をあげた程度に過ぎないんだ。それは時にゲームを動かす時もあるが、けっきょくは間接的なものだ。自分の思い通りに事を運ばせることができるわけじゃない。
あいつにも限度というものがある。それはつまり、あいつが一人で動いているわけじゃないっていう証拠だ」
「……神は他にもいるってわけね」
その言葉はひどく重いものだった。
神などという自分達よりも遥かに優れた生物が、他にもいるというのだから。
「仮説の一つだがな」
ついていけず、頭に手を乗せて唸っている千枝の肩にオタコンは手を乗せた。
「要するに、支給品を破壊するような直接的な介入はイザナミにも出来なかったというわけさ。そこで講じたのが褒美というブラフ。
おそらく、イザナミにもこのゲーム機にプログラムされた何らかの因子を破壊することは出来なかったということだろう。それだけ強固なプロテクトが掛けられていた」
「そうなると、私達の味方はなかなか頭のキレる奴ってわけね。それは助かるわ」
一瞬、自分の知っている中で一番の天才を想像する。飄々として、隙がなくて、何でも出来る力を持ちながら決して本気を出さない。ウサギ達に囲まれた薬屋。
「あくまでも仮説だ。固執し過ぎるのは良くないと俺は思う。それにおそらくそのゲーム、難易度がかなり上げられているだろう。いずれにせよ、全てはゲームをクリアしてからだ」
味方からの支給品かもしれない。しかし、そうではないかもしれない。
後者であった場合の危険性も考えたうえでの発言だ。
イザナミに煮え湯を飲まされたばかりの瀬多からすれば、それくらい慎重なのも当然である。
このまま物量で倒れてくれれば願ったり叶ったりだが、瀬多の心の中は不安でいっぱいだった。
「瀬多君。君に少し聞きたいことがある」
おもむろに、オタコンが言った。
「今じゃないと駄目なのか?」
オタコンは何も言わず、黙ってゲーム機を取り出した。
「……なんだそれは?」
「支給品のゲーム機だよ。この殺し合いの黒幕と思われる人物の介入があった。三つの情報を僕達に教えてくれるんだそうだ」
そう言って画面を見せる。
主催の正体。殺し合いを開催した理由 。ここがどこの島なのか。その三つの選択肢が画面に大きく映し出されている。
「……イザナミか」
「知ってるの!?」
「ああ。人を作り、世界を作った造物主。そして、マヨナカテレビ事件の主犯格だ。もっとも、俺もついさっき知ったばかりだが」
千枝がもっと詳しく聞こうと瀬多に詰め寄る前に、咲夜が止める。こういうことはオタコンに任せた方がいい。
「その口ぶりからして、君達の方にも介入があったようだね」
「今の惨状は、ほとんどあいつが作り出したようなものだ。俺が甘かったばっかりに、決定的な隙を作ってしまった」
それは悔いても悔い切れないもの。あの毒物事件の時、全員のデイバックを検めていればこういうことにはならなかったのだ。
「……ゲーム機が支給されたと言ったな」
オタコンが黙って頷く。
「それはおそらく、最重要アイテムだ。イザナミの介入っていうのは気になるが、それ自体おそらくフェイク」
「やはり僕の考えている通りか……」
「ちょ、ちょっと待って! 二人で納得してないで私達にもちゃんと説明してよ!」
「要するに、主催側も一枚岩じゃないってことだよ」
千枝の問いかけに、オタコンは簡単に答えた。
「俺はどんな支給品があるのか、全てを把握できる本を持っている。そこにこんなゲーム機なんて存在しなかった。つまり、本を作った人物と支給品を用意した人物との間に何らかの齟齬が発生したということだ。
ここまで入念な殺し合いに、こんな初歩的なミスがあるとは考えづらい。それなら、支給品を用意した人物が敢えて秘密裏にこのアイテムを忍ばせたと考えた方が納得がいく。要するに、俺達を貶めようとする奴と、それとは逆に──」
「私達に味方してくれてる人がいるってこと!?」
「最高に希望的に見れば、だけどな」
オタコンは常々疑問に思っていた。今回の殺し合いが、どうにも一つの目的に集約していないように感じていたのだ。
だが、主催側の意思が複数あったと考えればそれも納得できる。
殺し合いを強要する意思。自分達を縛る首輪を簡易にし、こちらが抵抗する余地を残す意思。そして、脱出のかけ橋となるアイテムを支給する意思。
これらは要するに、様々な思惑が錯綜した結果なのだ。
「じゃあ、このイザナミって奴は何なの? こいつはあたし達を貶めようとする奴なんだよね」
ゲーム機がこちらに有利なものとするならば、イザナミがこうして出てくるのは不自然だ。マヨナカテレビ事件を引き起こすような神が、こちらの味方をしてくれるとは思えない。
「……あくまでもこちらに都合の良い仮説だが、もしもそのゲーム機が俺達に味方してくれる誰かからの支給品だったとする。
ならそれは、殺し合い事態を危うくする非常に厄介なものだ。当然殺し合いを進めたい者、イザナミからすれば破壊したいと考えないか?」
「まあそうよね。ほっといたら何が起こるか分からないんだし」
「なのに破壊しない。その時点で矛盾してる。……おそらくイザナミは、あまりこの殺し合いに介入したくないと考えているんじゃないか?」
「これだけ好き勝手やっといてって気がするんだけど……」
「千枝の言い分も分からないわけじゃないが、少なくともあいつはその姿を俺達の前に現してはいない。
いつも必ず傍観者として観客席に座ってる。そこから少し助言をしたり、声援をあげた程度に過ぎないんだ。それは時にゲームを動かす時もあるが、けっきょくは間接的なものだ。自分の思い通りに事を運ばせることができるわけじゃない。
あいつにも限度というものがある。それはつまり、あいつが一人で動いているわけじゃないっていう証拠だ」
「……神は他にもいるってわけね」
その言葉はひどく重いものだった。
神などという自分達よりも遥かに優れた生物が、他にもいるというのだから。
「仮説の一つだがな」
ついていけず、頭に手を乗せて唸っている千枝の肩にオタコンは手を乗せた。
「要するに、支給品を破壊するような直接的な介入はイザナミにも出来なかったというわけさ。そこで講じたのが褒美というブラフ。
おそらく、イザナミにもこのゲーム機にプログラムされた何らかの因子を破壊することは出来なかったということだろう。それだけ強固なプロテクトが掛けられていた」
「そうなると、私達の味方はなかなか頭のキレる奴ってわけね。それは助かるわ」
一瞬、自分の知っている中で一番の天才を想像する。飄々として、隙がなくて、何でも出来る力を持ちながら決して本気を出さない。ウサギ達に囲まれた薬屋。
「あくまでも仮説だ。固執し過ぎるのは良くないと俺は思う。それにおそらくそのゲーム、難易度がかなり上げられているだろう。いずれにせよ、全てはゲームをクリアしてからだ」
味方からの支給品かもしれない。しかし、そうではないかもしれない。
後者であった場合の危険性も考えたうえでの発言だ。
イザナミに煮え湯を飲まされたばかりの瀬多からすれば、それくらい慎重なのも当然である。
「……瀬多君。君はこのゲームに何が施されていると思う?」
瀬多は黙った。
「なんだかんだと言ったところで、これはただのゲーム機だ。せいぜい映像を映したり、音を聞かせたり、文字を浮かび上がらせるだけ。そんな低スペックの機械で、どうやってこの殺し合いから抜け出せるんだろうか」
オタコンの疑問はもっともだ。人智を超えた殺し合いで、ただのゲーム機がどう影響を及ぼすというのだろうか。
「僕達に味方する何者かは頭がキレる。神と呼ばれるイザナミにだって対抗できる頭脳の持ち主だ。
そんな人物なら、このゲーム機に入っている脱出の鍵ってやつは、正真正銘僕達にとって希望の光になるはずなんだ。情報でここから抜け出せる? そんなにここは、簡単に攻略できる場所なのかな?」
思わず、瀬多はオタコンを見つめた。
そして直感する。オタコンもここがどこなのか、だいたいの見当をつけている。自分と同じように。
「……一番可能性の高そうなのは、『呪歌』だな」
「呪歌?」
「あの邪神が封印されている、メダリオンと同じ世界のものだ。ガルドル。鷺という民族が使う歌だそうだ。正気を失った魂を解放したり、死んだ森を蘇らせたりすることができる。言ってみればただの音なんだから、そのゲーム機に録音することもできるだろう」
オタコンはじっと地面を見つめて考えこんだ。
「魂を解放ってどゆこと? 魂を自由にできるってこと?」
「俺にも分からない。そんなに詳しくは載ってなかった」
「あ! わかった!! きっと私達の魂を、こう……抜きとって、別の身体に移し替えるんじゃないの!? この会場の外にある肉体にさ」
「面白い発想だが、どうだろうな。そもそも代わりの肉体をどこで調達するんだっていう話になるし……」
「少し聞きたいんだけど──」
オタコンの言葉は途中で、止まった。
先程まで防御に徹し、動くことのなかった幽香が攻撃の体勢に入ったからだ。
瀬多は黙った。
「なんだかんだと言ったところで、これはただのゲーム機だ。せいぜい映像を映したり、音を聞かせたり、文字を浮かび上がらせるだけ。そんな低スペックの機械で、どうやってこの殺し合いから抜け出せるんだろうか」
オタコンの疑問はもっともだ。人智を超えた殺し合いで、ただのゲーム機がどう影響を及ぼすというのだろうか。
「僕達に味方する何者かは頭がキレる。神と呼ばれるイザナミにだって対抗できる頭脳の持ち主だ。
そんな人物なら、このゲーム機に入っている脱出の鍵ってやつは、正真正銘僕達にとって希望の光になるはずなんだ。情報でここから抜け出せる? そんなにここは、簡単に攻略できる場所なのかな?」
思わず、瀬多はオタコンを見つめた。
そして直感する。オタコンもここがどこなのか、だいたいの見当をつけている。自分と同じように。
「……一番可能性の高そうなのは、『呪歌』だな」
「呪歌?」
「あの邪神が封印されている、メダリオンと同じ世界のものだ。ガルドル。鷺という民族が使う歌だそうだ。正気を失った魂を解放したり、死んだ森を蘇らせたりすることができる。言ってみればただの音なんだから、そのゲーム機に録音することもできるだろう」
オタコンはじっと地面を見つめて考えこんだ。
「魂を解放ってどゆこと? 魂を自由にできるってこと?」
「俺にも分からない。そんなに詳しくは載ってなかった」
「あ! わかった!! きっと私達の魂を、こう……抜きとって、別の身体に移し替えるんじゃないの!? この会場の外にある肉体にさ」
「面白い発想だが、どうだろうな。そもそも代わりの肉体をどこで調達するんだっていう話になるし……」
「少し聞きたいんだけど──」
オタコンの言葉は途中で、止まった。
先程まで防御に徹し、動くことのなかった幽香が攻撃の体勢に入ったからだ。
何本もの大木を地面に突き刺し、槍を防ぐための壁を作り出す。
メダリオンを口に咥えると、近くに生えている大木を片手に一本ずつ抜き取る。
一切の躊躇もなく、幽香はそれを槍のように屋敷へ向かって投げつけた。
しかしそれは途中で砕け散る。槍の数に圧倒されているのだ。
が、幽香は構わずもう一本、もう一本と投げつける。
だんだんスピードが速くなる。槍の圧倒的な物量に、徐々に追いついていく。
この大木は、もはや幽香にとっての弾幕だった。
槍と相殺する形でぶつかり合い、相殺し合う。
最初こそ均衡を保っていたそれは、徐々に幽香が優勢になっていった。
メダリオンを口に咥えると、近くに生えている大木を片手に一本ずつ抜き取る。
一切の躊躇もなく、幽香はそれを槍のように屋敷へ向かって投げつけた。
しかしそれは途中で砕け散る。槍の数に圧倒されているのだ。
が、幽香は構わずもう一本、もう一本と投げつける。
だんだんスピードが速くなる。槍の圧倒的な物量に、徐々に追いついていく。
この大木は、もはや幽香にとっての弾幕だった。
槍と相殺する形でぶつかり合い、相殺し合う。
最初こそ均衡を保っていたそれは、徐々に幽香が優勢になっていった。
◇◇◇
(くっ。溜めが鬱陶しい!!)
レミリアは普段のように弾幕が撃てない。制限が成されているのだ。
その制限が今回は仇となった。スピード勝負の弾幕のぶつけ合いでは、あまりにも不利な要素だった。
一メートルも離れていない大木を槍で相殺。
しかしすぐに新しい木が弾丸のように襲いかかる。
もう槍を投擲している時間はない。手に持ったまま、大木を切り裂く。
が、その瞬間には、他の大木がレミリアの目の前に迫っていた。
槍で受ける時間はない。避ける時間もない。それはレミリアに直撃した。
レミリアは普段のように弾幕が撃てない。制限が成されているのだ。
その制限が今回は仇となった。スピード勝負の弾幕のぶつけ合いでは、あまりにも不利な要素だった。
一メートルも離れていない大木を槍で相殺。
しかしすぐに新しい木が弾丸のように襲いかかる。
もう槍を投擲している時間はない。手に持ったまま、大木を切り裂く。
が、その瞬間には、他の大木がレミリアの目の前に迫っていた。
槍で受ける時間はない。避ける時間もない。それはレミリアに直撃した。
◇◇◇
既に槍は姿を見せない。だがそれでも幽香の投擲は終わることを知らなかった。
次々と屋敷に木々が突き刺さる。ただでさえ古ぼけた屋敷は、その猛攻に耐えられない。
一際大きな木が突き刺さり、とうとう屋敷は崩れ落ちていった。
瀬多達は、それをただ呆然と眺めることしかできなかった。
「レミ……リア」
ようやく、瀬多はそれだけ呟くことができた。
途端、一気に不安の波が押し寄せる。
「レミリア!!!」
思わず屋敷に向かって走ろうとするところを、咲夜が肩を掴んで妨害する。
「離せ! レミリアが──」
「お嬢様はそんなに弱くない」
凛とした口調だった。
「あれじゃ太陽光が漏れてしまう! そうなったら……」
「言ったでしょ。お嬢様は弱くない。お嬢様が死ぬなんて、私が死ぬ次の次くらいに有り得ないことだわ」
その咲夜の傲慢なセリフが、何故か瀬多を落ち着かせた。
レミリアがもしもここにいれば、似たようなことを言っていた。そんな気がしたからだ。
「……悪かった」
「分かればいいわ」
「そ、それでどうするの? あいつをあのまま放っておく気?」
「現段階で唯一勝機のある味方が負けた。これはもはや敗北宣言を出すべき事態だね」
「だが、向こうはそんなもの聞いちゃくれない。なんとかあのメダリオンを引き剥がすことができれば……」
そんなことを言っている間に、幽香は動きだす。
ゆっくりとではあるが、屋敷に向かって真っすぐ歩いていた。
「ま、まずいって! あいつ、止めを刺しに行く気だ!!」
慌てて飛び出そうとする千枝を今度は瀬多が止める。
「待て! 今の俺達じゃ足止めだってできない!」
「でも! 黙って見てるなんてできない!! 私は雪子と約束したんだ。もう誰も死なせないって!!」
その言葉に、瀬多は直感した。直感してしまった。
雪子がもうこの世にいないことを。もう一緒に話をすることもできないことを。
「……っ! それでも! 自分が死んでもいい理由にはならない!! せめて何か策を考えてから──」
「手はあるわ」
思わず、三人が咲夜を見つめる。
咲夜は黙って立ち上がった。
皆の視線に気づき、咲夜は薄く笑う。
「ああ。安心して。私一人で十分だから」
「だ、大丈夫なのかい? 危険は?」
「かなり際どい。失敗したら100%死ぬわね」
思わず、オタコンが叫んだ。
「そんなもの認められない! 僕達は全員生きてここから脱出するんだ! 君の言ってることは、千枝ちゃんと大差ない!」
「ごめんなさいね、オタコン。でも、お嬢様の危機にはちょっと黙っていられないの」
咲夜は瀬多のバックに入っていた剣を取り出し、「これ、ちょっと借りるわよ」と言ってそのまま幽香の方へと身体を向けた。
「瀬多って言ったわね。お嬢様のこと任せるわ。我儘ばっかり言うかもしれないけど、少しは大目に見てあげて」
「お、おい咲夜。お前、何を考えて……」
「千枝。あんたは最初から最後まで五月蠅くて本当に鬱陶しい奴だったわ。……でも、まあそれもいいかもって最近思ってきた。あんたは強い。私よりもよっぽどね。だから、それを誇りに生きればいい。そうすれば、きっと良い女になれるわ」
「咲……夜?」
「そして、オタコン。……いきなり告白なんかして、本当に馬鹿みたいだと最初は思った。……けど、まあ、結構嬉しかったかも。最初で最後だったしね。誰かに告白されるなんて」
「ま、待って……。待つんだ咲夜!!」
思わずその手を掴むオタコン。そんな彼を、咲夜は寂しい瞳で見つめた。
「……さようなら」
オタコンの手を振り払い、咲夜は走り去った。
次々と屋敷に木々が突き刺さる。ただでさえ古ぼけた屋敷は、その猛攻に耐えられない。
一際大きな木が突き刺さり、とうとう屋敷は崩れ落ちていった。
瀬多達は、それをただ呆然と眺めることしかできなかった。
「レミ……リア」
ようやく、瀬多はそれだけ呟くことができた。
途端、一気に不安の波が押し寄せる。
「レミリア!!!」
思わず屋敷に向かって走ろうとするところを、咲夜が肩を掴んで妨害する。
「離せ! レミリアが──」
「お嬢様はそんなに弱くない」
凛とした口調だった。
「あれじゃ太陽光が漏れてしまう! そうなったら……」
「言ったでしょ。お嬢様は弱くない。お嬢様が死ぬなんて、私が死ぬ次の次くらいに有り得ないことだわ」
その咲夜の傲慢なセリフが、何故か瀬多を落ち着かせた。
レミリアがもしもここにいれば、似たようなことを言っていた。そんな気がしたからだ。
「……悪かった」
「分かればいいわ」
「そ、それでどうするの? あいつをあのまま放っておく気?」
「現段階で唯一勝機のある味方が負けた。これはもはや敗北宣言を出すべき事態だね」
「だが、向こうはそんなもの聞いちゃくれない。なんとかあのメダリオンを引き剥がすことができれば……」
そんなことを言っている間に、幽香は動きだす。
ゆっくりとではあるが、屋敷に向かって真っすぐ歩いていた。
「ま、まずいって! あいつ、止めを刺しに行く気だ!!」
慌てて飛び出そうとする千枝を今度は瀬多が止める。
「待て! 今の俺達じゃ足止めだってできない!」
「でも! 黙って見てるなんてできない!! 私は雪子と約束したんだ。もう誰も死なせないって!!」
その言葉に、瀬多は直感した。直感してしまった。
雪子がもうこの世にいないことを。もう一緒に話をすることもできないことを。
「……っ! それでも! 自分が死んでもいい理由にはならない!! せめて何か策を考えてから──」
「手はあるわ」
思わず、三人が咲夜を見つめる。
咲夜は黙って立ち上がった。
皆の視線に気づき、咲夜は薄く笑う。
「ああ。安心して。私一人で十分だから」
「だ、大丈夫なのかい? 危険は?」
「かなり際どい。失敗したら100%死ぬわね」
思わず、オタコンが叫んだ。
「そんなもの認められない! 僕達は全員生きてここから脱出するんだ! 君の言ってることは、千枝ちゃんと大差ない!」
「ごめんなさいね、オタコン。でも、お嬢様の危機にはちょっと黙っていられないの」
咲夜は瀬多のバックに入っていた剣を取り出し、「これ、ちょっと借りるわよ」と言ってそのまま幽香の方へと身体を向けた。
「瀬多って言ったわね。お嬢様のこと任せるわ。我儘ばっかり言うかもしれないけど、少しは大目に見てあげて」
「お、おい咲夜。お前、何を考えて……」
「千枝。あんたは最初から最後まで五月蠅くて本当に鬱陶しい奴だったわ。……でも、まあそれもいいかもって最近思ってきた。あんたは強い。私よりもよっぽどね。だから、それを誇りに生きればいい。そうすれば、きっと良い女になれるわ」
「咲……夜?」
「そして、オタコン。……いきなり告白なんかして、本当に馬鹿みたいだと最初は思った。……けど、まあ、結構嬉しかったかも。最初で最後だったしね。誰かに告白されるなんて」
「ま、待って……。待つんだ咲夜!!」
思わずその手を掴むオタコン。そんな彼を、咲夜は寂しい瞳で見つめた。
「……さようなら」
オタコンの手を振り払い、咲夜は走り去った。
◇◇◇
ゆっくりと歩く怪物。その進む先は、寸分違わず屋敷に向かっていた。この怪物は、強者の臭いを嗅いでいる。ただただ戦いを求めている。
ならば戦おう。
ならば戦闘の謳歌を謳わせよう。
「待ちなさい」
幽香はゆっくりとこちらを向いた。
「お嬢様はやらせない。私が相手になってやるわ。来なさい、化け物」
試しに剣を振るってみる。斬れ味は良さそうだ。これならうまくいくかもしれない。
……いや、うまくいかせなければならない。いかせてやる。絶対に。
「こいつは……私がここで食い止める!」
その言葉を皮切りに、幽香がこちらに突進してきた。
「ピカチュウ!! ボルテッカー!!」
あらかじめ配置させていたピカチュウが、あらぬ方向から自らに電気を纏った体当たりを食らわせる。
幽香の姿勢が少しだけ崩れる。
その瞬間を見極め、咲夜が幽香との距離を詰める。
(できるだけ近づく。勝負はそれから!)
幽香の拳の届く範囲に入る。それでもその距離を詰めていく。
心臓がバクバクと音をたてる。それを落ち着けるために目を瞑る。
タイミングは遅ければ遅い方が良い。ぎりぎりまで引きつけて、……倒す。
あの時と同じだ。
あの、初めて死を感じた時と同じ。
幽香の拳が放たれる。その風圧で髪が舞う。
咲夜は、心の中で唱えた。
自分にしか使えない、魔法の呪文を
ならば戦おう。
ならば戦闘の謳歌を謳わせよう。
「待ちなさい」
幽香はゆっくりとこちらを向いた。
「お嬢様はやらせない。私が相手になってやるわ。来なさい、化け物」
試しに剣を振るってみる。斬れ味は良さそうだ。これならうまくいくかもしれない。
……いや、うまくいかせなければならない。いかせてやる。絶対に。
「こいつは……私がここで食い止める!」
その言葉を皮切りに、幽香がこちらに突進してきた。
「ピカチュウ!! ボルテッカー!!」
あらかじめ配置させていたピカチュウが、あらぬ方向から自らに電気を纏った体当たりを食らわせる。
幽香の姿勢が少しだけ崩れる。
その瞬間を見極め、咲夜が幽香との距離を詰める。
(できるだけ近づく。勝負はそれから!)
幽香の拳の届く範囲に入る。それでもその距離を詰めていく。
心臓がバクバクと音をたてる。それを落ち着けるために目を瞑る。
タイミングは遅ければ遅い方が良い。ぎりぎりまで引きつけて、……倒す。
あの時と同じだ。
あの、初めて死を感じた時と同じ。
幽香の拳が放たれる。その風圧で髪が舞う。
咲夜は、心の中で唱えた。
自分にしか使えない、魔法の呪文を
時よ、止まれ
途端、世界が制止した。
目の前に幽香の拳があった。その別の手に、メダリオンは握られていた。
「これさえ、落とせれば……!」
腕、いや指でいい。一本でも斬り落とせたなら、きっとメダリオンは幽香から離れる。
(時間はたったの二秒しかない。その間にこの剣で……叩き切る!!)
極めてシンプルな作戦。だが、それ故に効果のある攻撃だ。
大きく剣を振り被り、深呼吸。ぎゅっと剣を握り、力を溜める。
渾身の一撃。手加減など一切しない。
失敗した時のことは考えない。既に遺言は残した。
たとえ死んでも悔いはない。死への恐れはもはやない。
咲夜は、そのメダルめがけて思い切り剣を振り下ろした。
目の前に幽香の拳があった。その別の手に、メダリオンは握られていた。
「これさえ、落とせれば……!」
腕、いや指でいい。一本でも斬り落とせたなら、きっとメダリオンは幽香から離れる。
(時間はたったの二秒しかない。その間にこの剣で……叩き切る!!)
極めてシンプルな作戦。だが、それ故に効果のある攻撃だ。
大きく剣を振り被り、深呼吸。ぎゅっと剣を握り、力を溜める。
渾身の一撃。手加減など一切しない。
失敗した時のことは考えない。既に遺言は残した。
たとえ死んでも悔いはない。死への恐れはもはやない。
咲夜は、そのメダルめがけて思い切り剣を振り下ろした。
パキイイィン
小気味良い音と共に、空中を何かが舞う。
それは途中でぴたりと止まり、その正体を現す。
剣だ。
正確には、剣先。
幽香にぶつけたところから、ぽっきりとそれは折れていた。
咲夜の一撃は、指を落とすどころか、切り傷一つつけることができなかった。
「嘘……でしょ」
慌てて剣を捨て、メダルを触らないように指を広げさせようと力をいれる。
が、動かない。
時が止まった世界で、自分だけの世界の中で、できないことなど何一つなかったというのに。
「何でよ! ほんの少し指を動かすだけ。それだけなのに……。どうしてそんなことも出来ないの!!」
ガクンと、腰が落ちる。
瞬間、咲夜の世界は終わりを告げた。
咲夜の頭、少し上を幽香の拳が通る。だがもはやそれ以上を避けることはできなかった。次の一撃がすぐに来る。引かれた腕が咲夜の胴体を狙っているのがわかる。
これで終わりか。
なんとも情けない終わり方だ。
けっきょく何も出来なかった。
けっきょく……お嬢様を守れなかった。
でも、それもいいかもしれない。自分には願いを叶える資格などない。
あの時、村人たちを殺したあの時、その運命は既に決まっていた。
悲しみの中で死ぬ運命。幸福とはかけ離れた場所で死ぬ運命。
それを、お嬢様が少し曲げてくれていただけだ。
(一匹狼には……相応しい死に場所か)
咲夜は目を瞑った。
ドパン! という、何かが破裂するような音が、ひどく鮮明に耳に残った。
それは途中でぴたりと止まり、その正体を現す。
剣だ。
正確には、剣先。
幽香にぶつけたところから、ぽっきりとそれは折れていた。
咲夜の一撃は、指を落とすどころか、切り傷一つつけることができなかった。
「嘘……でしょ」
慌てて剣を捨て、メダルを触らないように指を広げさせようと力をいれる。
が、動かない。
時が止まった世界で、自分だけの世界の中で、できないことなど何一つなかったというのに。
「何でよ! ほんの少し指を動かすだけ。それだけなのに……。どうしてそんなことも出来ないの!!」
ガクンと、腰が落ちる。
瞬間、咲夜の世界は終わりを告げた。
咲夜の頭、少し上を幽香の拳が通る。だがもはやそれ以上を避けることはできなかった。次の一撃がすぐに来る。引かれた腕が咲夜の胴体を狙っているのがわかる。
これで終わりか。
なんとも情けない終わり方だ。
けっきょく何も出来なかった。
けっきょく……お嬢様を守れなかった。
でも、それもいいかもしれない。自分には願いを叶える資格などない。
あの時、村人たちを殺したあの時、その運命は既に決まっていた。
悲しみの中で死ぬ運命。幸福とはかけ離れた場所で死ぬ運命。
それを、お嬢様が少し曲げてくれていただけだ。
(一匹狼には……相応しい死に場所か)
咲夜は目を瞑った。
ドパン! という、何かが破裂するような音が、ひどく鮮明に耳に残った。
◇◇◇
咲夜が行ってしまった。何をしようとしているのかもだいたい想像がつく。
でも、いやだからこそ、僕は止めることができなかった。
彼女は孤独だ。だからこそ、彼女は自分の主に全てを捧げているのだろう。
他には何もないから。
自分の存在意義が、レミリア・スカーレットに仕えることだから。
それは、傍から見れば美しいものかもしれない。けれど、やはりそれは寂しい生き方だ。
彼女には優しさがある。誰かを想う心がある。
ならきっと、そんな悲しい生き方をしなくても済む方法があるはずだ。
でも僕に何ができる? いつも大事なものを守れず、ただ眺めていることしかできなかった僕に、一体何ができるんだ。
スナイパーウルフは僕の目の前で死んだ。妹のエマが死んだ時も、僕は何もできなかった。
無力だ。どうしようもなく無力。
でも、いやだからこそ、僕は止めることができなかった。
彼女は孤独だ。だからこそ、彼女は自分の主に全てを捧げているのだろう。
他には何もないから。
自分の存在意義が、レミリア・スカーレットに仕えることだから。
それは、傍から見れば美しいものかもしれない。けれど、やはりそれは寂しい生き方だ。
彼女には優しさがある。誰かを想う心がある。
ならきっと、そんな悲しい生き方をしなくても済む方法があるはずだ。
でも僕に何ができる? いつも大事なものを守れず、ただ眺めていることしかできなかった僕に、一体何ができるんだ。
スナイパーウルフは僕の目の前で死んだ。妹のエマが死んだ時も、僕は何もできなかった。
無力だ。どうしようもなく無力。
……だけど僕は、無力な僕から卒業するために、彼女を仲間に引き入れたんだ。
気付いたら僕は走っていた。彼女の後を追っていた。
後方支援としては失格の行動だ。
でも、何故か今はそれが正しい行動だと信じることができた。
幽香の拳が彼女を襲う。一撃目はなんとか避けれたが、二撃目は無理だ。
彼女に避けることはできない。
僕にできることはなんだ? 僕にできることは……
咄嗟に、僕は彼女を突き飛ばしていた。
気付いたら僕は走っていた。彼女の後を追っていた。
後方支援としては失格の行動だ。
でも、何故か今はそれが正しい行動だと信じることができた。
幽香の拳が彼女を襲う。一撃目はなんとか避けれたが、二撃目は無理だ。
彼女に避けることはできない。
僕にできることはなんだ? 僕にできることは……
咄嗟に、僕は彼女を突き飛ばしていた。
──この身を挺して、君を守ることだ──
「オ……タ……コン」
「は……は。身体が……勝手に……動いちゃ……った」
オタコンの胴体から手が生えていた。
ずぼっという音と共に引きぬかれ、オタコンはその場に倒れ伏す。
「オタコン! オタコン、しっかりしなさい!!」
ごふっ、とオタコンは口から血を吐き出した。誰が見ても、もう手遅れだ。そんなの当たり前だ。身体に風穴が開いて、生きていられる人間なんていない。
「ジオ!!」
「ブフーラ!!」
瀬多と千枝が、幽香の気を逸らそうと攻撃する。それは成功したようで、ゆっくりと幽香は瀬多達の方へ向かって行った。
「どうして……。どうして私なんか助けたの! 私は、あそこで死んでもよかった。一匹狼にはお似合いの死に方だった! なのに……」
「……一匹狼は……若い、狼が……自分の群れを……作る……為……に……な…る」
オタコンがせき込む。その度に血が噴出し、咲夜の服にかかった。
「もういい! 喋らなくていいから!! 黙ってなさい!!」
支給品だったメガポーションをオタコンに無理やり飲ませる。
しかし、効果があるのかはよくわからなかった。それほど、オタコンの傷は深いのだ。
「一匹狼は……成長し、……一人立ちできる……狼を…言う……ごほっ! 君は……立派な……大人……だ。一人で……、自分の群れを……作ることが……でき…る。
君の人生は、……孤独な……人生…なんかじゃ……ない。悲…しい……人生なんかじゃ……ない。……君は、……自分で……孤独な人生を…壊すことが……できるんだ。
……君は…気高い……狼だ。…けど、……狼だって……誰かと一緒にいても……いいんだ。…だから……ごほっ!! ごほっ!!」
「オタ、コン……」
「自分を……大事に…思っていい。……誰かを……大切に……思ったって…いいんだ。……君は優しい、……立派な……女性……だよ」
「……馬鹿。あなた、大馬鹿よ。そんなこと言う為に、わざわざ……」
オタコンの顔に、水滴が落ちた。
消えゆく命の中、オタコンはその冷たくも暖かい液体を感じることができた。
「泣いて……くれるの……かい?」
涙なんて出さない。涙なんて枯れている。
ずっとそう思っていた。
「なによ……こんなに……出るんじゃない」
私は馬鹿だ。大馬鹿だ。
こんな大事なことにも、今まで気付かなかった。
私は泣ける。
泣けるんだ。
「は……は。身体が……勝手に……動いちゃ……った」
オタコンの胴体から手が生えていた。
ずぼっという音と共に引きぬかれ、オタコンはその場に倒れ伏す。
「オタコン! オタコン、しっかりしなさい!!」
ごふっ、とオタコンは口から血を吐き出した。誰が見ても、もう手遅れだ。そんなの当たり前だ。身体に風穴が開いて、生きていられる人間なんていない。
「ジオ!!」
「ブフーラ!!」
瀬多と千枝が、幽香の気を逸らそうと攻撃する。それは成功したようで、ゆっくりと幽香は瀬多達の方へ向かって行った。
「どうして……。どうして私なんか助けたの! 私は、あそこで死んでもよかった。一匹狼にはお似合いの死に方だった! なのに……」
「……一匹狼は……若い、狼が……自分の群れを……作る……為……に……な…る」
オタコンがせき込む。その度に血が噴出し、咲夜の服にかかった。
「もういい! 喋らなくていいから!! 黙ってなさい!!」
支給品だったメガポーションをオタコンに無理やり飲ませる。
しかし、効果があるのかはよくわからなかった。それほど、オタコンの傷は深いのだ。
「一匹狼は……成長し、……一人立ちできる……狼を…言う……ごほっ! 君は……立派な……大人……だ。一人で……、自分の群れを……作ることが……でき…る。
君の人生は、……孤独な……人生…なんかじゃ……ない。悲…しい……人生なんかじゃ……ない。……君は、……自分で……孤独な人生を…壊すことが……できるんだ。
……君は…気高い……狼だ。…けど、……狼だって……誰かと一緒にいても……いいんだ。…だから……ごほっ!! ごほっ!!」
「オタ、コン……」
「自分を……大事に…思っていい。……誰かを……大切に……思ったって…いいんだ。……君は優しい、……立派な……女性……だよ」
「……馬鹿。あなた、大馬鹿よ。そんなこと言う為に、わざわざ……」
オタコンの顔に、水滴が落ちた。
消えゆく命の中、オタコンはその冷たくも暖かい液体を感じることができた。
「泣いて……くれるの……かい?」
涙なんて出さない。涙なんて枯れている。
ずっとそう思っていた。
「なによ……こんなに……出るんじゃない」
私は馬鹿だ。大馬鹿だ。
こんな大事なことにも、今まで気付かなかった。
私は泣ける。
泣けるんだ。
「咲夜!! そこから逃げろ!!」
言われてハッとする。
幽香がこちらに向かって来ていた。
まずい。そう思うも、身体が動かない。オタコンをこのままにしておけない。
そんなことを考えていた時だった。
突然、幽香の動きが止まった。
ぐるりと幽香が後ろを振り向く。
そこには、一人の騎士がいた。
「ゼル……ギウス」
「なるほど。これが妖怪か」
何の感慨もなく漆黒の騎士は呟いた。
幽香の反応と、その佇まいを見ればわかる。この男は、紛れもなく強者だ。
「ゼルギウス……と言うのか? 誰だか知らないが、とにかく助かっ──」
「勘違いするな」
漆黒の騎士がすっとその剣を瀬多に向ける。
「私は殺し合いに乗っている。いずれ、貴殿の命も貰い受けよう。……が」
瀬多に向けていたそれを、そのまま幽香へと向けた。
「今は、この者を倒すことを優先すべきだな」
「……乗っていようがなんだろうが構わない。この化け物を止められるならな」
「化け物か。ならば、私が倒そう。化け物は、……化け物が倒す」
そう口に出した漆黒の騎士に、一切の躊躇はなかった。
言われてハッとする。
幽香がこちらに向かって来ていた。
まずい。そう思うも、身体が動かない。オタコンをこのままにしておけない。
そんなことを考えていた時だった。
突然、幽香の動きが止まった。
ぐるりと幽香が後ろを振り向く。
そこには、一人の騎士がいた。
「ゼル……ギウス」
「なるほど。これが妖怪か」
何の感慨もなく漆黒の騎士は呟いた。
幽香の反応と、その佇まいを見ればわかる。この男は、紛れもなく強者だ。
「ゼルギウス……と言うのか? 誰だか知らないが、とにかく助かっ──」
「勘違いするな」
漆黒の騎士がすっとその剣を瀬多に向ける。
「私は殺し合いに乗っている。いずれ、貴殿の命も貰い受けよう。……が」
瀬多に向けていたそれを、そのまま幽香へと向けた。
「今は、この者を倒すことを優先すべきだな」
「……乗っていようがなんだろうが構わない。この化け物を止められるならな」
「化け物か。ならば、私が倒そう。化け物は、……化け物が倒す」
そう口に出した漆黒の騎士に、一切の躊躇はなかった。
オタコンは、死の淵にいながらも、未だにその命を繋ぎ止めていた。
咲夜が半ばやけくそ気味に飲ませたメガポーションが効いていたのかもしれない。
新たな人間が参入したらしいということがわかった。
ふと、その声が小さいながら聞こえて来る。
化け物が、……化け物を倒す?
……なら神は、……神は……誰が……
意識が消えゆく中、オタコンの脳裏にいくつものフレーズが過る。
ゲーム機。頭のキレる味方。メダリオン。邪神。鷺の民。呪歌。魂の解放。……解放。
それらが繋ぎ合い、一つの答えを導き出す。
……そうか。そういうことか。
どうしてイザナミが介入したのか。その意味がようやくわかった。二回の介入。そのどちらも、ただの嫌がらせじゃない。意味のあることだったんだ。
「メダ……リオン……」
「え?」
咲夜の服を引っ張り、懸命に口を動かす。
「鍵、だ……。あれ……が、……鍵……。全て……フェイク……。メダ……こそ……が……」
駄目だ。もう喋れない。意識がなくなる。
これを伝えないと駄目なのに。瀬多君に伝えなくてはならないのに。
しかし、そんな不安は一気に消えた。
咲夜の顔を見れば、そんなものは消え失せた。
「わかったわ。メダリオンが鍵なのね。わかった。必ず瀬多に伝える」
(……その顔だ。その決意した顔。みんなを守る為に、強くあろうとするその覚悟。君なら……きっと……)
オタコンの目がゆっくりと閉じられる。
その最後の最後、オタコンは笑って逝くことができた。
咲夜が半ばやけくそ気味に飲ませたメガポーションが効いていたのかもしれない。
新たな人間が参入したらしいということがわかった。
ふと、その声が小さいながら聞こえて来る。
化け物が、……化け物を倒す?
……なら神は、……神は……誰が……
意識が消えゆく中、オタコンの脳裏にいくつものフレーズが過る。
ゲーム機。頭のキレる味方。メダリオン。邪神。鷺の民。呪歌。魂の解放。……解放。
それらが繋ぎ合い、一つの答えを導き出す。
……そうか。そういうことか。
どうしてイザナミが介入したのか。その意味がようやくわかった。二回の介入。そのどちらも、ただの嫌がらせじゃない。意味のあることだったんだ。
「メダ……リオン……」
「え?」
咲夜の服を引っ張り、懸命に口を動かす。
「鍵、だ……。あれ……が、……鍵……。全て……フェイク……。メダ……こそ……が……」
駄目だ。もう喋れない。意識がなくなる。
これを伝えないと駄目なのに。瀬多君に伝えなくてはならないのに。
しかし、そんな不安は一気に消えた。
咲夜の顔を見れば、そんなものは消え失せた。
「わかったわ。メダリオンが鍵なのね。わかった。必ず瀬多に伝える」
(……その顔だ。その決意した顔。みんなを守る為に、強くあろうとするその覚悟。君なら……きっと……)
オタコンの目がゆっくりと閉じられる。
その最後の最後、オタコンは笑って逝くことができた。
◇◇◇
相手は女性。しかし漆黒の騎士に躊躇はない。
無手の幽香に対し剣を振り上げる。
音をたてて何かにぶつかる。
幽香の拳だ。何の防具もつけていない拳が、漆黒の騎士の剣と交わったのだ。
「なんだと……!? 剣を拳で……」
漆黒の騎士の驚きは、しかしすぐに引っ込める。そんなことを考えている暇などない。
すぐに次の拳が飛んでくる。
「くっ!」
大剣を振るっているとは思えないスピードで、幽香の拳をずらすようにいなす。しかしそれでも間に合わない。
幽香の拳は二つ。漆黒の剣は一つだ。
受け切れるものではない。
とうとう漆黒の騎士に幽香の拳が直撃する。
咄嗟に剣で防御した。
そのはずなのに自分の身体が宙を浮いている。
大木にぶつかり、しかしそれをへし折ってもう一本の木にぶつかる。
「がはっ」
防御したとは思えない威力。まさに規格外だ。先程戦ったアシュナードがただの雑兵に思えるような力。
ハッとする。
幽香の拳が目の前に迫っていた。
慌てて頭をずらすと、漆黒の騎士の顔があった場所に巨大な穴が開いた。木が、自身の重さに耐えきれずに倒れる。幽香はそれが倒れ伏す前に手で掴むと、そのまま引き千切って振り回す。
再び剣で防御するが、それでも身体は吹き飛んだ。
地面に叩きつけられ、ゴロゴロと地面を転がる。
自分の頭が影に隠れ、一瞬で状況を理解しすぐに飛び起きる。
先程まで漆黒の騎士の頭部があった地面に、巨大な穴が開く。
幽香がただ踏みつけただけで、まるで泥か何かのように地面が抉れる。
(強いなんてものじゃない!!)
規格外。その言葉がこれほど似合う生物もいないだろう。ベオクのスペックを越えている。それどころか、ラグズの王だってこれほどの力は持っていないだろう。
(竜鱗族並み。いや、既にそれすら越えている…!)
幽香と剣を交えて数分。それでも漆黒は肩で息をしていた。
一瞬だけ過る、勝てないという予感。
(……いや! そんなことはない!! 私は、誰よりも強くならなくてはならないんだ!!)
「……ふぅー」
呼吸を整える。ひゅんひゅんと剣を交差するように片手で振り回す。そして、ぴたりと上方で止めた。
「来い」
幽香は嬉々として、漆黒に突進した。
「月光!!!」
渾身の力を込めた一撃を、漆黒は放った。
無手の幽香に対し剣を振り上げる。
音をたてて何かにぶつかる。
幽香の拳だ。何の防具もつけていない拳が、漆黒の騎士の剣と交わったのだ。
「なんだと……!? 剣を拳で……」
漆黒の騎士の驚きは、しかしすぐに引っ込める。そんなことを考えている暇などない。
すぐに次の拳が飛んでくる。
「くっ!」
大剣を振るっているとは思えないスピードで、幽香の拳をずらすようにいなす。しかしそれでも間に合わない。
幽香の拳は二つ。漆黒の剣は一つだ。
受け切れるものではない。
とうとう漆黒の騎士に幽香の拳が直撃する。
咄嗟に剣で防御した。
そのはずなのに自分の身体が宙を浮いている。
大木にぶつかり、しかしそれをへし折ってもう一本の木にぶつかる。
「がはっ」
防御したとは思えない威力。まさに規格外だ。先程戦ったアシュナードがただの雑兵に思えるような力。
ハッとする。
幽香の拳が目の前に迫っていた。
慌てて頭をずらすと、漆黒の騎士の顔があった場所に巨大な穴が開いた。木が、自身の重さに耐えきれずに倒れる。幽香はそれが倒れ伏す前に手で掴むと、そのまま引き千切って振り回す。
再び剣で防御するが、それでも身体は吹き飛んだ。
地面に叩きつけられ、ゴロゴロと地面を転がる。
自分の頭が影に隠れ、一瞬で状況を理解しすぐに飛び起きる。
先程まで漆黒の騎士の頭部があった地面に、巨大な穴が開く。
幽香がただ踏みつけただけで、まるで泥か何かのように地面が抉れる。
(強いなんてものじゃない!!)
規格外。その言葉がこれほど似合う生物もいないだろう。ベオクのスペックを越えている。それどころか、ラグズの王だってこれほどの力は持っていないだろう。
(竜鱗族並み。いや、既にそれすら越えている…!)
幽香と剣を交えて数分。それでも漆黒は肩で息をしていた。
一瞬だけ過る、勝てないという予感。
(……いや! そんなことはない!! 私は、誰よりも強くならなくてはならないんだ!!)
「……ふぅー」
呼吸を整える。ひゅんひゅんと剣を交差するように片手で振り回す。そして、ぴたりと上方で止めた。
「来い」
幽香は嬉々として、漆黒に突進した。
「月光!!!」
渾身の力を込めた一撃を、漆黒は放った。
◇◇◇
「咲夜。怪我はないか?」
「……ええ。私は全然」
息絶えたオタコンを見つめながら、咲夜は呟いた。
千枝は、瞳を潤ませながらも泣く事はなかった。
きっと決意したのだろう。もう泣かない。後ろを向かないと。
「……良い、人だった。頭良くて、……いつも冷静で、……皆の…お兄さんみたいな…人で……」
それ以上、千枝は言葉を紡がなかった。我慢できなくなる。そう思ったのだろう。
「……咲夜。辛いだろうが今は……」
「わかってる」
咲夜は、そっとオタコンの手を組ませると立ち上がった。
自分はオタコンに生かされた。なら、オタコンの分まで生きなければならない。
「あいつなら幽香を倒せるか?」
あいつ、というのは漆黒の騎士のことだ。おそらくはレミリアレベルの強者。
「無理ね。はっきり言って、ここにいるどの参加者にも、あの化け物を倒すことは不可能だと思う」
瀬多も同感だった。あれをどうにかできる人間なんているわけがない。
「一人じゃまず勝てない。なら、数で叩くしかないな」
「そうね。でも、半端な奴を集めても無意味よ」
もはや幽香を放って逃げるという選択肢は存在しない。あんなものが大暴れすれば、参加者全員が根絶やしにされる。
「なら、半端じゃない攻撃にすればいい。でしょ? 瀬多君」
千枝がどこか自信ありげに言った。
「……“あれ”か。確かに効果はあるだろうが……」
「なによあれって。何か策があるの?」
「ああ。堅い敵を一気に潰す時に、よく千枝が使っていた技がある。タルカジャで強化して、いつも以上に溜めの時間をかければあるいは……」
だが、その溜めの時間。それが一番の問題だった。
溜めている間は完全な無防備状態を曝していなければならない。
幽香と相対しても決定的な隙を見せ続けることになる。
そんなこと、自殺行為以外の何物でもない。
「……ここにいる最大戦力。レミリアお嬢様とゼルギウス。あの二人の力で幽香を足止めして時間稼ぎすれば、どう?」
……確かに、それならばうまくいけるかもしれない。
「だが、ゼルギウスを説得できるのか? あいつは殺し合いに乗っているんだろう?」
頭は良さそうだが融通の利かないところがありそうだった。少なくとも、こちらの提案に乗ってくれるような雰囲気は感じられなかった。
「無理でもする。それしか方法がない」
「自信あり、か?」
「あるわけないでしょ。そもそも、説得なんて私に一番向いてないことだわ」
それでもやるしかない。
そう咲夜が決意するのなら、瀬多もそれに乗ることに躊躇はなかった。
「もう一つ問題がある。レミリアがこの日光の中、全力を出せるかどうか。それに、さっきの攻防でかなり傷ついているはずだ」
「レミリアお嬢様の凄いところはね」
咲夜は薄く笑って言った。
「不可能を可能にするところよ」
運命を変える能力。敗北の運命を、勝利に変える能力。自分でコントロールすることすらできない力。
今はそれに頼るしかないのか。
理詰めで考える瀬多にとって、そんな不確定要素に頼ること自体、躊躇することだった。
瀬多はため息をついた。
「滅茶苦茶だな。賭けもいいとこだ」
「それでも、やるしかない」
千枝の決意の言葉。それに、二人が頷いた。
「……ええ。私は全然」
息絶えたオタコンを見つめながら、咲夜は呟いた。
千枝は、瞳を潤ませながらも泣く事はなかった。
きっと決意したのだろう。もう泣かない。後ろを向かないと。
「……良い、人だった。頭良くて、……いつも冷静で、……皆の…お兄さんみたいな…人で……」
それ以上、千枝は言葉を紡がなかった。我慢できなくなる。そう思ったのだろう。
「……咲夜。辛いだろうが今は……」
「わかってる」
咲夜は、そっとオタコンの手を組ませると立ち上がった。
自分はオタコンに生かされた。なら、オタコンの分まで生きなければならない。
「あいつなら幽香を倒せるか?」
あいつ、というのは漆黒の騎士のことだ。おそらくはレミリアレベルの強者。
「無理ね。はっきり言って、ここにいるどの参加者にも、あの化け物を倒すことは不可能だと思う」
瀬多も同感だった。あれをどうにかできる人間なんているわけがない。
「一人じゃまず勝てない。なら、数で叩くしかないな」
「そうね。でも、半端な奴を集めても無意味よ」
もはや幽香を放って逃げるという選択肢は存在しない。あんなものが大暴れすれば、参加者全員が根絶やしにされる。
「なら、半端じゃない攻撃にすればいい。でしょ? 瀬多君」
千枝がどこか自信ありげに言った。
「……“あれ”か。確かに効果はあるだろうが……」
「なによあれって。何か策があるの?」
「ああ。堅い敵を一気に潰す時に、よく千枝が使っていた技がある。タルカジャで強化して、いつも以上に溜めの時間をかければあるいは……」
だが、その溜めの時間。それが一番の問題だった。
溜めている間は完全な無防備状態を曝していなければならない。
幽香と相対しても決定的な隙を見せ続けることになる。
そんなこと、自殺行為以外の何物でもない。
「……ここにいる最大戦力。レミリアお嬢様とゼルギウス。あの二人の力で幽香を足止めして時間稼ぎすれば、どう?」
……確かに、それならばうまくいけるかもしれない。
「だが、ゼルギウスを説得できるのか? あいつは殺し合いに乗っているんだろう?」
頭は良さそうだが融通の利かないところがありそうだった。少なくとも、こちらの提案に乗ってくれるような雰囲気は感じられなかった。
「無理でもする。それしか方法がない」
「自信あり、か?」
「あるわけないでしょ。そもそも、説得なんて私に一番向いてないことだわ」
それでもやるしかない。
そう咲夜が決意するのなら、瀬多もそれに乗ることに躊躇はなかった。
「もう一つ問題がある。レミリアがこの日光の中、全力を出せるかどうか。それに、さっきの攻防でかなり傷ついているはずだ」
「レミリアお嬢様の凄いところはね」
咲夜は薄く笑って言った。
「不可能を可能にするところよ」
運命を変える能力。敗北の運命を、勝利に変える能力。自分でコントロールすることすらできない力。
今はそれに頼るしかないのか。
理詰めで考える瀬多にとって、そんな不確定要素に頼ること自体、躊躇することだった。
瀬多はため息をついた。
「滅茶苦茶だな。賭けもいいとこだ」
「それでも、やるしかない」
千枝の決意の言葉。それに、二人が頷いた。
◇◇◇
「キョウさん! どうするの!?」
「どうと言われても……でござる」
二人の任務はアドレーヌの保護だ。
しかし、その途中で大木の雨が屋敷に降り注ぎ、屋敷は崩壊してしまった。
聞いた話では、屋敷にいたのは吸血鬼だという。日光が弱点だという吸血鬼。
どう考えても大ピンチだ。しかし自分達はアドレーヌを保護するように言われた。
どっちを助けるか。それが二人を悩ませたのだ。
「やっぱり別れて行動した方が……」
「でも、オタコンさんは絶対二人でいろって言ってたよ」
「むぅ……」
二人ともすでに満身創痍だ。だからこその命令で、それは絶対に守ってくれと堅く言われている。
どうしようかと考えていると、突然声が響き渡った。
『アドレーヌ! キョウ! それにカービィ!』
自分達の名前が呼ばれ、思わず声がした方を見つめる。
『全員レミリアの救出に向かってくれ! 今は屋敷の辺りは無事なはずだ!! 今すぐ俺もそっちに行く!』
キョウとカービィは顔を見合わせた。
やることは決まった。なら
「突撃あるのみ!」
「おおーー!!」
満身創痍とは思えない元気で、屋敷に向かって走って行った。
「どうと言われても……でござる」
二人の任務はアドレーヌの保護だ。
しかし、その途中で大木の雨が屋敷に降り注ぎ、屋敷は崩壊してしまった。
聞いた話では、屋敷にいたのは吸血鬼だという。日光が弱点だという吸血鬼。
どう考えても大ピンチだ。しかし自分達はアドレーヌを保護するように言われた。
どっちを助けるか。それが二人を悩ませたのだ。
「やっぱり別れて行動した方が……」
「でも、オタコンさんは絶対二人でいろって言ってたよ」
「むぅ……」
二人ともすでに満身創痍だ。だからこその命令で、それは絶対に守ってくれと堅く言われている。
どうしようかと考えていると、突然声が響き渡った。
『アドレーヌ! キョウ! それにカービィ!』
自分達の名前が呼ばれ、思わず声がした方を見つめる。
『全員レミリアの救出に向かってくれ! 今は屋敷の辺りは無事なはずだ!! 今すぐ俺もそっちに行く!』
キョウとカービィは顔を見合わせた。
やることは決まった。なら
「突撃あるのみ!」
「おおーー!!」
満身創痍とは思えない元気で、屋敷に向かって走って行った。
◇◇◇
「馬鹿、な……」
本気だった。本気の本気だった。
自分の出せる全ての力を乗せて、月光を放った。
確かに相手はまともに食らった。だがどうだ。相手を見てみろ。
幽香についた傷は……薄皮一つ斬れた程度だった。
頬が裂けるのではないかと思うくらいの笑みを浮かべる幽香。明らかに、ダメージなんてない。
「勝て……ない」
思わず呟いた言葉だった。
自分の剣が通用しない。
まったくダメージを受け付けない。
まるで女神の加護を受けた敵に、鉄の剣で挑んでいるような圧倒的力量差。
勝てない。勝てるわけがない。
岸壁を背にし、ほとんど放心状態で立ち尽くす。しかし、相手がそんな漆黒の騎士の心情を汲み取ってくれる訳がない。
手に持っていた大木を掲げ、振りかぶる。それは、寸分違わずゼルギウスに向かって飛……
本気だった。本気の本気だった。
自分の出せる全ての力を乗せて、月光を放った。
確かに相手はまともに食らった。だがどうだ。相手を見てみろ。
幽香についた傷は……薄皮一つ斬れた程度だった。
頬が裂けるのではないかと思うくらいの笑みを浮かべる幽香。明らかに、ダメージなんてない。
「勝て……ない」
思わず呟いた言葉だった。
自分の剣が通用しない。
まったくダメージを受け付けない。
まるで女神の加護を受けた敵に、鉄の剣で挑んでいるような圧倒的力量差。
勝てない。勝てるわけがない。
岸壁を背にし、ほとんど放心状態で立ち尽くす。しかし、相手がそんな漆黒の騎士の心情を汲み取ってくれる訳がない。
手に持っていた大木を掲げ、振りかぶる。それは、寸分違わずゼルギウスに向かって飛……
ぶ前に、何かが接近する気配を感じ取り、その方向へ手を伸ばす。
ぱし、という音と共にお祓い棒が幽香の手に収まった。
これを投げた者がいるはずなのにどこにもいない。
力を籠め、お祓い棒を握り潰すと、幽香は再び漆黒の騎士へと顔を向ける。
漆黒の騎士の姿が消えていた。
その代わりに、小さなどせいさんの銅像がちょこんと置かれていた。
幽香はただ、首を傾げるだけだった。
ぱし、という音と共にお祓い棒が幽香の手に収まった。
これを投げた者がいるはずなのにどこにもいない。
力を籠め、お祓い棒を握り潰すと、幽香は再び漆黒の騎士へと顔を向ける。
漆黒の騎士の姿が消えていた。
その代わりに、小さなどせいさんの銅像がちょこんと置かれていた。
幽香はただ、首を傾げるだけだった。
◇◇◇
「何故、私を助けた」
「あなたが必要だからよ。あなたの力がね」
幽香と距離を取るために走りながら咲夜は言った。
森の中なら、少し距離を取っただけでも相手は見失うはずだ。今はできるだけ幽香と離れ、うまく漆黒の騎士とレミリアを合流させなければならない。
漆黒の騎士は咲夜の言葉を聞き、立ち止った。
「どうしたの? さっさと来て。時間がないの」
「私は殺し合いに乗っている。それは先程も言ったはずだ」
「……だから? 幽香……あの化け物を倒さなくちゃいけないのはあなたも私も同じでしょ」
「まったく違う」
漆黒の騎士はにべもなくそう断言した。
「咲夜殿。私は一人で戦うことを決めたんだ。だから……」
「なによそれ。騎士としてのこだわりってやつ? 理解に苦しむわ」
「生きるためのこだわりだ」
まっすぐに咲夜を見つめ、漆黒の騎士はそう言った。
咲夜はレミリアと出会うまで、ずっと一人で生きてきた。
誰も信じず、誰とも馴れ合うことはなかった。
人間を嫌い、遠ざけることは、咲夜にとって生きるために必要なことだった。
そんな咲夜だからこそ、漆黒の騎士の気持ちが痛いほどに分かった。
だからこそ、何も言えなかった。
「私と貴殿は似ている。抱えているものは違えど、その本質は似通っている。……貴殿なら私を止めることが無意味だということも理解しているはずだ」
「……全然違うじゃない。戦闘狂なところも。その鼻につく騎士道精神も」
そう言いながら、咲夜はまったく逆に考えていた。
その通りだ。自分は漆黒の騎士と似ている。同じだと言っても良い。
人間に愛想を尽かし、世界を憎み、今の自分を保てるのはたった一人の主に仕える時だけ。
十六夜咲夜として生きていられるのは、レミリア・スカーレットの前だけだ。
自分に名前をくれた、あの小さな吸血鬼の前だけ。
漆黒の騎士も……ゼルギウスも、まったく同じだ。
「咲夜殿は先程、理解に苦しむと言ったが、それは私も同じだ。貴殿は何故殺し合いに乗らない? 何故一人でいない? 貴殿は孤独な人生を強要された。なのに何故、今更になって人と共にいる? 私と同じ。一人で生き、一人で死ぬべき貴殿が」
──一匹狼は若い狼が自分の群れを作る為になる──
まるで、耳元でささやかれているように、オタコンの臨終した時の言葉が甦る。
「私はもはや主に捨てられた男だ。私にはもう、騎士として生き、そして死ぬ以外にない。一人孤独にな」
──君の人生は、孤独な人生なんかじゃない。悲しい人生なんかじゃない。君は自分で、孤独な人生を壊すことができるんだ──
そうだ。
あの時、おじいさんたちが村人に抵抗したのは……。
それはきっと……。
そう考えた時、咲夜は思わずゼルギウスの胸倉を掴んでいた。
「あなたはいつだってそうね。そうやって諦観して、何もかも運命か何かのせいにして。あなたはそんなに死にたいの? 騎士として死んで、それで満足? ふざけんじゃないわよ!!」
オタコンは死んだ。自分のせいで死んだ。
けど、それは無意味なんかじゃない。それを今、私自身が証明しなくてはいけない。
この男の言葉を受け入れたら、きっとオタコンの死は無意味になる。
それだけは、絶対にしちゃいけない。
「ええそうよ。人間は薄汚いわ。自分も同じ人間だと思うだけで吐き気がする。けどね。それでも私は人間なの。
どれだけ凄惨なものを見ようが、どれだけの人を殺そうが、悪魔の犬に成り下がろうが、それでも私は人間だ! 誇りだってある! 自分自身に、言って聞かせるだけのプライドだって持ってる!
あなたはどうなのよ! 騎士だとかなんとか言って、自分の存在に自信も持てないわけ!?」
胸倉を掴んでいた手が、ゼルギウスに取られ、そのまま地面に押し倒された。
「貴殿に何が分かる!! 印付きの現状を知っているのか!? 差別というものがどういうものか、貴殿は知っているというのか!?
歳をとらないというだけで気味悪がられ、迫害され、毎日が死と隣り合わせ。やっと安住の地を見つけたと思ったら追い出される。一人森に入って、ようやく同じような仲間を見つけたと思ったら存在自体を否定されて。
……貴殿には分かるまい。目の前で希望が砕け散る瞬間。何百年と続く孤独。その絶望と悲嘆が、貴殿に分かるはずがない!!」
その叫びは、初めて引っ張り出したゼルギウスの本音だった。
「あなたが必要だからよ。あなたの力がね」
幽香と距離を取るために走りながら咲夜は言った。
森の中なら、少し距離を取っただけでも相手は見失うはずだ。今はできるだけ幽香と離れ、うまく漆黒の騎士とレミリアを合流させなければならない。
漆黒の騎士は咲夜の言葉を聞き、立ち止った。
「どうしたの? さっさと来て。時間がないの」
「私は殺し合いに乗っている。それは先程も言ったはずだ」
「……だから? 幽香……あの化け物を倒さなくちゃいけないのはあなたも私も同じでしょ」
「まったく違う」
漆黒の騎士はにべもなくそう断言した。
「咲夜殿。私は一人で戦うことを決めたんだ。だから……」
「なによそれ。騎士としてのこだわりってやつ? 理解に苦しむわ」
「生きるためのこだわりだ」
まっすぐに咲夜を見つめ、漆黒の騎士はそう言った。
咲夜はレミリアと出会うまで、ずっと一人で生きてきた。
誰も信じず、誰とも馴れ合うことはなかった。
人間を嫌い、遠ざけることは、咲夜にとって生きるために必要なことだった。
そんな咲夜だからこそ、漆黒の騎士の気持ちが痛いほどに分かった。
だからこそ、何も言えなかった。
「私と貴殿は似ている。抱えているものは違えど、その本質は似通っている。……貴殿なら私を止めることが無意味だということも理解しているはずだ」
「……全然違うじゃない。戦闘狂なところも。その鼻につく騎士道精神も」
そう言いながら、咲夜はまったく逆に考えていた。
その通りだ。自分は漆黒の騎士と似ている。同じだと言っても良い。
人間に愛想を尽かし、世界を憎み、今の自分を保てるのはたった一人の主に仕える時だけ。
十六夜咲夜として生きていられるのは、レミリア・スカーレットの前だけだ。
自分に名前をくれた、あの小さな吸血鬼の前だけ。
漆黒の騎士も……ゼルギウスも、まったく同じだ。
「咲夜殿は先程、理解に苦しむと言ったが、それは私も同じだ。貴殿は何故殺し合いに乗らない? 何故一人でいない? 貴殿は孤独な人生を強要された。なのに何故、今更になって人と共にいる? 私と同じ。一人で生き、一人で死ぬべき貴殿が」
──一匹狼は若い狼が自分の群れを作る為になる──
まるで、耳元でささやかれているように、オタコンの臨終した時の言葉が甦る。
「私はもはや主に捨てられた男だ。私にはもう、騎士として生き、そして死ぬ以外にない。一人孤独にな」
──君の人生は、孤独な人生なんかじゃない。悲しい人生なんかじゃない。君は自分で、孤独な人生を壊すことができるんだ──
そうだ。
あの時、おじいさんたちが村人に抵抗したのは……。
それはきっと……。
そう考えた時、咲夜は思わずゼルギウスの胸倉を掴んでいた。
「あなたはいつだってそうね。そうやって諦観して、何もかも運命か何かのせいにして。あなたはそんなに死にたいの? 騎士として死んで、それで満足? ふざけんじゃないわよ!!」
オタコンは死んだ。自分のせいで死んだ。
けど、それは無意味なんかじゃない。それを今、私自身が証明しなくてはいけない。
この男の言葉を受け入れたら、きっとオタコンの死は無意味になる。
それだけは、絶対にしちゃいけない。
「ええそうよ。人間は薄汚いわ。自分も同じ人間だと思うだけで吐き気がする。けどね。それでも私は人間なの。
どれだけ凄惨なものを見ようが、どれだけの人を殺そうが、悪魔の犬に成り下がろうが、それでも私は人間だ! 誇りだってある! 自分自身に、言って聞かせるだけのプライドだって持ってる!
あなたはどうなのよ! 騎士だとかなんとか言って、自分の存在に自信も持てないわけ!?」
胸倉を掴んでいた手が、ゼルギウスに取られ、そのまま地面に押し倒された。
「貴殿に何が分かる!! 印付きの現状を知っているのか!? 差別というものがどういうものか、貴殿は知っているというのか!?
歳をとらないというだけで気味悪がられ、迫害され、毎日が死と隣り合わせ。やっと安住の地を見つけたと思ったら追い出される。一人森に入って、ようやく同じような仲間を見つけたと思ったら存在自体を否定されて。
……貴殿には分かるまい。目の前で希望が砕け散る瞬間。何百年と続く孤独。その絶望と悲嘆が、貴殿に分かるはずがない!!」
その叫びは、初めて引っ張り出したゼルギウスの本音だった。
だが、咲夜だって負けてない。負けられない。
この悲しみに負けたら、オタコンに顔向けできない。
額と額をぶつける勢いで、咲夜は身体を起こして叫んだ。
「分かるわけないでしょ!! あなたの気持ちなんて、この世の誰にもわかるわけない!! 悲しみなんて、恐怖なんて、誰かと比べるものなんかじゃない!! たとえどれほど叫びたくても、誰かに訴えたくても、それを振りかざして優劣なんて決めるものじゃない!!
あなただって分からないでしょ。幸せな毎日が突然終わる絶望。人を信じられなくなる恐怖。同じ人間でありながら、その人間から離れないと生きていけない苦しみ。分かるわけない! あなたにも、誰にだって分かるわけない!!
でも、だからこそ私なんだ。この悲しみも、苦しみも、私が私である証拠よ。私は十六夜咲夜。私は、誰でもない自分自身の為に生きる!! それが私の生き方だ!
あなたは言えるの!? これが自分の生き方だって。孤独な人生が自分の全てだって、言えるのなら言ってみなさい!!」
ゼルギウスは、初めて躊躇した。
孤独が全てだなどと、そんなことどうしても言えなかった。
何故なら、ゼルギウスは望んでいたのだ。
この殺し合いで優勝し、普通の人として生きることを。
「……言えるわけない。そんなこと、言えるわけないわ。どんな生き方をしてたって、誰も一人で生きていたいなんて思えない。
孤独が全てだって受け入れて、それでも求めてしまうのが人間なのよ。幸せになるために生きてるんだって。そう思ってしまうのが人間なのよ」
「……幸せなんて、……そんなものとうに捨てた!!」
「捨てる必要なんてない! 私にも、あなたにも、誰にだって幸せになる権利がある!! 誰かと一緒に生きる権利がある! 私は……それを教えてもらった」
一瞬だけ目を瞑る。涙が流れそうになるのを止める。
キッと、ゼルギウスを睨みつけた。
「悲しいだけの人生なんて、寂しいだけの人生なんて、そんなもの認めない! あなたも私も人よ。どこにでもいる、ただの人よ!」
ベオクとラグズの混血で、印付きとして生きてきたゼルギウス。ベオクにも、ラグズにも認められない異端の生き物として生きてきたゼルギウス。それを、咲夜は人と呼んだ。
誰にも……主にも、言われたことのない、救いの言葉。
「あなたは、あなたの思う通りに生きていい。自分のために生きていい。幸せになっていい!! 人を殺そうが、人から拒絶されようが、それでも人は、幸せになっていいのよ!!」
自分もゼルギウスも、悲しみを背負っていた。孤独の中で、ただ一人悲しみを背負っていた。
それしか自分の生きる道はないと思っていた。
でも、それは違う。違ったんだ。
レミリアと出会って、傲慢な気高さを学んだ。幻想郷に来て、何にも囚われない生き方を学んだ。そして今、自分の生き方を肯定することを学んだ。
咲夜の言葉は、自分自身にも向けられた言葉だった。自分と違う生き方をする悪魔、魔法使い、妖怪。
彼女達に合わせ、ずっと悪魔の犬として生き、それでも捨てられない人間としての感情。
ずっと押し隠してきた感情。それを今、吐きだした。
孤独な人生も、悲しみだけの人生も幻想だ。自分が作り出した幻想だ。
ゼルギウスを通して、自分自身にそのことを言い聞かせた。
オタコンの言葉は真実だと。
人は……誰かと一緒にいてもいいのだと。
この悲しみに負けたら、オタコンに顔向けできない。
額と額をぶつける勢いで、咲夜は身体を起こして叫んだ。
「分かるわけないでしょ!! あなたの気持ちなんて、この世の誰にもわかるわけない!! 悲しみなんて、恐怖なんて、誰かと比べるものなんかじゃない!! たとえどれほど叫びたくても、誰かに訴えたくても、それを振りかざして優劣なんて決めるものじゃない!!
あなただって分からないでしょ。幸せな毎日が突然終わる絶望。人を信じられなくなる恐怖。同じ人間でありながら、その人間から離れないと生きていけない苦しみ。分かるわけない! あなたにも、誰にだって分かるわけない!!
でも、だからこそ私なんだ。この悲しみも、苦しみも、私が私である証拠よ。私は十六夜咲夜。私は、誰でもない自分自身の為に生きる!! それが私の生き方だ!
あなたは言えるの!? これが自分の生き方だって。孤独な人生が自分の全てだって、言えるのなら言ってみなさい!!」
ゼルギウスは、初めて躊躇した。
孤独が全てだなどと、そんなことどうしても言えなかった。
何故なら、ゼルギウスは望んでいたのだ。
この殺し合いで優勝し、普通の人として生きることを。
「……言えるわけない。そんなこと、言えるわけないわ。どんな生き方をしてたって、誰も一人で生きていたいなんて思えない。
孤独が全てだって受け入れて、それでも求めてしまうのが人間なのよ。幸せになるために生きてるんだって。そう思ってしまうのが人間なのよ」
「……幸せなんて、……そんなものとうに捨てた!!」
「捨てる必要なんてない! 私にも、あなたにも、誰にだって幸せになる権利がある!! 誰かと一緒に生きる権利がある! 私は……それを教えてもらった」
一瞬だけ目を瞑る。涙が流れそうになるのを止める。
キッと、ゼルギウスを睨みつけた。
「悲しいだけの人生なんて、寂しいだけの人生なんて、そんなもの認めない! あなたも私も人よ。どこにでもいる、ただの人よ!」
ベオクとラグズの混血で、印付きとして生きてきたゼルギウス。ベオクにも、ラグズにも認められない異端の生き物として生きてきたゼルギウス。それを、咲夜は人と呼んだ。
誰にも……主にも、言われたことのない、救いの言葉。
「あなたは、あなたの思う通りに生きていい。自分のために生きていい。幸せになっていい!! 人を殺そうが、人から拒絶されようが、それでも人は、幸せになっていいのよ!!」
自分もゼルギウスも、悲しみを背負っていた。孤独の中で、ただ一人悲しみを背負っていた。
それしか自分の生きる道はないと思っていた。
でも、それは違う。違ったんだ。
レミリアと出会って、傲慢な気高さを学んだ。幻想郷に来て、何にも囚われない生き方を学んだ。そして今、自分の生き方を肯定することを学んだ。
咲夜の言葉は、自分自身にも向けられた言葉だった。自分と違う生き方をする悪魔、魔法使い、妖怪。
彼女達に合わせ、ずっと悪魔の犬として生き、それでも捨てられない人間としての感情。
ずっと押し隠してきた感情。それを今、吐きだした。
孤独な人生も、悲しみだけの人生も幻想だ。自分が作り出した幻想だ。
ゼルギウスを通して、自分自身にそのことを言い聞かせた。
オタコンの言葉は真実だと。
人は……誰かと一緒にいてもいいのだと。
ふと、咲夜が異変に気付く。
ちょうど空を眺める恰好になっていた咲夜の目に何かが映った。
「……え?」
雨。それはあまりにも大き過ぎる雨粒。
木々の雨がこちらに向かって降り注ぐ瞬間だった。
「避け……!!」
られない。その雨はあまりにも広範囲で、たとえ時を止めたとしても回避できるものではない。
無数の木が、轟音とともに地面に突き刺さった。
終わった。
思わず咲夜は目を瞑った。
ちょうど空を眺める恰好になっていた咲夜の目に何かが映った。
「……え?」
雨。それはあまりにも大き過ぎる雨粒。
木々の雨がこちらに向かって降り注ぐ瞬間だった。
「避け……!!」
られない。その雨はあまりにも広範囲で、たとえ時を止めたとしても回避できるものではない。
無数の木が、轟音とともに地面に突き刺さった。
終わった。
思わず咲夜は目を瞑った。
その瞬間、まるで何かが爆ぜたように、木々が吹き飛んだ。
恐る恐る目を開ける。
「……月光」
咲夜を庇うように、ゼルギウスは立っていた。
「私には、やはり貴殿の言っていたことを受け入れることはできない。……だが、貴殿はここで死んではいけない。貴殿を死なす訳にはいかない。それが、自分の正直な心で、それを受け入れることはできる。
……私は、貴殿のように生きられないかもしれない。しかし、貴殿の為にできることならある。貴殿がそのように生きるというのなら、それを手助けすることはできる」
誰もが知らない未来。ゼルギウスは、とある少女を守るためにその剣を振るっていた。
主の命令があったとはいえ、自分と同じ境遇で、それでも懸命に生き、皆に受け入れられていく少女の幸せを願っていた。
その時のゼルギウスは、主君の命令を越え、その少女のために剣を振るっていた。
「ゼルギウス……」
「違う」
その少女に、ゼルギウスは自分の名前を言わなかった。それは、身分を明かせないという事情以上に、騎士としてその者の命をこの身を賭けて守ろうという意思があったからだ。
ゼルギウスは、幽香と対峙して、言った。
「私は……漆黒の騎士だ」
恐る恐る目を開ける。
「……月光」
咲夜を庇うように、ゼルギウスは立っていた。
「私には、やはり貴殿の言っていたことを受け入れることはできない。……だが、貴殿はここで死んではいけない。貴殿を死なす訳にはいかない。それが、自分の正直な心で、それを受け入れることはできる。
……私は、貴殿のように生きられないかもしれない。しかし、貴殿の為にできることならある。貴殿がそのように生きるというのなら、それを手助けすることはできる」
誰もが知らない未来。ゼルギウスは、とある少女を守るためにその剣を振るっていた。
主の命令があったとはいえ、自分と同じ境遇で、それでも懸命に生き、皆に受け入れられていく少女の幸せを願っていた。
その時のゼルギウスは、主君の命令を越え、その少女のために剣を振るっていた。
「ゼルギウス……」
「違う」
その少女に、ゼルギウスは自分の名前を言わなかった。それは、身分を明かせないという事情以上に、騎士としてその者の命をこの身を賭けて守ろうという意思があったからだ。
ゼルギウスは、幽香と対峙して、言った。
「私は……漆黒の騎士だ」