画面越しの存在
最終更新:
hachiohicity
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概略:
2019個展提出作品。
登場人物:
ピピ、と音がした。
画面上に「緊急メンテナンスのお知らせ」という文字が現れる。ゲームプレイに支障は出ないが、無視はできないそれに手を止める。
「メンテみたいですけど、どうします?」
『とりあえずこのステージを終わらせましょう』
「了解です」
通話を繋げている相手に言えば、そんな答えが返ってきて、目の前にいるモンスターを倒すことに専念する。
クリアという表記とともに、「ただいまメンテナンス中です」という文字が現れて、操作が出来なくなった。ゲームのSNSアカウントを見れば、不具合による緊急メンテナンスであり、作業は三十分を予定しているということだった。
他のゲームに行くのは微妙だが、このまま待つのも退屈だな……と、どうしましょうかと聞こうとしたところだった。
『ちょっと私の話を聞いてくれません?』
「あぁ、いいですけど」
突然の提案。特に断る理由もなく、そう答える。
相手のことはよく知らない。知っているのはオトカというユーザー名と、声から女性であること、話しているとたまに世間知らずに感じる、ということくらいだ。あとは、このゲームでの情報。彼女がプレイしているキャラは武器屋の少女だ。プレイアブルキャラクターの中で武器の生成、修復などをスキルに持つ。プレイヤーメイドの武器には任意のスキルをつけることができ、彼女に作ってもらった武器をしばらく使っている。
カチり、という音と、ふーという吐息が聞こえて、煙草を吸っていることがわかった。じらさないでほしい、とも思うが、なにせ時間はまだあるのだ。
『少女が知っていたのは、武器を作るのに必要な知識だけでした』
何を言っているんだ? 彼女がプレイしているキャラクターの裏設定だろうか?
基本的にこのゲームではキャラクターの設定はあまり出されていないが、存在はするのではないか、と噂されている。
相手は、そのまま話し続けた。
画面上に「緊急メンテナンスのお知らせ」という文字が現れる。ゲームプレイに支障は出ないが、無視はできないそれに手を止める。
「メンテみたいですけど、どうします?」
『とりあえずこのステージを終わらせましょう』
「了解です」
通話を繋げている相手に言えば、そんな答えが返ってきて、目の前にいるモンスターを倒すことに専念する。
クリアという表記とともに、「ただいまメンテナンス中です」という文字が現れて、操作が出来なくなった。ゲームのSNSアカウントを見れば、不具合による緊急メンテナンスであり、作業は三十分を予定しているということだった。
他のゲームに行くのは微妙だが、このまま待つのも退屈だな……と、どうしましょうかと聞こうとしたところだった。
『ちょっと私の話を聞いてくれません?』
「あぁ、いいですけど」
突然の提案。特に断る理由もなく、そう答える。
相手のことはよく知らない。知っているのはオトカというユーザー名と、声から女性であること、話しているとたまに世間知らずに感じる、ということくらいだ。あとは、このゲームでの情報。彼女がプレイしているキャラは武器屋の少女だ。プレイアブルキャラクターの中で武器の生成、修復などをスキルに持つ。プレイヤーメイドの武器には任意のスキルをつけることができ、彼女に作ってもらった武器をしばらく使っている。
カチり、という音と、ふーという吐息が聞こえて、煙草を吸っていることがわかった。じらさないでほしい、とも思うが、なにせ時間はまだあるのだ。
『少女が知っていたのは、武器を作るのに必要な知識だけでした』
何を言っているんだ? 彼女がプレイしているキャラクターの裏設定だろうか?
基本的にこのゲームではキャラクターの設定はあまり出されていないが、存在はするのではないか、と噂されている。
相手は、そのまま話し続けた。
それはとある組織に捕らわれていたからだった。箱庭の中で、彼女は楽しく暮らしていた。
その組織が壊されて連れ出された。
外で知ったのは、自分の作ったもので多くの人が傷ついたこと。
それに絶望した少女は、以来武器づくりに楽しさを感じることが出来なくなった。
そんなときに少女はゲームに出会う。
世界を壊すのはひどく楽しかった。
そして気付いたんだ。いつかこんな風に世界が壊れたら、面白いなと。
その組織が壊されて連れ出された。
外で知ったのは、自分の作ったもので多くの人が傷ついたこと。
それに絶望した少女は、以来武器づくりに楽しさを感じることが出来なくなった。
そんなときに少女はゲームに出会う。
世界を壊すのはひどく楽しかった。
そして気付いたんだ。いつかこんな風に世界が壊れたら、面白いなと。
ふー、と息が吐ききられ、引き込まれていた話から現実に戻ってくる。
「その子は、世界のことをあまり知らなかったんですね」
『そうですね』
「外に出れて良かった」
閉じ込められたままだったら、かわいそうだ。
『……あそこにいたままでも、良かったんです』
その言葉だけが、いやに自分が感じたことのように聞こえた。
『あぁ、もうこんな時間になってる』
いつのまにか三十分経っていて、SNSにはメンテナンスが延長されたことが書かれていた。
「メンテ、終わりそうにないですね」
『では、私はこれで落ちます』
「あ、あぁ、はい。じゃあ、また」
それに返事が来る前に、通話は切られた。
結局メンテナンスが明けたのは翌日だった。しかし彼女は戻ってこなくて、チャットにいれば声をかけてコンビを組む程度だった自分には通話をかけることもできず、彼女の最新ログインの日時はどんどん後ろになっていった。
残ったアカウントと、作ってくれた武器が、夢ではなかったことの証明だった。
「その子は、世界のことをあまり知らなかったんですね」
『そうですね』
「外に出れて良かった」
閉じ込められたままだったら、かわいそうだ。
『……あそこにいたままでも、良かったんです』
その言葉だけが、いやに自分が感じたことのように聞こえた。
『あぁ、もうこんな時間になってる』
いつのまにか三十分経っていて、SNSにはメンテナンスが延長されたことが書かれていた。
「メンテ、終わりそうにないですね」
『では、私はこれで落ちます』
「あ、あぁ、はい。じゃあ、また」
それに返事が来る前に、通話は切られた。
結局メンテナンスが明けたのは翌日だった。しかし彼女は戻ってこなくて、チャットにいれば声をかけてコンビを組む程度だった自分には通話をかけることもできず、彼女の最新ログインの日時はどんどん後ろになっていった。
残ったアカウントと、作ってくれた武器が、夢ではなかったことの証明だった。