『リリンのお呪い講義』
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概略:
『Fifty Caliber Punishment』 の補足。お呪いの設定について。
登場人物:
アールラボ支部長リリンによる、エージェントやチルドレンの初学者向けの講義。
講義終了のベルが鳴り、各々が片付けの準備を始めるなか、私はリリンさんの元に向かった。
「おや、絢瀬さん。先程の講義で難しい所でもありましたか?」
「あっ、いえ! 講義のことじゃないんですけど、先日更新されたレネゲイドアーカイブの“お呪い”のとこがちょっとよくわからなくて……」
「良く読み込めているようですね、書いた私としても嬉しく思います。お呪いはまだ研究途上の範囲で教鞭を取れるほどではないのですが、せっかく質問してくれましたしその辺も合わせて教えましょう」
講義終了のベルが鳴り、各々が片付けの準備を始めるなか、私はリリンさんの元に向かった。
「おや、絢瀬さん。先程の講義で難しい所でもありましたか?」
「あっ、いえ! 講義のことじゃないんですけど、先日更新されたレネゲイドアーカイブの“お呪い”のとこがちょっとよくわからなくて……」
「良く読み込めているようですね、書いた私としても嬉しく思います。お呪いはまだ研究途上の範囲で教鞭を取れるほどではないのですが、せっかく質問してくれましたしその辺も合わせて教えましょう」
「さて、お呪い、についてでしたね。絢瀬さんはお呪いについて読んでみてどの程度理解しましたか?」
「えっと、普通のエフェクトは自分のレネゲイドウイルスを使うけど、お呪いは空気中のレネゲイドウイルスを使うもので、使うには独自の法則に従う必要がある……みたいな感じですかね」
「はい、概ね理解出来ているようですね。その通りお呪いは通常のエフェクトと異なり空気中のエフェクトを利用する関係上、自分の侵食率をほとんど上昇させずに利用出来ますが、反面効果が環境に左右されるため不安定であり、効果を得るための“固有の法則”も現在部分的にしか解明出来ていません」
そう言うとリリンさんはボロボロの古本を取り出して開いて見せた。
「古代の文献にある、呪術や魔術の一部はこの空気中のエフェクト効果を起源にしたものという可能性も考えられるほど実態も似ています。ですから私はこれを“お呪い”と名付けました。詳細な法則が解明できた時は、改めて呪術や呪法などと名前を変えるつもりですがまだこれは術でも法でもありません」
「へー、最新のレネゲイドの技術が実は大昔の人が使っていたものかもしれないなんて、なんだかロマンチックですね」
もしかしたら昔の人も、私みたいにオーヴァードに覚醒して、こうしてエフェクトを学ぶみたいにお呪いを学んでいたのかもしれない。
「えっと、普通のエフェクトは自分のレネゲイドウイルスを使うけど、お呪いは空気中のレネゲイドウイルスを使うもので、使うには独自の法則に従う必要がある……みたいな感じですかね」
「はい、概ね理解出来ているようですね。その通りお呪いは通常のエフェクトと異なり空気中のエフェクトを利用する関係上、自分の侵食率をほとんど上昇させずに利用出来ますが、反面効果が環境に左右されるため不安定であり、効果を得るための“固有の法則”も現在部分的にしか解明出来ていません」
そう言うとリリンさんはボロボロの古本を取り出して開いて見せた。
「古代の文献にある、呪術や魔術の一部はこの空気中のエフェクト効果を起源にしたものという可能性も考えられるほど実態も似ています。ですから私はこれを“お呪い”と名付けました。詳細な法則が解明できた時は、改めて呪術や呪法などと名前を変えるつもりですがまだこれは術でも法でもありません」
「へー、最新のレネゲイドの技術が実は大昔の人が使っていたものかもしれないなんて、なんだかロマンチックですね」
もしかしたら昔の人も、私みたいにオーヴァードに覚醒して、こうしてエフェクトを学ぶみたいにお呪いを学んでいたのかもしれない。
「肝心の固有の法則ですが、これは人間の無意識によるバイアス、思い込みを由来とするものです」
リリンさんはホワイトボードに3つの項目を並べた。
リリンさんはホワイトボードに3つの項目を並べた。
- 類感則:類似したものは類似した性質を持つ
- 感染則:部分は全体に影響する
- 対価則:対価は成果を強める
「これらが現在判明しているお呪いの基本原則です。順番に説明しましょう、まずは類感則です。似ているものは似た性質を示すという法則は古くから信じられており、お呪いを発揮する有力な手法となります。例を挙げるなら丑の刻参りなどですね」
「藁人形で嫌いな相手を思い浮かべて釘を打つやつでしたっけ?」
「はい、この場合は藁人形に呪う相手の名前を付けて類似性を担保しお呪いの効力を発揮させます。実演しましょう」
そう言うとリリンさんはキャンパスノートを取り出し、ページを2枚ちぎって両方に全く同じ不思議な模様を書いた。
「同一のノートから破られたページに、同一の模様が描かれました。私はこの2枚のページに“Gemini”と名前を付けます。こちらも、こちらも Gemini です。これで2つは区別がつかなくなり同一となりました。従って」
リリンさんは指を鳴らすと、指先に火を灯し片方のページの隅に火を付けた。するともう片方のページにも火が上がった。火はどんどん燃えるけど、四分の一ほど燃えた所でリリンさんは燃えている部分を破り捨てた。もう片方も不自然に紙が破れ、火は止まった。
「藁人形で嫌いな相手を思い浮かべて釘を打つやつでしたっけ?」
「はい、この場合は藁人形に呪う相手の名前を付けて類似性を担保しお呪いの効力を発揮させます。実演しましょう」
そう言うとリリンさんはキャンパスノートを取り出し、ページを2枚ちぎって両方に全く同じ不思議な模様を書いた。
「同一のノートから破られたページに、同一の模様が描かれました。私はこの2枚のページに“Gemini”と名前を付けます。こちらも、こちらも Gemini です。これで2つは区別がつかなくなり同一となりました。従って」
リリンさんは指を鳴らすと、指先に火を灯し片方のページの隅に火を付けた。するともう片方のページにも火が上がった。火はどんどん燃えるけど、四分の一ほど燃えた所でリリンさんは燃えている部分を破り捨てた。もう片方も不自然に紙が破れ、火は止まった。
「これがお呪い、類似したものは類似した性質を持つ、です。いかがでしたか?」
自慢げな笑みを浮かべるリリンさん。これがお呪い、リリンさんの発見した最新のレネゲイド技術……。
「あの……、リリンさん。なんだか手品っぽくてあまりピンとこないです」
「な、な、なんてこと言うんですか!? 第一普段使われているエフェクトもものによっては手品と大差ないじゃないですか?」
「えっいやほら、みんなの使うエフェクトとかはレネゲイドウイルスで圧迫感あって超能力な感じがするけどお呪いは全然エフェクトが使われた感じがしないせいで余計に……」
あれ? 何かおかしい。確かに部屋のレネゲイド濃度は入った時と全く変わらない。お呪いは侵食率を上げないから当たり前だけど……。
「リリンさん、さっきの火ってどうやって出したんですか? エフェクトじゃないですよね?」
リリンさんは悪戯に成功した子供のように笑った。
「鋭いですね、絢瀬さん。今の火も実はお呪いなんですよ」
「えっ? だって火に似ているものなんて何も無いじゃないですか?」
「いいえ、材料はすでに揃っているんですよ。私は自分の指に“マッチ”と名前を付けました。マッチという指を擦って、パチン、と音がなり、指を擦ったせいで指が少し熱くなりました。マッチを擦って熱が出て音も出ているのに、火が出ていないなんておかしいですよね?」
「な、なんでもありですね」
「まあ、一番の要素は私がオーヴァードであることですけどね。見方によっては、オーヴァードの扱うイージーエフェクトのいくつかはお呪いの効果によってもたらされると捉えることも出来ます」
「あの……、リリンさん。なんだか手品っぽくてあまりピンとこないです」
「な、な、なんてこと言うんですか!? 第一普段使われているエフェクトもものによっては手品と大差ないじゃないですか?」
「えっいやほら、みんなの使うエフェクトとかはレネゲイドウイルスで圧迫感あって超能力な感じがするけどお呪いは全然エフェクトが使われた感じがしないせいで余計に……」
あれ? 何かおかしい。確かに部屋のレネゲイド濃度は入った時と全く変わらない。お呪いは侵食率を上げないから当たり前だけど……。
「リリンさん、さっきの火ってどうやって出したんですか? エフェクトじゃないですよね?」
リリンさんは悪戯に成功した子供のように笑った。
「鋭いですね、絢瀬さん。今の火も実はお呪いなんですよ」
「えっ? だって火に似ているものなんて何も無いじゃないですか?」
「いいえ、材料はすでに揃っているんですよ。私は自分の指に“マッチ”と名前を付けました。マッチという指を擦って、パチン、と音がなり、指を擦ったせいで指が少し熱くなりました。マッチを擦って熱が出て音も出ているのに、火が出ていないなんておかしいですよね?」
「な、なんでもありですね」
「まあ、一番の要素は私がオーヴァードであることですけどね。見方によっては、オーヴァードの扱うイージーエフェクトのいくつかはお呪いの効果によってもたらされると捉えることも出来ます」
「それでは、話を続けましょう。次は感染則、部分は全体に影響する、です」
「こちらも基本的には類感則と似た性質の法則です。絢瀬さん、先程の法則を踏まえてどのようなものだと思いますか?」
「え、えっと……。部分と全体ですよね。例えば、さっきのページを燃やすと、ノート全体が燃えちゃう……みたいな?」
リリンさんはにっこりと笑い、試してみましょう、と言うとページに火を付けた。
途端にノート全体が燃え上がる。先程の焼き回しみたいにページもノートも同様に燃え上がり、ページが半分ほど燃えた時点でリリンさんは破り捨てた。ノートも半分ほどを残して同様に火が消えた。
「こちらも基本的には類感則と似た性質の法則です。絢瀬さん、先程の法則を踏まえてどのようなものだと思いますか?」
「え、えっと……。部分と全体ですよね。例えば、さっきのページを燃やすと、ノート全体が燃えちゃう……みたいな?」
リリンさんはにっこりと笑い、試してみましょう、と言うとページに火を付けた。
途端にノート全体が燃え上がる。先程の焼き回しみたいにページもノートも同様に燃え上がり、ページが半分ほど燃えた時点でリリンさんは破り捨てた。ノートも半分ほどを残して同様に火が消えた。
「じゃーん、手品です……」
「そ、そんな悲しそうな顔で諦めないでくださいよリリンさん! 確かにこっちも凄く手品っぽいですけど! 最新のレネゲイド研究の成果なんですよね!?」
「はい……アールラボの研究員たちと私が1000時間かけて突き止めたレネゲイド技術です……」
「めちゃくちゃ労力かかってる……! それで、どんな法則なんですか?」
「概ね絢瀬さんが予測した通りの内容です。全体と部分に類似性を見出し互いに影響を与え合う法則です。類感則でも説明した“丑の刻参り”において、お呪いに対象の髪の毛を混ぜた場合、対象の髪の毛一部分と身体全体を影響させるお呪いと言えるでしょう。個人の風邪が全体に感染するように、部分の影響が全体を変化させる。これが感染則です」
そう考えると、“丑の刻参り”って2つのお呪いの法則を使ってるからめちゃくちゃ強力なんだろうな。そこまでして誰かを呪う気持ちは私にはわかんないけど。
「そ、そんな悲しそうな顔で諦めないでくださいよリリンさん! 確かにこっちも凄く手品っぽいですけど! 最新のレネゲイド研究の成果なんですよね!?」
「はい……アールラボの研究員たちと私が1000時間かけて突き止めたレネゲイド技術です……」
「めちゃくちゃ労力かかってる……! それで、どんな法則なんですか?」
「概ね絢瀬さんが予測した通りの内容です。全体と部分に類似性を見出し互いに影響を与え合う法則です。類感則でも説明した“丑の刻参り”において、お呪いに対象の髪の毛を混ぜた場合、対象の髪の毛一部分と身体全体を影響させるお呪いと言えるでしょう。個人の風邪が全体に感染するように、部分の影響が全体を変化させる。これが感染則です」
そう考えると、“丑の刻参り”って2つのお呪いの法則を使ってるからめちゃくちゃ強力なんだろうな。そこまでして誰かを呪う気持ちは私にはわかんないけど。
「最後が対価則、対価は成果を強める。こちらは先程2つと異なり類似性を利用せず、お呪いそれ自体に影響すら与える法則となります」
「ここでいう対価は物質的なものに限りません。“今後𓏸𓏸しないことを対価にする”というような条件でも可能です。対価は術師にとってより大切であるもの、条件であればより厳しいものであるほど、対象の性質・お呪いの効力を強めます。もし“命を懸けた”お呪いなどがあればそれは絶大な効力を発揮するでしょう」
リリンさんはもう燃えて半分になってしまったノートを手に取った。
「“私はこのノートがあるかぎり今後二度と講義にこれ以外のノートは使いません”」
リリンさんはノートにお呪いをかけると、それに火を付けた。しかしさっきと違って一向にノートには火がつかない。
「私のお呪いによってノートの耐久性を強化しました。どうぞ、破壊してみてください」
貰ったノートへ思いっきり力を込めて破こうとしたが全くちぎれず、カバンのハサミを使っても全く切れない。思い立ってソラリスシンドロームで強酸を浴びせて、ようやく端っこが溶ける程度だった。
「おや、この程度の対価では流石にエフェクトには叶わないようですね」
「このように、対価を払うことで強力な成果が得られる対価則ですが、破ってしまうことによるデメリットもあります」
「……破ってしまうとどうなるんですか?」
「わかりません」
「えっ?」
「対価則に反した場合のデメリットは現在の研究で予測することはできず、毎回の状況でデメリット自体も変化するため、傾向を掴むことすら出来ませんでした。一貫しているのは術師にとってデメリットであることのみです。それが対象の破壊なのかエフェクトが使用出来なくなるのかとんでもない不運に見舞われるのかは定かではありません。人を呪わば穴二つ、この言葉は対価則の危険性を戒めた警句なのかも知れません。絢瀬さんも人を呪う時は気をつけましょうね」
「私はそんな酷いことしませんよ!」
「まあ使う使わないにしても、知っている知識や技術は多いに越したことはありません」
そう言うとリリンさんはノートを破壊してしまった。……お呪いが掛かってたはずなのに破壊出来るんだ。
「ここでいう対価は物質的なものに限りません。“今後𓏸𓏸しないことを対価にする”というような条件でも可能です。対価は術師にとってより大切であるもの、条件であればより厳しいものであるほど、対象の性質・お呪いの効力を強めます。もし“命を懸けた”お呪いなどがあればそれは絶大な効力を発揮するでしょう」
リリンさんはもう燃えて半分になってしまったノートを手に取った。
「“私はこのノートがあるかぎり今後二度と講義にこれ以外のノートは使いません”」
リリンさんはノートにお呪いをかけると、それに火を付けた。しかしさっきと違って一向にノートには火がつかない。
「私のお呪いによってノートの耐久性を強化しました。どうぞ、破壊してみてください」
貰ったノートへ思いっきり力を込めて破こうとしたが全くちぎれず、カバンのハサミを使っても全く切れない。思い立ってソラリスシンドロームで強酸を浴びせて、ようやく端っこが溶ける程度だった。
「おや、この程度の対価では流石にエフェクトには叶わないようですね」
「このように、対価を払うことで強力な成果が得られる対価則ですが、破ってしまうことによるデメリットもあります」
「……破ってしまうとどうなるんですか?」
「わかりません」
「えっ?」
「対価則に反した場合のデメリットは現在の研究で予測することはできず、毎回の状況でデメリット自体も変化するため、傾向を掴むことすら出来ませんでした。一貫しているのは術師にとってデメリットであることのみです。それが対象の破壊なのかエフェクトが使用出来なくなるのかとんでもない不運に見舞われるのかは定かではありません。人を呪わば穴二つ、この言葉は対価則の危険性を戒めた警句なのかも知れません。絢瀬さんも人を呪う時は気をつけましょうね」
「私はそんな酷いことしませんよ!」
「まあ使う使わないにしても、知っている知識や技術は多いに越したことはありません」
そう言うとリリンさんはノートを破壊してしまった。……お呪いが掛かってたはずなのに破壊出来るんだ。
「これが現在判明しているお呪いの全てです。最後まで講義を終えた絢瀬さんには修了証を上げましょう」
私の首元に“無病息災”と書かれたお守りがかけられた。
「その中に絢瀬さんの身体の一部、髪や爪などを入れておいてください。悪意あるお呪いが降りかかったとき、類感則に従ってそのお守りが身代わりになってくれます」
「何から何までありがとうございます。……あの、また分からないことあったら聞きに来てもいいですか?」
「はい、勉強熱心な学生はいつでも歓迎しますよ」
「ありがとうございます! それでは失礼します」
私の首元に“無病息災”と書かれたお守りがかけられた。
「その中に絢瀬さんの身体の一部、髪や爪などを入れておいてください。悪意あるお呪いが降りかかったとき、類感則に従ってそのお守りが身代わりになってくれます」
「何から何までありがとうございます。……あの、また分からないことあったら聞きに来てもいいですか?」
「はい、勉強熱心な学生はいつでも歓迎しますよ」
「ありがとうございます! それでは失礼します」
「“……あなたの学んだ知識と熱意が、あなた自身をお守りすることを祈っていますよ”」
リリンさんが最後に呟いたお呪いは聞こえなかった。
リリンさんが最後に呟いたお呪いは聞こえなかった。