止まない雨

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hachiohicity

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概略:

 ENの”アレクサンダー・エヴァンス”パーソナリティにて収録。

登場人物:





 今日は雨だ。6月も中旬に差し掛かる。雨足は一向に弱まらず、むしろひどくなっていく。深夜になってもそれは変わらなかった。日本の梅雨にはだいぶ慣れたつもりだが、やはりどうしても嫌いだ。あの日もこういう天気だった。時は、17年前にまで遡る。俺がオーヴァードに覚醒した日。そして――愛するものを失った日。
 俺はジムで仕事をしていた。子どもの頃から好きだった日本に来て数年。夢の一つであった日本人の女性との結婚を叶え、男の子と女の子の二人の子どもを授かった。いつものように仕事を終え、帰路に就いた。
「おかえり! パパ!」
「見て見て! パパの絵を描いたんだよ!」
「あなた、おかえりなさい」

 やはり、家族とは温かいものだ。俺は家族のためならなんだってできるし、絶対に守らなければならない。そう思っていた。だが、平穏な日々は突然崩れ去る。
 6月。予報外れの雨が降ってきた。傘を忘れた俺は、可能な限り濡れないようにしながら、急ぎ足で帰っていた。雨足は強まり、草木が吹き飛ばされている。いつもよりかかってしまったが、何とか家に着いた。が、様子がおかしい。明かりが灯っていない。悪寒が走った。ドアノブを回す。鍵がかかっていないようだ。
「おーい、帰ったぞー……」
 反応はない。そっとドアを閉め、リビングへ進んでいった。不意に雷が落ち、その光で俺の目には倒れている妻と娘の姿が映った。
「おい! しっかりしろ!」

 俺は妻を抱きかかえた。身体が冷たくなっていた。
「あなた……おかえり……なさい……」
「何があった!」
 妻は震えながら腕を上げ、指さす。その方向を見るとそこには電気を身に纏った息子の姿があった。
「……どういう……ことだ……?」
 訳が分からなかった。雷を操作するその様はまるで、子どもの頃にテレビで見たようなヒーロー、超能力者のようだった。息子は俺に気づくと、そのまま雷を纏わせた拳で俺を貫いた。
「ぐっ!」

 俺は目を覚ました。どこかの病院だった。あれは夢だったんだろうか。そう思い隣を見ると、すやすやと寝ている娘の姿が目に入った。
「はっ!」
 俺はすぐさま起きた。看護師の方が
「あ、目を覚ましたんですね」
 と落ち着いて俺に話しかける。
「ここは! 俺は何故生きている!」
「あー……そのことでしたら……」
「私から話しましょう」
 スーツに身を包んだ見知らぬ男性が部屋に入ってきて、そこで俺はこの世界の裏側について知った。
「妻は! それに息子は! どうなった!」
「それが……」
 そこで俺は、大切なものを失ったことを知らされた。妻は死に、息子は行方不明。俺は失意のどん底へと叩き落された。

「……パ……パパ……パパ―?」
はっと目を覚ます。
「ああ……寝てたか」
「もう、リビングで寝ないでっていつも言ってるのに……お風呂空いたから、入っちゃってよね」
「あ、ああ」
「パパ、なんで泣いてるの?」
「え、俺、泣いてたか?」
「もー、変な夢でも見てたんじゃない? 今日はちゃんと休んでね」
「ああ、ちょっと……昔のことを思い出してただけだ。ありがとう」
 俺は窓から外を見た。雨はまだ止まない。



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碇烏賊 短編集
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