短編07『恋の記憶、止まらないで』
『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル前』
『────通常再生』
Never donna give you up.
(──決して諦めないよ。君のことは)
Never gona let you own.
(毛の一本たりとも無駄なく、綺麗な放物線を描く髪の毛に、整い過ぎている顔)
Never gona run arund an desrt you.
(スタイルは高校生にしてトップモデルの如し、それだというのに彼女を見ても卑猥な欲情が不思議と湧かない、品のある風格)
Never gonna mke you cr.
(おまけに性格も良く、コンマ一秒でも視界に入れば誰もが振り向いてしまう)
Never gonna ay goobye.
(古見様って人類史上もっとも優れた人物だよね。アインシュタインやニュートンも古見様と比べたら小物だわ)
Never gona tell a lie an hurt yu.
(貴方を傷つけるなんて、私は絶対にしないよ)
(絶対…)
「………ック──」
「──鬱陶しいところに隠れてッ…………。あぁーー……もう…もうッ!!!!──」
「──ファアアアアアッックッッッッ────…ション。…あはは〜、くしゃみ出ちゃった。風邪かなぁ? ごめんね、カス精霊ちゃん〜──」
「──アンタも発熱したい感じ? …コントロール【F】野郎がッ………」
大きな壁を前にして、呆然と立ち尽くす山井。
暗くうつむいた表情の山井と反比例するかのように、その壁は喧しいほど綺羅びやかで、豪華だった。
反り立つ壁の名は──『東●ホテル』。
『桜丘町の金閣寺』とも言えるその建物は、光眩しい優雅なスイートホテル。
全十四階。全三百室を完備。宿泊者専用のプールやトレーニングルーム、バーが特設されており、中でもテラスラウンジは、夜景による安らぎの一時を送れる。
某米国俳優が来日時、施設内のレストランを大層気に入り七泊も延長したという、そんな逸話が残るセルリアンタワー東●ホテル。
──殺し合い下の現状に限った話では、野原ひろし・海老名菜々が逃げ込んだホテルとしても名高かった。
「ィィィッッ!!! 【F】uuuuuuuuuuuuuuuuckッッ!!!!──」
「──カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁!!!………」
ウンディーネの耳元(?)にて、恐ろしい呪詛が延々と。
取説欄の【──ウンディーネは熱に弱い】という記述をネジネジ指差すは、恋する16歳♡山井恋。
彼女の瞳は、今まさに病みきっていた。
無論、仕方ない。
彼女がストレスに沸き立つのも当然であろう。
振り返ること何十分間。
長時間に渡る追いかけ回しは、明らかに弱そうな獲物二匹を狩り逃したという徒労に終わったのだから、山井の精神的屈辱はいざ知れず。
百発零中、十中ファッキュー、コイツのせい。
──ノーコンウンディーネを戦犯と見立て、行き場のない怒りに彼女は苦しみ続けている。
これだけの抹殺力を持つウォーターカッターを武器にしながら、ヘナチョコ親父と胸だけ脂肪の塊女(──おまけに舐め犬野郎)の三匹を取り逃がした、ウンディーネ。
責任の所在として、使い魔に九割近く負担となる件については、訂正の余地もないのだが。
それよりも何よりも、
…
……
………
────ハァハァ……ッ。おい!! ウンディーネ娘!! 一つ聞くぞ〜ッ…!!
──…だーかーらー、そのキモい呼び名やめてって言ったよね〜私〜〜? はい、追加制裁。ウンディーネ、また分裂して〜…、
────グっ!! ふふ、ふふっ…!! い、いやすまんっ…!
──は? はい再度分裂〜。ウンディーネ倍増マシマシで〜…、
────年頃の女の子が……。…その…『ウンディーネ』連呼は……どうなんだよ〜〜?? …な〜。
──…?? 意味分かんないんだけど。…ほら早く!! 分裂しなさいってば、ウン…、
──ディ……………………………。………………。
────よしっ、怯んだぞ!! 今だ喰らえっ!!!!
ポーンッ
バンッ
──ぎゃっ!!??
バタリ……
………
……
…
「カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス…。あんな奴ッ、あんな奴ッ、嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ!!!!──」
「──『讎《Kill someone with kindness》』ッ!!!!! ヤな奴ッッッッ!!!!!!!!──」
「──あ、これだと私とあのクソ親父で恋愛劇《カントリーロード》始まるみたいになるじゃん。…気持ち悪ッ…。カスカスカスカスカスカスカス……」
──ひろしから、本来なら触れるのも禁止カードにすべき『ウンディーネという名前の響き』を突きつけられた上、
──ディバッグを顔面目掛けてシュートされ、山井自身が転倒してしまったことが。
ひろし逃走成功の最大要因であり、本人にとってもそれが一番の痛手だった──。
「…本気でッ…、カス…………」
ぶつけようのない腹立たしさと、
痛む膝の擦り傷、鼻先。
そして水の精霊をもう正式名称で呼ぶことのできないもどかしさ。
あの最悪なリーマン共は、今、このホテルの何回の、どの部屋に逃げ込んだというのだろう。
疲れた身体を癒やしながら、「…それにしても機転効きましたね〜ひろしさん」→「ウンディーネは流石にねぇよな〜(笑)」等と雑談に花咲かせてると想像したら、ドス黒い反吐が出そうになる。
渋谷横丁をズタズタにした分の報いというのか、山井のプライドはズッタズタの切り裂かれ放題。
「……もう死ねよっ………。もう……」
ウンディーネの群れが必死に「こっち! 左っ!! ⇐!!」と、『左マーク』に変化し主をホテルへ誘導するのを傍目に、
山井はとうとう諦めて、この場を去って行く。
──もはや面白いくらい程ズッタッズッタ《八つ当たり》にされた、変わり果てた姿の自転車が、寂しく転がった。
「…………………古見さん…」
タップリとお礼参りをしたい復讐心があるのだが、『本来の目的』から考えればそんな怒りなど些細な事。
山井の目的はまず一番に古見さんと会うことであり、古見さんを優勝《皆殺し》させることであり、古見さんと幸せな生還を描く事だ。
ホテルでチマチマ文字通りの虱潰しをしてる暇があったら、目的遂行をしなければ、と。
自分に言い聞かせながら去る山井の足取りは、重く鈍かった。
「……今会いに行くからね…。待っててね、古見さん………………」
「────ね、ねえ!! きみっ!!!」
「………………ぁ?」
◆
短編08『ホワイトアウト・メモリー』
『時刻:AM.04:11/場所:東●ホテル周辺街』
『────『←』巻き戻し/話は6分前へと遡る。』
軍資金を借りる為には何か高級な私物を担保にしなければならない。
スマホを動かすには充電をしなければならない。
生物は、食わなきゃ生きてゆけない。
人間界、異世界、魔界問わず。この世に存在するありとあらゆる物は、エネルギー源無くして動く事は叶わない。
『永久機関』が絶対に誕生しない訳も、その通り。
物を動かすには消費せざるを得ないエネルギーが必須だった。
ほとんど薄れ消えた記憶の中で、鮮明に憶えている過去が、デデルには一つある。
それは確か二十年ほど前。当時の主による『家を豪邸にして、親父の安月給も十倍にして、あとプレステとドリキャスを出せ』という欲望まみれの申出をされた事だ。
如何にも子供じみたバカな願いではあったが、魔力のその消費量たるやかわいいものではなく。
流石の魔人とて心労著しい労働であったという。
ただ、要望通りその願いは忠実に叶えられた。
そして魔人もまた、姿を保ったまま《透明化する事なく》事を終えている。
何故なら、その時の主が、莫大な願いを実現できる程の魔力を蓄えていたから。
代償に見合った対価を支払えた為、デデルは何の支障もなく、願いの遂行に至れたのである。
──即ち、主が何の魔力もないただの変人娘という現在。
──酷使に重なる酷使で、デデルの身体が徐々に消滅しかかっている《魔力消耗》のも必然であった。
「うっ…うぅ……うわぁあああ〜〜〜〜ん!!!」
「…………」
「ごべんっ…、ごめんなざい〜っ!! わたしが…お願いを無駄遣いするせいで……魔人さんこんな事に………。知らなかったんだよ〜〜〜っ!!!!」
「…そう自分を責めないでください、…と言いたい所なんですがね。…流石に『バリアー↑にミステリーサークル書いて』とおほざきになられた時は………正直…」
「ごめん〜ごめんなさい〜〜〜消えないでよぉお〜〜〜!! うへぇ〜〜〜〜〜んんん!!! …魔人さんが消えちゃったら…わたしクラスで自慢できなくなるよぉ〜〜〜〜!!!!」
「…結局自分のことかいなっ!!!」
ガラス張りの高層ビル群が頭上を覆い、無数の広告モニターが無音の映像を流し続けている夜。
東京メトロ・副都心線が駆け抜ける宮益坂方面、TSUTAYA前にて、デデル並びにおさげの中学生・マミとその相棒(?)・うまるらは練り歩く。
涙ながらに自責を続けるマミと、西洋風な服装のデデル。一行の姿は、まるで渋谷ハロウィンパーティー後、酔いしどれながら帰路につくようであった。
号泣しながら抱きつくおさげの主には、デデルも大変歩き辛そうであったが、
──彼女よりも気がかりだった存在は──背負うデイバッグ内の『ソイツ』。
“三人は練り歩く”──とは、表現に語弊があった。
三人の内一人。珍妙でまん丸な姿のソイツは、ポ~~ンとポテイトを投げては──、
「あんむっ。バリバリ……──」
「──まぁデデルが心配なのは分かるけどさ〜マミちゃん。その魔力(?)ってのがあればどうにかなるんだから、あんま気にしなくていんじゃな〜い? あんむっ、バリバリ……」
──口に入れる。
二頭身のソイツ・うまるはデイバッグから顔を出し、コーラとポテイト袋を両手に実に寛ぐ様子だった。
──無論、そのポテイトはデデルによって生み出された願いの産物。
──そしてまた無論、一行がネカフェを後にしたのも、『お兄ちゃんや海老名ちゃん達を探したいから(建前)(──本音は、無人で夜の渋谷街とかエモイから散歩したい)』という、うまるの頼みから来た物である。
「…………………」
お気楽・能天気・グータラリン。
小動物ほどの重さと比例して中身もスッカラカンな、デイバッグ内のモルモットには、冷静なデデルもやや苛立ちがある様子だった。
「バリバリ。あ、これ食べる? 少しでも魔力の足しになれば──…、」
「…なる訳ないだろ、土間の小娘」
「ど、土間………っ。ねえ魔人怒ってるの……? うまるだってさ〜こうなると知ってたら願いポンポン言ってなかったてぇ〜〜!!」
「ぐすっ…うぐ………。そうだよ〜、うまるちゃんが悪いんだ全部〜〜……!! わたしは十個、うまるちゃんは二十個!! どっちが悪いかといったらうまるちゃんじゃん〜〜〜っ!!!」
「うぅ〜…!! はいはいどっちもトントンに悪いよ!! 五十歩百歩だよ!!────…と、魔人は言いたいようで……」
「ほう。頭が働くようだな土間。…それにしても貴様はなんなんだ? 人面ハムスターか? 少なくとも人間ではない様だが。…貴様を喰らわば少しは魔力補給にはなりそうだな、土間」
「…え゙っ?! それマジな感じで言ってるの………?!」
「……くだらん。冗談に決まってるだろ。貴様の肉で腹を壊す私の身にもなってみろ、土間」
「もう〜〜うまるが腐肉前提で言うなァ〜!!!」
「うえ〜〜ん……、ダメだよぉ〜魔人さん〜〜! 宇宙人の可食部は内蔵の汁のみ、って月刊マーに書いてたんだよ〜! 食べたら病気になるって〜!! 土間るちゃんは宇宙人なんだから……」
「だからマスター。こんなチンケな土間、食べる勇気なんて私には到底ありませんよ」
「……うっへへ〜〜え〜〜ん…土間ぁあ〜〜〜〜…」
「おたくらさっきから土間って言いたいだけでしょっ!!! …あんむ、バリバリ……」
ポテチカスがデデルの首元へボロボロと溢れていく。
ただでさえ彼の身体は限界に近いというのに、ストレスが溜まる一方。──マミから「あっストップ!! ストップ!」と静止されなければ、無意識のうちに『指パッチン』を鳴らす寸前であった。
──本当に何なんだ、この生物は。こんな見た目の生物、今まで見たこともない────と。
ふと目を閉じて髪をかき上げるデデル。
古代エジプト時代から生き永らえし百戦錬磨との魔人でも、流石にこの珍妙な土間には頭を悩ました様子だった。
「…………。…くっ」
「あ、そうだ! エイリアン食といえばメン・イン・ブラック3だけどさ〜!! 魔人さん、缶コーヒーのボスの宇宙人ジョーンズって知ってる???」
「うわ何マミちゃん…。急に元気だなぁ〜〜…」
「あのCMはさ〜、宇宙人が地球の調査に来たんだけど、映画見て人間になりすましたからトミー・リー・ジョーンズそっくりって話でね!! …もしかしたら、うまるちゃんもソレなんじゃないかな〜〜ってわたし思うんだよねえ………っ!」
「いや『チラッ→ニヤリ…』じゃないわマミちゃん!! …確かにうまるは普通の人間モードにはなれるけども〜…けどもだ──…、」
────…いや待て。───
───本当に、『今まで』このような生物を見たことはなかったか?───
────……私は…………っ?───
「…うッ…………!!」
「「え……?!」」
うまるとマミで下らぬ問答が繰り広げられた折、デデルへ不意に頭痛が押し寄せて来る。
その頭痛は脳が直接激しく揺れ動いたかのような。兎に角、脳内から響き渡る鈍い痛みであった。
「…うぅ、くっ…………!!」
「え?! ちょ、ちょっと魔人さん!!」
「だ、大丈夫!??」
「ぐうッ……………………!!!」
頭を抱えて膝を地面に着く、デデルの唐突な体調不良にマミらは心配の声をあげる。
電撃が走ったかのような頭の痛み。そして滲む脂汗。
二人があたふた心配する傍ら、彼女らを無視してデデルはひたすらに、『記憶の回路』に藻掻き続ける。
デデルは分かっていた。
────頭痛の正体は、『既視感《デジャヴ》』。
魔人。
彼には記憶が無い。
記憶喪失という現象は、外傷的、または精神的激しいショックから引き起こされる病であるが、彼が記憶を失った起因についてはいざ知らず。
自分がランプの魔人であることという実績、経歴までは残っているものの、ある『一部分』だけが抜けている。
その一部分とはつい直近。──と言うよりも、ここ『一年近く』の記憶がゴッソリと無くなっていたのだ。
誰かに呼び出された所までは記憶に残っている。
モクモクと煙が立ち込める中、“さて、今度のマスターはどんな強欲者か………”と諦めた顔つきで、
『我が魂を呼び起こし者よ──』『魔神の掟に乗っ取り願いを叶えてしんぜよう──』『さぁマスター望みを…──』とお決まりの言葉を口にする。
そこまでは憶えているのだが、────以降。『誰』に呼び出され、その後一年も『何を』していたのかは全くの靄がかかっていた。
巡る記憶に、鎖が掛けられた脳を呼び覚ます『土間るちゃん』という名の鍵。
「(……………思い出せない。何もかも……………)」
「(だが、確かに『いた』。……………私にはうまるという生物の様な奴を、見た記憶があった………………)」
「(何故だが、『忘れてはいけない筈の』………。得体の知れぬ者が、頭の片隅で揺れ続けている…………ッ)」
モノクロで断片的、乱れの多いものであったが、それでも『記憶の映像』が、サイレントながら流れていく。
ソイツは、【二頭身】で────
“じゃあ〜〜……。一生分のお菓子とかは…‥……?”
ソイツは、【減らず口】ばかりで────
“やりたくない仕事はやらなくてもいい。あたしが伝えたいのはそれだけすかね……ふふっ♪”
ソイツは、なんの役にも立たず【駄目】なやつで────
“す、さ、さーせんしゃしたぁあ!!! あ、あたしうっかり壊しちゃって…ぇっ…………”
──それでも、ソイツは大切な存在だった気がして──────────。
………
……
…
『…まったく。貴方一人で何ができるというのですか』
“…え……えっ………?!”
『ここは私にお任せ下さい。──』
『──行きますよ。…マス─────……、』
…
……
………
「(…ター────────………………)」
「…人さん……!! 魔人さんしっかり〜!!!」
「え、ええ、え、と、とりあえず水!! 水飲むっ?!」
「……………」
巡る。巡る、存在しない筈『だった』記憶。
頭を抑えてから三分ほど経過。
この時には既に、けたたましかった頭痛は緩やかな波打ちに収まっている。
また同時に、脳を駆け巡ったあの無声映像《記憶》の続きはもう霧中状態。
二頭身の『彼女』の姿は、完全に消え失せていた。
結局、デデルは失っていた記憶を取り戻すことは出来なかった。
いくらテープで補修しようと努力しても、これ以上頭は稼働しそうにない。
彗星の如く過ぎ去っていった、『走馬灯』に似た何かはもう見つからず。
通り過ぎた記憶の痕を舐めるしか今はまだ出来そうにない。
彼は重たそうに目をゆっくり開き、そして乱れた呼吸をフゥ…と整え出す。
「…………………。…申し訳ありません、マスター」
「え?! だ、大丈夫……?」
「ええ。……それに土間の小娘も、申し訳ない。…心配は無用だ」
「…え、うん……。…ダイジョブならいんだけどさ………」
やや涙ぐむマミの肩へ、優しく手をおいたデデルは、ゆっくりと前を向く。
やがて、また彼はゆっくり立ち上がると膝の汚れを祓い、汗を拭いて乱れた髪を整える。
ふと、懐からひび割れた自身のランプを取り出すと、何を思うか、じっとただ見つめた。
ただ、じっと。
失いかけていた記憶の名残惜しさに、魔人も思う節があるのだろう。
頭に引っ掛かる取りづらい何かに、きっと心中もやもやで一杯だった筈だ。
だが、記憶と同時に自身の身体も薄れゆく現在。
「……さて。マスター、そして土間」
「え、何…??」 「…苗字で呼ぶなしぃ〜〜………」
「自意識過剰な事を申すようでしたらお恥ずかしいですが、…貴方がたは私が必要不可欠な存在。…そういうわけですよね?」
「…そ、そりゃそうだけども……」
「いやそうだよ!! 今殺し合い中だよ〜っ?!! 魔人いなくなったらうまる達ゲームオーバーだよ!!──」
「──………それで、何が言いたいの?」
「左様ですか。そうとなれば少し名案が思い付きましてね。『魔力』もまた、私にとって必要不可欠な物。そこでですよ。──」
魔人・デデルは、過去ではなく『今』。
取り敢えずは、『今ある目の前』を見据える事とした。
「──マスター、少しばかり私の我儘に付き合ってもらいたいです」
「え???」
デデルの十数メートルほど前にて浮かぶ、『魔力の源』八体。
──トボトボと後ろ姿を見せる少女・山井恋を指し、デデルはマスターの肩へ手を置く。
◆
追憶。
私が飲んだ、水の精霊は────────、
シチューでした──────。
短編09『スマイル・アンド・ティアーズ!』
『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル周辺街』
『────通常再生』
「はっ、はっ、はっ、」
「もうコラーってばぁ〜! あはは〜!!」
1405号室。スイートルーム。
犬が大好きな魔術師・マルシルは突然の訪問者であるマロに随分とお戯れな様子であった。
マロのほっぺをモ〜チモチと引っ張ったり、大型犬なその身体を胸一杯に抱き締めたり。
事態が事態である事を気にしていないのか──と聞かれたら、恐らくマルシルは緊迫な現状下を忘れているのだろう。
同行のチルチャック曰く、『賢ぶってるけどヌけてるヤツ』との彼女らしい、実に平和なひと時を送っていた。
【モンスターよもや話】
…………………
そんなマルシルさんであるが、かつてウンディーネに襲われ、体力と共に『魔力』を失った際、機転の効いた回復方法を行使した事がある。
それは他でもない。──ウンディーネを飲む事だ。
仇をもって薬となす。
精霊は魔力を捕食して生きる生物の為、魔力が豊富に含まれていることは間違いない、と。
ナマリら他パーティ同行者に苦言を呈される程の策であったが、もう色々な意味で後が無かったマルシルらは『水先案内人捕食作戦』を決行。
鍋に閉じ込め、煮沸(ウンディーネは熱に弱い)。
ジャガイモ等と共に煮て、味を整えた『ウンディーネシチュー』の御賞味結果ときたら、
──それはそれは暖かな優しい味であり、────そしてマルシルの魔力も僅かながら回復に至った。
魔物食とは、現代社会で日常生活を送る一般人からしたら、昆虫食やゲテモノ食いに値するのだろうか。
兎に角、マルシル一行の食生活は常識はずれなものであり、ナマリ等がやや引くのも無理はなかったが、結果的には。
──結果的にはサバイバル精神が活きた物と言えるだろう。
…………………
…………
……
…
「はっ、はっ」
「かわいいんだから〜…っ!! もう!」
とどのつまりは、再演、か。
彼女が泊まるホテルにて、迷宮探窟家狩りの精霊が水飛沫を撒き散らしていることなど。
今は、まだマルシルは知る由もない様子である。
ドンッ
「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」
「…え!? うわっビックリした?!!!」
そんな彼女の背後にて、額を真っ赤に染めた女子生徒が何処からともなく降り落ちて来た────。
………
……
…
◆
笑顔にも種類がある。
「…ふ〜〜ん。つまりその水の精霊さえ手に入ればどうにかなるんだね?」
「その通りだ土間。…とは言っても水先案内人《ウンディーネ》の魔力は微々たるものであるが。……まぁ二、三体ほど確保できればランプを満たすことができるだろう」
「……二、三体…ねぇ…………。…ところでさぁ魔人〜…」
「なんだ」
魔人デデルと暇人うまるに陰から見守られる【マスター】新庄マミ。
彼女の表情はパッパラパーな程にスマイル。不安や恐怖といった不純物が一切ない、心からの笑みであった。
そんなマミと対面するは、負けじと笑顔の山井恋。
──光と闇の対極という訳か。山井の一目で分かる作り笑いは、笑顔では隠しきれないドス黒い邪悪さが漂っており、
「……マミちゃんかなりピンチじゃないっ…?! …なんで一人で行かせたのっ!!??」
「……」
────マミの周囲一帯では八体のウンディーネが、今にも吹き出しそうな位にウォーターカッターを構えている。
「主の見せ場を作るのもまた使い魔の役目」
「ハァっ!!?」
「言わばマスターの力量の見せ所だな。これは」
ギギチチ……っ。
放たれる直前の弓矢のように、発射寸前を維持するウンディーネ達。邪悪の笑顔な山井。
取り囲まれたマミに、絶体絶命のマミ。
そして、この状況を全く理解していないのか、「あはは〜」と笑顔が咲き乱れるマミ。──junior high school girl。
魔力をそこそこに蓄えているウンディーネ狙いで、我が主・マミへ「あの水の精霊所持者と交渉してくれ」と頼み込んだのは数分前のこと。
何故、デデルは自分から表立って交渉しにいかないのか──。
そして何故、よりにもよって『こんな子』に無茶な交渉代理人の白羽を立てたのか──。
魔人はその意図を語る。
「…何故……か。私がわざわざ出る幕でもない、それだけだ。それに、半透明かつ、貴様らの観点からしたら異様な服装と言える私よりも、ごく平凡なマスターの方が相手も警戒しないだろう」
「……い、いやそりゃそうだけどもさぁ〜っ!!」
「そしてなによりも、マスターは…『歩』だ。土間の小娘」
「え? 『ふ』って……???」
「どんな優秀な棋士も、第一手は必ず歩。歩で相手の実力を見るものだろう。…となると、うってつけはマスターと言える。……奴には願いを酷使した贖罪もあるからな…」
「あ、あーー…。歩って歩兵のことね〜。将棋の………。──」
「──マミちゃんの扱い…歩兵レベル……………」
「…ふふっ。……あ、失礼。私とした事がつい……」
僅かながらだが、魔人からも笑みが漏れた瞬間だった。
嘲笑、満面の笑み、暗黒笑み、──笑顔の絶えないウンディーネの群れ。
四者四様、四方八方から笑顔が咲き乱れるホテル前にて、マミの頭は花畑。
返答によっては、花大盛りな頭のマミも血薔薇化することは言うまでもなくだが、果たしてこの危機的状況、彼女はどう収めれるだろうか。
何十本にもなる視線が痛いくらいに突き刺される中、マミはへらへら口を開く。
ギギギギッ……
「………えーと。それで〜山井ちゃん…だよね?」
「そだよー? マミちゃーん。…ついさっき名乗ったばっかなのに確認いちいち必要かなぁー?」
「わたしさ!! …実はオカルトとかUFOに関しては人並み以上に深堀りしててさ……! …自分で言うのもアレだけども…、結構やばい領域に足踏み込んじゃったりしてるんだよね……!! フフフ…!」
「なーに? それは」
「だからさ、ほら見てよ!! このUFOの破片!!」
ゴソゴソ…
「………で、なーに?」
「これは月刊マーの付録にあった奴なんだけど…すごいんだよ!! あのロズウェル事件で極秘流出したもので、なんと重さがないんだって! 0gらしいんだよ!! この世の物じゃないからさ!!」
「………ごめんねー、マミちゃん──」
「──言いたいことそれじゃないよねー? 絶対」
「え?」
「もっとな〜んかさー、私に要件あるから話しかけてきたんでしょ? そこからまず話そうよ〜〜。──」
「────ねぇっ、…マミちゃあぁ〜ん?」
「あ、うん。ゴメン…」
対面相手が自分より年下で、かつおつむの弱そうな女子である為か、お姉さん的態度で優し〜く宥める山井。
勿論、彼女に優しさなんかこれっぽっちも無い。
マミへの思いやりの精神があろうものなら、出会い頭、即「はい水の精霊、構えて」と敵対心を見せつけないものである。
とはいえ、そんなギチギチ…と鳴り響く水の槍達も、後に偏差値30台の帝辺高校に通うマミには知らぬ存ぜぬか。
頭上のウンディーネ達を見渡した後、マミは例のUFOの破片だかを差し出した。
「それで〜〜山井ちゃんにお願いなんだけど〜…。…これあげるっ!!」
「…だからどーゆーことなのかな?」
「だから交換ってことで!! このウンディーネさんを…一つか二つ…私にくれないかな?」
「…………ん〜? なーにそれ?」
「本当はこのUFOの破片……わたしの宝物で……。将来的にはなんでも鑑定団に出したいってくらい…大切なものなんだけどさ…」
──“結局手放すんかいっ!!”
と、うまると山井で心中ツッコミがハモる。
「今はもうそれどころじゃないんだ…。ウンディーネさんが何よりも必要で、欲しい人がいるから……。…その人の為にっ……。お願い山井ちゃんっ!! トレードってことでお願いだよ〜っ!!」
「……」
「ねえ、どうにかならない………?」
「やばー。やば谷園」
消えかけのデデルへの思い、そして自分が彼の命綱となってる責任感からか。
マミの目からも水先案内人《涙》が一粒零れ落ちる。──その涙には恐怖も緊張感も含まれていない。どうやら未だ自分が殺される寸前だということを理解していないようだった。
ただ、形はどうあれ年下の少女の涙は、相手の感情を揺さぶる効果がある。
涙を堪えながらもフルフル震えるマミへ、山井はどう心が揺れ動いたか。
彼女は笑みを維持したままそのアンサーを突きつけた。
「嫌」
「えっ!? えぇ………」
──無論、邪悪が張り付いたかのようなその笑みで、である。
「ごめんねーマミちゃーん。マミちゃんの想いは伝わるけどさぁーー、私UFO興味ないしいらないって感じかなー? …いらないものを押し付けられたらさ、どんな気持ちになるか、考えれるかな?」
「で、でもっ!! わ、わたし本当にウンディーネさんが──…、」
「うん、分かるよ。でもいらないしあげたくない。…ほら、あんまり無理しないでよマミちゃーん」
「え…?」
「マミちゃんってさー、アレでしょ? 本当は誰かに言わされてるんだよねー? 誰だかワルイ大人にさー、『それ言ってこい』って操り人形させられてるだけなんでしょ? あはは〜」
「……ぎ、ぎくっ…。そ、そんなことは──…、」
「うわ、『ギクッ』って口に出す人初めて見たし…。もうーマミちゃんったらバレバレなんだから〜〜。ね? だからマミちゃんがいくら頑張ろうと私は譲らない。…バックの人じゃないと話にならないからねーー」
「…や、山井ちゃん〜〜。お願いだからぁ〜──…、」
「ねぇ────? バックの誰かさーーん。どうせ近くにいるんでしょー?」
「………バレてるし魔人」 「………………………やれやれだな」
『歩で相手の実力を図った、その結果』。
──敵意剥き出しのウンディーネは、思ったより只者ではなかったこと。
────そして、我がマスターが予想以上に使えない事が判明となった。
デデルは軽く頭を抱えた。
そしてうまるも蛇に睨まれたかのような、ズッシリと重たい物を抱えさせられた。
「…さて。マスターがお困りとあらば……仕方ない。行くぞ、土間の娘」
「…うへ…マジ〜…?」
歩兵が使い物にならなかった今、ならば大将直々にお出ましと。
ビル陰でモニタリングしていたデデルはMPを消費し、しょんぼり気味のマミの隣へテレポート。
────パッ
「うわっ!!! ………………は?」 「あ!! 魔人さん〜…!!」
「申し訳ありません。…山井さん…でしたよね? うちのマスターは会話が下手なもので、接していてさぞ大変であったでしょう」
「………え。何…それ」 「……か、会話下手じゃないよっ!!!」
「ここからは出来の悪い傀儡人形のパペッティア────私、デデルが代わりますので、どうか説明を聞いていただきたいです」
「……ふーーん。とりまさ〜アンタがマミちゃんの保護者ってわけねー。──」
「──てゆうか、何か…透けてない? アンタ………。幽霊…?」
「ええ。気になりますか? …私のこの姿。……こちらも時間が無いのでね、矢継ぎ早説明に入りますよ」
「あっそう」
異様な姿の来訪者を前に、流石に山井も『喜怒哀楽』の『楽』に表情が戻る。
魔力消費故に余計透過度が増したデデル。
彼による、交渉part2が始まりを見せた。
落ち着いた素振りで魔人が対話する中、舞台から降ろされたマミは何だか不満げな様子で。
デイバッグのうまるへひっそり語りかける。
「(……なんかわたしの扱い皆ひどくないっ?!)」──と、ヒソヒソ。
──対してうまるの、「(…どんまい!)」と何のフォローにもなっていないヒソヒソ返しには、マミも地団駄を踏み鳴らしたが、ポンコツ少女にはこれ以降一切構わず。
ウンディーネの鋭先に怯えまくる中、うまるは戦況を黙って見守っていた。
「このランプ、分かりますか?」
「……え? いや知らないし。それをなんでも鑑定団に依頼するわけー?」
「いえ精神鑑定に出す予定はマスターと土間の娘だけです。それはともかく、」
「…って、おいっ!!」 「ひどくないもうっ?!」
「このランプは私ら魔人にとっては言わば心臓。…魔力を貯める必需品であり、掛け替えのない品物なのです。……ええ分かりますよ。『自称魔人とかコイツあたおか?』と御思いでしょう。ただ、半透明なこの私やウンディーネという非科学的な存在を前にした貴方なら、どうか鵜呑みにして聞いて頂きたいです」
「………………あーうん。思春のヤツのお陰でこーゆー《厨二臭い》の慣れてるからそこんとこオーケー」
「…私が消えかかっている理由もこのランプが全て。圧倒的魔力不足が原因なのです」
「………」
「普通の主ならば魔力で満たせるこのランプ内も……。見て下さい、このスッカラカンぶりを。…主の友達である『超能力者』の魔力を遠隔で利用してみたのですが…もはやこの有り様。…今の私には足りないのです、魔力が……」
「……………」
「……そこで、貴方の力を借りたい…という発想に至ったのです。山井さん」
「……代用になるってことなの? 私の可愛いウン…水の精霊達がさー、ランプの魔力に」
「…代用どころか半端なく助かりますね。勿論、全部とは言いません。一、二体でもう十分。……マスターは先程『わたしが話せば分かるよ〜!』と私に言ったのですがね、どうでしょう。──」
ギギギギッ…
ギギギギッ……
「──話せば、分かりましたか? 山井さん」
「…………」
冷たい水が恋しい灼熱夏の夜。
とは言っても殺意剥き出しに先端を向ける水先案内人達には、心底ヒヤヒヤするうまるであったが、緊張を感じるのは彼女のみではない。
綺羅びやかなホテル玄関前、いや東●ホテルがシンボルマークの周囲。この周囲一帯が、確かに緊張感で包まれていた。
ツララのようにいつ落ちてくるか分からないウンディーネの刃。
生と死の狭間が生じた街角。
緊張感がボルテージに昇り詰める中、未だほげぇ〜としているのはマスター・新庄のみ。
そんな現状となっている。
「……ご、ごくりっ」 「…」
「…………」
「貴方にデメリットがあるという話ではないと思いますが…、如何に? 山井さん」
「……」
デデルの発言も理には適っている。
言わば砂漠に水をやるのと同じで、魔人と自称する阿呆共にウンディーネを渡しても特に不都合は無し。
それどころか、彼らのスタンスは基本【対主催】である為、ウンディーネを用いて山井に危害が加わる心配も無い。
たった一、二体。それっぽっちをくれてやるだけで満足なのだから、断る理由は存在しなかった。
少しの沈黙の間。──山井が思考整理の末、考えを導き出した時──。
彼女はやれやれと仕方なさそうに、ニコリと微笑んだ。
「ふーーん。…まぁ確かにね。よく話はわかんなかったけどもー、アンタも色々大変なんでしょ? そうならー、…ま、仕方ないか」
「………ほう」
山井が選んだ決断。
それは『承諾』であった。
近くにいたウンディーネ二体を、ホイホイ〜と指で引き寄せ、山井は口角を上げる。
「はい、水の精霊。困ったことがあったらお互い様だからねー。遠慮なく使っていいよ〜」
「…………」
警戒心を解き、デデルの元へとゆったり近づいていくウンディーネ二体。
思いの外あっさりと引き渡された魔力の元であるが、この味っ気のないあっさりさに魔人はどう感じたか。
「…なんか、結果オーライ?」→「だね!! さすがわたしの魔人だよ〜!!」と平凡女子二人は胸を撫で下ろす中、
山井はぶりっ子というくらいに満面の笑みを見せた。
「…さて、マスターに土間の娘。……やれやれですね」
「ほーんと……。一時はどうなるかと思ったよ〜〜〜」 「まぁよかったじゃんこれで〜」
「……」
「え。何それカワイ〜!! ねえ魔人…だっけ? アンタの抱えてるその子、…何これハムスター? チョーかわいんだけどーー!!」
「えっ。うまるのこと〜…??」
「…………」
「えーー、ちょっと魔人〜無視ぃ〜? 何それうけるー。…ともかく、その子…うまるちゃん?? あんまりにキュートだからさ、私もサービスしよっかな〜…みたいな?」
「え?」 「へ??」
主《山井恋》の言葉に、その意図を汲み取ってかウンディーネ八体全てが動きを取る。
「二体とは言わず全部あげちゃう! 出血大サービスだからね〜??」
「…え??」
山井の笑み。
可愛らしく純朴なその微笑みは、
「……………さて、行きますよ、土間とマスター。あぁ、あと山井さん………いや、もう敬語すらも煩わしい……。」
常に、
「────今度こそ確実に殺ってよ、水の精霊。──」
────真っ黒で邪悪なスマイルである。
「おい山井。このお礼は後でタップリ支払わさせて頂く。…人間の…たかが小娘がっ…………」
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「ぎゃっ?!!」 「わっ!!!?」
分裂。
そして螺旋のように迫りくるウォーターカッターの十六奏。
躱しようのない、切断の雨あられ。
普段のデデルならばたかが魔物の攻撃如き、赤子の手を捻るよりも簡単に対処できるものだが、生憎、魔力の枯渇ぶりが激しい今。
テレポートもバリアーも無駄遣いできなくなった今現在、マミを無理やり抱えた彼は手も足も出せない…──否。手足をフル活用するしかない。
「ほーら!! もっと速く走れ、走れって☆ フォレスト・ガンプーー!!」
「ぐぅっ…」
「な、なななにこれえええええ!!!!!」 「びええええええええぇえええ!!!!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
光の彼方──ホテル内へ逃げ込むデデル一行。
彼らを見送る山井には、今度こそ正真正銘の微笑みが表れていた。
「あははっ☆」
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最終更新:2025年06月02日 13:38