血染めのライダーパンチ ◆gry038wOvE



 仮面ライダー2号とタイガーロイドの戦いは続く。
 一対一でありながら、仮面ライダー2号──一文字隼人の分は悪かった。
 鎧騎士戦の身体の傷は癒えない。この傷を持ちながら、2号は接近戦を強いられる。
 そのうえ、眼前の虎は背中に大砲を背負い、遠距離からの攻撃にも対応している。


(さて……どうやってやるか……)


 燃え滾る炎の中においても、ライダーは冷静に眼前の敵の分析を始める。
 三影は無差別な砲撃はしてこないだろう。おそらく、確実に狙いを定めてくる。
 砲台を発射する際、少し前に屈んで頭を垂れ、やや視界を崩して隙を生む。それがタイガーロイドの弱点だ。
 無論、それは常人にとっては不十分な、一瞬の隙であって、ライダーだからこそ隙と思うだけの余裕があるだけの話である。
 タイガーロイドもそれを重々理解しているため、これらの行動は隙が生まれないよう、最短で行う。


(……なんだかんだで、実戦経験なら俺の方が上だ。負ける気はしない……)


 本来、旧型の改造人間である彼がBADANとやり合うには、圧倒的な性能の差が存在する。
 それを埋めてきたのは、経験と、それによる自信だ。それはこの瞬間も確かに彼の胸に抱えられていた。
 どの位置ならば避けやすいか、どう跳べば狙い難いか。
 考えずとも、それは身体が覚えている。これ以上、分析に時間を割くのはやめることにした。
 ブルース・リー曰く、「考えるな、感じろ」だ。

 ライダーが右方に跳ぶと同時に、タイガーロイドは一発発射する。
 更にそれを避けて前方に跳んだライダーが、確かに一歩、タイガーロイドへと近付いた。
 木に当たった大砲は、一瞬でそれを木っ端微塵に吹き飛ばした。その残骸が炎の雨を降らす。
 ライダーの背中にその雨がぶつかるも、彼は全く意に介さなかった。


(一歩一歩確かに……だ。あいつに近付くまで、一度だってあの弾に当たれない。そのうえ、近付くにつれ避け難いときた)


 時には一度の砲撃に二歩、三歩と近付く。
 それらの動作も、次の動作も僅か一瞬で終わる。
 後ろには退けない。後方では炎がメラメラと上がっているからだ。
 前に、前に、確かに、確かに。
 力の二号の戦法としては、泥臭く、地味ではあるが、それは確かながら一定のスピードとリズム感を持っていった。
 まるで、最初から決まった動きを演じているかのように、二人の戦いは素早かった。


(一文字隼人……ただ近付いてライダーパンチやライダーキックを狙うだけか……?)


 タイガーロイドもまた、思考する。
 あまりにも的確に近付いてくるライダーを前に、タイガーロイドの身体は緊張する。
 ライダーキックをするに充分な間隔が、そろそろ埋まる。その前に仕留めればそれに越したことはないが、彼としては「ライダーキック」を繰り出してくれても一向に構わなかった。
 あの技は身動きがとり辛い上空からの技であるがゆえ、角度さえ見誤らなければ簡単に砲台で仕留められる。
 むしろ、地上の敵より撃ちやすいのである。


ドゴンッ!


 もう一度の砲撃を間一髪避け、ライダーとタイガーロイドの間隔は非常に狭いものになっていた。
 成人男子の歩幅にして、おそらく十歩前後というところ。──それは、ライダーキックを放てる、限界の短さだ。
 短距離からの攻撃の方が隙は生まれない。
 ライダーはニヤリと笑い、叫んだ。


「ライダァァァァァアキィィィィック!!」


 タイガーロイドは、反射的に上空を向く。
 上空に跳んだライダーに照準を合わせ、クレー射撃のように狙い打つためであった。
 彼ならば、ライダーが落ちるまでに最大で二度は砲弾を撃ち込むこともできる。
 それが成功すれば、落ちてくるのはただの部品──人間で言うところの死体だ。


「……と見せかけて、ライダーパァァァァンチ!!」


 と、その瞬間、タイガーロイドの読みを無視して、虚空を見上げていたタイガーロイドの顔面に紅蓮の拳がぶち当たる。
 一切の回避行動をとらず、受身もしなかったタイガーロイドの顔面を強すぎる一撃が命中した。
 タイガーロイドは吐血しながら、後方に吹き飛び倒れた。
 一文字は最初からライダーキックなどするつもりはなかったのだ。わざわざ必殺技の名前を叫ぶライダーの性を、逆手に取ったのである。


「……引っ掛かったな、バカめ!」

「おのれ……!」


 やや卑怯な手ではあるが、効果は抜群だった。
 喧嘩や戦闘の際、顔は殴られてはならない弱点となる部位である。
 それを、無防備な形にしたタイガーロイドが血を吐く目に遭うのは当然ともいえる。


 タイガーロイドはすぐに起き上がり、怒りのままに砲台をライダーへと向ける。
 あまりにも短い距離と、素早すぎる反撃のせいで、ライダーに避ける暇などない。
 絶対に回避ができない状況であるにも関わらず、ライダーは焦る様子を見せなかった。


「……死ねぇっ!」


 この近距離で砲撃を食らえばひとたまりもない。
 ましてや、避けることなど絶対に不可能だ。
 真っ直ぐに近付いてくる砲丸。


 ドゴォォォォンッッ!!


 ライダーとタイガーロイドの身体は、いずれも後方に吹き飛んだ。当然である。
 しかし、それによって倒れ付したのは肉塊ではない。
 ライダーの身体の状態は思ったほど酷くはなかった。


 ──ただ一つ、手袋を本当の血に染めた左腕を除いて。


「痛ぇなちくしょう……。流石に痛ぇ」


 タイガーロイドの砲弾はライダーの身体に衝突する前に、一文字の左腕が放ったライダーパンチによって、跳ね返されたのである。
 直後に砲弾は空中で暴発し、双方の身体は吹き飛んだ。ライダーは左腕に、タイガーロイドはその全身に傷を負う。跳ね返された砲弾は、位置的にはタイガーロイドのまん前で爆発したのである。
 タイガーロイドの前面が火傷で焦げて、黒色に染まっていた。煙の臭いが彼にはどれほど不愉快だっただろう。
 しかし、口を聞くにも顔の火傷が酷く、口もろくにきけなかった。腕の力も抜け、立ち上がり反撃することもできない。反論・反撃は既に封じられたのである。


「……まあ、これで一勝だ。肉を切らせて骨を断つ……ってな……。まあ、どっかの仮面ライダーみたいに腕にアタッチメントつけるのも悪くないかもな」


 先ほどの胸部の傷など目ではないほど、一文字の左腕は熱く、痛む。
 血が出るほどの強い打撃と、爆発の衝撃、火傷。彼の左の拳は、あのライダーパンチの時のまま止まったように、閉じたままだった。
 偉人・野口英世の持病のように、彼の左の拳は開かなくなってしまったのだ。
 しかし、それでも彼は自分のことより目の前の相手に止めを刺すことを優先しようと前に出た。


「三影。俺はお前を許すつもりはないぜ。このまま放っておくわけもない。……今、トドメを刺してやる」


 悪のBADAN戦士・タイガーロイド──三影英介。
 今、その男に仮面ライダー2号が止めを刺そうとしていた。
 ライダーパンチ、ライダーキック。どちらの技も、今の彼を仕留めるには充分だろう。

「ライダァァァァァッ!! ……」


 彼が地面に転がるタイガーロイドへと技を繰り出そうとしたとき、一文字は後方から来る気配に気が付いた。

 ──弾丸!

 弾丸が接近していたのである。
 ライダーは銃口から弾丸が飛び出した音を聞き分けたのだ。
 まだ間に合うと判断したライダーは咄嗟に左に跳び、弾丸を避ける。


「……誰だっ!?」


 弾丸が炎の中で燃え尽きる音と共に、ライダーは後ろを振り返る。
 そこには、黒い装束で顔と骨格を隠した怪人が立っていた。
 あの弾丸の軌道と、その手に握られた銃は、彼が一文字を狙ったことを示していた。


「……」


 その怪人はただ無言で立ち尽くす。
 淡々と彼の姿はあまりに不気味だった。「殺さなければ生き残れない」と思い、切羽詰って撃った風ではない。
 ただ、まるで当然のように人に銃を向け、撃った。それに気づかれでも一切の動揺を見せていない。


(こいつ……一体何なんだ? 不気味なヤツだ……)


 タイガーロイドに止めを刺そうということさえ忘れ、そいつのことを考えた。
 次の瞬間、彼は残弾の無くなった銃を地面へと投げ捨て、剣を上空で回し、一文字にも「見覚えのある姿」へと変わった。
 暗殺という術をやめ、直接的な殺害方法へと開き直ったのだ。


「なるほど……いつだかのがんがんじいモドキかい……くだばったかと思ってたが、随分元気そうだな」


 それは、少し前に見た狼の鎧──暗黒騎士キバだったのだ。
 この禍々しく邪悪な外形を、一文字は忘れないだろう。
 そのうえ、あの確かな実力も胸に残っている。
 彼はやはり、変身した人間だったか……と思いながら、ライダーは構えた。


「──傷の恨みは晴らすぞ、仮面ライダー」


 左腕の痛みを抑えながら、ライダーは彼の方へと走り出そうとした。
 敵は既に走り出している。その俊足は、ライダーは走ろうとする前に、既にライダーの眼前にまで迫っていた。

 ──いや、キバが圧倒的に速いのではない。

 何かがライダーの足を押さえつけ、走行しようとする体を妨害していたのだ。
 呻き声とも喘ぎ声とも似つかない、不気味な声が足元から響く。
 声にならない声。ただ、改造人間の耳には何とか感知できる程度の声。

 タイガーロイドの──いや、既に三影英介の姿になった改造人間の手が、ライダーの右足を掴んでいたのである。


(邪魔しやがって……!)


 必死で足を振り払おうとするライダーの身体に、暗黒騎士キバの斬撃が走る。
 食らったのは、先ほどと同じく胸部だ。傷は胸部に出来たが、その痛みは身体全体にも及んだ。
 と、同時に左腕の麻痺が一瞬解けた。痛みによって走った、電撃のような間隔が左腕の麻痺を解いたのである。


(痛ぇ…………が、退けねぇ!)


 剣道で言う「胴」の動作の後、ライダーの真横から通り過ぎようとするキバの腕を、ライダーの左腕は掴んだ。
 そして、離さなかった。否、離しようがなかった。
 既に再び麻痺が起こり、拳は握られた形になってしまったのだ。
 足は三影に捕まれて動かず、手もまたキバを掴み離れない。かなり身動きはとり辛い状態である。

 思わぬ静止に戦慄するキバを自分の身体の前まで引き寄せ、その顔面に近距離からライダーパンチを浴びせる。
 簡単に吹き飛んだ三影と違い、彼のデスメタルの鎧は重く、砕けない。


「離せっ……!」

「離れたくても離れられねぇんだよっ!」


 幾度となく、キバの顔をライダーは殴る。
 キバも剣を握ったまま、ライダーの顔を殴る。剣を突き立てにくい距離になってしまったのだ。
 片手だけの殴り合いが始まり、動きは小さくも激しくなる。

 ボカッ。ボカッ。

 汚く、幼稚な音が響く。この幼稚な擬音が、今彼らの間に聞こえる音を表すのに最も相応しいのだから、字面が汚いのは仕方がない。
 分はキバにある。彼の鎧と能力はあまりに優れていた。
 本来鍛え上げた戦士であるはずの魔戒騎士たちを幾人も葬り去ってきた彼は、あまりに強すぎたのである。


(ヤバいな……こいつ、がんがんじいのクセにバカみたいに強ぇ……)


 彼の知っているがんがんじいはもっと弱かったような気がする。がんがんじいのクセに強いとは生意気だ。と、まあがんがんじいに失礼だが、それくらいイメージとのギャップが大きい。よく見れば、がんがんじいのくせになかなかハンサムだ。
 コイツにどう対抗すればよい? ──とにかく、考えてる間も殴り続け、殴られ続け、時に上手い具合に避けたりカウンターをしたりしながら、何かを待っていた。
 パンチ、パンチ、パンチの嵐。
 一文字があらゆる武術や体術に優れていたのは、この持久戦において重要なパーツであった。
 下手をすれば、本郷ですら意識が危ういレベルの攻防である。ライダーたちの中でも、一文字のように純粋な身体能力と頑丈さによって攻撃を耐えられるのは希少だろう。


(とはいえ、流石に俺もヤバい……)


 ライダーの意識も朦朧としていた。


(……魔戒騎士でも無いのに、どうしてこんなに強い……)


 キバもまた、新鮮な驚きを感じる。

 その地味な戦いに終始符を撃ったのが、また次なる「第三者の一撃」であった。
 ──再びの弾丸である。
 発射音が聞こえようが、今の二人が回避するのは難しかった。ゆえに、それは命中した。
 キバの鎧に吸い込まれるように嵌った弾丸は、彼の鎧から小さな煙を出させている。


「……やっぱり、このくらいじゃ効かないか」

「誰だっ!!」


 ライダーとキバは新たなる参戦者に顔を向け、攻撃を止める。
 そこには、ただの人間がライフルを構えた姿で立っていた。
 大の大人の男が一人、中学生ほどの少女が一人。それは、この殺し合いの場ではあまりに弱弱しく見えた。
 しかし、こうも余裕しゃくしゃくと異形の戦闘の前に出られるあたり、男の方は肝が据わっている。
 それでもやはり、女の子の方は、少し怯えた様子を見せていた。


「自己紹介の前に説明してやる。これはkorrosion弾という弾丸が装填されてる。どんな金属でも腐食させる弾丸だ。……たとえば、刃、鎧、サイボーグとかな」


 彼の名は石堀光彦という。彼のkorrosion弾の説明は、半分が嘘で半分が本当というところであり、少しハッタリも交じっていた。
 キバの鎧は、少なくとも現状では腐食していなかったのだ。
 彼には、それが効いているのかさえわからないが、ともかく適当な事を口にする。


「ちょっとの時間差はあるかもな。まあ、とにかく撃たれたくなかったら大人しくしてもらおう」

「……なんで、お前がそれを持ってる」


 一文字は問う。あのライフルと弾丸には、悪い思い出があったのだ。
 遠い過去のこととはいえ、今の自分が誕生するうえでの一つのポイントに、あれの存在があった。
 忘れるはずもない。あの弾丸がショッカー製であることも。


「支給品っていうやつだ」

「皆さん、戦うのはやめてください!」


 こちらの少女の名は花咲つぼみ。本来、戦いを好まない彼女は、石堀のやや乱暴な方法にも眉を潜めたが、あちらの戦いを止めるため、仕方がなく石堀の方法を肯定した。
 とにかく、彼女は戦いを止めたかったのである。この灼熱の地獄の中であっても。


「……この子の言うとおりだ。今すぐに武装を解除しろ」


 そう言われてはいるが、誰も武装を解除しようとはしない。
 石堀を警戒するというよりは、手をつながれた相手への警戒である。
 変身を解除すれば、相手に攻撃してくださいと言っているようなものだ。


「話がわからないようだな。……まあ、どちらにせよ、まずあんたはやられるぜ」


 キバに向かい、石堀が破棄捨てるように言う。
 見れば、キバのデスメタルの鎧はkorrosion弾により腐食し始めていた。どうやら、これは一応彼の鎧にも効いたようである。石堀としても一安心だ。
 これは、魔戒騎士にとっても、予想外の事態である。


「さあ、武装を解除しろ」


 まず、キバが鎧を解いた。今はむしろ、腐食する鎧を身に纏っているほうが、戦いにくいだろう。
 鎧が纏っていた分、キバの左腕にはゆとりができており、ライダーに握られていた左腕は解放される。
 つまり、彼は自由になってしまったのだ。
 だが、魔戒剣を使ったところでkorrosion弾がある限りは腐食の可能性を考え、彼も行動はしない。
 彼が攻撃の様子を見せないことから、石堀は次にライダーを見る。


「そっちもだ。早くしてくれ」


 一文字はすぐに変身を解いた。
 石堀もつぼみも、その姿には見覚えがあった。


「あ! 広間にいた方です!」

「一文字隼人。仮面ライダーとか呼ばれてたな」

「覚えてくれてて光栄だね」


 一文字は黒装束に対する警戒で笑ってはいなかったが、一応つぼみと石堀を見て一定の信頼を置いていた。
 無論、初対面でありながら完全に信頼しているというわけではない。あくまで、バラゴと比べてみればそちらに甘んじようという程度である。
 ましてや、彼女は戦闘に対して強い否定を見せている。
 仲間として引き入れるのはアリだ。──こんな子だからこそ、仮面ライダーは守らなければならない。


「さて、あんたたちが一体何をしていたのかを教えてもらおうか。あんたたちが何者なのかも」


 石堀はライフルの銃口を向けながら、彼らの方に寄って行った。
 前方へ、前方へ。相手は一切動揺しておらず、石堀も銃口も恐れてはいないようだった。
 彼の陰に隠れて、つぼみも近付いてくる。


「……!」


 黒装束の男は、銃口が一文字に向いた瞬間、ここぞとばかりにバックステップを踏む。
 装束が風に靡く音に驚き、咄嗟に石堀はそちらに銃を向けた。
 ……が、装束の男は攻撃の意思などもっていない。ただ、後方に向かって石堀の手から逃れようと退いたのである。
 魔戒騎士の脚力により、すぐに彼の姿は三人の視界から消えてしまう。


「……逃げたか。まあいいさ。あんたは逃げるなよ?」

「わかってるわかってる。一から百まで、聞きたいことを教えてやらぁ」


 一文字は両手を上げる。左手は、不自然な形に握られていた。
 キバの手を握ったときの型が残ってしまったため、アルファベットのCの字の形になっている。
 右手はしっかりと伸ばしているのに、左手は不器用に上げている。非常に滑稽な様子だった。


「その左腕は?」

「ちょっと、さっき火傷でね。離れなくなった」

「足元の男は?」

「いい加減、足を離してくれてもいいと思うんだがねぇ……。元はといえば、こいつのせいで手がこんなになっちまったんだ」


 三影は、大分前から意識がないようだった。
 喋ることもままならない彼が、いつ意識を失ったのかは誰にもわからない。
 しかし、彼は一文字の足を握り続けている。彼を道連れにしようという執念があるのだろう。


「それより、ここは熱いだろ。場所を変えよう。さっきの事は、そっちで俺から全部話す」


 周囲は炎がまだ少し燃えている。
 これはまた大火事になりそうなトンデモない光景である。
 もう燃え尽きてしまっただろうか、つい先ほどまで怪人の死体が燃えていた辺りは、非常に焦げ臭くなっていた。
 つぼみも、臭いには気づいているようだが、それが人の死体の燃える臭いだとは知らないだろう。
 一文字は、彼女が気づかないうちになるべくここから離してやりたかった。


「確かに、ここは風も吹いてないから火が大きく広がることもなさそうだな。放って行っても火は消える」


 加頭の用意した空間は、強い風は吹いていない。
 行動しやすく、快適な場所であった。
 石堀は火災など気にはしないが、建前として言っておく。


「……おし。決まりだ」


 一文字は強引に三影の手を引き剥がし、彼を家の前に放置されたビートチェイサーに乗せた。
 虫の息であろうと生きている限り、彼を野放しにするわけにはいかないし、少女の前で人の姿をした三影を殺すわけにもいかない。
 一応、監視という名目でこの危険人物も連れて行くしかないのだ。
 彼を乗せたバイクを押し、先頭を切るように、一文字は歩いていく。

 石堀は一文字に銃を向け、連行しているようにゆっくりと進んで行く……。



★ ★ ★ ★ ★




(利用価値の有無に関わらず、仮面ライダーの存在は面白いな……)


 石堀は村の民家の中で一文字から、先ほどあったことの全てを聞き出した。
 どうやら、嘘を言っている気配はないようだったし、少なくとも彼が広間で言ったとおりに「加頭に仇なす」というスタンスで進んで行くようだった。


 ある意味で、それは石堀も同じである。
 彼はアンノウン・ハンドでありながら、今はあくまでナイトレイダーの隊員だ。
 この場においても、イレギュラーな出来事が起こらない限りは、ナイトレイダーであり続ける。
 もし今、孤門や凪に正体がバレてしまえば色々と面倒だ。
 ウルトラマンの力が凪に渡るか、或いはこのゲームの勝者の商品が本物であるか……それが石堀が現状で殺し合いに乗る条件である。


 何にせよ、このつぼみという少女も、一文字という男も、しばらくは味方なのである。
 加頭を倒し、元の世界に帰るという願いに関しては共通だ。
 この制服を纏っている限りは、必要かぎりの善は行い、周囲の信頼を得る。
 時にはその偽善に命もかける必要があるだろう。どうせそう簡単にはくだばらない。
 ナイトレイダーとしての行動は欠かしてはならない。


 反面、石堀はあくまで「対主催」であり「ステルス」である。
 ゆえに、彼は自ら進んで危険な場所に首を突っ込んだりはしない。たとえば、先ほど──ここに来て少しした頃、巨大な爆音が聞こえたことがあった。
 見ればまるで地上から巨大なビームを見たかのような気柱が立っており、間違いなく戦闘か爆発の光景だと思った。つぼみも流石に気づいており、何かあったのだと決め付けていた。
 しかし、その時に石堀はあくまで、「つぼみを守るため」という名目で無視をしているのである。

 そこに行っても仕方がない、君が危険になるだけだ、と──。

 そう言って、善人を装いながら危険を回避しようとしていた。
 ましてや、それが起きた頃にはもうそんなエリアを通り過ぎていて村に近付いていたのである。また戻るというのは正直言って面倒臭い。
 先ほど、彼らの戦いに介入したのだって、korrosion弾の効果を試すためと言ってよかった。
 つぼみはあの時から、しばらく、どことなくぼうっとしている。少し後悔しているのだろう。


 石堀は意に介さない。
 そんな冷酷さを持ちながらも、ここで常識ぶって言う。


「……で、そこの男はどうするんだ?」


 焦げ臭い臭いを発しながら倒れている黒ずくめの男に、石堀は目をやった。
 一応ソファーに寝せているが、その寝せ方は非常にぞんざいである。
 まるで、一文字は投げ捨てるかのように三影をソファーに寝せていた。
 話を聞く限りでは、救いようのない悪人であり、「改造人間」という非人間らしいが、それでも流石にこの場で殺すわけにはいかないだろう。


「……この人も、今は悪い人かもしれませんが、もしかしたら、心を入れ直してくれるかも……」


 つぼみが口を開く。
 どうやら、彼女の願いはひたすら一途に本物らしい。
 人を助けることには強いこだわりがあると見える。
 だが、帰ってきた答えは冷酷ともいえるものだった。


「残念だが、そいつは無理だな。コイツは、もう何人も人を殺した。根っからの悪人だ。こんなところに野放しにしてちゃ、犠牲者が増えるだけだぜ」

「でも……」

「お嬢ちゃんの言うこともわからなくはない。それに、俺はそういう考え方の方が好きだ」


 言いながらも、一文字の顔はこわばっていた。
 一文字も、三影のような悪になっていた可能性があったのだ。
 だからこそ、彼らを葬らねばならない。
 つぼみの考え方は、一文字たち仮面ライダーにとっても最大の理想である。
 しかし、それに甘んじてはいけない。
 多くの人を救うためには……。


「勿論、コイツは俺がお前たちに見えないところで決着をつける。……わかってくれ。俺たち改造人間は、死ぬことが救いなのかもしれないんだ」


 一文字は、乱暴に三影の体を抱えた。
 大の男を持っている姿にしては、あまりにも軽々としていた。
 三影の体格は、日本人離れしている。つぼみならば、おそらくどんなに頑張っても持上げることはできないだろう。
 それを、改造人間一文字隼人はあっさりと持上げたのである。


「……じゃ、ちょっと、コイツを見送ってくる」


 一文字は、三影をお姫様だっこしたまま、ドアを開ける。
 外は、先ほどより明るくなっていた。
 その光は、つぼみや石堀にも降り注ぐ。


 悪人・三影を葬るには、似つかわしくない時間帯だった。



★ ★ ★ ★ ★


「……殺せ、カメンライダー」


 民家から少し離れたところで、一文字の腕の中から声が漏れた。
 もはや、その声は微量で、悲観的に全てを見たような弱弱しさを持っていた。
 一文字も、三影が起きていたことには気が付かなかった。いつ、どこから起きていたのかは一文字もわからない。
 流石に驚きを隠せなかったが、少し冷静ぶって答える。


「なんだ、起きてたのかい」

「……改造人間の体は自然に治癒される」

「治ってからリベンジしようって言う気はないのか?」

「貴様ら偽善者が、それをさせてくれるとは思えんな」

「……そうかい。ま、そうなんだけどな……」

「……早く殺れ。こんな状態では、もうこの場で勝ち進むことはできない」

「………………んじゃ、お望み通り」


 三影はタイガーロイドに変身しない。いや、まだ戦える状態ではないのだ。
 ゆえに、タイガーロイドにはなれない。彼の体は今、朽ち果てる過程にあるのである。
 変身する気力などないし、生きるのも面倒になっていた。


「ライダー……変身!」


 ────ドゴッ


 その瞬間、仮面ライダーは悪魔のように見えただろう。
 完全に弱りきった人間を、圧倒的な腕力で殺害する。

 悪を倒す──そのやり方は、必ずしも綺麗ではない。
 この瞬間、仮面ライダーはヒーローではなかった。
 しかし、これから三影に殺されるはずだった幾つかの命を、彼は救っていた。


「悪かったな、あんたの願いを完全に叶えてやれなくて」


 一文字には聞こえたのである。
 殴られる直前に彼が漏らした、声になっていないような小さな言葉を。


 「どうせならお前に倒されたかったぜ、ゼクロス」と。


 気づけばもう、志葉邸の前でごうごうと燃えていたはずの炎は消えている。
 彼が作った炎は、もう消えたのだ。



【三影英介@仮面ライダーSPIRITS 死亡】



★ ★ ★ ★ ★



「ただいま」


 民家のドアが開いた。
 一文字は、てっきり二人はもうこの民家から逃げてしまったものだと思っていた。
 改造人間とこれからしばらく行動しなければならない……それは恐怖が付きまとうだけだろう。
 だから、その言葉に返事が返ってきたことが素直に嬉しかった。


「おかえりなさい」


 つぼみは、作り笑いを浮かべようとしていた。
 一文字の表情は、三影を確かに葬ったことを意味していたから、素直な笑みは浮かべられなかったのだ。
 しかし、悲しいかな、少しの優しさを持っていた彼女は、彼をできる限りの笑みで迎えたいと思ったのだろう。
 それと同等に不出来な笑みを返して、一文字は洗面所に向かう。


 一文字は、ただ自分の顔に妙な傷がついてないかを確認しただけだ。
 つぼみたちの反応で、少なくともあの傷が浮かび上がっていないと示すものだったが、それでも不安だったのだ。
 ただ自分の顔を見に来たというのも変なので、水を出して顔を洗う。


「……さて、本郷たちはどうしてるかな」


 彼は気を取り直して呟く。
 長きにわたる戦友である彼が、どうしているのかが素直に気になったのだ。
 おそらく、今も彼は誰かを護るために戦っているのだろう。
 一文字もそのつもりだ。
 三影を殺したあの一瞬も、もう慣れてしまった感覚だ。後を引くほどの苦味はない。


 ましてや、まだ彼には次の使命が残っている。


 あのがんがんじいモドキ──。
 あいつだって、ブッ飛ばさないといけない。



★ ★ ★ ★ ★



 一文字隼人──その男に、バラゴは苦汁を舐めていた。
 体が思うようには動かず、そのうえ毎回あの男にはしてやられる。
 最後の魔弾も避けられ、ヤツをホラーにすることは失敗した。


 ──だが


 バラゴは、一文字が三影を殺す姿を見ていたのである。
 あの男は、ホラーなどにならなくても、充分に他者を傷付ける可能性を持っている。
 鍛え上げたはずの魔戒騎士の心が脆くも崩れ去ったように、一文字の心も崩れるかもしれない。

 人は常に、ホラーと等しくなる可能性を持っている。

 だからこそ、バラゴは一文字に対して焦る必要などないと思った。


 本来、バラゴはここに来なければ、冴島鋼牙さえも闇に落す可能性を持っていた。
 その時の人身掌握力は、この場でも変わらない。


 最初の狙い目は、同行者の花咲つぼみ。
 いずれも、バラゴにとっては名前を知らない相手だが、バラゴは彼女を脆弱な人間として見ていた。
 もう一人の石堀光彦という男は──。
 ……今は干渉することさえ、やめたほうがよさそうだ。

 彼は、人間とは違う何かを持っている。
 そう、バラゴは彼に自分と似た何かだ。まるで、彼は人間ではないかのようなオーラがある。
 人間ならば、多少勘が良くても石堀の異変には気づくことはないだろう。暗黒騎士のバラゴですら、多少の違和感としか感じないほどだ。


(まあいい……。あの男も最終的には殺す)


 フードに隠れたバラゴの目は、ビートチェイサーの泊められた民家を遠くから覗いていた。



【1日目/早朝 C-2 民家】
※民家前にビートチェイサー2000@仮面ライダークウガが設置されています
※B-2周囲の建物は壊滅しました(どの程度の規模かは、後続の書き手さんにお任せします)

【一文字隼人@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、胸部に斬痕、左の拳が開かない、左腕も全体的に麻痺
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、ランダム支給品0~2(確認済み)
[思考]
基本:仮面ライダーとして正義を果たす
1:今はつぼみ、石堀を守る
2:他の仮面ライダーを捜す
3:暗黒騎士キバを倒す(但しキバは永くないと推測)
4:もしも村雨が記憶を求めてゲームに乗ってるなら止める
5:元の世界に帰ったらバダンを叩き潰す
6:この場において仮面ライダーの力は通用するのか……?
7:バイク(ビートチェイサー2000)に乗って南から市街地に向かう
[備考]
※参戦時期は第3部以降。
※この場に参加している人物の多くが特殊な能力な持主だと推測しています。
※加頭やドーパントに新たな悪の組織の予感を感じています(今のところ、バダンとは別と考えている)。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから南の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る
2:今、凪に死なれると計画が狂う……
3:表面上はつぼみを保護し、一文字と協力
4:孤門、凪、つぼみの仲間を捜す
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢の名前を聞きましたが、ダークプリキュアの名前は知りません。
※良牙が発した気柱を目撃しています。


【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、加頭に怒りと恐怖、やや精神的疲労と後悔
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:仲間を捜す
2:石堀、一文字と一緒に行動する
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。
※良牙が発した気柱を目撃しています。

【1日目/早朝 C-2 民家付近】

【バラゴ@牙狼─GARO─】
[状態]:胸部に強打の痛み、顔は本来の十字傷の姿に
[装備]:魔戒剣、ボーチャードピストル(0/8)@牙狼
[道具]:支給品一式×3、ランダム支給品0~2、冴子のランダム支給品1~3、顔を変容させる秘薬?、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:参加者全員と加頭を殺害し、元の世界で目的を遂行する
0:一文字の監視
1:つぼみを殺し、一文字に復讐する
2:今のところ顔を変容させる予定はない
3:石堀に本能的な警戒(微々たるものです)
[備考]
※参戦時期は第23話でカオルに正体を明かす前。
※顔を変容させる秘薬を所持しているかは不明。
※開始時の一件で一文字のことは認識しているので、本郷についても認識していると思われます。
※冴子と速水の支給品はまだ確認していません。
※つぼみ、石堀の名前は知りません。

【共通備考】
※三影の支給品は、民家内の誰かが所持しています。
※志葉家の前の火はほぼ消えました。

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最終更新:2013年03月14日 22:56