とある真冬のあんさや家族 その4
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仔あん「……ア、ニュッ?」パチッ
巣の中で気絶していた仔あんが目を覚ましました。目を開けた仔あんが一番に見たものは、こちらを向いたあんあんの生首でした。
仔あん「――アニャァァァッ!? アニュッアニュッアニュアアアアアッ!!」バタバダッ!
悲鳴を上げて飛び上がるとした仔あんでしたが、躰が言うことをきかずにばたばたもがくくらいしか出来ません。
仔あん「アニュッ!? アニュコッ!?」
自分の体を確認すると、両手両足ががっちりと縛られているではありませんか。これでは全く身動きが取れません。
仔あんは自分を縛る白い布に見覚えがありました。間違いなく、自分の親のさやさやのマントです。
仔あん「アッアッ……アニュッ……?」カタカタ
自分がどうしてこうなっているのか理解できず、仔あんは意識を失うまでのことを回想します。
様子のおかしいさやさやが出ていくのを見て、何か胸騒ぎを感じた仔あんと仔さやは、地面を掘るさやさやを見つけました。声をかけられずにみていると、なんと掘り返されたのはあんあんの首だったのです。
そこで自分たちはさやさやに見つかり、逃げ出そうとした所で自分は捕まり、抵抗した所で目茶苦茶に殴られて、そこで記憶は途切れています。
仔あん「アニュゥ……ッ」ズキズキ
どうやら殴られてそ気絶した自分は巣に釣れてこられたようです。殴られたあちこちがズキズキ痛み、記憶が夢ではないことを教えてきます。
気絶してからどれだけ時間がたったのかはわかりませんが、お腹のすき具合からすると、それなりに時間が経っているようです。
仔あん「アニュアニュ」キョロキョロ
巣の中に居るのは自分だけで、さやさやも仔さやもいないようです。ひょっとして逃げ果せた仔さやを探しているのでしょうか。
自分もすぐに逃げ出したいところですが、しっかりと拘束されている状態ではとても逃げることは出来ません。縛られたままで他の動物に襲われようものならそのまま食べられてしまいます。
仔あん「アニュ……アニュ!」
悩んだ末に、仔あんはこのまま待つことにしました。だって、さやさやがあんあんを殺してしまうとはやはり信じられないのです。
あんあんとさやさやはとても仲が良く、狩りに行くのはいつも一緒で、自分を仔さやと一緒に可愛がって育ててくれていたのですから。その時間は絶対に嘘ではないはずです。
仔あん「アニュコ」ゴロリ
さやさやが戻ってきたその時に一体何があったのかちゃんと聞こうと決心して、仔あんは目を閉じました。あんあんの生首には背を向けて。
チュンチュンチチチ―――
仔あん「ア――アーニュー……」ゼハッゼハッ
翌日、目を覚ました仔あんは、自分の体が重いのを感じました。体が冷えたのに加え、あちこちが傷ついた状態で抵抗力が落ちていた所為で風邪を引いてしまったのです。
野生動物にとって風邪は深刻な問題です。抗生物質などが投与できない彼女らにとって病気は文字通り命取りになります。
仔あん「アッ……アッ……アッ」ガタガタガタガタ
仔あんの震えが止まりません。高い発熱、体の倦怠感。それが一匹で居る時に襲ってくるのです。仔あんはこのまま自分は死ぬのではと思いました。
何かに縋りたくて、巣に転がっているあんあんの首を見つめます。目を閉じたあんあんの顔は穏やかで、ひょっとしたら目を開けて話しかけてくるんじゃないかとさえ思わせました。
ピク
仔あん「アニュゥッ!?」ビクッ
熱で朦朧としているせいでしょうか、あんあんの目が動いたように見えました。
あんあんが生きているはずはありません。あんあんの首から下は切断されており、その状態で丸一日以上が経過しているのです。
けれど、今の仔あんは何でもいいから縋るものを求めていました。ひょっとしたら死んだあんあんが自分の事を心配して生き返ったのではないか、なんて世迷言まで思いつきます。
仔あん「アニュッ、アニュアニュゥッ……アニュコアニュッコ」ズリズリ
力の入らない体に鞭打って、あんあんの首の近くへと這って行きます。ありえない、ありえないことですが……まさか、生きているのかと。
ピクッ……ピククッ
仔あん「アニュコ!」
今、確かにあんあんのまぶたが動きました。仔あんは必死にあんあんの首に呼びかけます。どうか自分を助けて欲しいと。
仔あん「アニュアニュ……アニューーーッ!!」
あんあん「――」モゾモゾモゾ
仔あんの声に反応したのか、あんあんの瞼の動きが激しくなります。
そこで仔あんは違和感を抱きました。瞼というものは閉じたり開いたりするものです。あんなにもごもごと蠢くものだったでしょうか?
モゾモゾゾゾッ……
ニュルリッ
仔あん「……ア?」
ゾワゾワゾワゾワ
ウニョウニョニョロニュラ……
仔あん「アッ……アッアッ、ア゙ニャアアアアアアアアアアアアッ!!」ビタン
仔あんが悲鳴を挙げてあん首から跳びすさりました。
あんあんの瞼から出てきたのは、大量の蛆です。柔らかい眼球を蛆が喰らい尽くし、瞼の隙間から這いでてきたのでした。
仔あん「アッアニュアニュ……ッアアアアアアニュアアアアアア!! チャヤカァァァ! アニュコォォォ! アニュアニュゥゥゥゥゥゥ!!」ボロボロボロ
死にたくない。死んであんなふうになりたくない、と仔あんは必死に助けを呼びます。ですが、それに応える存在など居はしません。
それでも仔あんは諦めず、自分の体力の続く限り声を上げ続けるのでした。
仔あん「ア……ニ……」ゼヒッゼヒッ
もう悲鳴をあげる体力も尽きたらしく、仔あんは荒くも弱々しい呼吸をするだけになり果てていました。
病気の際は栄養及び水分を取り、暖かくして眠るのが基本です。これら全てを疎かにした仔あんの命は潰えようとしていました。
仔あん「アニュァ……アニュコ……」
仔あんは今にも消えようとする意識の中で考えます。何故さやさやはあんあんを殺したのか。何故自分はこの巣に縛られて置き去りにされたのか。
仔あん「ア、アハッ、アニュハハハッ」ゲホッゲホッ
考えて考えぬいた末に出した結論は、『さやさやは自分たちを捨てた』というものでした。
家族が多ければ多いほど、食料を分ける割合は多くなります。恐らくあんあんとさやさやは食料のことで口論になり……結果、あんあんはさやさやに殺され、自分はここに捨てられた。こう考えれば筋は通ります。
推測が正しいのであれば、どれだけ待ってもさやさやが助けに来ることはないでしょう。ここから逃げ出した仔さやが来ることも恐らく望めません。そこまで考えて、あんあんはとてつもない絶望感に浸されました。
お腹が空いた。喉が乾いた。寒い。重い。死にたくない。死にたくない。寂しい――。
仔あん「アア――」フッ
様々な願いが浮かんでは消え、浮かんでは消え―――遂に、仔あんは息を引き取りました。誰にも看取られることなく、一匹ぼっちで。
こうして、あんあんの家族のための決死の行動は全て無駄になり、仔あんは絶望の中でもがき苦しんで死に、さやさやと仔さやは仲良くまみまみの糞になり、あんさや家族はお家断絶となりましたとさ。
めでたしめでたし。
まみまみ「マミン♪」ガブッ
さやさや「――」
終!