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その手は誰がために ◆aWSXUOcrjU




 時刻は深夜と呼ぶには遅く、間もなく黎明にさしかかろうとしている。
 冷たく暗い夜ももうすぐ終わりだ。やがて数時間後には陽が昇り、この島を眩く照らすだろう。
「もう! どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」
 そんな時、街の暗がりの中で、マミの不機嫌そうな声が響き渡った。
「だってその、面倒なことになるかもしんねぇだろ? 色々と」
「その声を聞いたのなら、小日向さんがそっちに行ってるかもしれないじゃない!」
 目をそらし、ばつの悪そうにぼやく杏子を、ふくれっ面のマミが叱責する。
 原因は、マミが倒れていた間の放送――龍崎駈音なる男の声だ。
 彼女の性分を考えれば、そのような声が聞こえたとあれば、首を突っ込もうとするのは明白だろう。
 それをよしとしない杏子は、今の今まで、そのことを告げずに黙っていたのだ。
 そして今になって、ひょんなことからそのことが露見し、現在に至っているわけである。
「だいたい佐倉さんも、首輪を外せる人を探しているんでしょう?
 ひょっとしたら、その龍崎さんという人のところに、そういう人が来ているかもしれないわ」
「それはまぁ、そうなんだけどな……」
 もちろん、龍崎との合流によって、杏子にもメリットが生じることは分かる。
 それでも、彼女が返答を渋るのは、それ以外のデメリットの存在が大きかった。
 純粋に脱出のみを目指す杏子としては、少人数で身軽に動きたいというのが本音だ。
 参加者の保護も視野に入れ、かつ大人数のパーティーを組もうとしている龍崎とは、相容れない主張であると言えよう。
 おまけに、マミを刺したという小日向未来のような、殺し合いに乗った人間までもが、そこに来ている可能性もある。
 これが小日向1人ならいい。それでも、そういう奴らを複数相手にするのは、少々面倒でもあった。
「……仕方ないわね。じゃあ佐倉さんには、別の仕事をお願いします」
 結局、折れたのはマミの方だった。
 はぁ、と呆れた様子でため息をつきながら、背中のデイパックを降ろす。
「別の仕事?」
「ここから西に行くと、軍事基地のある小島があるの」
 言いながら、鞄の口を開くと、そこからランタンと地図を取り出した。
 明かりを灯し、地図をアスファルトへ置くと、杏子にも見るように促す。
「首輪を外すためには工具が必要だわ。佐倉さんは、一足先にここまで行って、工具を調達してきてちょうだい」
 なるほど確かに、マミの提案は、理にかなっているように思えた。
 仮に首輪を外せる者がいたとしても、素手で外せるとは思っていない。
 その者が工具を持っていなかった場合を想定し、予め用意しておくのは、無駄なことではないだろう。
 しかし、1つだけ気になることがある。
「で、その間、マミはどうするんだ?」
 杏子が基地に行っている間、マミがどこで何をするのかということだ。
「貴方がゴネ始めないうちに、龍崎さんと話をつけてきます」
「って、要は厄介払いじゃねえか!」
 思わず、杏子は声を荒げてツッコミを入れた。
 どうやらマミの中では、龍崎のパーティーとの合流は、既に確定事項らしい。
 要はその交渉の邪魔になるから、その間だけ、杏子にはその場から離れてもらうというわけだ。
 妙に強引なところも、全くもって相変わらずで、今度は杏子の口からため息が出てきた。
「はー……わーったよ。それでいい」
 マミが折れたように見えて、折れるのは杏子の方だったということか。
 遂に杏子は観念すると、気だるげな声で同意した。
 結局、マミともう一度チームを組むことになった時点で、こういう結果になることは、半ば確定されていたのだ。
 ならば、仕方ない。組むと決めたのは自分なのだ。
 師匠の顔を立てるためにも、弟子として素直に従うしかあるまい。
「ふふ。ほんとに、昔を思い出すわね」
 どうやら懐かしさを覚えていたのは、杏子だけではなかったらしい。
 柔和な微笑みを浮かべながら、マミはランタンの火を消していた。
「……佐倉さん。1つ、提案があるのだけど」
 そうして地図とランタンを片付けながら、マミが杏子へと言う。
「? 何だよ、改まって」
「この殺し合いが終わって、見滝原に帰ったら……その時は、また私と一緒にチームを組まない?」
「! ………」
 軽く、赤目が見開かれた。
 一瞬の驚きを見せた後、杏子はしばし、沈黙した。
 思い返すのは、遠い日の記憶。もう一緒には戦えないと、その手を振り切ってしまった記憶。
 思えば、あの時の自分とは、少し考えも変わったと思う。
 ゆまと出会い、共に過ごす者の温もりを思い出した今ならば、またやり直すこともできるかもしれない。
 自分とマミ、そしてゆま。昔よりもにぎやかに、3人でやっていけるのならば、それはとても素晴らしいことだ。
「……悪い。今は、まだ無理だ」
 それでも、彼女の口を突くのは、否定だ。
 燃えるような杏子の瞳が、申し訳なさそうに伏せられた。
「! どうして?」
「自分の周りだけで手一杯でさ。今のままじゃ、あんたと組んでも、迷惑ばっかりかけちまう」
「迷惑だなんて、そんな――」
「忘れちまったんだ、幻惑の魔法」
「……!」
 思い返すのは、やはりあの日の別れのこと。
 固有魔法のはずの魔法を、一切使うことなく終わった、あの日の魔女との戦いのこと。
「あたしのせいで、家族が壊れちまった時……あたしはあんな願いなんて、叶えなけりゃよかったって思っちまった。
 願いが生み出した幻惑魔法も、その時、なくなっちまったんだ」
 あれは使わなかったのではない。
 必要ないなどという言い訳は、ただの誤魔化しに過ぎなかった。
 杏子の両親と妹の死は、家庭という安息の場所だけでなく、戦う力までも奪っていたのだ。
「なくした穴を埋めるために、鍛えることは鍛えたさ……だけどそいつは、突き詰めちまえば、自分を守るためだけの技だ。
 互いに守り合いながらの戦いなんてのは、まだまだあたしには、こなせそうにない」
 あんたみたいにはいかないんだ、と。
 左の拳に力を込めながら、杏子は独りごちるように言った。
 こうして一時的に手を組んで、その場をしのぐだけならまだしも。
 これから先、ずっと先までも、足手まといになることなく、共に歩ける自信はない。
「………」
 しばし、沈黙が流れる。
 一瞬緩んでいた静けさが、重苦しいものへと変わる。
「……少し、待っててくれねぇか」
 その沈黙を破ったのも、やはり杏子の声だった。
「あたしだって、ゆまを守ってかなくちゃならねぇんだ。だから、もう一度鍛え直そうと思う。
 自分で納得がいくようになったら……その時は、ゆまを連れて、またあんたのとこに寄らせてもらうさ」
 だから、その時までは待っていてほしいと。
 その先に未来を見据えるようにして。
 遥か星空を見上げながら、赤い瞳がそう語った。
「……ええ。楽しみに待っているわ」
 ああ、やはり彼女は彼女だ。
 少しうるんだ視線と共に、笑顔で答えるその顔は、あの日憧れた「マミさん」のものだ。
 地へと降ろした視線の先から、頷く彼女の声を聞く。
 今はまだ、彼女の誘いの手を、素直に握ることはできないけれど。
 それでもいつか、この場所へ、ゆまを連れて帰ってこよう。
 今ならば、素直にそう思えた。そう思えるマミの笑顔に、杏子もまた、静かに笑い返した。
「……さて、そろそろ行くか」
 言いながら、視線を西へと向ける。
 名残り惜しさを振り切るように、基地の方へと向き直る。
「気を付けてね、佐倉さん」
「おう。あんたの方も無理すんなよ。さっきの借りだって、まだ返してねぇんだからさ」
 見送るマミへと手を振ると、杏子は西へと歩き出した。
 やがて背後からも靴音が聞こえ、それは東の闇の奥へと、少しずつ遠ざかっていった。
(家族――か)
 消えていく足音を聞きながら、杏子は改めて思う。
 遠い昔、マミは杏子を、自分の「友達」だと言っていた。
 そのことに対して、自分にとっての巴マミは、友達とは少し違うと言ったことがある。
 あの時自分は、マミに対して、「家族」だと言おうとしていたのだ。
 友人よりもなお深い、姉妹のような優しい絆を、マミに対して感じていたのだ。
 本当に、数ヶ月前のはずのあの頃から、随分遠くに来たような気がする。
 一度別れた2つの道が、ようやく1つになろうとしている――その手前まで辿り着くのに、随分と回り道をしてしまった。
(その時が来たら、今度こそ、素直にそう言わせてもらうよ)
 あの時は、照れくさく感じてしまって、言葉を続けることができなかった。
 それでもきっと、今ならば、素直に言えるような気がする。
 遠いあの日に手離してしまった、巴マミという最後の家族と。
 大切なことを思い出させてくれた、千歳ゆまという新しい家族。
 孤独を抱えた者同士、きっと今ならば素直に、3人で手を取り合える気がする。
(まぁ、前向きに頑張るとするかね)
 もちろん、そのための課題は多い。
 幻惑が使えた昔のような、誰かを守れる力を取り戻すために、本格的に鍛え直す必要がある。
 何より、この殺し合いから無事に脱出しなければ、ゆまと再会することもできないのだ。
 ここはひとつ、本腰を入れて、立ち向かわなければならないな、と。
 決意を新たに固めながら、杏子は行くべき道へと歩みを進めた。


【一日目・黎明/B-2 市街地】

【佐倉杏子@魔法少女おりこ☆マギカ】
【状態】健康
【装備】ソウルジェム
【所持品】支給品一式、ランダム支給品1~3、グリーフシード(使用済み)@魔法少女おりこ☆マギカ
【思考】
基本:殺し合いを打倒して、見滝原に帰る
1:A-1・B-1の基地へ向かい、首輪を外すための工具を漁る
2:その後は市街地へ戻り、マミと合流。行動を共にする
3:首輪を外せそうな奴を探す
【備考】
※第五話「そのために私はここにいる」以前からの参戦です


◆

(さて……これからどうしよっかな)
 アイシス・イーグレットは思考する。
 B-3のレストランの店先に座し、まだ見ぬ仲間を待ちながら、これからのことを思案する。
 待ち時間の間に、支給されたデイパックの中身を確認してみたが、愛用のパフュームグラブはなかった。
 こうなると、有り合わせの支給品と、鍛えた生身の力と技で、主催者に喧嘩を売ることになるわけだ。
(……無理だよねぇ)
 一瞬、その光景を想像し、がっくりと肩を落とした。
 あるいは、そんじょそこらのマフィアが相手なら、それでも果敢に挑んだかもしれない。
 しかし、今回は相手が悪かった。
 あの馬鹿げた強さを誇る黄金の戦士と、それすらも殺す軍団の戦いを見れば、結果は一目瞭然だ。
 あんな戦い、パフュームグラブを持っていたとしても、果たして立ち入れるかどうか。
(となると、お仲間頼りになるのかな)
 ちら、と同行者に視線を向けた。
 現状ここにいる者は、リリィと龍崎駈音の2名。
 うちリリィは、共に戦う仲間というより、守るべき対象であるわけなので、論外だ。
 もう一方の龍崎も、着ているコートは威圧感抜群だが、本人には戦闘能力があるとは思えない。
 こうなると、これからやって来る面子がどれほどのものか、そして自分がどれほど頑張るか、ということになるだろう。
(トーマのことも見つけないと)
 そして、もう1つの気がかりがある。
「あの、龍崎さん。あたし達と会うまでに、あたしと同い年くらいの男の子を見かけませんでしたか?」
「……? いや、見ていないな。君達の知り合いかい?」
《あ……はい、そうなんです》
 当然といえば当然か。
 他の参加者を保護しようとしている龍崎が、トーマと出会っておきながら、合流せずに見捨てるはずもあるまい。
 リリィがトーマについて説明する最中、アイシスは再び思考にふける。
(あの時のトーマの様子は、明らかに異常だった)
 思い返すのは、拘束される直前のトーマの姿だ。
 エクリプスとやらの感染が拡大したのか、あの時の彼は、異形の怪物のような姿へと変貌を遂げていた。
 フッケバインに捕まった時には、もう大人しくなっていたようだが、あのまま放っておくのはまずい。
 何としても合流し、彼を保護しなければ。

「――ヘァアアアッ!」

 そう考えた、その時だ。
「!?」
 不意に背後上方から、鋭い声が降りかかったのは。
 条件反射的に、身をかわす。
 襲いかかる風切り音に、アスファルトを蹴って右手の方へ。
 着地と共に態勢を直し、持ち上げた視線の先にいたのは、奇妙奇天烈な蝙蝠男だ。
「ッヘヘヘヘ……」
 まるでコミックの世界から飛び出したような、蝙蝠の耳と翼を持つ怪人は、へらへらと笑いながら舌舐めずりをしている。
 まさか、これも殺し合いの参加者なのか?
 自分達と同じ首輪が、首に巻かれているということは、やはりそういうことなのか?
 だとしたら、悪い冗談にも程がある。
(やんなっちゃうな、ホント!)
 胸中で悪態をつきながら、アイシスは懐から銃を引き抜く。
 M1911――通称、コルト・ガバメント。管理局の管理下にある世界では、禁止指定のなされている質量兵器だ。
 それでも、合法違法を問うている場合ではない。
 どんどんどん――と迷うことなく、威嚇もなしに連射した。
「ハッ!」
 されど、飛翔。
 蝙蝠男は風を切り、弾丸をすり抜けて宙へ舞う。
 放った弾丸を軽々とかわすと、遥か上方へと飛び上がる。
 一瞬、蝙蝠男の姿が、アイシスの視界から消えた瞬間。
「あッ……!」
 貫くような激痛が、彼女の右肩へと襲いかかった。
《アイシス!》
 ばきばきばき、と砕ける音と、リリィから伝わるテレパシーが、頭の中で混ざっていく。
 焼けるようなその痛みは、首元を噛み砕かれたが故のものか。
 畜生、これは駄目なパターンだ。
 奇妙な脱力感と共に、意識が遠ざかっていくのを感じた。
 痛みも苦しみも何もかも、身体から急速に抜け落ちていく。
 自分を認識する意識ですらも、闇の中に消えていく気がする。
「リ、リ……逃げ――」
 それだけを最後に言い終えた瞬間、アイシス・イーグレットの意識は、その命と共に霧散した。



【アイシス・イーグレット@魔法戦記リリカルなのはForce 死亡】



◆

 ごとり、という鈍い音と共に、アイシスの亡骸が地へ落ちる。
 精彩を失った少女の肌が、醜い怪物に足蹴にされる。
 てらてらと牙に光るのは、彼女の赤い鮮血か。
 突如現れた蝙蝠男は、瞬きの間にアイシスを殺すと、今度はリリィのもとへと迫った。
(そんな……嘘……!?)
 ゆっくりと歩み寄る怪人を前に、リリィはパニックに陥る。
 目の前の現実を理解しきれず、思考の糸がぐちゃぐちゃに絡まる。
 あのアイシスが、死んだのか?
 つい先ほどまで言葉を交わし、共に脱出を誓った彼女が?
 人の命はこんなにも、あっさりと消えてしまうものなのか?
「ゴラゲ、ザラザ、グラゴグザバァ……」
 けたけたと笑みをこぼしながら、蝙蝠が舌舐めずりをする。
 うろたえる様を楽しむように、ゆっくりとした歩みで迫る。
「……!」
 アイシスを庇うように立った龍崎が、きっと双眸を細めた。
 もちろん、それでどうにかなるものでもない。
 相手の飛行スピードと、一撃でアイシスを死に至らしめたパワーを見れば、それは一目瞭然だ。
 最早ここまでか。これで終わりか。
 リリィが己の死を確信し、蝙蝠の手が伸びた瞬間。

「――止まりなさいっ!」

 凛とした声が響くと同時に、無数の銃声が轟いた。
「ヘェッ!?」
 ずどどどどっ、と音が鳴る。
 闇色の蝙蝠怪人の肌が、次々と弾丸の形にへこむ。
 総計10を超える銃弾を、もろに食らった怪人は、思わずその場から飛びのいた。
「大丈夫ですか?」
 入れ替わるようにして現れるのは、金色の髪を揺らす少女だ。
 白いライフルを携え、颯爽と現れた少女の姿は、まるで魔導師のそれにも見えた。
 管理局の騎士が放っていた魔力とは、少し纏う気配が違う。
 それでも、中世の狩人を思わせるその装束からは、その女騎士が纏っていたものと、非常に似通った印象を受けた。
「ああ、助かったよ。君は?」
「巴マミと言います。貴方が龍崎さんですね」
 マミと名乗った少女の問いに、龍崎が頷く。
 それを見届けると、銃の少女は、リリィらの盾になるようにして、蝙蝠の前に立ちはだかった。
「あれは私が引き受けます。下がっていてください」
 頭のベレー帽を脱ぎ、右手に取って虚空をなぞる。
 帽子の裏から地に落ちるのは、白銀に煌めく無数の銃だ。
 まるで手品の帽子のように、次々と武器を取り出すと、それらを地面に突き立てていく。
「バンザ、ゴラゲザ……!」
 せっかくの狩りを邪魔されて、怒りを覚えているのだろうか。
 唸るような声を上げ、蝙蝠が再びファイティングポーズを取る。
 それでも、少女は恐れない。
 微塵も堪えた様子もなく、その手の銃身を怪人に向け、一分の油断もなく構える。
「来なさい。貴方の相手は私がするわ!」
 さながら正義の味方のように、巴マミは宣言した。

◆

(こんな怪物まで、参加者にいたとはね……)
 トリガーを引き、銃弾を放つ。
 弾を撃ち終えたマスケットを捨て、次なる得物へ手を伸ばす。
 次々と弾丸を放ちながら、巴マミは、改めて、目の前の相手について思考していた。
 職業柄、魔女や使い魔といった、化け物と戦うことは多い。
 それでも、こうした人間の体格を、中途半端に残した個体と戦うのは、生まれて初めてのことだった。
 言葉のようなものを話している時点で、知性の感じられない魔女達とは、文字通り一線を画している。
 であればやはり、あれらとは違う、未知のミュータントと見た方がいいのだろう。
(それでも、あまり賢くはない)
 だとしても、マミは天才だ。
 卓越した戦闘のセンスと、1年以上にも渡る実戦経験の重みは、蝙蝠怪人の攻撃をものともしない。
「グドドグギギ!」
 大ぶりなパンチを、ステップでかわす。
 空振った拳はビルに当たり、コンクリートを粉砕する。
 確かにその怪力は大したものだ。それでも、当たらなければどうということはない。
 この敵には知性こそあれど、その程度はそれほど優れてはいないようだ。
 敵の攻撃の線が読める。どのようにして襲ってくるか、手に取るように把握できる。
 その程度の愚図な攻撃に、どれほどの力が込められていようと、まるで恐るるには足りないのだ。
「はっ!」
 蝶のように舞い、蜂のように刺す。
 重力の檻から放たれたように、巴マミは軽やかに舞う。
 両足をしならせ、天へと跳んだ。聳え立つビルの壁を蹴り、そのまた向かいへと虚空を駆けた。
 それほどに天地を駆け廻りながら、背後の龍崎達の護衛も、決して疎かにはしない。
 着地点を計算し、常に龍崎達の前へと、立ちはだかるように降り立っている。
 どれほどのスペックがあろうと、それを振るう者に知恵がなければ、到底対応できるはずもない鮮やかな動作だ。
「そろそろ、終わりにさせてもらうわよ!」
 首元へと左手を伸ばし、しゅるりとリボンを引き抜いた。
 黄色い布に魔力を込めて、新体操のごとくスパイラルを描く。
 変形、そして形状固定。大きな筒状に編まれたリボンは、鋼の大砲へと姿を変える。
「ティロ――フィナーレッ!!」
 がちん、と火打ちの石が鳴った。
 火薬の炸裂が爆発を生み、大気を震わせ唸りを挙げた。
 咆哮する方針から放たれるのは、極大の魔力砲弾だ。
 巴マミの必殺技――砲撃魔法、ティロ・フィナーレ。
 猛然と迫る質量は、過たず怪人の懐を捉えた。
「グェエエッ!」
 ぎゅん、と音を立てながら、こげ茶色の影が飛んでいく。
 砲弾をもろに食らった蝙蝠男が、そのまま後方へと吹っ飛ばされていく。
 やがてそのまま、ビルの壁へと、勢いよく叩きつけられて、ようやく怪人の身体は静止した。
「さて、まだ続けましょうか?」
 大砲をリボンへと戻し、通常のマスケット銃と持ちかえる。
 相手は随分と堪えたようだが、それでもまだ生きているようだ。そのしぶとさには、マミも驚嘆した。
 だとしても、このまま勝負を続けても、結果が覆ることはないだろう。
 それこそ、かのお菓子の魔女のように、未だ見せていない奥の手があれば、話は別だが。
「……チィッ!」
 そしてどうやら、蝙蝠男も、これ以上は無駄だと察したらしい。
 憎々しげに舌打ちをすると、そのままくるりと振り返って、いそいそと逃げ出していった。
 追って拘束すべきか、とも思ったが、今は後ろに守るべき者もいるのだ。
 もう少し待っていれば、杏子も追い付いてくる。追いかけるのは、護衛対象の安全を確保してからにすべきだろう。
「さて、と……怪我はありませんでしたか?」
 いずれにせよ、これで脅威が去ったのは確かだ。
 振り返りながら、龍崎達のいる方に振り返る。

「――困ったな。せっかくの珍客だったのに、逃がしては勿体ないじゃないか」

 しかし、瞠目。
 そこにあった光景に、思わずマミは目を見開いた。
 黒コートの男――龍崎の頭上には、白く煌めく3つの光輪。
 そして瞬きの刹那には、既に龍崎の姿はなく。
 紫色の炎を身に纏い、漆黒のマントを翻す、鋼の狼の姿がそこにあった。
《……!》
 同行していた長髪の少女が、思わず、彼の元から離れる。
 面食らったのはマミとて同じだ。
 誰が想像できるだろう。ただの人間に過ぎなかった男が、一瞬にして、黒い魔人へと変貌を遂げるなどとは。
 厳めしい狼を象った頭部からは、3本2対の6本角が、大きく禍々しくせり出している。
 胸元に髑髏があしらわれた、黒と黄金の体躯は、まるで甲冑か何かのようだ。
 触れれば怪我をするどころか、ズタズタに引き裂かれてしまいそうな、剣呑な気配を醸し出している。
 見るからに、異様な存在だった。
「願わくば、君と相打ちになってくれればよかったのだけどね」
 言いながら、狼が前に出る。
 その手に長柄の斧を取り出し、獣の爪の生えた足で、悠然とマミの方へと踏み出す。
 びゅう――と風が荒れた気がした。
 突風に乗って、無数のナイフが、身体を串刺しにしたように感じた。
 ぶるりと肩を震わせる。全身から滝のように汗が噴き出す。
 呼吸は食道を彷徨い、息することさえままならなくなる。
 これは殺気か。ただ殺意を飛ばしただけで、これほどのプレッシャーに襲われるとは。
 白い魔法少女・織莉子と同等? いいや、遥かにそれ以上。
 さながら全身が凍りついたかのように、身体が震えて動かなくなる。
「……貴方は、殺し合いに乗っていたのね……?」
 それでも、棒立ちでいるわけにはいかない。
 何とか己を奮い立たせ、マミは龍崎へと問い掛ける。
「さっきの僕の声を聞いて、獲物が集まってくれれば、と思ってね」
 闇色のオーラを纏いながら、黒い狼が迫り来る。
 一歩、一歩と歩み寄り、少しずつ距離が狭まっていく。
 そして。
 遂に。
「――っ!?」
 一挙に踏み込んだ龍崎が、猛然とマミ目掛けて加速した。
 未だ離れていたはずの黒い鎧が、一瞬にして倍のサイズに膨れ上がった。
 目前、斧の射程距離。一歩でも回避が遅れれば、恐らくこの身はここで死ぬ。
 行けるか? 正直自信はない。
 否、それでも行くしかない。
 マミもまたアスファルトを踏みしめ、斬撃から飛び退ろうとした瞬間。

「――はぁああああッ!」

 それに呼応するかのように、もう1つの影が飛び込んだ。
 振り降ろされる斬撃を、左側に跳んでかわすマミと。
 その左側から現れて、龍崎に振り降ろされる刀。
 黄色と青の2つの星が、漆黒の闇にクロスを描く。
 互いにすれ違った刹那、マミはその顔をしかと見た。
 青い長髪をたなびかせ、阿修羅の形相で斬りかかる、少し年上の少女の姿を。
 マミの金色の瞳と、少女の藍色の瞳が合わさる。
 互いに視線を合わせた瞬間、マミは――そして恐らくは、剣の少女も認識した。
 この少女は味方だと。
 恐らくは、同じ目的を持って、この場に集った「同志」なのだと。
「!」
 がきん、と金属の音が鳴る。
 すれ違いざまの斬撃が、鎧と重なり火花を散らす。
 跳躍と共に振るわれた刃は、一刀を叩き込んだ直後に、龍崎の左方へと通り抜ける。
 荒々しくも素早く着地した少女は、何故か入院患者のような服装をしていた。
 その手に握り締めた日本刀が、天上の星明かりに照らされて、ぎらりと鋭い光を放った。
「ザルバか。随分と可愛い剣士とつるんでるじゃないか」
「何だ? こいつ、俺を知っているのか?」
 少女から――正確にはその手元から、ハスキーな男の声が聞こえた。
 見ると、白魚のような指元に、髑髏を象った指輪が見える。
 詳しい原理は分からないが、あの青髪の少女には不釣り合いなアクセサリーが、龍崎の呼びかけに応えたらしい。
「私は巴マミ!」
 ともあれ、そんなことを気にしている場合ではない。
 左手にリボンを生成すると、マミは青髪の少女へと叫ぶ。
「風鳴翼だッ!」
 翼と名乗った少女もまた、その声に呼応し名前を叫んだ。
「その娘を、この場からできるだけ遠くへ! この場は私が引き受けます!」
 ちょうど翼のすぐ傍には、龍崎と一緒にいた少女がいる。
 恐怖に震えている少女には、見たところ、戦う力はなさそうだ。
 翼の援軍はありがたかったが、今回は相手が相手である。たとえ2人がかりであろうと、少女を守りきれるとは限らない。
「……心得たッ!」
 一瞬、逡巡を見せたものの、言わんとしたことは理解したらしい。
 すぐさま凛々しい顔立ちに戻ると、翼はよく通る声で、マミの申し出に応じた。
「私もすぐに戻るッ! それまで無事でッ!」
 ベージュの髪の少女の手を取り、振り返りざまに一言告げる。
 そしてそれだけを端的に告げると、翼は少女を引き連れて、脇目もふらさずに戦線を離れた。
 当然、待ち伏せを狙っていた龍崎だ。それを許すはずもなく、翼らの後を追おうとする。
「行かせない!」
 その行く手を阻んだのが、マミの放ったリボンだった。
 黄色い軌跡が闇を駆け、漆黒の籠手に絡みつく。
 暗黒の狼を引き止めるべく、リボンを握る手に力を込める。
「ほう。僕相手に、本当に1人で挑むつもりか」
「ええ……貴方の相手は私がするわ」
 正直、まるで余裕はない。
 これほどの殺気を放つ相手だ。恐らく先ほどの蝙蝠とは、まさに次元の違う大物なのだろう。
 こうして相対しているだけでも、膝の震えが止まらなくなる。
 それでも、引き下がるわけにはいかなかった。
 敢えて不敵な笑みを作り、己を奮い立たせんとした。
 ここでこいつを止めなければ、確実に犠牲が増えることになる。
 それだけは阻止しなければならない。たとえ刺し違えることになろうとも、こいつを倒さなければならないのだ。
(……違うわね)
 一瞬浮かんだ考えを、しかし、頭の外へと捨てる。
 そうだ。刺し違えてはいけないのだ。
 何せ西にある基地では、杏子が自分の無事を祈っているのだ。
 まだまだ障害は多いが、それでも、仲直りすることはできた。
 またいつか、共に肩を並べて戦う日のためにも、ここで死ぬわけにはいかない。
 たとえこの怪物が相手でも、勝って生き残らなければならないのだ。
「いいだろう」
 ぶち――と嫌な音を立てて、リボンが引きちぎられた瞬間。
「――行くわよっ!」
 負けられない一戦を制するために、マミは文字通り全霊を賭して、右手の引き金に力を込めた。

◆

「バンバンザ、ガボガビ……!」
 痛む腹を押さえながら、傘をさした男がぼやく。
 蝙蝠怪人ズ・ゴオマ・グは、人間の姿へと戻って、ふらつく足で夜道を進む。
(聞いていないぞ、あんな奴は)
 思い返すのは、あの不思議な力を使う、黄色いリントの少女のことだ。
 俊敏華麗に身をこなし、無限の武器で攻め立てる様は、これまでに見たことのない光景だった。
 恐らくはあのクウガとも、いい勝負をするのではないか。
 それを魔石も持っていない、ただの人間の少女が、それほどの戦闘能力を発揮したというのか。
(恨むぜ、バルバ)
 畜生、と胸中で悪態をつき、ゴオマは手近なビルにもたれかかった。
 今回のゲゲルの開催もそうだが、とにかく予定外のことが多すぎる。
 こんなゲゲルが開かれるなどとは、今までに一度も聞いていなかった。
 ダグバのベルトが完成したことも、あの映像で初めて知った。
 クウガと同等に戦えるリントの存在も、それがここに紛れ込んでいることも、全てが聞かされていないことだらけだ。
「……ヅギダ、ボソグ……!」
 次は必ず殺してみせる。
 いいや、黄色の少女だけでない。この場に集った全員だ。
 さっさと全員を殺して、このゲゲルの優勝者となり、バルバを問い詰めてやらねば気が済まない。
 怒りと憎しみに震えながら、ゴオマは星空を睨んだ。


【1日目・黎明/C-3 市街地】

【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ】
【状態】腹部にダメージ(中・回復中)、全身にダメージ(小・回復中)
【装備】冥の仕込み長刀(日傘形態)@喰霊-零-
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~2
【思考】
基本:このゲームの優勝者になる
1:黄色いガキ(=マミ)は、次に会ったら必ず殺す
2:なるべく多く殺して優勝する。力を見せれば、バルバもゲゲル参加を認めてくれるに違いない
3:今回の不確定要素について、バルバを一度問い詰めたい
【備考】
※EPISODE25「彷徨」終了直後からの参戦です


◆

「ここまで来れば、見つかることもないだろう」
 市街地に数多立ち並ぶ、高層ビルのその1つ。
 街の南方から平野に伸びる、その一本道のすぐ傍で、風鳴翼が呟いた。
《あの……》
「心配するな。シュトロゼックだったか。君の安全は私が保障する」
 テレパシーで語りかけてくる少女に、翼は力強く応える。
 脳に直接響く声というのは、どうにも奇妙な感覚だ。
 それでも、彼女が暴力に震える、1人の少女であることに変わりはない。
 そのような人々を守ることこそが、防人である己の務めだ。
「……ザルバ。本当にあの黒騎士のことは知らないのか?」
 そこまで考えて、ふと思い出し、指元のザルバへと問いかける。
 狼の鎧を纏った男――龍崎と同じ声を持った男は、明らかに親しげな様子で、ザルバに話しかけてきた。
 しかし、当のザルバの方は、お前のような奴は知らないと言ったのだ。
 その祖語がどうしても引っ掛かり、事の詳細を尋ねる。
 もしも彼の記憶違いで、本当は知っていたのだとしたら、敵のことを知っておくいい機会だ。
「悪いが、俺は過去の戦いで、一度記憶が飛んでるそうでな。仮に会ってたとしても、あの魔戒騎士のことは知らない」
「そうか。だとすれば、適宜対応していくしかないな」
 言いながら、翼はザルバを指から外す。
 そのままデイパックを降ろすと、そのポケットの1つを空けて、ザルバを突っ込もうとした。
「待て。何故俺を仕舞うんだ?」
「……今から着替える。お前も男だろう」
 それ以上は言わせるな、と。
 少し頬を朱色に染めて、翼はザルバを鞄に入れた。
 改めて向き直った先には、戸の空いた鉄のロッカーが見える。
 どうやらここは、建築関係の事務所だったようだ。中にはツナギの作業着があった。
 それをロッカーから取り出すと、なるべくリリィの位置から見えないようにして、羽織った病院着に手をかける。
(待っていてくれ、巴マミ)
 恐らく、あの敵は相当に強い。佇まいの雰囲気1つでも、相当に危険な男であることは想像できる。
 だとしても、あの場にはあの少女がいる。
 同じ志を持った者だと、一目で確信することができた、あの巴マミが控えている。
 同じ防人と見込んだ女だ。共に戦うという誓いも、彼女とならきっと果たせるはずだ。
(その時こそ、あの黒騎士を断つ――ッ!)
 奴を許すわけにはいかない。
 人々を守る救世主を騙り、他の参加者をおびき寄せ、殺そうとしていたあの邪悪を、決して野放しにはできない。
 衣服を着替え、想いも剣へと切り替えながら、翼は強く決意した。


【1日目・黎明/C-3 市街地・雑居ビル2階】

【風鳴翼@戦姫絶唱シンフォギア】
【状態】健康
【装備】作業服、獅子王@喰霊-零-
【道具】支給品一式、ザルバ@牙狼-GARO-、イチイバル(待機形態)@戦姫絶唱シンフォギア、入院着
【思考】
基本:殺し合いを止め、主催者を捕える
1:巴マミと合流し、龍崎を倒す
2:リリィを守る
3:天羽々斬を探す
【備考】
※第6話「兆しの行方は」にて、立花響と別れた直後からの姿です
※ザルバから、魔戒騎士・魔戒法師について、断片的な情報を得ました

【ザルバ思考】
1:とりあえず、翼と行動を共にする
2:獅子王に宿された何物かが気になる
3:龍崎のことが気になる
※「白夜の魔獣」終了直後からの参戦です。龍崎駈音(バラゴ)に関する情報は聞かされていません

【リリィ・シュトロゼック@魔法戦記リリカルなのはForce】
【状態】不安
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:ここから生きて脱出する
1:トーマを探して合流する
2:アイシス……
【備考】
※Record 08:「Huckebein Ⅱ」終了直後からの参戦です。服は拘束直前のものを着ています
※トーマ・アヴェニールが参加していることに気付いています


◆

 ビルの谷間の闇の中で、小日向未来は震えていた。
 進むことも戻ることもできず、ただその場でうずくまり、恐怖に身を震わせていた。
 始めは、龍崎なる男の声を聞き、彼のいる所へ行くつもりだった。
 それでも、その声のした方角から、不意に戦いの音が聞こえてきた時、足が竦んでしまったのだ。
 この先で、何者かが戦っている。
 命を奪い合う者同士が、敵を殺すべく戦っている。
 そんなところに向かっていけば、巻き添えを食ってしまうかもしれない。最悪、自分も死ぬかもしれない。
 それでも、戻ることはできない。あちらには、殺してしまったマミがいるのだ。
 今更来た道を引き返し、己の罪を顧みることは、今の未来にはできなかった。
 行くも地獄。
 戻るも地獄。
 どうする。自分はこれからどうすればいい。
 どうにもならない問い掛けが、脳内で堂々巡りをする中。
「――大丈夫かい?」
 不意に、頭上から声が聞こえた。
 ひっ、と小さく悲鳴を上げて、おずおずと声の方を見上げた。
 いつの間にか、視線の先に、1人の男が立っていた。
 身に纏う漆黒のコートとは裏腹に、優しい笑顔が非常に似合う、穏やかな印象を持った美丈夫の姿だ。
「僕は龍崎駈音、カウンセラーだ。よかったら、話だけでも聞かせてくれないかな」
 龍崎駈音と名乗った男の手が、怯える未来へと差し出されていた。


【一日目・黎明/C-3 市街地】

【龍崎駈音(バラゴ)@牙狼-GARO-】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品0~4、拡声器@現実
【思考】
基本:このゲームの優勝者になる
1:平時は龍崎駈音として振る舞い、「殺し合いの打倒を目指す」ふりをする
2:目の前の少女(=未来)と話をする。使えるようなら利用する
【備考】
※第23話「心滅」終了直後からの参戦です

【小日向未来@戦姫絶唱シンフォギア】
【状態】恐慌状態
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1
【思考】
基本:響を優勝させるために殺し合いに乗る……?
1:龍崎と話をしてみる?
【備考】
※第8話「陽だまりに翳りなく」にて、クリスと別れた直後からの参戦です
※巴マミが死亡したと思っています


◆

 C-3のレストラン前には、凄惨を極める光景が広がっていた。

 崩れ落ちた瓦礫の下には、辛うじて原型をとどめた死体が、無惨に打ち捨てられている。
 首筋に歯型が刻まれたそれは、アイシス・イーグレットのものだ。
 死因は、瓦礫による圧死ではない。
 崩れたコンクリートの破片は、彼女が死んだ瞬間よりも、そのまた後に落ちたものだった。

 見れば、あちこちのビルには、痛ましい斬撃痕が刻まれている。
 中には真ん中から断ち切られ、真っ二つに折れたビルもある。
 この見るも無惨な戦禍の跡は、戦争や災害によるものではない。
 僅か2人の戦士による、1対1の戦いの中で、この街に刻まれた傷跡なのだ。
 それも正確には、そのほとんどが、2人のうちの片方によって、刻み込まれたものだった。

 荒涼とした風の中に、さらさらと白い光が混じる。
 砕かれ捨てられたマスケット銃が、魔力の支えを失って、分解され闇へと溶けていく。
 白い風の向こうにあるのは、巨大な傷を残すレストランだ。
 正面の右から左に向けて、真っ向一文字に斬り払われた、大きな斬撃痕が刻まれていた。

 そしてその中央に、大きな一輪の花がある。
 レストランの入口に割いた、深紅に広がる花がある。

 血濡れの花の足元には、頭部を失った巴マミが、力なくもたれかかっていた。



【巴マミ@魔法少女おりこ☆マギカ 死亡】
【残り37人】



【備考】
※C-3・レストラン前に、巴マミの死体、アイシス・イーグレットの死体、破損したM1911@現実が放置されています

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最終更新:2013年03月29日 03:10