「283プロダクションのイルミネーションスターズの櫻木真乃さん、ですね? お待ちしておりましたよ」

 櫻木真乃さんの案内を受けて、283プロダクションに辿り着いたわたしたちを出迎えてくれたのは、金髪のお兄さんだったよ。
 背が高くて、姿勢はとてもいいし、その笑顔だってクールでステキ。スーツとネクタイもバッチリ着こなしていて、バケニャーンに変身したユニみたいにエレガントだよ。
 もしかして、この人もティーセットを構えながら上品に戦うことができるかな? そんな呑気なことを、わたしは考えちゃった。

「あ、あの……あなたは、いったい……? それに、どうして283プロがこんなに荒れているのですか!?」

 真乃さんの動揺に、わたしも部屋を見渡す。
 地震や台風の被害にあったと思うほど荒れていたよ。壁と床、それに天井はヒビだらけで、棚やTVなどたくさんのものが壊されている。ソファーとテーブルだけは無事だけど、他はみんなめちゃくちゃになっていた。
 当然、真乃さんは愕然とした表情で震えているし、わたしだって驚いているよ。

「それについては、これから順を追って説明します。この283プロダクションについて、伝えることがたくさんあるので」

 でも、お兄さんは真乃さんを落ち着かせるよう、ゆっくり話してくれた。
 にこやかな笑みは絶やさず、声色はとても穏やかで、真乃さんはすぐに落ち着いてくれたよ。

「そちらの方が、真乃さんのサーヴァントでしょうか?」
「は、はい! わたしは……アーチャーです! アーチャーのサーヴァントとして、真乃さんを守ってます!」
「アーチャーさん、ですか。とても活発ですね」

 お兄さんの目が向けられて、思わず背中を真っ直ぐに伸ばしながら、わたしは大きな声で答えちゃった。でも、お兄さんはわたしの声に構わず、落ち着いている。

「では、私について自己紹介をします。私は『アサシン』のサーヴァントであり、マスターからの依頼があってこの283プロダクションに訪れました。そして、私のマスターは……真乃さんと同じ283プロダクションに所属するアイドルの、田中摩美々さんです」
「ま、摩美々ちゃん!?」

 アサシンと名乗るお兄さんの口から出てきた名前に真乃さんは驚いた。
 もちろん、わたしだってビックリしたし、田中摩美々さんだったらわたしも知っているよ。
 聖杯戦争になってから、真乃さんは何度か283プロのアイドルについて教えてくれて、その中に摩美々さんの名前も含まれていたね。

「私はマスターの命を受けて、この283プロダクションに訪れた敵対マスターとサーヴァントに立ち向かうことになりましたが……不手際によって、部屋を乱雑にしてしまい、大変申し訳ありません」

 アサシンさんは表情を曇らせながら、真乃さんに頭を下げてくれる。
 嫌味とかは全くない、心からの誠意が詰まった謝罪だよ。姿勢だってちゃんとしているし、この人の誠実さが伝わってくる。
 ……部屋をよく見ると、傷一つないソファーとテーブルの上には、お菓子とお茶が用意されている。真乃さんが来ることを知っていたから、ここだけは守ってくれたのかな?

「い、いえっ!? 私も、ここで何があったのかわからないので……アサシンさんが謝るのは、違うと思います!」
「お気遣い、感謝いたします。でしたら、話を進めていきますね。アーチャーさんの分も、お菓子などは用意してますので、遠慮なく召し上がってください」

 そう言いながら、アサシンさんはわたしたちがソファーに座るように誘導してくれる。
 アサシンさんは笑みを忘れないけど、その目は緋色に輝いていて、炎のように熱く見えちゃう。誰にも譲れない強い意志があることが、一目でわかったよ。

「そして、ここまで来てくださったお二人の為に、私はここで起こった出来事を包み隠さずに伝えましょう。それを踏まえて、今後をどう動くのかはあなたたち次第ですので」

 それから、わたしたちはソファーに腰かけると、アサシンさんは話してくれた。
 この聖杯戦争で白瀬咲耶さんの命を奪った犯人が、次は283プロダクションそのものをターゲットにして、アイドルや従業員さんたちを襲おうとしたことを。
 犯人の悪事を阻止するため、アサシンさんは街の色んなところで情報を集めながら協力してくれる人たちを増やして、みんなが避難できる地盤を整えてくれた。
 だから、七草はづきさんから電話がきて、真乃さんは283プロの異変に気付くことができたよ。
 その一方で、田中摩美々さんのお願いを受けたアサシンさんは、283プロにやってきた犯人と『話し合い』をして、退けることに成功した。
 そして、真乃さんが283プロに来ることを予測したから、アサシンさんは残ってくれたみたい。
 あと、咲耶さんが書いた手紙についても、アサシンさんは話してくれた。
 咲耶さんは自分に何かあった時に備えて、帰りを待っているみんなにメッセージを残してくれたの。
 お父さんとお母さん、283プロのプロデューサーさんやアンティーカの人たちに向けた感謝が書かれていた。
 そして、手紙を読んだ人に向けたメッセージはもう一つある。
 例え、どんな失敗をしたり、そのせいでたくさんの人から責められることがあっても……咲耶さんは許してくれると。

「何があっても、自分を責める必要はない。あなたが、生きてこの東京から帰って、幸せになってくれることを願っています……それが、咲耶さんの最期の願いです」

 そう言って、アサシンさんは締めくくったよ。
 アサシンさんの話が終わった途端、部屋がしんと静まった。
 真乃さんとわたしは、すぐに言葉を出すことができない。
 ただ、アサシンさんから伝えられた咲耶さんの想いに、胸がざわついている。

「さ、咲耶さん……咲耶さん……!」

 静かな空気を破ったのは、真乃さんの嗚咽だよ。
 わたしは何を言えばいいのかわからなくて、ただ真乃さんを支えることしかできない。
 梨花さんたちも話していたけど、やっぱり咲耶さんは本気でこの聖杯戦争を止めようとしていた。その方法をきちんと考えて、他の人を説得しようと頑張ったはず。

「私は咲耶さんの願いを受け継いで、マスターと……そして283プロダクションの関係者の方々を絶対に生還させる責任を負いました。その為に、私は一人でも多くの協力者を得ようと考えています」

 アサシンさんの言葉は強い。
 聖杯戦争なんてせずに、一人でも多くの人と力を合わせて、この世界から抜け出したいとアサシンさんは思っている。
 ここにいない咲耶さんも、そしてアサシンさんも……絶対にわたしたちのことを仲間として受け入れるよ。

「……待ってください」

 でも、わたしはアサシンさんの好意に甘えちゃいけない。
 その前に、きちんと伝えるべきことがあるから。

「どうかしましたか、アーチャーさん?」
「アサシンさんに、聞いてほしいことがあるんです。わたしが、ここに来る前に……グラスチルドレンの子と戦って、命を奪ったことを」

 ソファーから立ち上がりながら、わたしはアサシンさんと見つめ合う。
 また、真乃さんの優しさを裏切ることになるけど、わたしは自分の罪を隠したくない。

「本当なら黙った方がいいかもしれません。でも、ここで黙ったままなのは、無責任な気がしたんです……アサシンさんだって、わたしたちにちゃんと話してくれたから、わたしもちゃんと伝えるのが筋だと思いますから!」

 手紙の中で、咲耶さんは何があっても自分を責める必要はないって言ってくれた。
 でも、その優しさに甘えて、このままアサシンさんたちの仲間になるのは絶対に違う。
 ユニとアイワーンだって、きちんとお互いに自分の過ちを謝り合って、償いをしたうえで歩み寄ったから。

「それから、もう一つ……お話があります」
「何なりとお申し付けください」
「わたしたち、事務所に来る前……ある人と出会ったんです。その人たちは咲耶さんと出会ってて、どれだけ辛いことがあっても生きて元の世界に戻ってと、咲耶さんから言われたみたいです。
 それに、咲耶さんは具体的なプランも持ちかけていましたけど……わたしたちにはまだ何もないから、協力者になれないって言われちゃって……」

 梨花さんとセイバーさんの名前を出さずに、わたしはアサシンさんに相談する。
 わたしが息を呑んじゃうほど、アサシンさんは具体的なプランを用意しているはずだよ。まるで研究者さんみたいにスラスラと言葉が出てくるし、何よりも自信で溢れている。
 だから、今はアサシンさんに頼るしかなかった。

「……それでは、お二人に質問をしましょう」

 でも、アサシンさんから返ってきたのは予想外の言葉だよ。

「例えば、ある農家がいたとします。その農家はグレープフルーツの栽培で生計を立てていましたが、ある日突然……酸っぱ過ぎるという苦情が来て、売れ行きが怪しくなりました。こんな時、お二人ならどうしますか?」
「えっ? な、なんですかそれ? もしかして、クイズやなぞなぞですか……?」
「そうですね。何でもいいので、お二人で案を出し合ってください」

 丁寧な笑顔とともに告げてくるけど、アサシンさんからは確かな意志が伝わった。
 まるで、わたしたちの答えを本気で待っているみたい。優しいけど、ライダーさんやセイバーさんとはまた違う意味で、わたしたちを試していそう。
 でも、アサシンさんの言葉を無碍にするのはダメだから、わたしと真乃さんは見つめ合ったよ。

「う〜ん……冷たいジュースにして、売ってみるのは? とてもトロピカってて、キラやば〜! な、新作グレープフルーツジュースとして、みんなに宣伝するんです!」
「ほわっ……私だったら、収穫時期をずらしたり、あるいは追熟させて味を変えますね。果物や野菜は工夫次第で、収穫前に味を変えることができますし」

 わたしと真乃さんで意見が分かれたけど、アサシンさんはほほ笑んでいるよ。
 この答えが正解なのかまだわからない。でも、アイディアを出したおかげで、わたしの心は何だか明るくなりそう。

「なるほど。他には、何かありますか?」
「はいはい! わたしは思いつきました! グレープフルーツはスイーツの材料にもなるので、ゼリーやムースも作っちゃうんです! レッツ・ラ・クッキングタイムで、みんなにお菓子をお届けできますよ!」
「あと、グレープフルーツは美肌やダイエットにも期待できるので、アイドルのための……おいしい食べ方やレシピもみんなに教えてあげます。私たちアイドルに欠かせないオイルや化粧水の材料にもできますから」
「でしたら、サラダやヨーグルトにも混ぜてみましょうか! 女の子に優しい美容レシピとして、みんなに紹介するんです! これを食べれば、生きてるって感じ〜! になれるって!」
「うん! でもね、気を付けないといけないよ? グレープフルーツはおいしいけど、食べ過ぎたりするのはダメだし、あとお薬と一緒に飲むのも危険だから」
「あっ……そ、そうでした! じゃあ、ちゃんと注意書きも忘れちゃいけませんね!」
「ふふっ! それに気付けたら、大丈夫だよ! じゃあ、他に何かアイディアはあるかな?」
「いっぱいありますよ! 真乃さんに負けないくらい、わたしは用意してますから!」
「私だって負けないよ!」

 アサシンさんが見守る中、わたしと真乃さんはたくさんの案を出したよ。
 どうすればグレープフルーツが売れて、農家の人を助けられるようになるのか。農家の人が愛情を込めて育てたグレープフルーツだから、多くの人に買ってもらいたい。
 そのままの味が好きな人には、グレープフルーツの味だけで楽しんでもらう。
 甘めのグレープフルーツを楽しみたい人のためには、レシピや収穫のタイミングで工夫する。
 美容目的でグレープフルーツが欲しい人には、栄養素を最大限に活かせる方法を考えるよ。
 わたしと真乃さんが案を出せば、それだけ笑顔が生まれる。わたしたちがアイディアを話す度に、お互いのことがもっとわかる。
 真乃さんことをもっと知ることができたし、わたしのことだってもっと知ってもらえる。それがとっても幸せで、心が満たされていくよ。
 だって、今のわたしと真乃さんは……無限大のイマジネーションで溢れているから!

「……お二人とも、ありがとうございます」

 夢中になっていたわたしたちに、アサシンさんは優しい声で呼びかけてくれる。
 気が付いたら、既に10分以上も経っていたよ!

「ほ、ほわっ!? 私たち、つい熱くなって……」
「ご、ごめんなさい! アサシンさん!」
「いえいえ! 元々、私が言い出したのですし、お二人が出したプランはどれも斬新で素晴らしいと思いますよ。それがあれば、農家も大助かりでしょう。100点満点です」

 パチパチパチ、と手を叩きながら、アサシンさんはわたしたちを褒めてくれたよ。
 綺麗な笑顔に胸が暖かくなる。でも、同時にわたしの中で疑問がもう一つ出てくるよ。

「えっと、アサシンさん……今のは、何だったのですか?」
「これは、言ってしまえば入門テストです。真乃さんとアーチャーさんの決意を測るため、一つテーマを用意しました」
「……入門テスト?」

 アサシンさんの言葉に、わたしたち二人は同時に首を傾げちゃう。

「ええ。私、アサシンが裁定者(ルーラー)となって、お二人の判断力を確かめてみたのです。もちろん、罰則などはありませんし、それはマスターの信頼を裏切ります。
 結果として、お二人は協力者として充分な力量を持っていると判断します」
「ほわっ!? で、でも……私たちはこの聖杯戦争を止めるための、方法なんて……」
「たった今、お二人は意見を交わし合い、数えきれない程のプランを出しました。即席のテーマに対しても、それだけの発想力と着眼点さえあれば、今後のプラン立案にも期待できるでしょう」

 アサシンさんの笑顔に、雷が走るような衝撃を全身に感じた。
 すぐにわたしは気付く。アサシンさんが用意してくれた入門テストは、わたしたちに自信を持たせるためだって。
 実際、入門テストを受けていた時、わたしたちは心から楽しんでいたから。

「……アサシンさん、でも、わたしは……」

 そう口にしながら、わたしの心が沈んじゃう。
 アサシンさんは認めてくれたけど、わたしが人の命を奪ったことは変わらない。このままアサシンさんの仲間になっていいとは、どうしても思えなかった。

「アーチャーさん、あなたはあなた自身の意志で罪を背負うでしょうが、それでもあなたに生きてほしいと願う人はたくさんいます。例えば、隣にいる櫻木真乃さんのように」

 暗闇を照らす太陽みたいに明るい言葉が、アサシンさんの口からわたしの心に届く。

「もしも、アーチャーさんが本当に罪を償いたいと願うなら、あなた自身を否定してはいけません。この聖杯戦争から脱出した後も、誰かと一緒に償ってもらいましょう……今からでも、まだ間に合います。
 これは、僕のことを大切に想い続けてくれた"友達"が教えてくれたことですが」

 友達。
 その言葉を聞いて、アサシンさんの姿とララが被って見えた。
 ララだって、わたしが何度間違えることがあってもずっと隣にいてくれた。もちろん、わたしだって何があってもララの隣にいたよ。
 2年3組のみんなにララが宇宙人だってバレた時も、わたしたちは隣に寄り添いあった。何があろうともララはララだから。
 わたしにとってのララみたいな友達が、アサシンさんにもいるんだね。

「アサシンさんの言う通りだよ」

 わたしの肩に優しい手が添えられる。
 振り向くと、真乃さんが笑顔を見せてくれた。いつもの暖かい顔に、わたしもほほ笑んじゃう。
 もう、言葉はいらなかった。今だってお互いのことをもっと知ったし、公園でも隣にいることを約束し合ったからね。


 それから、アサシンさんは今後のことについて話してくれた。
 田中摩美々さんの他にも同盟を組んでいる人がいるみたい。でも、大人数で集まると目立っちゃうし、悪い人たちから狙われたりトラブルが起きるリスクも高くなる。だから、しばらくは別行動を取るようにと言われた。
 もちろん、連絡自体は定期的に取り合うみたいだけど、合流はタイミングを見計らってからになるね。

「お二人ならば心配はいりませんが……我々との同盟については、他言無用で。万が一、同盟者と成り得る人物に話すとしても、事前の相談をお願いしますね」

 アサシンさんの言葉に、わたしと真乃さんは頷いた。
 今、事務所の最寄り駅にまで送ってもらったから、ここでアサシンさんとは一旦お別れだよ。

「例え、これから何があろうとも……私はお二人を信じます。あなたたちの気持ちは同じですから、生きて、同じ未来を見続けることもできるでしょう」

 そう言い残して、会釈をしながらアサシンさんは去っていくよ。
 「ありがとうございました!」と、わたしたちは声をそろえながら、その真っ直ぐな背中を見送った。

「うぅ〜! 本当に、ごめんなさい……わたしが、二度も余計なことを言って話をこじらせちゃって……」
「大丈夫だよ。ひかるちゃんは正直だから、あそこで隠すなんてできなかったんだよね。アサシンさんは私たちを信じてくれたから、頑張らないと!」
「あ、ありがとうございます! 真乃さんっ!」

 アサシンさんと別れてから、わたしたちは街を歩いているよ。
 真乃さんの励ましは嬉しいけど、今回はわたしが先走ったことは変わらない。これは反省しないとね。
 みんなのためを思うなら、真乃さんと一緒にアイディアを考える……アサシンさんが教えてくれたことは大事にしよう。

『それと、ひかるちゃん……ありがとう。アイさんやあさひくんたちのことを黙ってくれて』

 真乃さんからの念話が聞こえてくる。

『……まだ、あの人たちについては話さない方がいいですからね。アイさんもあさひさんも、自分たちのことをペラペラ話してほしくないですから』
『うん、ライダーさんは他のサーヴァントに会いに行くって教えてくれたけど、それだって本当は私たちに話す予定じゃなかったと思うの。相手は警戒心が強いって言ってたし。
 やっぱり、アヴェンジャーさんがいたから……だと思う』

 事務所に向かうタクシーの中で、わたしたちは今みたいに念話で密かに相談していたんだ。
 これから先、他の誰かと会うことになっても、星野アイさんや神戸あさひさんたちのことは秘密にしようって。
 あさひさんはライダーさんのことを知って、心の底から怒っていたからだよ。もしも、事務所で四人のことを話しても、みんなで協力できるとは限らないし、逆にトラブルの原因になる。
 当然、わたしたちの信用は失うけど、それ以上にみんながバラバラになる方が怖い。

『特にライダーさんのことは、慎重にならないと。摩美々ちゃんがあの人のことを知ったら、絶対に怒るし……アイさんだってどう思われるかわからないから』

 真乃さんの心配はもう一つ。
 ライダーさんとガムテの関係が誰かに知られることだよ。ライダーさんの評判が悪くなる上に、アイさんも疑われちゃう。
 昔のライダーさんがどんな人だったか知らないけど、今はアイさんを守りたいって気持ちは本当だと思うから、二人のために黙るしかない。
 ビッグ・マムのことも喋らなかったし、アサシンさんたちには悪いと思っているけど……アイさんたちの安全には代えられなかった。
 摩美々さんは優しいけど、咲耶さんの命を奪ったガムテたちを絶対に許したりはしない。

『わたしも、アイさんやあさひさんたちのことは絶対に秘密にしますよ』
『ありがとう、ひかるちゃん! アイさんたちについてはちゃんと相談して、OKを貰ってからにしようか』

 アイさんとあさひさん、そしてアサシンさん……みんなの秘密を守る責任ができたよ。
 わたしの罪だけなら大丈夫だけど、協力してくれる人たちを売ることは絶対にしない。


 昔、12星座のスタープリンセスたちから、トゥインクルイマジネーションを探してと言われたことがある。これから探すアイディアは、トゥインクルイマジネーション以上に見つけることが難しそう。
 でも、わたしたちは諦めない。アサシンさんたちは命を賭けて誠意を見せてくれたし、何よりも隣には頼れるパートナーがいるから、前に進むことができたよ。



【???・???/一日目・午後】



櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:健康、咲耶の死を知った悲しみとショック(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:ひかるちゃんと一緒に、アイドルとして頑張りたい。
0:ひかるちゃんと一緒に聖杯戦争を止めるアイディアを考える。
1:少しでも、前へと進んでいきたい。
2:アイさんやあさひくん達と協力する。しばらく、みんなのことは不用意に喋ったりしない。
[備考]
星野アイ、アヴェンジャー(デッドプール)と連絡先を交換しました。
プロデューサー田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。



【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:健康
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:なし
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]
基本方針:真乃さんといっしょに、この聖杯戦争を止める方法を見つけたい。
0:真乃さんと一緒に聖杯戦争を止めるアイディアを考える。
1:アイさんやあさひさんのことも守りたい。しばらく、みんなのことは不用意に喋ったりしない。
2:ライダーさんと戦うときが来たら、全力を出す。




 こうして、役割を果たした僕……ウィリアム・ジェームズ・モリアーティはマスターの元に帰還している。
 櫻木真乃さんとアーチャーさんの二人には即興でテストを用意したが、二人は見事なアイディアを出し合って乗り越えた。
 遠い昔、僕を鍛え上げてくれた先生……ジャック・ザ・リッパーこと、ジャック・レンフォードによる入門テストを、僕がアルバート兄さんやルイスと力を合わせて合格したように。
 グレープフルーツの農家とはミシェルさんとバートンさんであり、あの夫妻の課題を元にテーマを用意した。

(やはり、先生の教えは見事ですね。彼女たちが奮起するきっかけにもなりましたし)

 生前、僕たちは野望を果たす第一歩として、アルバート兄さんやルイスと共に先生と戦った。まともな実力勝負では圧倒的に不利だったが、アルバート兄さんとルイスの協力があって勝利を手にする。
 今回はアレンジを加えて、犯罪卿ではなく教師や私立相談役の経験を活かして、真乃さんたちにきっかけを与えた。それも、思春期の少女が楽しめる遊びも取り入れた形で。
 すると、見事に彼女たちは無数のプランを立案した。彼女たちが本気で学べば、僕が講師を務めた大学受験にも合格するだろう。

(真乃さんたちは理想主義者だが、少なくとも情報を不用意に漏らすことはしない。善良だからこそ、同盟相手にとって不都合となる情報を僕たちに話さなかったはずだ)

 真乃さんとアーチャーさんは好戦的な主従ではない。ここに至るまでに他の主従と遭遇し、同盟を組んだ可能性は充分にあった。
 相手の素性はわからないが、彼女たちの様子を見るに表向きでトラブルは起きていない。その上で同盟について話さなかったのは、僕たちに存在を知られた時点で信用を裏切るからだ。
 逆に言えば、彼女たちだけの独断で、僕たちに関する情報を他者に話す可能性も低い。僕が定めたルール以上に、彼女たちの意志が強いはずだ。
 また、アーチャーさんも自分の罪については正直に話したから、誠実であることも確定する。それに、いざという時に戦闘を躊躇する人物でないことも証明された。

(できることなら、咲耶さんと出会った人物についても聞きたかったが……今の彼女たちに尋ねても、絶対に話したりなどしない)

 283プロダクションの事務所に訪れる前、真乃さんたちはある主従と出会っている。
 真乃さん曰く、その主従は咲耶さんと話をして、また283プロダクションにも訪れたかったらしい。だが、別件があって新宿の歌舞伎町で別れたようだ。
 咲耶さんと出会った主従についても興味はあるが、居所がわからなければどうにもならない。マスターのために探すべきかもしれないが、現状での優先順位は低くなる。

(そして、アーチャーさんのメンタルケアが必要になる時が、来るかもしれない。いかなる理由があれど、彼女が手を緋色に染めてしまったことは事実だ)

 それでも、アーチャーのサーヴァントはまだ若く、フレッドとそう歳が変わらなく見える。
 戦闘の過酷さは知り、また気丈に振る舞っているものの、どこかで心が壊れる可能性は否定できない。
 いつか、僕の方から彼女にアドバイスをする機会が訪れるはずだ。

(グラスチルドレンの構成員たちは大半がNPCであって、殺人に該当するかは怪しいが……アーチャーさんにとっては関係ない。この辺りも、上手く説得しなければ)

 グラスチルドレンの構成員を殺害したことにアーチャーさんは心を痛めていた。
 状況的にはやむを得ず、また元の世界に帰還したところで殺人罪に問われるかは不明だ。しかし、道徳や法律に関係なく、彼女自身が許したりなどしない。
 僕の両手が拭いきれない緋色に染まったように、アーチャーさんも永遠に十字架を背負うことになる。その痛みも定期的にケアする必要があった。

(お二人とも、ご健闘を祈りますよ) 

 ただ、今は真乃さんたちを信じるしかない。
 奇跡を起こすためのアイディアを見つけ、運命を変えてくれる可能性は充分にある。
 彼女たちが誠意を見せた以上、絶対に裏切ったりなどしない。僕自身が、彼女たちの期待に応えられるように動くべきだった。


【???・???/1日目・午後】



【アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)@憂国のモリアーティ】
[状態]:健康
[装備]:現代服(拠出金:マスターの自費)、ステッキ(仕込み杖)
[道具]:ヘルズ・クーポン(少量)
[所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)→限定スイーツ購入でやや浪費
[思考・状況]基本方針:聖杯の悪用をもくろむ主従を討伐しつつ、聖杯戦争を望まない主従が複数組残存している状況に持って行く。
0:今はマスターの元に帰還し、状況を話す。
1:『彼(ヒーロー)』が残した現代という時代を守り、マスターを望む世界に生還させる。その為に盤面を整える。
2:白瀬咲耶さんの願いを叶えるため、マスターには復讐に関与させない。
3:同盟者を増やす。283プロダクションの仕事報告を受け取る際に噂を拾えた『義侠の風来坊』を味方にできればいいのだが。
4:"もう一匹の蜘蛛(ジェームズ・モリアーティ)"に対する警戒と嫌悪。『善なる者』なら蜘蛛を制するのではないかという読み。
5:白瀬咲耶さんと出会った主従についても興味はあるが、現段階では後回しにするしかない。




時系列順


投下順



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036:この檻の外へ 古手梨花 058:霽れを待つ
セイバー(宮本武蔵)
029:ピースサイン 櫻木真乃 043:I will./I may mimic.(前編)
アーチャー(星奈ひかる
044:ZONE/ALONE(前編) アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ) 065:醜い生き物たち(前編)

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最終更新:2023年02月20日 23:45