◆
神戸あさひくんとの電話は、一方的に切られました。
私とひかるちゃんを心配してくれたことが、ほんの少しだけ嬉しくなったのに。
やっぱり、今でも聖杯を求めていましたけど、あさひくんの声は震えていました。
あさひくんにだって、どうしても叶えたい願いがあることを、私は知っています。
けれど、何もできずに迷っていた私を優しく励ましてくれたから。
このままじゃ、あさひくんは幸せになれない…………そう伝えようとしましたが、あさひくんから拒まれます。
ーーあなたのサーヴァントだって、とっくに人を殺したはずだ!
それどころか、ひかるちゃんを悪く言ったことが信じられなくて、頭が真っ白になりました。
ひかるちゃんが、人を殺した……
それは、まぎれもない事実です。
灯織ちゃんとめぐるちゃん、グラス・チルドレンの子、そして氷の鬼にされてしまった人たちの命を、ひかるちゃんは奪いました。
でも、守る責任を果たそうとしたから。ひかるちゃんが誰かの命を奪うことを本当は望まないって、あさひくんだって知っていたはずです。
ーー俺たちの元には、283プロの
プロデューサーさんがいます。彼も、聖杯を狙っているそうですよ
もう一つだけ気がかりなあさひくんの言葉。
あさひくんの隣にはプロデューサーさんがいて、聖杯を狙っている……立て続けのショックで、すぐに受け止められません。
283プロがバラバラになってから、プロデューサーさんは私たちの前からいなくなりました。この世界の283プロでも、姿はまだ見ていません。
でも、プロデューサーさんが聖杯戦争のマスターになっていた?
聖杯を求めて、戦っている?
まさか、あのプロデューサーさんが酷いことをしているのですか?
どうして、あさひくんとプロデューサーさんが出会ったのか?
二人は今、どこで何をして、そしてこれから摩美々ちゃんたちを傷つけようとしているのですか?
もし、本当に酷いことをするつもりなら、あさひくんだけじゃなくプロデューサーさんとも戦わないといけない?
たくさんの疑問が胸の中をかき回して、私の口から言葉が出ません。
スマホから声が聞こえなくなっても、この体は震えたままです。
このまま、崩れ落ちそうになったそのとき。
「…………真乃さん」
暗くなる心が、小さな光で照らされました。
私を呼びながら、この体を支えてくれる優しい手の感触が伝わります。
不安な目で振り向くと、彼女が私を心配そうに見つめていました。
夜の暗闇の中でも、星のようにきらめく女の子に、私は思考を取り戻しました。
「ひかるちゃん……」
私は彼女の名前を口にします。
星奈ひかるちゃんは無言ですが、きっとすべてを察したのでしょう。
星野アイさんたちのように、神戸あさひくんとの繋がりが切れてしまったことを……ひかるちゃんは気づいているはずです。
でも、何から話せばいいのかわかりませんでした。
あさひくんの決意と酷い言葉。
プロデューサーさんが聖杯戦争のマスターとなって、聖杯を求めて悪いことをしている事実。
どちらも、今のひかるちゃんにとって重荷になります。
ですが、あとまわしにしてはダメです。ここで黙っていても、何の解決にもなりませんから。
「…………心配事なら、何でも言ってくださいね」
そんな私の心を見抜いたように、ひかるちゃんから励まされちゃいます。
本当だったら、私がひかるちゃんを支えなきゃいけないのに。
ひかるちゃんを泣かせたくない……そう考えていたら。
「……ひかるちゃん。私ね、ひかるちゃんのことが好きだよ」
自然と、私はひかるちゃんに気持ちを届けちゃいました。
「はい、知っていますよ?」
私をまっすぐに見つめながら、ひかるちゃんはきょとんとした顔を浮かべます。
やっぱり、今更ですね。この一ヶ月間、毎日のように私たちは想いを伝え合いましたから。
でも、いつだってひかるちゃんを愛おしく感じます。
(ひかるちゃんも、私を想ってくれてるから……知ってて、当たり前だよね)
灯織ちゃんやめぐるちゃんと離れ離れになってから、私は一人で頑張る日常が続き、それが普通になりそうでした。
だけど今の私には、ひかるちゃんがいつだって隣にいてくれます。
聖杯戦争で怖いニュースが続いても、彼女のぬくもりと優しさは私の心を癒やしてくれました。
どうすればひかるちゃんのいない日々を過ごせばいいのか、わからないくらい、私の毎日を光で照らしています。
聖杯戦争に巻き込まれる少し前のことです。
ある日、お仕事を終えて帰宅している最中に、激しい雨が降りました。
バケツをひっくり返したような大雨で、あたりの空気がすぐにジメジメとします。
『えっ……!?』
むしあつさで息苦しさを感じる暇もなく、私は走って。
でも、すぐに雨足が強くなって、私を濡らします。
お気に入りの洋服も、お仕事のためにセットした髪も、お化粧をした頬も……雨粒が降り注ぎ。
『きゃっ!』
水たまりに足を滑らせて、私は転んじゃいました。
靴やスマホも雨に打たれて、追いうちをかけるように。
ゴロゴロゴロゴロゴロ! と、雨雲が轟音を鳴らし、どこかで雷が光りました。
『う……うぅ…………っ……!』
それでも、私は立ち上がって走ります。
痛みや生ぬるい感触に耐えて。激しくなる雨の中でも、たった一人で進まないといけません。
(プロデューサーさんの分まで、頑張らないと…………)
だって、プロデューサーさんの気持ちに応えないといけないから。
(灯織ちゃんとめぐるちゃんの力を借りずに、立ち上がらないと…………)
灯織ちゃんとめぐるちゃんがいなくても、私はアイドルとして輝くべきだから。
これくらい、苦しくともなんともない。
私は折りたたみ傘も使わず、ただ前を走っていました。
いくら、雨に濡れても助けてくれる人は誰もいませんが……関係ありません。
灰色の道を走りながら、たった一人になっても輝くことが私の責任です。
土砂降りの中、木々を容赦なくゆらす激しい風が襲いかかります。
(どんな困難でも、私だけの力で乗りこえて、虹を照らせるアイドルにならないと…………輝かないと…………!)
きっと、この時の私は前を向きながら、泣いていたでしょう。
体が雨で冷えきって。
洋服や髪が泥で汚れようとも。
ただ、一人でがむしゃらに突き進む日々を過ごしていました。
雨雲の向こう側でも、星は輝いていますから。
だけど、私の毎日を変えてくれたのがひかるちゃん。
一緒に笑って、一緒にごはんを食べて、一緒に楽しく遊んで……そのすべてが、星のようにキラキラした思い出ですよ。
私がズルくて悪いことをしそうになっても、ひかるちゃんは私の気持ちをちゃんと受け止めてくれました。
「ひかるちゃんは、私のことを大切な人って言ってくれたよね。それは、とっても嬉しいし、私も同じ気持ちだよ」
つらくて、悲しみにしずんだ私の心を、ひかるちゃんは照らします。
ひかるちゃんはもっと苦しくて、暗くて冷たい闇の中に閉じ込められていたのに。
私を守るため、するどい痛みに耐えてくれた。
「だからね、ひかるちゃんは……ひかるちゃん自身を、好きになってもいいんだよ。私はひかるちゃんのことが、好き…………大好きだから」
「……でも、私は…………灯織さんとめぐるさんのことを…………」
「悪いのは……灯織ちゃんとめぐるちゃんに、酷いことをして…………ひかるちゃんをあそこまで追い詰めた人たちだから。それを忘れちゃダメだよ」
私だけは、きちんと言わなきゃいけない。
本当に悪いのは、ひかるちゃんに罪を背負わせた悪い人たちだってことを。
その人たちが悪さをしなければ、ひかるちゃんだって傷つかなかったから。
「もし、誰かがひかるちゃんに悪口を言ってきたら、絶対に私がひかるちゃんを守るから。ひかるちゃんには、私がついているから!」
大切な友達を守って、ひかるちゃんに胸を張っていられる私になりたい。
例え、どんな結末が待っていても、逃げたくないです。
私とひかるちゃんの夢が叶わなくても、理想に届かなくても。
ひかるちゃんや283プロのみんなに悪意をぶつけてくる人たちに、負けたくありません。
その決意と共に、小さいけど……確かな星が私の心を灯しました。
夕暮れに見える一番星のように、キラキラとした光です。
「……私は、ララちゃんみたいに、ひかるちゃんのことを上手く励ませる自信は、まだないよ。でも、どんなことがあっても、ひかるちゃんを悲しませたくない……これだけは本心だから」
許せない人には今でも怒っていますし、わかり合いたくないです。
その一方で、聖杯を求めているプロデューサーさんやあさひくんと出会った時、どうすればいいのか……すぐには決められません。
だって、プロデューサーさんとあさひくんは、私を支えてくれましたから。
二人とちゃんと話し合うのか、それとも二人と戦わないといけないのか?
優柔不断な私じゃ、答えを出すまでに時間がかかるでしょう。
でも、今の私にとって一番大事な願いは一つだけあります。
私が笑顔でいられなくなっても、ひかるちゃんだけは、絶対に悲しませたくないです。
「今すぐじゃなくていいし、時間がかかってもいい……ただ、何があっても私はひかるちゃんのことが大好き。この気持ちは……今までも、これからも……ずっと同じだから……ひかるちゃんも、自分を傷つけないでね」
まだ東京が太陽の光で照らされていた頃、あさひくんとひかるちゃんが私を励ましてくれたみたいに。
小さくてきれいなひかるちゃんの手を、私はゆっくりと包みます。
本当なら、宇宙に生きるみんなを助けられる奇跡の手なのに。
ひかるちゃんは、私のために罪と血で染めちゃいました。
「……都合の良いことを言ってるのは、わかってる。でも……」
「大丈夫ですよ、真乃さん」
ひかるちゃんは優しく首を振ってくれます。
「…………いや、まだ、100%大丈夫ってわけじゃないです。でも、真乃さんがそう言ってくれれば……うれしいです」
星々を凝縮させたように、つぶらなひかるちゃんの瞳。
今までみたいな輝きはありませんが、そこには確かな優しさがありました。
「私、ライダーさんに助けられてから、ひとりになって……どうしたらいいのか、わからなくなりそうでした。でも、真乃さんが優しく声をかけてくれたから、私はまた立ち上がれたんです」
きっと、心からの言葉が、ひかるちゃんの口からゆっくりとこぼれていきます。
一語たりとも聞き逃さないよう、私はしっかりと耳にしました。
「真乃さんは、わたしのことを好きでいてくれた。真乃さんが、わたしを抱きしめてくれたとき……とても暖かくて、わたしはひとりぼっちじゃないってことがわかって…………うれしかったんです…………」
流れ星のようにきれいな言葉は、とどまることを知らずに。
ひとすじの小さなしずくが、ひかるちゃんの頬をつたいました。
「今だって、真乃さんが手をにぎりしめてくれるから、わたしの心は暖かいですよ。きっと、これから先…………何があっても、真乃さんの大好きと優しさを思い出せば、わたしは立ち上がれると思います」
まっすぐな想いには、ひかるちゃんの強さがこめられていて。
私の心をなでて、よりそってくれるみたいです。
今だって、ひかるちゃんはつらいはずなのに。
灯織ちゃんとめぐるちゃんから悲しい誤解をされて、傷つけられて、命を奪うしかなくなって……心から泣いてたのに。
「だから、わたしに何を話してもいいです。真乃さんの、悩みを解決できるって、言いませんけど……でも、真乃さんのことを知りたいんです!」
ひかるちゃんの言葉に、私の心はほぐれそうで。
ついに、ひかるちゃんに話す時が来てしまったのだと、私は予感しました。
「…………うん、ひかるちゃんには聞いて欲しかったんだ。私とプロデューサーさん、それに元の世界の283プロに、何があったのかを……」
息を整えながら、優しくうなずくひかるちゃんを前に、私は少しずつ話しました。
◆
真乃さんは、わたし・星奈ひかるにすべてを教えてくれた。
283プロで起きた事件と、聖杯戦争に巻き込まれるまでの出来事を。
真乃さんは283プロダクションのアイドルとして、たくさんの人に笑顔と癒やしを届けていた。
その活動に伴ってアイドルも増えて、283プロはどんどん成長したよ。
でも、七草にちかさんの所属するアイドルユニット・シーズが、W.I.N.G.の決勝で敗退したことをきっかけに、283プロはバラバラになっちゃった。
その日から、にちかさんは事務所に来なくなり、プロダクションもイヤな空気が広がったみたい。
やがて、283プロは続けられなくなって、真乃さんのイルミネーションスターズも活動できなくなった。
それでも、真乃さんはたった一人でアイドルとして頑張り続けた。
灯織さんやめぐるさんと過ごす時間を減らしてでも、ソロアイドルとして活動したみたい。
自分が頑張れば、いつかまた283プロが元通りになって、プロデューサーさんやにちかさんたちも戻ってくる……そう、真乃さんは信じてた。
プロデューサーさんのおかげで、真乃さんはアイドルになって自分を好きになれたから、その恩返しをしたかったんだね。
「…………心のどこかで、奇跡に頼ってでも283プロを元通りにしたかった。だから、私は聖杯戦争のマスターに選ばれたと思う」
そうやって、話を終えた頃。
真乃さんは今にも泣きそうな顔をしていた。
本当は、言葉にするだけでもつらいはずだったのに。
わたしの前で、灯織さんとめぐるさんの話をしちゃって、真乃さんはどれだけ胸が痛んだのか。
「プロデューサーさんや、あさひくんも……ゆずれない願いがあるから、聖杯戦争に呼ばれたんだよね……」
事務所だけじゃなく、神戸あさひさんとの電話についても話してくれた。
聖杯が欲しい気持ちは変わらず、願いのために真乃さんたちを傷つけるつもりみたい。
しかも、あさひさんの隣には283プロのプロデューサーさんもいた。プロデューサーさんも聖杯を求めて戦っていると、あさひさんは真乃さんに話したよ。
わたしは、なんて言ってあげればいいのかわからなかった。
(どんな綺麗事を言っても、わたしは人の命を奪った……)
真乃さんを通じた、あさひさんの言葉はもちろんショックだよ。
あさひさんが知らなくても、グラス・チルドレンの子以外にも命を奪った事実は変わらない。
でも、同時に真乃さんが悲しんでいることもイヤだ。
真乃さんの力になりたかったのに、この口が動かない。
『大丈夫です! わたしたちであさひさんとプロデューサーさんを助けましょう!』
言葉だけは思い浮かぶ。
『きっと、わたしたちが気持ちをとどければ、考え直してくれますよ!』
まぶしくて、あたたかい励まし。
だけど、たった一人で頑張り続けても、真乃さんはむくわれなかった。
何よりも、聖杯を求める人に明るい言葉が届くなんて、今のわたしたち自身が思っていない。
新宿の災害が起きた後じゃ、気休めにもならないよ。
居場所を奪われて、心がすさんでいたノットレイダーのみんなだって、わたしの言葉に怒ったから。
『ねえ、ひかるちゃんには叶えたい願いがある?』
予選期間のある夜、真乃さんからこんなことを聞かれたよ。
戦いとは全く縁がない、二人で満天の星空を見上げていた時だった。
『願い、ですか?』
『そうだよ。ひかるちゃんだって…………何か、願いがあるんじゃないかなって、思ったの』
『わたしの願いは、真乃さんを守ることですよ!』
『……ありがとう。でも、ひかるちゃんの本心を聞かせて欲しいの。ひかるちゃんは、ララちゃんたちとまた会いたいって、願ったことはある?』
どこかさみしそうな目で、真乃さんはわたしを見つめていたよ。
サーヴァントとして契約を交わしたから、わたしが人間だった頃の思い出を、真乃さんはいっぱい知っている。
もちろん、わたしがララたちと過ごした日々のことだって、真乃さんは夢で見たよ。
だから、本当はララたちにまた会いたいと、わたしは願っている…………そう、真乃さんは心配してくれた。
『大丈夫ですよ』
わたしの答えはたった一つだけ。
誰に言われるまでもない、わたしの心からの言葉を真乃さんに届けたい。
『もう、その願いは……わたし自身の力で、ちゃんと叶えましたから』
星々に負けないくらい、まぶしい笑顔を浮かべたよ。
すべての戦いが終わって、宇宙に平和を取り戻した後……わたしはララたちとお別れするときが訪れた。
宇宙人のララと言葉が通じなくなっても、「ありがとう」を伝え合って、また会いに行く約束をしたよ。
プリキュアの力を失い、わたしたちは普通の女の子に戻った。
遠い宇宙に離れ離れになったララを想いながら、えれなさんやまどかさんと一緒に星の輝きを見上げたよ。
それから、わたしはいっぱい努力して、15年後には宇宙飛行士としてロケットに乗った。
ララたちと一緒にいた思い出と、わたしの夢を叶えた喜びを胸に……数え切れない星がまたたく宇宙に飛んで。
なつかしいフワの声と共に宇宙がかがやいて、わたしはララと再会できたよ。
『わたしたちは、わたしたち自身が努力したから……また会えるようになりました。その喜びを、真乃さんにもわけてあげたい。これが、今のわたしの願いです!』
サーヴァントとして召喚されても、わたしの気持ちは変わらなかった。
もし、聖杯の力でララたちと再会しても、みんなは喜ぶわけがない。それどころか、心の底からガッカリされちゃう。
真乃さんをちゃんと守って、大切な友達が待っている元の世界に送り届けてあげたい。
だって、灯織さんとめぐるさんは、今も真乃さんを待っているから。
真乃さんにとって灯織さんとめぐるさんは、わたしにとってララみたいな存在だからね。
『ありがとう、教えてくれて。なら、私も……私自身の力で、頑張らないといけないよね……ひかるちゃんたちみたいに』
でも、わたしの隣にいる真乃さんはやっぱりさみしそう。
ほほえんでこそいるけど、優しい目には影があった。
真乃さんの様子が気になったけど、わたしは事情を聞かないことにした。
いつか、真乃さん自身から話してくれるときまで、ちゃんと待つよ。
『……今日も、流れ星がすごいね』
『とっても、きれいですよね! 真乃さん、わたしたちが見ている星は、いつだって歌っていることを知っていますか?』
『ほわっ? 歌ってる?』
『宇宙で輝く星は、みんな楽器みたいに音を鳴らしていて、そこから星の大きさや年を知ることができるんですよ!』
『へぇ~! じゃあ、この星空はお星様たちのステージで、アイドルのようにみんなを楽しませているんだね!』
『はい! みんな、真乃さんみたいに優しく歌いながら、輝いているんです!』
ただ、今は真乃さんとゆっくり話をしたい。
心地よい夜風を浴びながら、真乃さんと一緒にわたしは空を見上げるよ。
こんなに優しい時間が、もっと続きますようにって、わたしは考えちゃったんだ。
今まで一緒にいて、真乃さんの様子が気になったことはあったよ。
今日のお昼も、アイさんとの対談前だって、真乃さんは何だか無理をしてそうだった。
せつない雰囲気や、たまに見せる悲しそうな表情の理由も、わたしは納得できたよ。
真乃さんは、たったひとりでずっとなやんでいたんだ。
みんなの居場所と笑顔を取り戻そうと、真乃さんは頑張り続けた。
どんどん気負い、大きな責任でがんじがらめになって、いつ押しつぶされてもおかしくなかったのに。
プロデューサーさんが聖杯を求めていると知って、真乃さんはどれだけショックだったのか。
気持ちはわかります、なんて言えるわけがない。
大切な友達を失い、信じていた人から裏切られ続けた真乃さんが、遠くに離れちゃいそうだった。
「……もしかして、283プロを元通りにするために、プロデューサーさんは聖杯を欲しがっているのかな?」
くらい顔で、真乃さんはつぶやくよ。
「プロデューサーさん、責任感が強くて……283プロのアイドルひとりひとりと、真剣に向き合っていたの。きっと、にちかちゃんがいなくなって、事務所がバラバラになってから……自分を責めていたと思う」
真乃さんのプロデューサーさんが、どんな人なのかわたしは知らない。
ただ、話を聞くだけでも、すごい人ってことはわかった。事務所のアイドルは20人を超えるのに、ちゃんとプロデュースをしていたからね。
社長さんとはづきさん、それに真乃さんたち……みんな、プロデューサーさんがいたから笑顔でいられたし、何度でも輝けた。
プロデューサーさんとの思い出があったから、真乃さんもソロでも頑張れた。
「……プロデューサーさんも、ひどいことをしたのかな」
「ひどい、こと?」
「他のマスターさんを、傷つけて…………泣いていたの、かな? こわくて、つらくて、くるしかったのかな?」
真乃さんはプロデューサーさんを責めていない。
むしろ、プロデューサーさんの気持ちに寄り添おうとしている。
「あさひくんも、声が震えていたんだ……」
酷いことをする人は許したくないって、真乃さんは言ってた。
もちろん、誰が相手だろうと、悪いことは許しちゃいけないよ。
……でも、プロデューサーさんとあさひさんから優しさをもらったから、真乃さんも敵と思いたくないよね。
「真乃さんは、二人を助けたいですか? それとも、許せないですか?」
「……まだ、わからない。二人が摩美々ちゃんやひかるちゃんを傷つけるのは、私は絶対にイヤだよ。ううん、誰だろうと、傷つけさせたくない」
真乃さんも、答えはすぐに出せそうにない。
わたしだって、今の真乃さんをはげますための言葉が思いつかないから。
言葉の代わりに、真乃さんの背中にゆっくりとわたしの手を添えるよ。
「……ひかるちゃんは、ユニちゃんのことだって止めようとしたよね」
少し時間がたったころ、真乃さんはわたしに目を向ける。
「宇宙怪盗ブルーキャットになって、ユニちゃんが危ないことをたくさんするのがイヤだったんだよね……ひかるちゃんたちは」
「そうですよ。ユニは、大事な友達ですから……危ないことをしそうなら、止めたかったんです」
危ないことをする友達がいたら、それをちゃんと止めるのも友達だよ。
だから、ユニがブルーキャットになって盗みを働いたり、真乃さんが復讐に手を出すこともわたしはイヤだ。
「でも……私は、ひかるちゃんに危ないことを……押しつけてばかりだよ……? そのせいで、ひかるちゃんが……」
「真乃さん、言ったはずですよ。それが……今のわたしの願いですから!」
その上で、真乃さんが自分を責めないよう、わたしは叫ぶよ。
「義務や責任じゃありません。わたしが、わたし自身の気持ちで……プリキュアになって戦ってるんです! これは本心だって、何度でも言いますよ!」
わたしの頭に浮かぶのは、すべてのはじまりとも呼べるあの夜。
流れ星のようにフワがやってきた日のことは、今でもハッキリと覚えてる。
フワを守りたいって心から願ったから、わたしはキュアスターになれた。
そうして、ララたちともわかり合えるようになって、宇宙を守る大きな第一歩を踏み出せたよ。
「だれに何を言われようとも……わたしは、わたしの願いをまげません!」
また、他の誰かとわかり合えず、傷つけた果てに命を奪う決断を迫られるかもしれない。
それは、プリキュアとしてあってはいけないよ。
ララたちはもちろん、今までのわたしやあこがれのわたしに対する裏切りになる。
その上で、わたしは真乃さんのために頑張りたかった。
だって、真乃さんを悲しみから守れなかったら、わたしはわたしを許せない。
これから、どこで何をしたって……わたしはずっと後悔する。
大切な人のため、わたしはキュアスターに変身して戦いたいよ。
「さっき、真乃さんは言いましたよね……真乃さんはララみたいになれないって。でも、それは当たり前です」
「えっ?」
「真乃さんは真乃さん、ララはララ……だから、他の誰かにならなくていいと思います」
わたしはララが大好きだよ。
この広い宇宙で、一番大好きな友達はだれ? って聞かれたら……迷わずララって答えられる。
ララと出会えたから、わたしの中の宇宙が広がったし、たくさんの思い出だってもらった。
もちろん、えれなさんとまどかさんとユニ、フワやプルンスにユーマ……これまで出会ったみんなだって、わたしは大好き。
そして、ここにいる真乃さんは……今のわたしにとって心から大切な人だよ。
わたしが頑張れなかったせいで、笑顔と心がバラバラになっても、真乃さんはわたしを抱きしめてくれた。
ーーひかるはひかるルン!
そう言って、わたしを励ましてくれた大好きなララ。
何があっても、わたしを大好きでいてくれた大切な真乃さん。
二人は違って当たり前。でも、真乃さんとララは……わたしにたくさんの愛と優しさをくれたよ。
「…………?」
ピコン、と。
わたしたちの間に割り込む、真乃さんのスマホから聞こえる着信音。
すぐに、真乃さんはスマホを手にして、アプリを操作した瞬間…………
『……すまない。俺は、君達に嘘をついた』
「ぷ、プロデューサーさん…………!?」
男の人の声に、真乃さんは絶句する。
思わず画面をのぞき込むと、見知らぬ男の人の動画が再生されていた。
この人が、真乃さんのプロデューサーさんだと、わたしはすぐに気づいたよ。
『―――これでお別れだ』
そう締めくくられて、動画が終わったころ……真乃さんの顔は青ざめている。
わたしだって動揺しているよ。
だって、プロデューサーさんは283プロのみんなに、お別れを伝えたから。
この動画の意図はたった一つ。聖杯戦争のマスターとして、最後まで戦う宣言のはず。
「……真乃さん! すぐに、アサシンさんに伝えましょう!」
勝手にスマホの画面をのぞいちゃダメだけど、今はそれどころじゃない。
「あの人なら、何か力になってくれるはずです! プロデューサーさんのことも、あさひさんのことも!」
283プロダクションを守るため、影で頑張っていたアサシンさんに話をする。
そうだ。
わたしも真乃さんも、ひとりぼっちじゃない。
心配して、力になってくれる人はいるんだ。
それに、
古手梨花さんとセイバーさんに対する答えだって、わたしたちはまだ出していない。
「ふたりだけでダメなら、力を借りましょう! わたしたちと繋がっている人は、いますから!」
「……そ、そうだね! もし、お話が終わってたら…………私たちのことを、探していると思うし」
「はい! わたしと真乃さんでも、どうすればいいのかわからなくなったら……助けを求めていいんです! そうすれば、キラやば~! なアイディアも出て、今を変えられると思いますから!」
思い通りにいかないことはいくらでもある。
わたしと真乃さんだって、それを充分にわかっているよ。
でも、イヤなことや現実の厳しいところと向き合った上で、わたし自身の気持ちをぶつけたい。
(暗くたって、止まらないよ。だって、わたしたちは星の光に導かれているから)
足下に気をつけながら、わたしは真乃さんの手を引いて前を進む。
辺りは闇に覆われて、星空だって見えないけど、わたしたちは歩ける。
どんな暗闇の中でも、わたしと真乃さんの元に駆けつけてくれたアサシンさんは…………今のわたしたちを見守っている、優しい星だから。
【新宿区の新宿御苑付近/一日目・夜】
【
櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、深い悲しみと怒り、令呪に対する恐怖、動揺
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]基本方針:どんなことがあっても、ひかるちゃんに胸を張っていられる私でいたい。
0:アサシンさんのところに戻って、プロデューサーさんとあさひくんのことを相談したい。
1:悲しいことも、酷いことも、もう許したくない。
2:ひかるちゃんに酷いことを言ってくる人がいたら、私が守る。
3:あさひくんとプロデューサーさんに対してどうすればいいのか、まだわからない。
4:アイさんたちがひかるちゃんや摩美々ちゃんを傷つけるつもりなら、絶対に戦う。
5:いざとなったら、令呪を使うときが……? でも、ひかるちゃんを……
[備考]※星野アイ、アヴェンジャー(
デッドプール)と連絡先を交換しました。
※プロデューサー、
田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。
【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:疲労(小)、ワンピースを着ている、精神的疲労(大)、魔力消費(小)、悲しみと小さな決意
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:洗濯済の私服、破損した変装セット
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]基本方針:……何があっても、真乃さんを守りたい。
0:今はアサシンさんのところに戻る。
1:真乃さんに罪を背負わせたりしない。
2:もしも真乃さんが危険なことに手を出そうとしたら、わたしが止める。
3:ライダーさんには感謝しているけど、真乃さんを傷つけさせない。
4:真乃さんを守り抜いたら、わたしはちゃんと罰を受ける。
時系列順
投下順
最終更新:2023年03月18日 00:45