とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 1-326

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『彼女にとってはすぺしゃるな週末(6)』

姫神の手を引いて、学園都市の町並みを駆け抜ける。
後ろを振り向き、追っ手が無い事を確認してから、上条は走る速度を緩めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「…………っ。良かったの?あれで」
大きく息を荒げている上条へ、呼吸を整えてから姫神は問いかけた。
「はぁっ……、まぁ今回は、緊急避難という事で、あの場は、御坂に任せるしかなかったと言うか」
「私が言いたいのは」
切れ切れに答える上条の言葉を遮り、
「あの子を。あの場所に残してきて平気なのか。と言う事なのだけれども」
この姫神の言葉に、
「あぁ?そりゃあ、やり過ぎないかどうか心配だけど、白井もいたし大丈夫だろ」
と返す。この言葉に、姫神は少なからずショックを受けた。
「……君は。あの子の事を信用してるんだね」
「信用、っつーかなぁ」
あれより強い奴なんざ、あの最強くらいしか思いつかないしなー、と心の中で続けてから、
「それよりも」
かくっ、と頭を垂れてから弱々しく呟く。
「本当に食い逃げしてしまった事が、上条さん的にはショック大です」
「まったくですの」
上条の呟きに答える声が、前方から聞こえた。
驚いて頭を上げる。
「風紀委員のわたくしとしましては、見逃しては沽券に関わりますの」
いつの間に回りこんだのか、両手を組んで仁王立ちをしている白井黒子の姿がそこにあった。
「びっくり。いつの間に」
平坦な声で驚く姫神に、上条が彼女の能力について説明を加える。
「白井の能力は瞬間移動だからな、先回りされても別に驚きはしないけど」
ふーっ、と大きく息をついて左手一本で肩を竦める。
「食い逃げの現行犯じゃあ、捕まっても文句は言えないよなぁ」
自嘲気味にそう一人ごちた。
そんな上条の台詞を聞き、白井は薄く笑みを零す。
「ふふっ、冗談ですわ。先日ご協力戴いたお礼もまだで御座いましたし、御代の方は立て替えましたですの」
「それは、えーと、この場合はありがとうで良いのかな?」
「礼には及びませんの。こちらとしましても、お姉様を焚き付け過ぎたかしら、と言う自責の念が。いえ、今のは聞かなかったことにして下さいまし」
「いや、まぁ良く分からんけど」
上条はズボンのポケットから財布を出しながら、
「そう言えば御坂は?置いてきたのか?」
「いえ、止める間も無くお店を飛び出してしまいましたの。恐らくは貴方を追いかけているのだと思いますわ」
二千円札を受け取り、白井は上条の疑問にそう答えた。
「こちらからも質問させてもらってもよろしいですの?」
「ん?いいけど」
上条の承諾を受けて、では、と前置きをしてから白井は、
「先程の件で少々おかしいと思いましたの」
先刻の光景から、ずっと引っかかっていた事を上条に聞いてみた。
「普段の貴方でしたらあのような事件が起こった際に、後を誰かに頼むと言う選択はしないと思うのですの」
白井の脳裏に、数日前の上条の姿が思い浮かぶ。そして、先程の逃げ出した上条。どうにも譜に落ちない。
「それで、ふと思ったんですの。貴方の右手はわたくしやお姉様の能力を打ち消してしまう能力を持っていますわね」
そんな能力はデータベースででも見た覚えはございませんが、と続けてから咳払いを一つ。
「そう致しましたら、あの場面で事件に介入するよりもその右手を離さない事の方が重要で。それはつまり、その右手で封じなければならない能力をそちらの方がお持ちである。そんな仮説が思い浮かびあがりましたの」
言って白井は、姫神の姿を指差した。
「無論、風紀委員の要注意人物リストの中に姫神秋沙と言う名前が無い事は存じてますの。ですが、どうにも気に掛かりますの。その方を放置しておくと何か良からぬ事が起こりそうな、そんな気がするのですわ」
そこで一旦言葉を切り、指を下ろす。
「考えすぎだろ、それは」
言葉が切れたところで、上条が口を開く。
「ええ、自分でもそう思いますの。ですから、確認の為にこうして飛んできましたのですわ」
上条の言葉に肯きながらも、なお、白井は言葉を重ねた。
「先日のテロ騒動の事もありますし、何か事件の種になりそうな事はなるべく把握しておきたいのですの。さ、そちらの方がどのような能力を持っておられるのか、教えて頂けないですの?」




白井の要請に、上条は暫し考え込む。
白井の懸念はある意味、正鵠を射ている。姫神の能力は、放って置けば先日のシェリーが引き起こした騒動よりも大きな騒ぎを起こす可能性を秘めている事に違いは無いからだ。
かと言って、正直に話したところで白井がその話を信じるとは到底思えない。何しろ吸血鬼を殺す能力だ。普通なら鼻で笑われる事、請け合いである。
そう上条が考え込んでいる内に、またも姫神が上条より一足前に出た。
「私の能力が知りたいと言うのなら。教えてあげる」
その言葉に、上条は驚いた。
「姫神!?」
「良いから。君は黙ってて」
右手で上条を制し、続ける。


「私の能力は。常に効果を発揮するタイプに分類されると思う」
「常時発動型という訳ですのね」
白井が相槌に、姫神はコクリと肯く。そして静かに瞳を閉じて、続く言葉を紡ぎだす。
「その効果は。誰かを死なせる事で終了する。これは。覆せない結果として現れる」
その姫神の言葉に、白井は驚き、上条は天を仰ぐ。
かつて、姫神は上条にこう言った。
『誰かを殺すぐらいなら。私は自分を殺してみせると決めたから』
それほどまでに己の能力を忌避している姫神に自分の能力について説明させるなんて、自分は何をやっているのか。
「そ、れは、完全にランダムに周りの人を殺すのですの?」
想像以上の能力に、白井の声が掠れる。この問いには、姫神は首を横に振る。
「それは無い。誰かを死なせるというのは。この能力の帰着点に過ぎない」
姫神の言い回しに、白井の首が傾く。分かりづらいんだろうな、と上条は思った。
「この能力によって死ぬ相手は。特定の誰かであって。その辺りにいる通りすがりの人物ではないという事」
「つまり、無差別な殺害は引き起こさない、でも特定条件に当て嵌まる誰かを殺す、そういう能力だ、と?」
今度の白井の言には、首を縦に振った。
白井は悩む。
思ったよりも酷い能力ではないか。しかし、そんな物騒な能力などは聞いた事も無い。
しかし一方では得心も行く。
これなら確かに、おいそれと右手を離す訳には行かないだろう。
それにしても、この女性をどう扱えば良いのだろう。
「今までは、どう過ごしていたのですの?」
「この能力は。ある条件で使用不可能にする事ができる」
「と言うか、使えない様にしていたんだ。それを俺が壊しちまったんだよ」
白井の疑問に、姫神と上条の二人が併せて答える。
「では、再度、使用不可能にする事は可能なんですのね?」
「ああ。ウチに行けば心当たりがあるからな」
正確には『居るから』、である。
「でしたら最初からそうして下さいな」
言外に『はた迷惑な』と言いたげな白井に、上条は言葉を返す。
「あのな、右手が使えないんだ。外食くらいはさせてくれよ」
「……ごめんなさい」
そんな二人の姿を見て、白井は知らず全身に入れていた力を抜く。
「まぁそう言う事でしたら、わたくしの出る幕ではないみたいですわね」
「なんか、すまないな。気を使ってくれたみたいなのに」
「宜しいですのよ。わたくしも先日の件で気が昂っていたのでしょう」
お互いに気を遣いあう。
「では、どうぞお気をつけてお帰り下さいな」
「あぁ、御坂によろしく言っておいてくれ」
じゃあな、と言って上条は姫神と共に歩き出した。
その後姿を見送りながら、白井は一人呟く。
「あの殿方の周りには、一筋縄ではいかない方が集まるのですのね……」
姫神秋沙の能力が本当であるのは間違いないのだろう。でなければ上条当麻があそこまで尽力する理由が、白井には思いつかない。




「黒子ー」
そう考えている白井の背中に、敬愛して止まない美琴の声が掛けられた。
「あらお姉様」
振り返る白井に、美琴は質問する。
「アンタもアイツを探してたの?」
「ええ、立て替えました料金を取立てる為に」
「で、会えたの?」
「はいですの。きっちり受け取りましたわ」
そう言って、釣りを返していない事を思い出す。まぁいいか、と考える白井へ美琴は更に質問した。
「で、アイツはどこ行ったのよ?」
上条の事しか気にしていない美琴を見て、白井はちょっとした悪戯を思いついた。
「あのお二方でしたら、あの殿方の家に行くと言ってましたわ」
「な!?」
白井の予想外の告白に固まる美琴。
「あの女性の力が出なくなるような行為をするみたいですの。意味深な物言いですわねー」
「な、な、な、何をする気なのよアイツはー!!」

ぶるっ。
「?どうかした?」
「いや、なんか急に悪寒が……」

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