とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

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匿名ユーザー

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第三章 演じる者たち Role_Praying_Game


 カチャ(何かの器を持ち上げる音)。
 クピ(何かの液体を飲み込む音)。
「…………問一。この飲み物は何か?」
「あ、それ? ロシアンティー。いやーロシア人って紅茶にジャムなんて入れるんだなー。これも故郷を遠く離れたサーシャがホームシックにならないようにという、上条さんの小さな心配りです」
「…………………………、」
 ガチャ(金属音。かなり硬質のものと思われる)。
「――はい? 待てサーシャ、なんでそんな怖い顔をして釘打ち機を取り出すの? 紅茶はお気に召しませんでしたか?」
「とうま、とうま。紅茶にジャムを入れたらロシアンティーっていうのは日本人がよくそう思い込んでいる間違いなんだよ。うん、正しいロシア様式の紅茶は、ジャムを舐めながら飲むの。というか、サーシャは子供扱いされたことに怒ってるんじゃないかな」
「冷静に説明してないでこのお嬢さんを止めるの手伝ってー!! 室内でそれは本気でヤメロ、ガラスの張替えとかどんだけすると思ってんだー!!」
 カチ(盗聴器のスイッチを切る音)。
「……楽しそうだなー」


 そんな生活も今日で四日目。なんだかんだで生活リズムも決まってきた頃合である。
 大体サーシャ、上条、インデックスの順に起床(女性陣の身支度が整うまで上条はユニットバスに監禁)。家主兼料理長の上条が三人分の朝食を作り、今朝の学園都市ニュースを見ながらリビングで食べる。
 その後、上条は再びキッチンに立ち、二人分の昼食を作り置いてから学校へ。
 インデックスとサーシャはそれぞれ歌と劇の練習をする。
 一応隠れ住んでいる身分の二人なのだが、日中は学生寮はも抜けのカラになるし、加えてサーシャがロシア式の『人払い』をこの部屋に施している(上条が在宅している間は無効になるが)。好きなだけ大声で練習できるというわけだ。
 あーでもないこーでもないと意見をぶつけ合っているうちに、気がついたらお昼時。作り置きのご飯をチンして食べたら、午後はおでかけだ。
 禁書目録から引き出した魔力探知術式をサーシャが使い、『灰姫症候(シンデレラシンドローム)』の捜索に繰り出す。
 一応の本命は舞台作戦だが、それだけで事件が解決するとは最初から思っていない。あちらこちらを歩き回り、誰かの体内にあるという前提で不自然な魔力の反応を探す。
 だが、学生寮が空っぽになるのと同様、昼間の街中にいる人間は極端に少なく、正直言って大した効果は上げられない。そのせいか最初は真面目な捜索だったのが、いつのまにかインデックスによる学園都市観光案内になっていた。
 もっとも、科学音痴のインデックスがこの街で案内できるところなどたかが知れている。この四日、無理に先輩を気取ろうとしてどれだけ愉快なことが起きたかは、まあ想像にお任せする。
 さらにしばらくして放課後の時間帯になると、シスター達は一旦別れ、インデックスは家に、サーシャは上条の学校へと向かう。
 夕飯のリクエストはこの時点で決まっている。
 自分で思っているよりも遥かに軽い足取りで、校門をくぐり、校庭を抜け、階段を登り、ドアを開き――
 今日も、彼女は童話の世界に飛び込んでいく。

                    ◇   ◇

 ここで上条達、途中参加組の配役(キャスト)を紹介しておこう。
 シンデレラ――サーシャ・クロイツェフ。
 王子――吹寄制理。
 魔法使い――姫神秋沙。
 ねずみA兼馬車馬A――青髪ピアス。
 ねずみB兼馬車馬B――上条当麻。 
 なんというか、いっそのこと笑い飛ばしてください、って気分の上条だった。
 実のところ、世界の終わりにも等しいあの恐怖の配役から脱した時点で上条は安心しきっていた。ああもうこれで全部役は埋まったのだから、自分が押し付けられることはないのだと。
 甘かった。
 監督少女曰く、
『何言ってんの。サーシャちゃんに主演やってもらうには、かみやんくんを出汁(だし)にするしかないんだから。一緒に出てくんないと効果薄いじゃない』
『待て言祝。今、出汁っつったのか?』
『あと、実はまだ役は埋まってないの。つちみー(注・土御門元春のこと。空を飛んだりしないものを指す)に頼もうと思ってた役なんだけど、なんか公欠でいないし。ちょうどいいと言えばちょうどいいかな』
『……レールガンノミコト様。すみません俺が悪かったですからもう祟り(スルー)は勘弁してください』
 ――とまあこういったあらましである。
 何はともあれ、これでようやく全ての配役が整ったというわけだ。
 で、問題はここから。
 一端覧祭開始まで七日。本番までの日数を入れても九日しかない。
 上条達はこの短すぎる時間で、全くのド素人から舞台に上がれる役者にならなければならないのだった――


「――というわけやで、カミやん」
「……今さら言われるまでもなく、重々承知しておりますれば。しかし、」
 練習開始から三日目の放課後である。
 上条当麻は隣の青髪ピアスを見やり、次いで自分が置かれている状況を再確認して、
「それはそれとしても何故に我々がかような苦行を強いられているのか、切に切に問いかけたい」
 “身動き取れないまま”苦しげに言うと、青髪ピアスはさわやかに笑い、
「あっはっは。何を今さら。そんなの決まってるやんか。――ボクらの監督サマのお怒りを買ってしもうたからや」
「そっかー。あっはっは」
 一転、馬鹿みたいに空笑いする。
 現在、上条たちが何をやらされているのかというと、通称『鳴子大橋』、念動力(テレキネシス)系能力者の訓練メニューの一つである。
 まず正座をして、脇を締めて肘を直角に曲げた状態で文字通り両手の間に“橋を渡す”。等間隔に十個の小さな鈴が吊り下げられた木の棒を上に向けた両掌に乗せるのだ。この体勢で一時間、鈴を鳴らすことなく耐え抜けばクリアー。
 これだけ聞くとそれほど難しくもなさそうだが、これらの鈴は非常に小さな振動でも鳴り出すように作られている。よってこれを行う念動力者は自らの体を完全に固めるか、十個の鈴全てを固定するかしなければならない。そして実は、後者の方が難易度が高いのだ。
『同時に複数の対象に効果を及ぼす』というのは強度認定の重要な項目の一つだ。十個ともなればそれがどれだけ小さなものであっても強能力(レベル3)に相当する。何も派手な威力だけが能力の強さではない、ということだ。
 さて。
 言うまでもないが上条は念動力者ではないし、青髪ピアスもまたしかり。
 それがなぜ『鳴子大橋』なんぞをやらされているのかというと、何のことはない、ただの罰ゲームである。
「「あっはっはっはっはっはっはっはっは」」
 開始から四十五分。すでに腕の筋肉がかなり“キテ”いる二人は、目も虚ろに笑いあうしかなかった。
 そこへ、

〔「なんだ、まだまだ余裕があるみたいねー。三十分くらい追加しても平気かな?」!!!!〕

「「………………!?」」
 ビシビシと。
 肌が震えるほどの大音声が叩きつけられた。
 千人が一斉にガラスを引っ掻いたような耳鳴りがする。
「っつ! こら言祝ぃ!」
 脳みそをたっぷりとシェイクされながらも、上条はその声の主に精一杯うらめしい目を向けた。
 時は放課後、所は中庭。
 途中参加組の強化練習のために、中庭は監督権限で貸切になっている。本来ここを使う予定だった係の生徒は迷惑しているかもしれないが、それを気にする(あるいはしてやれる)者は彼らの中にはいない。
 そしてその一角に、背もたれ無しの小さな折り畳み椅子に腰掛けて、悠々と足を組んでいる少女がいる。
 一番開けた場所を臨める位置に陣取っているのは、いつも上条たちを怒鳴りつけている吹寄制理――ではない。
 何のつもりか映画用のカチンコを指先でブラブラさせているのは、言祝栞監督その人だった。
 ただし、平静を装っておきながら身にまとうオーラは真っ黒だ。
 彼女は腰を捻って顔をこちらに向け、親しげに、ごくごく自然に友人に話しかけるように、

〔「なーにー? かみやんくーん」!!!!〕

 とんでもない音量(ボリューム)をぶつけてきた。
 う・お・お・お・お、と扇風機に間近であおられたかのように上条の顔面が震える。物理的振動をもたらすほどの『音』の直撃は、“耳を塞げない”現状ではなまじ殴られるよりダメージが大きい。
「――――ッ、こ、言祝様! ワタクシ上条当麻はこれまでの行いを深く反省し、二度とあのような真似をしないと誓います! ので! もうこのへんで勘弁してください!!」
「あー! ひどいでカミやん、ここまできて自分だけ媚売って助かろうなんて虫が良すぎ」
〔「二人とも。あと一時間追加」!!!!〕
 みぎゃー!!(×2)と重なり合った悲鳴すらも残響だけで打ち消される。
 どこの怪獣王だと言わんばかりの圧倒的な声量だが、実はこれは言祝の肉声ではない。その秘密は彼女の持つ能力(スキル)にあった。
 音声増幅(ハンディスピーカー)。
 唇から十五センチほど離れた空中にコーヒーコースター大の『気膜』を作り、そこを通り抜けた音声波長を極大化させる能力である。さらに増幅された音声に強力な指向性を働かせ、設定した方向以外には全く伝わらないようにもできる。
 つまりは「大声で内緒話ができる能力」であり、それ以上でも以下でもない。強度(レベル)認定でも弱能力(レベル1)止まり。言祝には悪いが、正直なところあまり価値の高い能力ではない。
 しかしまあ、監督という役職にこれほど似合う能力もそうはないのではなかろうか。ザ・拡声器いらず、あるいはミス・人間メガホン。
 と、そう思っていたのだが。
「……うわ、まだふらふらする……」
 ――マサカコンナツカイミチガアッタナンテ、と上条は言祝栞という能力者に対する評価を改める。鳴子を揺らさぬよう上条達の首から上だけに声を飛ばしている制御力の高さも含めて、拷問レベル5の称号を心の中で贈った。
 同じように頭をくらくらさせていた青髪ピアスがさめざめと、
「うう、カミやんが馬の着ぐるみを壊してしまったばっかりに、ボクまでとばっちりを……」
「待て。仮縫い途中の着ぐるみをかっぱらってきてペガサス流星拳ごっこを始めたのはお前だろうが」
「何を言いますか!? 『この俺に同じ技は二度通用しない!』と叫びながら回転しつつのバックドロップをしかけてきたんはそっちでしょ!?」
「その後『うろたえるな小僧ー!!』という台詞と共に五所蹂躙固めをかましてくれやがったのは罪にならないとでも!? あれが絶対とどめだったろうが! つか元ネタは統一」「お二人さーん」
 ビタ、と。
 小さな、本当に小さな一言が不毛な罵り合いを一瞬にして止めた。
 言祝栞はコンクリートで内臓が埋まったかのようにピクリともしない二人を見やって、薄く笑い、能力を通さない涼やかな声で、


「それ以上喧嘩を続けるようなら――――倍なのですよ?」
「………………、あの。一体どのあたりが……?」
「いろいろと」
「「……………………、」」
 ガクリ、と彼らの首が落ちたのを確認して、言祝は満足げに体の向きを戻した。
 彼女のモットーは『努力には評価を。馬鹿には罰を』なのである。
 体育会系文学少女、恐るべし。
 馬鹿馬二人がうなだれていると、彼らのすぐ横で出番待ちをしていた姫神秋沙がぼそりと、
「でも。考えようによっては君達はマシな方かもしれない。特殊効果担当の念動力者達は。毎日最低十二時間の『コロンブスの卵』を義務づけられているらしいし」
 上条は、へー、と他人事のように返事をするしかなかった。
『コロンブスの卵』については好評発売中の第一巻を参照のこと。というか、我らが監督は本気のベクトルがとんでもない方向に向いてしまっている気がしてならない。
 こんなんで本番まで体もつかなー? と不安になった上条は、中庭の中央、即席の舞台となっている場所に目を向けた。
 そこには髪を軽く結い上げて、足運びの確認をしているお姫様(シスター)がいる。


〔「はい、じゃあさっきの所からもう一度。サーシャちゃんは入場の歩幅に注意してね」!!〕
 範囲を拡散、声量も多少抑え目に変更された音声増幅が飛ぶ。役者が頷いたのを確認して、言祝はカチンコを鳴らした。
 サーシャ=クロイツェフは指示された通りに歩いて、地面に引かれた線で区切られた舞台へ入場する。
 物語も中盤。シンデレラが舞踏会場へやってくる場面である。
 観客(かみじょう)達が見守る中、サーシャはぐるりと辺りを見回す仕草をして、

「――ああ、なんて素晴らしいパーティーなのでしょう。眩いばかりのシャンデリア、美しく着飾った貴婦人達……」

 灰かぶりの姫を演じ始めた。
 一歩、一目、その度に舞踏会の華やかさに感動し、心躍らせている少女。
 彼女は親切な魔法使いとネズミ達のおかげで、憧れのこの場所へやってくることが出来たのだ。
 終わりを知った夢だとしても、この夜のことはいつまでも記憶に残っているに違いない。
 まるで絵本に描かれたように美しい、この夜は。
 ――――というシーンなのだが。
 しかし、サーシャの演技には、素人である上条の目から見ても欠けている物があった。
 それを生粋の読書家にしてこだわりの人でもある監督が気づかないはずがない。開始から何分も立たない内に、言祝はもう一度カチンコを鳴らして演技を止めた。
 厳しくもなく優しくもない、淡々とした声色で、
「サーシャちゃん。どうにも役になりきれてないね」
 言われた少女は渋々とうなづいた。
 結局の所、問題はそこに尽きる。
 どれほど身振りを大げさにしても、声に感情を込めてみても、「シンデレラを演じようとしているサーシャ」にしか見えないのだ。
 根本的な部分で、サーシャは物語に取り残されている。
 言祝達には日本語での演技にまだ馴染んでいないせいだと言ってあるが、本当の理由を知る上条は本番までに直せるのかほとほと不安だ。何せやたら込み入っている上に、絶対に言祝達には打ち明けられない事情なのだから。
 昨日の晩、こっそりインデックスに聞いた話になるのだが、


『ローマ成教が取り扱っている「幽霊(ゴースト)」っていうのは、誤解や誤認識の塊なの。“居るはずがない、だけど居る。” そういった認識(イメージ)が天使の力(テレズマ)を取り込んで形を成したモノなんだね。「我思う、故に彼あり」っていうのが基本構造。そしてこの「被観測」こそが幽霊の力の源。より多くの人間に「誤認」させることで、幽霊はどんどん強くなっていく。だから彼らは様々な手段で自分を認識させようとしてくるの。ラップ音やポルターガイストなんかが分かりやすいかな』
『はあ。んなもんどうやって退治するんだよ』
『んー、手順は人それぞれだけど、求める所は一つ。“幽霊自身に「自分は居ない」と「誤認」させること”』
『というと?』
『「我思う、故に彼あり」で成り立つ幽霊は、相手の認識を通して初めて自分のことを認識するの。他者に依存した存在証明だね。だから相手に認めてもらえなくなれば、それは幽霊にとって自己の消失に他ならない。“居るはずなのに、なぜか居ない”という誤認を与えられた幽霊は、そのまま自己消滅しちゃうの』
『……………………、てことは何か? みんなで知らんぷり決め込むのか?』
『弱いものならそれだけで消えるよ。だからこそ幽霊による被害は大っぴらにならないわけだし。でもそれは、伝承とかになっちゃって何百人何千人に知られている幽霊には通用しない。ジャック・オー・ランタンとかナハトコボルトとか、幽霊の形態にある程度のパターンがあるのはそういう理由。その場限りの誤解じゃなく、もっと深い知識(おもいこみ)から形作られているものはとても強くなるの。ロシアで共産政権時代に迷信が禁じられたのは、当時強大になりすぎていた幽霊の力を弱めるためという意図もあるんだよ』
『うわー明日使えない世界史豆知識をありがとう。で結局どうすんだ』
『まず意思を強く持つこと。幽霊が誘う「誤認」に引きずり込まれないようにね。サーシャのしゃべり方、イギリス清教では行動宣言(コマンドワード)って呼んでるんだけど、あれは口頭で自分の意思や目的を再確認することで「知覚」と「自覚」を強めるためのものなの』
『(――――いや、不思議口調(あんなもん)にもっともらしい名前と理由が付いていることに一番驚いた)』
『で、次は関係性の形成。どうにかして幽霊と一対一の観測・被観測関係を成り立たせる。ここが各ゴーストバスターの腕の見せ所だね。これが上手く出来たら後は「こいつはもう居ない」と確信できるまでボコボコにするの。誤解(イメージ)は確信(イメージ)によってのみ打ち消される。当然の理屈だよ』
『結局最後は力技なのか!? つーか俺はサーシャの演技が伸び悩んでいる理由を相談したはずだったということを今思い出した! この長話に何の意味があるの!?』
『そういう仕事柄の理由で、ロシア成教のゴーストバスターは御伽噺(ファンタジー)の類に無意識の抵抗があるんだよ。引き込まれてはいけないと心のどこかで肩肘張ってるから、ぎこちなくなるんだと思う』
『……む。そう言われると、そうなのか』
『サーシャ本人は好きみたいなんだけどね。仕事の部分がどうしても出ちゃうみたい。――ちなみに。同じ理由で、サーシャは誤解とかされるのすっごく嫌うから。ただでさえとうまは余計な一言が多いんだから注意して欲しいかも』
『……すでに一度釘打ち機で射殺されそうになりました』


 あちゃー、というインデックスの表情を忘れる暇もなく、今朝もまたしでかしてしまったわけだけども。
 身に染み付いた職業意識というのは、そう簡単に修正できるものではないだろう。
 まして、残り七日では。
「だからね、感情表現は顔よりも動作でやるの。腕の上げ下げだけでもずいぶん変わるんだから」
 熱心に言祝が演技指導をしている。受ける側の少女も真剣に習おうとはしているようだが、今一つ成果が見られない。
 個人授業の形になったため、手の空いた吹寄が上条達の方に歩いてきた。彼女は持っていた台本を細く丸めて自分の肩を叩きながら、
「頑張るわね、サーシャ。外国育ちであれだけ日本語が上手いってだけでもすごいのに」
 上条は吹寄が素直に人を褒めたことに驚いたが、とりあえず思い浮かんだことを口にする。
「いや、俺の知り合いには結構多いぞ。日本語の達者な外国人」
 すると横の姫神が聞き逃せない程度の声で、
「その中に。女性は何人?」
「へ? えーと、」
 思わず指折り数えようとした所で、罠だと気付く。
 指を曲げる動きで『鳴子大橋』が揺れだした。
「うわっ!? まず!」
 反射的に姫神を睨むが、彼女は片手で余るほどに指が折り曲げられた上条の手元を凝視していて視線が合わない。気付けば吹寄まで似たような目で同じ場所を見ていた。
 だー俺なんか悪いことしましたかー? と言っている間にも橋の揺れは大きくなり、このままでは確実にリンリンリンと鳴り出すぜーと直後に襲い来るであろうオシオキ音波攻撃に覚悟を決めたその時、
「あ、もうこんな時間か。みんなー、移動するよー」
 言祝が突然練習の中断を宣言した。
 直後、猛烈な脱力により上条と青髪ピアスの『大橋』は崩れ落ちたが特に責められることはなかった。馬鹿馬一号こと青髪ピアスは『惜しい! あと五秒あれば!』とか嘆いていたが華麗に無視。そして、馬鹿馬二号こと上条当麻は長時間の正座によりピクピクと痙攣している両足をどうにかなだめながら、
「こ、言祝。移動ってどこに何しに行くんだ?」
 ん? と見返してきた監督少女は、にこりと告げた。
「被服室に衣装合わせ。かみやんくんたちは、もう終わっちゃってるみたいだけどね」
 微妙に深読みできる台詞だった気もするが、身の安全のため気付かない振りをする上条だった。


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