とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

第二幕-2

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[11]Railgun02―上条当麻と御坂美琴の『サラダ記念日』

 全力で逃亡した上条当麻だが追撃してきた美琴に捕まるのにそう時間は掛からなかった。
 むしろあっという間に捕まったとも言える。
(さようなら俺の自由(フリーダム))
 上条は思わず空を仰いだが太陽を直視してしまい、頭がクラクラした。
 止めておけばよかったと軽く後悔し、
「御坂」
 上条は前を歩く御坂美琴へと声を掛けた。
「なに?」
 と振り向かずに彼女の素っ気無い返事が返ってくる。
 絶対怒ってる――、と思った。
 わずかに2文字の短い言葉ですら少女の不機嫌さが滲み出ており上条は首をすくめる。
「どこ向かってるんだよ……」
 あちこちに可愛い絆創膏を貼り付けた顔で上条は呟く。
 傷は逃亡戦の際にいろいろと飛んできた破片や瓦礫などにより出来たものだ。
 浅く切ったり擦りむいたりしたかすり傷程度で大したことは無いのだが美琴が強引に、
『破傷風とかになったらどうすんのよ、ほら、大人しくしてなさい』
 とか言って可愛らしい絆創膏を貼り付けてきたのでこの有様だ。
 ちなみに絆創膏の色はピンク。
 キャラクター物であり緑色のカエルが描かれている。
 確か御坂美琴が好きな「ケロヨン」がどうとか「ゲコ太」がどうとかいうカエルをモチーフにしたキャラクターだったと
上条は記憶を探って結論を出す。 
(ラブリーミトンでケロケロがゲコゲコで……)
 結論:間違っても男子高校生がつけるものでは無い。
 すれ違う人達が時々振り返ってくるのは多分上条の気のせいじゃないだろう。
 中には指差して苦笑する奴らまでいる。 
 恥ずかしくて仕方ないが外すと目の前の御嬢様にもっとひどい目に遭わされる事は必至。
(耐えろ……耐えるんだ上条当麻。 コイツも良かれと思ってやってくれてるんだ、男ならそこを汲んでやれ)
「……アンタの部屋」
「は?」
 突然美琴がボソリと呟いた。
 声が小さかったので思わず素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。
 それが気に入らなかったのか美琴はぴたりと足を止めて後ろを振り返った。
「だ・か・ら」
 と言葉を切って美琴は続ける。 
 美琴のサラサラの茶色い髪が顔の動きを追ってふわりと舞った。
 ゆっくりと――。 
 そして丁寧に――。
 一語一語をまるで自分に言い聞かせるように――少女は告げた。
 これはもはや決定事項だ――とでもいう目をして。
「これから行くのはアンタの部屋、そこでアンタには私の作った昼食を食べてもらう」
 上条当麻は今度こそ本当に素っ頓狂な声を上げた。
 但し今度は聞き返しではない。 抗議だ。
「意義アリ! どうしてそうなるんだよッ、大体、何か見慣れない買い物袋なんて素敵なオプション付いてると思ったら!!
一体何を企んで――」
 途中まで言いかけて上条は口をつぐんだ。
 お嬢様の視線が怪しく光っていたからだ。
 こういう顔をなんと表現するのか上条当麻には判らなかった。
 判るのは今は彼のターンでは無いという事だけ。

「それとも何?私がアンタの部屋に行っちゃいけない理由でもあるのかしら? どうしてかしら? 何か見られたく無い物でもあるの? 
 ……! はっはァ~ん……はっはァ~ん!……はっはァ~ん!!……もしかしてやらしぃ本とか?
 それなら別に気にしなくてもいいわよ。 結構寛大だから私。 あ、でも同じようなビデオとかあったらまとめて処分ね。
 これ決定。 いっそ徹底的に家捜しでも……。
それより何よりこのスーパーの袋見て気づきなさいよアンタも。 どう見たって昼食の材料にしか見えないでしょうが。
朝から悲惨な食生活を送ってるみたいだからせめて昼ぐらいはマトモな食事をとか思ったりしちゃいけないわけ?
(中略)
それにアンタ、大覇星祭の時は料理がどうのとかさんざん言ってくれたじゃない? 
私の家庭科スキルは職人芸の方向にしか成長してないと思ったら大間違いよ!
これでアンタが私に持ってる『料理は駄目っぽい』とか言う心底失礼なイメージを払拭できればしめたもの。
この辺で汚名は返上しておこうと思うわけよ。 ってアンタちゃんと聞いてる!?
そのうんざりした表情は何なのかじっくり聞き出したいけど今は忙しいからそれは後にしとく。 
とりあえず、ここまでで質問とか感想とかは?(ここまで45秒息継ぎ無し)」
 ぐぐっと上条に詰め寄り下から見上げて一気にまくし立てる美琴。
 世界を縮めるイカス兄貴も裸足で逃げ出すほどの早口。
 それでいて一回も舌を噛まない滑舌の良さ。
 こいつは声優とかアナウンサーとかの方が向いてるんじゃ無いのか?と本気で思ってしまう。
 肝心の彼女は戸惑う上条当麻の顔に「これでどうだ?」と右手の人差し指をビシっと指してくる。
 多分リアクションを期待してるのだろう、応えてやる事にする。
「質問としては、俺と途中で待ち合わせをする真意がわからん。 勝手に部屋に来ればいいだろ……。
あと感想としてはふざけんなの一点に尽きるな。 あとやらしぃ本とか無いから!! マジで!!
『嘘つかなくてもいいのに』みたいな顔すんじゃネェよッ、慰めるような憐憫に満ちた視線を投げてくるなァァァ
俺の嫁さんかお前はッ!! ツンデレキャラが料理下手なのはお約束だろうが!(ここまで16秒息継ぎ無し)」
 上条も負けずに早口で言い返す。
 後半が悲鳴じみているのは美琴が向けてくる憐れむような視線を受けたからだ。
「嫁ッ!? いやその、よ、よめとかその……いいから早く案内しなさいよ! 大体の場所しか知らないんだから私」
 と何故か頬を紅潮させ美琴は首に巻いたクリーム色のマフラーを翻してそっぽを向き再び歩き始めてしまった。
 リアクション失敗か?と首を捻る上条。
「嫁……嫁……奥さん……恋人……(小声)」
「あ?なんか言ったか御坂へぶぁッ」
「うっさぃ!! アンタも少しぐらい言葉選んでから喋りなさいよ!」
「わけわかんね……」  
 肩越しに顔寄せたら右の裏拳で迎撃されてしまった。
 『カッツーン』と丁度鼻にクリーンヒットして鼻を押さえて悶える上条。
 目尻に涙を浮かべつつプンスカ蒸気をあげる機関車娘の後ろ姿を見る。   
 今日はすこし肌寒いからか彼女はいつもの服装の上に茶色いコートを羽織っていた。
 腰の辺りまでのハーフコート。
 ジッパーで取り外し可能なフードが付いている。
 右胸の辺りに校章があることから恐らく常盤台中学の指定の防寒着なのだろう。
「案内ってどこにだよ……」
「アンタは私の話をぜんぜん聞いてないじゃないのよ……これから行くのはどこ?答えてみなさい」
「俺の部屋?」
「判ってんならさっさと前歩く」  
 上条と美琴は上条当麻の男子寮の部屋目指して目下移動中だった。


 しばらく上条のすぐ後ろを美琴がテクテクと歩くのが続いたが、美琴が持つスーパーの買い物袋へ目を留めて少し考えると、
「御坂」
「なによ?」
「ほら荷物貸せって」
 上条は美琴の左側に回りこんで強引に買い物袋を奪い取った。
 一瞬の早業だ。
「ちょっとッ」
 当然びっくりした美琴が声を上げるが、
「へへ、頂きッ」
 と軽口を叩いて返す。
 わずかなタイムラグもさしたる抵抗も無く上条の右手に買い物袋が納まり、袋からはみ出てるセロリが揺れた。
 美琴曰く昼食の材料が入った白いビニールの買い物袋は利き腕で持っても重たかった。
(どれどれ、何買ったんだあいつ? 一応俺の口に入るらしいから確認しても文句を言われる筋合いは無いよな)
 自己完結し両手で袋を開いて中を見る上条。
 茹でてある剥き身の海老のパック。
 いくつかの野菜に豚肉のパック。
 それに2Lサイズのウーロン茶のペットボトル。
 グリンピースの小さな缶詰なんかもある。
 あとセロリ。

『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』
 今日は12月23日だけどそんな言葉が浮かんだ。

 買い物袋を右手に持ち直して上条は「重たかったろ?」と聞く。
「え、あ、いや、うん……その……ありがと」
 ハッと我に返って美琴は礼を言うと早足で上条に追いつき上条と美琴は横に並んだ。
「しかし今日は寒いなぁ、昼も過ぎたというのに吐く息も真っ白だぜ、ほら」
 ハァー、と息を吐くと白い軌跡が虚空に描かれた。
 隣で美琴も同じような事をしてる。
「……」
「……なによ」
「いや、御坂らしいなって思ってな」
「何言ってんの、ばか……」


「ねぇ……」
「ん?」
 5分ぐらい歩いた後、横の美琴から声を掛けられた。
 とりあえず適当に返事する上条。
 恥ずかしそうに彼女は言った。
「その、さ、て……手、繋いでもいい? 寒いから、その私が、うん、私が寒いから手貸しなさい!」
 フリーになった両手を顔の前で組んだり放したりしながら俯き加減でチラチラと上条の顔色を窺がう。
 少し瞳が潤んでいたり上目遣いだったりして普段の彼女とは雰囲気が違って見える。
 普段の彼女はどっちかといえばこっちの意見を聞かずに自分のペースに巻き込むような人間だ。
 大抵その犠牲者になるのは上条自身なのでそれは良くわかっている。
「なんで最後が命令形なのが良くわからないけど……好きにすればいいだろ。ほら」
 上条はそう言って空いた左手をポケットから出して美琴へ差し伸べた。
 上条なりのOKのサインだ。
 美琴の顔の温度が更に上昇し赤みを増す。
 熟れたリンゴですらここまで赤くはならない。
「じゃ、じゃあ好きにさせて貰うわよ、後でキャンセルは無し」
 早口で言い放ち両手で少年の手を握り締める美琴。
 美琴の手は冷たい外気のせいか少しひんやりしてて冷たかった。
「……変な奴」
 上条の照れ隠しの言葉なんて気にしない。
 少女はしがみつくように身を寄せて「さ、寒いから仕方無いのよ?、別に他意は(ごにょごにょ)」と言い訳をする。
 これだともはや手を握るというよりは腕を組むといった感じだ。

 隣の上条に気づかれないように美琴は口の中で小さく呟いた。

「(――時間よ、止まれ……なんちゃって、あー、もー何言ってんだろ私)」
「ん、なんか言ったか?御坂」
「なっ、なんでも無いわよ、空耳じゃ無い?」
                                               [12月23日―PM12:45]


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