▼ スキルアウトA LAST
巨大な塔の最上階、クリスタルタウンで最も高い場所が真っ赤な光に埋め尽くされた。
駒場新リーダーが放った炸裂弾が爆弾魔に突き刺さり、その内に込められた炎を解き放
ったのだ。
私はタカと一緒に待機していた昇降口から、爆弾魔に止めを刺すべく飛び出した。
しかし、その必要は無かった。
屋上には無事に立っている人間が一人もいなかったのだ。
自ら志願した者達は黒く燻って端の辺りのいたる所に転がっていた。
駒場リーダーは、屋上の中心近く、床の焼け焦げのひどい場所に横たわっていた。
そして爆弾魔は、ボロボロの上半身を曝け出し、真っ黒な消し屑のようになって屋上の
中心に倒れていた。
「……、死んだか」
タカは呟いて緊張を解いた。私もそれにならう。
間違い無い。爆弾魔は死んでいた。体中の肌が炭化しているのだ。あれで生きているわ
けがない。
タカは爆弾魔に歩み寄りながら言った。
「俺はアイツの首を取る。おまえは駒場リーダーと他のみんなを」
頷いて従う。私は駒場さんの傍に駆け寄って跪き、安否を確認した。
「リーダー?駒場さん?大丈夫ですか?聞こえますか?」
うぅ、と駒場さんは火傷を負った唇でかすかに呻いた。よかった。リーダーは生きてい
る。相討ちにはならなかったのだ。
「うぅ……、……、だ……」
「え?どうかしました?」
リーダーの呻きの中に、“~だ”という言葉感じた気がした。
「あまり喋らないほうが、すぐに手当てを――」
「……だ……駄目、だ……」
今度ははっきり聞こえた。駄目だ、と。
「駄目だ……アイツは、まだ……“死んでない”……」
何のことか分からなかった。
リーダーは震える手で爆弾魔の方を指差した。
ゆっくりとそちらに顔を向ける。そこには、ナイフを持った手とは逆の手を爆弾魔の首
に伸ばそうとしているタカの姿があった。死んでいるはずの爆弾魔、ソイツの足がピクリ
と動いた。
私はやっと駒場さんの言葉の意味に気が付いた。
“爆弾魔は、まだ、死んでない”――!
「タカッ!」
叫んだ。しかし遅かった。
タカは私の警告に答えるよりも前に、いきなり弾けるようにして口を開いた爆弾魔に手
を喰われていた。
駒場新リーダーが放った炸裂弾が爆弾魔に突き刺さり、その内に込められた炎を解き放
ったのだ。
私はタカと一緒に待機していた昇降口から、爆弾魔に止めを刺すべく飛び出した。
しかし、その必要は無かった。
屋上には無事に立っている人間が一人もいなかったのだ。
自ら志願した者達は黒く燻って端の辺りのいたる所に転がっていた。
駒場リーダーは、屋上の中心近く、床の焼け焦げのひどい場所に横たわっていた。
そして爆弾魔は、ボロボロの上半身を曝け出し、真っ黒な消し屑のようになって屋上の
中心に倒れていた。
「……、死んだか」
タカは呟いて緊張を解いた。私もそれにならう。
間違い無い。爆弾魔は死んでいた。体中の肌が炭化しているのだ。あれで生きているわ
けがない。
タカは爆弾魔に歩み寄りながら言った。
「俺はアイツの首を取る。おまえは駒場リーダーと他のみんなを」
頷いて従う。私は駒場さんの傍に駆け寄って跪き、安否を確認した。
「リーダー?駒場さん?大丈夫ですか?聞こえますか?」
うぅ、と駒場さんは火傷を負った唇でかすかに呻いた。よかった。リーダーは生きてい
る。相討ちにはならなかったのだ。
「うぅ……、……、だ……」
「え?どうかしました?」
リーダーの呻きの中に、“~だ”という言葉感じた気がした。
「あまり喋らないほうが、すぐに手当てを――」
「……だ……駄目、だ……」
今度ははっきり聞こえた。駄目だ、と。
「駄目だ……アイツは、まだ……“死んでない”……」
何のことか分からなかった。
リーダーは震える手で爆弾魔の方を指差した。
ゆっくりとそちらに顔を向ける。そこには、ナイフを持った手とは逆の手を爆弾魔の首
に伸ばそうとしているタカの姿があった。死んでいるはずの爆弾魔、ソイツの足がピクリ
と動いた。
私はやっと駒場さんの言葉の意味に気が付いた。
“爆弾魔は、まだ、死んでない”――!
「タカッ!」
叫んだ。しかし遅かった。
タカは私の警告に答えるよりも前に、いきなり弾けるようにして口を開いた爆弾魔に手
を喰われていた。
▼ 駒場利徳 03
僕は見た。自分の放った炸裂弾が、クロヤマに突き刺さる前に爆破で迎撃されてしまっ
た瞬間を。
クロヤマは飛び散った炎の熱による被害しか受けてはいなかった。
爆弾魔は、あれぐらいでは死なない。アイツの異常な戦闘性の一つにあるのが、2時間
も与えられれば負傷しても大抵の怪我なら独力で回復し、行動可能な肉体にしてしまう点
だ。ましてや今負っているのは体表面を炭化させられた程度の火傷のみ。爆弾魔は感受さ
れる神経情報を無視して破壊を続行してしまう。
「……駄目だ……」
傍に歩み寄ってきた女が自分に心配そうな声を掛けてくるが、駄目だ。そんな事をして
いる場合ではないのだ。クロヤマは今は一時的に倒れているが、もう止めを刺すには遅い。
何よりも優先して、ここから一刻も早く逃げ去――
遅かった。
ガチュリ。
そんな湿った音がした。
傍にいる女の視線がある方向に釘付けになる。
その先には、唖然とした表情で自らの手を凝視する男と、その手首を丸々口の中に包み
込んだクロヤマ――爆弾魔の姿があった。
「えっ!?あぁっ!?ぎ……あぁああ!?」
そのおぞましい感触に男は声をあげ、咄嗟に腕を引き抜こうとする。しかし爆弾魔はそ
れを許さず、喉を鳴らせて手首をくわえ直す。
それはワニを連想させた。一度その顎に捕えられた獲物は決して逃げる事かなわず、身
を捩って抵抗しようが懇願しようが、牙は肉を引き裂いて食い込むばかり。
実際、爆弾魔の歯は――信じられないことに――肉食獣のような鋭さを持ったそれへと変
化していた。その爪はナイフのように鋭く伸び、毛髪は雄ライオンよりも長くたなびき、
数十秒前とは全く違う奇怪な容貌を月光の下に晒している。
爆弾魔は男の手を引き千切らんと、野性の肉食獣に酷似した動きで首を強引に左右へ振
り回す。男はその強力な動きにたたらを踏まされ、あまりの激痛にも歯を食い縛りながら
も足を踏張る。
「い゛い゛い゛ぉぉぉぉぉっ!!放んなせこのぉぉぉっ」
「タカっ!ナイフ!」
女がもう一方の手にあった得物の存在を思い出させた。彼はその刃物を振りかぶり、自
分を離さないソイツに突き立てようとする。しかし正にその時、喰われた手からグパリと
嫌な音がし、男は悲鳴をあげてナイフを取り落としてしまった。爆弾魔がより一層の力を
込めて手首を噛み絞めたのだ。
喉を引き絞るような叫び声。力を緩めない爆弾魔。男の名を連呼する女。
彼女は二人にむかって走り出した。男を助けるべく、一番近い爆弾魔の足に手を伸ばす。
しかしヤツはそれを嘲笑った。膝を赤い光に包んで爆破すると、口に手首をくわえたま
まで、それを軸にして反対方向へ宙返りしたのだ。一見、男が爆弾魔を勢い良く一本釣り
したようにも見える動きだった。
それから起こった事は、スローモーションでやけにきっちりと頭に届けられた。
女の手から逃れた爆弾魔は、自分を釣り上げるように振り上げられた男の手の真上で爆
発を起こし、空中で逆立ちになった状態で一瞬静止した。
かと思えばその直後、全身を爆破してきりもみ回転を始め、男の手首をガリガリと削り
出したのだ。長く伸びた髪は遠心力でスカートのようにふわりとはためいた。その毛先は
飛び散る血液とともに、すぐ傍で凍り付く女の顔をピシャピシャと叩いた。
ガリガリ、ギリギリ、ジャリジャリ、そして、
ブチンッ――!
爆弾魔は大技を決めた体操選手の動きで地面に着地した。男と女はそのままで固まって
いた。何が起きたのかのかを理解したくない様でもあった。
直後、天に掲げられたままの男の腕から、手首が無いその赤い肉断面が、バチャリと音
を立てて噴血した。
「「……ぁ……ぁぁ……ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」」
二人は同時に別々の色を込めて叫んだ。
た瞬間を。
クロヤマは飛び散った炎の熱による被害しか受けてはいなかった。
爆弾魔は、あれぐらいでは死なない。アイツの異常な戦闘性の一つにあるのが、2時間
も与えられれば負傷しても大抵の怪我なら独力で回復し、行動可能な肉体にしてしまう点
だ。ましてや今負っているのは体表面を炭化させられた程度の火傷のみ。爆弾魔は感受さ
れる神経情報を無視して破壊を続行してしまう。
「……駄目だ……」
傍に歩み寄ってきた女が自分に心配そうな声を掛けてくるが、駄目だ。そんな事をして
いる場合ではないのだ。クロヤマは今は一時的に倒れているが、もう止めを刺すには遅い。
何よりも優先して、ここから一刻も早く逃げ去――
遅かった。
ガチュリ。
そんな湿った音がした。
傍にいる女の視線がある方向に釘付けになる。
その先には、唖然とした表情で自らの手を凝視する男と、その手首を丸々口の中に包み
込んだクロヤマ――爆弾魔の姿があった。
「えっ!?あぁっ!?ぎ……あぁああ!?」
そのおぞましい感触に男は声をあげ、咄嗟に腕を引き抜こうとする。しかし爆弾魔はそ
れを許さず、喉を鳴らせて手首をくわえ直す。
それはワニを連想させた。一度その顎に捕えられた獲物は決して逃げる事かなわず、身
を捩って抵抗しようが懇願しようが、牙は肉を引き裂いて食い込むばかり。
実際、爆弾魔の歯は――信じられないことに――肉食獣のような鋭さを持ったそれへと変
化していた。その爪はナイフのように鋭く伸び、毛髪は雄ライオンよりも長くたなびき、
数十秒前とは全く違う奇怪な容貌を月光の下に晒している。
爆弾魔は男の手を引き千切らんと、野性の肉食獣に酷似した動きで首を強引に左右へ振
り回す。男はその強力な動きにたたらを踏まされ、あまりの激痛にも歯を食い縛りながら
も足を踏張る。
「い゛い゛い゛ぉぉぉぉぉっ!!放んなせこのぉぉぉっ」
「タカっ!ナイフ!」
女がもう一方の手にあった得物の存在を思い出させた。彼はその刃物を振りかぶり、自
分を離さないソイツに突き立てようとする。しかし正にその時、喰われた手からグパリと
嫌な音がし、男は悲鳴をあげてナイフを取り落としてしまった。爆弾魔がより一層の力を
込めて手首を噛み絞めたのだ。
喉を引き絞るような叫び声。力を緩めない爆弾魔。男の名を連呼する女。
彼女は二人にむかって走り出した。男を助けるべく、一番近い爆弾魔の足に手を伸ばす。
しかしヤツはそれを嘲笑った。膝を赤い光に包んで爆破すると、口に手首をくわえたま
まで、それを軸にして反対方向へ宙返りしたのだ。一見、男が爆弾魔を勢い良く一本釣り
したようにも見える動きだった。
それから起こった事は、スローモーションでやけにきっちりと頭に届けられた。
女の手から逃れた爆弾魔は、自分を釣り上げるように振り上げられた男の手の真上で爆
発を起こし、空中で逆立ちになった状態で一瞬静止した。
かと思えばその直後、全身を爆破してきりもみ回転を始め、男の手首をガリガリと削り
出したのだ。長く伸びた髪は遠心力でスカートのようにふわりとはためいた。その毛先は
飛び散る血液とともに、すぐ傍で凍り付く女の顔をピシャピシャと叩いた。
ガリガリ、ギリギリ、ジャリジャリ、そして、
ブチンッ――!
爆弾魔は大技を決めた体操選手の動きで地面に着地した。男と女はそのままで固まって
いた。何が起きたのかのかを理解したくない様でもあった。
直後、天に掲げられたままの男の腕から、手首が無いその赤い肉断面が、バチャリと音
を立てて噴血した。
「「……ぁ……ぁぁ……ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」」
二人は同時に別々の色を込めて叫んだ。
ぐちゃり、ぐちゃり。爆弾魔は行儀悪く屈んで口の中の肉を咀嚼していた。ボフンッ、
ゴチュッ、と時々爆発を使いながら。口の端から指の先端を溢しながら。
「あ……あ……あ……」
男は気絶した。女はその変わり果てた姿を見て言葉にならない音を喉から溢す。男の体
を揺さ振る。何度も、何度も。片方の手首を失い、止まらない血を流す体を、何度も揺ら
す、しかし男は目覚めない。
と、
「……せ……せ……」
彼女は突然すっと立ち上がり、
「返せ……」
返せ、返せ、無表情に、顎を動かし続ける爆弾魔へむかって囁きはじめた。
返せ、返せ、返せ、
ぐちゅ、ギチャ、ぴちゃ、
返せ、返せ、返せ、
クチャ、キチャ、ニチャ、
返せ、返せ、返せ、
ゴリッ、ガリ、カリ、
返せ、返せ、返せ、
ブシュ、ジャビ、ガリ、ゴチュ、バキ、パキ、ズリズリ、ピシャピシャ、ジャコジャコ
ガリガリズリズリ、
返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、
返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返
せ、返せ、返せ、返せ、
ブチブチゴリゴリ、ズチズチニチニチ、バキバキビシギシ、ベキベキベキベキベキベキ
ベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリブチャブチャブチャブチャ
ブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブ
チャ
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ
ビチャビチャギチギチ、バリコリズチャミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチミ
チミチミチミチミチミチギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリブチブチブチブ
チブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチグチュグチュグチュ
グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグ
チュグチュグチュグチュ
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ
バキベキ、ビ
ゴチュッ、と時々爆発を使いながら。口の端から指の先端を溢しながら。
「あ……あ……あ……」
男は気絶した。女はその変わり果てた姿を見て言葉にならない音を喉から溢す。男の体
を揺さ振る。何度も、何度も。片方の手首を失い、止まらない血を流す体を、何度も揺ら
す、しかし男は目覚めない。
と、
「……せ……せ……」
彼女は突然すっと立ち上がり、
「返せ……」
返せ、返せ、無表情に、顎を動かし続ける爆弾魔へむかって囁きはじめた。
返せ、返せ、返せ、
ぐちゅ、ギチャ、ぴちゃ、
返せ、返せ、返せ、
クチャ、キチャ、ニチャ、
返せ、返せ、返せ、
ゴリッ、ガリ、カリ、
返せ、返せ、返せ、
ブシュ、ジャビ、ガリ、ゴチュ、バキ、パキ、ズリズリ、ピシャピシャ、ジャコジャコ
ガリガリズリズリ、
返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、
返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返
せ、返せ、返せ、返せ、
ブチブチゴリゴリ、ズチズチニチニチ、バキバキビシギシ、ベキベキベキベキベキベキ
ベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキベキゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリブチャブチャブチャブチャ
ブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブチャブ
チャ
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ
ビチャビチャギチギチ、バリコリズチャミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチミ
チミチミチミチミチミチギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリブチブチブチブ
チブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチグチュグチュグチュ
グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグ
チュグチュグチュグチュ
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返
せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ
バキベキ、ビ
「タカの手を、返せえええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェ
ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ
ェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェエエエエエエエエエエッ
ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ
ッッッッッッッッッッ
ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェ
ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ
ェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェエエエエエエエエエエッ
ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ
ッッッッッッッッッッ
ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
女は一変、狂った声をあげて髪を振り乱し唾液を撒き散らしながらながら爆弾魔に飛び
掛かった。しかし無論、爆弾魔は造作も無くその喉を掴んで動きを止めてしまい、その言
葉が聞き入れられる事は無い――
かと思われたが、予想は外される。
もはや赤い泥となった手首の成れの果て。口一杯に頬張られたそれを爆弾魔は女の顔に
近付けると、ブパァッ!!と一気に吐き出したのだ。
喉を掴まれて気管を圧迫される苦しさから、女は口を大きく開けてしまっていた。彼女
の望んでいたものは、その奥深くまで容赦無く飛び込んだ。
「ッ――ゴホッ――ヴッ――ウヴォォェェェッッ!!」
女はすぐに嘔吐した。なりふり構わず地面にすがり、異物を吐き出そうとして全身を脈
動させながら咳き込む。
爆弾魔はそれを、狂ったように物珍しげに眺めていた。いや、たぶん、本当に狂っ
ている。何ヵ月も伸ばしたままで、切る代わりに研いだような両手の爪。真っ黒くボロボ
ロに炭化した皮膚を次々と崩し落とし、その間から覗く赤黒い肌。そして落ち武者のよう
に荒々しくたなびく、地面に届きそうな程の長髪。その下に垣間見える、ひび割れた笑み
と狂人の叫び。だが彼は覚めたように口を閉じ、目の前にひれ伏す女を朦朧とした目で見やった。
「あ゛ぁ……い゛ぁあ゛……ひぁあ゛……!」
女のさっきまでの気迫は、嘘のように消え去っていた。タカ、タカと零しながら、肉片
をかき集める彼女は、その持ち主である本人のことさえも目に入らないようだった。嗚咽
を洩らしながら鼻と口から赤い半液体を垂れ流すままに地面へ顔をこすり続け、爆弾魔の
放った断頭斧のような手刀を防ごうともしなかったのだ。
僕が気を失う前最後に見たのは、新たな獲物を求めて屋上から飛び降りる爆弾魔の、踊
るように翻る長い髪の毛だった。
掛かった。しかし無論、爆弾魔は造作も無くその喉を掴んで動きを止めてしまい、その言
葉が聞き入れられる事は無い――
かと思われたが、予想は外される。
もはや赤い泥となった手首の成れの果て。口一杯に頬張られたそれを爆弾魔は女の顔に
近付けると、ブパァッ!!と一気に吐き出したのだ。
喉を掴まれて気管を圧迫される苦しさから、女は口を大きく開けてしまっていた。彼女
の望んでいたものは、その奥深くまで容赦無く飛び込んだ。
「ッ――ゴホッ――ヴッ――ウヴォォェェェッッ!!」
女はすぐに嘔吐した。なりふり構わず地面にすがり、異物を吐き出そうとして全身を脈
動させながら咳き込む。
爆弾魔はそれを、狂ったように物珍しげに眺めていた。いや、たぶん、本当に狂っ
ている。何ヵ月も伸ばしたままで、切る代わりに研いだような両手の爪。真っ黒くボロボ
ロに炭化した皮膚を次々と崩し落とし、その間から覗く赤黒い肌。そして落ち武者のよう
に荒々しくたなびく、地面に届きそうな程の長髪。その下に垣間見える、ひび割れた笑み
と狂人の叫び。だが彼は覚めたように口を閉じ、目の前にひれ伏す女を朦朧とした目で見やった。
「あ゛ぁ……い゛ぁあ゛……ひぁあ゛……!」
女のさっきまでの気迫は、嘘のように消え去っていた。タカ、タカと零しながら、肉片
をかき集める彼女は、その持ち主である本人のことさえも目に入らないようだった。嗚咽
を洩らしながら鼻と口から赤い半液体を垂れ流すままに地面へ顔をこすり続け、爆弾魔の
放った断頭斧のような手刀を防ごうともしなかったのだ。
僕が気を失う前最後に見たのは、新たな獲物を求めて屋上から飛び降りる爆弾魔の、踊
るように翻る長い髪の毛だった。
▼ テレポーテーター 01
パソコンのスピーカーからこの世のモノとは思えない身の毛もよだつような叫び声が響
き、高い建物の屋上を映す衛星映像に、大輪の花のように撒き散らされる真っ赤な光が広
がった。
「もう、本当の黒山先輩とか、私たちには想像のつかない学園都市の実態とか、わけのわ
からない任務とか、そういう事はどうでもいいと思うんです」
初春は落ち着き過ぎな口調でそう言った。
「黒山先輩は、本当はとんでもない人なのかも知れません。というか、たぶん、とんでも
ない人です。ハハ、だって、一人で百人単位ですもんね、普通じゃありませんよね、どう
やったらそんなに強くなれるんでしょうね……普通の人じゃ、ないですよね……」
無理な笑い声は、途中から無様に崩れて泣き声になった。
「でも、私は黒山先輩には本当にお世話になったんですっ」
言葉を震わせながらも、初春は言い続けた。
「初めてあの人に助けられたのは、風紀委員になったばっかりで、すっごく浮かれてた時
ですっ。一つの経験も実力も無いくせに、腕章を持ってるってだけで調子に乗って!訓練
で教えられた事なんかまるっきり忘れちゃって!やることなすこと全部あまのじゃくで、
挙げ句にはみんなの足を引っ張って!危険に晒してっ、でも、あの人はっ、黒山先輩はっ、
何でも無い事みたいに私をカバーしてくれて、……何回でも付き合ってくれて……ナビゲー
ターの才能があるって言ってくれて……初めて表彰された時は、まっさきにおめでとうっ
て誉めてくれて……」
初春はもう、思いっきり泣いていた。
「私は、黒山先輩に、あんな事をしてほしくないです……」
建物の中にある監視カメラのスピーカーからは、柔らかいものが潰れる音が拾われてい
た。恐怖が音になったような無数の悲鳴が響いていた。範囲の狭い暗闇の映像には獣のよ
うな赤い光が何度も一瞬だけ映っていた。
「黒山先輩、苦しんでますよね?いまさっきのあの声、悲鳴でしたよね?」
そこで初春はべそをかくのをやめ、私を真っすぐに見た。また泣きそうになった。もう
一度目をこすり、呼吸を整え、再び、もっと真っすぐに私を見た。
「白井さん、お願いです。黒山先輩を止めてください。助けてあげてください。これ以上
人を傷つけさせないでください。お願いです。白井さん、しか、できない、んです……」
初春はまた涙声に戻った。しかし目だけはそのままだった。真っすぐなままだった。
「白井」
背中を向けながら言い放つ。
「全力でわたくしをサポートするんですのよ」
彼女は燃える瞳で頷いた。
「当然です」
頭の中の地図を呼び起こし、第十九学区への最短ルートを十一次元的に演算しながら思
う。
私だって、あの猫バカには言ってやりたい事ややってやりたい事が、たくさんあるのだ。
そのためには、あんな破壊活動など、一刻も早く蹴り止めなければならなかった。
き、高い建物の屋上を映す衛星映像に、大輪の花のように撒き散らされる真っ赤な光が広
がった。
「もう、本当の黒山先輩とか、私たちには想像のつかない学園都市の実態とか、わけのわ
からない任務とか、そういう事はどうでもいいと思うんです」
初春は落ち着き過ぎな口調でそう言った。
「黒山先輩は、本当はとんでもない人なのかも知れません。というか、たぶん、とんでも
ない人です。ハハ、だって、一人で百人単位ですもんね、普通じゃありませんよね、どう
やったらそんなに強くなれるんでしょうね……普通の人じゃ、ないですよね……」
無理な笑い声は、途中から無様に崩れて泣き声になった。
「でも、私は黒山先輩には本当にお世話になったんですっ」
言葉を震わせながらも、初春は言い続けた。
「初めてあの人に助けられたのは、風紀委員になったばっかりで、すっごく浮かれてた時
ですっ。一つの経験も実力も無いくせに、腕章を持ってるってだけで調子に乗って!訓練
で教えられた事なんかまるっきり忘れちゃって!やることなすこと全部あまのじゃくで、
挙げ句にはみんなの足を引っ張って!危険に晒してっ、でも、あの人はっ、黒山先輩はっ、
何でも無い事みたいに私をカバーしてくれて、……何回でも付き合ってくれて……ナビゲー
ターの才能があるって言ってくれて……初めて表彰された時は、まっさきにおめでとうっ
て誉めてくれて……」
初春はもう、思いっきり泣いていた。
「私は、黒山先輩に、あんな事をしてほしくないです……」
建物の中にある監視カメラのスピーカーからは、柔らかいものが潰れる音が拾われてい
た。恐怖が音になったような無数の悲鳴が響いていた。範囲の狭い暗闇の映像には獣のよ
うな赤い光が何度も一瞬だけ映っていた。
「黒山先輩、苦しんでますよね?いまさっきのあの声、悲鳴でしたよね?」
そこで初春はべそをかくのをやめ、私を真っすぐに見た。また泣きそうになった。もう
一度目をこすり、呼吸を整え、再び、もっと真っすぐに私を見た。
「白井さん、お願いです。黒山先輩を止めてください。助けてあげてください。これ以上
人を傷つけさせないでください。お願いです。白井さん、しか、できない、んです……」
初春はまた涙声に戻った。しかし目だけはそのままだった。真っすぐなままだった。
「白井」
背中を向けながら言い放つ。
「全力でわたくしをサポートするんですのよ」
彼女は燃える瞳で頷いた。
「当然です」
頭の中の地図を呼び起こし、第十九学区への最短ルートを十一次元的に演算しながら思
う。
私だって、あの猫バカには言ってやりたい事ややってやりたい事が、たくさんあるのだ。
そのためには、あんな破壊活動など、一刻も早く蹴り止めなければならなかった。
▼スキルアウトB LAST
「頑張れよニック、あともうちょっとだ!」
励ます声に返事は無い。オレは背負った彼の体を割れ物のように注意しながら、クリス
タルタウンへ運んでいる。
天道通り脇の路地に戻ってみると、仲間たちは傷ついた体で横たわったままだった。特
にニックはひどかった。まるで死んだように動かないのだ。オレが体に触れた時にはピク
リと反応したものの、頭をやられたためだろうか、かなりヤバい。皆は体が正常に動くよ
うになるまでそこに居て、オレが大至急でクリスタルタウンまでニックをつれていく事に
なった。ニックのためなら当然だと思った、むしろ有り難かった。あの中で一人だけ無事
な自分を恥ずかしく感じる気持ちがあったのだ。
電力の無い街は、暗い。
建物と建物の切れ間、遥か遠くにある第六学区や第四学区の空がうっすらと白んでいる
以外に、光源は無い。月は新月。星も“外”生まれの汚れた空気のせいで霞んでいる。
闇は自分以外の全てを塗り潰す。闇に上塗りされ、とたんにその属性を変えてしまった
世界は自分を圧殺しようとしているのではと思えてくる。が、今は怯えるわけにはいかな
い。オレはニックを助けないといけねーんだ。もっとも、たとえ意識が無かろうと、道連
れがいるというのは心強い。オレはいつのまにか彼に頼ることで落ち着いている。
近道の路地を抜けると、ようやくクリスタルタウンの光の気配が見えてきた。十九学区
で唯一電力が通っているその場所はスキルアウトの本拠地だ。医者の真似事ができる人間
も物資もある。
「見えたぞニック!もう大丈夫だ!」
彼は呻き声を上げる。心なしか、背中で揺れているうちに少しずつ回復している気がす
る。これなら大したこともなく治るかもしれない。
だが、そんな能天気も、クリスタルタウンの駐車場に出る次の角を曲がるまでだった。
最初は、祭りでもしているのかと思った。
だがいくらなんでも車を燃やすというのは――いや、そういう斬新なのもアリなのか?
次に、そこらじゅうでスキルアウトらしき服装の人間がごろごろ転がっているのに気が
付いた。
振る舞われた酒でも飲んで酔っ払ったのだろうか?介抱する奴も一人もいない。それは
ちょっと厳しいんじゃねぇのか?
その内、地面が一面なにかの液体でヒタヒタに濡れているのに気が付いた。橙色の炎の
光が、チロチロと明滅している。
ああ、これがその酒だね。全く、あたりにぶちまけるほどの大騒ぎとは。ビールかけの
真似でもやっていたのか?というか、そんなにテンションが上がるというのは喜ばしい事
があったからだろう。つまり今の状況で喜ぶべき事というのは、『アイツ』がぶちのめされ
たのではないだろうか?くっそー、もっと早く来るんだった。完全に出遅れてるじゃねえ
か。
それにしても、あのグチャグチャしたものはなんだろう。駐車場の中心にこんもりと円
形に積まれた、酒がにじみ出ている、あのブヨブヨグチャグチャしたものは何なのだろう?
震える膝をついて、手のひらを地面に付ける。
裏返して、付着した液体を確かめる。
血だった。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
励ます声に返事は無い。オレは背負った彼の体を割れ物のように注意しながら、クリス
タルタウンへ運んでいる。
天道通り脇の路地に戻ってみると、仲間たちは傷ついた体で横たわったままだった。特
にニックはひどかった。まるで死んだように動かないのだ。オレが体に触れた時にはピク
リと反応したものの、頭をやられたためだろうか、かなりヤバい。皆は体が正常に動くよ
うになるまでそこに居て、オレが大至急でクリスタルタウンまでニックをつれていく事に
なった。ニックのためなら当然だと思った、むしろ有り難かった。あの中で一人だけ無事
な自分を恥ずかしく感じる気持ちがあったのだ。
電力の無い街は、暗い。
建物と建物の切れ間、遥か遠くにある第六学区や第四学区の空がうっすらと白んでいる
以外に、光源は無い。月は新月。星も“外”生まれの汚れた空気のせいで霞んでいる。
闇は自分以外の全てを塗り潰す。闇に上塗りされ、とたんにその属性を変えてしまった
世界は自分を圧殺しようとしているのではと思えてくる。が、今は怯えるわけにはいかな
い。オレはニックを助けないといけねーんだ。もっとも、たとえ意識が無かろうと、道連
れがいるというのは心強い。オレはいつのまにか彼に頼ることで落ち着いている。
近道の路地を抜けると、ようやくクリスタルタウンの光の気配が見えてきた。十九学区
で唯一電力が通っているその場所はスキルアウトの本拠地だ。医者の真似事ができる人間
も物資もある。
「見えたぞニック!もう大丈夫だ!」
彼は呻き声を上げる。心なしか、背中で揺れているうちに少しずつ回復している気がす
る。これなら大したこともなく治るかもしれない。
だが、そんな能天気も、クリスタルタウンの駐車場に出る次の角を曲がるまでだった。
最初は、祭りでもしているのかと思った。
だがいくらなんでも車を燃やすというのは――いや、そういう斬新なのもアリなのか?
次に、そこらじゅうでスキルアウトらしき服装の人間がごろごろ転がっているのに気が
付いた。
振る舞われた酒でも飲んで酔っ払ったのだろうか?介抱する奴も一人もいない。それは
ちょっと厳しいんじゃねぇのか?
その内、地面が一面なにかの液体でヒタヒタに濡れているのに気が付いた。橙色の炎の
光が、チロチロと明滅している。
ああ、これがその酒だね。全く、あたりにぶちまけるほどの大騒ぎとは。ビールかけの
真似でもやっていたのか?というか、そんなにテンションが上がるというのは喜ばしい事
があったからだろう。つまり今の状況で喜ぶべき事というのは、『アイツ』がぶちのめされ
たのではないだろうか?くっそー、もっと早く来るんだった。完全に出遅れてるじゃねえ
か。
それにしても、あのグチャグチャしたものはなんだろう。駐車場の中心にこんもりと円
形に積まれた、酒がにじみ出ている、あのブヨブヨグチャグチャしたものは何なのだろう?
震える膝をついて、手のひらを地面に付ける。
裏返して、付着した液体を確かめる。
血だった。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
いつのまにか地面へ投げ出していたニックの体にすがり付きながら、沸き上がる恐怖を
必死で吐き出す。叫んでいなければ押し潰されてしまう、あるいは破裂してしまう。
「あーーーッ!ニック!ニック!あーーーッ!」
そうだ、逃げるんだ。そのまま喚きながらニックを抱えてあっちまで、この狂った祭り
が目に入らない所まで逃げろ!頭に流れ込んでくる情報を遮断しろ、話はそれからだ、こ
んな、血を流す肉塊を中心に据えた、参拝者は一人として動かない、こんな、こんな、早
く逃げろ!こんな事をするヤツなんて、そんなのは『アイツ』に決まっている!早くしな
ければ、
必死で吐き出す。叫んでいなければ押し潰されてしまう、あるいは破裂してしまう。
「あーーーッ!ニック!ニック!あーーーッ!」
そうだ、逃げるんだ。そのまま喚きながらニックを抱えてあっちまで、この狂った祭り
が目に入らない所まで逃げろ!頭に流れ込んでくる情報を遮断しろ、話はそれからだ、こ
んな、血を流す肉塊を中心に据えた、参拝者は一人として動かない、こんな、こんな、早
く逃げろ!こんな事をするヤツなんて、そんなのは『アイツ』に決まっている!早くしな
ければ、
『アイツ』が、現れた。
広大な駐車場の反対側。
クリスタルタウンの自動ドアから。
右手に、ニンゲンをぶら下げて。
左手に、ニクをぶら下げて。
全身、浴びたように血まみれで。
どういうわけか、貞子のような長い髪になっていて。
そして
その顔が
クルリと
クリスタルタウンの自動ドアから。
右手に、ニンゲンをぶら下げて。
左手に、ニクをぶら下げて。
全身、浴びたように血まみれで。
どういうわけか、貞子のような長い髪になっていて。
そして
その顔が
クルリと
こっちに――
パシュ、と、そんな音が遠く離れていてもはっきりと聞こえた。ヤツの体の血が霧散し
て、その髪の間からのぞく顔が露になる。が、そこにあったものは果たして顔と呼べるの
だろうか。その目は光が見えているのか。その口は言葉を喋るのか。
再び、バシュリ。
『ソイツ』は両手に掴んでいたものを放り出して、物凄い速さでこっちへ走ってくる。
飛んでくる。
ぐちゅり。赤い湿った塊の上。
バコリ。燃える車の残骸を乗り越え。
メキリ。鉄柱の天辺を蹴り付け、折り曲げながら。
ビシリ。アスファルトを踏み砕き、
そして、その拳がオレの腹へ――
骨と内蔵が潰れる音がした。腹と言わず体全体を衝撃が突き抜ける。一瞬の浮遊感の後、
地面に勢い良く回転しながら墜落し、四方八方から叩き殴られる。
オレは5メートルも吹っ飛ばされていた。たった一撃で体がボロボロだった。被ってい
た帽子もどこかへいき、たくし込んでいた髪がダラリと垂れる。
『アイツ』は――そんなオレを無言で、水の中を藻掻くボウフラでも見るような目だ見下
ろしている。
一歩。また一歩。近づいてくる。
しかしオレは動かなかった。体中が痛んでいる。それに逃げても無駄だ。何より怖かっ
た。震えが止まらない。蹲ったまま動けない。
嫌だ。オレは、嫌だ、壊されたくない、あんな、グチャグチャな、嫌だ、アタシは、あ
んなのになりたくない、
「嫌だ……助けてよ、ニック――」
助けて、助けて、助けて、
アタシはそれ以外の全てを忘れてしまったように乞い続けた。
何度も乞い続けた。
何秒も、乞い続けた。
何十秒も、乞い続けた。
さすがにおかしいと想い、恐る恐る顔を上げた。
そこには、呆然と立ちすくむ男がいた。
彼は直後、爆発と共にバウンドしながら駐車場を突っ切り、クリスタルタウンの店舗へ
突っ込んでいった。
て、その髪の間からのぞく顔が露になる。が、そこにあったものは果たして顔と呼べるの
だろうか。その目は光が見えているのか。その口は言葉を喋るのか。
再び、バシュリ。
『ソイツ』は両手に掴んでいたものを放り出して、物凄い速さでこっちへ走ってくる。
飛んでくる。
ぐちゅり。赤い湿った塊の上。
バコリ。燃える車の残骸を乗り越え。
メキリ。鉄柱の天辺を蹴り付け、折り曲げながら。
ビシリ。アスファルトを踏み砕き、
そして、その拳がオレの腹へ――
骨と内蔵が潰れる音がした。腹と言わず体全体を衝撃が突き抜ける。一瞬の浮遊感の後、
地面に勢い良く回転しながら墜落し、四方八方から叩き殴られる。
オレは5メートルも吹っ飛ばされていた。たった一撃で体がボロボロだった。被ってい
た帽子もどこかへいき、たくし込んでいた髪がダラリと垂れる。
『アイツ』は――そんなオレを無言で、水の中を藻掻くボウフラでも見るような目だ見下
ろしている。
一歩。また一歩。近づいてくる。
しかしオレは動かなかった。体中が痛んでいる。それに逃げても無駄だ。何より怖かっ
た。震えが止まらない。蹲ったまま動けない。
嫌だ。オレは、嫌だ、壊されたくない、あんな、グチャグチャな、嫌だ、アタシは、あ
んなのになりたくない、
「嫌だ……助けてよ、ニック――」
助けて、助けて、助けて、
アタシはそれ以外の全てを忘れてしまったように乞い続けた。
何度も乞い続けた。
何秒も、乞い続けた。
何十秒も、乞い続けた。
さすがにおかしいと想い、恐る恐る顔を上げた。
そこには、呆然と立ちすくむ男がいた。
彼は直後、爆発と共にバウンドしながら駐車場を突っ切り、クリスタルタウンの店舗へ
突っ込んでいった。
▼ 黒山大助 ビギンズ
女。
十代半ば。
肩までの茶髪。
茶髪の、少女。
それを俺の正気を失った目が認識した時、屋上で起こった不思議な現象が、再び目の前
に、今度は逆再生で繰り返された。
収束する光の粒子。
地面に這い蹲う女を媒体として、その表面に纏わりつき、構成されていく、見覚えのあ
る手足。
そして現れた、ミサカ。
“真っ暗な木立の中”、“泥に濡れた服のままで”、“膝へ目一杯に顔を押し付け埋めた三角座
りの”、“置き去りにされた子供のような”、ミサカ。
それが表すものを理解した瞬間、俺は全力で自分自身を爆破した。
馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、
馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、
約80キロの渾身が、凶器と化して炎の駐車場を縦断する。のた打つ膝がアスファルト
をひび割り、暴れる腕が肉片を飛び散らし、跳ねる背中が鉄柱をへし折り、挙げ句はガラ
スの壁を粉にしながら店舗に突っ込み、そこでようやく止まる。それでも俺は自壊を止め
ない。何度も何度も、床に額を打ち付ける。
俺は馬鹿だ。
どうしようもない馬鹿だ。
現実が直視できなかった?
馬鹿が。
事実を受け止めきれなかった?
馬鹿が。
考えてはいけない?
壊していなければ壊れてしまう?
だからここへ逃げて来た?
あの病室から抜け出して?
ミサカを、あの猫好きで電波で栗色で変人で綺麗で病気で仮死状態になるような発作を
日常的に起こして覚悟した表情でその露見を受け入れて押し殺した顔で自状を告白した娘
を置き去りにして?
十代半ば。
肩までの茶髪。
茶髪の、少女。
それを俺の正気を失った目が認識した時、屋上で起こった不思議な現象が、再び目の前
に、今度は逆再生で繰り返された。
収束する光の粒子。
地面に這い蹲う女を媒体として、その表面に纏わりつき、構成されていく、見覚えのあ
る手足。
そして現れた、ミサカ。
“真っ暗な木立の中”、“泥に濡れた服のままで”、“膝へ目一杯に顔を押し付け埋めた三角座
りの”、“置き去りにされた子供のような”、ミサカ。
それが表すものを理解した瞬間、俺は全力で自分自身を爆破した。
馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、
馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が、
約80キロの渾身が、凶器と化して炎の駐車場を縦断する。のた打つ膝がアスファルト
をひび割り、暴れる腕が肉片を飛び散らし、跳ねる背中が鉄柱をへし折り、挙げ句はガラ
スの壁を粉にしながら店舗に突っ込み、そこでようやく止まる。それでも俺は自壊を止め
ない。何度も何度も、床に額を打ち付ける。
俺は馬鹿だ。
どうしようもない馬鹿だ。
現実が直視できなかった?
馬鹿が。
事実を受け止めきれなかった?
馬鹿が。
考えてはいけない?
壊していなければ壊れてしまう?
だからここへ逃げて来た?
あの病室から抜け出して?
ミサカを、あの猫好きで電波で栗色で変人で綺麗で病気で仮死状態になるような発作を
日常的に起こして覚悟した表情でその露見を受け入れて押し殺した顔で自状を告白した娘
を置き去りにして?
馬ッッッ鹿じゃねぇのか、オマエ!!
オマエなんかオマエ如きなどこの糞野郎なんて、何度でも幾回でもいくらでも、二百八
十三回でも三千八百五十回でも何万回でも何億回でも壊れてしまえばいいんだ。ミサカの
ためならそれが何だと言うんだ。確かに俺には病気を何とかする力なんて無い。俺にでき
る事はどうしようもなく偏っている。だがそれが何だと言うんだ。無力だから、耐えられ
ないから、そんな一立場からの理由で逃げるなど、安易な破壊に逃げ込むなど人外下道の
狂妄も甚だしい。
それに、それにだ。
少し考えてみればすぐに分かった事だろう。
ミサカを忘れるなんてできるわけが無いと。消すことも隠す事も不可能だと。そんな事
は脳の30%以上を一度に爆破でもしなければできない芸当だと。
俺は、ミサカが大好きだった。
少し特徴的なあの口調が大好きだった。猫を見つめるあの真剣な目が大好きだった。無
機質的に告げる淡々とした感想が大好きだった。俺の話を聞くバカ真面目な眼が大好きだ
った。機械的な、でもゼンマイのようにコミカルな足の運び方が大好きだった。風に揺れ
る細い栗色の髪が大好きだった。
十三回でも三千八百五十回でも何万回でも何億回でも壊れてしまえばいいんだ。ミサカの
ためならそれが何だと言うんだ。確かに俺には病気を何とかする力なんて無い。俺にでき
る事はどうしようもなく偏っている。だがそれが何だと言うんだ。無力だから、耐えられ
ないから、そんな一立場からの理由で逃げるなど、安易な破壊に逃げ込むなど人外下道の
狂妄も甚だしい。
それに、それにだ。
少し考えてみればすぐに分かった事だろう。
ミサカを忘れるなんてできるわけが無いと。消すことも隠す事も不可能だと。そんな事
は脳の30%以上を一度に爆破でもしなければできない芸当だと。
俺は、ミサカが大好きだった。
少し特徴的なあの口調が大好きだった。猫を見つめるあの真剣な目が大好きだった。無
機質的に告げる淡々とした感想が大好きだった。俺の話を聞くバカ真面目な眼が大好きだ
った。機械的な、でもゼンマイのようにコミカルな足の運び方が大好きだった。風に揺れ
る細い栗色の髪が大好きだった。
凹みだらけにした床に散らばるガラス片に、伸びきった髪と爪をくっつけた自分の姿が
映っている。なんだ、このクソふざけた格好は!?
俺はネイルアートなんてしねぇ。両手を噛み合わせ、関節と逆方向にへし折る。捻じ切
る。
俺はうしおじゃねぇ、ヒッピーでもねぇ。血が滴る手で梳くように挟み掴み、ブチブチ
ビチビチという湿った音を無視してむしり取る。当然二つしかない手だけでは効率よくな
い。焦点を髪の毛の内部に発生させ、一度に全てを千切り飛ばす。
何下らない事やってたんだ、爆弾魔。堕楽してんじゃねぇぞ、人間爆弾(クレイモア)。
気は澄んだかよ、黒山大助。分かったらさっさとミサカのところへ戻るんだ。アイツの為
に全ての無力を、全無能を捧げるんだ。テメエの崩壊など知ったことか。死に触れ壊れて
震えて狂れて、無残に無様に足掻き悶え続けるがいい。
――と、言いたいところだが。
ちっとは、誉めてやってもいいだろう。
とある記憶を思い出した事については。
とある方法を思い付いた事については。
ミサカを、カエル先生でも匙を投げたあの重病の少女を救う方法。
俺が、おそらく俺だけがアイツを救えるという、超ご都合主義上等至上の、最高に有り
難い方法を見つけた事だけについては、黒山大助、お前は神だ。
ミサカは死ぬ?成長促進過多?細胞寿命?余命数年?医学の頂点、カエル先生にだって
無理?この世の理として不可能?
馬鹿言ってんじゃねぇぜ。
おら、世界。
お前だよ、世界。
お前はアイツを助けられないと言うのか。
医学的に無理か。
科学的に無理か。
1+1=2、そんな理屈に則った、糞ツマンネェお行儀良しな公理に絞られたお前では、
アイツを救うことはできないか。
それなら、話は簡単だ。
壊れろ。
詳しく言うなら、、消えろ、どっか行け、失せろ、死ね、去ね、砕けろ、崩れろ、潰れろ、
弾けろ、爆ぜろ。つまり壊れろ。
お前なんかに用は無い。
お前がいなくなったところで、なにも困りはしない。
俺は知っているのだから。
俺は思い出したのだから。
もう一つの世界を。
魔術の世界を。
俺の、故郷を。
だから、そうだ、隠したって無駄だ。今の俺になら何だってできる。俺に与えられた唯
一の能力を、至上の目的に符合させられるのだ。
お前が隠すと言うのなら。
貴様ごときが俺の邪魔をすると言うのなら。道を遮ると言うのなら。
俺も、俺の本質を賭けて相手をしよう。
やってやろうじゃねえか。
ミサカの為なら。
壊すぜ、世界。
映っている。なんだ、このクソふざけた格好は!?
俺はネイルアートなんてしねぇ。両手を噛み合わせ、関節と逆方向にへし折る。捻じ切
る。
俺はうしおじゃねぇ、ヒッピーでもねぇ。血が滴る手で梳くように挟み掴み、ブチブチ
ビチビチという湿った音を無視してむしり取る。当然二つしかない手だけでは効率よくな
い。焦点を髪の毛の内部に発生させ、一度に全てを千切り飛ばす。
何下らない事やってたんだ、爆弾魔。堕楽してんじゃねぇぞ、人間爆弾(クレイモア)。
気は澄んだかよ、黒山大助。分かったらさっさとミサカのところへ戻るんだ。アイツの為
に全ての無力を、全無能を捧げるんだ。テメエの崩壊など知ったことか。死に触れ壊れて
震えて狂れて、無残に無様に足掻き悶え続けるがいい。
――と、言いたいところだが。
ちっとは、誉めてやってもいいだろう。
とある記憶を思い出した事については。
とある方法を思い付いた事については。
ミサカを、カエル先生でも匙を投げたあの重病の少女を救う方法。
俺が、おそらく俺だけがアイツを救えるという、超ご都合主義上等至上の、最高に有り
難い方法を見つけた事だけについては、黒山大助、お前は神だ。
ミサカは死ぬ?成長促進過多?細胞寿命?余命数年?医学の頂点、カエル先生にだって
無理?この世の理として不可能?
馬鹿言ってんじゃねぇぜ。
おら、世界。
お前だよ、世界。
お前はアイツを助けられないと言うのか。
医学的に無理か。
科学的に無理か。
1+1=2、そんな理屈に則った、糞ツマンネェお行儀良しな公理に絞られたお前では、
アイツを救うことはできないか。
それなら、話は簡単だ。
壊れろ。
詳しく言うなら、、消えろ、どっか行け、失せろ、死ね、去ね、砕けろ、崩れろ、潰れろ、
弾けろ、爆ぜろ。つまり壊れろ。
お前なんかに用は無い。
お前がいなくなったところで、なにも困りはしない。
俺は知っているのだから。
俺は思い出したのだから。
もう一つの世界を。
魔術の世界を。
俺の、故郷を。
だから、そうだ、隠したって無駄だ。今の俺になら何だってできる。俺に与えられた唯
一の能力を、至上の目的に符合させられるのだ。
お前が隠すと言うのなら。
貴様ごときが俺の邪魔をすると言うのなら。道を遮ると言うのなら。
俺も、俺の本質を賭けて相手をしよう。
やってやろうじゃねえか。
ミサカの為なら。
壊すぜ、世界。
「クロヤマァーッ!」
聞き覚えのある声。駒場兄ちゃんだ。そういえばさっきも呼ばれていて、顔を合わせた
ような気がする。相変わらず暑苦しいなぁ。仲間は逃さなくていいのか。そうか、今の俺
ってチャンスっぽく見えるもんな、そこはちゃんと止めを刺しとかないといけないよな。
俺は完全に包囲されていた。ガラスの欠けらだけしか無い空っぽの店舗の外には、半円
状に並んだスキルアウトが銃を構えている。その数――……、少なくとも、楽には避け切れ
ない。
そこに渦巻いているのは、暴力。
それが強要しているのは、死。
人がその志を断ち切られるのにはさまざまな理由がある。力不足しかり財政難しかり体
調不良しかりその他エトセトラー。それらは邪魔するのではない。諦めさせるのだ。そい
つらがねじまげようとするのは、人の心そのもの。
だがそんなことは関係無い。今の俺のハートが曲がるわけがねえ。それに最悪の抑止力
である暴力ほど、俺の力と相性のいい相手はいない。
壊せない気が、しなかった。
聞き覚えのある声。駒場兄ちゃんだ。そういえばさっきも呼ばれていて、顔を合わせた
ような気がする。相変わらず暑苦しいなぁ。仲間は逃さなくていいのか。そうか、今の俺
ってチャンスっぽく見えるもんな、そこはちゃんと止めを刺しとかないといけないよな。
俺は完全に包囲されていた。ガラスの欠けらだけしか無い空っぽの店舗の外には、半円
状に並んだスキルアウトが銃を構えている。その数――……、少なくとも、楽には避け切れ
ない。
そこに渦巻いているのは、暴力。
それが強要しているのは、死。
人がその志を断ち切られるのにはさまざまな理由がある。力不足しかり財政難しかり体
調不良しかりその他エトセトラー。それらは邪魔するのではない。諦めさせるのだ。そい
つらがねじまげようとするのは、人の心そのもの。
だがそんなことは関係無い。今の俺のハートが曲がるわけがねえ。それに最悪の抑止力
である暴力ほど、俺の力と相性のいい相手はいない。
壊せない気が、しなかった。
▼ 駒場利徳 04
ヤツは追い詰められてなどいなかった。弱ってなどいなかった。狂ってはいなかった。
むしろ正気を取り戻している。
今のヤツにあるのは、無差別的な破壊欲に思考を任せ切った狂暴さではない。
この上なく自覚的な破壊意志に力の全てを集中させた、指向性爆弾のような凶猛さ。そ
れがヤツの瞳には溢れていた。
その双眸が赤く発光し、瞬く間に全身が焦点に包まれていく。それは爆発寸前を示す明
るさだった。その密度で一度に展開可能な範囲は、両膝両肘から先までのはずだった。そ
れが今や、内部に炎を湛えたガラス容器と化したがごとき輝きを放っていた。
「邪魔したな、利徳兄ちゃん」
真っ赤な彼は、ふてぶてしい顔をして、笑った。
その刹那、赤い津波が爆発した。
むしろ正気を取り戻している。
今のヤツにあるのは、無差別的な破壊欲に思考を任せ切った狂暴さではない。
この上なく自覚的な破壊意志に力の全てを集中させた、指向性爆弾のような凶猛さ。そ
れがヤツの瞳には溢れていた。
その双眸が赤く発光し、瞬く間に全身が焦点に包まれていく。それは爆発寸前を示す明
るさだった。その密度で一度に展開可能な範囲は、両膝両肘から先までのはずだった。そ
れが今や、内部に炎を湛えたガラス容器と化したがごとき輝きを放っていた。
「邪魔したな、利徳兄ちゃん」
真っ赤な彼は、ふてぶてしい顔をして、笑った。
その刹那、赤い津波が爆発した。
▼ 笹之佐暁美 LAST
『アイツ』が私の相手を中断して突っ込んでいった店舗にスキルアウトが群がったが、
その人垣はすぐに発破されることになった。
突如としてほとばしった紅の光から生まれる、赤い衝撃波。
足が地から離れ、浮き上がり吹き散らされるスキルアウトたち。
剥がされていくレンガブロック、コンクリート、アスファルト。
巻き上げられていく肉片、血液。
隕石衝突のCG映像さながらの光景が迫ってくる。
しかし、それが私に破壊をもたらす事はなかった。
私の前に、一人の背中が立つ。
そこへ衝撃波が襲い掛かるが、見えない壁に阻まれたかのように、赤い奔流は二つに割
られて左右を過ぎ去っていく。
周囲を真紅と轟音と激動に包まれる中、その人物はゆっくりと私に振り返る。
「助けに来たぜ、暁美」
ニックだった。
それを認めた瞬間、私は彼に飛び付いていた。
その人垣はすぐに発破されることになった。
突如としてほとばしった紅の光から生まれる、赤い衝撃波。
足が地から離れ、浮き上がり吹き散らされるスキルアウトたち。
剥がされていくレンガブロック、コンクリート、アスファルト。
巻き上げられていく肉片、血液。
隕石衝突のCG映像さながらの光景が迫ってくる。
しかし、それが私に破壊をもたらす事はなかった。
私の前に、一人の背中が立つ。
そこへ衝撃波が襲い掛かるが、見えない壁に阻まれたかのように、赤い奔流は二つに割
られて左右を過ぎ去っていく。
周囲を真紅と轟音と激動に包まれる中、その人物はゆっくりと私に振り返る。
「助けに来たぜ、暁美」
ニックだった。
それを認めた瞬間、私は彼に飛び付いていた。
▼ 岡牧汲音 LAST
駐車場が見たこともないほど赤い色をした衝撃波に飲み込まれた、と思ったら、屋上に
爆弾魔が飛び上がってきた。
私は反射的にタカをかばう構えになる。応急処置を施し、一応は出血も止まったものの、
まだ安心などできない。ましてやコイツはこんな事をしでかした張本人だ。
懐のナイフを握り締めた私をチラリと横目で一瞥して、爆弾魔は「ニィ」と笑った。か
なりむかつく笑い方だった。そうしていたのも一瞬、ヤツは全身を真っ赤に輝かせ、爆風
を残して彼方のビルの屋上へと飛び去り、幾数秒と経たずに見えなくなった。
私はしばらく、ヤツの目から流れ込んできた感情に呆然としていた。
無能力の私にすらはっきりと分かるほど、溢れ滾っていた、ヤツの心の中。
破壊欲求。
懐郷。
全能感。
そして、愛。
「はぁ!?」
愛!?
爆弾魔が飛び上がってきた。
私は反射的にタカをかばう構えになる。応急処置を施し、一応は出血も止まったものの、
まだ安心などできない。ましてやコイツはこんな事をしでかした張本人だ。
懐のナイフを握り締めた私をチラリと横目で一瞥して、爆弾魔は「ニィ」と笑った。か
なりむかつく笑い方だった。そうしていたのも一瞬、ヤツは全身を真っ赤に輝かせ、爆風
を残して彼方のビルの屋上へと飛び去り、幾数秒と経たずに見えなくなった。
私はしばらく、ヤツの目から流れ込んできた感情に呆然としていた。
無能力の私にすらはっきりと分かるほど、溢れ滾っていた、ヤツの心の中。
破壊欲求。
懐郷。
全能感。
そして、愛。
「はぁ!?」
愛!?
▼ 駒場利徳 LAST
「結局アイツは、何がしたかったんですかね?」
一人が疲弊しきった顔で、嘆くように聞いてきた。
「……さあな……」滅茶苦茶になってしまったクリスタルタウンを見回しながら、ボクは
答える。
分からない。あんな破壊狂いに、理解という行為を施すこと自体、適切であるのかどう
か。
ただ、あいつが駐車場に並べていた、ありとあらゆる肉の塊。それについて、一つだけ
確かな事は――
「……どうせ、ハンバーグでも焼きたかったのだろうさ……」
えぇ?心ここにあらずといった様子で声を返してくるが、その時、ボクの携帯が着信を
告げた。そこに映る小学生の写真つきの名前を見て、ため息をつく。
「りーくんっ、おなかすいたーっ!きょうはオムレツがたべたーいっ!」
繋がった途端に飛び出してきた声に辟易しながら、考えをめぐらせる。ああ、冷蔵庫に
まだ食材は残っていただろうか。しかし、この体ではまともにフライパンも握れるかどう
か。全く、クロヤマの奴にも困ったものだ。今度会う時は、作り置きしている日にしてほ
しい。
一人が疲弊しきった顔で、嘆くように聞いてきた。
「……さあな……」滅茶苦茶になってしまったクリスタルタウンを見回しながら、ボクは
答える。
分からない。あんな破壊狂いに、理解という行為を施すこと自体、適切であるのかどう
か。
ただ、あいつが駐車場に並べていた、ありとあらゆる肉の塊。それについて、一つだけ
確かな事は――
「……どうせ、ハンバーグでも焼きたかったのだろうさ……」
えぇ?心ここにあらずといった様子で声を返してくるが、その時、ボクの携帯が着信を
告げた。そこに映る小学生の写真つきの名前を見て、ため息をつく。
「りーくんっ、おなかすいたーっ!きょうはオムレツがたべたーいっ!」
繋がった途端に飛び出してきた声に辟易しながら、考えをめぐらせる。ああ、冷蔵庫に
まだ食材は残っていただろうか。しかし、この体ではまともにフライパンも握れるかどう
か。全く、クロヤマの奴にも困ったものだ。今度会う時は、作り置きしている日にしてほ
しい。
「よく聞け白黒。俺は、学園都市から離反する」 破壊の力しか持たない人間爆弾は、一人の病人を救うため、自らを取り巻く役立たずの 世界を目の前から抹殺する事を決意する。 止まるつもりのない反逆者。 アンパイアとして対立する白井黒子。 ついに激突するテレポーテーターとクレイモア。 暴走能力者駆逐の命を受けた第七学区風紀機動隊。 敵として立ちはだかる、21名の元同僚(プロフェッショナル)たち。 黒山大助と風紀委員の全面衝突が、今、つうか早くて数週間後か遅くて数か月後、始まるっ!らしいよっ!