とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

その2

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 学園都市内のいたる所に植えられた桜は満開となり見ごろを迎えていた。
 このような時期になると普段は風紀に厳しい学園都市でも部分的に開放的になる。
 その一環が公園を解放しての『お花見』である。
 普段は公園内でもベンチや限られた場所以外で、長時間場所を占有し続ける事は許されていない。
 しかし、この時期だけは桜並木の下にシートを引いて居座り続けても問題ないのだ。
 世界最高峰の科学技術を有する学園都市にも和の情緒を楽しむ心は息づいているようである。

 とにかく、そんなこんなでお花見をしようと彼女らが訪れたのは某地区某公園。
 ここには一般的に知られている桜並木のようなものは存在しない。
 その代わりにあるのは一本の大きな桜の古木。
 そのあまりにも太い幹は節くれ捩れ、下から見上げれば広げた枝が天を覆うようである。
 今その枝には満開の桜が咲き誇り、桜で出来た天然の花天井は見る者全てを圧倒した。


「ううー……」
 そんな桜の木から離れた場所で低くうめくその声は――御坂美琴であった。
 美琴の膝の上には額に濡れタオルを乗せた白井が頭を乗せて眠っている。

(まだ目が醒めないけど……やりすぎちゃったかしら……)
 白井を止めようとしたとは言え、咄嗟に電撃を浴びせてしまった後ろめたさがある美琴は、皆の輪から少し外れたベンチに座って白井の看病をしていた。
 美琴は、まだ目覚めない白井の頬に指を這わすとちょいちょいと突いて弾力を楽しむ。

(寝てりゃ可愛いのに……起きれば、お姉様お姉様って言ってるか、私の服装から行動から一々小姑みたいにチェック入れてるか……、ああ、最近はアイツの話で盛り上がる時もあるわね――ったく、最初はあんなに嫌ってたのに何時の間にそうなったのかしらねぇ)
 美琴は、この愛すべき隣人兼ライバルに心の中で質問の言葉を投げかけた。

 そんな美琴の耳に砂を踏む音が聞こえたのはその時だった。

「御坂、白井どうだ?」
「まだ――ちょっと可愛そうな事しちゃった」
 心配そうに声を掛けてきた相手、上嬢に美琴は顔を上げて答える。

「私代わろうか? お前は向こうで少し何か食べてこいよ」
「い、嫌よ。何で私が知らない人たちと一緒にご飯食べんのよ?」
「そ、そか、悪ぃ。御坂がそんな人見知りするって思わなかったから」
 美琴が慌てて上嬢の申し出を断ると、上嬢はばつが悪そうに頭を掻いた。
 ところが上嬢の不用意な一言に美琴に火が付きかける。

「ちょ、ちょっとぉ、アンタ人の事何だと思ってんのよっ」
 白井を起すまいと声を潜めた分、鋭くなった美琴の語気に上嬢は咄嗟に身を引いて、

「わ!? ゴメン悪かったって……そだ!」
 上嬢はそう言うと踵(きびす)を返して他の皆がいる桜の方に走って行った。

「何なのよアイツは……?」
 美琴は、走っていった上嬢を目で追いながら、上嬢が行ってしまった事に一抹の寂しさを感じて慌てて被りを振った。

(違う違うアイツは黒子を心配して来てたのよ……私の事なんてこれっぽっちも眼中に――)
「お待たせ――って何してんだ御坂?」
「え?」
 美琴は急に声を掛けられて考え事を中断すると顔を上げた。
 するとそこには、不思議そうな顔をしている上嬢がいた。
 その手には重箱の蓋をさかさにしたモノの上に、いくつかの食べ物が乗っていた。


「適当に見繕ってきたんだけど、御坂、お前好き嫌いは?」
「え? な、無いけど」
「私が作ったやつだから遠慮なく食べろよ」
「へ? えぇ?」
 上嬢が差し出したモノをまじまじと見つめて美琴は素っ頓狂な声を上げた。

「何だよ。一応これでもカミジョーさんの自信作だぞ。そんな変なモン無いだろ」
 そう言いながら上嬢は料理をひとつひとつ指差しながら説明する。
 それをただ頷くばかりで一向に手を出そうとしない美琴に、上嬢は暫く難しそうな顔をしていたが「おま、ははーん……」と美琴がこれ以上ないくらい不安にさせる流し目を送ると、

「第一回、御坂さんの嫌いな食べ物を当てようのコーナー」
「へ?」
 大きな声は出さなかったものの、上嬢が実に楽しそうに口にした内容に、美琴は事態が飲み込めず呆然とする。
 ところがそんな美琴を置いてけぼりにして、1人盛り上がる上嬢は、箸を手に取ると「ど、れ、に、し、よ、う、か、な♪」と楽しそうに自分の持ってきた食べ物を選んでいる。
 そしてその中から、いい色に煮詰まったサトイモを箸に取ると、

「さ、御坂はこれが食べられるかなぁ♪」
 にこにこしながら美琴の目の前に差し出した。

「た、食べられるわよ」
「おし、じゃあーんして。あーん」
「え……? はぁ!?」
 美琴は、この事態が飲み込めず、白井の事も忘れて大声を出してしまった。

「「はぁ」じゃねーの。さ、あーんしてこれ食べるんだよ。口開けろって」
「え、あ、あーん」
 美琴は事態が全くの見込めないまま上嬢に言われるまま口を開けた。
 すると上嬢は箸に持っていたサトイモを美琴の口にそっと添えて、「さ、一口」と先程とは代わって神妙な顔で言う。
 美琴も何のためらいもなくサトイモに歯を立てると上嬢に言われるままに一口かじった。

「どうだ?」
 もぐもぐと口を動かす美琴に、上嬢は真剣そうな面持ちで話しかける。

「んく、お、美味しいわよ。火の通り具合も味も……問題無いと、思う、けど?」
「んっ何だぁー、外れかー。あむ、んぐんぐ、はえはがらおくはけてる」
「ア、アンタそれ!? わ、わた、わた、わた……」
 上嬢が話がてら美琴の食べかけのサトイモを口に放り込んで食べてしまったのを見て、美琴が瞬間湯沸かし器のように真っ赤になる。

「え、何? それより御坂はサトイモは嫌いじゃ無かったんだなー、あ、失敗失敗」
「さ、さっきから、な、ななな、何、い、言ってんだか、ア、アア、アンタ、な、何、何なの、何、な……」
「オイ、大丈夫か御坂――まさか!? サトイモアレルギーとかじゃねーだろうな!?」
「ひ、ぎ!?」
 美琴は目の前に心配顔の上嬢のドアップが来て体を強張らせる。
 いつもならここで張り倒すか逃げるかする美琴だが、ベンチに座って膝に白井を乗せてはそれも出来ない。

「ダ、ダイジョウブ。ソレヨリ、サッキカラ、スキトカキライトカナニ?」
 美琴はそれでも何とかこの状況から逃れようと呂律の回らない口で何とか言葉を発した。

「あ? 御坂、お前ホントは食べ物の好き嫌いあんだろ? ってカミジョーさんは思った訳よ。で、それを確認している訳だが……、アレルギーは考えなかったわ。スマン、マジで大丈夫だったか?」
「……だ、大丈夫、今ン所そういうの出たこと無いから」
「そっか、良かった――で、カミジョーさん的には続きに移りたいのですが?」
「え?」
「じゃ、次は定番鳥のカラアゲな。ほらあーんしてみそ」
「え、あ、あーん」
 美琴がカラアゲを一口かじると、上嬢はまた神妙な顔で味のほど確認してくる。


「んく、アンタが揚げたのよね?」
「ブロック買って切り分けたり下味とか全部やったけど?」
「そ――冷めてる割に柔らかくてジューシー……って、ななななな、何でアンタは、ささささっきから私の食べかけ食べんのよ!!」
「んぐ?」
 美琴の必死の叫びに、上嬢は口の中のカラアゲをもごもごと咀嚼しながらキョトンとした顔をした。

「んく、ナニ怒ってんだ? カラアゲそんなに好きだったのかよ?」
「違っ、だ、あ……、あーもー、そうよ! 私のカラアゲなんで食べちゃうのよアンタはっ!?」
「な、何だよ、悪かったって。まだ……多分……インデックスに食べられてなけりゃ残ってると思うからさ」
 上嬢は、美琴の剣幕にたじたじなって、しどろもどろにいい訳を言う。

 そんな2人の耳に「うーん……」と黒子の声が聞こえた。

「あ、黒子っ、アンタ大丈夫?」
 美琴は苦しそうに眉間に皺をよせる黒子に声を掛ける。
 上嬢はそんな2人の様子を黙って覗き込むようにして見守っている。

「お……さま……」
「何、黒子?」
 美琴は黒子が途切れ途切れに何かを呟いたのを聞き逃すまいと耳を近づけた。すると――

「そんなに焼きもちをお焼にならなくても、黒子の愛は何時でもお姉様と共にありますのですわよ……むにゃむにゃ」

 上嬢は無言で白井から顔を遠ざけた美琴と目が合った。

「愛されてんな御坂」
「ありがと――ほら、寝言言うくらいなら起きられるでしょ? くーろーこー」
 上嬢の一言になげやりに返した美琴は、白井の頬を指でつまむとグイグイと引っ張る。

「んにににー……、はっ! お、お姉様、先程の続きを是非!!」
「ほっぺたならいくらでもつまんであげるわよ。ほらほらー♪」
 美琴は、目を覚ました白井が突然抱きつこうとしたのを、さらにもう片方の手も追加して両の頬をつねって撃退する。

「ふひー、ひょ、ひょれはゆるひてくだひゃい、ほへーははー」
(白井……言葉の割に嬉しそうだな……)
 上嬢は、美琴の膝の上でジタバタする白井を見ながら漠然とそんな事を感じていた。


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