とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

その3

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 上嬢は、白井が無事に目を覚ましたので、美琴と白井を連れて他の皆が待つ桜の木に戻った。

「おーまーたーせー! 白井も無事復活したからさぁー……って何ですか!? このぴりぴりした雰囲気は、一体全体何が起きてるんでしょうかぁ……?」
 元気に戻ってきた上嬢を迎えたのは、そっぽを向いて冷ややかな視線を送るインデックスと、あからさまに険しい表情で上嬢を見上げる吹寄、眉間に深い皺を作って目を閉じている姫神の3人。
 御坂妹もこの3人と一緒に桜の木の下にいたのだが、こちらは何時もと特に変わった様子は無く、ぼんやりとした視線をこちらに送っている。
 とにかくこういう状況には敏感な上嬢は既に腰が引けていた。

(何ですか、このいわゆる針のむしろ状態は!? しかも、これは間違いなく私に向かっているのですが……)
 上嬢の背中に冷たい汗が流れる。

「随分と楽しそうだったね、とうこ」
「イ、インデックスさん?」
 上嬢は、インデックスの突き刺さるような一言に訳も判らず――ただ自分に対して怒っている事を感じておろおろする。
 一方のインデックスは上嬢に言うだけ言うと再びそっぽを向いてしまった。
 そして、彼女にしては珍しく、気だるそうに上嬢の作ったお弁当に箸を伸ばしては、おにぎりを串刺しにして口に運んでいる。
 そっと覗くとお弁当の中もさして減っていない様子で、その事は上嬢をますます不安にさせた。

(うわ、インデックスが食事も喉を通らないってどんだけ……マジ帰っていいですか?)
 将来を予想して涙目になる上嬢。
 すると、そんな様子を見かねたのか吹寄は大きなため息を一つついて、

「上嬢、貴様とりあえず座りなさい」
「あ、え? お、おう」
 言われた上嬢は、インデックスの様子を伺いながらその隣に座った。
 インデックスは、上嬢が隣に座るのを横目でチラッと確認すると、またぷいっとそっぽを向いてしまう。
 そして、そんな2人の姿を見ていると自然と吹寄は表情が硬くなってしまうのだった。

(上嬢当子、貴様そんなにその子の事が気になるの?)
 吹寄は喉まででかかった言葉を吐き出す代わりに心の中で呟く。
 そして瞬時に気持ちを切り替えると、今度は美琴と白井に笑顔を作って声を掛ける。

「御坂さんと白井さんもどうぞ座って」
「はい」
「はいですわ」
 2人が座ったのを確認すると早速吹寄は白井に、

「白井さん大丈夫?」
「ご心配おかけしましたですの。お姉様の愛情溢れる看病を頂きましたので、これこの通り元気になりましたですわ」
「そ、それは良かったわ」
 笑顔で美琴の腕にがしっとしがみ付く白井の姿に、抱きつかれた美琴と吹寄の頬が若干引き攣る。
 何はともあれ、やっと全員揃った事だし、と吹寄は一つ咳払いするとみなの顔をぐるりと見渡した。

「それじゃ、皆揃った事だし乾杯しましょうか」
 その言葉を合図に、皆に紙コップが配られる。
 それに、それそれお茶やジュースが注ぎ込み終わると、吹寄がきゅっと身じろぎして姿勢をただし胸を張る。
 すると普段は他の個性によって隠されている大きな胸がこの時ばかりはと強調されて、その重さと存在感を主張した。
 目下お怒り中のインデックスはともかく、中学生組みプラス見た目はともかく実際は生まれていくらも立たないクローンには、それは羨望に値するものであったようで、

(すご……)
(も、問題は大きさではないとは言え、ちょっと生唾ものですわね)
(私のスペックであの高みに到達する事は可能なのでしょうか? とミサカは羨望の眼差しで見つめます)
 美琴と白井はともかく、あの御坂妹までがちょっと頬を赤らめた。
 当の吹寄は、そんな視線を送られていようとは気付く訳も無く、右手でコップを持ち上げた。


「それでは、乾杯」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
 皆がいっせいに紙コップをあおると、それぞれ思い思いのため息をついた。
 ここから彼女たちの戦いが始まるのだ。
 既に一歩リードするようなイベントが発生した者もちらほらいるが、そうでない者もいる。
 それぞれがそれぞれの思いを込めた視線を上嬢とライバルたちに向ける。

 そんな事などつゆ知らず、とりあえず目下怒り心頭中の居候兼被保護者の様子が気になる上嬢。

(よぉーし、ここは刺激しないように自然に、爽やかなカミジョーさんを演出しませうか)
 上嬢はインデックスの機嫌を取り戻す為に声を掛ける。
「さーて、インデックス、うちのおべうひょ!?」
 しかし、そんな上嬢の努力は瞬時に打ち砕かれた。
 二の腕をつかまれたかと思うと、ぐいとインデックスと反対の方向――美琴の方を向かされた。

「み、坂、どうした?」
「ふふふ、さあ約束どおりお弁当を食べてもらうわよ。ほら」
 美琴は不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、上嬢の目の前に大きな弁当箱を差し出した。
 そこには色とりどりの太巻き――いわゆる祭り寿司と、いなり寿司が並んでいる。
 特に目を引くのは様々な形をした太巻きで、どう何を巻いてあるのか判らないがその断面には鮮やかな配色で、パンダの顔や花や蝶の絵柄が作られている。

「へー、これパンダだよな? 何だ、すっげー手が込んでんなこれ」
 上嬢が太巻きの一つを指差して感心した声を上げると、皆の視線が美琴の持った重箱の中身に集中した。

「ど、どう? すごいでしょ」
「わたくしも一緒に作りましたのよ」
 弁当箱を手にしたまま真っ赤になる美琴と、その横で満面の笑みを湛える白井。そんな中、

(さ、先を越された……)
 吹寄は美琴の作った弁当を眺めながら内心、その素早い行動に唖然とした。
 美琴には既に二つアドバンテージ――上嬢に食べさせてもらう&間接キス――を取られている。

(勝負とは勝ってこそ意義があるもの……。ええぃ、負けてなるもんです――)
「え?」
「今は駄目」
 自分の弁当を手に突入しようとした吹寄を止めたのは姫神だった。
 姫神は吹寄の肩にそっと手を添えると耳元に顔を近づけて囁く。

「チャンスはあるから。余裕の無い女は嫌われる」
「うっ」
 姫神の鋭い指摘に吹寄は低く呻くとあからさまにがっくりと肩の力を抜く。
 そんな吹寄の様子を見てから、姫神は視線で吹寄に上嬢たちを見るように促す。

「しかし。あの積極性は脅威ね」
 それには吹寄も同意せざるを得ない。
 今も上嬢のハートをがっちりキープしている。
 そんな、がっちりキープされた上嬢は弁当箱から顔を上げると、

「しっかし、味の方はどうなんですかねぇー御坂さん?」
「そ、そんなの食べてみれば判るじゃない」
「ほーほーそれではそれでは」
 にやにやと意地悪な笑みを浮かべた上嬢は弁当箱に手を伸ばした。ところが、

「だ、駄目っ!」
「え?」
 美琴が急に弁当箱を引っ込めたので、上嬢はキョトンとしながら行き場をなくした右手をわきわきと動かした。


「わた、わた、わた……、私が食べさせてあげるから、アンタはそこにじっとしてなさい!」
「「「えぇぇぇぇえええええええええ!?」」」
 美琴が真っ赤になりながら言った一言に、上嬢と白井とインデックスが驚愕の叫びを上げた。
 吹寄も一瞬叫びそうになったが、こちらは咄嗟に口を押さえて叫び声を殺していた。
 姫神はまた、眉間に深い皺を刻んで目を瞑っているし、御坂妹は相変わらず無表情――だが、握る箸に妙に力が入っているのは何故だろう?

 そうして皆が様様な反応を見せる中、美琴は震える手で太巻きを一つ箸に取った。

「さ、ア、アア、アンタ、ほ、ほら、あーんって、し、しなしな、しなさいよっ!」
「えー、自分で食べられるよー、第一恥ずかしいじゃねーかよ」
「ッ!? アァァァァァアアアアアンタぁぁぁ、じ、じぶ、自分が恥ずかしい様な事私にしていたのッ!?」
「あ、や……、あん時は周りに誰もいなかったから……」
 美琴のいつもの剣幕に上嬢はたじたじになりながら消え入りそうな声で言い訳した。

「つ、つべこべ言わないで口を開けなさいよ! ほ、ほら、あ、あああ、あーん」
「お、おま、バチバチ言わしながら何があーんだよ!? ったく、あー……」
 いよいよ様子が怪しくなってきた美琴に、これ以上の会話は無理と諦めた上嬢は不承不承に口を大きく開けた。
 その口に太巻きが添えられると、上嬢はその太巻きを3分の1ほど噛み切ると口をモグモグさせた。
 そして、味を確かめるように慎重に口を動かしていた上嬢の瞳が大きく見開かれる。

「ふぁれ? ほいひい。んく、御坂の癖にんな美味いもん作るなんて……て、どうした御坂?」
「お姉様どうなさいましたですの?」
 上嬢と白井がいぶかしむのもその筈、美琴は上嬢が半分ほど食べた太巻きを真っ赤な顔でをしてじっと眺めていた。
 そんな美琴の口が、大きく開く。そして――

「ああ!?」
「お、お姉様!?」
「何やってるんだよ短髪!!」
 吹寄、白井の驚きの声と、インデックスの非難の声が飛び交うのも無理は無い。
 美琴は、先程上嬢が自分の目の前でやったように、上嬢の食べかけを食べてしまったのだ。
 まだ食べるつもりだった上嬢もあっけに取られて見ていたが、

「私の太巻き……、んな、折角誉めたのに何てことするんですか御坂さん!? くそっ、さっきの仕返しか?」
「んく、ふはぁ……。か、感謝して欲しいわね。アンタには他の人のお弁当も食べる義務があんだから代わりに食べてやったのよ。一周してまだ余力があったら言ったんさい」
「う……、くそっ、ちゃんと残しとけよな! んだよ折角誉めたのに……」
 色々と捨て台詞的なものを呟く上嬢にも、美琴の顔は真っ赤ながらも表情には妙に余裕があった。
 そして、今だぶつぶつ文句を言っている上嬢を指差して美琴は、

「さ、アンタ、次は黒子の番よ――さ、黒子」
 と白井にお弁当を手渡すと、ぐいと上嬢の前に押し出した。
 それから小声で、

「(吹寄さん、姫神さん、ごめんなさい)」
 そう言われて頭を下げられては、吹寄も姫神も黙るしかなかった。
 吹寄はくすりと笑うと、こちらも小さな声で、

「(順番よね、じゅ、ん、ば、ん。ね、御坂さん?)」
「(ごめんなさい)」
 確かに順番といえば、座った順番からすれば、美琴、白井、御坂妹、吹寄、姫神の順番になる。
 美琴は再び頭を下げながら、そんな大人の対応をする吹寄に何だか適わない様な気がした。


 ところで、上嬢の弁当箱を持って突き出された白井だったが、目にも止まらぬ箸裁きでいなり寿司を箸に取ると上嬢の目の前に持ち上げて見せた。

「じゃ、じゃ、わたくしはこの五目いなりを」
「お? おお、これも旨そうじゃん」
 目の前で繰り広げられるやり取りにキョトンとしていた上嬢だったが、白井が目の前に差し出したいなり寿司に嬉しそうな笑みを見せる。
 そんな上嬢に、白井はにっこりと微笑み掛けると、

「食べさせて差し上げますわ。さ、あーんしてくださいな♪」
「え? えぇー……!?」
 上嬢がまたこれかと言うような顔をしていなり寿司と白井の顔を交互に睨みつけた。すると、

「嫌ですわぁー。上嬢さん、おいしそうとか言ってぇ、じ、つ、わ、おいなりさんが苦手とか、そぉんな事ありませんわよねぇ、ほほほほほ……」
 白井は悪戯っぽく笑いながら上嬢の負けん気を刺激する。

「なっ!? そんな事ねーよ(なんか乗せられた気がするけど)、じゃ、あー……」
 白井の言葉に乗せられるような形になった上嬢は、いぶかしみながらも口をあける。
 そして白井の箸に挟まれた五目いなりが半ばまで上嬢の口の中に消えた。

「んく、ん、ん、はぁ……。油揚げの味付けも、中の五目御飯の味も、これは常盤台中学侮りがたしッ」
「喜んでいただけて光栄ですわ」
 驚きと感動を露わにする上嬢に、白井はにっこりと微笑んだ。しかし――

「では、残りはわたくしが頂いておきますわ……はあはあ……」
「ば、バカッ! く、黒子ッ、こっち来なさいっ! ご、ごめんなさいね皆さん、あは、あははははは……」
 食べかけのいなり寿司を見つめて1人興奮していた白井は、顔を真っ赤にした美琴に桜の木の向こうに連行されて行った。
 美琴と白井がいなくなっても暫く呆然としていた一同からは、

「上嬢、貴様の交友関係のレパートリーには……、その……、何でもないわ」
「私。あれに対向するには。自分を捨てる覚悟が必要ね」
「あれの矛先がお姉様(オリジナル)とあなたで止まってくれれば助かります、とミサカは悪寒を感じながら率直な感想を述べます」
「とうま、いくら何でも友達は選んだ方がいいと思うんだよ」
「な!? 何故そんな哀れんだような視線を私に向けますか? わ、私は清廉潔白、清廉潔白なのです!! そんな上嬢当子に清き一票を!!」
 慌てふためく上嬢を前に、そこに居た皆――御坂妹さえも――はいっせいに深いため息をついた。


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