とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

SS 5-713

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匿名ユーザー

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「当麻。口開けて~」
「は? ぇ、こうか?」
 天花が素晴らしい笑顔で口を開けろと言うので首をかしげつつ、上条は口を開けた。
 きらん、と彼女の瞳が光ったのに気づかずに。
「それっ!」
「むぐっ!? ほい、へんえ(おい、てんげ)!」
 抗議の声をあげると、天花がむくれた。
 隣に座っているインデックスを抱きしめている。インデックスはと言えば私もやろうかな、などと目の前に置いたパフェを眺めている。上条としては戦々恐々だ。
「だってぇ。おにーちゃんてばさ、『はい、あーん』ってもやってくんないじゃないのさぁ」
「とうまっ! 私もやるから口開けてっ!」
 むしろ恋人っぽい行為、よりもとうまの口の中に食べ物を放り込む、という目的らしいので、まぁそれくらいなら許容範囲、と仕方なく口を開ける。
 すると天花が本格的にむくれた。
「ひどい……! 差別だ! 横暴だ! 私は当麻の行為を認めない……ん?」
 ふと天花は頭をよぎった考えを整理する。
 上条を想う女子はそれはもうたくさんいる。もしかしてもしかすれば五桁行ってるかも知れない。
 上条が平等に、『はい、あーん』をしてもらうとすれば……。
「ああ、ちょっと見てみたい……。一口ずつでも食べれないだろうな……、でもなぁ」
「さっきから何をおっしゃってるのですか?」
「ん、もし最後に何かを食べるなら当麻は何を選ぶ?」
「さあ。どうせなら手料理だよな」
「私だったらみんなでわいわい言える鍋とかがいいな。賑やかで、楽しく終わりを迎えられれば」
 一番の幸せとは、心残りが何もなく、静かに眠ることかも知れない。
 永遠なんて、死にしかないのだから。
「へぇ。天花は死ぬことって怖いか?」
「怖いよ」
 軽い気持ちで問いかけたのに、返ってきたのは質問を叩き落とすような即答。
 くるくると変わる天花の顔が、無表情へと変わっていた。
 けれど……何となく、その顔が一番彼女らしいかもしれない。
「怖い。死んだら、何も残んない。でも、後悔を残したまま生き続けるのは無と同じだから」
「……だから?」
 一旦途切れた言葉の続きを促すと、天花ははっとした様に首を振る。
「今日をせいいっぱい生きなくちゃね! インデックス、あーん☆」
「むぐむぐ……おいしいかも」
 何となくはぐらかされた気がする上条は黙々ご飯を食べ始めた。
 この後皿をひっくり返してしばらくテーブル拭きをやるはめになる。


 今日は本当についてなかった。
 毎日毎日不幸だが、それでも今日は格別だ。
 なんせ、帰り道に何処かの魔術結社に襲われるのだから。
 そして、天花がインデックスを庇い、彼らが掲げている紋章を見た瞬間、息をのんで叫んだ。
「……うそっ……! あの組織は、ネセサリウスが壊滅させたはずなのに――っ!」
「天花!? なんで、お前、必要悪の教会知ってんだよ!」
「詳しい話は後がいいかも!」
 インデックスが上条と天花を引っ張り、走る。しばらく走ったところで、天花が立ち止まった。
 それに気づいて二人とも止まったものの、天花との距離は結構空いてしまった。
「――彼らが狙ってるのはインデックスじゃない」
「え? 他に、魔術関係者はいない筈なんだよ!?」
 一応上条の隣人は関係者なのだが……とそんな事を言っている場合じゃない。
 相手はこちらを見失ったようだが、いつ見つかるか知れたもんじゃない。とりあえず天花を走らせようと彼女の元へ歩くが、はじかれた。
「はやく、逃げて頂戴」
「まさか、これ――! てんげ、あの魔道書を持ってるの!?」
 透明な壁が天花と上条・インデックスの間に出来ていた。上条が触れると、壁は消えた。
「……さぁね」
「これ魔術なのか!? 天花、あいつらの狙いって、お前……か?」
「はやく。私は死ねないし死なない。だから、大丈夫」
 そう言うと、天花は上条の左肩を狙って、空気の塊を投げた。吹っ飛ばされて、インデックスが上条に駆け寄る。
 その間に、天花は消えてしまっていた。
「とうま!? 大丈夫?」
「インデックス……あいつは、どっちに行った?」
「右。……天花って、能力者じゃないの?」
「っっ!?」
 上条は、天花がカリキュラムを受けるのを目撃した。教室で、何度か飛んでいるのも見た。
 能力者じゃない訳はない。しかし、今のは魔術だと、インデックスは断じた。
 なら。彼女は血だらけになる筈だ。
「インデックスは待って――」
「とうま、はやく!」
「あ、おいこら待て!」
 人の話も聞かず、銀髪少女は駆けて行く。


「生きてるとは思ってなかったよ緑青」
 かつて、父母を殺し、天花をさらった魔術結社。
 日本の神はあまたいるが、子孫から祖神として祭ってもらったりするのではなく、生きたまま髪になるにはどうすればいいか、を研究してたと思う。
「アンタは、真っ先に殺されたと思ったのに」
「天花……お前に魔道書を読ませて反応を見ようと思ったのが間違いだった。返せ、我らの書を」
「るっさい青かび。名前にカビってつけられるなんてかわいそうな親持ったね」
 天花が逃げ出した時に、丁度ネセサリウスが壊した筈の魔術結社の参謀。
 生きていたとは思いもよらなかった。いつか、この魔道書を誰にも見つからないところに捨て去れば終わりだと思っていた。
「お前が……生きてた所為で! 私はたった一つの願いすら叶えられなかったじゃない!」
「うるさい。今すぐ返せば許してやる。負ける気はしないが、やり合うのは少々辛いからな」
「全部、ぜんぶ、ゼンブお前の所為だっっ!」
 緑青の言葉をすべて無視して、天花は突っ込む。
「浅葱、天花を殺せ」
 緑青の隣に居た男が天花に飛びかかる。
 天花は空中に魔法陣を描き出し、空気を操り始めた。
「なっ? お前、空中に飛び上がる能力を持ってるから魔術は使えないは……」
「その前に疑問に思わないの!? 何故私が生きてるか」
「……そうだ、私がかけた呪いが……解ける訳ないと思ったのに」
 ゴドン! と地面を揺らすような音を立てて、浅葱の体が地面にのめりこむ。
 彼の体から血が流れ出す。生死は不明だ。願いを踏みにじった緑青達の生き死になど、気に留める気すら天花は無かった。
「そう、解けない! だけど私は生きてるの、そして魔術すら使えるのよ!」
 風の刃で緑青を突き刺そうと天花は腕を振りかぶる。
 これは、緑青が実験の為に教えた物だった。そして、緑青も同じ攻撃を仕掛け、天花の攻撃をはじく。
 その刃は、そのまま後ろへ飛んで――インデックスへ突き刺さった。
「え……?」
 インデックスは、今天花が闘ってるのを目にして、こちらへ寄ろうとした、それだけだった。
 遅れて上条が走って来る。
「インデックス、天花! ……! インデックス!?」
 緑青が笑いはじめた。
 魔道書を扱える天花に、緑青は勝てない。魔道書の中身を、緑青は読んでいない。
 逃げる事も不可能。ならば、天花を傷つけてやろうと思ったまでの事。
「お、まえ……! お前は、なんて何て事をしてくれたんだ!」
 もう、人を殺すことへの躊躇いなど天花にはなくなった。
 背後で、上条がインデックスを抱き起こした。
「何処までお前は私の願いを、夢を踏みにじる!?」
 風の刃が緑青の足を切り裂く。血が、噴き出した。天花すら紅く染まっていく。
 緑青が倒れて、尚も嗤っていた。大切な者すら守れなかった天花を。
 目から、涙があふれて止まらない。
「許さない! インデックスを傷つけて、私の命を、両親を奪って! 殺してやるっっ!」
 心臓めがけて刃を向ける。その一撃は大振りだった。
 ――だから、反撃された。
 もう避ける気すらないように、風の刃をはじくためでなく、天花を殺す為に。
 避ける事は出来なかった。



 けれど、天花にとってのヒーローが。ずっと助けてほしいと願った相手が、その攻撃を消してくれる。



 こんな幸せ、他にない。天花の瞳からホロリ、ともう一滴涙が零れた。
 緑青は、結構ひどい傷だけど助かるだろう。急所を、外してしまったから。 
「天花、大丈夫か!?」
「……逃げてって、言ったのに。酷いよ当麻。どうして来てしまうの? 聞いてほしく、なかったのに。関わらないでくれれば、よかったのに」 
 当麻にだけは知られたくなかった事が、いくつか知られてしまった。
 いると知ってても言わずにいられなかった言葉も、聞いてしまっただろう。
「お前をほっとくわけにはいかないだろうが」
 ああ、なんて彼は優しいのだろう。緑青みたいな奴らとは比べたくもない。
「体、壊れてないのか!? お前、魔術――」
「ああ、それは平気。色々あるんだけど……インデックスを回復させるから、ちょっとあっち行ってて」
「え?」
「回復魔術。当麻、打ち消しちゃうから」
「あ、ああ」


 ――しばらくして、戻ると。傷の無いインデックスが倒れてるだけだった。

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