【骨子さんの追憶】




ここで、変質卿クリストルファー・ヴィンドット・ルー・ペインについて私の知り得る限りのことを語っておこうと思う。
彼はその身を常人ならば見るに堪えないような状態にやつしているわけだが、初めからそんな姿をしていたわけではない。
もう何百年も昔のことである。彼は、死神モルテによってペナルティを受けたのだ。誰かを殺めたわけではない。それだけならば、むしろ良かったとさえ言える。
彼は、己の領地に住まう民のうち、六十六名もを生きたままに別の形に作り替えた。
そこに悪意は無かった。ただただ純粋な向上心と好奇心と、作品と研究に向かう情熱のみでそれを為した。なんとタチの悪いことか。
それほどの悪行奇行を為したからこそ彼は、特例として能力の四割を失い、またその姿を見るも無残に変えられた。
それでもその頃はまだ、今よりはマシな姿をしていた。彼は、グチャグチャになった己の身体を屍肉によって補ったのだ。継ぎ足ししていって、どんどん元の形から遠ざかっていった。
そして今のカタチになって、懲りずに領民や客人から「部品」を補充し続けているという訳だ。
だからこそ彼は、スラヴィアンからも忌避される、最悪の部類のアンデッドなのである。


「と言っても全然実感湧かないけどねー」
あの変態のやったことは、百人に聞いたら九十九人が顔をしかめるような悪辣非道であり、しかし私は百人中の一人であるわけであんまり強く責められないというのが現実なのであったー。
実際私は、一部始終と言わぬまでもその事態を脇で見ていたわけで、強く制止しなかった時点で彼と同類なのだ。
「ソもそも疑問なんだが」
口を開いたのは、最近なんだか腕の数が更に増えたような気がするマルコーである。
「貴様はいツからここに居るンだ」
「えー。初めから一緒に仲良くお話してたじゃないですかぁ。ひどーい」
「そウいう意味じゃない。いつからスラヴィアンとしてここで生活しテいるカと言う話だ」
まあ、これは当然の疑問とも言える。元々の私は、人間であったのだから。
「ずーっと昔ですよ、ずーっと。どれくらい昔かは覚えてないけど。きっと小ゲートでこちら側に来たんだろうっつーことで」
「お、ぉま、るこぉ、ここにい、た」
空気を読まずに話を遮るように現れたのは、得体のしれないブヨブヨした奴である。いや、実際は知ってるけどね。
「どうシた、クラムボン」
「りょうしゅさ、がほねっ、こをさがすてるって、いってたんだ。どこにいるか、しら、ぬ?」
「あのー、ここに居ますけど」
「お、お。きづかねかっ、た」
身体をぶるんぶるん揺らしながらクラムボンが言う。根本的にアホなのだこの物体は。
「変態の部屋に行けばいーんですか?」
「おお、そう。へんたいの、とこ、い、け」
「クラムボン!貴様、だレのことを変態と言っていル!」
「お、すまぬ」
アホ二人を置いて私はその場を去るのだった。





だだっ広い廊下を歩きながら考える。
私が過去を振り返るなんて似合いもしないことをしていたのには、それなりの理由があるのだ。
もう朧気にしか浮かばない、まだまともだったころの変質卿の姿は、私の夢の中に現れる朧気な誰かに、よく似ている気がする。
これは、ただの勘違いだろうか。


  • まともそうに見えてもやっぱりスラヴィアンはネジが一本抜け落ちているよね -- (とっしー) 2012-12-16 18:00:48
  • どんどん愉快な屍館の皆々方になっていくこのシリーズ。骨子の人間としての未来は絶望から抜け出せていないのにこの明るさは何とも妙。気になる終わり方も期待してしまいます -- (名無しさん) 2015-07-05 18:16:58
  • スラヴィアンになるときに心の何を失い何を得るのか生前には思いもよらなかった第二の人生が待っているんだろうか -- (名無しさん) 2017-04-07 22:21:29
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最終更新:2012年12月16日 01:39