アットウィキロゴ

【南海大航海】

 課外研修旅行でドニー・ドニーに訪れて港で騒いでいる海賊達と意気投合、
 懲罰上等で酒場で飲んで騒いで新しい船を造ろうと盛り上がり、
 研修滞在の名目で一ヶ月厄介になったのはドニー・ドニーで海運大手のオーク海賊団。
 見事完成した船倉詰込式竜骨船体型輸送船【鯱のあばら】、
 船体に積荷を載せるのではなく積荷の倉そのものの集合が船体になるという所謂見た目はタンカー。
 運用も上々でオーク大母に気に入られた俺達船舶会の面々は「いつでも面倒みてやるよ!」とお墨付きを貰ったが、
 卒業後にドニー・ドニーに準備そろえて出向き就職した物好きは、
 俺だけだった。
  広島県呉市 異世界交流工業特区内教育施設【洗波葉旗(せなよはた)高等部】卒業生
  樽廻 潮門(たるま しもん) 二十歳 男性
  好きなもの 航海
  嫌いなもの 後悔


 異世界で言えば、まだ夏潮が引き切っていない暑さの残る時期なんだろうが、ドニーに吹く風は既に肌寒い。
「ジーンさん、出航準備その他諸々完了しましたっ!」
長期遠洋航海船の甲板に揃い並ぶ船員達の姿は種族混合で、その列の前にどんと腕組み構える巨体が一人。
「タルマぁ! わいのことはアルピン船長と呼べぃ言うたじゃろーが!」
「はいっ! あーでも先週酒場でやったドニー札(簡易版)で散々ぱら負けた後に
『負け分は後でちゃんと払うきに…それまでの手付け代わりに名前で呼ばせてやるから勘弁してくれやぁ…』
って言ってたじゃないですか船長?ジーンさん?」
「そうじゃったァーっ! 酔ってたとは言え、わいはとんでもないことをしてもーたァ!」
腕を組んだまま深緑の顔を耳先まで真っ赤にしたオーガが照れたまま咆哮する。
 部族の中では【名前で呼ぶ】と言うのが何か意味があるらしいけど、
 それを知っている仲間もおらずジーンさんが毎度赤くなるのを見るのが面白くて
 また呼んでしまった。
 一応酔ってたとは言え口約束上はあるし、あの岩石な拳でそぉい!と殴られることもないだろう。
 やり過ぎないようにすれば。

ゲート解放から今まで以上に重要性が高まってきた異世界運搬業。
解放の波及は需要増加に留まらず、それまでの種族概念や業界の固定観念まで変化させ、
どこもかしこも意欲的前進的に業界を盛り上げてきた。
今日のトップは明日の次点ということも珍しくはなくなる中で、
海運業トップを征(い)くオーク海賊団も新たな道を模索するのに余念がない。
近年、塞王周辺での事変拡大とその対応で需要が急激に高まった物資人員輸送を、
一つ上の段階で制覇するべく新航路開拓のための調査航海を行うに至る。
早い!安全!海関パスして経費なし!を合言葉に、ドニー・ドニーから南下という
それまでのスラヴィア北方迂回航路とは間逆を開拓するのである。
オーク海賊団の中でも勇猛果敢猪突猛進台風突破で名高く、かの【風神嵐(ハピカドンスーン)】を乗り越えた実績を持つ
【緑の鋼峰(グリムガッツ)】とあだ名されるオーガ女性船長のアルピン=ジーン率いる中規模航路海運隊に
その白羽の矢が立ったのである。

  航海三日目
船は風の精霊の一団を掴み、波にも恵まれた中でオルニト遠洋を南下しマセ・バズーク沖に至る。
海の安全と治安を守り、かつ海洋維持事業のためと異世界海洋に設けられた海関をかわすため、
今回の航路は未知数かつ危険な海域も進んでいる。
出発前には海関の位置や警戒海域などをゴブリン海賊団の協力の下で入念に下調べし、
現在から少し先までの海洋状況をスキュラ海賊団の持つ水の中のツテを駆使して把握から予報までを立てた。
しかしそれでも、
「海の無事と子種が当たるかは誰にも分からないよ!」
というオーク大母の安全徹底の指示に従い、それなりに安全第一の航海が続いていた。

「周辺十里以上なーし! 晴天なれど波やや高ーし!」
飛行哨戒から着陸してきた鴎人のフラン=キッスパンが通りの良い声で安全を報告する。
「思えば去年の【大ゲート祭】で【船喰い】が退治されてから、海もすこぶる大人しくなったでのぅ」
甲板に咲いた一輪の花パラソルの影から、船の進む先をじぃっと見つめて語る海牛人の泳波葡(えなぶ)老。
見つめる目がどこかは見つけられないが、蓄える髭は御立派に垂れ下がっているので一目瞭然。
 どうやら今日も大事なしに済みそうだな~。やっぱり海はどこの世界でもいいわ~。
 船体にこびり付いた巨大だが柔らかい異世海フジツボをコリコリこそぎ落としながら、
 ドニーの海とはまた違った乾いた潮風を堪能する。
「おーいタルマぁー、そろそろ飯にするべー」
船柵から樽廻をくくるロープを垂らしていたオーク船員が呼びかける。
気づけば太陽はもう直上まで昇っていた。


  ???海域
「このっガボボボボ 鱗はっボベベベベ 良質なっブボラ 板金素材にードヴヴヴ なるんでーすーよーお姉様ー♪」
嵐嵐嵐! 雷雲埋め尽くす曇天から大粒の雨弾が横から叩き付けて来る大嵐の海原で、
金色に輝く海賊帽を被った少女が三本の腕にダガーを握り締め、何やら波に飲まれながらもザクザクと跨る面を刺している。
「エンガワが頗る美味と聞いたんじゃがの? エンガワってどの部分なのじゃ?」
暗い空に溶け込む茶褐色の玉肌は、降り付ける雨と荒れ狂う波の間にいるにもかかわらず全く濡れていない。
海面に浮上沈降を繰り返す巨大な影と沿う様に浮遊する、狐耳を突き出す少女の周囲には黒い炎が塵の如く無数に舞っている。
「オラオラ! お前が【獅子龍】だろオイ! オラ!こっち向けオラオラ! 俺と勝負しろオラァっ!!」
海面を踏む度に飛沫を撒き上げながら走る獣耳の女性は、鱗と金毛を総毛立たせる巨大な獣顔に向けて拳と怒声を繰り出しつつ併走する。
拳を打つ度に突き出される風圧に嫌気が差したのか、巨大な何かは突如暗雲目掛けて巨体を伸ばす。
動物の声とは一線を隔すまるで楽器を奏でた様な神秘的な咆哮が起こったかと思えば、
空より幾千筋もの雷が轟き、広大な周辺を眩い白光で覆い尽くした。
すぐに光は消え去るも、その場にいた三人の前から忽然と姿を消した巨大な何か。
三人が周囲を見渡すも、次第に晴れる空の下でも何も捕らえることができなかった。
「逃げられちゃったじゃないですかー!もう!」
「エンガワ…食べたかったんじゃ~」
「ふん、これで俺から逃げれたと思ったら大間違いよ。 奴の巨大な気は隠そうと思ってもそう隠せるものじゃねェ」
自信満々に鼻をすする暴力的な筋肉を誇示する女性はそう言うや否や、再度海面を駆け始める。
それを見た金色の少女は誰にも真似できないであろう多腕泳法で、闇炎を纏う少女は浮遊する速度を上げて
筋肉の後を追うのであった。


なんか遭難しそうなんですけどね。 恐らくそうなんでしょう

  • これは良い -- (名無しさん) 2013-04-21 23:16:53
  • 不況や将来の見通しとか地球で不安なので思い切って異世界に就職とかありそうだ。これは前述と後述の状況が鉢合わせするのかな? -- (としあき) 2013-04-25 18:03:00
  • 亜人の地球就職もあれば人間の異世界就職もあるんだなーと。職場で環が広がるのは楽しい -- (名無しさん) 2013-12-10 22:31:37
  • 行動力があれば大きなこともできてしまうのは異世界のいいところですね。船員も種族様々で賑やかな甲板が見えてきました。未知の危険極まる海も神にとっては遊び場のようなものですか -- (名無しさん) 2016-07-03 18:04:17
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

f
+ タグ編集
  • タグ:
  • f
最終更新:2013年04月21日 23:26