【宝島の底へ】

「うおぉおおおおおおおっっ!!」
「あわわわわっ!きたきたきたきたぁああっっ!!」
一本の柱が底と上へ伸びる縦穴を、さけぶ二人を乗せた飛竜が混信の力で羽ばたき上へ上へと飛翔する。
力のかかり具合からか、柱を螺旋で回る様に飛び昇る飛竜の尾や翼に、今にも纏わりつかんとする黒い“何か”。
『ミソラ!だからやめておこうと言ったじゃないか!
飛竜の翼に僕の力を上乗せするよ!一気に穴の外へ!』
上から飛び降りてきた風精霊がふっと消えた瞬間、飛竜の翼は昇るに空気抵抗が消え、羽ばたくに空気の壁を押す様に
上昇の速度を上げて黒い渦から見事逃げ切り、そのまま高い蔵の天井すれすれで翻り雪崩れ込む様にして着地した。
穴の底より迫っていた黒渦も少しばかり穴から飛び出そうとはしたものの、あっという間に暗い闇へと引っ込んでいった。
「メノー!ワナヴァン!」
ぐったりしている飛竜の傍に駆け寄ったのは、飛竜を駆っていた青年と一緒にいたイスズという穴の外で待っていたエルフ
「自慢の“娘”じゃなかったらやばかった… っはぁ、ワナヴァン、よく頑張ってくれた」
汗だくのままゴーグルを外し、イスズから受け取ったタオルで項垂れる飛竜の瞼を丁寧に拭くのは瑪瑙という人間の青年。
「いやーほんまダメかと思たわ! 風坊もっとはよ来てくれたら楽に助かったんやけどな!」
探検隊風の上着やチョッキやらをぼとぼとと外しながら、飛竜の翼よりにゅっと出てきた風精に訴えるバンダナの女性。
『ミソラ、“アレ”を見たでしょ。 物ならいざ知らず、呪詛か負の理の塊に巻き込まれたら
精霊なんてあっという間に取り込まれてしまうんだからね。無茶は出来ないよ』
それはそうだと手槌を打ち、風精の肩をポンポンと叩いた海空は、そのまま飛竜の傍に歩み寄る。
「ほんっと、危険な事に付き合わせて申し訳あらへん! イスズさんも心配させてほんま堪忍な」
深々と頭をさげて謝罪する間、瑪瑙の腕をしっかり抱き組んだイスズの顔は膨れていた。
「いやまぁ降りてく最中は色んな宝、あれがゴブリン海賊団のお宝ってヤツ?見れたのは良かったよ。
まさか穴の底からあんなモノが出てくるとは思いもしなかっただけさ」
「いやほんま、ワナヴァんの本能?危機察知でこっちが気付くよりも早く上へ飛んでくれたんで助かったで。
もうほんの少し遅かったらうちら全員あの黒い渦に取り込まれとったわ…」
『ミソラ、そもそも下に降りてもアレがいたら何も出来ないよ』
「そやな、甘くみとったわほんま。 年寄りの言う事は聞いとけって事やな!」

「はっくちゅん!」
「ハクテン様、如何なされましたか?」
「いや、何でも… ムム、これは風邪の兆しやも知れぬ。病飛ばしに酒、酒じゃ酒をもて!」
「ほっ。どうやら大事無い様だ」

宝島初訪問にて、どうしても番人が止めた宝物棚の下が見たくなった海空。
その場に同行したハクテンに次の同行を求めるも、
「わしは“今の世”にはあまり関わらんようにしてるでのぅ、助力したいのはやまやまなんじゃが無理だの。
どうしても穴の下にいくのであれば、誰か解呪儀礼か祈祷の出来る者を連れて行った方がいいぞぃ。
そうさのぅ、ミズハミシマの舞踊が出来る者であれば尚良しじゃな」
と、アドバイスは貰えたものの同行は断られてしまった。
その後、宝島を所有するゴブリン海賊団に同行者分の宝島入島許可メダルをもらい、
再度宝島の宝物棚の下へ向かうための同行者を探し募った。
…が、折りしも大ゲート祭の時期で世界各地から猛者共がドニードニーにやって来るのを見越したものの、
天下一武闘会や世界一周レースの観戦ツアーに流れてしまい、目ぼしい者が全くいない状況。
それでも町を探し回っていた海空の前に降り立った飛竜とそれに乗る二人を見て、これは天啓と即座に同行を頼み込んだ。
宝物棚を軸柱を昇降するゴンドラではなく、飛竜で一気に降下してやろうという安易な発想だったが、
結果は御覧の有様である。

「そもそも降りたとこでアレをどないかせな話にならんっちゅーこっちゃ。やっぱり人集めなあかんか」
「冒険者か何かを探すなら、新天地にあるニシューネンってとこが今熱いらしいぞ? 何せゲートのある街だしな」
「海の途中で寄せてもらった船の人達もニシューネンに向かうって言ってたよね」
奇しくも大ゲート祭で世界同士でゲートが多様に繋がる今、やりようによってはあっという間に到着出来る。
「ほぅほぅ!これは耳寄りな情報をありがとさん! どの道ドニーじゃ人集めは難しそうやし、
いっちょそのニシューネンてとこに行ってみよか!」
ゲートの通行緩和は祭の間の一ヶ月。
その間に同行者を集めて宝島への挑戦は成るか成らざるか。
翌日、意気揚々とドニーゲートへ向かう山戸森 海空の頭の中には、
大した策など何も無かった。


果たして大ゲ祭の間に宝島再挑戦は成るか?
ニシューネンで人集めは成功するかどうか、次回があれば続きます

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最終更新:2013年06月19日 19:10