「大丈夫? 痛くない?」
「ぁ……」
小学生の時、田舎の浜辺で人魚の娘を助けた事がある。
確か黒髪に黒い瞳の女の子だった。今思えば異世界の
ミズハミシマに居る人魚だったのだろう。
それが何故地球の海にいて浜辺で身動き取れなくなっていたのかは解らない。
「大変だ。今お母さん呼んで来るからね。少しだけ待っててね」
でもその時は難しい事は考えずに、ただその人魚の娘を助けたい一心だった。
傷ついて血の滲んだ鱗の尾っぽ。火に焼かれ乾きひび割れた肌。
とにかく可哀想、助けなきゃと必死だったんだ。
「お母さーーーん! こっちに来てー! 人魚さんが倒れてるよー! こっち来てー!」
その後助けた人魚の娘が回復するまで、僕毎日病院に通った。
初めて出来た異世界の友達――人魚の女の子と遊んだ一夏の思い出だった。
【高気圧ガール2-渚の王子様編-】
「可愛いよな~」
「あぁ、大和撫子って言うの? 最高だよな」
「くぅ~~~、あんな娘お嫁さんにしてぇ~~~」
「あの黒髪で髪コキしてぇー」
そんな羨望と欲望の眼差しを向けられるのは神田渚。
長く美しい黒髪がさらさらと風になびく学年でも評判の美少女である。
「それが何故あんなパッとしない奴に……」
「神様は時に残酷な仕打ちをする」
「なぁ、この際さぁ、みんなで奴をフルボッコしちゃわね? それがジャスティスなんじゃね?」
「バカ! そんな事したら俺達が嫌われんだろ!」
一方こちらは嫉妬と殺気の眼差しを向けられる御徒町太助。
成績普通、体育普通、身長並、顔も並。学年屈指の没個性少年である。
「たっくん、私達運命の赤い糸で結ばれた恋人だよね?」
「太助さぁん。私の方が可愛いですよね? 太助さんはロリコンですよねぇ?」
「太助君、僕嫉妬でもう……壊れそう」
今、太助はムー子さんと渚、二人の少女に囲まれて人生初のモテ期なる物の存在を感じていた。
しかし同時に親友・鶯谷信一郎の心が壊れてゆく事も実感していた。
何故こんな事になってしまったのかと言うと、事は三日前に遡る。
「好きです! 付き合って下さい!」
「……え?」
御徒町太助がいつもの様に、悪友の鶯谷と16歳40ヶ月の
ノーム、ムー子さんと下校しようと廊下を歩いている時の事だった。
突然下駄箱の手前で可愛い女の子に告白されたのだ。
「私、神田渚って言います。たっくんは覚えてないかもしれないけど……私、ずっと前からたっくんの事好きでした」
「え? いや……え? 僕?」
「この泥棒猫! 何よ昔からってふかしこいてんじゃないの!?」
まさに晴天の霹靂。
黒髪ロングストレートヘアー(鶯谷曰くブラックストロング)の大和撫子が太助に告白したのだ。
それを受けて直ちに迎撃体制に入るムー子。
「こ、これ程攻撃的なムー子さんは初めて……いや、しょっちゅう見るか」
「私こそ太助さんとは運命の赤い赤いスタンガンで結ばれているんですよー!」
「なんじゃそりゃ」
太助とムー子は知らなかったが、このブラックストロングの美少女は学年でも評判の神田渚。見た目良し性格良し成績良しと言う、太助達とはまるで接点の無い人物なのだ。
だがその高嶺の花が今、何故か何の取り得も無い男、御徒町太助に告白している。こんなハーレムアニメ的ご都合主義展開許されるのだろうか。
そう、許さない者がここに一人居た。恐ろしく攻撃的な小宇宙を持つ女、有楽町ムー子その人である。
「誰ですかこの生意気な子供は? 何で高校に子供が?」
「成りは子供でも歳はあなたより三つ上ですー!」
「え? ダブリマクリスティーなんですか?」
「ダブってないわ! 青春の為、自主的にもう一度高校生やってるだけよ!」
「ますます訳がわかりません……」
何を張り合ってるのか最早本人達でさえ覚えていない噛み合わない会話が廊下で展開さえる。
これが後に始まる二人のサマーウォーズの狼煙であった事は言うまでもない。
「と言う訳なんだ」
「誰に向かって喋ってるんですか?」
「いやこっちの話」
どこかを見ながらやけに説明口調で話していた太助をこっちの世界に呼び戻し、ムー子は再び思案を重ね始めた。
(しかしこのままでは太助さんの彼女の地位が危ういですね……何とか、何とかしなければ)
今ムー子の頭の中では電子頭脳も真っ青の高度な計算がなされていた。
あれから二人の関係は何の進展も無く、すっかりただの友達状態が板についてしまっている。そこに恋の強敵(ライバル)が現れたとあっては、ムー子もうかうかしていられない。
どうすれば太助の気を引く事が出来るのか?ムー子のバイオコンピューター並を自称する頭脳が導き出した答えが、コレだ。
「どうしたのムー子さん? さっきからうんうん唸って」
「何でも無いですよお兄ちゃん」
『お兄ちゃん!?』
太助と鶯谷が同時にドン引きする。
よもや年上の女性にお兄ちゃん呼ばわりされる事になろうとは、お釈迦様でも思うまい。
しかしそんな二人を見ても尚、ムー子は怯まず冷静に説明するのだった。
「ほら、私ってロリキャラじゃないですか? だからいっそ妹キャラになれば太助さん喜ぶかと思って」
「なるほど。太助の変態性癖を利用するわけだな!」
「僕そんな趣味無いから!」
「え? 間違っちゃいました? じゃあ~、お兄様? 兄君様? 兄くん? それともにいにい?」
「だからそうじゃなくて!」
「兄ちゃまチェキよ!」
ムー子がそんな懐かしい台詞を吐いていると、昭和生まれの担任教師、西日暮里先生が通りかかった。
「おや、何だか懐かしい遊びをしているね」
「西日暮里先生」
「僕も高校生の時、仲間と一緒に遊んだなぁ……シス○リごっこ」
「それは一体どのような遊びで?」
西日暮里先生はオタク趣味がバレて以降、その趣味をオープンにしている。
同僚の間では陰口叩かれる状態になったが、今では逆にそれが快感に変わりつつある30歳独身だ。
「簡単だよ。自分が一番好きな妹のなりきりをして遊ぶのさ。ハハッ、今となっては黒歴史だよ」
「ちなみにその時のメンバーは?」
「全員男だけど?」
「引くわ~……先生引くわ~」
「先生が「兄ちゃま、チェキよ!」とか言ってる所想像したら、昼食った焼きそばパンが逆流しそうだぜ」
「ぼ、僕の青春の一ページが汚されたーーー!!」
生徒にまで手酷くあしらわれ、西日暮里先生はその場から走り去った。
「寂しい青春だな」
「奴の事などどうでも良い。それよりあの一万年と二千年前から好きとかホラ吹いてるビッチをどうするかですよ」
「実際ムー子さんが渚ちゃんに勝ってる所なんて一つもなくね? 勝ち目無いだろ」
「そ、そんな事ありませんよね太助さん? 太助さんは貧乳は希少価値でステータスだと言うのが持論ですものね」
『ヒソヒソ……ヒソヒソ……』
そんな三人の会話を聞いた下校中の女子生徒達が、ヒソヒソ話をしながら太助を避けるように通ってゆく。
太助はロリコンの称号(レッテル)を得た。
「ちょっ、止めてくれないか!? 自分が偽ロリだからって僕をロリコンに仕立て上げようとするのは!」
「違うんですか? 日本人男性の9割はロリコンだと言うのに、自分は違うなんて言えるんですか?」
「それは……違うよ」
「うわーーーーん!! 太助さんがおっぱい星人だったなんてーーー!」
「ちょ!」
『ヒソヒソ……ヒソヒソ……』
そんな三人の会話を聞いた下校中の女子生徒達が、ヒソヒソ話をしながら太助を避けるように通ってゆく。
太助はオッパイ星人の称号(レッテル)を得た。
「ほらまた噂されてる!」
「今頃きっとお前、ロリ巨乳好きだと思われてるぜ?」
「もう止めて! 僕のライフはゼロだよ!」
「人はおっぱいを求めるものだから仕方ないのだよ。うんうん」
廊下で突っ伏す太助。その背後から謎の声がかけられた。一同が声の主を探すと、そこにはあらゆる意味で目立つ存在、学園の有名人が立っていた。
コケティッシュにしてヘビーメタル。半分美少女で半分退廃的な外見を持つ少女、沢村彪その人である。
『彪!?』
「何か面白そうな事になってるね」
そう言って少女はニヤリと笑った。
絶対碌な事考えて無さそうとか、止めろよその顔何思いついたんだとか言われそうな笑顔だが、多分その通りなのだろう。
だがそんな事無視してムー子さんは、純粋に彪の所に助けを求め走る。
「彪ちゃん彪ちゃん! 地球人男性の心を射止めるにはどうすれば良いの!?」
「う~ん……レ○プ?」
「いきなり犯罪!?」
「レ○プから始まる恋、みたいな」
「ダメだこいつ……早く何とかしないと」
鶯谷ですらそう言ってしまう答えをのたまう彪だったが、ムー子がメモ帳にメモを取り始めたのを見て、ヤバイと思ったのかすぐに前言撤回して真面目な答えを言った。
冗談は好きだが人を騙す事まではしたくないのだ。
「冗談よ、じょーだん! 真面目な話、ある程度仲良くなってから好きって言えば、普通くらいに思ってたのが好きになってくれるんじゃないの?」
「もう……告白したんだけど……」
「じゃあそれもう失恋したって事じゃ」
「嘘だと言ってよバーニィ!」
彪のマジレスに泣きそうになるムー子。
だがその位で心折れるムー子さんではない。涙を堪えて彪に更なる助力を請うが……。
「何とかして下さいよ彪ちゃんさ~~~ん! 私このままじゃ負けちゃいます~!」
「こんなに必死なムー子さんは初めて見る」
「う~~~んじゃあねー」
彪が神妙な面持ちでムー子に答え始めたが言葉の途中で詰まる。
そう、彪や他の女子には実行可能であっても、ムー子には出来ない戦法もあるのだ。その事に彪は気付かなかった。
「おっぱいでも揉ませてあげれば思春期男子なんて……てごめん。揉む程ないか」
「どちくしょ~~~!」
「あっ! ムー子さん!」
彪のあんまりにもな言い草に居た堪れなくなったムー子は、ついに校舎を出て行ってしまう。
捨て台詞の「世界なんて大っ嫌いだー!」と言う言葉を聞きながら、太助達は限りなく不安な気持ちに包まれるのだった。
「行っちまったな」
「面倒な事にならなければ良いけど……」
それは無理な事だった。
「スタイルもおっぱいも敵わない……顔も……まぁ、同じか少し負けていなくも無い気がしないでもないですけど」
ムー子は校舎裏を歩きながら物思いに耽っていた。
自分が神田渚に敵う要素は無いか。それを考えれば考える程その顔はうつむいて行く。
「私あの娘に勝てる所なーーいーー!」
その落ち込みが極限に達した時、ムー子は雄叫びを上げて雑草の草むらに小さな体を放り投げた。
季節は初夏、じわじわと暑い日ざしが照りつける中、手の平を太陽に透かしてみる。小さな手が光を遮りその顔に影を落とす。
「もぅ……殺るしかねぇ」
「何恐い事言ってるのあんたは」
「あ、アニーたん」
「アニーたんって呼ぶな!」
その時、上からムー子の独り言に答える声が振ってきた。
声の主は2階のベランダの手摺に腰掛けている
スラヴィアからの留学生、アニー・デルタ・クリストファーその人である。
「まあいいわ。んで、あんたは勝ち目が無い戦いに挫けそうになりここでぐじぐじしてるって訳だ」
「それは! ……まぁ、そうですけど」
アニーはムー子を見下ろしながら、そう告げる。彼女なりに発破をかけているのだ。
ムー子が真剣な事くらいアニーは分かっていた。だからアニーも真剣に答えているのだ。
「下らないわね」
「ちょ、そんな言い方――」
「そんな事で諦める程、あんたの想いってのは弱いものなの?」
「っ!?」
ムー子の眉がピクリと動く。
勝てる所が一つも無いなんて嘘だった。想いの強さだけは誰にも負けない、その事を忘れていた。
急に現れた恋の強敵に怯み弱気になっていた自分が、ムー子は急に恥ずかしくなった。
「譲れない想いなら、とことんまで戦ってみなさいよ」
「そう……ですよね。アハハ、お姉さん教えられちゃったなぁ」
「もう大丈夫みたいね。じゃ、私は忙しいからこれで あっ」
「あっ! 危な――」
「ぐえっ!」
アニーはムー子がいつもの前向きさ(無鉄砲さとも言う)を取り戻した事を確認すると、体勢を180度変えてベランダに戻ろうとした。
が、その際バランスを崩して地面へと頭から転落してしまう。
コーーンカラカラカラと言う陶器のような良い音色と共に、目を回したアニーが地面に寝転んだのだった。
「ありがとうアニーさん。あなたに分けてもらった勇気、無駄にはしませんからね。南無~」
「まだ死んでないわよ!」
その横でお手手のしわとしわを合わせて南~無~するムー子。
だがアニーはスラヴィア一のタフさですぐさま復活し、その肩に突っ込みの平手を入れるのだった。
「神田渚! 貴様に十一門ファイトを申し込む!」
次の日の放課後、太助に昨日の告白の返事を聞こうとやって来た渚に、ムー子は突然勝負を挑んだ。
「え~っと、つまり?」
「どちらが太助さんの彼女に相応しいか、勝負です!」
十一門ファイトと言う謎の単語に周囲が疑問符を浮かべる中、ムー子だけはやる気に満ち溢れている。
だが太助をかけて勝負と聞いた所で一同はピンと来たのか俄かに周囲がざわつき始めた。
そのざわつきの中、勝負を挑まれた神田渚はニコリと余裕の笑みを浮かべながらこう返すのだ。
「ふ~ん……別に良いですよ? その勝負、受けて立ちます」
渚がムー子の挑戦を受けた瞬間、周囲のギャラリー達が色めき立った。
面白い事に飢えた高校生である。何か始まると感じて祭りめいた熱気を放ち始めた。
「良いぞー!」
「やれやれー!」
「一体何が始まるんだー!?」
周囲の熱気に太助達が気圧される中、ムー子と渚は胸を張り正面から睨み合っている。
戦が始まる!二人の間の大気が歪む幻覚が見えるやうな一色触発の空気の中、誰もがそう予感した瞬間、突然教室の窓が開いて鬨の声が響き渡った。
「合意と見てよろしいですね!?」
「うわぁ! ビックリしたぁ」
「沢村彪……」
呼ばれなくても参上する半分美少女の登場だ。彼女がこの女の戦いを取り仕切ると言う。
周囲を一瞬でアテンションプリーズした彼女は、一同が見守る中勝負の説明を始めた。
「勝負は知力、体力、時の運それぞれの競技で競い合い、最後に合計ポイントが高かった方の勝ちとなります!」
「何か高校生○イズとガン○ムファイトとメダ○ットをパクったような」
「しー! ドクシャにばれるからお静かに」
試合は三本勝負によって行われるらしい。気になる競技の内容とは…?
「それでは第一勝負知力対決はここ、教室にて行います。お二方とも準備は宜しいですね?」
「望む所です」
「いつでもどうぞ」
「それでは第一回戦『十一門クイズ』始めぇ! 先攻は挑戦者神田渚さんから!」
そう言って彪が教卓の裏から用意したフリップには(いつの間に用意した!?)、何処かで観た事があるような歴史や国語や科学と言った単語に1〜5の数字が振られて書かれていた。
十一門ファイトの第一リングとなる教室には、既にギャラリーが満席の状態だ。
そのリングの中心にムー子と渚は並び立ち、真剣な面持ちでフリップを眺めている。
「歴史の3」
「歴史の3! 歴史の3の問題は~……これだぁ!」
まず先攻となる渚が問題を選んだ。
『地球暦1991年、大
ゲートが開通し異世界間での交流が始まりましたが、この』
ピンポーン!
まだ問題の途中なのに早くも回答のランプが点いた。押したのは勿論ムー子である。
「答えられる訳がない!」「ブラフだ!」と言う周囲の声の中、ムー子は自信満々こう答えた。
「私と太助さんが出会う為のデスティニーだった!」
(ブッブー)
「え~~~?」
え〜じゃないだろ。この人本当にクイズの趣旨を解っているのだろうか。
そんな何とも言えない空気を一発で作り出したムー子に対して彪から容赦無い注意が発せられる。
「ムー子さん問題は最後までちゃんと聞いて下さい。あと答えと称して手前勝手な妄想を垂れ流さないで下さい」
「酷い!」
「では問題の続きです。交流が始まりましたが、このゲート開通と言う大イベントの中心となった神様は誰でしょうか?」
「(ピンポーン!)死神
モルテ」
「正解です! 渚さん10P獲得。では次はムー子さん選んで下さい」
「ふっふっふ、遂にこの時が来ましたね……私が選ぶのはぁ~……」
ギャラリーを楽しませようとみ○もんたばりに勿体つけるムー子だったが、皆パネルにあるジャンルの一つを見て早くしろと言う顔をしている。
どうせ選ぶのはこれでしょ的な空気だ。
しかしその事に一人気づかないムー子は満を時してと言った表情でビシリと一点を指差した。
「太助さんの1番になりたいです!」
「太助の1ですね。では問題です」
「スルー!?」
へつらいの笑みはなかった。
『御徒町太助は小学1年生の時、クラスで大きい方を漏らし不名誉なあだ名を付けられ1ヶ月間不登校となった時期がありました。この時のあだ名は何?』
読み上げられた問題の異質さにギャラリーがどよめき立つ。
当の問題を読み上げた彪でさえ目を見張り困惑している。
この情報は本当なのか?一体誰がこんな問題作ったのか?人々の関心は問題の答えよりもそこに向けられた。
「ちょっと待てぇい! 誰こんな問題作ったのは!? 嘘だよ!? 嘘だからねこんな問題!!」
「落ち着けウンコマン」
「鶯谷お前かぁー!!」
太助が鶯谷に殴りかかり早くも場外乱闘が発生した。
男子生徒は人垣でリングを作りヤンヤヤンヤ騒いでいる。
女子生徒達はそれを見て「このウンコマンを取り合って勝負してるのか……」と呆れる中、ただ一人ムー子だけは瞳をキラキラと輝かせていた。
「え~、参加者以外が問題の答えを言ってしまった為、別の問題を出させて頂きます」
「だから嘘だからね!」
(嘘なら何であんなに必死なんだろう……)
誰もがそう思った。
『御徒町太助は小学2年生の時、遠足のバス内でエチケット袋を3つも消費し不名誉なあだ名を付けられ1週間不登校となった時期がありました。この時のあだ名は何?』
「ふざけるな鶯谷ー!」
太助の高速タックルが決まった。
「ふはははっ! 苦しめ~苦しむが良いんじゃこの伝説の戦士ゲロめー!」
再び形成される男達のリング。
今度はもうそれを無視して女子生徒達はしめやかにクイズを続行するのだった。
ムー子も次なる太助情報が欲しくてウズウズしている。
「え~、参加者以外が問題の答えを言ってしまった為、別の問題を出させて頂きます」
「もう止めてー! このままじゃ僕また学校に来れなくなっちゃう!」
人垣の向こうからそんな悲痛な叫びが聞こえて来るが、これ以上試合を滞らせる訳にはいかない。
彪は涙を飲んでクイズを続行した。
『御徒町太助は小学3年生の時、社会化見学先のゴミ処理工場ではしゃぎ過ぎてゴミの山に落ち、悪臭を放ちながら泣きながら帰っ』
「鶯谷ぃーーー!!」
太助の超級覇王電影弾が炸裂した。
「どうしたんだ社会のゴミ? 問題はあと2問残っているぞ? お前が騒げば騒ぐほど問題は進んで行く事になるのだぞ?」
「ゴミは貴様だー!」
「もう止めてあげて下さい!」
不毛。純然たる不毛の争い終止符を売ったのは回答者、神田渚だった。
「誰にだって……人に知られたくない秘密くらいあります。それを論うなんて人として最低です」
「神田さん……」
その一言を受けて、太助の頬を一筋の雫が伝った。
「だよねー」
「ちょっと最低だよね」
「普通友達にあんな事する?」
「嫉妬ですって。小さい男よね」
「そりゃモテない筈だわ」
「私でも彼はちょっとねー」
不毛な争いと戦乱を楽しむ男子達はリングを解き皆シュンとした顔で反省している。
そして全ての責めは自らの嫉妬の為に親友を売った鶯谷一人へと向かい、居た堪れなくなった彼は遁走した。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
「あ、逃げた」
完全なる自業自得である。これでますます彼に彼女が出来る可能性が下がった事は言うまでもない。
「勝負は決まったようですね。勝者、神田渚さん!」
「やったー!」
「異議あーり! まだ2問しか進んでない上に私のターンが有耶無耶なままなんですけど!」
彪の謎のジャッジに異議ありと逆転裁判を試みるムー子。
だか今回ばかりはギャラリーも同じ気持ちだ。何故今ので渚の勝ちなのか?納得の行く説明が欲しい所だが……。
「神田さんは想い人の為問題を止めました。一方あなたは想い人の気持ちなど考えず、ただ自分の興味を満たす事しか考えていませんでしたね?」
「ぎくっ、それは……」
「これは太助さんの恋人に相応しい方を決める対決です。第1回戦の勝者は神田渚ちゃんで異議ありますか?」
「ありません……」
こう言われてはぐうの音も出ないムー子。彪の言葉の弾丸でいともあっさり論破され、ムー子はそのまま押し黙るしかなかった。
「では第ニ回戦『料理対決』! 料理は女にとって必須科目の一つ、体力勝負として一番相応しいでしょう! そして決戦の場は家庭科室だー!」
「フッフッフッ、料理対決」
料理対決と聞いてムー子の瞳がキラリと光る。
「料理対決我に秘策あり! 神田渚、次が貴様の死ぬ時と思えぃ!! あ~はっはっはっは!」
「あいつちゃんと趣旨を理解してるのかな?」
「と言うか料理対決でどうやって対戦相手を殺す気でいるんだろう」
落ち込んだり高笑いしたり忙しい奴である。
だがムー子は良くも悪くもただ者ではない。果たして今度はどんな騒動を巻き起こすのか。
「なーーーっはっはっはっは!」
「包丁とか使うだけに無駄に緊張感漲りそうだね」
「料理に毒を盛るとかかも知れんぞ?」
『それは無いそれは無い。ん?』
太助達がそんな心配事を話していると、いつの間にか横に鶯谷が居た。
「よっ! 待たせたなみんな」
「何食わぬ顔で戻ってきてるんだよ!!(バキッ!)」
「へぎょわ!」
舌の根も乾かぬうちになかった事にしようとしている鶯谷の鼻っ柱に太助の右ストレートが決まった。最後の言葉を残し、鶯谷は地面に沈んだ。
「次回に続く」
「む、ムー子さん?」
「何ですか太助さん?」
舞台は変わって家庭科室、むー
「この大きなマシーンは一体?」
「あぁ、これが前言っていた全自動唐揚げ製造マシーンの進化・発展版。その名も『全自動揚げ物製造マシーン』です!!」
ムー子が家庭科室に持ち込んだ巨大マシーン、その名も全自動揚げ物以下略は、以前太助にミッ○ーの肉を食わせた忌わしのマシーンのパワーアップ版だった。
この少女ーと言うにはいささか厳しい年齢だがーはこうした機械は作れても料理は作れないのだろうか?
「まさかまたミッ○ーの肉とか使うつもりじゃないよね?」
「ちっちっち。太助さん、発明家に一度犯した過ちは二度と通じません。今やこれは常識」
どこかの聖闘士のような事を言って得意顔になるムー子。根拠はわからないが兎に角自信たっぷりだ
。
「この揚げ物マッシーンで、今度こそにっくき彼奴めをぎったんぎったんのぼっこんぼっこんにしてあげます。そう、最高に惨たらしい方法でね」
「だからお前は料理対決で何をしでかす気でいるんだ」
「あの、たっくん」
ムー子が相変わらず意味不明の事をのたまう中、渚が遠慮がちに太助の服の袖をチョイチョイと引っ張った。
「私あんまりお料理得意じゃないけど、たっくんの為に一生懸命頑張るから」
「(ドキッ)う、うん。楽しみにしてるよ」
自信なさげに上目遣いでそう宣言する渚。
ムー子には欠片も見られないお淑やかで儚げな姿に、太助もそれを見て居たギャラリーの男子達も、皆ドキリと胸が高まった。
「きー! 何ですか何ですか可愛子ぶりっ子しちゃって反吐が出ますよ! この勝負、絶対に負けられません!!」
「では双方準備が出来た所で、第二回戦……始めぇ!」
「うおぉぉぉおお!!」
斯くして始まった十一門ファイト第二ラウンド。
普通に手を洗い食材を洗い普通に料理を始めた渚に対し、ムー子は序盤から気合の雄叫びを上げて全力全開。
だがその全力全開は意味の分からない全力全開だった。
「なぁ、機械に材料入れるだけなのに何であんな雄叫び上げてるんだ?」
「気合の表れなんじゃないかな? 良く分からないけど」
太助と鶯谷が至極当然の感想を言い合う中、ムー子と渚の二人はもくもくと調理を進めて行く。
正統派の渚、邪道極まりないムー子、果たして勝利するのはどちらの料理なのか。
「さあ、両者一斉に調理始めました。気合十分です。何が出来るのか楽しみですね」
「チキンカツヒレカツロースカツ! ハムカツメンチカツネギマ串カツ! コロッケクリームコロッケカニクリームコロッケ! 唐揚げ竜田揚げミートボール! そして後は~~~テンプラテンプラひたすらテンプラぁ!」
「うぷっ、見てるだけで胸焼けしてきた」
「あいつやっぱり馬鹿だ……」
早くも勝負あったの気配が漂う中、ムー子はまだ孤軍奮闘して居た。
執念。ただ太助への執念と言う名の愛だけが彼女を支えているのだ。
「ムー子さんが揚げ物づくしを作っている間に神田選手、炊き上がったご飯をフライパンで炒めていますね」
「あ、良い匂い。チキンライスかな?」
「いや、卵も用意してるからこりゃオムライス作る気かも知れないぜ?」
ムー子が材料をマッシーンに投入し終わり、気合貯め動作をしている中、渚の作る料理の全景が見えてきた。みんな大好きオムライスだ。
方や揚げ物オンリーの胸焼け料理、方や見るからに美味しそうな胸熱料理。
この段階でもう勝敗は誰の目にも明らかだった……。
「何か早くも勝負見えてきた感じだね」
「ムー子さん終わったな」
太助と鶯谷の無常なる会話が続く
。最早太助の視線は渚のオムライスに釘付けだった。
(心なしか献立のバランスが悪いような気がしてきましたね……)
その時不思議なことが起こった。何とムー子が自分の過ちに気づくと言う奇跡が起きたのだ。
熱中すると周りが見えなくなるムー子は、ここで始めて太助の方を向いた。
(うっ、太助さんの視線が向こうに!? 男子高校生はみんな揚げ物大好きと思っていたのに不味いですね……)
確かに男子高校生は大抵の場合揚げ物大好きだが、物には限度と言う物がある。
こんなに揚げ物ばかり出されたのでは、例え肉食系男子だったとしても吐き気を催すはずだ。
先程までの気迫はどこへやら、ムー子怒りのスーパーモードはこの時終わった。
(落ち着け私、まだ勝負は決まった訳じゃないですよ。心を静かな水面の如く落ち着けて……何かバランスを良くする物を……)
「あれは!」
だがムー子は諦めなかった。逆境をバネにして這い上がる強さが、彼女には確かにある。
銀河ギリギリぶっちぎりのピンチの中で、ムー子はついに明鏡止水の極意に目覚めたのだ。
「見えた! 水の一滴! あれが勝利への鍵だー!」
「あ、ムー子さん突然のダッシュです! これは一体どうした事でしょう!? 家庭科室の外に出て行ってしまったー!」
「何だ何だ? 勝負を諦めたのか?」
「あの諦めの悪さと図々しさが売りのムー子さんに限って、それは無いと思うけど」
「それって売りなのか?」
戸惑う周囲の声。果たしてムー子は本当におかしくなってしまったのか?それとも……。
「おーっとぉ、ムー子さん勝負を諦めてはいなかったぁ! 手に野菜を引っ掴み執念の帰還だぁ! そしていつの間にか私の実況はキャプテン翼のようでもあるぅー!」
「太助さんの為、私は戦う!!」
帰ってきたムー子さんは猛烈な勢いでサラダを作り始めた。そう、揚げ物尽くしの弱点を補うもの、それは野菜だ。
ムー子はギリギリその事に気付き、即席でサラダを作る事を思いついたのだ。
そしていよいよ審査の時が来た。
「さー両者とも料理が出来上がったようです。まずは神田渚さんの料理から見ていきましょう」
審査員太助の前に並べられた二人の料理はオムライスと揚げ物祭り。
まずは渚の作ったオムライスの試食からだ。
「これはオムライス! 良いですね~神田渚さん男心が良く分かっているチョイスです。オーソドックスですがこれで良いのです。見た目も申し分ない」
彪が褒める通り渚のオムライスは文句のつけよう無く美味しそうだった。
整った形、丁度良い大きさ、程よいケチャップの量、美味しそうな焼き色。全てが平均点以上だ。
「一方ムー子さんの方は……おぉ? これは意外です! から揚げを筆頭に数々の揚げ物がくどい程山盛りの中、レタスとキャベツのサラダが添えられています。そして味付けにレモンのスライスまで用意されている」
「えぇ!?」
「ムー子さんがまともな料理を出してきた……だと!?」
「シャーラップ! 何をそんなに驚いているんですか? ハイスペックな女である私ならこのくらいあーたりーまえー」
普段の破天荒な言動とは裏腹に、意外とまともな料理を出して来たムー子。
見た目ははっきり言って普通だ。作り手を知らなければ恐らく渚のオムライスが勝つであろう。
「現段階では両者甲乙付け難い状況です! これは試食しなければわからなーい!」
だがこれはあくまで顔の見える真剣勝負。ムー子の普段とのギャップから来る意外性が、単なる揚げ物達を実物以上に美味しそうに見せていた。
「でも本当に意外だな。最初はどうなるかと思ったのに、案外ムー子さんって家庭的なのかも」
「う、うん……」
そしてそれは料理の評価を上げるだけに止まらない。料理の作り手本人の評価までも上げたのだった。
「くっ……」
「フフフフフ、神田さん。先程までの余裕ぶった笑顔が消えていますよ?」
会場内のオーディエンスの囁き声。それを聞いて渚の顔からみるみる余裕がなくなってゆく。
料理は女にとって重要なファクター。男を胃袋で繋ぎとめるのに大切な素養だ。
その料理で負ける事は女としてほぼ敗北を意味する……と言うのは大袈裟だが、かなり重要な勝負と言えるだろう。
「そう! 途中で自分の過ちに気付いた私はとっさの判断でこのサラダを作る事を思いついたのです! これで条件は五分と五分! いえ、意外性と言うスパイスが効いている分私の方が有利ですかねぇ~! アーーーッハッハッハッハ!」
「たっくん……」
流れを味方につけたムー子が差勝ち誇って高笑いする。
その屈辱を受けて絶体絶命の渚は、祈るように両手を合わせ太助の名を呟いた。
「さぁ太助さん! 遠慮せず食べて下さーい!(ガチャ) あれ?」
小躍りしながら華麗なステップで突き出されたムー子の手。その手に出されたのは冷たく硬い鉄のワッパだった。
「あ~君。困るんだよねー我々の目の前で野菜泥棒とか」
「え?」
いつの間にか家庭科室に入って来ていた警官がこめかみの当たりをポリポリと掻きながら言った。
「16時15分、犯人確保。犯人は年齢詐称の疑惑がある。入国管理間に問い合わせを要する」
「え? えぇ?」
ギャラリーが窓前とする中ムー子は泣きながら「つい、つい出来心だったんです」とか唐揚げを差し出しながら「これで許してんかー」とか必死で抵抗を試みている。
「言い訳は署で聞くから。な?(バタンッ)」
「あっるぇ~~~~~~~~!?」
しかしそんな物ポリスメンに通用する筈も無く、ムー子は署に連行されて行った。
「逮捕……されちゃったな」
「うん」
主人公逮捕。
物語はまさかの結末で幕を閉じたのであった。
「え~、突然ですが有楽町ムー子選手が逮捕されてしまいました。よって今回は神田渚さんの勝ちとします」
(ドゴーーーン!! ファンファンファン……)
「な、何だ今の音!?」
「ちょっと待ったーーー!!」
そんな彪のアナウンスが流れた後、校庭の方から何かの破壊音と叫び声が聞こえてきた。
全員が驚いて反射的に音の方を振り向くと、そこには校庭を家庭科室の方に向かって全力疾走するムー子の姿が。
「なっ!? む、ムー子さん!?」
「勝負はまだ付いていませんよ!? 有楽町ムー子、地獄の果てからいざ推参!」
「待てーーー!」
「公務執行妨害で逮捕だー!」
そしてその後ろにはムー子を追いかける警察官が二人。
何をしてパトカーから脱出出来たのか分からないが、警官の怒り顔から手荒な手段を用いた事は間違い無さそうだ。
とにかくムー子は罪を重ねて今再び、勝負の場に戻って来ている。
「止めて! 私に酷い事する気でしょう!? エロ同人みたいに!」
「そんな事するかー!」
「さっきだってお巡りさんが私のお尻触ったからいけないんですよ!?」
「あれは君が暴れるから――」
「猥褻警官ですぞー! みんなーここに淫行ロリコン警察官がいますぞー!」
「止めて! 今そういうの不味い時期だから止めてぇ!」
高校生にはありえない図々しさでピンチを切り抜けようとするムー子さん。
何とも酷いやり取りが続く中、刻一刻とムー子謹製揚げ物尽くしは冷め、サラダは元気無くしおれて行くのだった。
「酷い……」
「女の武器を最大限利用してやがる。ムー子さん、恐ろしい子」
もう勝負どころではない第二回戦はうやむやの内に終わり、勝負は最終第三回戦へともつれ込むのであった。
※野菜泥棒の件は後でムー子、太助、鶯谷が一週間野良仕事を手伝って許してもらいました。そしてムー子さんは指紋を採取されました(ブラックリスト入り)。
「さて、色々ありましたがいよいよ最終決戦『水着審査』! 私もこれを一番楽しみにしていました!」
『わーーー!』
『ドンドンパフパフ』
舞台は替わって体育館のステージ前。
練習中のバレー部やバスケ部に煙たがられながら、お祭り気分の一同は乗りと勢いだけでムー子対渚第三回戦を決行しようとしていた。
第三回戦は「水着対決」。つまり私美しコンテストで勝負と言うわけだが……。
「これのどこが時の運なの?」
「容姿の良し悪しは生まれた時の運なんだとさ」
「それを言っちゃあ、お終いだよ」
あぁ、無情な事を話しつつ、戦いはクライマックスへ向けてヒートアップしてゆく。
いや、別の理由でヒートアップしているのかもしれないが、とにかく男達はヒートアップしてゆくのだ。
人混みにはだんだんと「水着審査」の言葉につられて来た部活ボイコット組が参入して行き、それを咎める部活顧問は
オーガの男子にバスケゴール目掛けスラムダンクされ昏倒する。
最早この餓狼達の勢いを止める事は何人たりとも叶わぬ状況と相成りつつ、彪はここで更に火に油を注ぐべく大発表を繰り出した。
「今回は場を盛り上げる為、特別ゲストもお招きしています。皆さん遅くまで残ってて良かったですね」
『うおぉぉーーー!』
『早く見せろー!』
男子達がガッツポーズと共に騒ぎまくる。そのバカっぷりに引く女子達だったが、男子たちの熱狂はそれを軽く上回っている。
そして登場したオブザーバーは……!!
「特別ゲストはぁ~~~……じゃん! なーんと! たまたまそこら辺を歩いていたアニーたんだぁ!」
「こら彪ー! 何で私がこんなのに出なきゃいけないのよ! いい加減にしろー!」
「……(シーーーン)」
「会場が外人コラみたいになってる!?」
「そんなにガッカリだったのか」
会場はいっきにお通夜ムードに早変わりした。さすが災厄乙女である(違う)。
「それでは早速行ってみましょー! 一人目はぁ~~~……じゃん! THE・大和撫子! 神田渚ちゃんだぁー!」
『うおおおぉー!!』
だがそんなムードに屈する彪ではない。会場の空気を一気に盛り上げる本命をいきなり登場させた。
再び盛り上がる男子達。
会場に熱気が戻り再び気を取り直した彪は、嬉々としてファッションチェックを開始するのだった。
「これは以外にも神田さんビキニで攻めて来ました! しかしパレオの着用と胸元を隠したデザインのお陰でお淑やかさを失っていません! これは良いですね~実にけしからん! たまりませんなぁ」
「は、恥ずかしいです……」
モジモジと恥ずかしそうに舞台に立つ渚の姿に、日本男児は勿論、亜人男児までもがその恥じらいにキュンと心を掴まれた。
これは序盤からいきなり高得点確実だ。それを見て当の太助はと言うと。
「渚のお嬢様、って感じだな。どうよ太助?」
「う、うん。可愛いと思う」
結構好印象だ。
これはツルンペタンストーンのムー子は苦戦は避けられないだろう。
そもそも戦う前にも「敵う所がない」と不安を漏らしていたムー子だ。舞台袖でこの歓声を聞いて、一体何を思う事か。
「さぁ次はお待ちかねアニーたんの登場だ! 皆さん盛大な拍手で迎えてあげて下さい!」
「こら引っ張るな! 何で私がこんな格好――ちょ! こらー!(ザワッ)」
そんな中、彪が次に引っ張り出してきた人物は先程会場を氷り付かせた災厄乙女、アニー・デルタ・クリストファーその人だった。
嫌がるアニーを無理やり舞台に引っ張り出した彪は、アニーのタオルを剥ぎ取りその死体、違った肢体を衆人環視の元に曝け出す。
果たしてアニーが身に纏った水着とは?
「なななな、な~~~んと! アニーたんはスクール水着での登場だぁー! 勿論私が用意しました! ビューティフォー!!」
「何で私がこんな格好……こらっ! 男子達ジロジロ見るな! 別にお前等の為にこんな格好したんじゃないんだからな!」
「ナイスツンデレー! これはもう個人的に百点くらいあげたい! アニーたんでした~」
本人は無自覚のままナイスツンデレ発言で今度はちゃんと会場を沸かせるアニー。
背中の三本目の腕が邪魔で、水着が変に引っ張られ前がスク水に有るまじき食い込みを見せる中、アニーは舞台袖に下がっていった。
そして出番は遂にムー子の番に。
「こりゃムー子さんハードル上がっちゃったなぁ。ただでさえ水着映えしない体格なのにさ」
「う、うん」
「もう一部のマニアを狙ったスク水は二番煎じだし、こりゃ打つ手なしかもな。ま、でもこれで良いんだろ? 太助」
「それは……」
太助が何とも言えない複雑な表情を見せる。
ムー子はいつも一方的に太助に迫っている。その想いは一方通行だと思っていた。そう、太助自身さえも。
最初は本当に迷惑なだけだった。破天荒で年齢詐称で、ロリ体系でいつも騒動ばかり起こすトラブルメーカー。
だがその想いだけはいつも真っ直ぐで嘘偽りのない真実の……。
ざわっ……
「あ!? あぁ!!??」
ムー子の登場で会場は今までにないざわつき方を見せる。
果たして清楚なフリフリワンピース水着、フロント食い込みスクール水着、それらを越える水着が来たのだろうか?
「それはいけな~~~~~い! 反則行為ギリギリです! 乙女の貞操ピンチです! まさかここまでするとは誰が予想できようか!」
それは水着と言うにはあまりにも小さすぎた。小さく、狭く、細く、そして大雑把すぎた。それはまさに布切れだった。
「ムー子さんまさかのブラジル水着だー! だがこれは悲しいかな、明らかに勇気ではなく蛮勇!! 必死ではなく決死すぎるー!」
「すげーはすげーけど、これ一体誰得なんだろうな」
(太助さん……これが私の精一杯です。私、太助さんの為ならどんな恥ずかしい事だって、どんな辛い事だって出来ます。だからお願いです。どうか私を選んで下さい。太助さん)
「ムー子……さん」
ムー子はこの戦いに己の全てを賭けていた。
勝利、つまり太助を得る為ならば、どんな目にあっても良いとさえ考えていた。その結果がこの水着だ。
最早、並の水着では前の二人に太刀打ち出来ない。捨て身の戦法に出るしかなかったのだ。だがそれでも尚、戦況は苦しいと言わざるを得ない。
ムー子は両手を胸の前で握り合わせ、ただ祈るしかなかった。
「それではこれより、水着審査の投票に入りたいと思います。会場の皆さんはそれぞれ良いと思った方の前に並び、列を作って下さい」
ザワザワ
三人の前に作られて行くギャラリーの投票と言う名の行列。男子は殆どが渚に並び、一部のマニアはアニーに並んだ。女子も大半は一番可愛い水着を来た渚の列に加わった。
だがムー子の前にはわずか数名の男子しか居ない。ブラジル水着は女子から反感を買い票を得られなかったのだ。
「皆さん良いですか? これで変更はありませんか? それでは――あれ?」
ムー子はギュッと目を閉じたまま祈った。
人気なんかいらない。票なんかいらない。ただ太助一人に選ばれたいと。そう、ただ太助だけに。
「御徒町太助さん、どうしたんですか? 早く並んで下さい」
「ぼ、僕は……」
太助はまだ列に並んでいなかった。
それは太助が一緒に居る内に、知らず知らずの間にムー子の気持ちが分かるようになっていたからだ。
ムー子は自分の裸体を太助以外の誰にも見せたくなど無い。だが太助の為ならばムー子は何でも出来る。それが分かっていたからだ。
「太助さん! 私、太助さんの為なら何だって出来ます! だから私を、私を……!」
「たっくん……」
ムー子と渚が共に祈るように目を瞑る。太助は果たしてどちらを選ぶのか?
万人が選ぶ美少女の渚か、思いだけの暴走乙女ムー子か。太助が選ぶのは……。
「大好きです」
「……ムー子さん」
その瞬間、勝負が決した。
「決まったーーーーーーーーー!!!! 一番人気は神田渚さん!! でも御徒町太助に選ばれたのは有楽町ムー子さんだったぁ!! よって勝者はムー子さんに決定ーーー!!」
「そ、そんな……どうして、なんでやの」
その結果に戸惑ったのは渚だった。
ギャラリー達による胴上げで勝利の祝福を受けるムー子。その傍らで渚は勝負の結果に納得できず、彪に詰め寄るのだった。
「嘘や! うちが負けたなんて、あんなチンチクリンにうちが……うちが……こんなん嘘や!」
「え? 喋り方が」
渚の豹変した態度に彪は目を白黒させる。態度だけではない。しゃべり方まで変わっている。
その変化に慣れる前に、渚は彪を放して太助の下に駆けて行った。
「太助はん! もう一度、もう一度選びなおしておくれやす! こんなんうち、納得いきまへん!」
「あ! 渚さん戻って下さい! 場外乱闘は禁止ですよ!? 神田渚さん!」
ムー子を選んだ太助に選び直しを要求する渚。その姿に先程までの清楚でしおらしい乙女らしさはない。
渚はずっと猫を被っていたのだ。
その様子を見つけたムー子は胴上げから降り、盗人猛々しい渚を太助から引っぺがしにかかった。
「見苦しいですよこの猫かぶり人魚! 京都弁なんてあざとい属性でルール無視するんじゃねーです!」
「うち、太助はんの為やったら何でもします! だからうちを、うちを――」
「離れやがれですよーーー!!」
水着を着たまま揉み合う二人の少女。その姿はもう何か色々はみ出そうでハラハラドキドキするばかりだ。
髪を引っ張り水着を引っ張り、結局キャットファイトになってしまった二人の戦いを留められる者はいない。
そんな時、体格で勝る渚がムー子を突き飛ばし太助に抱きつこうと走った。
「うちをお嫁さんにしてーーー!」
しかしその瞬間、ムー子の執念が渚の水着を掴み、そして渚は水着がはだけあるモノが露になった。
『……っ!? え?????』
それは太助が、いや、男なら誰もが普段見慣れた、珍しい棒だった。
「……あ」
地面にポトリと落ちた半球状の物体は、渚の胸元から小ぶりだが豊かな膨らみを消失させている。
「いやん❤」
平らな胸と出っ張った下半身を隠し、渚がマイッチングのポーズをとった。
『ええぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??』
その日会場の、いや、体育館の全員が知る事となった真実。
実は神田渚は男の娘だった。
「はいっ、太助はん。あーーーん」
「汚らわしい手で触るんじゃねーですよ! この変態オカマ人魚!」
「オカマ違います。たまたま体が男だっただけどす」
「そう言うのを世間じゃオカマと呼ぶんですよ! 翻訳精霊ちゃんと働いてますか!?」
「嫌やわぁ、もっと可愛らしく男の娘って呼んでぇ」
「呼ぶかボケー!」
翌日、昼休みのランチタイムに屋上で太助を挟みケンカするノームと人魚が居た。
片や嵐を呼ぶ暴走乙女、有楽町ムー子。片や女より可愛い乙女系男子、神田渚。
「二人ともケンカしないで! お弁当が、お弁当がこぼれちゃ アッ――!」
変わった二人に好かれた少年、御徒町太助の日々は終わらない。
彼とその仲間達が愛した、このタフで楽しい日々は……。
「何だかなぁ? 何だかねぇ?」
それを見て太助の親友、鶯谷信一郎は、ままならない日々に問いかけるのだった。
――終わり――
[但し書き]
今回もアニーさんと彪さんを登場させて頂きました。
お二人の話中での扱いに関して問題等ございましたら修正致しますので、スレやコメントでご指摘下さい。
- まさに異世界交流世界における夢と言えるような青春ですね。いい具合にツボを突いてくる笑いの連続ににやけっぱなしでした。冒頭の甘酸っぱさがスイカに塩みたいに効いています -- (名無しさん) 2017-02-12 20:27:22
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最終更新:2013年08月17日 23:29