「イスティって、なんか企んでるキャラでしょ?」
大延国の宿場町。
賑わう界隈で特に人が集まる酒店は、酔っ払いの喧騒に包まれていた。
ヤマダはウエイトレスとしてテーブルを渡り歩く狐人のチャイナドレスのスリットを、3Dカメラで撮影しながらイスティに問いかけた。
「……キミの言動に齟齬があるせいで、私もリアクションに困るさ」
そう言って、イスティは激しく酢豚を咀嚼する。
急になんて人物評価をするのさ。と聊かご立腹の様子だが、目の前の食事を優先していた。
「あと腹ペコキャラも併発してるよね」
「あぐあぐあがぐぐあぐあぐ……うンガググッ! ……なんの話しさ。ていうか、カメラ向けないで」
カメラを構えるヤマダは、まるで真っ当な記者らしい顔付きで別人のようだ。
その真摯な眼差しをカメラ越しで受け、イスティは居住まいを直す。ヤマダはイスティの口元に付いた酢豚の甘酢あんをナプキンで拭ってやると再びカメラを構えた。
「何故、
ゲートが開いたのか? いやさ、何故ゲートを開いたのか? 俺たち地球人と仲良くするため? 人的資源を得るため? 侵略のため? 文化交流のため?」
ヤマダの声に抑揚はない。誰かの意見を口にしてるだけのようだ。
冷めつつある酢豚に気を取られながらも、腹ペコキャラといわれる事が業腹なので視線をヤマダに……3Dカメラのレンズへ向けた。
「僕はそうは思わない。ゲートを開く神に限らず、往々にして神様ってのは労を厭うモノだ。神話にしても、異世界の神にしても。なのに、わざわざゲートを開いた。そりゃゲートが開いたら、地球の国家や経済界は上を下へに大騒ぎだ。僕らは戸惑いながらも、異世界に何かを求めた。まずは外交だ。中国は特に熱心だった。いったい何人の人を送り込んだんだろうね。それを精査するゲートの神様はさぞ大変だろう。それとも何人通ろうと大した手間じゃないのかな?」
イスティは何も答えない。
あえて言うならば、今はヤマダのターンだ。ずっとヤマダのターンにさせないためにも、イスティは一切のリアクションを取らない。
例え酢豚が冷めようとも……。おのれ、ヤマダ。静かに食わせろ! などと露とも思わせない。
「そしてこんな噂が広まる。ゲートを潜ることに躊躇する者や、異世界を不安を抱きつつも興味を持つ者たちの背を押す赤い傘を赤い服の少女」
イスティはカメラに映る自分を想像した。いったいどんな顔を自分はしているのだろう。
「どうしても通って欲しい。むしろ地球人が通る事、そのものが目的」
なるほどとイスティは頷く。
それならば怠惰な神たちが、力を使ってゲートを開き七面倒な審査で人を振り分けるのに一定の説明が付く。
「じゃあさ。他にもっと壮大な目的とかあったら?」
肩の力抜き、イスティは座りなおして足を組み替えた。
イスティの仮説に、ヤマダはカメラをズームにして答える。
「そんなに壮大なら僕の頭が及ぶところじゃない。いや、きっとそうなんだろう。だからこそ、異世界であり異文化なんだろう」
堅苦しい話はヤマダに似合わない。イスティも退屈するのか、足をぶらぶらさせながら店外に視線を向ける。
窓の外に広がる大延国は栄えている。他国との交易だけで十分やっていけるだろう。地球の国家が何をしようと、さほど大きな影響を与えない。
ミズハミシマやオルニト、
イストモスなどは事情は違うが、地球とゲートが繋がっていようと関係はない。それだけで十分に存在できる。
もっぱら、この世界に興味を示しているのは地球側だ。その地球がゲートを開いたのならば、誰もが納得できるだろう。
だが、そうではないからヤマダは疑問を抱く。
利に聡く、実を取る中国はそんな疑問は無意味だとするだろう。だから、大延国だけでなく
ドニー・ドニーや
エリスタリアに熱烈な外交を打診している。
ヤマダは実や利だけで気が済まない。ある意味貪欲でありながら、実利を逃しても構わない生き方。
イスティはそう人物評価を改めた。
「イスティ。君って謎キャラだよね?」
「……そうさ。乙女の秘密はいつも魅惑的で危険なのさ。だから、ヤマダはいつものヤマダに戻った方がいい」
イスティの真面目モードは長く続かない。結局、子供なのだ。
ぐんと身体を伸ばして、両手両足を大きく広げた。食事の場ではしたないが、とても彼女らしい仕草だ。
カメラを仕舞い始めでいつものお気楽笑顔で鼻歌を歌い始めたヤマダを尻目に、イスティは食事を再開した。
少し冷めてしまった酢豚に不満そうだが、空腹には勝てないのか箸は順調に進んでいる。
そしてヤマダも順調であった。
もっともらしい話をして注意を引き、目の前の3Dカメラという囮を使い、テーブル下の高感度カメラでイスティのスカート内部を撮影していたのだ。
今日は赤だな、と戦果確認しつつ、ヤマダはデータに暗号かけて保存した。もちろん、メディアの分散とその都度行う偽装も忘れない。
あえて言おう! ヤマダは最低である!
順調にヤマダのイスティフォルダは増えている。
きっと取材データより多いに違いない。
魅惑のフォルダは、ゲートや異世界などより壮大で重要で深淵なのだ!
- 人でも個々によって異世界と地球が繋がったことに対する考えは千差万別なんでしょうね。ヤマダのように今を満喫できるのは一つの才能なのかもと思いました。イスティはミステリアスそうで見た目通りの少女のような仕草がなんとも可愛らしいですね -- (名無しさん) 2013-03-26 19:52:56
-
最終更新:2011年10月17日 12:22