【異世界の船】

朝風と共に帆船が列を作り、昼の波に乗ってやってくる船は精霊使いが船首に立ち、夜には闇の訪れを待ち望んでいたスラヴィア船がゆらり揺れてやってくる。
ラ・ムールの双頭貿易都市には一日中船の往来が絶えない。
朝陽の訪れの前に海中へ去った潜水運搬船を見送った後、商人は海産物の漬物樽を勘定する。
鮫人商人と猫人商人が握手を交わすと、双方の荷が入れ替わる。
「これカらどチらヘ?」
ミズハミシマで3、クルスベルグで2、イストモスで1。残りは全部ドニーに卸すにゃ。
地球から入ってきた醸造法と酒のおかげでクルスベルグで需要が生まれたんだにゃ」
「イストモスで海産は長ラく扱イが難しカったですナ」
「海が遠いせいか食わず嫌いが多かったからにゃー。 酒のある国ではこういう漬物は絶対売れるにゃ」
地球と繋がったことで異世界の物流、需要と供給に変化が起き始めて十余年。
海の往来は確実に増え、規模が大きくなっている。
「サバーニャさん、荷は全部積み終わったよ。いつでも出発できるがどうすンだい?」
軽めの海賊様相で巨体、オーク女性にして海運事業で時代の先頭を進む船団長が現れた。
「時はカネだが慌てる何とかはもらいが少なくなるにゃー。
船員達に一時の休憩を。その後に出発するにゃー」
「ふゥむ。オーク海賊団の船舶ハ大規模なもノばかリですナ」

 一糸乱れぬ連携と持ち前の体力のオークが漕ぎ手に、過去ドニーに伝来したという大太鼓が叩き出すリズムが特徴の人精一体の船
 ここぞという場面の推進力は群を抜いており、荒ぶる波も嵐も一気に抜けることで商人からの信頼も厚い

「ヴさんは大きな船を持ちませんのにゃ?」
「そうイう商売に携わレば使いマしょうが、手持ちニしテおくにハ中々難しイのデね」
多くを運びたいが多くの船を維持する、持つにはまだ難しい異世界において
世界交流時代に入り荒ぶる海賊から能力ある海運に乗り換えたドニー海賊団はそれらの需要を引き受けている。
「海を進ムのでアれバ、海獣は良イですゾ。 陸と違っテ食料の用意モ簡単で」
鮫人の後ろ、港に浮かぶ船の前で砂漠の果実を食んでいる海馬が三頭。

 異世界で数多種のいる海の生物。 それらを使い船を牽かせる海獣牽引式船舶
 人員を省略し荷を増やす。長所が目立つが、それ以上に船を牽くことのできる獣とそれを操ることの難しさは更に大きい

多くの往来がある港において、出航入港は大事であり遵守しなければならない順序である。
商人達は安息する間も短く次の目的地を目指していくのである。
しかし、そんな順序を抜いて行く例外も存在する。
「おや?王宮船とは珍しいですにゃー」
「あレは王宮直属の伝令船… そレが外に出ルといウことハ、国で何カ大事が起こっタのカも知れまセんナ」
「国の王様がお腹でも壊したのかにゃー」
港にいる全ての船が間を開け見守る中で何処からとも無く風が吹き、波は恭しく豪華な船を湛え運ぶ。

 異世界の自然を形成する中で大きな位置を占める精霊。 それらを使役して航行するのが精霊船である
 風を吹かせ波を立たせ進めば、障害となる悪天候も鎮めてしまう
 しかし、順調な航行のために不安定不確かな精霊を多く使役するのは、その道に長けた者か繋がる者でなければ難しい

「あれだけ精霊を扱えるのなら海の道から離れても無茶ができそうだにゃー」
「それハどうデしょうカね。道から外レた海域ハ精霊も嫌ウと聞きマすが」
王宮船が港を離れると、船の往来が元に戻る。 しかし、王宮船が精霊を引き連れていったため、風も波も穏やかになっていた。
「ではそろそろ出発するにゃー。 オークの皆さん頼みますにゃー」
「では私モ。 スラヴィアに寄っテ新しく作ラれた遊興品デも調ベて行キますカな」
「「それではまた、世界の海の何処かで」」

異世界の海は今尚広がり進化を続ける躍進の舞台。
明日、港を発つ船は見たことのない船かも知れない。

異世界の航路を想像

  • 海広いし移動するために船が発展するよね異世界 -- (名無しさん) 2014-05-27 17:51:41
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最終更新:2014年05月25日 16:15
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