「イスガっちイスガっちーあっちで河泳ぎ大会やってるよーぅ!行こう行こうー」
「面白そうですね。泳ぎであれば私も頑張っちゃいます」
「ちょっ、ちょっと二人とも二人とも…!」
ラ・ムール流れる豊かさの象徴でもある大運河のほとりを水着で走るやたら元気な
エルフの少女。
それに並走、いや並泳するケルピーの水着少女。
二人の後ろをどたどたと走って追いかける大柄な、
オーガの水着青年。
私はエルコ、
エリスタリアからの留学生ウミノ=エルコ。新聞部所属だよーぅ。
大
ゲート祭にかこつけて「取材旅行に行くよぅ!」と言えばポンと旅費がおりるなんて太っ腹な部、学園!
もちろん取材はきっちりするよぅ!町で仕入れた「異種族レスラーがラ・ムールで巡業?その後ろに女性の影あり!」という面白いネタ!
隠れようとしても隠れきれない巨体のレスラーの後を追うなんて朝飯前のケンミジンコ!ばっちり香辛都市カーラーでの興業を取材したのだ!
写真は光精霊が寄ってきちゃったから使えそうなのは数枚だけど…リングサイドからの黄色い声援で奮起したハタモトが
オチ・ムシャです
そうオチ・ムシャがピンチをひっくり返してのタイガー仮面から大逆転フォールをもぎ取ったのはズバっと撮れたからオッケーノルマ達成!
後はラ・ムール観光でもって思ってたけどオチ・ムシャと一緒の女性が同じ学園に通うイスガっちだと分かってこれはもう追っかけ取材するしかないよねってこと!
最初から知っていたんでしょう?
てへぺろ!その後二人はカレーコンテストに出場したんだけどまさかの火を使わず食材を調理する水カレーが思いのほか審査員に受けたもんだから結果発表まで滞在しようってなったのよね。
合わせて私も二人と一緒にラ・ムールを堪能しているってことよーぅ。
「ところでさ、オチ・ムシャってスラヴィアンだよね?こんな真昼間で太陽神のお膝下を走り回っているけど…大丈夫なん?大丈夫なんだけど実際」
「それはですねエルコさん…“キン肉マングレート方式”というものなのですね!」
突如目を輝かすケルピーのイスガ嬢にエルコも一瞬ビクっとたじろぐ。
「要は太陽神の輝きを身に受けなければいいわけで、それなら全身に光を防ぐ素材を着込めばいいということです。見た目も大きく変わって正体も隠せて一石二鳥なのですね」
「かっ、解説ありがとう…ありっがとう。二人とも速い」
この場合、水を得た何と例えればいいのか、暑く強烈な日差しの土地では水が絡んだ水棲種族などは元気になるのは必然である。
「おー。河の向こうに誰が一番に泳ぎ着くかだって!よっし競争しよう競争だよイスガっち」
「エルコさんは新聞部ですけど水泳の授業ではクラスで一番なんですよね。望むところですよ」
「ふ、二人とも燃えている…よぉし自分も!」
神聖とされる大運河での大会で優勝すれば御利益もあらたかであると他の参加者も気合い十分。
見ればラ・ムールで多い猫人以外にも鱗人や鳥人なども見受けられる。蟲人なども手強そうである。
「それでは皆さん!用ー意!さん!にー!いち!…スタートぉ!!」
合図に合わせて一斉に河へと飛び込む参加者達。
高速の猫かきで飛沫をあげる猫人の下を身をうねらせて潜水する鱗人。蟲人や鳥人など水面を走っている者すらいる。
しかし、そんなことなど全く以て問題では無かった。
合図の前に二人はありったけの水精霊を集め、河幅百メトル越の向こうまでの勝利の道が形成されていた。
合図と共に精霊達はありったけの力で彼女達を押し運ぶのだ。回る腕、振れる鰭は水の勢いを指揮するタクト。
瞬間巻き上がる大量の波は爆発四散。全ての参加者の眼前をあっという間に突き進んだ二人は ───
「「ゴール!」」
イスガ嬢、一秒半
エルコ嬢、二秒
「うわー!負けちゃったよーぅ!」
「エルコさんも速かったですよ?私、思わず火事場の何とやらを発揮しちゃいました」
そこから遅れて数秒後に続々と後陣が到着してくる。
「?オチ・ムシャさん、遅いですね」
「あっあそこだよーぅ!」
エルコが指す河の真ん中で醜い河馬の子の様に暴れもがき下流へと流されていくオチ・ムシャ。
「そういえばラ・ムールの水精霊って太陽神の影響を受けちゃってるのが多くてさ、スラヴィアン何かが泳ぐと屍の魂があるべき場所へ押し流されるんだってさ」
「そういうことは先に言って下さいません?!」
慌ててオチ・ムシャへと泳ぐイスガであったが予想以上に流れは速く、水精霊の信心深さを思い知るのであった。
結局双頭貿易都市付近まで流されたところで無事回収されたオチ・ムシャは借りてきた仏像の様に動かずぐったりしており、砂竜客車にてカーラーまで戻る二人であった。
「水の中だと私が勝っちゃうかも知れませんね?ふふふ」
スレで登場していた新聞部の海エルフちゃんを勝手に命名してしまいました
- 水棲の人魚や鱗人にも勝ってしまうのか…精霊の力恐るべし! -- (名無しさん) 2016-08-28 14:17:06
- 身体能力<水を操作する力なのだろう水中。イスガとエルコの勝敗を分けたのは胸につけているバラストの大きさの違いだったのか…な? -- (名無しさん) 2016-08-28 17:36:54
- 流されるオチムシャが似合い過ぎて吹く。イスガさんは清楚お茶目? -- (名無しさん) 2016-08-28 19:11:48
- 普通に話がすすんでるけどイスガさんはどんな経緯でオチムシャの興業に同行したんだろ??スクープじゃないですか -- (名無しさん) 2016-09-01 21:23:43
- 大きな乗り物となると科学や機械化が進んでいる地球が上なんだろうけど個々の人レベルなら移動とか精霊を扱える異世界の方が速いんだろうか -- (名無しさん) 2016-12-19 09:05:11
最終更新:2016年08月28日 01:21