「屋敷でクリスマスパーティーをするんだ!」
モルテがそう騒ぎ出したのが12月の20日
「わくわくして起きたのに雪が降ってないじゃないか!?」
モルテが寝起きで騒ぎ出したのが12月の24日
「おかしい…ホワイトクリスマスってのを楽しもうと根回ししたはずなのに一粒も雪が降っていないなんて!」
と言っても飾りや食事や何だのを用意したのは屋敷の召使達で、モルテは実現し辛い指示を出していただけである。
「どうしたのですかモルテ。日付が変わった頃に起きたと思ったら大騒ぎして」
「サミュラ!雪が降ってないんだよ!クリスマスがホワイトじゃないんだよ!」
「雪にも都合があるのでしょう?」
「空にも【冬】の気配はありませんな。時期通り今頃は
新天地辺りを飛んでいるのでしょう」
モルテの晩餐の招待を受けた中でも真っ先に到着していた審議侯が相槌を打つ。 確かに今の時期に寒波降雪を促す精霊団【冬】は
スラヴィア上空にはいない。
「私はサミュラ様がいらっしゃるというだけで満足至極でございます。ところでモルテ様の根回しというのは精霊に願いなどをして回ったなどでしょうか?」
平時より一層荘厳華麗なそれでいて邪魔にならないまとまりという絶妙なバランスは組み合わせと装飾に半日をかけたというレシエ卿。
異世界では天気予約というほど大層なものではないが、それなりに多くの大きな精霊と約束を交わせば臨む天候がやってくるのだが。
「三か四カ月前に湖の水精霊に言ったっけなー。12月24日から雪ドバーって降らせるんだぞ!って」
「全くモルテはもぅ…」
「相変わらずですな」
「本当に言っただけで終わっているのですね。降るはずもないでしょう」
三連続の溜め息に流石のモルテも少しばかり狼狽える。そもそも己の願いを精霊が聞き入れたことがあっただろうか?と思い起こす。無い。全くありません。
「がっでむ!」
悪戯大王禍々邪神と恐れ煙たがれるモルテの本気で地に落ち込む姿は貴重である。
「ふぅ…今からでも間に合いますでしょうか?雪となると水、闇、あと風精霊にも協力を取り付けなければいけませんが」
「都周囲の湖にいた多くの水精霊は先日南の商業港に風精霊と出掛けたと聞きましたな。何でも年末巡業で地球からプロレス団体がやってきているを見学に、と」
「私の領内のイベントですわ。
ミズハミシマの闘士【潮流・力】などを交えて大々的に開催されるとか何とか」
「そうですか…なら無理に引き返してもらうのも悪いですね。もう夜まで間に合わせるのは難しいですね、どうしましょう」
夜までもう半日もなく、大気中の水分を上空にて雪に精製するだけの精霊を集めるにはかなり難しい。
それでも珍しく哀れな子羊の様にぷるぷる震えるモルテに何かしてあげたいと思うサミュラは悩まし気な面持ち。
「強き力を持つスラヴィアンは精霊との関りが他種より薄い面がありますからなぁ。こういう時はその力が逆に恨めしいですな」
一同溜め息と思案にふけるがどうにも良い案が浮かばず八方塞がりである。
「モルテ、今年は諦めて来年から頑張って ───
古代ミイラの如くうずく丸くなるモルテに手を伸ばそうとしたサミュラ。そのスカートの下が突如蠢き出す。
蝋燭の光が作る影へサミュラのスカートの中から大量の【黒】が流れ込むのだ。
とめどなく流れる黒はやがて盛り上がり大きな体躯を形成する。サミュラの影と繋がったままに巨大な丸岩が出来上がった。
それはさざめく毛並み溢れる球体に四対八本の腕と太く短い脚の生えた漆黒のムークの影。影故に目も口も何もないシルエット。
「あら、闇さんがムークになってしまいました」
「むぅ…只ならぬ雰囲気を感じますな。これも闇がかつて影ごと取り込んだ者なのでしょうか」
「しかし何故ムークなのでしょう?」
どすんどすん。本来質量などないはずの影だが窓際へ進む足の動きには確かに重量を感じる。
屋敷の大窓までたどり着いたムークの影はおもむろにそれを開き夕闇訪れようとする赤い空へ向かって全ての腕を伸ばす。
ボォオエェエアァアアーーーーーーーーーーー
大気どころか屋敷全体が震える咆哮。しかしそれは耳を劈くことなく通りの良い風の音の様に体を透き通り空へと舞い上がっていく。
一しきり吼え終えたのか、ムークの影は腕を下す。するとたちまち空模様が灰色へと変化するのだ。
灰色の空は凍える大気で蓋をしたかの如くあっという間に零下へと冷え込み吐息を結晶と化す。
「信じられませんが、【冬】がやってきましたな?!」
スラヴィアの空を激しくうねり飛ぶ水と闇と風の精霊団。季節をもたらす彼らの不意の登場にスラヴィア全土にどよめきが起こった。
程なくして空よりひらひらと雪が舞い落ちだす。それはすぐに吹雪となり一面を白へと変えたのだ。
かつて異世界に人もまばらで国もなかった頃、それは己の多腕で波を掻き分け崖を登りありとあらゆる場所を巡った
高き山の頂にてそれが吼えると何処からともなく精霊が集まり雪を降らせ白い傘をかぶせた
遠き海の孤島でそれが吼えると立ちどころに雪が海に凍土を生み出した
それは異世界の白き場所を決めた者
ともすれば神よりも古き存在
命尽きるまで異世界に白の色どりを与えたそれは最後を迎えた後に影に飲み込まれたという
「何か知らないけどホワイトなクリスマスだ!やった!」
「良かったですね。闇さんに感謝しないといけませんね」
「ふ、ふんっ!中々やるじゃないか!」
精一杯のモルテの謝辞に小さくなった不定形はサミュラのスカートの下でふんぞり返ってみせる。
「しかしこれは些か過度ではありませんかな?既に窓の下まで雪が積もってますな」
「何やら面白いことになっておる」
「サミュラ様、お招きいただきありがとうございます!急に雪が降ってきて地下迷宮の入り口が埋まって大変でした驚きました」
「…」
髑髏王に続き監獄姫、岩窟王と到着する。三人ともその身にたっぷり雪を積もらせていた。
「よーし人数も集まってきたことだし雪合戦といこうじゃないか!石入れるんじゃないぞ?入れるなよ?」
吹雪く庭に躍り出たモルテは上機嫌でマッハに雪玉を作り出していた。
「一件落着、ということでいいのでしょうか?ところでクリスマスに雪合戦というのはどうなのでしょうか」
危うく負の情念を暴走しかけたモルテであったがスカートの闇のおかげで事なきを得る。
スラヴィアの若干おかしげなクリスマスは賑やかに過ぎていくのだった。
時季外れのクリスマスinスラヴィア
- モルテって嫌われてるって分かっても次の日になったら忘れてるタイプだよね -- (名無しさん) 2017-01-22 15:38:56
- 異世界創生からいる神って少ない?異世界の大地を創った存在は面白そう -- (名無しさん) 2017-01-22 18:17:48
- 気象に関しては異世界の方地球より便利というか融通が利くのね -- (名無しさん) 2017-01-23 18:09:49
- 夜限定かはわからないけどサミュラに対してはとても便利な闇精霊だ -- (名無しさん) 2017-01-26 08:15:26
最終更新:2017年01月21日 23:10