大
ゲートが開き異世界交流が始まってから長距離の船便も増えたので便利になったものだ
ミズハミシマの港で船を探すのに手伝ってくれた恰幅のいい和装の鮫人は感慨深く語った。
商船と客船で航路が賑わいだしたがまぁぶつかつほどではないし、海上の治安もよくなってきたと珊瑚のパイプをくゆらせて笑ったのが印象に残った。
今、自分はミズハミシマの港から
オルニトまでを直で結ぶ船便の上で揺られている。
折角の異世界、船室にいるのも勿体ないと甲板で海を眺める。地球と同じで青い海。
ただ、時折吹き抜ける潮風の中から話声が聞こえるのと海上で起伏する波がにゅっと手を振るように隆起するのを見ると「やはり異世界」というのを実感する。
船首に胡坐を組み貝笛を奏でる空読み士のおかげか、時化にも大雨にも見舞われず航海は順調である。
海中料理と海底料理の違いが分かり食べなれてきた頃、オルニトの山脈が水平線に現れた。
何てことはない「いち人間」である自分が異世界のそれもオルニトなどに来ることになろうとは ───
勤めていた支店が取り潰しになったことでなし崩しに会社都合で解雇となった
高校卒業からそのまま就職し働くこと七年余、まさかのお暇に最初は戸惑ったが再出発のためにと補助の出る資格や免許を修得する日々であった。
思えば多少仕事ができるようになったと調子に乗っていたのもいけなかったのではと自分を省みることも覚えた社会人に親戚から突然の相談を持ち掛けられた我が家。
「叔父さんも会社が倒産して再就職先を探していたんだけど何を思ったか異世界で冒険者になると言って飛び出したんだって。
奥さんは看護師だから家計は大丈夫みたいなのだけれど、すぐ帰って来ると思ってたのが一週間二週間と帰ってこなくて遂に一か月経っちゃって。
流石に警察に行ったら個人責任の範疇と言われてねぇ、今はまだ異世界での行方不明者の捜索も中々難しいみたい。
ねぇ、あんたまだ失業保険期間残っているんだし旅行がてら異世界で叔父さんを探しに行って欲しいのよ。直接会わなくても帰ってきてと言付けとか頼むだけでもいいし」
実家暮らしの弱味と言いますか、親に頼まれたら仕方がないというのが半分と修学旅行以来行ってない異世界への興味が半分でとんとんと異世界行きの準備が進んだ。
人探しで動き回るであろう前提なのでツアーではなく自己責任の個人旅行ということになった。
渡航(タコ)フェリーにて淡路沖に現れる三面鳥居のゲートを越えて異世界に入る。ミズハミシマの港町へは思いの外スムーズに到着した。
事前にネットで調べてあった冒険者ギルド・ミズハミシマ港町支部へと向かう。
異世界交流が進む昨今、異世界で新たな生活を始めようとする動きも大きくなる一方でそれらに関する情報も広まっている。
実際に異世界で生活し活動して戻ってきた人達の声も多く、それを見てから異世界に渡る人も多いのだという。
異世界で冒険者となり様々な土地で活動する
そんな誰もが一度は夢見ることが異世界では立派な職業として確立しているのだ。
冒険者ギルドにて登録をするという至極簡単な手続きによりなれてしまう冒険者に、その世界に叔父は飛び込んでいったのだろう。
「冒険者は増える一方だけどその分厄介ごとや事故も増えたのだわ。とりあえず身元証明はきっちりしておくのがギルドの方針なのだわ」
受付で応対してくれた
ゴブリンの女性はせわしなく喋るのだが要点は漏らさずこちらの質問には答えてくれる親切だ。
冒険者同士であれば情報の公開も多少は融通が利くと言われ自分も言われるまま幾つかの書類に記載し晴れて冒険者となったのである。
「冒険者になった親戚を探している?ミズハミシマで冒険者登録をしたというのならすぐに分かるのだわ」
クルスベルグ謹製のルーン板に叔父の名前を言うやすぐに光が分厚い名簿帳の中へと走査していく。
程なくしてぺらりと名簿が開くとそこには叔父の名前が記載されていた。
「その登録番号なら…先月依頼を受けてオルニトに向かったのだわ」
「オルニト?」
「そうオルニト。初心者向けの依頼、と言うよりもまだそんなに冒険者の集まっていないオルニトだから依頼は山ほどあるのだわ選び放題。
その中の一つを受けてその冒険者はオルニトに向かったのだわ、船で」
体育会系の部活で慣らし大学では登山部だった叔父。新しい物好きで活発な性格だというのは知っているが、まさかここまでとは想像外であった。
未だ未開の地が多く空には過去の遺産が浮かぶという国オルニト。叔父も何かしらピンと感じるものがあったのだろうか。
何は無くともオルニトの港に無事到着する。
冒険者ギルドのオルニト港町支部へと向かう。
ミズハミシマと比べると人通りは少ないが石造りや藁造りや丸太小屋だと建物のバラエティ豊かなのが目を引く。
そう多くないが店が集まっている一画にギルド支部はあった。とりあえず建てました感のある小さな平屋だ。
「すみません、お邪魔します」
見た目よりずっと軽い扉を押し開けるとそこにはロビーとカウンターとその向こうでこちらをじっと見つめる翼持つ人影二つ。
「しぶちょーお客さんですよ」鶏冠のように髪をまとめ上げたハーピーが翼を振る。
「いえ、冒険者ですね。私には分かります」白黒の毛並みも鮮やかな燕の様な鳥人は賢そうな帽子をくいくいと上下させる。
「あの、お伺いしたいことがあるのですが…」
それは冒険者としての大きな一歩になるのであった。
- 異世界旅行に行ったきり戻ってこないと日本が損失だけどそこまで深く考えなくてもいいよね。アッサリなれてしまう冒険者の軽さいいね -- (名無しさん) 2017-03-12 06:44:38
- 登録したらあとは依頼をこなすだけなので人数は多ければ多いほどいいとかそんな感じなのではなかろうか冒険者 -- (名無しさん) 2017-03-12 20:48:40
- 精霊出てくるとやっぱり異世界だなって思う。ルーン便利だな -- (名無しさん) 2017-03-13 17:56:44
- 日雇い仕事がたくさんあるイメージで冒険者もその中の一つみたいなもん -- (名無しさん) 2017-04-22 05:48:30
最終更新:2017年05月21日 23:43