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【ニシューネン市の傭兵業】

ニシューネン市のスラム区には傭兵派遣業を営む酉倉府という社屋がある。そこには新天地で食いっぱぐれた荒くれ者たちが集まり、傭兵の名の下にカネさえ受け取れば何でもするという、悪質な犯罪ギルドとして機能していた。トリグラフを仕切る男は企鵝人(ペンギンびと)のペロンペルンを名乗り、滅多に人前に姿を現すことはない。仕事柄命を狙われることもあるというのが理由だが、実在しないのではないかという噂も根深く残っている。

トリグラフには新天地という土地柄もあるのか鳥人の傭兵が数多く集まる。巨躯を鎧で包んだ鷲人。鋭槍を掲げる禿鷹人。なるほど酉倉の府とはまったく言い得て妙なものである。しかし今トリグラフにて仕事を探す男は鳥人ではなく狗人である。全身白毛。身の丈は地球人より頭一つ小さいほど。眼光はやたらと鋭く尖り、周囲に殺気を放ち続けている。その服はまるで木皮を剥がして作ったようなゴワゴワとした見た目と漆黒(まっくろ)な染め色をしており、その獲物はドワーフが血染めの鎚で打ったかのように緋色(まっか)な刃であった。周囲の鳥人傭兵たちも一歩二歩と距離を置き、その招かれざる客を見定めていた。トリグラフの受付デスクに座るゴブリンの老婆は、一目で狗人の出自をイェゾと見抜いた。イストモスの星神テルミンに見捨てられた民ミヴロのつくった国だ。国土は貧しく、民は成人すると世界中に散り傭兵業に就くのだという。「お前に回す仕事なんて無いよ。さっさと帰り」ゴブリンの婆はしゃがれた声でそう言ったが、狗人は微動だにもせず殺気を込めた視線を婆に叩きつけた。「そんな目で見ても無駄さ。私ゃ人殺しを百や二百じゃきかないほど見てきた婆だよ。今更お前みたいな白狗の殺気なんざ怖くないよ。さあ帰り」しかし狗人は受付の前から微動だにせずにいる。
そのやりとりを見ていたのか、店の奥に居たオーガが鳥人たちをかき分けて受付まで出てきた。オーガは会うなり狗人の頭を押さえつけながら言う。いわゆる用心棒稼業だ。「そうだぜ童貞小僧。ここはお前のような皮被りが来ていい場所じゃねぇんだ。さっさと出ていって表通りの」そこまで言った時、オーガの腕が宙を舞った。いつの間にか狗人が抜刀し、いつの間にかオーガの腕を切り捨てていた。イェゾに伝わるイァ・イーの術「抜刀牙」である。「貴殿の首を刎ねれば童は卒業か。それとも腕のひとつで十分か。どうにも俺は田舎者で学が無い。どちらが都会的なのか教えていただけまいか」狗人はそう言うと口角を引き上げて笑った。笑ったがしかし周囲の者には牙を剥いたようにしか見えなかったろう。オーガは絶句するしかなかった。
「店の中での争いは勘弁だよ!あんたは下がり!お前はその刀を仕舞いな。お前まさかトリグラフの手練れ全員に喧嘩でも売りに来たんじゃないだろうね。今の所業をペロンペルン様に知られでもしたら、お前の首が胴体とおさらばする事になるんだよ」ゴブリンの婆は酷い剣幕でなじるが、狗人は一向に堪えて無い。トリグラフの傭兵全員といくさを始めてもいいとでも言いたげな様子すら見られる。「まったく、今日は酷い疫病神が来たもんだよ。ほら、これが登録書だよ。お前、字くらいは書けるんだろうね。うちには翻訳精霊なんて御大層なものは居ないんだから、鳥歴字か大延旅字、ドニー・ドニーの海運字で書いて貰わないと困るからね。それすら書けないんだったらヨソに行っとくれよ」ゴブリンの婆の心配を余所に、狗人は正確なドニー・ドニーの海運字で登録書に名を記した。「ふん。『嵩増星』ね。いかにもな偽名じゃないか。まあ何だっていいさ。仕事さえしてくれればね。それじゃあ『バルク』お前の最初の仕事だよ。何だいその面は。『嵩増星』なんざ言い難くって仕方ないよ。お前は『バルク』で充分だ。ほら、行ってきな」ちなみにバルクとはゴブリンの俗語で『居丈高』を意味する。ゴブリンの老婆は乱雑に後ろの掲示板に貼ってあった紙を一枚剥ぎ取り『バルク』に手渡した。そこには彼の仕事・・・門来人の警護が書かれていた。

「まったく酷い目にあった。『狂犬』ってのは居るもんだな」用心棒のオーガは斬られた腕を拾い上げて傷口に押し付けた。すると驚異的な回復力でもあるのか、しばらくすると傷が埋まり指がひくひくと動き出す。オーガはまるで何事も無かったかのように斬られた腕で杯を手に取り酒を煽ると、カウンターのゴブリンの老婆に話しかけた。「それにしても何だってトリグラフに警護なんて仕事が来ているんだ。門来人の暗殺の間違いなんじゃあないのか」すると老婆はニタニタと笑いながら言った。「いっそ暗殺の方が簡単な仕事だったかもねぇ。血の気の多い連中を何人かけしかけて、暗殺成功したら次はソイツをとっ捕まえて自警団に引き渡して2重の儲けが出るって寸法でさ。ヒヒヒヒヒ。でもまあ最近はそれじゃあ組織が成り立たないってお達しでねぇ。ペロンペルン様が何を考えておいでか、この婆にはわかりゃあしないがね。門来人の護衛は今朝がた『上』から届いたモンでね。婆もどうしたものかと困っていたところなのさ。そうしたらあの狂犬がやって来たもんだから『バルク』を追い出せて厄介ごとが2重に解決できたって寸法さ」「ん・・・む。納得できるようなできんような」「オーガの脳みそで考えたって無駄さね。ほら、あんたにおあつらえ向きの仕事も来てるよ。いつまでも用心棒ぶってないでさっさと働きよ」「どうせまた郊外の魔獣密猟と皮剥ぎだろう?アレに行くと何人か死ぬから嫌なんだよな。カネにはなるから受けるけどな。いつだ?」「今から」「鬼使いの荒いババァだぜ。じゃあ行ってくるわ」

門来人とはご想像の通り地球人を表すスラングである。ニシューネン市にある門は北米ゲートと繋がっており、基本的に来界するのは合衆国人やカナダ人であるが、地球側もニシューネン側も多民族多国籍が基本のようなお国柄で、実態としては人種民族異文化の坩堝と化していた。ゆえに門来人は安全のため案内人や警備員、護衛を雇うのが常となっている。通常ならばこうした仕事はニシューネンの冒険者ギルドが請け負っている。トリグラフのような法を守らぬ傭兵派遣業に声がかかるはずもないのだ。しかし今回、トリグラフに声がかかった。つまりそれは「生き死にに関わるような事案だという事だな。いっそ暗殺請負の方が幾分か楽な物を」嵩増星こと『バルク』は、腰に差した獲物『チニウェター』の柄を撫でさすりながらボソリと呟いた。『チニウェター』はイェゾの傭兵集団が持つ剣で、ドワーフに依頼して鍛えられた業物である。ミスリル銀を芯にしてアダマンチウムで外を包んだ構造で、粘り、斬れる刃である。外見は片刃の曲刀であり、地球の知識のあるものならば、日本刀に瓜二つな事に気づくだろう。依頼書には、依頼者が旅人の宿「古木亭」に宿泊しており、本日夕刻に近所の酒場兼食事処「星の器亭」で待っていると書いてある。『バルク』としてはその隣のフタバ亭の方が好みの味の飯だったのだが、依頼であれば仕方が無かった。

星の器亭は夕刻という事もあってか客でごった返しになっていた。依頼書にある依頼主の様相は『エルフより耳が短く背丈は同等で貧相。髪の色は炭を砕いたような黒。オークよりは賢いがゴブリンよりは愚か。旅装。メス。名はアガリヌマイセノ』とある。バルクは何度かそのくだりを読み返したが一向に容姿の想像がつかないでいる。さしあたって店内を見渡し「炭を砕いたような黒髪」を探すも、既に夕刻を過ぎ店内は薄暗く、火精霊が灯した精霊灯の明かりは周囲を橙色に染め上げていて正しい色が判別できない。そもそも狗人たちは視覚よりも嗅覚や聴覚に頼ること大で、なおさら判別を困難にしていた。オーガがエールジョッキを一杯飲み干す時ほどには探したが、それも無駄な事と考え、バルクはカウンターへと足を運んだ。「何か腹にたまるものをくれまいか。出来るだけ値の安い物を頼む」オークの亭主はやや考え込むと「ならば豆スープと固パンにしましょう」と野太い声で言い、黙々と調理にかかった。「お酒はいいの?」隣に立つ鳥人がバルクに問いかける。「酒はいい。だが、あればでいいんだが、乳汁をくれまいか」どこか照れたような口調でバルクは返答した。「あら、まだお酒を飲める年頃じゃなかったかしら。狗人の年齢はちょっと解り難いのよね。ごめんなさいね」鳥人はそう言うとテキパキと木製のコップに温めた角竜の乳を注いだ。バルクは嘆息した。既に齢は十五を越え元服も果たして修行の旅に出ているというのに、酒だけはどうにも苦手なままなのだ。しかも乳汁は好物なのだ。その誘惑には抗えない。時々思うのだが、何故クエストの起点は酒場が多いのだろう。自分にはどうにも居心地が良くない。角竜の乳汁を半分ほど飲んだところで、温かな豆スープと炙った干し肉を挟み込んだ固パンが目の前に並べられた。けして味は良くないのだろうが、今のバルクには十分なものに思えた。「ところで兄さん。店に入った時にしばらくキョロキョロしていたけど、誰か探してたのかな」鳥人がグラスを拭きながら尋ねて来た。バルクは固パンを引きちぎりながら答えた。「依頼の相手を探している。耳の短い、炭の色の髪をしたエルフだ」それを聞いて鳥人はそんなヒトがいる訳が無いと笑いをこらえたが、急に何か思い当ったようでパタパタと小走りで店の奥の席へと向かった。しばらくすると誰かを連れて戻ってきた。なるほど、耳の短いエルフだ。「貴方が私の警護についてくれる傭兵さんね。はじめまして。東沼伊勢乃です。貴方達風に言うならチキュージンです。よろしくね。ところで貴方のお名前は?」短耳エルフはやや甲高い声でアガリヌマ・イセノと名乗った。「名は『バルク』だ。どうも俺はそれで十分なようなのでな」東沼伊勢乃はしばらくの間バルクを値踏みするようにじろじろと見てから「貴方、ウチのワン太くんにそっくりだね」と言った。

バルクが固パンを食べ終える間に、東沼伊勢乃は火酒を1杯と豹芋酒2杯を飲み終えていた。それでいて顔を赤くも染めていない。「ぬしの臓腑は底が抜けておるのか」2杯目の火酒に手を付けようとした伊勢乃に向かってバルクが言う。「美味しいから大丈夫だよ。あっ!それで依頼の件なんだけどね。ちょーっとアブない場所に行きたいなって冒険者ギルドにお願いしたら『私たちの管轄外です』なんて言われちゃってさ。それでどこをどうしたのか知らないけど、貴方が来ることになったみたいね。で、行きたい場所っていうのが、ここ!」伊勢乃は懐から新天地の地図を出して、指をびたりと当てた。そこには『万迷宮(パンラビュリウム)』と書いてあった。バルクはしばらく絶句し、乳汁を一口含んで喉を潤してようやくしゃべり始めた。「正気の沙汰ではないな。あるいは無知の極みか。そこは常人の目指す場所ではない。万迷宮の名は伊達ではない。名の通りの大迷宮だぞ。死ににいくようなものだ」万迷宮とは名の通り、無限に等しい広大な広さと深淵さを誇る、異世界最大の迷宮である。一説によれば地球人の大富豪イルンバッハが新天地ニアクルス鉱山のさらに奥地を掘り進ませ、ついに『奈落』に直結してしまったがために生まれた迷宮なのだという。奥深くに眠る財宝を得るには、自分の命を賭け金にする必要がある。そして往々にして命は軽々しく賭けに負ける。そんな土地だ。「迷宮に会いたい人がいるの」東沼伊勢乃は急に真剣な表情になった。「臆病者のワン太くんでも、迷宮の入り口くらいまでは警護してくれるでしょう?」その言葉が終わるかどうかという瞬間、伊勢乃の喉元にチニウェターの切っ先が突きつけられていた。「ミヴロの民に撤退は無く、臆病と謗られるような心も無い。ぬしが死ぬ気ならば死地までは俺が連れて行こうじゃないか」バルクは牙を剥いたが伊勢乃はそれを見てにんまりと笑った。「やっぱり貴方はワン太にそっくりだね。ほら、こんな危ない物はしまいなさい。ご飯中に刃物を振り回すだなんてお行儀悪いぞ。はい豆スープ飲んで。明日の出発は朝食後すぐにしよう。それじゃ、また明日ね」それだけ言うと、伊勢乃は手をヒラヒラとさせて店から出て行った。宿泊先の「古木亭」に戻るのであろう。

チニウェターの刃を鞘に納めながらバルクは嘆息した。15で元服してイェゾを旅立ち傭兵業を営み始めておよそ1年。魔獣狩りや凶族退治など命のやりとりが無かった訳ではないが、これは具合が違う。万迷宮など自殺に等しい。ミヴロは死地を求むるべしとは一族の掟ではあるが、命を粗末にせよという意味ではない。「兄さん悩んでいるね。ギルドの依頼なのかい?嫌なら断ればいいじゃないの」心配した鳥人が話しかけてくる。「そうはいかない。修行も兼ねて断るわけにはいかない依頼を進んで受けたのだ。これを断るのは誇りに関わる」そうは言いつつもバルクの表情は冴えない。オークの亭主がバルクの目の前に竜肉の臓腑煮込みをことりと置いた。「試作の品だ」とだけボソリという。要はおごりだ、という事なのだろう。「亭主殿。かたじけない」一口すすると、それは実にバルク好みの味わいだった。一口また一口と食は進み、気づけば器は空になっていた。「そう言えば亭主殿。ここは何故に星の器という看板を掲げているのだ」バルクはふと疑問に思っていたことを尋ねてみた。すると鳥人がクスクスと笑いながら今しがた食べ終えた竜肉の臓腑煮込みを羽根指した。バルクが視線を器に移すと、空の器にキラキラと雲母が輝いていた。「亭主がまだ貿易船に乗っていた頃に、一番お気に入りだった器がそれだったの。イストモスっていう国の焼き物なのよ」バルクはあらためて器を見る。そこには雲母の煌めきで彩られた夜空があった。星神はイェゾの民をもう導いてはいないと聞く。しかし、星は本当に狗人を導いてはいないのだろうか。

星の器亭の2階は宿屋兼業である。バルクはそこで一泊し、あくる日の朝「古木亭」へと足を運んだ。伊勢乃は既に旅装で玄関先に居た。「おはようワン太くん。それでは今日からよろしくね」これから死にに行くのに呑気なものだ、とバルクは思った。「それで、どうやって万迷宮まで行くつもりだ。ネアクルス鉱山街まで行くのも一苦労だが」バルクがそう言うと、伊勢乃はきょとんとした表情になった。「ワン太がそういうの手配してくれるんじゃないの?」「まさか、何も考えていないのか?俺の役目はあくまで警護で案内人ではないぞ」「えぇ?そうなの?じゃあどうやって行けばいいのかわかんないね。あ、そうだ。案内人も雇えばいいのか。ちょっと待っててね」伊勢乃はそう言うと「古木亭」へと引き返して行った。しばらくしてニコニコ笑いながら出てくる伊勢乃と、その後ろにひっついた青ざめた表情の男が出てきた。伊勢乃が炭を砕いたような黒髪なら、男は金糸の束を括りつけたような髪だ。背も随分と高い。耳が丸くて骨太のエルフか、あるいは痩せぎすのオークと言ったところか。「ヘイヘイヘイ。ミスイセノ。いくら教授の捜索だからって、研究室の予算は無限じゃないぞ。パン・ラビュリウムの探索はキミの暴走と言わざるを得ないよ。まずはこの街を調べるって決めたじゃないか。キミはチームをないがしろにするのかい?」伊勢乃は男の方に向き直って言った。「ミスターウッドマン。貴方にこの言葉を贈るわ。『うるせぇぞ』。予算が限られているのならば、もっとも効率的で確率の高い運用をすべきなのは明白でしょう。教授の連絡が途絶えたのは万迷宮です。ならば万迷宮に行くのが道理でしょう。よくもまあ臆病な貴方がプロスペクター(探索者)なんてあだ名されたものね。その名前、私がいただこうかしらね。何にせよ、使い道の無いこの予算は私がいただいて行きます。貴方は貴方の欲望を満たすために、残りの予算でこの街を這いずり回りなさいな。大学教授会はさぞ喜びますわよ」そこまで言うと、伊勢乃は踵を返して表通りに出た。「さあワン太くん。冒険の旅に出るよ。案内人を求めていざ冒険者ギルドへ」

東沼伊勢乃はバルクを引き連れ『冒険者ギルド』へと足を向けた。冒険者ギルドとは随分と大仰に構えているが、実態は職業安定所に行政府の出先機関と観光案内所が寄り合い所帯となった程度の組織だ。ゆえに万迷宮に行くなどという酔狂な依頼は即撥ねられてトリグラフに回されたのだろう。しかし伊勢乃は再度ギルドを訪れた。やってみればどうにかなるとでも言うのか、自己の幸運のみを旗印に蛮勇を振りかざす傾向があるのだとバルクは見ていた。イェゾの狗人の多くは幸運に期待しない。自分たちは星神に見捨てられたのだと信じているからだ。だから生きることに幸運を加味しない。勇気ですら必要としない。生きるには臆病なくらいで丁度よく、矜持が胸にあればそれで良い。それがイェゾの民の生き方なのだ。
冒険者ギルドは様々な人種、職業でごった煮の状態であった。バルクはざっと見渡して危険な人物が居ないか探ったが、即座に殺し合わなければならないような人間はそこには居なかった。ただ、目の前に横たわる巨大で邪魔な鶏人を斬りたいとだけ、脳裏に浮かんだ。「なんだコイツ。邪魔だなー」伊勢乃はその酔いつぶれたのであろう鶏人のお尻をボカンと蹴飛ばすと、ギルドの窓口へ足早に向かった。斬りたいとすら思った自分が言うのも何だが、陽も高いうちからほろ酔いでギルドにフラフラと迷い込んだ程度で蹴飛ばされるとは何とも不運な男だと、バルクは天上の何かに祈りを捧げずにはいられない気持ちになった。「先日はどうもー。ああ覚えてらっしゃいます?万迷宮に行こうと。そうそう。その馬鹿娘です。ええ、わかっていますよ。冒険者ギルドからは同行できる者は居ないんですよねぇ?わかっておりますとも。今日はその依頼ではありませんの。ネアクルス鉱山街は当然ご存じですわよね?せめてそこまで道案内できる方がいらっしゃらないものかなぁとですね。ええ。ああ道案内だけでは不十分ですわね。その旅の準備の一切を取り仕切っていただきたいの。そんな方いらっしゃいます?当然いらっしゃるわよねぇ。冒険者ギルドの看板を掲げていますものね。それではヨロシクどうぞー」伊勢乃が一気に捲し立てると、窓口の梟人は目を白黒させて「案内だけならおらんことも無い。『韋駄天のハセオー』という鳥人じゃ。5日もすれば戻る。あとは、そうじゃの。『飛竜乗りと旅エルフ』なんてのも登録されとるが、こいつらは今はドニー・ドニーじゃ。10日はかかる。それと『渡りノームのピパカルーシ』なんてのもおるが、これも出払っておる。戻るのはざっと2週間後じゃの」「他に居ないの?そこまでのんびりとする気はございませんの」「せっかちじゃの。一人居ないこともないが・・・まあ半日は無理じゃの」「あら?それはどういう意味?そいつも出払っているの?」「いや、あんたが先程足蹴にした、そこで酔いつぶれている鶏人が、今ギルドに登録されていてすぐに出発できるネアクルス鉱山街までの最良の案内人だからじゃ。とは言え酔いが覚めるまで半日はかかろう。そういう事じゃよ」梟人はそう言うと、ズズズとお茶をすすった。

陽が中天を過ぎたあたりで、ようやく鶏人は目を覚ました。「こんなに寝坊助の鶏、あたし初めて見た」東沼伊勢乃は呆れていたが、当の鶏人は意に介さずに背伸びと大あくびをした。「ウォロー、目が覚めたのなら顔でも洗ってこい。お前さんに久々の仕事の依頼じゃぞ。この2人がネアクルス鉱山街まで行きたいのだとさ」梟人が鶏人にそう言うと、鶏人は「わい」とも「うぉー」ともとれる気の抜けた返事をして洗面台へ向かって行った。「本当にあれで案内が出来るのか」バルクはいぶかしげであったが、伊勢乃は「背に腹はかえられない」と、どこか諦めた様子であった。

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最終更新:2017年11月22日 23:23