クルスベルグはテスティール山脈から連なり伸びる山々に寄りそう山間森林地帯には数多くの町や村が点在している。
子供達は自然の中で思い思いに、時には大人が見つけることのできないモノなども探し当てたりなどする。
町からはそう遠くない麓の森の中にそれはひっそりと佇んでいる。
年季の入った大樹の洞の中で子供の声が木霊する。
「ついにそろったわ!わたしたちのいっかげつの“せいか”よ!」
「夜糸はやっぱりむりだったねー」
「いとはあまらないもんね。しかたないよね」
「お姉ちゃん、そろそろ始めようよ」
ほの暗い中でコボルトの少女が脱いだフードを場に差し出す。
「ふっふっふ。よいんをたんのうしていたのよ!」
「がんばったよねー。旅の服屋さんもよろこんでたよねー」
「ほんとにこれでたりるのかな?たりるのかな?」
「大丈夫だと思うよ。さぁみんな道具を持って!」
一か月前、町の広場に各地からやって来た商人達により店が出されバザーが開催された。
その三日前、バザーの報せが町に広まった時から情報を収集していた子供達は何店かあった服飾屋の中でも大陸を渡って来た店主に話を切り出した。
“バザーの間、店の手伝いをするのでいらなくなった材料を下さい”
店主は子供達の表情に何かを感じ、申し出を了承した。
バザーが終わるまでの精一杯の働きに店主は感動し、生地や布などの切れ端など廃棄する予定だったものを報酬として差し出した。
子供達が選んだのは特殊な製法により編み織られる闇布の切れ端であった。
「さぁ!けいかくどおりにぬいぬいするよ!わからないことがあったらエルゼにきいてね!」
ノームの少女はぐるぐると手を振り回す。
「もうお姉ちゃん、いつも私にややこしいことを投げるんだから。 あ、ミリスちゃんそこは一度戻ってしっかり縫ってね」 人間の少女は自ら縫いつつ周囲にアドバイスを送る。
「えへへちょっといそいでぬい忘れちゃった。エルゼちゃんはいつもしっかりしてて助かる助かる。アイゼナン、そっちどう?」栗鼠人の小さい少女が頷いて手元を直す。
「これがかんせいしたらキーノちゃんもくらくなくてもそとであそべるようになるんだよね。がんばるぞっ」熊人の少年は大きな手を一生懸命いそいそと動かし縫う。
「みんなありがとう。闇精霊もよろこんでる」コボルトの少女は闇精霊を腕の中の闇に優しく抱いている。
異世界の陽光には太陽神の力が宿る。それは布や板などで覆ったところで遮断することはできない。
コボルトが日中に出歩くには全身を覆うことで対処できるのだが、彼らと共にある闇精霊は浸透する太陽神の力によって衰弱、場合によっては消滅してしまう。
しかし、その力を遮断することができるのが
スラヴィアでスラヴィアンが生み出した闇系物産の一つ、闇布である。
特殊な生地素材である闇布同士を縫い合わせるには同じく特殊な闇布を用いなければならないのだが、子供達は闇布をフードの裏地に縫い付けることで解決しようと考えた。
闇布の切れ端を寄せ集め、それぞれの端を重ねて裏地として一枚の闇布と同等の性能を実現しようというのである。
『モっモっモ、皆がんばっとるの~ぅ』
「あっモッモじいちゃん!やみぬののことおしえてくれてありがとう。これでキーノもおひさまがでててもあそべるようになるんだね!」
『モっモっモ、よかったの~ぅ。しかし皆が他所で遊んでワシの所にこなくなってしまったら悲しいの~ぅ』
「モッモじいちゃんはわたしたちのえいえんのひみつきちだよ!これからもむしそうじとかにくるからだいじょうぶだよ」
山の地に根付いた老樹。かつては異世界を巡る
エルフ達の休憩の場として各地に植えられた
エリスタリア産の樹の一本。
精霊を呼び寄せ、植物成分を発することで快適な空間を樹中に作り出すことができるのだが、今ではもう訪れるエルフの数もめっきり減ってしまったという。
「お姉ちゃん、できたよ!」
「こっちも完成ねー」
「ぼくもおわったよ」
「キーノちゃん、さっそくかぶってそとにでようあそぼう!もちろんやみせいれいもいっしょだよ!」
フードの裏地は闇布で覆われることで闇精霊を脅かす陽光も入ってこない。
日の沈みかけた夕方でも闇精霊には厳しい環境なのだが、フードの奥で揺らめいている闇精霊の目は笑っているようだった。
「これであちこちいけるね!こんどのおまつりにいえにしょうたいしてもいい?おかあさんがきのこのおれいをしたいからおうちにどうぞっていってたの」
夕焼けに染まる大樹の周りを子供達が駆け回る。人々の新たな道は世界のどこからでも拓けていく可能性がある。
ヨハン夫妻の娘姉妹をシェア。コボルトの日中行動用そうびをてにいれたぞ!
- キッズクラフトわむ。モック爺さんエルフ休憩所説あります -- (名無しさん) 2019-04-02 01:45:37
最終更新:2019年03月31日 22:07