【未踏破領域を目指して】

新天地。未踏破領域と東で広く接することもあり、大々的に開拓団や冒険者を募り、支援する枠組みを作り人の領域を拡げている。
そんな新天地、特に何がどう変わるでもない日常の昼下がり。数多の自治領が乱立する新天地にて最大手かつ対外国交渉して他国から指名される都市。今はペンギン人が市長を務める。
その市にある冒険者協会に一人の訪問者が入ってくる。
巨漢の鱗人。その肌は岩の如く。
特に依頼や告知を見に来た風でもなく、二度三度入口のロビーを見回すと迷いなく総合受付へと進む。
言葉無く受付鳥嬢の前に立つと一封の手紙を差し出した。そして買い物の用ついでに寄っただけだとすぐに立ち去った。
とりあえず安全確認のためそろりそろりと封を開き、そぉっと二つ折りを開けて文面を確認するとそこには短い数字の羅列があった。
怪訝そうにそれを眺めていると職務の見回りに年季の入った上司がやってくる。
丁度良いと手紙を上司に見せるや否や、太い眉を吊り上げた牛人は猛突進で協会長室へと向かった。
手紙を受け取った鷲の協会長はその文面を理解するや歓喜し翼を広げ窓を突き破り矢の様に市庁舎へと飛ぶ。
その勢いそのままに市長室へと突入した協会長はでんと椅子に構えるペンギン市長に伝えた。

 未踏破への東、砂塵の壁を越えたり 我ら生存せり

たった二つの数字。しかしその二つが意味することの大きさに、その後都市全体が震えることになった。


二十余年前、クルスベルグにレギオンの一角がやってきたことから話は始まった。
かつてドニー・ドニー建国の争いにてクルスベルグ海軍の長を担うも敗戦し大艦と共に沈んだドワーフの一族の生き残りが住まう山町にレギオンは赴く。
最初は報復や悔恨の意はあったかも知れないが、戦記述懐や戦術戦略の仮想戦を続けるうちに実際の異世界各地の戦いから、大ゲート開通以降は地球の大戦記なども収集し研鑽を重ねていった。
一族の何人かは異世界各地に軍事顧問として輩出されたりもした。
その様な一族の前にレギオンと名乗る紳士は現れる。
新天地から東征し未踏破領域を開拓する一大陸上船団の館長に就いて欲しい、と。その確かな積み重ねと冷静な判断力を買ってのことだという。
異世界神の一神レギオンの依頼は、神としての力、人々の信仰を更に得るために国土を拡げたいということだった。
ゴッドオーダー。一族当代は二つ返事で引き受け、新天地へ赴いたのであった。
すでにレギオンの手配により進められていた準備。現在の東の最果てにある拠点の小村に集められた物資と人員。
巨大陸竜を丸々艦に見立てて改装された旗艦を中心に編成された陸船団は前人未踏の“砂塵の壁”越えに踏み出した。
砂塵吹き荒れる中を進み河を山を越え進み遂に最終関門となる命を奪う砂塵へと突入する。
それは砂ではなく明らかな意思を持って生物に侵入し内側より命を崩壊させる恐怖の嵐である。
次々と運搬獣や竜の艦は倒れていく。人員も残す旗艦に搭乗し避難した者達だけとなった。
すでに帰路は無く前に進むしかない決心により、巨竜を治療しながら歩を進め続けた。
しかし巨竜もついに命尽きるその寸前、遂に砂塵を抜けたのである。そして巨竜は倒れ逝った。

未踏破領域へと入った一団の生き残りは残った物資と分解した艦の建材に巨竜の遺骸を利用し拠点を建造した。
生存者と言えどそのほとんどが砂塵に身を蝕まれており、艦長を務めたドワーフは最後に指示をまとめ伝えた後、巨竜の墓前で息を引き取った。
その後、拠点拡張と周辺の調査を進めるのに平行して地中を掘り進み砂塵の壁の前に向かう一団に分かれた。
そして只只管に掘り進んだ一団は連絡坑を壁の入り口に開通させ、出発前に決めてあった連絡暗号を記した手紙を風精霊に託したのである。
しかし、風精霊と言えども大陸の横断は難しく、途中で力尽き消える寸前に辺境に建つ宿に辿り着き手紙を託したのであった。

踏破記の詳細は最初の手紙以降に間を開けて何度か送られてきた報告書によって判明したのである。
既に壁の前では小規模の拠点が建造され、その座標は協会へ伝えられた。
彼らの働きに報いるために現在、次なる開拓団の編成が進められている。
最初は神の依頼であったが、今のそれは人々の未知を切り開かんとする心が源となる潮流と成ったのである。

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最終更新:2021年04月04日 21:28