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【砂漠+人間-(水+食料)×箱=試練】

 『人生はプラスマイナスゼロだって言う奴は、決まって人生がプラスの奴なんだ』そんな言葉を括弧付けて言えるような不幸な人間は、それなりに人生を謳歌している。例えば、主人公よりも人気が出るライバルキャラになっていました。といった具合の幸福くらいは掴んでいるだろう。
 では、真に不幸なものとは誰だ?
 それはきっと、楽しいことも悲しいことも経験していないような。そんな虚無な人間だ。
 お前もそう思うだろ、人間?

「いや、別に・・・」僕はそう思わないけど。
 え?というかここドコ?僕はさっきまで、自分の部屋で今日発売されたばかりの週間少年誌を読んでいたはずだ。
「あー、それそれ。もうその反応でわかっちゃうよね。お前が今までどれだけ人生を無為に過ごしてきたかが、さ。俺ホントそういう奴ダメなんだわ。見てられなくて、ついつい手を出しちゃうのよ。」
 僕の疑問などお構い無しに、初対面とは思えないような馴れ馴れしい態度で話す褐色肌の青年。眩しいくらいの金髪が彼の鬱陶しさを底上げしている。
 青年は片手に携帯ゲーム機を持っていた。起動しているゲームは、通称モン狩りと呼ばれているソフトのようだった。各種モンスターを狩っていくことで装備を造り、さらに強いモンスターを狩るという大人気アクションゲームだ。
「俺が門を開いた理由もな。お前みたいな奴に世界の楽しさを教えてやる為なわけですよ。けど、中々思惑通りには行かないな。俺が扉を開いてやっても、引きこもりは引きこもりのまま。神は天に居まし、世は事もなしってな」
 困ったもんだ全く。と青年は言った。 
 正直、彼の言葉はどうでもよかった。なぜなら、いきなりこんな所に連れてこられた僕の方が困っていることは、客観的にも主観的にも明らかだったからだ。
「最初は俺のこと鬱陶しいと思うかも知れない。でもな、こっちの世界から帰るころには、きっとお前は俺に感謝してる。もしかしたら、同じくらい憎んでるかもしれないけどな。でもな、それでいい。それでいいのよ」
 青年のまくし立てるようなマシンガントークは、ちょっとやそっとじゃ止まりそうにない。
 僕は、彼の喋りに少しだけデジャヴを感じる。
 そうだ。思い出した。
 3ヶ月前からよく一緒にモン狩りのアドホック通信で一緒になるようになった、口うるさい固定ハンドル野郎だ。紅玉の話題を出すと急にしおらしくなる所が少しだけ面白かった。べ、別に友情を感じたとかそういうわけじゃないんだからねッ!ただ暇だっただけなんだから!
 うん、やっぱり僕はぶりっ娘が似合わないや。

=====
sun@trialGOD『お前いつも潜ってるけど、リアルの方は大丈夫なん?』(03:33)
名無し『お前だって俺が潜ってるときはいつもいるじゃねーか。どうせお前もニートがヒキだろ』(03:36)
sun@trialGOD『いやいやいや。俺は神だから。そういうの関係ない次元にいるわけよ』(03:36)
名無し『ハァ?自分のことを神とか今時小学生も言わねーよ。頭大丈夫か?虹色のお薬が必要なら今すぐ渡すぞ』(03:40)
sun@trialGOD『俺のことはどうでもいいんだよ。お前はどうなの?って話をしてるわけ。お前はニートなの?それともヒキ?』(03:40)
名無し『三年目ヒキだけどで何か?』(03:42)
sun@trialGOD『うわー、引きこもりとかマジで引くわ。もっと世界の外側に目を向けてみ。世の中捨てたもんじゃないぞ』(03:42)
名無し『ごめんヒキニートのお前に言われても全然説得力ないわ。いいから狩り行くぞ。紅玉出るまで、金銀付き合ってやるから』(03:44)
sun@trialGOD『むぅ。かたじけない』(03:44)
=====

 思い返してみると、そんなに喋りが似ているわけでもない気がした。しかし僕の第六感は、彼がsun@trialGODだと強烈に告げている。
「幸福も不幸も知らないようなゼロ人間は、正直死んでいるよりか質が悪い。死人は愛の完成形だが、死んでる生人は絶対悪の体現だ。正の感情、負の感傷。相克する二つの事象を抱えて初めて、人間は充実と充足を得る。少なくとも俺はそう思うわけだ」
 口を挟むタイミングを完全に見失った僕は、手持ち無沙汰になって周りを見回した。
 青年の言葉の渦を右から左に受け流しながら辺りを観察する。どうやら僕と青年は真っ白なただっ広い部屋に中心にいるようだ。
「というわけで、今からお前を異世界の砂漠のど真ん中に落とす。空調の効いた部屋でほぼ一年過ごしてきたようなお前には少し辛いかも知れないが、流石に死ぬことはないだろう。人間は存外に頑丈だしな」
 青年は慈悲慈愛に溢れる声で、なんだか理解しがたい言葉を紡いだ。
「それでは、試練を開始しまぁぁぁぁぁぁす!」

「え?なんだって?」

×××

 砂漠だ。
 ただただ砂漠だ。
 さっきまで真っ白な部屋にいたはずだが一転。そこは砂の大海原だった。360度、どこを見回しても果てしない砂色が地平線まで続いている。空を飛ぶ鳥や地を這う蟲の気配さえない。「もしかしたらこの世界には僕と砂しか存在しないのではないか」という錯覚に陥りそうになる。というか陥った。もっと簡潔に言えば、僕はパニックになっていた。
 途方に暮れて顔を上げる。
 透き通る青空の中、唯我独尊を称えるような燦々とした太陽が素知らぬ様子で輝いていた。全くもって鬱陶しい。
「暑い・・・。と言うかむしろ熱い。死ぬ、死んでしまう・・・」 
 僕のつぶやきに反応して、一瞬だが太陽が曇った…気がした。きっと気のせいだ。だって空には雲ひとつ無いんだから。そのせいで僕は熱光線を照射され続けている。熱い。
 頭上に浮かぶ太陽の暑さを恨み、キッと睨む。無意味な反撃だが、今の僕にはこれくらいのことしか出来ない。熱い。
「死ぬ。水、水が無いとホントに死んでしまう・・・」 
 僕の力無き声に反応して、また太陽が曇った…気がした。今回は気のせいではないようだ。太陽から影を作った物体が僕目掛けて空から落ちてくる。逆光でよく見えないが、アレは・・・箱だ。
 太陽から落ちて来た箱は軽やかな羽のように僕の目の前に着地した。まるで、重力に反してるかのようだった。その箱には下手糞なひらがなで書かれていたメモが挟まっていた。
「みず と しょくりょう を わたすのを わすれていた。ひつよう ならば はこ を あけるといい。それでは がんばってください」
 頑張れ、か。
 頑張れって言葉は、言う方も言われる方も無責任なんだよな。
 それでも、食料と水が空から振ってくるというのはありがたい。これならば、砂漠生活も案外悪くないかも知れない。そんなことを考えながら箱を開けた。
 しかし、箱の中には何も入っていなかった。
 僕は自分の認識の甘さを思い知った。

 眼の前の箱はボンッと音を立てて、辺りを煙で包み込んだ。

×××

 風景が一変する。先ほどまでの砂漠は消え失せている。
 真っ白な世界には、僕と、それから、えーと、、、誰?
『こんにちは!こんにちは!どーもよろしく、今回の試練の担当はこのわたしです!』
 まっさらな世界の中心に、どべーんと仁王立ちする少女。勿論僕の知り合いでも何でもない。にも関わらず親しげなのは、さっきの金髪の青年の関係者だからなのだろう。そんな風に、勝手に脳内補完した。
 ここで君たちに最新情報を公開しよう!初対面と女の子。この二つは僕にとって正に天敵である!
 …これらは僕に最大級のプレッシャーを与える。つまり、『初対面の女の子』とは僕にとって盆と正月が一緒に来たような、そんな大惨事なわけだ。言葉の使い方が間違っているような気もするが、ニュアンスが伝われば問題無い。
『今回のお題は"砂漠と水と食料"ですか。うーん、うんうん、どうしよっかなー?』
「ちょっといいかな」ここで口を挟まなければ、同じ轍を踏むことになりそうな予感がして「出来れば、僕の質問に答えてもらるとありがたいのだけど」
『あらら?あなたはもしや異世界人ですか!どうやら試練初心者のようですね。それならば、あなたの質問を許可します!なんなりと聞いてください』
 女の子は胸をえっへんと張って、僕の質問を待っている。彼女の胸はふくよかとは決して言えない、しかし確かにその存在を主張する慎ましい胸だった。いや、今は胸のことはどうでもいい。とにかく状況の把握に努めねばならない。僕の質問を待っている胸へ、今の僕の状況を伝える。
「ついさっきまで自宅でゲームしてたハズなんだけど、いつの間にか真っ白な部屋に移動していたんだ。そこで馴れ馴れしい青年に一方的にまくし立てられて、いつの間にか砂漠の真ん中で立ち尽くしていた。なにを言ってるか分からないと思うが、僕も何をされたのか分からなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。試練だとか太陽だとか、そんなチャチなもんじゃない、もっと恐ろしいものの燐片を味わっt(ry」
『我らが神、太陽神ラー様があなたには試練を受ける資格あり、と判断されたようですね』
 勇気を振り絞った僕の漫画ネタは、あっさりとスルーされた。元ネタが古かったせいだろう。きっとそうだ。
 …ダメだ。早くも心が折れそうだ。
「アレ・・・神様だったんだ。ずいぶん馴れ馴れしくて軽い口調だから、神って感じはしなかったな」
 僕は彼女の言葉を疑ったりはしなかった。
 異世界の神はユニークな神ばかりだと、異世界に旅行に行ったことがある叔父に良く言い聞かされていたからだ。その叔父は「嘘だけど」が口癖な一風変わった嘘つき常習犯だったけれど。
 しかし、あんなのでも神様なのか・・・。なんだか世の中不公平だ。
 世の不条理を嘆きつつもsun@trialGODの口癖が『俺は神』だったことを思い出した。神様、マジレスしすぎです。。。
『ラー様を馴れ馴れしいと感じたのなら、それはあなたが描く「神」の姿がそうであったからですよ。あたなは、自分に対して壁を感じずに接してくれる存在を神聖視しているようですね。「僕みたいな下等な存在を気にかけて話かけてくれるなんて、この人はまるで神様のような人だ!」といったところでしょうか』

 ふと、中学生のころの友人のことを思い出す。
 『神様は人間の形をしていると思う。だって人間が創りだしたものだから』今どき厨二病患者も言わないようなセリフが口癖な男の子だった。口癖を言うときは、決まって耳まで朱に染めていたのが萌え要素ーみたいな。痛さ全速力の彼は、当時泣きゲーとか呼ばれていた18禁美少女ゲームにハマっていたっけ。
 そういえば彼も、僕に遠慮無く接してくれる数少ない友人だった。僕は確かに、彼を神みたいだと思ったこともあったさ。

「わかった。さっきの青年が神だってことは認めるよ」
『話が分かる人で助かりました。我らがラー神を異世界人の方に神であると認識させることは、存外手間がかかることもあるものですから』
 そりゃ、唯一神を信仰してるような宗教の人はすんなりと信じられないだろうね。ゆるゆるな多神教の日本人の特権かな。
「僕は、自分の部屋に帰りたい。帰って空調の効いた部屋でキンキンに冷えた炭酸飲料を飲みたい。そのためには、どうすればいい?」
ラ・ムールの都を目指して、ここから西へ進んでください。そうすればきっと元の世界に戻れますよ』
「西だね、西。それで、僕はこれからにゃにをすればいいのかな」うわ、噛んでしまった。恥ずかちー。耳まで赤くなるのを感じた。
『あなたにはこれから試練を受けて頂きます。試練を見事達成できればあなたにはクリア報酬として水と食料が与えられます』
 ・・・さっきのメモの「それでは がんばってください」というのは、これから始まるであろうこの試練のことだったようだ。
『今回のお題は"砂漠と水と食料"でしたね。うーん、うんうん、どうしよっかなー?』
 腕は鈍く、体は汗ばんでいて不快。夜型の生活のせいで休息は不十分で、体調は絶不調だ。とても試練に望めるようなコンディションじゃない。
『初めての試練。水。食料。砂漠。旅・・・。ああ、そうですね。
 砂漠超えは体が資本ですし、腕立て1000回、スクワット1000回、腹筋1000回、背筋1000回の3セット。それにしましょう!』
 風景がまた変化した。さっきの砂漠に戻ってきたようだ。
 開けっ放しの眼の前の箱から、さっきの女の子の声がする。
『静聴してください!今回の試練を発表します!
 これからの旅路の資本となる体を磨き、自らを高めよ!!
 褒賞は一食分のお水と食料、おまけに毛布を3枚!制限時間は日が沈むまで!失敗したらゴハン抜き!
 では、では、よい試練であらんことを!!』
 箱がひとりでに閉じる。僕はそれを少し不気味に感じた。この箱、宝箱に化けて旅人を喰らう異界のモンスターとかじゃないよな?
 用心に越したことはないだろう、ツンツンと突付いてみる。…当然ながら反応はない。心のどこかに異世界に対する期待があったせいだろうか、無反応が少し寂しかった。
 僕はどうやら砂の真ん中でこの箱と二人きり、筋トレに励まなければいけないらしい。
「俺も見守ってるぜ!」と言いたげな馴れ馴れしい太陽が、上空から熱光線を送っている。
 その光の鬱陶しさに口元が歪む。
 僕は現代人、生粋の怠け者。
 馬鹿みたいに壮大な筋トレ場所をお与えになった太陽神への憎悪を胸に「面倒くせ」と一言。
 渋々ながらもゴハンのために、明日を生きるために、筋トレという試練を開始した。




 続かない。

  • 例えばこんなニュース

試練と称した消失事件。今年に入って13件目。


今月20日。T県K市に住む田中花子さん(仮名)から「突然、息子が部屋から消えた」と警察に連絡があった。警察によると、行方不明となった男性の名前は田中太郎さん(仮名)18歳。

田中太郎さんは同日午前10時、母親の田中花子さんが購入した某週刊誌を手渡され二階の部屋へと入って行った。その後、二階から大きな音が鳴り、花子さんが駆けつけるとそこに太郎さんの姿は無く、太郎さんが家の中に居ないことが判明。部屋には「しれんに でます。さがさないで ください」と書かれたメモ用紙が残されており、警察は太陽神ラーとの関係を念頭に入れ調査を開始するという方針を明らかにした。

このようなメモが残されて不登校、もしくはそれに準じる学生が行方不明になる案件は今年に入って13件目。これまでの被害者は、その全てが大ゲートを通じて無事生還しているが、各家庭は十分な警戒が必要である。【染野森蒼也】

                                 十一新聞 陽月20日(太) 12:25 配信



  • >『人生はプラスマイナスゼロだって言う奴は、決まって人生がプラスの奴なんだ』  この一言の説得力がすごい。ページ全体の使い方も独特で面白い。そして試練はいつでも扉を開く -- (としあき) 2012-11-13 23:22:39
  • ゲームというツールを通すことで妙に人間っぽくなるラーが楽しいけどあまりにも俗世に毒されているような気も。最初から最後まで試練のプロセスが痛いほど分かりやすい。守ってくれそうな守ってくれなさそうな試練の中で彼はどうなるのかと思いましたが「面倒くせ」と言ってのけるあたりに頼もしさも感じました -- (名無しさん) 2013-07-22 18:17:20
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最終更新:2013年03月25日 13:16