当時、
新天地と呼ばれた辺境
オルニトの地は混乱の只中にあった。
次々と移入する各国の種族達は独自に村や町を形成し、多種族の文化がまるで継ぎ接ぎのように点在する混沌とした開拓地だったのだ。
そこは人種のサラダボールなどと言う言葉では表現しきれない、あたかも色とりどりのモザイク画のような様相を呈している。
統一政府もなく法も無く、この地を守護する神でさえも混沌そのものだったからだ。
無法の国。己の力のみが頼りの弱肉強食の世界。子供達がアウトローに憧れる場所。新天地はそんな土地だった。
「スパイク隊長。また戦果を上げたそうですな」
「全くあなたの強さときたら……相手に同情してしまいますよ」
「小さい戦果です。私の夢はまだまだ遠い」
しかし、そんな混沌の地に秩序を築こうとする者達が居た。
新天地に入植し、
ゲート付近に街を形成していた有力部族の長達である。
彼らはオルニトからの度重なる軍事侵攻と略奪に対抗する為、新天地にも統一政府が必要だと考えたのである。
それはオルニトのみが相手の話ではない。来るべき未来、この新天地が発展し他国に狙われる危険を予期しての計画だった。
今は限りなく不毛の地とは言え、民間レベルでは確実に発展の為の芽吹きが見え始めている。
近い将来、この新天地が周辺国に匹敵する国家になる事を確信していた部族長達は、種族の垣根を超えゲート周辺有力部族長同盟を結成し、今まさに新天地統一に向けて動き出していたのだった。
「しかしあのスパイクと言う竜人、一体どこから来たのでしょうなぁ?」
「それに何の竜人なのかも明かしません。得体の知れない男です」
「スパイクが持つ剣。あれは神器だと言う噂もありますぞ。王族でもない者が何故そんな物を持っているのやら」
「案外どこぞの王族だったりするかもしれませんがな」
「まさかぁ」
『ハハハハハハッ』
ゲート周辺有力部族長同盟は協力して一つの軍隊を作り上げた。
それはオルニト等から新天地に攻め入る侵略者に対抗するため。そして新天地統一に異を唱える者の抹殺のため。
多種族からなる混成部隊の指揮を執ったのが、彼らの中でも最大の力を誇った竜人の男、スパイク・エンフィールド。
最初は傭兵として部隊に参加した男が、その圧倒的力で数年の内に隊長にまで上り詰めた。
スパイク大隊は今や新天地軍で一番勢いがある部隊となり、部下達もスパイクに絶大な信頼を寄せていた。
だがスパイクがどこから来て何の種族なのか?何故これ程熱心に新天地統一のために働くのか?それは誰も知らなかった。
「隊長。明日の戦いも絶対俺達勝ちますよね」
「俺達、隊長が居れば安心して戦えますよ」
「明日も頑張りますからね、俺達!」
「皆、ありがとう。新天地の未来のため、よろしく頼む」
だがそんなスパイクの活躍を面白く思わない者達も居た。
スパイク同様大隊を指揮する数名の隊長達は、自分達の戦果が思わしくない事をスパイクのせいだと思っていた。
「優秀な部下は皆、あの男に持っていかれてしまう」
「血気盛んな一般兵達には、指揮が優秀な隊長より腕っ節の強い隊長の方が魅力的に見えるのでしょう」
「少し強いからと調子に乗りおって……鼻持ちならん若造じゃ」
「あんな余所者にばかり良い格好はさせておけませんなぁ」
元々の部族隊長達は、どこの部族でもないスパイクが自分達と同じ隊長を任され、そして一番戦果を上げている事が気に食わなかった。
新天地を統一しようと言う者達が、内輪揉めをしていてはどうしようもない。
他の隊長達が持つスパイクへの嫉妬をスパイクは知っていたが、それでも新天地統一までは馬鹿な真似はしないだろうと思っていたのだ。
しかし人はスパイクが思う以上に愚かだった。
「推定戦力差は50対1。この差を貴方ならどう覆しますかな? スパイク大隊長」
「この西の斜面からグレタ大隊長の指揮なさる飛空種族部隊が奇襲をかければ敵の戦線を崩せます。その隙にウェールズ大隊長の部隊に背後の川沿いから敵の本陣を叩いて頂き、混乱した敵前線を我が隊で突破――」
その日、昼過ぎから始まった新天地連合軍の作戦会議は夕方にまで及んだ。
新天地南西部から戦闘神官ファルコの大部隊が侵攻を開始していたからだ。
新天地軍の前線とファルコ軍の前線は明日にも接触すると言う位置にまで迫り、新天地軍は少数で機動力が高い事を利用した作戦で、絶望的戦力差を覆そうと必死だった。
その作戦の立案・指揮を任されたのがスパイクだった。
「なるほど、よく出来た作戦だ」
「だが物事そう上手く行きますかな?」
「行かねば我々が死ぬだけです。その為の保険も用意してあります」
「ふむ、大したものだ」
スパイクが立案した作戦は隊長達に思いの他すんなり受け入れられ各部隊への通達も円滑に進められたように見えた。
こうして会議は円満に終了を迎えた。
「では明日のファルコ軍侵攻に備え、今夜ははたっぷりと英気を養いますかな」
「そうですね。お供します」
「今夜は最高の酒を開けましょうぞ。最後の晩餐になるやも知れませんからなぁ」
「ふっ、ご冗談を」
「そうですな。ハハハハハッ」
「フフッ」
スパイクはこの時、僅かな不安感を持って会議を終了していた。
曲者揃いでいつもは自分の意見に反対しまくる他の隊長達が、今日は妙に素直に話しを聞いてくれたからだ。
心の中で「ちょっとして何か企んでいるのでは?」とも思った。
しかしこの時スパイクは「志を同じくする同志に疑いを持ってしまうとは、自分は卑しい者だ」と思いその疑念を頭から振り払ってしまったのだ。
その甘さが大きな間違いだったと気付くのは、それから僅か半日後の事になる。
作戦決行の翌日朝、スパイクに向けられた部下達の意気込んだ顔を彼は忘れない。
仲間の裏切りによって無念の中全滅していった部下達の顔を、スパイク・エンフィールドは忘れなかった。
「団長。いつも大事に持ってるその剣、それ無しならあの時あたしが勝ってましたよね」
「ふっ、それはどうかな」
「またまた~。今度また一勝負して下さいよ。そのずっこい武器無しで」
「気が向いたらな」
プレセア・ロッソは山の様に盛られた料理の前で、昼食を共にする
聖騎士団団長スパイク・エンフィールドにシャレ混じりの約束を取り付けた。
「武器に頼ってるようじゃ二流だね。ボクなんかほぼ自分の仙気だけで戦ってるのに」
「そりゃおめーが仙人様々だからだろーが! だいたい武器無しで実戦を語るなんてお笑い種だぜ」
「言ったなー! じゃあストレンジャーはどうなのさ? あの子も武器使って無いじゃん」
「あれも特別だろ。元女王蜂候補なんだから」
「武器無しならきっとプレセアが一番弱いね。ププッ」
「なんだとシャンファァ!
イストモスの騎士なめんなよコラァ!」
そんないつも通りの子供の争いを横目に見つつ、エスペランサとシグレはいつもの事と落ち着いた様子で静かに食事を取っていた。
「戦いとは機転によるもので、勝敗とは事前準備で9割決定していると言うのに」
「まぁまぁ、若い頃は技やら武器やらにこだわりたいものですよ」
「大人はキチンと段取り八分で仕事しましょ」
「そうですね。でも……」
言い合いはいつしか取っ組み合いの喧嘩にまで発展しているが誰も止めない。
こう見えて彼女らも聖騎士なのだ。喧嘩の手加減くらい十分心得ている。
周囲もこのくらい彼女らなりのスキンシップだと思っているのだが、少数精鋭のエリート部隊の一員がこれでは締まらないと言うのもまた事実だ。
スパイクの白髪がまた一本増えた。
そんな上司の悩みを知ってかしらずか、ハイ
エルフと狐人の大人の女性二人はため息を付いてこう言った。
「私たまに卑怯って言われるのが傷つきます」
「アハハ、苦労人だねぇ。私も反
世界樹全然見つからないよ」
「いつか見つかるといいですね」
「その為にはもう少しお給金を増やしてもらわないと……(チラ)」
スパイクの白髪がまた一本増えた。