スラフ島内陸、オズモート領内のとある荘園。 荘園主の館からは、夜な夜な工芸工作の音が響き渡る。
「ぐむぅ・・・まだじゃ! この程度ではあ奴の作品には追いつけぬ!」
ある時は研ぎ澄まされた刃を研ぎ、ある時は鋼を打ち、ある時は鎧を組む。
「くそう! ワシが求めているのはこんなものではないのじゃぁ! 畜生、あ奴にあってワシに無い物は一体何だというんじゃあ!」
ある時は各地より掻き集めた様々な種族の遺骸を回収、分析し、繋ぎ合わせ、一個の個体を作っては、納得できず破棄する。
試行錯誤は既に100年を超え、試作も5000体を超えてより数えてはいないが、未だ目標とする相手が生み出した存在には及ばない。
しかも、相手は少し前に、それまで傑作と言われた個体を超える新たな個体を生み出したというではないか!
「あ奴をワシと、一体何が違うというんじゃ・・・!」
どれだけの試行をしても、ただ二つの作に追い迫るものが作れない苦悩に、荘園主ガランカーズは鬱屈の日々を送っていた。
そんなある時。 ガランカーズの工房に、突如予想だにしない来客が押し掛けてきた。
「ハァイ♪ ヴェルルギュリウスに勝手に対抗意識燃やしてるけど駄作ばっかでつまんないと評判の、元
ドワーフのガランカーズの館はここでいいのかい?」
「誰じゃきさ・・・これは姫様! どのような御用向きで・・・あいや、何の持成しも出来ず申し訳ござらぬ」
スラヴィア国主サミュラの前置きの無い来訪に、御目通りなど一度もしたことのないガランカーズは困惑を隠せない。
「うん、駄作しか作れない低能相手に、そんな配慮は微粒子レベルでも期待してなんかいないから、別に気にしてないよ。 駄作売って金儲けしながら駄作作ってるようなヤツには何の期待もしてないからね」
「これは手厳しい・・・返す言葉も御座いませぬ」
「うんまぁアタシもアンタのことなんてどうでもいいんだけどね。 ただちょっと面白い趣向を考えたから、低能なりに協力してくれると嬉しいな?」
「私めが姫様にご協力を・・・?」
「うん、どうせ同じことヴェルルギュリウスに頼んでも断られそうだし、だったら低能でも方向性が同じなら役立つかなって」
そう言うと、サミュラは懐からドカドカと見慣れない筒のようなものを始めとした不可解な物体を大量に床にばら撒き始める。
「姫様、これは一体・・・?」
「低能なキミでも、
ゲートの向こうに別世界があるのは知っているだろ? その別世界で使われている武器さ。 えっと、確か・・・こっちがさぶましんがん、こっちがろけっとらんちゃー、とか言ったかな? 良く分かんないけど、手ごろな所をいっぱい持ってきてあげたよ」
風の噂に別世界への門については聞いたことがあったが、その別世界の武器とやらを、しかも山積みになるほど持参され、ガランカーズの思考はさらに混迷を深めた。
「して姫様、これで私に何をしろと・・・?」
「か~んたんなことさ。 これを使って、逝きの良いトコ見繕ってよ♪」
「・・・なんと、姫様直々に御用命とは。 ならばこのガランカーズ、我が技の総てを使って、御提供頂いたモノを使用した最強最高の死徒をお見せいたしましょう!」
「最強最高だなんていう位だから、と~ぜん、ストライカーデュエルでヴェルルギュリウスのトコのお嬢ちゃんを、それはもう木端微塵も生ぬるいってくらいにしてくれるんだろうね?」
「それはもう・・・必ずや、御期待に応えて見せましょうぞ!」
「ま、期限は設けないから気長にやって。 低能にはあんまり期待してないからさ」
言うだけ言って、まるで誰もいなかったかのようにサミュラの姿は掻き消える。
「姫様の御期待に、必ず応えて見せまするぞぉぉぉぉーーー!」
ガランカーズの決意の咆哮は、工房全体を震わせる。
「たっだいまー♪ いやぁ良いことした後って気持ちがいいなぁ~♪」
「お帰りなさいませ、
モルテ様。 随分と御機嫌が宜しいようですね?」
「うん、まぁねぇ~♪ ボクもたまには愚民共に対して施しのひとつもしてあげなきゃって思ってたから、ちょうどよかったよ」
「・・・それで、『ゲート』経由でお持ちになられた、異界で使われている武装類。 今はお持ちでらっしゃらないようですが、どうされたのですか?」
「へ? なんのことかなぁ~? ボクぜ~んぜん、わっかんないやぁ~?」
「そうですか、分かりました。 では、こちらの『りようりょうきんふりこみめいさいしょ』というお手紙は焼いて捨ててしまいますね?」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょおっとまったぁ! それ捨てられたらiPhon止められちゃうから! ホント困るよマジで!」
「では、お話頂けますね?」
「もるる・・・えいやぁ!」
「きゃあっ! あ、もう! 逃げ足だけは毎度速いんですから・・・」
「さてっと、なんとか明細は取り返したし、お振込みしてこないとねー。 流石に今回はサミュラには頼めないから・・・ラーのとこのチビスケに頼んで払ってきてもらおっと」
それから幾年。
スラヴィア全土に名高き髑髏王《ザ・スカル》ヴェルルギュリウス邸の門扉が開かれる音が屋敷に響く。
「御父様、只今帰りました」
「おおお、お帰りヴィルヘルミナ。 ところで・・・今日はヤツはおらんのか?」
「主様なら、御客様と別の御用があるとのことですので、別行動です。 明後日には死都カビセラ・ポノミレスへ向かい合流の予定です」
「ぐむむ・・・あの小僧、良からぬ要求などしておらんだろうなぁ!?」
「いくら御父様でも、当人が居ない所での陰口など、許せたものではありませんよ?」
「それはだなぁ・・・」
「それに、主様には大変良くして頂いています。 先日も延の南部に生息する『大黒白』という巨大破滅獣の毛皮を使った、異界の『ぱんだ』という可愛らしい生物を模したハビッツを頂いて、昼夜問わずお役にたてるようになりました」
「昼まで働かされておるのか!?」
「スラヴィア以外の国には、昼間でないと行えない仕事というのがあるのですよ、御父様。 その不便を解消していただくための物です」
「だがなぁ・・・のぅ、ヴィルヘルミナ、帰ってくる気は」
「少なくとも主様が御隠れになるまでは、そのつもりは一切ありません」
「そ、そうか・・・」
ぴしゃりと言い切られて二の句が継げず、まだ幼い体躯だったころのヴィルヘルミナと二人並んだ絵画を眺めつつ「昔は何かにつけてパパ、パパ、と呼んでくれてのぉ・・・あんな子じゃなかったのにのぉ・・・」などとぼやく髑髏王を余所に、いそいそと美死姫《フロイライン》ヴィルヘルミナは自室へと向かおうとした、まさにその時。
「・・・む、貴殿自ら出向くとは珍しい。 審議候《ジャッジメント》、我が家に何用かな?」
突然の来訪者は、スラヴィア国土に知らぬ者は居ない、審議候キエム=デュエトその人である。
「事前に知らせも無く突然の来訪、御容赦頂きたい。 して髑髏王、御息女様は
ラ・ムールでお勤めの最中で?」
「それならば丁度良い。 先ほど帰ってきたでな」
自分が話題になっていると聞こえ気付いたヴィルヘルミナは、玄関へと引き返し、キエムへ一礼を向ける。
「お久しぶりに御座います、キエム様。 私に御用とのことですが、どのようなものでしょうか?」
「古来よりの慣習に従い、ヴィルヘルミナ=ヴェルルギュリウス様へ、ストライカーデュエルの催促状をお渡しに参りました」
「ストライカーデュエル・・・領主である御父様ではなく、私に、ですか?」
ストライカーデュエルとは、スラヴィア国事である「饗宴」の一形態で、当事者が持ちうるあらゆるモノ(領土・領民・財貨・爵位・駆動用の神力等)の総てを賭けた一対一の決闘。
従来であれば、領土あるいは荘園の主(あるいは定められた形式に従い申請された全権代行)が場に参ずるものである。
そう考えれば、領主である髑髏王ではなく分類上「配下」に属するヴィルヘルミナを名指ししての決闘催促状というのは、あるべき形からすれば認められない話だ。
だが、「饗宴」の総てを取り仕切り、協約違反者には時に武を以て制裁を断行する権能も持ち合わせる審議候が承認し催促状を持参した以上、特例が認められたということなのだろう。
「詳しくは、こちらの催促状にてご確認を。 それでは、私はこれにて失礼させて頂きます」
「はい。 催促状、確かに頂戴いたしました。 御足労頂きありがとうございます、審議候。 マリアージ様にも宜しくお伝え下さいませ」
「心得ました。 では失礼」
文字通り風に乗り、審議候キエムは髑髏卿の館を後にする。
居間にて親子で決闘催促状を開き、改めて確認すれば、やはり指名はヴィルヘルミナ。
「差出人は・・・パングルサガーン並びにガランカーズ、とありますが・・・御父様、御存知でらっしゃいますか?」
「バンクルサガーンというのは聞いたことがあるな。 少し前の饗宴で、オズモート卿軍の隠し玉としてガラドリー卿が憑代にしておった重装鎧やら配下を、爆発を引き起こす武器で粉微塵にした輩じゃの。 じゃが、ガランカーズというのは聞かぬ名だな」
「今回の決闘については、作製物《クリエイション》同士にて執り行う形となるため、私を指名しての決闘が成立した、とのことです。 ということは、父様と同じく被造式死徒精製者《クリエイター》なのではないでしょうか」
「成程のう・・・じゃが、儂の耳にも届かぬ所に、ミーナを相手取る自信があるだけのモノを作れる精製者がいたとはのう」
ヴェルルギュリウスは早速、決闘規定に反しない限りの情報を集めるため、伝令を送り情報収集を開始する。
一方ヴィルヘルミナは手持ちの荷物より薄い板を取り出し、
「えと・・・けっとうに、およばれしたので、ごずいはんには、おひにちを、いただきたいと、おもいます、と・・・これで『送信』ボタンを押す、だったかな? えいっ」
「何をしておるんじゃ?」
「主様に、今回の決闘について便りをお送りしておきました」
「書簡も持たずに便りじゃと? むむむ・・・何やら面妖なことをしておるのだな」
「私にも良く分からないのですが・・・主様はとりあえず便利だから使っておけと仰るので」
「自分でも良く分かっていないものを使わせておるのか、小僧は」
「異界の方でも、完全に装置の機構や便りが送れる仕組みを理解して使っている方は極少数しかおられないそうですよ」
「おかしな話じゃのう」
「異界には『行き過ぎた科学技術は魔法と区別がつかない』という言葉があるそうですが、まさにその通りです」
「ふむ・・・それにしても、一体どういう目的でミーナに決闘を申し込んだのかのぉ」
「ヴォーダン兄様の後継である私を打倒することで、死徒精製者としての名声を売りたいのではないでしょうか。 返り討ちにして差し上げますが」
「うむ、それが良いだろうな」
ひとまずは当日にならなければ分からないこともある、ということで、髑髏王親子は情報収集の結果を待つことにした。
ある程度情報がまとまっても、やはりガランカーズという死徒の情報はマイナーすぎて浮かんでこない。
大々的に取り扱われるバンクルサガーンを余所に精製者へ話題が向かないあたり、よほど名が売れていないのだろう。
情報収集の中で分かったのは、バンクルサガーンという死徒は異界製の装備を数多く所持し、それらを駆使して戦うのだという事と、毎回使用する武装を変え定型の戦法を定めさせない手管として機能しているのだという事。
髑髏王が収集した情報を手にヴィルヘルミナは死都カビセラ・ポノミレスへ向かい、「主様」と合流する。
「・・・ということだそうです、主様」
「ニャるほどね。 で、暇つぶしに見てたつべにちょうどその相手の饗宴風景上がってたから保存しといたぞ。 見るか?」
「しかし・・・協定違反にならないでしょうか?」
「タイマン決闘である以上、過度に相手方を詮索したり、直接あるいは間接的接触により双方が完全に万全な態勢で臨むことが出来ない状況をもたらすことは許されない、だっけ?」
「はい、そうです」
「にしても、なんで俺こんな饗宴ルールに詳しくなってんだろうな? 俺これでも他国民でナマモノだぜ?」
「何度も饗宴にご出場されておられるからではないでしょうか」
「だよなぁ・・・ま、グレーゾーンをあえて踏みに行くこともないか。 応援してやるからがんばってこい」
「心得ました」
ヴィルヘルミナと「主様」は、そんな念話を交わす。
なお、この状況を傍から見れば、カフェのオープンテラスでクールティーを燻らせつつ無言のままタブレット端末を肉球でぽふぽふいじる猫人の耳をパンダの着ぐるみが無言でモフる、という異質感溢れる光景であることを付け加えておく。
一方、その晩。
「ついに我が最高傑作バンクルサガーンが死都大闘技場に見える時が来た! それもこれも、長年ワシの作品を私兵として登用し続けて頂いたオズモート様の御厚意と、何よりも姫様より賜った数々の武具のおかげよ!」
ガランカーズは用意された一室で、バングルサガーンのアタッチメント武装を部屋中に並べ、いよいよ明晩に迫った一大決戦に向けての武装選びを始める。
並びに並んだ武装類は、近接用なら刃物なら異界の技術で作られたナイフや異界刀、特殊な部類ならばスタンガンやパイルバンカー。 遠距離用ならばハンドガン類に機関銃各種、対戦車ライフルからバズーカ、ロケットランチャーに至る。
もはや異界人が携行しうる武器の博覧会の様相を呈している一室に、ガランカーズの笑いが木霊する。
「さぁ、明日に向けて何を取り付けてやろうかのう! 今から髑髏王の悔しがる顔が楽しみじゃわい! ぬわっはっはぁ!」
歓声渦巻く死都大闘技場。 それもそのはず、本日は饗宴の華、美死姫ヴィルヘルミナの久方ぶりの出場とあっては、沸かない理由はない。
興業も順調に進み、その時が近づくにつれ、例え前座試合であったとしてもその盛り上がりはかなりのものとなっている。
「この空気に触れるのも、久しぶりです」
「俺は今回観客だから気楽でいいや。 で、だ。 ミーナ、イブニングとフォーマル、どっちがいい?」
「相手は異界の爆発物を多用する相手ですから、フォーマルで」
「あいよ、ホレ。 じゃ、また後でな」
控室を訪れた「主様」に差し出された黒のフォーマルスーツに着替え、ヴェルルギュリウスの家紋とラ・ムール国印をあしらったタイを締める。
首からは鑓のネックレス、右手にヴォーダンの大戦斧を携え、ヴィルヘルミナは出場の時を待つ。
「この歓声がワシへの賞賛に変わると思うと、楽しみじゃのう! そうは思わんか、バングルサガーンよ?」
バングルサガーンは何も答えない。 そもそも機微を露わにするような機能自体が搭載されていない。
彼に搭載されているのはただ、敵と設定された対象を、指示に従い動かなくなるまで破壊するために必要となる思考と判断力のみ。
「まずは出会い頭に一発かましてやれ! そこから先は完全破壊じゃあ!」
「ま゛」
<さて皆様・・・大変長らくお待たせいたしました>
審議候の一声に、鳴り止ませるのは困難を極めるかに思える大闘技場は一瞬で静まり返る。
<今宵皆様が眼にして頂くことになるのは、我ら死徒が持つ可能性を追求した、実用品にして芸術品の頂点を賭けた大一番でございます>
本日の来客の半数以上が待っていたマッチカードが、いよいよ始まろうとしている。
<それではまず、東門より入場いたしますは・・・忌むべき陽光に愛された砂漠の大地に一人旅立ち、そしてその力と美に更に磨きをかけ、今宵のために帰還したこの御方! 美死姫《フロイライン》ヴィルヘルミナ、推参!>
会場全体が、大歓声と共にヴィルヘルミナの入場を出迎える。 大歓声の中戦地へ足を踏み入れたヴィルヘルミナは、軽い会釈を観衆に返して中央へと進む。
<相対しますは、西門よりの入場! 恐るべき異界武装に身を包む、硝煙と破壊の権化とは正にこの事! 作製物《クリエイション》と異界技術の融合という、新たなる可能性の確たる姿を見せつけるか! バングルサガーン、入場!>
観衆からの冷ややかな出迎えも意に介する事無く、バングルサガーンはずかずかと戦地へ歩を進める。
<なお本戦におきましては、スペシャルコメンテーターとして、先日の饗宴でも御活躍頂いた『壱発逆転王』ディエル=カー・ラ・ムールをお迎えしております>
<おっす、おらカー・ラ・ムール。 ミーナに服渡した後舞台袖うろついてたら誘われちまったい>
<さてこの一戦、フロイラインについてはよく御存知かと思われますが、バングルサガーンについてカー・ラ・ムールはどう見ますか?>
<異界の火器を盛り込んだってコンセプトは面白いんじゃないですかね? ま、奇を衒った戦い方が通じる内だけが華の息の短い立ち位置じゃないかと>
<これは手厳しいご意見が飛び出しましたね>
<大陸の端っこの方まで行ったり北海あたりまで繰り出せば、火薬炸薬でどうにか出来る相手ばかりじゃないってことは良く分かってるんでね>
<流石は『未踏破』という概念を逆転させたと言われるだけの事はありますね>
<いやぁ、別に大したことじゃないですよ。 行く気になれば誰でもできますって>
<成程・・・さて、双方ともウォーミングアップも終わり、いよいよ幕開けの時です!>
高らかに決闘の開幕を宣言する審議候の声と同時に
「ま゛」
バングルサガーンの左膝が割れ、中からロケット砲弾が景気よく噴煙を巻き起こしつつヴィルヘルミナ目がけて空を翔ける!
「機先を制する者が戦を制する、とは良く言ったものですが」
ヴィルヘルミナは開いた左手で眼前のロケット砲弾を掴み
「高火力の射撃一発のみで、というのは目検討が甘すぎます」
まるでロケット砲弾と踊るように一回転、ヴィルヘルミナの手元を離れたロケット砲弾は進行方向を180度転換して飛び立つ!
<フロイライン、ガラドリー卿の重装鎧を粉砕した砲弾を、なんと手掴みの上投げ返したぁ! 御観覧のナマモノの皆様、炸裂の衝撃音にはお気を付け下さいませ!>
キエムの実況の声を待たず、バングルサガーンは後方に退避しつつ腰に下げたパンツァーファウストを投げつけ、ロケット砲弾を爆砕しにかかる。
<なんという爆音、なんという衝撃! 異界の武装というのはなんとも派手なものです!>
<『向こう側』だと、あんな武器は『戦車』っつー全身鋼鉄で作った自走する車や砦を破壊するためだとか、建屋内に立てこもってる所にブチ込むのが主流の使い方みたいだけどな>
<お詳しいですね、カー・ラ・ムール。 やはり国主としては異界の武装にも関心がおありで?>
<先代が大ゲートから来た『向こう側』の軍隊と交戦・交渉した記録とかもあるからね。 それにこっちでも利用できる便利なものは使っていくためにも、調べは進めておかんとね>
<成程。 さて、改めて戦場を見やれば、フロイラインが近接戦を挑みにかかる!>
炸裂の粉塵を潜り抜け、豪斧を構えて接近するヴィルヘルミナに対し、バングルサガーンは右第一腕のチェーンソーと左第二腕に設えられた異国刀で迎撃を試みる。
だが、心得も無くただ力任せに振り回すだけのバングルサガーンの迎撃は、ヴィルヘルミナの意に介するまでも無く、豪斧の破壊力の前にチェーンソーは真正面から砕かれ、異国刀も綺麗に鍔のところで切り落とされる。
「主様の『神殺』やザンマ様の『蒙雷』に良く似た武具ですが、使い手の程度が劣れば対処は楽ですね」
さらりと言ってのけるヴィルヘルミナの、戦地にありながらも涼やかな姿勢に、会場からは感嘆の声が漏れる。
「な、なぜじゃあ!? 姫様がワシのために御用意頂いた異界の武具が悉く通じないとは!」
ガランカーズは目の前の光景が信じられないでいた。
鬼人種の鋼の骨すら砕き、動鎧骸《リビングメイル》の体すら穿ち、爵位死徒であっても撃退するだけの破壊力を揮い勝利を収めてきたバングルサガーンの悉くが、ヴィルヘルミナに通じない。
「ぐぬぅ・・・ならば、奥の手を使うしかないかの。 本来の予定とは変わってしまったが、それはそれでやり様はあろう・・・!」
サミュラから賜った(と信じて疑わない)異界の武器のうち、バングルサガーンの戦闘コンセプトからして活用できなかった武装を取り出し、観衆の喧騒の中に紛れるように消えて行った。
<両腕を一本ずつ切り離し身軽になったバングルサガーン、異国武具を乱射、乱射、乱射!>
速射性に優れる機関銃と面制圧力に優れる散弾銃をそれぞれ数基ずつ備えた右第三腕・左第一腕で弾幕の雨霰を降らせるが、豪斧を両手で眼前に構え高速旋回する盾とすることで弾丸は次々と弾かれていく。
<皆様、跳弾にはお気を付け下さいませ!>
<おいミーナ! 弾が散、っぶね! こっちにも飛んできやがった! ソレ止めい!>
「皆様申し訳ございません! お詫びは後ほど改めて!」
弾き落とす防御では被害が出るため、ヴィルヘルミナは回避に専念するスタイルに切り替える。
「注意喚起しつつもしっかり右半分全弾叩き落すあたり、流石は風精を繰らせれば仙人以上と言われる最強死徒の一角だけのことはあるな」
「観衆の皆様がご覧になる邪魔にならないよう、一瞬で左半分に透明の氷壁を立てて防ぐあたりも流石としか」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
司会席の謙遜合戦を余所に、残弾が尽きかけたバングルサガーンの射撃はいよいよ終わりの時を迎えようとしていた。
「速攻勝負ばかりだと伺っておりましたから、撃ち出す弾が無くなるという経験自体が無いのではないですか?」
バンクルサガーンの左右三対ある腕のうち、一対は得物が砕かれデッドウェイトとなったため投棄、一対は弾切れによりただの鉄塊となっている。 残る一対は右がスタンガン、左がコンバットナイフという近接戦用武装のみ。
豪斧に対しナイフ一本で切りかかる光景に、傍目に見ても勝敗が決したかに見えたその時、バンクルサガーンの口から声が漏れる。
<ヴェルルギュリウスの作製物、聞こえるかの?>
声の主はガランカーズその人。 バングルサガーンの口内に設置した無線機を通じて、近距離でしか聞こえない声量で話しかけてくる。
<今ワシは、バングルサガーンに装着したものより遥かに遠くを狙える武具を持っておる。 この意味が分かるか?>
「そちらから申し出たストライカーデュエルにも関わらず、負けそうになった途端に外野から狙撃の脅迫、ですか。 嘆かわしい・・・」
ヴィルヘルミナは呆れ顔で批難の声をぶつけるが、声の通りは一方通行らしく、ガランカーズには届かない。
「ふむ、あまり感心しない行為が行われていますね」
「アレでバレてないと思ってんだろ。 狙撃銃っつったっけかな、ありゃ。 こっちの真正面の外壁を頑張って登って、縁の装飾に身を隠してるつもりなんだろうけど、あんなに殺気だだ漏れじゃあなぁ」
「ガランカーズ殿は狙撃を盾に、攻め手を緩めさせる算段を一方的に勧告しているようですね」
「小物の考えそうなこった。 あ、照準オレだ。 やっべーお命頂戴されちまうわー」
「あろうことか生者を狙うとは、なんと愚かしいことか。 処遇の程は如何いたしましょうか? サミュラ様にもお伺いは立てておりますが」
「好きにやらせりゃいいさ。 撃ってきたら無論殺りに行くけど、いいよな? 正当防衛ってもんを思い知らせてやんよ」
「畏まりました」
<今、照準を実況席に向けておる。 この引き金を引けばどうなるか・・・ふっふっふ>
「実況席の御二方が、その行いに気付いていないとでも思っているのでしょうか。 それに、ナマモノを実際に射殺すればペナルティとなりますのに。 仕方ありません、面倒になる前に終いにしましょう」
振り上げの挙動でバングルサガーンの最後の右腕を切り飛ばし、強烈な蹴りで吹き飛ばしたヴィルヘルミナは鑓のネックレスに手を添える。
「我が眼前の、主様に仇為す敵を滅します。 来たれ、『邪滅』」
鑓の飾りが、ヴォーダンの豪斧を凌ぐ巨大な鑓となり、ヴィルヘルミナの左手に収まる。
<あれはもしや、神話に名高き名鎗、覇砂王の神器では!?>
<いいねぇそういう反応。 博識の癖に初見らしいリアクションにわざとらしさが感じられないところ、俺好きだぜ?>
ヴィルヘルミナの両腕が揮われ、防ぐ術を持たないバングルサガーンはただ黙って斜め十文字にその身を斬られるのを受け入れるのみ。
その勢いのままさらに振るわれた左腕は、
「あらいけない、手が滑ってしまいました」
邪滅を徐に手放す。 邪滅はガランカーズがそれを認識することすら叶わぬ速さで回転運動を伴い飛翔、ガランカーズの上半身と下半身を分断し、そのまま弧を描き再びヴィルヘルミナの左手に収まる。
<鑓斧二刀流の強烈な一撃が決まったぁ! バングルサガーンの行動不能を確認、フロイラインの勝利を以て、本決闘を閉幕と致します!>
割れんばかりの歓声と称賛の嵐に会釈で応じ、ヴィルヘルミナは東門へ向かい、興奮覚めぬ戦地を後にした。
<終始フロイラインの圧倒という、下馬評通りの展開となりましたね>
<今日までの相手方の戦歴を見れば、無理もないんじゃないですかね? 炸薬のおかげで見た目こそ派手ですが、実質的に初撃でしか勝負決めてませんし。 初見インパクト勝負でしか勝てないヤツがウチのミーナに勝てる道理がないですな>
<臣下自慢を交えつつの御解説、ありがとうございました。 今回は作製物同士の決闘となったわけですが、雌雄を決した最大の要因は何処にあるとお考えですか?>
<戦闘に関する各種経験等もあるでしょうが、やはり一番の差は、精製者が我が子の様に接する愛情と、それに応えようとする作製物の心意気じゃないですかね。 相手方も今回の一件が父性愛自覚の切欠になったかと>
<成程、精製者と作製物双方の絆が大きな力になる、ということですね。 全国の精製者の皆様、ご参考になりましたでしょうか? それではこれより舞台整備を兼ね暫しの休憩時間となります。 休憩室や医務室へ向かわれる方は、今のうちに御用向きをお済ませくださいませ>
次の饗宴に舞台が注目する最中の天覧席には、下半身不在のままのガランカーズと共にオズモートが召還される。
「オズモート、ガランカーズ、先刻の件について申し開きはありますか?」
静かで穏やかながらも、凄まじい重圧を、サミュラの言は放っていた。
「ひひひ姫様、私は今回の件については何も知りませぬぞ! 総てはこのガランカーズの勝手な行いによるものです!」
「そうなのですか、ガランカーズ?」
「・・・申し開きのしようも御座いませぬ。 バングルサガーンの勝利に執着するあまり、行き過ぎた真似をしてしまったと、今は猛省しております」
「我が子可愛さの余り、ということですか。 幸い何事も無かったですし、既に処断は済まされていると判断いたしましょう。 今回に関しては、異界の武装類の全破棄と、今施した封が解けるまでの間、下半身及び外付け脚部の使用を禁じます。 次は厳罰を以て処します。 良いですね?」
「寛大な御処置、ありがとうございます」
特にオズモートは自分に一切の咎が来ないことを安堵し、二人そろって嘆息を漏らす。
「さて、話は変わりますが・・・ガランカーズ、貴方の作製物に使用した異界の武装類ですが、あれだけの分量をどこから調達したのですか?」
「いえ、あの、あれは姫様より直接ご供与頂いたものですが・・・?」
「・・・そうですか、分かりました。 オズモート、ガランカーズ、もう結構です」
「此度は我が臣下が大変なご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした。 行くぞ、ガランカーズ」
「畏まりまして御座います。 では、私も失礼いたします」
ガランカーズを小脇に抱え、オズモートは天覧席を退室する。
「やっぱり、モルテ様の差し金だったのですね・・・はぁ」
やはり頭が痛いサミュラであった。
饗宴を終えたヴィルヘルミナは、戦勝報告を兼ね帰宅していた。
「先の饗宴も見事な勝利であったぞ」
「ありがとうございます、御父様」
「して、小僧はどうした」
「主様なら、サミュラ様との会談の御用向きがあるとのことで、また別行動です」
「そうか・・・して、いつまで居られるのだ?」
「明朝には発ちます」
「なんと!? もっとゆっくりしていけんのか!?」
「私にも仕事がありますので。 急な饗宴で帰城の日程もズレてしまったので、これ以上お暇は頂けません」
「そ、そうか・・・」
「それはそうと、重要な要件も無いのに使いを寄越すのは止めて下さい。 夜警の者や宿直の係員が迷惑いたしますので」
「じゃ、じゃがのう・・・」
「じゃがもさつまもありません。 お願いしますね、御父様」
「ぐぬぬ・・・」
「では、私は休みますので」
明朝出立の準備のため、ヴィルヘルミナは早々に部屋に戻る。
一人取り残された髑髏王は、居間に飾られた故ヴォーダンの絵に向かい、
「ヴォーダンよ・・・これが反抗期という物なのかのぉ・・・年頃の娘の考えることは分からん・・・」
などとぼやくのであった。
- 徹底したバトルとアクションに振った流れは清々しいです。登場人物は多いですがそれぞれがちゃんと立っているので読んでいても迷いませんでした。すっかりスラヴィアに溶け込んでいるディエルとどんどんおいて行かれるスカルパパの面白哀愁が印象深かったです -- (名無しさん) 2014-06-29 17:14:51
最終更新:2014年06月29日 17:11