「ヴィルヘルミナ!ヴィルヘルミナは居らぬかー!」
スラヴィア北方の古城にしわがれた怒鳴り声が鳴り響く。
豪奢なマントを羽織った一体の年老いたリッチ。
虚ろな両の眼窩の奥底には、蒼白い炎が揺らめいている。
この怒鳴り声の主こそ、この城の主人、スラヴィア随一の屍体造形家『髑髏王』ヴェルルギュリウス伯爵である。
ヴィルヘルミナ、我が娘よ…
ひとしきり娘の名を呼んだ後、髑髏王は深い溜め息を付いた。
ヴィルヘルミナは、「特別」だった。
他の貴族達のように、かつて生身の人間だった訳ではない。
動甲冑や呪いの人形のように、単なる器物に「力」が宿った訳でもない。
ヴォーダンや他の作品達のように、死体のパーツを組み合わせて造り上げた訳でもない。
骨格も、内臓も、筋肉も、五感も、ゼロから設計された究極の戦闘人形に、髑髏王自らの「力」の半分を分け与えたのだ。
彼女は純粋に「戦闘」の為にデザインされた、この世界で唯一の「種」なのだ。
本来であれば、ヴォーダンやあの鎧のダークエルフはおろか、髑髏王自身ですらヴィルヘルミナを斃すことは至難の業であろう。
唯一彼女に足りないものがあるとすれば、それは戦闘と殺戮の経験だった。
経験さえ積めば、かの「放浪卿」とも互角以上に渡り合える。
究極の魔物、美と恐怖の化身が誕生する…
はずだった。
髑髏王の想いを破るかのように、たたたたた、と廊下を走る足音がもの凄いスピードで近づいてくる。
そのまま立ち止まらずに巨大で分厚い扉をばん!と蹴り破って部屋に転がり込んできたのは
ひらひらふりふりの黒いチューリップドレスに身を包んだ12、3歳くらいの
アンデッドの少女だった。
「お呼びでございますかお父様ぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ~~~~~あ゛っ」
勢い余ってごろごろ部屋を転がり反対側の壁にぶつかってやっと止まったヴィルヘルミナは
上下逆さで両脚をおっぴろげた率直に言って非常にはしたない格好で父の呼びかけに応えた。
「…レディともあろうものがはしたない。スカートを直しなさい。ぱんつが丸見えじゃ。」
「はい、お父様!」
ヴィルヘルミナはシュタッと起き上がり、ちょっとお澄まししてスカートの両端をちょんと摘んでお辞儀をした。
その拍子にぺろりと顔面の表皮が剥がれ落ち、つるんと丸く愛らしい髑髏の素顔が顕わになる。
「…これ、顔の肉が落ちておるぞ。」
「あっ、いっけなーい。」
眉間を押さえる髑髏王を尻目に、床に落ちた顔面の肉を拾ってぺたぺたと頭蓋骨に貼り付けていく。
ヴィルヘルミナは顔をぱんぱんと押さえて、もう一度お澄まししてお辞儀し直した。
「お呼びでございますか?お父様。」
「…うむ。お前を呼んだのは他でもない。これから重要な事を伝える故、心して聴くが良い…」
ヴィルヘルミナはゴクリを生唾を飲んで頷く。
「…次の『饗宴』を、お前のデビューとする。」
「でっ、でびゅーですか、お父様!」
「うむ。ついてはそれに必要な戦績を貯める為に幾つか野試合を組む必要が…
聞いておるのか?娘よ。」
しかし、ヴィルヘルミナはまったく聞いていなかった。
「でびゅー…このヴィルヘルミナがでびゅー…ちょっと早い気もするけど、お父様の為さることだし間違いなんかあるはずないわよね!
『夜の饗宴』…ああなんて淫靡で退廃的な響き…きっと素敵で逞しい殿方とあんなことやそんなことを…きゃ~~!!」
「…何がきゃ~~か。お前はスラヴィア貴族の子女のくせに『饗宴』の何たるかも知らんのか。」
「勿論存じ上げておりますわ。ですから満月の夜に野外のステージで衆人環視の下、素敵で逞しい殿方とあんなことやそんなことを…きゃ~~!!」
「…間違ってはおらぬが、お前が言うとどうも別の意味に聞こえるのう。」
「それはお父様の心が穢れているからですわ。」
「お前に言われとうは無いわ!…まあよい。先ほども言ったとおり『饗宴』デビューに際して一定の戦績が必要じゃ。
娘よ。今日から『饗宴』までの間、野試合でそこらの死人どもの首を狩って参れ。雑魚ではいかんぞ。最低でも貴族の首が3つは必要じゃ。」
「かしこまりました、お父様!このヴィルヘルミナ、『髑髏王の娘』として、父の名を辱めぬよう全身全霊で励んで参ります!」
「実力的には何の問題も無いはずじゃが、何故か不安を拭い切れぬのう…」
しかし娘は父の不安などどこ吹く風、壁に架けてあった今は亡き「赤眼のヴォーダン」の巨大戦斧を片手で掴んで軽々と一振りした。
「よしっと。それではお父様、行って参りまーす!」
重量一トンもの戦斧を引っ下げて風のように走り去っていったかと思いきや
大穴の空いた巨大な扉からにゅっと顔を出して髑髏王の娘は言った。
「ご安心あそばせお父様!ヴィルヘルミナは必ずや素敵な殿方をゲットして参りますわ!」
「さっさといかんかい!」
髑髏王の雷撃をひょいっとかわして、たたたたた、と廊下を走る足音が遠ざかっていく。
年老いた髑髏王は、豪奢なテーブルに手を付いてガックリと肩を落とした。
究極の魔物となるはずだった我が娘よ…
骨格も、内臓も、筋肉も、五感も、純粋に戦闘だけの為にゼロから創り上げた完璧な肉体のはずだった。
唯一不完全だったのは…
…オツムの出来が非常に残念だった、その一点だけであった。
髑髏王は深い、深い溜め息を付いた。
end
●あとがき
読んで頂きましてありがとうございましたー!
【饗宴の夜】の続編です。アホな話で済みません…
でも髑髏王とその娘は個人的にお気に入りのキャラなので、ネタがあったらまた書いてみたいです!
ヴィルヘルミナとダークエルフの女戦士(名前はまだ無い)が遭遇したらどうなっちゃうんでしょう。
モルテ様や屍姫様と絡めても面白いかも…?
相変わらず勢いまかせの拙い作品ですが、ちびっとでも楽しんでいただけたら幸いです!
- 戦斧を受け継いでの次なる作品は大男と打って変わって少女になった髑髏王の心境変化も気になる所。 しかし創造主は大概“心”というものを余り理解できていない者が多いが、ヴィルはどの様な道を歩むのか。 賢さへの振り直しも重要だけど、その前に顔皮の固着を急ぐんだ -- (名無しさん) 2012-03-27 23:52:13
- ああ、そういうキャラ付けなのね。って感じ。イメージしやすい分おもしろ味にかける -- (名無しさん) 2012-03-28 03:29:45
- ミーナちゃんは無理に淑女目指さずに元気なアホの子でも良かったんやでー! -- (名無しさん) 2012-05-13 06:14:11
- ゼロから造り出して自らの半分を与えたとなるともう親子も同然になるんでしょうか。魂や心を持つものを創造できたのは髑髏王にそれだけの力があったという証拠? -- (ROM) 2013-02-20 16:14:33
- ゴシックな舞台でドタバタコメディ。スラヴィアという国の一面を端的に表してる。大貴族の髑髏王も娘の前では心配症のお父さん -- (名無しさん) 2013-03-09 20:43:50
- ギャグというよりも和んだ。髑髏王が娘を造った最たる動機とは? -- (名無しさん) 2014-09-21 15:19:13
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最終更新:2013年04月01日 22:29