自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月16日  05:20  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「展開急げ!!」  

未だに現役の89式小銃を構えた隊員たちが散らばっていく。  
ヘリコプターを中心に円を描くように、そしてすぐさま命令が届き、かつお互いを援護できる限界まで距離を空けて。  

<離陸する!またのご搭乗を心よりお待ちしております!>  

テンションを維持したままの声と内容でヘリが離陸し、あっという間に大空の彼方へと飛び去っていく。  
すぐさま陸曹が駆け寄ってくる。  

「各班問題ありません。小隊長殿?」  
「前進だ。油断はするな」  
「了解」  

短いやり取りの後にすぐさま小隊の方針は達せられた。  
一斑を中心に、各班がそれなりの許可を取りつつ前進を開始する。  
今のところは負傷者も戦死者もなし、というか、周囲には先発隊による攻撃に晒された惨殺死体しかない。  

「小隊長殿」  
「なんだ?」  

三班を任せている三曹が駆け寄ってくる。  
その表情は硬く、そして目は血走っている。  

「自分の班を先発させてください。交戦法規は事前のままでいいんですよね?」  

事前のままというのは、捕虜を取るな、捕虜になるな。という単純なものだ。  
我々は積極的な平和維持活動を実施しているだけであり、これに楯突くものは平和の敵、その処罰に関しては現場の判断に一任する。  
ということだそうだ、上層部の責任の放棄ではなく、あくまでも殺害は事前に許可された状態で、殺すか殺さないかは現場の自由なのだそうだ。  
まぁ、やりやすいといえばそうだが、一体自衛隊はどうなってしまったんだ?  

「交戦法規の遵守を心がけろ、捕虜になることも部下を死なせることも許可しない。いいな?」  
「了解しました。それでは先発します」  

敬礼する手間すらも惜しむ様子で奴は駆けていった。  
待機している三班の連中と少しだけ会話を交わし、彼らは最前列に立って進みだした。  

「どうしたんだあいつは?」  
「さあ?人間を撃ちたくてウズウズしているのでは?」  
「病んどるなぁ」  
「さ、小隊長殿、我々も進みましょう」  

俺のコメントを無視し、小隊は前進を開始した。  
周辺は前方で燃え盛る村を頂点として、あちこちで何かが燃えているために非常に明るい。  
まあ、全ての普通科に配給されている暗視装置のおかげで何もせずとも視界には困らんがな。  

「しかし、こりゃあ完全な虐殺だな」  

視界全てに広がる殺戮の成果物を見つつ呟く。  
イブニングライナー達は思う存分暴れたらしい。  
あちこちに人間の残骸が広がっている。  

「かなり派手にやったんだなぁ。死んだ振りをしている奴に気をつけろよ」  

最前列を進む三班は、周辺警戒を行いつつも燃え盛る村の付近へと到着した。  
上空では警戒を続ける戦闘ヘリコプター達の爆音が響き渡っている。  

「この村の連中もなんとか抵抗だけはしていたようですね」  

村の入り口らしい場所には、大量に矢が突き刺さり血液がデコレーションしたオブジェがあった。  
もちろんその周辺には死体の山がある。  

「これは、ドワーフっていう奴か?」  
「そのようですね」  

破壊された廃屋に注意しつつ三曹と陸士長が会話している。  
その周辺では陸士たちが安全装置を解除した小銃を手に、遮蔽物の陰で待機している。  

「前方の塔が問題の場所だな」  

燃え上がる村の中、中心にそびえる塔のみが未だに火災から逃れていた。  
その周辺では敵と定められた連中が騒いでる。  

「あれは、突入しようとしているのか?」  
「そのようですね。あの頑丈そうな扉に邪魔されているのでしょう」  

剣ではなく木槌を持った連中が、必死に入り口らしい扉を叩いている。  
だが、鉄製と見える扉はびくともしない。  

「小隊長殿?」  
「周辺警戒は怠るな。一斉射撃でカタをつける。俺の射撃で攻撃開始だ。配置につけ」  
  
すぐさま命令は達せられ、遮蔽物と後方の視界を確保した隊員たちは、それぞれ近くの敵部隊へと照準を定めた。  
自動小銃や軽機関銃に狙いをつけられたことを知らない敵軍は、雄たけびや罵声を上げつつ塔への攻撃を継続している。  


ノービス王国暦139年豊潤の月六日  地図にない村  連合王国王立神聖騎士団第六大隊  

「気合を入れろ!ぶち破れ!!」  

重いハンマーを扉へと叩きつける部下たちに指示を出しつつ、大隊長は空を見上げた。  
恐らくはダークエルフたちが召喚したであろう竜たちは、聞いた事もない羽音を相変わらず轟かせている。  
先ほどまで周辺では熾烈なブレスによる攻撃が行われていたが、不思議な事にここに攻撃が来る事はなかった。  
軍師によると、恐らくは威力が大きすぎ、術者たちが近いここには攻撃が出来ないのだろうという事だが、まあ攻撃されないのならば事情など何でも良い。  

「まだ破れんのか!早くしろ!!」「何をやっているか無能どもめ!!」  

二等騎士たちが兵士たちへと怒号を上げる。  
緊急時の避難所として用意されていたらしいこの塔は、恐ろしいほどに防御力が高かった。  
  
「状況はあまりよくありませんな」  

塔を見上げつつ軍師が呟く。  
頑丈な石造り、かつ鉄板を随所に貼り付けたこの塔は、本格的な攻城装備を持っていない彼らには厄介すぎる代物だった。  
窓はかなりの高さにしかなく、とてもではないが急造の梯子などでは届かない。  
唯一の進入手段である扉は、頑丈な鉄で作られ、さらには魔法処理すらされているようで、木槌程度では破れない。  

「うむ、ここを破らない事にはどこにも帰れない」  

恐らくこの塔から離れた途端、空を飛び回る竜たちは我々に喜んでブレスを吐きかけるだろう。  
そうなれば一巻の終わりだ。  
人間の術者程度でそれを防ぐ事はできないだろう。  

「早く破るんだ!早くしろ!!」  

焦った三等騎士が叫び、そして彼の頭上に重い石材が激突した。  
一撃で頭を押し潰され、彼は絶命した。  
  
「攻撃だ!逃げろ!!」  

命令と悲鳴が飛び交い、そこへ石材やファイヤーボールが飛び込んだ。  
高いところから落下するものというのはそれだけで脅威だが、それが重い石材や燃え盛る火炎だというのは脅威を通り越して悪夢である。  
すぐさま弓兵たちが応戦するが、ファイヤーボールはむしろそこを狙ってくる。  
  
「逃げろぉぉぉ!!!」  

指揮を取っていた十人兵長が逃げ出しつつ叫び、直後に彼の部下たちは全滅した。  
もちろん四方八方から矢を射るのだから、相手に与えた損害が皆無というわけではない。  
頭上から悲鳴が聞こえ、何人もの敵が落下してくる。  

「畜生、劣等民族どもめ、今日まで生かしてもらった恩を忘れやがって」  

忌々しそうに大隊長は上を見上げた。  
そもそも、今回の作戦はあくまでも懲罰的な意味合いのものだった。  
族長の娘だかなんだか知らんが、劣等民族にしては美しい娘を徴用しようとしただけなのだ。  
なのに連中は、何を考えたか知らんがこちらに対して攻撃を加えてきたのだ。  
しかも、いくら殺されようとも徹底抗戦。  
気がつけば村を焼き払い、そしてこうして最後の攻撃を行おうとしている。  
この村はもうおしまいだろう。  
それはどうでもいいが、この先、この地域からの物資の収益が減るのは痛いな。  

「大隊長殿?」  

怯えた顔つきの軍師が彼に声をかけたのと、攻撃が開始されたのは同時だった。  


西暦2020年1月16日  05:45  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「撃ぇ!!」  

叫びつつ発砲を開始する。  
PAPAPAPANN!!!!と、景気のいい音を立てて銃弾が放たれ、照準の延長線上にいた敵兵が倒れる。  
彼の発砲を受け、隊員たちは手短な敵兵向けて発砲を開始した。  
あちこちから89式小銃の、MINIMIの発砲音が鳴り響き、たちまちのうちに外周の敵軍は射殺された。  
「攻撃だ!」とか「敵襲!!」という警告の叫びが敵軍から聞こえてくるが、どうやらこちらを未だ発見できていないらしい。  
それはそうだ、太陽が昇り始めたとはいえ敵軍がいる場所は薄暗い広場で、こちらは炎を背に遮蔽物の陰から攻撃している。  
見えるはずがないのだ。  

「左は統制が取れている、射撃を集中しろ」  

最初こそ発砲したが、その後は射撃を控えている佐藤が指示を出し、部下たちは統制の取れている集団に攻撃を加え続けた。  
中世程度の軍隊で統制が取れているということは、全体へ指示を下すものがいる可能性が高い。という三曹の進言を受けたからだ。  
すぐさま射撃が集中され、敵集団が薙ぎ倒される。  

「上の連中はどうか?」  

双眼鏡を構えている陸士長に佐藤が尋ねる。  

「こちらの攻撃に唖然としているようです」  
「動いたら知らせろ」  
「はっ」  

今のところはこちらに攻撃するつもりはないらしい。  
頼むからそのままでいてくれよ。  
敵軍を睨みつつ、佐藤は心から願った。  

「左!」  
「わかった!」  

銃声に負けない大声を出しつつ、自衛隊員たちは統制された射撃を続けた。  
入り口周辺にいた敵軍は大混乱に陥っていた。  
周辺から聞きなれない音が鳴り響くたびに同僚たちが薙ぎ倒され、さらには頭上からの攻撃も再開されたからだ。  
逃げようにもどこへ逃げたらよいかがわからない。  
敵はどこにいるかわからず、上からは石材とファイヤーボール、矢の雨。  
この村の周辺は竜がうろついており、支援がないところを見ると周辺に展開していた本隊は壊滅している様子。  
恐慌状態に陥った若い兵士の中には、武器を棄てて泣き喚くものまでいる。  

「手榴弾!」  

陸曹の指示が飛び、何人かの隊員が投擲を開始する。  
閃光、爆発、悲鳴。  
敵兵が吹き飛び、混乱が拡大される。  

「三尉殿、投降を呼びかけますか?」  
「まだだ」  

指示を下していた三曹が尋ねる。  
しかし、佐藤はそれを却下した。  

「敵の数が多い。我々では扱いきれない」  
「しかし敵の戦闘能力は十分に奪っています」  
「まだだ」  

三曹と会話しつつ、佐藤は冷静さを保っている自分に驚いた。  
一方的な虐殺を行っているという認識は十分に持っている。  
敵軍は既に戦闘能力を喪失しており、塔の上からの支援攻撃もあって身動きが全く取れない様子だ。  
こちらは弾薬にはまだまだ余裕があり、さらに死傷者は全くない。  
しかしながら佐藤に攻撃を中止するつもりはなかった。  
彼にはわかっていたのだ。  
どうせ自分たちはこの作戦が終わっても前線に配置され続けるであろう事を。  
それならば、出来るだけ楽が出来るうちに血に慣れておいたほうが良い事を。  

「佐藤三尉!」  
「攻撃を続行しろ!!」  

とうとう肩を掴んできた三曹を無視し、佐藤は携帯無線へと叫んだ。  
正面装備よりもそれ以外に予算を投入した何年間かは無駄ではなく、今の普通科には十分な数の暗視装置や無線機などが装備されている。  

「これではただの虐殺です!わかっているんですか!?」  
「十分認識しているよ三曹、頼むから静かにしてくれ」  
「しかしっ!」  

必死に喰いすがる三曹を視界の端に入れつつ、それでも佐藤は攻撃を止めるつもりはなかった。  
たぶん上は怒っているのだろう。  
記念すべきファーストコンタクトを戦闘にしてしまった俺たちを。  
大勝利でも全滅でもなく、単なる撃退というよくわからない終わり方にしてしまった俺たちを。  
畜生、俺を主流から外しただけでは足りないのかよ。  

「攻撃を続けろ!」  

内心の暗い思いを振り払うように佐藤は叫び、そして彼の部下たちは攻撃を続行した。  
そして何人かの陸曹たちは、佐藤のその命令に喜んで従った。  
彼らは自分たちが置かれている立場を正しく理解しており、佐藤の考えを肯定していたのだ。  
アニメの主人公がいる部隊じゃあるまいし、自分たちばかりが次々と使いまわされる理由を察知していたのだ。  

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