第298話 TG58.3の奮戦
1486年(1946年)3月16日 午前6時 シホールアンル帝国西部 トゥラポン
西部の要衝の1つであるシュヴィウィルグから北東20ゼルド(60キロ)の森の中に設置された、とある秘密基地では、中部より配備されたワイバーン隊や
飛空挺隊が集結し、来たる偵察ワイバーンの報告を今か今かと待っていた。
そんな中、第129混成飛行団の第4攻撃飛行隊の指揮官を務めるハウルスト・モルクンレル大尉は、混成飛行団指揮官からの指示で、一緒の基地に配備された
第921空中騎士隊の指揮官、ルフェイヴィ・グヴォン大佐を基地の待機室まで来るように伝えるべく、彼の官舎に向かったのだが、何故か彼の姿はどこにも
見当たらなかった。
官舎の周囲を巡回していた警備兵も大佐の行方を知らなかったため、モルクンレル大尉は部下2名と共に、秘密基地内のバラけた施設を手当たり次第に探し回った。
捜索開始から20分ほど経ったところで、彼は異常に古ぼけた小屋を見つけた。
飛空挺隊が集結し、来たる偵察ワイバーンの報告を今か今かと待っていた。
そんな中、第129混成飛行団の第4攻撃飛行隊の指揮官を務めるハウルスト・モルクンレル大尉は、混成飛行団指揮官からの指示で、一緒の基地に配備された
第921空中騎士隊の指揮官、ルフェイヴィ・グヴォン大佐を基地の待機室まで来るように伝えるべく、彼の官舎に向かったのだが、何故か彼の姿はどこにも
見当たらなかった。
官舎の周囲を巡回していた警備兵も大佐の行方を知らなかったため、モルクンレル大尉は部下2名と共に、秘密基地内のバラけた施設を手当たり次第に探し回った。
捜索開始から20分ほど経ったところで、彼は異常に古ぼけた小屋を見つけた。
「隊長、もしかして、あの古いボロ屋に大佐殿が隠れている可能性もあるのでは?」
「何?あんな今にも崩れそうなボロ屋にか?天井にはあちこちに穴が空いてるし、ドアなんて壊れて今にも倒れそうだぞ」
「何?あんな今にも崩れそうなボロ屋にか?天井にはあちこちに穴が空いてるし、ドアなんて壊れて今にも倒れそうだぞ」
彼は部下の第2中隊長にあり得ないとばかりに返事するが、この小屋は秘密基地からも幾分離れた場所にあり、他の官舎からもほど良い距離感を保つかの
ように配置されていた。
基地の警備兵をから聞いた話によると、昔は地元の狩人が仮眠するために作られた小屋であり、現在はこれと言った目的も無く、未使用のまま放置されて
いると言われた。
部下はここがどうも怪しいと思ったようだ。
ように配置されていた。
基地の警備兵をから聞いた話によると、昔は地元の狩人が仮眠するために作られた小屋であり、現在はこれと言った目的も無く、未使用のまま放置されて
いると言われた。
部下はここがどうも怪しいと思ったようだ。
「なんとなくですが……」
「なんとなくか。ひとまず、それに騙されたと思ってあの廃屋に顔を突っ込んでみるか」
「なんとなくか。ひとまず、それに騙されたと思ってあの廃屋に顔を突っ込んでみるか」
モルクンレル大尉は部下の言葉を信じる事にした。
足早で廃屋の傾いたドアの前に向かい、それを地面に置いて中に入ろうとする。
その動作に入ろうとする直前、目の前に現れた上半身半裸の女性の登場によってドアの移動は唐突に遮られてしまった。
足早で廃屋の傾いたドアの前に向かい、それを地面に置いて中に入ろうとする。
その動作に入ろうとする直前、目の前に現れた上半身半裸の女性の登場によってドアの移動は唐突に遮られてしまった。
「うわっ!?」
仰天した彼は、思わず後ろに飛び退いてしまった。
「あら、おはよう」
女性は微笑みながら、彼らに挨拶する。
「おいおい、今の声はなんだ?」
女性の後ろから気怠げな声が響き、肩越しに男性の顔が現れた。
「あ!グヴォン大佐ではありませんか!どうしてこちらに……?」
「どうしてだぁ?そんなもん、貴様が気にしてどうするんだ」
「出撃前の楽しみをしていた所だよ、坊や」
「どうしてだぁ?そんなもん、貴様が気にしてどうするんだ」
「出撃前の楽しみをしていた所だよ、坊や」
怪訝な顔つきでグヴォン大佐は返しつつ、女性は愉しげな口調で彼らに答えた。
「あ、貴方はメリヴェライカ大佐でござますか……?あの、954空中騎士隊の」
モルクンレル大尉は唐突に、彼女の名前を思い出した。
「ほう、私の名前を覚えているとは。私自身は君と直接面識は無いが……」
「自分はハウルスト・モルクンレル大尉と申します。第4攻撃飛行隊指揮官を務めております」
「ハウルスト・モルクンレル……もしや奴……いや、リリスティ・モルクンレルの家族かな?」
「はい!自分はモルクンレル提督の弟であります!お二方には先ほど、混成飛行団司令より至急司令部に出頭せよとの命令が出されております。自分はその命令を
お伝えすべく、ここへ参ったのですが、どうやら、昨夜はお楽しみのようでしたな」
「なんだぁ貴様。仏頂面を浮かべて上官に嫌味を言いに来たのか。俺達は明日の命もあるか分からんワイバーン乗りだ。いい女を見つければすぐに楽しむ!その後に
出撃しても罰は当たらんだろう」
「し、しかし」
「口説い!貴様に言われずともすぐに支度を整えるつもりだ。司令に数分以内に指揮所へ向かうと伝えておけ」
「という訳だから、もう戻っていいよ」
「自分はハウルスト・モルクンレル大尉と申します。第4攻撃飛行隊指揮官を務めております」
「ハウルスト・モルクンレル……もしや奴……いや、リリスティ・モルクンレルの家族かな?」
「はい!自分はモルクンレル提督の弟であります!お二方には先ほど、混成飛行団司令より至急司令部に出頭せよとの命令が出されております。自分はその命令を
お伝えすべく、ここへ参ったのですが、どうやら、昨夜はお楽しみのようでしたな」
「なんだぁ貴様。仏頂面を浮かべて上官に嫌味を言いに来たのか。俺達は明日の命もあるか分からんワイバーン乗りだ。いい女を見つければすぐに楽しむ!その後に
出撃しても罰は当たらんだろう」
「し、しかし」
「口説い!貴様に言われずともすぐに支度を整えるつもりだ。司令に数分以内に指揮所へ向かうと伝えておけ」
「という訳だから、もう戻っていいよ」
メリヴェライカ大佐は微笑みを崩さぬまま、左手を虫でも払うかのように3度ほど彼らに向けて振る。
「了解いたしました。ならば、お邪魔虫はさっさと戻るとしましょう」
ハウルストはややムッとした表情になり、部下2名を連れて廃屋に背を向けた。
「姉貴みたいな勝気な性格なんだろうけど、あまり肩肘張らず、怖い顔ばかり浮かべるのも考え物だよ」
メリヴェライカ大佐は、半笑いを含んだ口調で立ち去る彼らに向けてそう言ったが、ハウルストらはそれを無視したまま歩いて行った。
「おいおい、どうしたんだい、大佐殿」
「あなたも大佐殿でしょう?」
「あなたも大佐殿でしょう?」
メリヴェライカはおどけた口調で言ってくるグヴォンに、冗談口調で聞き返す。
「ハハ!その通りだ。それよりも……あの若いの、お前の意図を見抜いているぞ」
「へぇ、どんな意図かな?」
「しらばっくれるんじゃないよ。おまえさん……生きて帰らんつもりだろう?」
「へぇ、どんな意図かな?」
「しらばっくれるんじゃないよ。おまえさん……生きて帰らんつもりだろう?」
グヴォンは半笑いで問い質すが、その目は笑っていなかった。
「あの若造は俺たちよりただ経験が浅いだけじゃない。敵機動部隊攻撃に参加し、生還したという事をやってのけた実戦経験者だ。それは即ち、
お前がまだやっていない事をやってのけた、と言う事にもなる」
「ハッ!ただ運が良かっただけさ!」
「運も実力のうち、という言葉もあるがな」
「……私を馬鹿にするんじゃないよ。それに、意図が見抜かれたって別に構やしないよ」
お前がまだやっていない事をやってのけた、と言う事にもなる」
「ハッ!ただ運が良かっただけさ!」
「運も実力のうち、という言葉もあるがな」
「……私を馬鹿にするんじゃないよ。それに、意図が見抜かれたって別に構やしないよ」
彼女は、側に置いていた剣を手に取り、柄から抜いた。
「私はこの剣で、1000人の敵を切り裂き、血を吸わせてきた。そして、その倍の若い竜騎士を直接育て、そしてそれに関与して戦場に送り出してきた。
今じゃ、そいつらはみんな死んじまったよ」
今じゃ、そいつらはみんな死んじまったよ」
メリヴェライカは、羽織っていた薄布をひょいと放り投げ、それを持っていた剣で素早く切り裂いた。
「私が鍛えに鍛えた教え子を好き放題に葬ってきた敵と、今日直接戦うんだ。生還なんて望めるもんじゃないだろう?」
「そりゃそうだ。俺は生き残ったがな……とはいえ、君はその剣を自慢にしているようだが、それを持って、敵空母に突入するつもりか?」
「できればしたいさ!まぁ、その前に対空砲火に吹き飛ばされて終わりだろうが……望むなら、せめて……この剣を敵空母の船体に串刺しにしてから
逝きたいもんだねぇ……」
「へ、狂ってやがるな」
「そりゃそうだ。俺は生き残ったがな……とはいえ、君はその剣を自慢にしているようだが、それを持って、敵空母に突入するつもりか?」
「できればしたいさ!まぁ、その前に対空砲火に吹き飛ばされて終わりだろうが……望むなら、せめて……この剣を敵空母の船体に串刺しにしてから
逝きたいもんだねぇ……」
「へ、狂ってやがるな」
グヴォンが感心したように言うと、メリヴェライカは満面の笑みを浮かべながら返す。
「ワイバーン乗りは元々、そう言う物だろう。何せ、帝国軍ワイバーン隊は世界最強の部隊だからな」
彼女は爽快な……かつ、狂気すら含んだ口調でそう言い放った。
廃屋から立ち去り、指揮所までもう暫しの所まで歩いたハウルストは、部下から恐る恐ると言った口調で声をかけられた。
「隊長、大佐殿にあんな態度をとって大丈夫ですか?」
「別にあれで不興を買う事はないだろう。メリヴェライカ大佐とグヴォン大佐は余程の事がない限り、階級の下の者を左遷する事は無いと聞いている」
「そうなんですか……とはいえ、大佐達に対してちとよろしく無いというか、特にメリヴェライカ大佐に対しては、隊長は嫌っていると言ってもいいような
態度や言動を取られていた気がします」
「別にあれで不興を買う事はないだろう。メリヴェライカ大佐とグヴォン大佐は余程の事がない限り、階級の下の者を左遷する事は無いと聞いている」
「そうなんですか……とはいえ、大佐達に対してちとよろしく無いというか、特にメリヴェライカ大佐に対しては、隊長は嫌っていると言ってもいいような
態度や言動を取られていた気がします」
ハウルストは数秒ほど思考してから部下に言葉を返す。
「メリヴェライカ大佐に関しては、うちの姉貴から色々と聞かされたのと、数年前のヒーレリ大反乱鎮圧で彼女がしでかした事を別の伝手で聞いているから、
好きにはなれなかった」
「はぁ……」
好きにはなれなかった」
「はぁ……」
「隊長。自分はメリヴェライカ大佐が結構好みだと思いましたね。見ましたか?あの完璧なスタイル!2つの山が前に張り出してましたぜ……それに、グヴォン大佐に
も引けを取らない体の筋肉!筋肉質な女好きな自分としては、もう眼福でしたよ。あの若々しさで42歳と言うんですから、色々と素晴らしいもんですなぁ……
と、これは失礼いたしました」
も引けを取らない体の筋肉!筋肉質な女好きな自分としては、もう眼福でしたよ。あの若々しさで42歳と言うんですから、色々と素晴らしいもんですなぁ……
と、これは失礼いたしました」
もう一人の部下は半ば興奮気味に捲し立てたが、途中からハウルストが冷たい目付きで睨み付けたため、慌てて口を閉じた。
「君はいい物を見れて嬉しいだろうが、俺は嬉しくは感じないな。むしろ、休暇中は姉貴の姿を何度も見ているから、むしろ慣れ切ってしまって嬉しいともなんとも思わん」
ハウルストは唐突に歩みを止めた。
「お、隊長……どうかされましたか?」
「いや……俺の思い違いで済んで欲しいんだが、どうも気になってな」
「と、言いますと?」
「……2人は既に覚悟を決めているような目付きをしていた。特に、メリヴェライカ大佐はそれが強かったように思える」
「あんな一瞬でわかるもんですか?」
「なんとなくだが……そのような雰囲気を感じたんだ。もしかしたら、敵機動部隊と最初から刺し違う事だけに集中しているな、とね」
「それは考えすぎではありませんか?」
「考え過ぎなら、それでいいが……ただ、大佐はこの戦争中、多くの訓練生を鍛え、戦場に送り出してきた。そして、その大半は生きて帰らなかった」
「いや……俺の思い違いで済んで欲しいんだが、どうも気になってな」
「と、言いますと?」
「……2人は既に覚悟を決めているような目付きをしていた。特に、メリヴェライカ大佐はそれが強かったように思える」
「あんな一瞬でわかるもんですか?」
「なんとなくだが……そのような雰囲気を感じたんだ。もしかしたら、敵機動部隊と最初から刺し違う事だけに集中しているな、とね」
「それは考えすぎではありませんか?」
「考え過ぎなら、それでいいが……ただ、大佐はこの戦争中、多くの訓練生を鍛え、戦場に送り出してきた。そして、その大半は生きて帰らなかった」
ハウルストは部下に顔を向けず、真っ直ぐ前を見たまま歩き始める。
「その戦場に自分も赴く。恐らく死は避けられない。ならば……せめて、敵を大いに驚かせて死に花を咲かせてやる。それぐらい考えても不思議ではないよ」
午前6時30分 シュヴィウィルグ南方220マイル沖
第58任務部隊第3任務群に属する各艦では、輪形陣中央に位置する空母群を護衛しながら、時速24ノットのスピードで北へ向かっていた。
第5艦隊司令長官を務めるレイモンド・スプルーアンス大将は、旗艦である重巡洋艦インディアナポリスの艦橋で長官席に座りながら航空参謀の
ジョン・サッチ大佐から報告を受けていた。
第5艦隊司令長官を務めるレイモンド・スプルーアンス大将は、旗艦である重巡洋艦インディアナポリスの艦橋で長官席に座りながら航空参謀の
ジョン・サッチ大佐から報告を受けていた。
「長官、各母艦共に攻撃隊の発進準備は順調に進んでおります。あと10分後には発艦する予定です」
「航空参謀、攻撃隊の総数はどれほどを予定しているかね?」
「サラトガ、モントレー、グラーズレットシーより計140機を予定しております。軽空母ロング・アイランド、ライトは昨日同様、対空、対潜警戒を
厳にしつつ敵襲に備えさせます」
「航空参謀、攻撃隊の総数はどれほどを予定しているかね?」
「サラトガ、モントレー、グラーズレットシーより計140機を予定しております。軽空母ロング・アイランド、ライトは昨日同様、対空、対潜警戒を
厳にしつつ敵襲に備えさせます」
返事を受けたスプルーアンスは、無言のまま頷いた。
TG58.3の主力を構成する空母5隻のうち、正規空母サラトガはリプライザル級大型装甲空母の2番艦として建造された最新鋭の高速空母であり、
この母艦群の中では最も大型となる。
艦名は第1次レビリンイクル沖海戦で戦没したレキシントン級空母サラトガから引き継いでおり、第2次レビリンイクル沖海戦で勝利に貢献している。
正規空母モントレー、グラーズレットシーは、今やアメリカ海軍の標準型空母とも言えるエセックス級正規空母に属しており、モントレーはサラトガと
同じ海戦で戦没したインディペンデンス級軽空母から艦名を譲り受けている。
軽空母ロング・アイランド、ライトはこの3隻の補助役として配置されており、ロング・アイランドに関してはサラトガ、モントレー同様に、この戦争初期に
戦没した護衛空母ロング・アイランドから受け継ぎ、大西洋戦線と太平洋戦線で戦績を重ねて来ている。
これらの空母には、戦闘機、艦爆、艦攻、艦偵各種計440機が搭載されており、昨日の空襲では被撃墜機はなく、被弾損傷で5機が修理不能と判断された以外、
その大半が今日の戦闘で使用できる予定だ。
残存する435機のうち、戦爆連合140機が今日の第一撃を加えるべく、各母艦の飛行甲板に上げられつつある。
インディアナポリスの左舷方向を行く空母グラーズレットシーは、既に攻撃隊に参加する多数の艦載機が飛行甲板に並んでおり、あと数機が甲板に上がれば
出撃準備は完了となる。
程なくして、空母サラトガのTG58.3司令部より連絡が入った。
現在、TG58.3はトーマス・スプレイグ少将が指揮しており、サラトガが任務群旗艦となっている。
この母艦群の中では最も大型となる。
艦名は第1次レビリンイクル沖海戦で戦没したレキシントン級空母サラトガから引き継いでおり、第2次レビリンイクル沖海戦で勝利に貢献している。
正規空母モントレー、グラーズレットシーは、今やアメリカ海軍の標準型空母とも言えるエセックス級正規空母に属しており、モントレーはサラトガと
同じ海戦で戦没したインディペンデンス級軽空母から艦名を譲り受けている。
軽空母ロング・アイランド、ライトはこの3隻の補助役として配置されており、ロング・アイランドに関してはサラトガ、モントレー同様に、この戦争初期に
戦没した護衛空母ロング・アイランドから受け継ぎ、大西洋戦線と太平洋戦線で戦績を重ねて来ている。
これらの空母には、戦闘機、艦爆、艦攻、艦偵各種計440機が搭載されており、昨日の空襲では被撃墜機はなく、被弾損傷で5機が修理不能と判断された以外、
その大半が今日の戦闘で使用できる予定だ。
残存する435機のうち、戦爆連合140機が今日の第一撃を加えるべく、各母艦の飛行甲板に上げられつつある。
インディアナポリスの左舷方向を行く空母グラーズレットシーは、既に攻撃隊に参加する多数の艦載機が飛行甲板に並んでおり、あと数機が甲板に上がれば
出撃準備は完了となる。
程なくして、空母サラトガのTG58.3司令部より連絡が入った。
現在、TG58.3はトーマス・スプレイグ少将が指揮しており、サラトガが任務群旗艦となっている。
「長官、サラトガ座乗のスプレイグ提督より、攻撃隊発艦準備完了との報告です」
それに遅れる事、10秒後に新たな報せが伝わる。
「ランドルフのTF58司令部より入電、各任務部隊は準備を完了せり」
「うむ。それでは始めるとしよう。各隊に返信。準備出来次第、攻撃隊発進せよ。以降は手順通りに作戦遂行に当たられたし、以上だ」
「うむ。それでは始めるとしよう。各隊に返信。準備出来次第、攻撃隊発進せよ。以降は手順通りに作戦遂行に当たられたし、以上だ」
スプルーアンスは冷めた口調でそう命令を伝えた。
それは実に素っ気無い物であったが、その一言が、第二次レビリンイクル沖海戦以来となる大規模航空作戦の幕開けとなった。
それは実に素っ気無い物であったが、その一言が、第二次レビリンイクル沖海戦以来となる大規模航空作戦の幕開けとなった。
午前6時45分、TG58.3のサラトガ、モントレー、グラーズレットシーから計140機の第1次攻撃隊が母艦から飛び立った。
それと同じくして、TG58.1、TG58.2、TG58.4からも次々と攻撃隊が発艦。総計で360機が事前に定めた攻撃目標に向かって行った。
それと同じくして、TG58.1、TG58.2、TG58.4からも次々と攻撃隊が発艦。総計で360機が事前に定めた攻撃目標に向かって行った。
午前8時20分 第5艦隊旗艦 インディアナポリス
「長官、ピケット艦より報告です。艦隊より北、方位15度、距離50マイル付近に敵偵察騎と思しき機影を探知、その後方150マイル付近に攻撃隊と
思しき強い反応を探知した模様です」
思しき強い反応を探知した模様です」
航空参謀のジョン・サッチ大佐が静かな口調でスプルーアンスに伝える。
「来たか。第1次攻撃隊はどうなっている?」
「現在敵地を攻撃中でありますが、昨日同様、敵ワイバーンは影も形も見えず、敵の抵抗は対空砲火のみであるため、攻撃隊の損害は今の所、若干数が被弾損傷した
程度のようです。恐らく、あと20分と経たぬ内に攻撃は終わるかと思われます」
「ふむ……どうやら、迎撃用のワイバーンも根こそぎ攻撃に転用して我が艦隊を叩くつもりだな」
程度のようです。恐らく、あと20分と経たぬ内に攻撃は終わるかと思われます」
「ふむ……どうやら、迎撃用のワイバーンも根こそぎ攻撃に転用して我が艦隊を叩くつもりだな」
スプルーアンスは小声で呟きつつ、頭の中で敵の出方を予想していく。
これまでのパターンからして、最初は機動部隊の戦闘機戦力を減殺させるため、対戦闘機用のワイバーンを多めに投入してくるであろう。
同時に、輪形陣の戦力も減殺するべく、防空艦狩りとしてある程度のワイバーン、または飛空挺も投入して艦隊へ攻撃するであろう。
敵は第1次、はたまた第2次攻撃隊は戦闘機戦力の減殺や輪形陣の対空火力制圧に専念するかもしれない。
となると、空母群への攻撃は3次以降の敵攻撃隊が担う可能性が極めて高い。
スプルーアンスは、そこからが敵の本番となるであろうと半ば確信していた。
これまでのパターンからして、最初は機動部隊の戦闘機戦力を減殺させるため、対戦闘機用のワイバーンを多めに投入してくるであろう。
同時に、輪形陣の戦力も減殺するべく、防空艦狩りとしてある程度のワイバーン、または飛空挺も投入して艦隊へ攻撃するであろう。
敵は第1次、はたまた第2次攻撃隊は戦闘機戦力の減殺や輪形陣の対空火力制圧に専念するかもしれない。
となると、空母群への攻撃は3次以降の敵攻撃隊が担う可能性が極めて高い。
スプルーアンスは、そこからが敵の本番となるであろうと半ば確信していた。
「1個空母群のみで受けるには、非常にやり辛い戦いになるな。だが……ひとまずは耐えねばならんな」
(いや、そうしなければ、むしろ不味い事になる)
彼は心の中で、TG58.3に攻撃が集中する事をむしろ望んですらいた。
彼は心の中で、TG58.3に攻撃が集中する事をむしろ望んですらいた。
「サラトガのスプレイグ提督より通達!各艦総員戦闘配置に移行!」
通信士官の報告を聞くと、彼は無言で頷く。
それを聞いた重巡洋艦インディアナポリス艦長、フレデリック・モースブラッガー大佐は艦内スピーカーに取り付いた。
それを聞いた重巡洋艦インディアナポリス艦長、フレデリック・モースブラッガー大佐は艦内スピーカーに取り付いた。
「艦長より通達!敵大編隊接近!総員戦闘配置に付け!繰り返す、総員戦闘配置に付け!」
その言葉が全艦に伝わると、総員配置にラッパ音と共にブザー音が鳴り響いた。
それまでは通常の警戒態勢を取っていたが、敵編隊来襲が確実となったため、艦内各所で乗員が部署に向けて猛然と走り抜けていく。
条約型重巡として建造されたインディアナポリスは、艦隊内では最古参とも言える旧式艦ではあるが、それだけに乗員の練度は非常に高く、そう間を置かぬ内に、
配置完了の報告が次々と舞い込んで来る。
それまでは通常の警戒態勢を取っていたが、敵編隊来襲が確実となったため、艦内各所で乗員が部署に向けて猛然と走り抜けていく。
条約型重巡として建造されたインディアナポリスは、艦隊内では最古参とも言える旧式艦ではあるが、それだけに乗員の練度は非常に高く、そう間を置かぬ内に、
配置完了の報告が次々と舞い込んで来る。
「左舷第1、第2機銃群、配置完了!」
「右舷高角砲群スタンバイOK!」
「第1、第2、第3主砲、戦闘準備宜し!」
「ダメコンチーム、スタンバイ完了!」
「航空班、防火準備OK!」
「レーダー室、リザーブ要員配置完了!」
「航海科準備良し!」
「砲術科スタンバイ完了!」
「衛生班、待機室にて集合完了!」
「右舷高角砲群スタンバイOK!」
「第1、第2、第3主砲、戦闘準備宜し!」
「ダメコンチーム、スタンバイ完了!」
「航空班、防火準備OK!」
「レーダー室、リザーブ要員配置完了!」
「航海科準備良し!」
「砲術科スタンバイ完了!」
「衛生班、待機室にて集合完了!」
艦橋内にひとしきり報告の嵐が舞った後、パタリと鳴り止んだ。
モースブラッガー艦長はスプルーアンスに体を向けた。
モースブラッガー艦長はスプルーアンスに体を向けた。
「長官。総員、戦闘配置に着きました」
「うむ。いつ見ても素晴らしい練度だ」
「うむ。いつ見ても素晴らしい練度だ」
スプルーアンスは静かながらも、満足気な口調で答えた。
「前回インディアナポリスから降りた時は、再びこの艦を旗艦として使える事を望んだものだが、それが叶い、そして、変わらぬ練度の高さを見れた事に礼を言うぞ」
「長官、ありがとうございます。そのお言葉はクルー全員にお伝え致します」
「長官、ありがとうございます。そのお言葉はクルー全員にお伝え致します」
モースブラッガー艦長は、幾分口調を震わせつつも、スプルーアンスにそう答えた。
「よし、戦闘開始も近い事だ。我々はCICに移るとしよう。艦長もCICで指揮を取るかね?」
「いえ、私はここで戦闘の指揮を取ります」
「そうか。では……操艦を、よろしく頼む」
「アイ・サー!」
「いえ、私はここで戦闘の指揮を取ります」
「そうか。では……操艦を、よろしく頼む」
「アイ・サー!」
モースブラッガー艦長はスプルーアンスに敬礼し、スプルーアンスもまた答礼してから、CICに移っていった。
第58任務部隊所属の各空母群は、一部の駆逐艦を輪形陣から更に30マイル離れた前方海域に展開し、対空レーダーで敵航空部隊の動向を監視していた。
そんな中、ピケット艦の1隻がまず偵察と思しきワイバーン1騎、更にその2分後に3騎を探知した。
その直後に攻撃隊の前衛と思しき100騎前後の大編隊を探知し、即座にTG58.3司令部へ通報された。
TG58.3の上空には、常時24機の戦闘機が上空警戒に上がっていたが、TG58.3司令部は敵攻撃隊発見の報を受けるや、即座に増援の戦闘機発艦を命じた。
各空母の飛行甲板上には、格納庫で待機していた戦闘機が速やかに上げられ、20分後には計120機の戦闘機が新たに発艦し、敵編隊迎撃に向かって行った。
午前8時50分には、艦隊の北方60マイルにまで進出した敵編隊に対して、140機の戦闘機が襲い掛かり、早くも乱戦状態となった。
そんな中、ピケット艦の1隻がまず偵察と思しきワイバーン1騎、更にその2分後に3騎を探知した。
その直後に攻撃隊の前衛と思しき100騎前後の大編隊を探知し、即座にTG58.3司令部へ通報された。
TG58.3の上空には、常時24機の戦闘機が上空警戒に上がっていたが、TG58.3司令部は敵攻撃隊発見の報を受けるや、即座に増援の戦闘機発艦を命じた。
各空母の飛行甲板上には、格納庫で待機していた戦闘機が速やかに上げられ、20分後には計120機の戦闘機が新たに発艦し、敵編隊迎撃に向かって行った。
午前8時50分には、艦隊の北方60マイルにまで進出した敵編隊に対して、140機の戦闘機が襲い掛かり、早くも乱戦状態となった。
午前9時5分、戦闘機の迎撃を突破してきたワイバーン群は、遂にTG58.3に到達した。
「戦闘機の迎撃網を突破したワイバーン約70、我が艦隊の左右に別れて接近しつつあります。間も無く攻撃が開始されるかと」
サッチ航空参謀がそう伝えると、CIC内に設置されたアクリルボードをじっと見つめていたスプルーアンスは、顔を逸らさぬまま航空参謀に聞く。
「戦闘機隊はどうしている?聞くところによると、敵の第2波がもうすぐ到達するようだが」
「戦闘機隊は数を減らしておりますが、今の所健在であります。弾薬に余裕のある機体も多く、第2波の迎撃にも対応できるでしょう。それから、敵地攻撃から
帰還中の第1次攻撃隊から、戦闘機全機が迎撃に加わる予定ですので、充分に対処できるかと。ただし、ある程度の突破は予想されると思われます」
「敵に突破されるのはいつもの事だ、仕方が無い」
「戦闘機隊は数を減らしておりますが、今の所健在であります。弾薬に余裕のある機体も多く、第2波の迎撃にも対応できるでしょう。それから、敵地攻撃から
帰還中の第1次攻撃隊から、戦闘機全機が迎撃に加わる予定ですので、充分に対処できるかと。ただし、ある程度の突破は予想されると思われます」
「敵に突破されるのはいつもの事だ、仕方が無い」
スプルーアンスがそう返す中、彼が見つめ続けている対勢表示板に、係の水兵がペンで敵ワイバーン部隊の位置情報を逐一変更していく。
対勢表示板には、艦隊各艦のシルエットが書かれており、ワイバーンはその左右に別れ、包囲するかのように進み続けている。
この左右のワイバーンが、艦隊に向けて突撃を開始する事はもはや明白だ。
対勢表示板には、艦隊各艦のシルエットが書かれており、ワイバーンはその左右に別れ、包囲するかのように進み続けている。
この左右のワイバーンが、艦隊に向けて突撃を開始する事はもはや明白だ。
「輪形陣外輪部の駆逐艦群が対空戦闘を開始しました!次いで戦艦ウィスコンシン以下、巡洋艦群も射撃開始!」
CICに報告が入ると同時に、インディアナポリスも5インチ両用砲を放ったのだろう、発砲音と共に振動が伝わってきた。
「インディアナポリスも射撃開始か……さて、敵ワイバーンをどれだけ削れるか。各艦、頼むぞ」
重巡洋艦インディアナポリスの戦闘艦橋で、モースブラッガー艦長は高空と低空に別れて接近しつつある敵ワイバーン群を交互に見つめた。
「数は共に15、6騎と言ったところか」
彼がそう呟くと同時に、インディアナポリスの右舷側に搭載された4門の5インチ砲が交互に対空射撃を放った。
インディアナポリスは、輪形陣の右側を守る形で配置されている。
右側にはインディアナポリスの他に、セントポール、ウースターが僚艦として配備され、その外郭を10隻の駆逐艦が埋めて守りを固めている。
これらの艦艇が計30騎ほどの敵ワイバーン隊を全力で迎撃していた。
インディアナポリスは、輪形陣の右側を守る形で配置されている。
右側にはインディアナポリスの他に、セントポール、ウースターが僚艦として配備され、その外郭を10隻の駆逐艦が埋めて守りを固めている。
これらの艦艇が計30騎ほどの敵ワイバーン隊を全力で迎撃していた。
「敵ワイバーンの動きに注意しろ!奴ら、異常な機動力で対空砲火を避けようとするぞ」
彼は砲術長に指示を送りながらも、目線は眼前の対空戦闘に向け続けている。
低空侵入の敵ワイバーンは、位置的に駆逐艦部隊と射界が重なって同士撃ちの恐れがあるため、死角になってしまっている。
このため、インディアナポリスは高度3000~4000前後の高空から侵入しつつあるワイバーン群に目標を定めて射撃を行っていた。
インディアナポリスの4門の5インチ砲は5秒、または6秒置きに射撃を繰り返しているが、インディアナポリスの前方に位置する重巡洋艦セントポールは、
インディアナポリスよりも世代の新しいボルチモア級に属する新鋭艦であるため、一度に発砲できる砲門数は8で倍である。
そのため、セントポールはインディアナポリスよりも盛んに対空砲火を放ち、傍目から見ればインディアナポリスよりも見栄えがあるように思えた。
低空侵入の敵ワイバーンは、位置的に駆逐艦部隊と射界が重なって同士撃ちの恐れがあるため、死角になってしまっている。
このため、インディアナポリスは高度3000~4000前後の高空から侵入しつつあるワイバーン群に目標を定めて射撃を行っていた。
インディアナポリスの4門の5インチ砲は5秒、または6秒置きに射撃を繰り返しているが、インディアナポリスの前方に位置する重巡洋艦セントポールは、
インディアナポリスよりも世代の新しいボルチモア級に属する新鋭艦であるため、一度に発砲できる砲門数は8で倍である。
そのため、セントポールはインディアナポリスよりも盛んに対空砲火を放ち、傍目から見ればインディアナポリスよりも見栄えがあるように思えた。
(ボルチモア級は新しいだけあって、搭載できる対空火器も多くて戦い易そうだ)
モースブラッガーはふと、心中でやや羨ましそうに思ったが、ボルチモア級に対するささやかな憧れは、艦の右舷後方に位置するロアノークを見て見事に消え去った。
「なんだありゃぁ……火山がそのまま引っ越してきたかのような射撃だぞ」
ロアノークの対空射撃は、セントポールと比べ物にならないぐらい激しい物であった。
セントポールの対空射撃も見事な物だが、射撃間隔は幾分あり、各砲塔が交互射撃を行っても発砲炎の切れ間が所々に存在している。
だが、ロアノークは艦上から常に発砲炎が吹き上がっており、そこだけ明らかに異常な空間ができてしまっている。
心なしか、輪形陣右側上空に咲く黒煙も、異常に濃い部分があり、ワイバーン群の一部がそこに突っ込む羽目になり、一気に2、3騎ほど撃ち落とされていた。
セントポールの対空射撃も見事な物だが、射撃間隔は幾分あり、各砲塔が交互射撃を行っても発砲炎の切れ間が所々に存在している。
だが、ロアノークは艦上から常に発砲炎が吹き上がっており、そこだけ明らかに異常な空間ができてしまっている。
心なしか、輪形陣右側上空に咲く黒煙も、異常に濃い部分があり、ワイバーン群の一部がそこに突っ込む羽目になり、一気に2、3騎ほど撃ち落とされていた。
「ウースター級は確か5インチ両用砲を24門と3インチ両用砲を8門も搭載した対空特化型の艦だったな。対空戦闘しかできん単能艦と揶揄する声もかなり多いが、
ここに関して言えば素晴らしい働きを見せてくれている。頼もしい限りだ」
ここに関して言えば素晴らしい働きを見せてくれている。頼もしい限りだ」
モースブラッガーは奮闘する僚艦に賛辞の言葉を送るが、意識は常に敵ワイバーンに向けられている。
輪形陣外輪部の駆逐艦群が遂に対空機銃を撃ち始めた。
駆逐艦から夥しい曳光弾が低空侵入のワイバーンに向けて放たれ、白煙が艦の後方に靡いて行くのが見える。
モースブラッガーの位置からは見えにくいが、それでも駆逐艦群の前方の海面上に幾つもの砲弾炸裂と思しき黒煙が現れ、断片や機銃弾の弾着によって海面が泡立つ様は
遠目ながらも見てとれた。
輪形陣外輪部の駆逐艦群が遂に対空機銃を撃ち始めた。
駆逐艦から夥しい曳光弾が低空侵入のワイバーンに向けて放たれ、白煙が艦の後方に靡いて行くのが見える。
モースブラッガーの位置からは見えにくいが、それでも駆逐艦群の前方の海面上に幾つもの砲弾炸裂と思しき黒煙が現れ、断片や機銃弾の弾着によって海面が泡立つ様は
遠目ながらも見てとれた。
「高空侵入の敵ワイバーン群、駆逐艦群の上空を突破!」
「あいつらの目標は駆逐艦では無いのか。では、何を目標にしている?」
「あいつらの目標は駆逐艦では無いのか。では、何を目標にしている?」
モースブラッガーは、高空侵入の敵ワイバーン群が何を狙っているのかが気になったが、その間にも低空侵入のワイバーンと駆逐艦群の戦闘は激しさを増す。
5インチ砲は海面から2、30メートルほどの低空を飛ぶワイバーンに向けて断続的に発射され、各艦に取り付けられた40ミリ、20ミリ機銃がこれに続いて絶え間ない射撃を行う。
図太い火箭があるワイバーンに命中する。
3秒ほどは魔法防御が働き、ワイバーンの周囲にまばゆい光が明滅するが、その発光が一際大きくなった後に、追加の曳光弾がワイバーンと竜騎士を直撃する。
ワイバーンは瞬時に首をもぎ取られ、竜騎士の体は大口径機関砲弾に当然耐えられる筈なく、一瞬にして体を粉砕されて血煙と消え去る。
残ったワイバーンの胴体に40ミリ弾、20ミリ弾が集中され、ズタズタにされた末に海面に叩きつけられた。
別のワイバーンは5インチ砲弾の炸裂を至近で受け、右の翼を瞬時に切断されてしまった。
それを見た竜騎士は唖然とした表情を浮かべた直後、ワイバーンは錐揉み状態となり、一瞬のうちに海面に叩きつけられた。
駆逐艦群は低空で接近してきた17騎のワイバーンのうち、9騎を攻撃前に撃墜する事に成功した。
だが、残った8騎のワイバーンは駆逐艦から800メートルまで接近するや、次々と対艦爆裂光弾を発射した。
輪形陣右側の外郭を守る駆逐艦は、第89駆逐隊に所属するアレン・M・サムナー級駆逐艦4隻と第69駆逐隊に属するフレッチャー級駆逐艦4隻、第95駆逐隊所属の
ギアリング級駆逐艦2隻であり、そのうち、第89駆逐隊所属艦2隻、第95駆逐隊所属艦1隻が被弾した。
まず、駆逐艦フランク・E・パラングは前部甲板の第2砲塔と、後部の40ミリ連装機銃座に被弾し、対空火力を減殺されてしまった。
続いて駆逐艦フランク・ハーディーは後部付近の40ミリ4連装機銃座に爆裂光弾を被弾した他、右舷側後部の20ミリ機銃座にも被弾し、火災が発生した。
両艦ともにこの被弾で対空戦闘力を削がれ、死傷者を出す羽目に陥ってしまったが、航行には支障が無く、残った対空火器で戦闘続行は可能であった。
5インチ砲は海面から2、30メートルほどの低空を飛ぶワイバーンに向けて断続的に発射され、各艦に取り付けられた40ミリ、20ミリ機銃がこれに続いて絶え間ない射撃を行う。
図太い火箭があるワイバーンに命中する。
3秒ほどは魔法防御が働き、ワイバーンの周囲にまばゆい光が明滅するが、その発光が一際大きくなった後に、追加の曳光弾がワイバーンと竜騎士を直撃する。
ワイバーンは瞬時に首をもぎ取られ、竜騎士の体は大口径機関砲弾に当然耐えられる筈なく、一瞬にして体を粉砕されて血煙と消え去る。
残ったワイバーンの胴体に40ミリ弾、20ミリ弾が集中され、ズタズタにされた末に海面に叩きつけられた。
別のワイバーンは5インチ砲弾の炸裂を至近で受け、右の翼を瞬時に切断されてしまった。
それを見た竜騎士は唖然とした表情を浮かべた直後、ワイバーンは錐揉み状態となり、一瞬のうちに海面に叩きつけられた。
駆逐艦群は低空で接近してきた17騎のワイバーンのうち、9騎を攻撃前に撃墜する事に成功した。
だが、残った8騎のワイバーンは駆逐艦から800メートルまで接近するや、次々と対艦爆裂光弾を発射した。
輪形陣右側の外郭を守る駆逐艦は、第89駆逐隊に所属するアレン・M・サムナー級駆逐艦4隻と第69駆逐隊に属するフレッチャー級駆逐艦4隻、第95駆逐隊所属の
ギアリング級駆逐艦2隻であり、そのうち、第89駆逐隊所属艦2隻、第95駆逐隊所属艦1隻が被弾した。
まず、駆逐艦フランク・E・パラングは前部甲板の第2砲塔と、後部の40ミリ連装機銃座に被弾し、対空火力を減殺されてしまった。
続いて駆逐艦フランク・ハーディーは後部付近の40ミリ4連装機銃座に爆裂光弾を被弾した他、右舷側後部の20ミリ機銃座にも被弾し、火災が発生した。
両艦ともにこの被弾で対空戦闘力を削がれ、死傷者を出す羽目に陥ってしまったが、航行には支障が無く、残った対空火器で戦闘続行は可能であった。
第95駆逐隊所属艦である駆逐艦ウィルジーは艦橋部に2発の対艦爆裂光弾が命中し、艦橋要員に多数の死傷者が出てしまった。
だが、艦長は奇跡的に軽傷で済んだ他、爆発した爆裂光弾が1発のみで、もう1発は不良品であったのか、不発弾となったため、不幸中の幸いで艦の指揮系統は生き残ったまま
戦闘続行が可能であった。
だが、艦長は奇跡的に軽傷で済んだ他、爆発した爆裂光弾が1発のみで、もう1発は不良品であったのか、不発弾となったため、不幸中の幸いで艦の指揮系統は生き残ったまま
戦闘続行が可能であった。
「艦長!高空の敵ワイバーン群が急降下を開始!敵は本艦に攻撃を集中する模様!」
「何!?」
「何!?」
駆逐艦群の奮戦を眺めていたモースブラッガーは、見張からもたらされた突然の報告に耳を疑った。
「何騎向かって来る?」
「7騎です!」
「回避するぞ!敵先頭との距離を逐一報告しろ!」
「7騎です!」
「回避するぞ!敵先頭との距離を逐一報告しろ!」
モースブラッガーは即答しつつ、見張からの報告を頼りに回避運動開始までの段取りを、頭の中で素早く組み立てて行く。
元は駆逐艦乗りである彼は、インディアナポリスのような大型艦を指揮して戦闘を行うのは、今回が初めてとなる。
1945年11月末にインディアナポリス艦長に任ぜられてからは、ひたすら猛訓練を行って艦の扱いにも慣れた筈だが、駆逐艦と違って使い勝手の違うインディアナポリスを
実戦の場で、訓練通りに扱えるかはまだ判然としなかった。
だが、敵が来ている以上、訓練通り……いや、むしろ訓練以上の操艦を行わなければ、1300名以上の乗員はもとより、スプルーアンス長官を始めとする第5艦隊司令部面々の
命が危うくなる。
失敗は許されなかった。
元は駆逐艦乗りである彼は、インディアナポリスのような大型艦を指揮して戦闘を行うのは、今回が初めてとなる。
1945年11月末にインディアナポリス艦長に任ぜられてからは、ひたすら猛訓練を行って艦の扱いにも慣れた筈だが、駆逐艦と違って使い勝手の違うインディアナポリスを
実戦の場で、訓練通りに扱えるかはまだ判然としなかった。
だが、敵が来ている以上、訓練通り……いや、むしろ訓練以上の操艦を行わなければ、1300名以上の乗員はもとより、スプルーアンス長官を始めとする第5艦隊司令部面々の
命が危うくなる。
失敗は許されなかった。
「操舵室!今の内に舵を当てる!面舵10度、少しずつ行け!」
「面舵10度、スロー!アイ・サー!」
「面舵10度、スロー!アイ・サー!」
操舵員はヘッドフォン越しに艦長の指示を受け取り、舵を動かし始める。
「敵先頭との距離、約2900!2500!」
艦橋外にいる見張員からは、逐一敵先頭との目視距離が報告されて来る。
インディアナポリスの舷側から、5インチ砲とは異なる射撃音が響き始めた。
40ミリ機銃が射撃を開始したのだ。
図太い火箭が急角度で突っ込んで来るワイバーンに向けて注がれる。
同時に20ミリ機銃座も遅れ馳せながらと言った感じで射撃を開始する。
ボルチモア級やウースター級と言った新鋭巡洋艦と比べれば少ない対空射撃ではあるが、それでも量は少なく無く、夥しい曳光弾が吹き上がり、ワイバーン編隊の周辺に
高角砲弾が適性位置に炸裂し続けていく。
インディアナポリスの舷側から、5インチ砲とは異なる射撃音が響き始めた。
40ミリ機銃が射撃を開始したのだ。
図太い火箭が急角度で突っ込んで来るワイバーンに向けて注がれる。
同時に20ミリ機銃座も遅れ馳せながらと言った感じで射撃を開始する。
ボルチモア級やウースター級と言った新鋭巡洋艦と比べれば少ない対空射撃ではあるが、それでも量は少なく無く、夥しい曳光弾が吹き上がり、ワイバーン編隊の周辺に
高角砲弾が適性位置に炸裂し続けていく。
「敵先頭ワイバーン、本艦の対空射撃で撃墜されました!」
「よし!」
「よし!」
機銃が射撃に加わってから10秒足らずで挙げた戦果に、モースブラッガーは思わず手を握った。
しかしながら、ワイバーンの急降下速度は早く、みるみる内に高度が下がっていく。
しかしながら、ワイバーンの急降下速度は早く、みるみる内に高度が下がっていく。
「敵2番騎、高度2400!1900!」
1騎目が早々に撃墜できたのに対して、2騎目の撃墜にはなかなか至らない。
射撃精度は確かに良好ではあるのだが、やはり打ち上げる機銃の数が40ミリ機銃12丁、20ミリ機銃が10丁(それでも駆逐艦1隻分以上の対空火力である)程度では
思いの外難しいのであろうか。
射撃精度は確かに良好ではあるのだが、やはり打ち上げる機銃の数が40ミリ機銃12丁、20ミリ機銃が10丁(それでも駆逐艦1隻分以上の対空火力である)程度では
思いの外難しいのであろうか。
「2騎目撃墜!3騎目、尚も急速接近!高度1800!」
「やはり本艦のみの対空射撃では限界がある。ならば……」
「やはり本艦のみの対空射撃では限界がある。ならば……」
モースブラッガーは、あとは急速転舵で残る敵ワイバーンの投弾の回避に専念するべく、意識を切り替えたが、その直後、インディアナポリスの上空に多数の高角砲弾の
炸裂と機銃弾が注がれた。
炸裂と機銃弾が注がれた。
「ロアノーク、セントポールより通信!貴艦の援護に入る!」
「ありがたい……!」
「ありがたい……!」
モースブラッガーは僚艦の援護に対し、心の底から感謝した。
ロアノーク、セントポール以外にも、戦艦ウィスコンシンや、護衛対象である筈の空母グラーズレット・シーや軽空母ライトからも援護射撃を行っており、
インディアナポリスの上空には、濃密な対空弾幕が貼られる事となった。
ロアノーク、セントポール以外にも、戦艦ウィスコンシンや、護衛対象である筈の空母グラーズレット・シーや軽空母ライトからも援護射撃を行っており、
インディアナポリスの上空には、濃密な対空弾幕が貼られる事となった。
「敵ワイバーン更に1騎撃墜!続けて1騎!」
「よし!このまま敵を全滅させられるぞ!」
「よし!このまま敵を全滅させられるぞ!」
見張から喜色の混じった声音で報告が届き、艦橋要員はそれを聞いて破顔するが、モースブラッガーは喜びを見せる事なく、その時に備え続ける。
更に1騎が対空砲火に撃墜され、インディアナポリスを狙う敵ワイバーンは僅か2騎までに減らされた。
明らかに全滅状態であり、誰もが勝利を確信していた。
だが、敵はその時までにインディアナポリスに投弾できる寸前まで接近していた。
更に1騎が対空砲火に撃墜され、インディアナポリスを狙う敵ワイバーンは僅か2騎までに減らされた。
明らかに全滅状態であり、誰もが勝利を確信していた。
だが、敵はその時までにインディアナポリスに投弾できる寸前まで接近していた。
「面舵一杯!急げ!」
「面舵一杯!アイ・サー!!」
「面舵一杯!アイ・サー!!」
モースブラッガー見張りから期待した報告を待つ事なく、急速回頭を命じた。
操舵員が待ってましたとばかりに舵輪を勢いよく回し、予め、若干右に寄りにかけていた舵はすぐさま右に切られた。
操舵員が待ってましたとばかりに舵輪を勢いよく回し、予め、若干右に寄りにかけていた舵はすぐさま右に切られた。
「敵ワイバーン800!爆弾投下!!」
という声が入ると同時に、インディアナポリスの艦首が急速に回り始めた。
基準排水量9950トンという、今や米海軍の標準型重巡として定着したボルチモア級に比して軽く、そして若干小振りという条約型重巡特有の艦体は、モースブラッガーの
思惑通りの機動を発揮していた。
基準排水量9950トンという、今や米海軍の標準型重巡として定着したボルチモア級に比して軽く、そして若干小振りという条約型重巡特有の艦体は、モースブラッガーの
思惑通りの機動を発揮していた。
「続けて7番騎爆弾投下!近いです!!」
(やはり、対空砲火で投弾前に全機撃墜は夢物語と言うわけか!)
(やはり、対空砲火で投弾前に全機撃墜は夢物語と言うわけか!)
モースブラッガーは回避運動を強いられた現状に歯噛みしながらも、同時に濃密な弾幕にも怯まず、果敢に突撃し、遂に投弾を果たした敵ワイバーン隊のガッツに
感心すらしていた。
唐突に、インディアナポリスの右舷中央部付近から衝撃波が押し寄せたと思いきや、強烈な爆裂音と共に高々と水柱が立ち上がった。
そして、その5秒後に左舷側後部付近から同様の衝撃と共に至近弾炸裂の轟音と水柱が吹き上がった。
感心すらしていた。
唐突に、インディアナポリスの右舷中央部付近から衝撃波が押し寄せたと思いきや、強烈な爆裂音と共に高々と水柱が立ち上がった。
そして、その5秒後に左舷側後部付近から同様の衝撃と共に至近弾炸裂の轟音と水柱が吹き上がった。
「て、敵弾回避ー!」
「なんとかかわしたか……他に敵はいないか!?」
「我が艦に向かいつつある敵はいません!投弾の済んだ敵は急速に離脱しつつあります!」
「よし!舵戻せ!艦隊の定位置に戻るぞ。各部署、被害報告は無いか!?」
「なんとかかわしたか……他に敵はいないか!?」
「我が艦に向かいつつある敵はいません!投弾の済んだ敵は急速に離脱しつつあります!」
「よし!舵戻せ!艦隊の定位置に戻るぞ。各部署、被害報告は無いか!?」
モースブラッガーはすぐさま、艦内スピーカーで被害報告を行うよう命じた。
「こちら右舷後部機銃座、負傷者3名!すぐさま医務室に向かわせます!」
「左舷後部機械室!若干の浸水が発生しました!大事には至らぬと思いますが、念の為ダメコン班をよこしてください!」
「右舷見張員1名、至近弾の断片で負傷!出血が酷いため医務室に向かわせ、待機要員と交代させます!」
「左舷後部機械室!若干の浸水が発生しました!大事には至らぬと思いますが、念の為ダメコン班をよこしてください!」
「右舷見張員1名、至近弾の断片で負傷!出血が酷いため医務室に向かわせ、待機要員と交代させます!」
艦内各所から報告が舞い込んで来たが、インディアナポリスの損傷は至近弾による若干の浸水と断片で艦体に傷が付いたのみで、負傷者も4名で済んだ。
モースブラッガーは、視線を左側に向けた。
見ると、輪形陣左側の方から幾つかの黒煙が上がっているのが見えた。
モースブラッガーは、視線を左側に向けた。
見ると、輪形陣左側の方から幾つかの黒煙が上がっているのが見えた。
「左側でも被害を受けた艦がいるか……どれとどれがやられたんだ?」
午前9時40分 インディアナポリスCIC
「長官、左方の艦にも幾つか被弾損傷した艦が出ております。輪形陣左側では、重巡ボストンが爆弾2を被弾し、両用砲座と後部カタパルトを損傷。他に、駆逐艦4隻が
対艦爆裂光弾を被弾し、対空火器や主砲を損傷した他、死傷者も複数出ておるようです。ですが、今の所、どの艦も戦闘続行は可能と報告されております」
対艦爆裂光弾を被弾し、対空火器や主砲を損傷した他、死傷者も複数出ておるようです。ですが、今の所、どの艦も戦闘続行は可能と報告されております」
第5艦隊参謀長を務めるカール・ムーア少将が報告すると、スプルーアンスは無言のまま小さく頷いた。
「敵ワイバーン隊はどれほど削ったかは正確には分からんが、恐らく半分近くは撃墜、または傷つけたと報告されている。被弾損傷した艦が出た事は残念だが、
撃沈されたり、大破落伍した艦が出なかっただけでも上出来と言える。とはいえ……」
撃沈されたり、大破落伍した艦が出なかっただけでも上出来と言える。とはいえ……」
スプルーアンスは対勢表示板に次々と書き込まれる内容をじっと見つめ続ける。
敵の第1次攻撃は撃退したが、そのすぐ後に第2次攻撃隊が迫っていた。
迎撃隊は奮闘するも、敵攻撃隊は300騎前後の大編隊であり、100騎以上のワイバーンが迎撃を突破し、第1次同様、艦隊の左右から挟み込むようにして進撃しつつあった。
敵の第1次攻撃は撃退したが、そのすぐ後に第2次攻撃隊が迫っていた。
迎撃隊は奮闘するも、敵攻撃隊は300騎前後の大編隊であり、100騎以上のワイバーンが迎撃を突破し、第1次同様、艦隊の左右から挟み込むようにして進撃しつつあった。
「長官、如何ですか?敵が攻撃を開始するまでは、あと15分から20分ほどの余裕があると思われます、その間にあの艦の」
「作戦参謀、今はその時ではない」
「作戦参謀、今はその時ではない」
スプルーアンスは、フォレステル作戦参謀の進言を途中で遮った。
「この第2次攻撃も、1次同様に我が艦隊の防御力減殺を狙った攻撃である可能性が極めて高い。その後の第3次以降に、敵は最大戦力を叩きつけてくるだろう。
その時に、私は使いたいと思っている」
「しかし、先の攻撃では落伍艦こそ出ませんでしたが、実に8隻の艦艇が損傷し、このインディアナポリスもあわやという所まで行きました。ここは、予定を早めてでも」
「君のいう事は最もだ。だが、今はその時期ではない」
その時に、私は使いたいと思っている」
「しかし、先の攻撃では落伍艦こそ出ませんでしたが、実に8隻の艦艇が損傷し、このインディアナポリスもあわやという所まで行きました。ここは、予定を早めてでも」
「君のいう事は最もだ。だが、今はその時期ではない」
スプルーアンスは対勢表示板から視線を離し、顔をフォレステル大佐に向けた。
「私は、各艦の奮闘を信じている。どうか、君もその頑張りを信じてもらいたい」
「……了解いたしました。では、予定通り作戦を進めます」
「うむ。今は耐え時だぞ」
「……了解いたしました。では、予定通り作戦を進めます」
「うむ。今は耐え時だぞ」
スプルーアンスはフォレステル大佐から、サッチ航空参謀に顔を向ける。
「第1次攻撃隊はどうなっている?燃料はまだ持つかね?」
「出撃してから既に3時間ほどです、そろそろ燃料に余裕が無くなっている頃だと思われます。私の見立てでは、後1時間で対空戦闘に切りをつけ、母艦に下ろさなければ
ならないかと」
「出撃してから既に3時間ほどです、そろそろ燃料に余裕が無くなっている頃だと思われます。私の見立てでは、後1時間で対空戦闘に切りをつけ、母艦に下ろさなければ
ならないかと」
「この調子なら、1時間どころか30分以内に戦闘は始まるだろう。それに、ピケット艦からは新たな敵編隊接近の兆候はまだ無い。攻撃隊の着艦作業は、敵の第2次攻撃が
終わり次第始めるとしよう」
終わり次第始めるとしよう」
午前9時55分
インディアナポリスの艦橋からは、先の第1次攻撃を軽く超える数のワイバーンが、幾つもの編隊に別れながらも、艦隊の右方向に回り込む様が見えていた。
「敵編隊、輪形陣右方向に回りつつあります。その数、50から60以上!」
「少なく見積もっても、先程の倍はいるという事か」
「少なく見積もっても、先程の倍はいるという事か」
モースブラッガー艦長は面倒な事になったと思いつつも、やる事は先程と一緒であり、敵が向かって来たら全弾回避し切って見せる……と、改めてそう決意した。
敵編隊はこれまた第1次同様、低空侵入組と高空侵入組に別れて突撃を開始した。
ただ、今回は高空侵入組が20騎程に対して、残りの30~40騎以上が低空侵入組に回っていた。
なぜ低空の敵が多いのか?それは駆逐艦部隊からの報告で明らかになった。
敵編隊はこれまた第1次同様、低空侵入組と高空侵入組に別れて突撃を開始した。
ただ、今回は高空侵入組が20騎程に対して、残りの30~40騎以上が低空侵入組に回っていた。
なぜ低空の敵が多いのか?それは駆逐艦部隊からの報告で明らかになった。
「駆逐艦群より緊急信!低空侵入のワイバーンは雷撃隊を伴う模様!」
「雷撃隊か!空母を狙うつもりだな!」
「雷撃隊か!空母を狙うつもりだな!」
モースブラッガーは、敵編隊の真の狙いは空母であると確信した。
対空艦潰しなら、甲板上の砲や機銃座を叩けば良いから、爆弾や対空爆裂光弾だけで十分である。
だが、雷撃隊が登場となれば、敵は護衛艦の対空火力を削いだ隙をついて輪形陣を突破。
空母群に接近し、必殺の魚雷を叩き込む事は容易に想像できた。
対空艦潰しなら、甲板上の砲や機銃座を叩けば良いから、爆弾や対空爆裂光弾だけで十分である。
だが、雷撃隊が登場となれば、敵は護衛艦の対空火力を削いだ隙をついて輪形陣を突破。
空母群に接近し、必殺の魚雷を叩き込む事は容易に想像できた。
「駆逐艦部隊、対空射撃を開始!」
「我が艦も撃つぞ。目標、高空侵入の敵ワイバーン群、射撃開始!」
「我が艦も撃つぞ。目標、高空侵入の敵ワイバーン群、射撃開始!」
モースブラッガーの命令が下るや、インディアナポリスが再び対空射撃を開始した。
右舷側の5インチ両用砲4門が砲弾を放つ。
続いて重巡セントポール、防空軽巡ロアノークも対空砲火を撃ち始めた。
輪形陣左側でも対空戦闘が始まり、TG58.3の上空は砲弾炸裂の黒煙で覆われつつあった。
駆逐艦部隊の主目標は、先程と同じく低空侵入の敵ワイバーン隊である。
今回は、ざっと見ても40騎以上の敵ワイバーンが複数の梯団を形成しながら接近していた。
動きは第1次攻撃で見た時よりも明らかに洗練されている。
しかも、雷装を施したワイバーン群も控えているとあって、尚の事緊張が高まった。
右舷側の5インチ両用砲4門が砲弾を放つ。
続いて重巡セントポール、防空軽巡ロアノークも対空砲火を撃ち始めた。
輪形陣左側でも対空戦闘が始まり、TG58.3の上空は砲弾炸裂の黒煙で覆われつつあった。
駆逐艦部隊の主目標は、先程と同じく低空侵入の敵ワイバーン隊である。
今回は、ざっと見ても40騎以上の敵ワイバーンが複数の梯団を形成しながら接近していた。
動きは第1次攻撃で見た時よりも明らかに洗練されている。
しかも、雷装を施したワイバーン群も控えているとあって、尚の事緊張が高まった。
低空侵入組は、明らかに2つのグループがあり、1つはスピードが早い3つの梯団。
もう1つは比較的スピードが遅く、高度が更に低い2つの梯団だ。
この2つのグループが機動部隊に向けて突進を続けている。
最初に砲撃を受けるのは、スピードの早い3つの梯団であった。
7騎のグループ2つと、6騎のグループ1つ、計20騎が真一文字に突撃する中、駆逐艦の5インチ砲がVT信管付きの砲弾を次々と発射する。
海面上が砲弾の炸裂によって泡立ち、ワイバーンの中にはよろめく騎もあるが、意外と撃墜には至らない。
だが、距離が近付くにつれて、犠牲になるワイバーンが出始める。
5インチ砲弾によって1騎、2騎、3騎と撃墜される中、40ミリ機銃が距離3000メートルに迫った所で発射し、更に距離2000を切ると20ミリ機銃も戦闘に加わる。
駆逐艦1隻単位での対空火器の数は、船体の大きさの関係で多くは無いものの、10隻の駆逐艦が放つ量はなかなかに多い。
案の定、ワイバーン群は更に撃墜されていき、最終的に12騎が撃墜された。
だが、その頃にはワイバーン群も対艦爆裂光弾を放っており、4隻の駆逐艦がこの洗礼を受けた。
インディアナポリスの艦橋からは、新たに4隻の駆逐艦から爆裂光弾炸裂の爆炎や黒煙が吹き上がるのが見えた。
もう1つは比較的スピードが遅く、高度が更に低い2つの梯団だ。
この2つのグループが機動部隊に向けて突進を続けている。
最初に砲撃を受けるのは、スピードの早い3つの梯団であった。
7騎のグループ2つと、6騎のグループ1つ、計20騎が真一文字に突撃する中、駆逐艦の5インチ砲がVT信管付きの砲弾を次々と発射する。
海面上が砲弾の炸裂によって泡立ち、ワイバーンの中にはよろめく騎もあるが、意外と撃墜には至らない。
だが、距離が近付くにつれて、犠牲になるワイバーンが出始める。
5インチ砲弾によって1騎、2騎、3騎と撃墜される中、40ミリ機銃が距離3000メートルに迫った所で発射し、更に距離2000を切ると20ミリ機銃も戦闘に加わる。
駆逐艦1隻単位での対空火器の数は、船体の大きさの関係で多くは無いものの、10隻の駆逐艦が放つ量はなかなかに多い。
案の定、ワイバーン群は更に撃墜されていき、最終的に12騎が撃墜された。
だが、その頃にはワイバーン群も対艦爆裂光弾を放っており、4隻の駆逐艦がこの洗礼を受けた。
インディアナポリスの艦橋からは、新たに4隻の駆逐艦から爆裂光弾炸裂の爆炎や黒煙が吹き上がるのが見えた。
「またやられたか!」
モースブラッガーは駆逐艦群が奮闘叶わず、次々と被弾する様を見て歯噛みして悔しんだ。
その時、見張員から再び凶報が飛び込んだ。
その時、見張員から再び凶報が飛び込んだ。
「高空侵入の敵、外輪部突破と同時に急降下!狙いは本艦と、セントポールです!」
「何!?今度はセントポールも狙うか!」
「何!?今度はセントポールも狙うか!」
モースブラッガーは、最初はまたインディアナポリスに集中攻撃してくるのかと思ったが、敵は以外にも、セントポールも標的に定めていた。
「敵の数は!?」
「本艦に9騎!セントポールに5騎です!!」
「14騎も残ったか。さっきは投弾前に半数以下にまで減らした筈だが」
「本艦に9騎!セントポールに5騎です!!」
「14騎も残ったか。さっきは投弾前に半数以下にまで減らした筈だが」
モースブラッガーは忌々しげに呟いたが、敵ワイバーンが思ったより減らなかった原因がわかったような気がした。
高空侵入の敵ワイバーン群は、右側輪形陣でセントポール、ウィスコンシンの間を通る形で飛行しており、ちょうどロアノークの上空を避けるコースであった。
高空侵入の敵ワイバーン群は、右側輪形陣でセントポール、ウィスコンシンの間を通る形で飛行しており、ちょうどロアノークの上空を避けるコースであった。
第1次攻撃では、高空組の敵ワイバーン群はもろにロアノークの上空付近を通る形で突進したため、ロアノーク自身から放たれる最大量の対空砲火をまともに浴びてしまい、
投弾前にはほぼ全滅に等しい損害を受けていた。
しかし、今回は生き残りから情報を聞いて対策したのか、ロアノークを警戒し、その上空を避けながら突入する形となったのだ。
敵ワイバーンは4騎と5騎に別れると、急速にインディアナポリスへ突進し始めた。
急角度で急降下を続けるワイバーンに5インチ砲弾が放たれる。
砲弾の先頭に付けられたVT信管が、飛行物体を感知して敵騎の前方で炸裂する。
魔法防御が作動し、砲弾の弾片はすぐに弾かれてしまうが、機銃弾と違って大威力の高角砲弾の炸裂は、それだけに多くの魔力を消費してしまった。
インディアナポリスの砲撃は正確だが、やはり砲門数が少ない事もあって、なかなか撃墜には至らない。
そこに助太刀とばかりに、ロアノークが援護射撃を行う。
先程と違って、位置的に艦首方向寄りの敵を撃つ形になるため、舷側一杯の対空火器を使う事ができないが、それでも前部甲板と右舷側の54口径5インチ連装砲6基12門が射撃を行う。
敵ワイバーン編隊の周囲で炸裂する黒煙の数が一気に増えた。
ここで1騎のワイバーンが右の翼をもぎ取られ、致命的な錐揉み運動を始めた。
投弾前にはほぼ全滅に等しい損害を受けていた。
しかし、今回は生き残りから情報を聞いて対策したのか、ロアノークを警戒し、その上空を避けながら突入する形となったのだ。
敵ワイバーンは4騎と5騎に別れると、急速にインディアナポリスへ突進し始めた。
急角度で急降下を続けるワイバーンに5インチ砲弾が放たれる。
砲弾の先頭に付けられたVT信管が、飛行物体を感知して敵騎の前方で炸裂する。
魔法防御が作動し、砲弾の弾片はすぐに弾かれてしまうが、機銃弾と違って大威力の高角砲弾の炸裂は、それだけに多くの魔力を消費してしまった。
インディアナポリスの砲撃は正確だが、やはり砲門数が少ない事もあって、なかなか撃墜には至らない。
そこに助太刀とばかりに、ロアノークが援護射撃を行う。
先程と違って、位置的に艦首方向寄りの敵を撃つ形になるため、舷側一杯の対空火器を使う事ができないが、それでも前部甲板と右舷側の54口径5インチ連装砲6基12門が射撃を行う。
敵ワイバーン編隊の周囲で炸裂する黒煙の数が一気に増えた。
ここで1騎のワイバーンが右の翼をもぎ取られ、致命的な錐揉み運動を始めた。
「1騎撃墜!」
僚艦の援護のお陰で、ようやく1騎を撃墜できたが、ここで更に凶報が飛び込んできた。
「敵ワイバーン5騎、艦首上方から急降下してきます!」
「低空侵入のワイバーン隊が駆逐艦群を突破!敵ワイバーン群7騎がこちらに向かってきます!6騎はセントポールに向かう模様!!」
「低空侵入のワイバーン隊が駆逐艦群を突破!敵ワイバーン群7騎がこちらに向かってきます!6騎はセントポールに向かう模様!!」
(何だと!?空母に向かうのでは無いのか!?)
モースブラッガーは心中で驚いてしまった。
対艦爆裂光弾を発射した敵ワイバーンはすぐさま引き返したが、雷装組のワイバーン隊は数を減らされながらも、外輪部を突破し、あろう事か、空母ではなく巡洋艦2隻に
目標を定めて来たのだ。
これには、歴戦のモースブラッガーと言えども驚かざるを得なかった。
対艦爆裂光弾を発射した敵ワイバーンはすぐさま引き返したが、雷装組のワイバーン隊は数を減らされながらも、外輪部を突破し、あろう事か、空母ではなく巡洋艦2隻に
目標を定めて来たのだ。
これには、歴戦のモースブラッガーと言えども驚かざるを得なかった。
「……やるだけやってみるさ。操舵室!」
彼は艦内電話で操舵室を呼び出した。
「こちら操舵室!」
「面舵一杯!急げ!」
「え!面舵一杯ですか!?」
「面舵一杯!急げ!」
「え!面舵一杯ですか!?」
予想外の命令に、操舵員は困惑していた。
「面舵一杯だ!」
「あ、アイ・サー!」
「あ、アイ・サー!」
モースブラッガーの命令通り、操舵員は舵輪を回した。
「敵ワイバーン1騎撃墜!更にもう1騎撃墜!」
機銃の射撃音と5インチ砲の発砲音が鳴り続ける中、右舷側から突撃していたワイバーン4騎は、ロアノークが援護射撃を行った甲斐もあり、遂に残り1騎となった。
艦首が回り始めた直後には、その1騎もインディアナポリスの放った20ミリ弾に撃墜され、ワイバーン分隊は文字通り全滅となった。
「右舷側の敵ワイバーン全騎撃墜!」
見張員から歓声混じりの報告が届くが、モースブラッガーはそれを気にする事なく、眼前から迫りつつある低空侵入のワイバーン隊に目を向け続ける。
「操舵室!舵戻せ!直進に入る!」
「セントポールも回避運動を始めます!」
「セントポールも回避運動を始めます!」
彼が新たな指示を飛ばす中、僚艦の動きも逐一艦橋に伝えられて来る。
「左舷方向より敵ワイバーン急降下中!1騎撃墜されました!」
左舷側の5インチ砲と40ミリ、20ミリ機銃が全力で迎え撃つ他、輪形陣中心部にいる空母群からも援護射撃を受けられた為、敵ワイバーンの魔法防御も次第に魔力切れを
起こし、1騎、また1騎と撃墜される。
残った3騎はインディアナポリスに接近するが、急転舵したため、投弾の角度を修正せざるを得なくなった。
高度1000メートルを切り、800に達した所で次々と爆弾を投下していく。
最後の1騎は投下を終え、離脱に移ろうとした瞬間に、インディアナポリスの40ミリ弾に捉えられ、海面に叩き付けられた。
起こし、1騎、また1騎と撃墜される。
残った3騎はインディアナポリスに接近するが、急転舵したため、投弾の角度を修正せざるを得なくなった。
高度1000メートルを切り、800に達した所で次々と爆弾を投下していく。
最後の1騎は投下を終え、離脱に移ろうとした瞬間に、インディアナポリスの40ミリ弾に捉えられ、海面に叩き付けられた。
「敵弾、来ます!」
「大丈夫だ、当たらん!」
「大丈夫だ、当たらん!」
モースブラッガーは気丈にも、そう返すが、心中では当たるかもしれないと思っていた。
その数秒後、艦の後部から突き上げるような衝撃が伝わった。
その数秒後、艦の後部から突き上げるような衝撃が伝わった。
そのすぐ後に爆発音が鳴り響き、艦尾から30メートルほど離れた海面から2本の水柱が立ち上がった。
そのまた5秒後に、艦首正面のやや離れた海面に黒い何かが放り込まれた、と思った瞬間。
大音響と共に海水が吹き上がった。
ワイバーンの爆弾が際どい位置で着弾したのだ。
そのまた5秒後に、艦首正面のやや離れた海面に黒い何かが放り込まれた、と思った瞬間。
大音響と共に海水が吹き上がった。
ワイバーンの爆弾が際どい位置で着弾したのだ。
「敵の爆弾だ!」
艦橋で誰かの叫びが聞こえた。
インディアナポリスは、30ノットのスピードを維持したまま、艦首から水柱に突っ込んだ。
艦首付近に大量の海水が崩れ落ち、水の流れる轟音と共に艦橋付近にも海水が降りかかった。
開け放たれた艦橋のドアからは海水が流れ込み、艦橋内はたちまち水浸しとなってしまった。
インディアナポリスは、30ノットのスピードを維持したまま、艦首から水柱に突っ込んだ。
艦首付近に大量の海水が崩れ落ち、水の流れる轟音と共に艦橋付近にも海水が降りかかった。
開け放たれた艦橋のドアからは海水が流れ込み、艦橋内はたちまち水浸しとなってしまった。
「怯むな!敵の爆弾は全部外れた!」
モースブラッガーは勇気付けも兼ねて、そう叫んだが、意識は常に敵の雷撃隊に向いている。
降り掛かる水で見え辛くなった視界が再び開け、目の前には真正面から向かいつつあったワイバーンが見えたが、そのワイバーン群が見せた新たな動きに、モースブラッガーは
僅かに頬を緩ませた。
インディアナポリスを狙っていた雷装の敵ワイバーン7騎は、当初は右舷真横から迫っていたが、インディアナポリスが艦首を向けた事で目標が小さくなり、非常に
狙い辛くなってしまった。
ワイバーン隊の指揮官は雷撃失敗を嫌ったため、4騎をインディアナポリスの左舷方向へ、3騎を右舷方向へ回り込ませたのだ。
彼は、理想的な雷撃位置に着く為、左右から挟み込むべく急旋回したワイバーンに向けて、心中で正解だと答えた。
降り掛かる水で見え辛くなった視界が再び開け、目の前には真正面から向かいつつあったワイバーンが見えたが、そのワイバーン群が見せた新たな動きに、モースブラッガーは
僅かに頬を緩ませた。
インディアナポリスを狙っていた雷装の敵ワイバーン7騎は、当初は右舷真横から迫っていたが、インディアナポリスが艦首を向けた事で目標が小さくなり、非常に
狙い辛くなってしまった。
ワイバーン隊の指揮官は雷撃失敗を嫌ったため、4騎をインディアナポリスの左舷方向へ、3騎を右舷方向へ回り込ませたのだ。
彼は、理想的な雷撃位置に着く為、左右から挟み込むべく急旋回したワイバーンに向けて、心中で正解だと答えた。
(そう!その通りだ。相対面積の大きな舷側から狙うのは正しいぞ。傍目から見ればインディアナポリスは窮地に見えるが……今回ばかりは違う!)
ワイバーン7騎が対空砲火を浴びつつも、インディアナポリスの左右から挟み込む位置に到達したその瞬間、右舷方向へ回り込んだ敵ワイバーンは、
ロアノークの猛砲撃を浴びてしまった。
ワイバーン分隊の指揮官が失態に気づいた時には、ロアノークは全力射撃を行っている最中であり、ワイバーン3騎の横っ腹に5インチ砲、3インチ砲、
20ミリ機銃弾が容赦なく襲い掛かった。
これにインディアナポリスからの射撃も加わり、3騎のワイバーン分隊は瞬時にして全滅した。
ロアノークの猛砲撃を浴びてしまった。
ワイバーン分隊の指揮官が失態に気づいた時には、ロアノークは全力射撃を行っている最中であり、ワイバーン3騎の横っ腹に5インチ砲、3インチ砲、
20ミリ機銃弾が容赦なく襲い掛かった。
これにインディアナポリスからの射撃も加わり、3騎のワイバーン分隊は瞬時にして全滅した。
「右舷方向のワイバーン3騎、全機撃墜!」
「よし!右は片付いた!」
「よし!右は片付いた!」
モースブラッガーはそう叫びながら、艦内電話で操舵室を呼び出す。
「操舵室!取舵一杯!」
「取舵一杯!アイ・サー!」
「取舵一杯!アイ・サー!」
命令を出した後、彼は視線を左舷から接近しつつある敵ワイバーン群に向ける。
ふと、ワイバーン群の向こうに高速で回避運動中のセントポールが見えた。
インディアナポリスよりも垢抜けた、近代的なその艦影から砲弾発射とは別の閃光が見えたが、すぐに視界から隠れてしまった。
ふと、ワイバーン群の向こうに高速で回避運動中のセントポールが見えた。
インディアナポリスよりも垢抜けた、近代的なその艦影から砲弾発射とは別の閃光が見えたが、すぐに視界から隠れてしまった。
「セントポール被弾!火災発生の模様!」
「セントポールがやられたか……!」
「セントポールがやられたか……!」
彼は再び僚艦が被弾した事で感情が揺さぶられたが、すぐに眼前の敵の対処に意識を戻す。
敵ワイバーンとの距離は既に2000メートルを切り、もう間も無く射点に到達する。
インディアナポリスは右舷側の対空火器を総動員して迎撃に当たるが、今度ばかりは、位置的にロアノークの援護を受けられず、セントポールも急降下爆撃と、
雷装のワイバーン隊への対処に追われているため、僚艦からの効果的な援護は受け難い。
インディアナポリス単艦で、この窮地から脱するしか無かった。
対空砲火陣は訓練通り以上に奮闘していた。
5インチ砲座は寒風荒ぶ中、砲員が防寒着の中を汗で濡らし、限り無い疲労を感じながらも給弾と発砲を5秒から6秒置きというペースを維持し続けている。
20ミリ機銃座、40ミリ機銃座も同様に間断無い対空射撃を行い、弾幕を張り巡らせている。
1騎がVT信管付きの砲弾を至近で浴び、黒煙を突っ切りながらも海面に墜落する。
更に1騎が40ミリ弾、20ミリ弾の猛射を浴びて撃墜される。
しかし、残った2騎は予定通りに魚雷を投下した。
ちょうどそれを待ってたとばかりに、インディアナポリスの艦首が回り始めた。
敵ワイバーンとの距離は既に2000メートルを切り、もう間も無く射点に到達する。
インディアナポリスは右舷側の対空火器を総動員して迎撃に当たるが、今度ばかりは、位置的にロアノークの援護を受けられず、セントポールも急降下爆撃と、
雷装のワイバーン隊への対処に追われているため、僚艦からの効果的な援護は受け難い。
インディアナポリス単艦で、この窮地から脱するしか無かった。
対空砲火陣は訓練通り以上に奮闘していた。
5インチ砲座は寒風荒ぶ中、砲員が防寒着の中を汗で濡らし、限り無い疲労を感じながらも給弾と発砲を5秒から6秒置きというペースを維持し続けている。
20ミリ機銃座、40ミリ機銃座も同様に間断無い対空射撃を行い、弾幕を張り巡らせている。
1騎がVT信管付きの砲弾を至近で浴び、黒煙を突っ切りながらも海面に墜落する。
更に1騎が40ミリ弾、20ミリ弾の猛射を浴びて撃墜される。
しかし、残った2騎は予定通りに魚雷を投下した。
ちょうどそれを待ってたとばかりに、インディアナポリスの艦首が回り始めた。
(くそ!タイミングが少しズレたぞ!)
モースブラッガーは失敗を悟った。
本当であれば、敵が魚雷を投下する前に艦首を回しておきたかったのだ。
だが、回頭を始めたのは敵が魚雷を投下し、魚雷が海面下を走り始めた時であった。
つまり、ほぼ同時と言っても良いタイミングで互いに回り、そして走り始めたのである。
敵ワイバーンが対空砲火を避けながら、インディアナポリスの前方を飛び去っていく。
ふと、モースブラッガーは、敵ワイバーンに乗る竜騎士と目が合った。
シホールアンル軍特有の飛行服と飛行帽に身を包み、その隙間から長い髪を靡かせていた竜騎士は、間違いなく戦士其の者であった。
本当であれば、敵が魚雷を投下する前に艦首を回しておきたかったのだ。
だが、回頭を始めたのは敵が魚雷を投下し、魚雷が海面下を走り始めた時であった。
つまり、ほぼ同時と言っても良いタイミングで互いに回り、そして走り始めたのである。
敵ワイバーンが対空砲火を避けながら、インディアナポリスの前方を飛び去っていく。
ふと、モースブラッガーは、敵ワイバーンに乗る竜騎士と目が合った。
シホールアンル軍特有の飛行服と飛行帽に身を包み、その隙間から長い髪を靡かせていた竜騎士は、間違いなく戦士其の者であった。
「魚雷、近付きます!300メートル!」
モースブラッガーは海面下に視線を向け直す。
魚雷2本中、1本が明らかに、インディアナポリスの左舷側に向かっていた。
インディアナポリス自体は回頭を続けているが、控えめに見ても斜めから命中する可能性が極めて高かった。
魚雷2本中、1本が明らかに、インディアナポリスの左舷側に向かっていた。
インディアナポリス自体は回頭を続けているが、控えめに見ても斜めから命中する可能性が極めて高かった。
「魚雷接近中!総員、衝撃に備えよ!!」
モースブラッガーは艦内電話で、全乗員に向けて対ショック姿勢に入るように命じた。
条約型重巡であるインディアナポリスは、艦の設計上、新鋭艦と比べて安定性に欠ける部分があり、スプルーアンス長官ですら、第5艦隊の幕僚に向けて、被雷時には
短時間で転覆し、沈没する可能性が高い為、すぐに退艦するように命じているほど、魚雷に対して脆弱な艦であった。
その最も受けてはいけない魚雷攻撃を、インディアナポリスは今しも受けようとしているのだ。
モースブラッガーの脳裏には、被雷して大損害を受ける艦の姿が浮かぶ。
だが、それ以上に魚雷を受けたく無いという気持ちの方が大きかった。
条約型重巡であるインディアナポリスは、艦の設計上、新鋭艦と比べて安定性に欠ける部分があり、スプルーアンス長官ですら、第5艦隊の幕僚に向けて、被雷時には
短時間で転覆し、沈没する可能性が高い為、すぐに退艦するように命じているほど、魚雷に対して脆弱な艦であった。
その最も受けてはいけない魚雷攻撃を、インディアナポリスは今しも受けようとしているのだ。
モースブラッガーの脳裏には、被雷して大損害を受ける艦の姿が浮かぶ。
だが、それ以上に魚雷を受けたく無いという気持ちの方が大きかった。
(回れ!もっと早く回れ!!)
いつの間にか、彼は心の中でインディアナポリスに声援を送っていた。
(お前の実力はこんな物では無いだろう!)
「100メートル!」
見張員の声が響く。艦の回頭は続くが、命中コースから外れていない。
(回るんだ!これを避けて、シホット共に意地を見せるんだ!)
「50メートル!非常に近い!」
回頭は更に続く。魚雷と艦はまだ交錯し続けていた。
(かわせぇ!かわすんだインディアナポリス!)
「20メートル!」
誰もが目を瞑り、その時が来るのまった。
そんな中、モースブラッガーだけは不思議と、命中しないと心中で思い直していた。
そんな中、モースブラッガーだけは不思議と、命中しないと心中で思い直していた。
(いや、これは……)
彼の心中で、微かな希望が芽生えた。
「20メートル!」
CIC内では、その声がスピーカーに流れた時、誰もが足を踏ん張り、または手近な物に両手を掴んで、被雷に備えていた。
「チェック……メイトか」
スプルーアンスは衝撃に備え、小声でそう呟きながらも、人生2度目となる被雷の瞬間を待った。
1度目の被雷は、昨年1月のレーミア湾海戦で体験している。
あの時は、基準排水量3万トン以上の巡洋戦艦アラスカに将旗を掲げていたが、ノースカロライナ級やサウスダコタ級とほぼ遜色ないアラスカでさえ、被雷時の衝撃は
強く伝わってきた。
ましてや、今回はアラスカと3分の1以下の重量しかないインディアナポリスである。
その衝撃は計りしれない物になるだろう。
1度目の被雷は、昨年1月のレーミア湾海戦で体験している。
あの時は、基準排水量3万トン以上の巡洋戦艦アラスカに将旗を掲げていたが、ノースカロライナ級やサウスダコタ級とほぼ遜色ないアラスカでさえ、被雷時の衝撃は
強く伝わってきた。
ましてや、今回はアラスカと3分の1以下の重量しかないインディアナポリスである。
その衝撃は計りしれない物になるだろう。
しかし……
「ただいまの雷撃、回避に成功せり!」
2度目を体験する事は無かった。
CIC内では、戦闘中という事もあって歓声を上げる者は居なかったが、皆が安堵した表情を浮かべ、ある者は互いに肩を叩き合って、幸運を深く感じ取っていた。
CIC内では、戦闘中という事もあって歓声を上げる者は居なかったが、皆が安堵した表情を浮かべ、ある者は互いに肩を叩き合って、幸運を深く感じ取っていた。
「いやぁ……長官、インディアナポリスはやってくれましたなぁ」
「インディアナポリスの危機は、何とか去ったと言えるな」
「インディアナポリスの危機は、何とか去ったと言えるな」
ムーア参謀長の言葉に、スプルーアンスは無表情さを崩さぬまま答える。
その時、別方向から衝撃と鈍い爆発音が伝わった。
その時、別方向から衝撃と鈍い爆発音が伝わった。
「だが、他の艦は、この艦ほど幸運に恵まれていないようだ」
「セントポール……被雷!」
モースブラッガーは、見張員の悲痛めいた報告を聞くなり、無言のまま左舷前方を航行するセントポールに視線を向けた。
インディアナポリスと同様に、高空と低空のワイバーンに狙われたセントポールは、僚艦と共同で7騎のワイバーンを撃墜し、奮闘していたのだが……その奮戦も
ついに叶わなかった。
セントポールは、爆弾2発と魚雷3本を受けてしまった。
爆弾は左舷側中央部と後部甲板に命中し、共に火災を発生させた。
この被弾で機銃座と後部甲板の格納庫が破壊されたが、それだけならまだ小破と言えた。
だが、水線下に受けた魚雷3本は、セントポールに致命傷を与えていた。
被雷箇所は左舷中央部、左舷後部側、右舷中央部側の三箇所であった。
この被雷でセントポールの機関部は破壊されてしまい、被雷からそう間を置かずに機関停止に追い込まれてしまった。
このため、セントポールは急激に速度を落とし始め、艦隊から落伍していった。
ついに叶わなかった。
セントポールは、爆弾2発と魚雷3本を受けてしまった。
爆弾は左舷側中央部と後部甲板に命中し、共に火災を発生させた。
この被弾で機銃座と後部甲板の格納庫が破壊されたが、それだけならまだ小破と言えた。
だが、水線下に受けた魚雷3本は、セントポールに致命傷を与えていた。
被雷箇所は左舷中央部、左舷後部側、右舷中央部側の三箇所であった。
この被雷でセントポールの機関部は破壊されてしまい、被雷からそう間を置かずに機関停止に追い込まれてしまった。
このため、セントポールは急激に速度を落とし始め、艦隊から落伍していった。
「セントポール、被害甚大の模様!行き足止まります!」
「畜生!シホット共め……!」
「畜生!シホット共め……!」
モースブラッガーは悔しさで口調を震わせながら、速度を落として停止つつある僚艦の姿をじっと見つめる。
3本中、2本を左舷側に受けたセントポールは、早くも左舷側に傾き始めていた。
甲板上からは爆弾の被弾箇所から黒煙を噴き上げていたが、舷側部からもうっすらと白煙混じりの黒煙が吹き上がっている。
セントポールが、少なくとも大破相当の被害を受けている事は、誰の目にも明らかだった。
3本中、2本を左舷側に受けたセントポールは、早くも左舷側に傾き始めていた。
甲板上からは爆弾の被弾箇所から黒煙を噴き上げていたが、舷側部からもうっすらと白煙混じりの黒煙が吹き上がっている。
セントポールが、少なくとも大破相当の被害を受けている事は、誰の目にも明らかだった。
「輪形陣の左側でも被害を受けた艦がいるようだが、どの艦がやられたんだろうか……」
モースブラッガーは不安げな表情を浮かべながら、目線を空母群の反対側から見える複数の黒煙に向けた。
「長官、敵の第2次攻撃が終了しましたが……我が艦隊の状況は芳しくありません」
参謀長のムーア少将が険しい顔付きでスプルーアンスに報告する。
「第1次攻撃では損傷艦こそあれど、中破以上の損害を受け、艦隊から落伍する程の損傷艦は皆無でした。ですが、第2次攻撃は敵の数が多い事もあり、少なからぬ損害を
受けた艦が複数出ております」
「どれぐらいやられたかね?」
「は……輪形陣左側では、駆逐艦3隻が新たに被弾し、うち1隻が損傷大で航行不能に陥り、先程、総員退艦が発令されたとの事です。他に、重巡ボストンに爆弾3発と魚雷1本が
命中し、ボストンは艦隊から落伍しております。艦長からの報告では、沈没を免れる物の、速力は18ノット以上は出せぬとの事です」
「駆逐艦1隻が沈没確実となり、ボストンがほぼ戦線離脱か……輪形陣右側はどうかね?」
受けた艦が複数出ております」
「どれぐらいやられたかね?」
「は……輪形陣左側では、駆逐艦3隻が新たに被弾し、うち1隻が損傷大で航行不能に陥り、先程、総員退艦が発令されたとの事です。他に、重巡ボストンに爆弾3発と魚雷1本が
命中し、ボストンは艦隊から落伍しております。艦長からの報告では、沈没を免れる物の、速力は18ノット以上は出せぬとの事です」
「駆逐艦1隻が沈没確実となり、ボストンがほぼ戦線離脱か……輪形陣右側はどうかね?」
スプルーアンスは変わらぬ口調で続きを促した。
「輪形陣右側では……重巡セントポールが爆弾2発、魚雷3本を受け航行不能に陥りました。セントポール艦長からは全力で防水、消化活動に当たっているとの頃ですが、機関部に
深刻なダメージを負っている事もあり、状況はかなり厳しいとの事です。この他に、駆逐艦4隻が被弾し、うち2隻は機関部や水線下にも損傷が及んでいるため、艦隊から
離脱しているとの事です」
「……迎撃に当たった戦闘機隊はどうなっているかね?」
「戦闘機隊はよく奮闘致しましたが、これまでの迎撃戦闘で32機が撃墜され、60機以上が損傷を受けております」
「ふむ……確かに、芳しく無いな」
深刻なダメージを負っている事もあり、状況はかなり厳しいとの事です。この他に、駆逐艦4隻が被弾し、うち2隻は機関部や水線下にも損傷が及んでいるため、艦隊から
離脱しているとの事です」
「……迎撃に当たった戦闘機隊はどうなっているかね?」
「戦闘機隊はよく奮闘致しましたが、これまでの迎撃戦闘で32機が撃墜され、60機以上が損傷を受けております」
「ふむ……確かに、芳しく無いな」
スプルーアンスは冷静に現在の状況を分析していた。
TG58.3の所属艦艇は、第1次、第2次、計400騎以上の猛攻を受けた結果、防空の要である重巡2隻が大中破し、駆逐艦も半数以上が被弾し、うち1隻が沈没確実、3隻は
艦隊に追い付けず、事実上の戦線離脱を余儀なくされていた。
また、迎撃戦闘に出撃した戦闘機は、敵地攻撃に向かい、帰還途上で迎撃に加わった第1次攻撃隊の戦闘機隊も含めて200機以上が敵部隊と戦ったが、そのうち32機を失い、
60機以上が被弾損傷しているため、戦闘機戦力にも大幅に弱体化する羽目に陥ってしまった。
残存する戦闘機も大半が燃料、弾薬の補給が必要になっているため、この状況で第3次、第4次攻撃が行われれば、傷付いたTG58.3は壊滅的な損害を負う可能性が極めて高い。
TG58.3は、非常に苦しい状況にあると言えた。
TG58.3の所属艦艇は、第1次、第2次、計400騎以上の猛攻を受けた結果、防空の要である重巡2隻が大中破し、駆逐艦も半数以上が被弾し、うち1隻が沈没確実、3隻は
艦隊に追い付けず、事実上の戦線離脱を余儀なくされていた。
また、迎撃戦闘に出撃した戦闘機は、敵地攻撃に向かい、帰還途上で迎撃に加わった第1次攻撃隊の戦闘機隊も含めて200機以上が敵部隊と戦ったが、そのうち32機を失い、
60機以上が被弾損傷しているため、戦闘機戦力にも大幅に弱体化する羽目に陥ってしまった。
残存する戦闘機も大半が燃料、弾薬の補給が必要になっているため、この状況で第3次、第4次攻撃が行われれば、傷付いたTG58.3は壊滅的な損害を負う可能性が極めて高い。
TG58.3は、非常に苦しい状況にあると言えた。
「ところで……ピケット艦からは新たな敵編隊発見の報告は無いかね?」
「いえ、今の所はありません。最も、新たな敵編隊は既に出撃を終え、こちらに向かいつつあるかもしれませんが」
「索敵網の穴埋めとして飛ばしているアベンジャーや、ハイライダーからは連絡は無いかね?」
「今の所、新たな敵発見の報告は入っておりません」
「ふむ……なるほど」
「いえ、今の所はありません。最も、新たな敵編隊は既に出撃を終え、こちらに向かいつつあるかもしれませんが」
「索敵網の穴埋めとして飛ばしているアベンジャーや、ハイライダーからは連絡は無いかね?」
「今の所、新たな敵発見の報告は入っておりません」
「ふむ……なるほど」
幕僚達が戦闘の緊張で顔を強張らせている中、スプルーアンスだけはそのまま、冷静に状況の推移を見守っていた。
「TG58.3司令部に通達。第1次攻撃隊並びに、迎撃の戦闘機隊の急速収容を行われたし。また、次なる敵襲に備え……全ての戦闘機、並びに対空火器を使用されたし」
「長官、少なくとも、今から敵編隊の発見が報告された場合……距離からして1時間程で敵は艦隊に接近します。その間に準備が整えば、状況はある程度制御できるかと思われます。
しかしながら、万が一……予定通りに行かなければ、我がTG58.3は破滅する恐れがあります」
「長官、少なくとも、今から敵編隊の発見が報告された場合……距離からして1時間程で敵は艦隊に接近します。その間に準備が整えば、状況はある程度制御できるかと思われます。
しかしながら、万が一……予定通りに行かなければ、我がTG58.3は破滅する恐れがあります」
フォレステル大佐がスプルーアンスに進言する。
「ここは、TG58.3本隊を一旦後方海域に下がらせ、敵と間合いを取るのがよろしいかと思われます」
「良い手だ。だが……それでは敵は我が方を見失い、航空攻撃を続行しないだろう」
「良い手だ。だが……それでは敵は我が方を見失い、航空攻撃を続行しないだろう」
スプルーアンスは、フォレステル大佐の進言を取り下げた。
「残念だが、その手は取れない。それに、我々にも備えが無いわけではない。第3次では、今までに使わなかった奥の手で、敵を更に削るべきだと、私は思っておる」
「長官としては……この作戦は、我が方に有利に進んでおられるとお考えでしょうか?」
「無論だ」
「長官としては……この作戦は、我が方に有利に進んでおられるとお考えでしょうか?」
「無論だ」
フォレステルの質問に、スプルーアンスは即答した。
「今はまだ推定でしかないが、この1次、2次の航空攻撃だけで、敵の失ったワイバーンの数はかなりの物になるだろう。それこそ、我々の狙い通りであると、私は確信している」
スプルーアンスはサッチ大佐に顔を向ける。
「航空参謀、私の言っている事は正しいかね?」
「は……長官の言われる通りであります。我が艦隊も被害を受けていますが、TG58.3司令部や、各艦から届けられつつある戦闘時の報告を見る限り、敵ワイバーン隊も大きな
被害を受けている事はほぼ確実であり、特に艦隊攻撃に参加したワイバーン群の被害は甚大な物になると予想されます」
「は……長官の言われる通りであります。我が艦隊も被害を受けていますが、TG58.3司令部や、各艦から届けられつつある戦闘時の報告を見る限り、敵ワイバーン隊も大きな
被害を受けている事はほぼ確実であり、特に艦隊攻撃に参加したワイバーン群の被害は甚大な物になると予想されます」
サッチ航空参謀は、先程まで目にしていた報告書の束を手に持ちながら、スプルーアンスの考えが正しいと答えた。
インディアナポリスのCICには、各艦からひっきりなしに情報が入ってくるが、特に興味深いのが、輪形陣に突入してきた敵ワイバーン群の数と、艦隊から離脱して帰還していく
ワイバーンの数の報告であった。
これまでに、第1次、第2次合わせて150騎以上の敵ワイバーン群が艦隊に突撃してきた。
だが、輪形陣外輪部を守る駆逐艦からの報告では、どれもがワイバーン5騎、または10騎前後がバラバラになって離脱しつつあり、という内容の物が殆どであった。
正確に撃墜した数、今はまだ分からないものの、敵は推定で6割から7割以上を撃墜されたと推定されている。
仮に6割だとしても、敵は既に80騎以上を確定で失った事になる。
更に、戦闘機隊が撃墜した敵ワイバーンの数も、今の所100騎以上は落としたとの未確認情報がある。
戦闘機の撃墜数は過大になるケースが多いため、今回もそれを加味し、話半分としても、50騎ほどは落とした事になる。
敵はこの前哨戦と言える戦闘で、既に130~150騎前後を失ったと言えるのだ。
この数は、第1次、第2次に参加したうちの、約30%、または40%に相当する。
この戦争は消耗戦であるため、場合によっては犠牲を多くしてでも勝利を掴むためには、第損害を負っても目を瞑るケースが幾度もあったが、シホールアンル軍はつい最近まで、
過度な消耗を避けるために、ワイバーン隊や飛空挺隊をゲリラ戦的な運用で戦わせ、消耗をこれまでにないほど、緩やかになるように務めてきた。
一時期は、撃墜した敵のワイバーン、飛空挺よりも多くの数の米軍機が撃墜、または撃破される(敵の奇襲で少なからぬP-80が地上撃破される惨事も起きた)事もあったほどだ。
だが、ここにきて敵は航空決戦を挑んできたが、その結果が以前と同じか、それ以上にひどいペースの損耗率となって現れている。
シホールアンル側のここ3ヶ月近くの努力は、無に帰そうとしている事は明らかであった。
インディアナポリスのCICには、各艦からひっきりなしに情報が入ってくるが、特に興味深いのが、輪形陣に突入してきた敵ワイバーン群の数と、艦隊から離脱して帰還していく
ワイバーンの数の報告であった。
これまでに、第1次、第2次合わせて150騎以上の敵ワイバーン群が艦隊に突撃してきた。
だが、輪形陣外輪部を守る駆逐艦からの報告では、どれもがワイバーン5騎、または10騎前後がバラバラになって離脱しつつあり、という内容の物が殆どであった。
正確に撃墜した数、今はまだ分からないものの、敵は推定で6割から7割以上を撃墜されたと推定されている。
仮に6割だとしても、敵は既に80騎以上を確定で失った事になる。
更に、戦闘機隊が撃墜した敵ワイバーンの数も、今の所100騎以上は落としたとの未確認情報がある。
戦闘機の撃墜数は過大になるケースが多いため、今回もそれを加味し、話半分としても、50騎ほどは落とした事になる。
敵はこの前哨戦と言える戦闘で、既に130~150騎前後を失ったと言えるのだ。
この数は、第1次、第2次に参加したうちの、約30%、または40%に相当する。
この戦争は消耗戦であるため、場合によっては犠牲を多くしてでも勝利を掴むためには、第損害を負っても目を瞑るケースが幾度もあったが、シホールアンル軍はつい最近まで、
過度な消耗を避けるために、ワイバーン隊や飛空挺隊をゲリラ戦的な運用で戦わせ、消耗をこれまでにないほど、緩やかになるように務めてきた。
一時期は、撃墜した敵のワイバーン、飛空挺よりも多くの数の米軍機が撃墜、または撃破される(敵の奇襲で少なからぬP-80が地上撃破される惨事も起きた)事もあったほどだ。
だが、ここにきて敵は航空決戦を挑んできたが、その結果が以前と同じか、それ以上にひどいペースの損耗率となって現れている。
シホールアンル側のここ3ヶ月近くの努力は、無に帰そうとしている事は明らかであった。
「とはいえ、敵を上手く削れているのは強力な艦隊がおり、多くの戦闘機を待ち伏せさせていたから出来た事だ。今や、我が方も損耗し、撃沈、または損傷を受けた艦も少なくない。
このまま、敵の第3次、第4次攻撃を受け続ければ、更に被害が出るだろう。最悪、輪形陣中央に布陣する空母群を丸ごと失う事になりかねん。そうならぬ為にも、次の準備を万全に
進めねばならん。航空参謀」
「はっ!」
「……次の戦闘機隊はすぐに準備できるかね?」
「はい。未だに出していない予備がまだあります。それに加えて、第1次、第2次の迎撃に参加した戦闘機も、ある程度は参加できるでしょう」
このまま、敵の第3次、第4次攻撃を受け続ければ、更に被害が出るだろう。最悪、輪形陣中央に布陣する空母群を丸ごと失う事になりかねん。そうならぬ為にも、次の準備を万全に
進めねばならん。航空参謀」
「はっ!」
「……次の戦闘機隊はすぐに準備できるかね?」
「はい。未だに出していない予備がまだあります。それに加えて、第1次、第2次の迎撃に参加した戦闘機も、ある程度は参加できるでしょう」
サッチ航空参謀は、一呼吸置いてから続きを言う。
「サラトガでも、既に準備は整っているとの事です。現時点では未だに、敵編隊発見の報告は、どの方面からも上がってはおりません。ひとまずは、出来る限りの準備は整うでしょう」
「よろしい。今想定し、実行可能な準備がすべて出来るのであれば……我々は負けんだろう」
「よろしい。今想定し、実行可能な準備がすべて出来るのであれば……我々は負けんだろう」
スプルーアンスと幕僚らが今後の事について話を進めている最中にも、次々と各方面から情報が入ってくる。
彼らはその情報に逐一目を通しながらも、更に話を詰めていく。
彼らはその情報に逐一目を通しながらも、更に話を詰めていく。
「長官、落伍したセントポールは如何致しましょうか?」
「セントポールか……艦長からは追加報告はあるかね?」
「先程、浸水増大なるも、尚も排水作業を続行中。機関部の復旧にも全力で取り組んでいるとの事です」
「それはつまり、状況が好転しておらん、という事だな」
「セントポールか……艦長からは追加報告はあるかね?」
「先程、浸水増大なるも、尚も排水作業を続行中。機関部の復旧にも全力で取り組んでいるとの事です」
「それはつまり、状況が好転しておらん、という事だな」
スプルーアンスの冷たさを伴った一言が、幕僚達の表情をより一層曇らせた。
「セントポールは今、傾斜しながら洋上に停止している。駆逐艦2隻が支援に当たっているが……」
スプルーアンスもまた、言葉に詰まってしまった。
ボルチモア級重巡として建造されたセントポールは、防御力は確かに向上したが、それでも巡洋艦相応の物でしかない。
正規空母や戦艦のような大型艦ですら、魚雷を受けると、当たりどころによっては被害はかなりの物になる。
それを巡洋艦であるセントポールが、それも3本も一度に受けたとあっては、もはや絶望的と言うしかなかった。
ボルチモア級重巡として建造されたセントポールは、防御力は確かに向上したが、それでも巡洋艦相応の物でしかない。
正規空母や戦艦のような大型艦ですら、魚雷を受けると、当たりどころによっては被害はかなりの物になる。
それを巡洋艦であるセントポールが、それも3本も一度に受けたとあっては、もはや絶望的と言うしかなかった。
「サラトガのスプレイグからは、セントポールに対して何か指示を出しているかね?」
「今の所、スプレイグ提督は艦の保全に努めよ、と命じたのみです」
「ふむ……このまま洋上に留まっていても、敵の第3次、第4次に見つかってトドメを刺されるだけだな」
「長官……では…?」
「今の所、スプレイグ提督は艦の保全に努めよ、と命じたのみです」
「ふむ……このまま洋上に留まっていても、敵の第3次、第4次に見つかってトドメを刺されるだけだな」
「長官……では…?」
スプルーアンスは暫し黙考してから、言葉を紡いだ。
「まだ敵編隊発見の報告は届いておらん。もう少しだけ、様子をみよう」
午前10時30分
「第1次攻撃隊、全機収容完了との事です。戦闘機隊の収容も間も無く完了の模様」
「了解」
「了解」
インディアナポリスの艦橋で引き続き指揮を取っているモースブラッガー艦長は、短く返答しながらも、従兵からホットコーヒーを受け取り、それを一口啜った。
「艦長、セントポールからサラトガへ発進された通信を傍受しました。セントポール艦長は、たった今……総員退艦を発令したとの事です」
「……そうか」
「……そうか」
彼はしばらくの間押し黙ったが、悲しさを吹っ切るかのように、コーヒーを一気に飲み干した。
いつもと同様、苦めの味だが、今はより一層の苦味を感じていた。
いつもと同様、苦めの味だが、今はより一層の苦味を感じていた。
「艦長!ピケット艦より通信!新たな敵編隊が出現、艦隊に向かいつつあるとの事です!」
「敵との距離は?」
「距離は艦隊より北方270マイル!数は約300以上との事!」
「300か。他には敵の攻撃隊は確認されていないか?」
「いえ、今の所は……あっ!別の緊急信が今入りました!」
「敵との距離は?」
「距離は艦隊より北方270マイル!数は約300以上との事!」
「300か。他には敵の攻撃隊は確認されていないか?」
「いえ、今の所は……あっ!別の緊急信が今入りました!」
更に別の通信が飛び込んできた。
「新たな敵編隊を、遠距離偵察のハイライダーが発見!艦隊の西方に回りつつある別の編隊は、約300ないし……400以上に上る可能性が極めて大との事です!」
「400以上!遂に来たか、敵の本隊が!」
「1個空母群相手に新たに700騎とは。TG58.3も随分敵に恨まれた物ですな」
「400以上!遂に来たか、敵の本隊が!」
「1個空母群相手に新たに700騎とは。TG58.3も随分敵に恨まれた物ですな」
副長がそう言うと、モースブラッガーは苦笑しながら答えた。
「それだけ、俺達は倒し甲斐のある敵と看做されているんだろう。ある意味光栄だ」
彼は大きくため息を吐いてから、続きの言葉を紡いだ。
「よし!あと1時間足らずでまた敵の攻撃だ。やる事は今までと変わらん。各部署、今のうちにやるべき事は全部やっておけ。また忙しくなるぞ」
その頃、インディアナポリスのCIC内では、新たに発見された敵大編隊に対しての対策が協議されていた。
「敵編隊2つのうち、1つは我が艦隊と真正面からぶつかる形で進みつつあり、ハイライダーが発見したもう1つは、その横合いから突っかかり、一気にこちらを押し潰そうと考えておるようです」
「うむ、作戦参謀の言う通りだな」
「うむ、作戦参謀の言う通りだな」
スプルーアンスは頷いた。
「航空参謀、迎撃に使える戦闘機はどれぐらいあるかね?」
「現在、第1次攻撃隊、迎撃隊の急速収容も終わりましたので、使える戦闘機数を集計中でありますが、ひとまず、各空母の予備から計100機。すぐ再出撃できる戦闘機100機、
計200機がすぐに発艦可能です」
「200か。なかなかの数字だ」
「被弾損傷した機が多かったので、これでも幾分少なくなりましたが、再出撃可能な機は更に増えると思われますので、最終的には300機前後は出せるかもしれません」
「事前に戦闘機の数を増やしておいて正解だったな。通常編成のままであったら、今頃はかなり少なくなっていた」
「現在、第1次攻撃隊、迎撃隊の急速収容も終わりましたので、使える戦闘機数を集計中でありますが、ひとまず、各空母の予備から計100機。すぐ再出撃できる戦闘機100機、
計200機がすぐに発艦可能です」
「200か。なかなかの数字だ」
「被弾損傷した機が多かったので、これでも幾分少なくなりましたが、再出撃可能な機は更に増えると思われますので、最終的には300機前後は出せるかもしれません」
「事前に戦闘機の数を増やしておいて正解だったな。通常編成のままであったら、今頃はかなり少なくなっていた」
スプルーアンスは、事前の対策が実った事に満足していた。
TG58.3は、艦載機数440機のうち、362機が戦闘機となっている。
通常ならば、440機中、戦闘機は260機か、多い場合でも300機行かないぐらいの編成になるのだが、今回は特別編成として、通常よりも多くの戦闘機を搭載していた。
TG58.3が出した第1次攻撃隊には、戦闘機60機が随伴し、それ以外に300機が格納庫で待機となり、敵の攻撃隊が襲来した際には、艦隊から140機がまず発艦し、
残りは温存されていた。
敵の第2次攻撃隊には、TG58.3から出撃した攻撃隊の随伴戦闘機が加わって対応に当たっている。
その後、被撃墜機32機以外には、収容作業中の着艦事故でF4U3機、F7F2機が失われた他、修復不能と判断された戦闘機が18機となったため、戦闘に参加した200機中、
残った機体は145機。
そのうち、即時出撃可能な機は80機となっており、残りは損傷具合を見て再出撃可能か否かの点検を行っている最中だ。
TG58.3は、艦載機数440機のうち、362機が戦闘機となっている。
通常ならば、440機中、戦闘機は260機か、多い場合でも300機行かないぐらいの編成になるのだが、今回は特別編成として、通常よりも多くの戦闘機を搭載していた。
TG58.3が出した第1次攻撃隊には、戦闘機60機が随伴し、それ以外に300機が格納庫で待機となり、敵の攻撃隊が襲来した際には、艦隊から140機がまず発艦し、
残りは温存されていた。
敵の第2次攻撃隊には、TG58.3から出撃した攻撃隊の随伴戦闘機が加わって対応に当たっている。
その後、被撃墜機32機以外には、収容作業中の着艦事故でF4U3機、F7F2機が失われた他、修復不能と判断された戦闘機が18機となったため、戦闘に参加した200機中、
残った機体は145機。
そのうち、即時出撃可能な機は80機となっており、残りは損傷具合を見て再出撃可能か否かの点検を行っている最中だ。
「犠牲となった護衛艦艇群は、今頃我々の判断を不満に思っておるでしょうか。最初から手持ちの戦闘機を全部出しておけば、ここまで犠牲は出なかった筈だ、と……」
フォレステル大佐は後ろめたさを感じさせる口調でスプルーアンスに言う。
「そう思うのは当然の事だろう。だが、敵の航空戦力はなかなかに大きい。最初は無傷で住むだろうが、3波、4波と続けば、全力で出撃した戦闘機隊も戦闘が不可能になり、
戦闘機が空母に降りたところで、敵の追加攻撃を受ければどうなるか」
戦闘機が空母に降りたところで、敵の追加攻撃を受ければどうなるか」
スプルーアンスは、フォレステル大佐に言い聞かせるように説明していく。
「現に、敵の第1次、第2次攻撃は、実に6割以上が戦闘ワイバーンで固められ、戦闘機を誘引するような編成であったと、航空参謀から聞いている。そして、敵はこの2次の
戦闘で我が方の戦闘機隊を著しく減殺させたと判断して、300から400騎前後の大編隊を2隊も投入してきている。いや、もしかしたらその後にも、第5波、第6波と発進
させていると想定して良い」
戦闘で我が方の戦闘機隊を著しく減殺させたと判断して、300から400騎前後の大編隊を2隊も投入してきている。いや、もしかしたらその後にも、第5波、第6波と発進
させていると想定して良い」
唐突に、スプルーアンスの口調が、どこか愉快さを感じさせる物となった。
「だが、悲しいかな……TG58.3の戦闘機隊は確かに減殺された物の、事前に策を打っておいたお陰で、敵の第3次攻撃隊はまたもや、我が方の戦闘機戦力で全力でぶつかり合う
事になる。その時の敵の反応は、如何ほどになるかな……」
事になる。その時の敵の反応は、如何ほどになるかな……」
彼は言葉を言い終えると、対勢表示板に目を向けた。
先の激しい戦闘にも関わらず、CICのクルーはいつも通りに働き続けていた。
巨大なアクリルボードには、TG58.3を記すシルエットから大きく上に離れた位置に、2つの敵航空部隊が追加されていた。
1つは、真北から迫りつつある部隊と、もう1つは、迂回しながらTG58.3の側面攻撃を狙おうとしている部隊だ。
スプルーアンスは、そのもう1つの敵部隊を見るなり、素直な感想を述べた。
先の激しい戦闘にも関わらず、CICのクルーはいつも通りに働き続けていた。
巨大なアクリルボードには、TG58.3を記すシルエットから大きく上に離れた位置に、2つの敵航空部隊が追加されていた。
1つは、真北から迫りつつある部隊と、もう1つは、迂回しながらTG58.3の側面攻撃を狙おうとしている部隊だ。
スプルーアンスは、そのもう1つの敵部隊を見るなり、素直な感想を述べた。
「いい位置だ。敵部隊の指揮官にとって、これほどの好位置に付けた事はなかったに違いないだろう」
彼は、従兵が差し出したコーヒーに気が付いた。
軽く礼を言ってから、スプルーアンスはコーヒーの匂いを嗅ぐ。
軽く礼を言ってから、スプルーアンスはコーヒーの匂いを嗅ぐ。
「しかしながら、そこは我が方にとってもいい位置だ」
その一言のみ発してから、彼はコーヒーを啜った。