第290話 異国の使者
2月10日 午前8時
レンベルリカ連邦共和国領 カイクネシナ
マオンド共和国が対米戦に敗退後、正式にレーフェイル大陸の一国家として建国されたレンベルリカ連邦共和国は、アメリカの支援のもとで
徐々に回復しつつあった。
アメリカは同国に民間レベルのみならず、軍事レベルにおいても支援を行うため、同地に陸軍部隊2個師団を含む7万を駐留させながら、
今後の展開に対応するため、レンベルリカ国内にいくつか基地を建設し、そこにも陸海軍部隊を配置していた。
徐々に回復しつつあった。
アメリカは同国に民間レベルのみならず、軍事レベルにおいても支援を行うため、同地に陸軍部隊2個師団を含む7万を駐留させながら、
今後の展開に対応するため、レンベルリカ国内にいくつか基地を建設し、そこにも陸海軍部隊を配置していた。
レンベルリカ駐在アメリカ大使であるジョセフ・グルーがそのカイクネシナに到着したのは、その日の午前8時を過ぎてからであった。
「どうぞ、お通りください」
基地のゲート前で、警備兵がグルー大使に目配せしてから進入を促した。
運転手はゆっくりと車を前進させ、カイクネシナ基地に入っていく。
運転手はゆっくりと車を前進させ、カイクネシナ基地に入っていく。
「……会うのは2回目になるが。今回はどのような会合になるだろうか」
グルー大使は、カイクネシナ基地にて待っているであろう、ある人物の顔を思い出しつつ、小声でつぶやいた。
今日、グルー大使は、フリンデルド帝国より派遣された使者と会談を行う予定となっている。
フリンデルド帝国は、昨年12月中旬にアメリカ行きの使者を派遣し、その途中にレーフェイル大陸にあるレンベルリカ連邦を訪れている。
フリンデルド側としては、アメリカに行く前にまずレンベルリカを訪問し、同国の誕生を祝すと共に今後の国家間の交流を前提とした会談を
行いつつ、航海に必要な各種消耗品の補給を行う事を考えた。
レンベルリカ政府側との最初の交流は上手くいき、食料等の消耗品の補給も無事に終えることが出来た。
だが、アメリカ行きだけは叶わなかった。
今日、グルー大使は、フリンデルド帝国より派遣された使者と会談を行う予定となっている。
フリンデルド帝国は、昨年12月中旬にアメリカ行きの使者を派遣し、その途中にレーフェイル大陸にあるレンベルリカ連邦を訪れている。
フリンデルド側としては、アメリカに行く前にまずレンベルリカを訪問し、同国の誕生を祝すと共に今後の国家間の交流を前提とした会談を
行いつつ、航海に必要な各種消耗品の補給を行う事を考えた。
レンベルリカ政府側との最初の交流は上手くいき、食料等の消耗品の補給も無事に終えることが出来た。
だが、アメリカ行きだけは叶わなかった。
いや……叶わないようにさせられた。
使者のアメリカ行きストップを命じたのは紛れもなくアメリカ本国首脳部であり、それを使者に伝えたのが、このグルー大使であった。
それから幾日が過ぎ……
レンベルリカ側はアメリカと相談を行いつつ、フリンデルド側に嫌悪感を抱かれぬように、かの国からの幾つかの提案を受け入れた。
その一つが、レンベルリカ国内にフリンデルド側の公使館を置く事だった。
公使館の設置は1月までには完了し、その責任者は工事完了直後から公使館に着任し、レンベルリカ側やアメリカ側との国交樹立に向けた交渉を行っている。
事務レベルでの交渉が緩やかに進み、次はレーフェイル各国使者との顔合わせに移ろうとしたその矢先に、海軍がシホールアンル租借領でフリンデルド側
施設を誤爆したのみならず、他の友邦国船舶をも誤爆したという情報が伝えられた。
レンベルリカ側はアメリカと相談を行いつつ、フリンデルド側に嫌悪感を抱かれぬように、かの国からの幾つかの提案を受け入れた。
その一つが、レンベルリカ国内にフリンデルド側の公使館を置く事だった。
公使館の設置は1月までには完了し、その責任者は工事完了直後から公使館に着任し、レンベルリカ側やアメリカ側との国交樹立に向けた交渉を行っている。
事務レベルでの交渉が緩やかに進み、次はレーフェイル各国使者との顔合わせに移ろうとしたその矢先に、海軍がシホールアンル租借領でフリンデルド側
施設を誤爆したのみならず、他の友邦国船舶をも誤爆したという情報が伝えられた。
アメリカ国務省は即座に、グルー大使にフリンデルド側行使に向けて、ひとまずの謝罪を行う事を命じ、グルーは本国から追加の電文を受け取った後、
公使館から大使館の中間地点に位置するカイクネシナ海軍基地に会談の場所を設け、直ちに急行したのである。
公使館から大使館の中間地点に位置するカイクネシナ海軍基地に会談の場所を設け、直ちに急行したのである。
目的の施設に辿り着くまでにしばしの間があった。
グルーは胸中でこれから言う言葉を反芻しつつ、車内から軍港内の艦艇を見つめていく。
軍港内には、海軍の哨戒用の小艦艇や護衛駆逐艦、護衛空母が複数係留されている。
グルーは1か月前にこの基地を訪れているが、その時も哨戒艇や護衛駆逐艦といった警戒用の艦艇ばかりが目に付いていた。
グルーは胸中でこれから言う言葉を反芻しつつ、車内から軍港内の艦艇を見つめていく。
軍港内には、海軍の哨戒用の小艦艇や護衛駆逐艦、護衛空母が複数係留されている。
グルーは1か月前にこの基地を訪れているが、その時も哨戒艇や護衛駆逐艦といった警戒用の艦艇ばかりが目に付いていた。
大西洋方面では、大西洋艦隊所属の第7艦隊がレーフェイル大陸周辺の警備を請け負っており、大型艦は3隻のニューメキシコ級戦艦以外在籍しておらず、
その主力は10隻の護衛空母と多数の護衛駆逐艦、哨戒艇などで占められている。
その主力は10隻の護衛空母と多数の護衛駆逐艦、哨戒艇などで占められている。
それだけに、警備専門の護衛艦群の中に突然現れた巨大な浮きドッグと、その内部に鎮座するエセックス級正規空母の姿は、とてつもない存在感を醸し出していた。
「なに……?」
グルーはその大型空母を視認するなり、思考を瞬時に停止させてしまった。
車が目的の施設に到着すると、そこには意外な人物が待っていた。
カーキ色の軍服に略帽を付けた将校が車のドアを開けると、目の前の将官がグルーに向けて敬礼をしてきた。
「お待ちしておりました。グルー大使」
「これはキンケイド提督……どうしてこちらに?」
「これはキンケイド提督……どうしてこちらに?」
グルーはやや驚きながら、車から降りていく。
第7艦隊司令長官を務めるトーマス・キンケイド大将は、言葉を紡ぎながら右手を差し出した。
第7艦隊司令長官を務めるトーマス・キンケイド大将は、言葉を紡ぎながら右手を差し出した。
「先方は既に到着し、中で待たれています」
「なんと……予定の時間よりまだ10分ほどありますぞ」
「なんと……予定の時間よりまだ10分ほどありますぞ」
グルーは当惑しつつも、キンケイド大将と握手を交わした。
下車したグルー大使は、左手に手提げカバンを持ちながら、キンケイド大将と共にコンクリート造りの施設の中に入って行った。
下車したグルー大使は、左手に手提げカバンを持ちながら、キンケイド大将と共にコンクリート造りの施設の中に入って行った。
「大使。公使閣下はこちらの部屋で待たれております」
「は…ご案内ありがとうございます」
「は…ご案内ありがとうございます」
キンケイドがドアの前で立っていた兵士に目配せすると、兵士は無言の指示に従い、ドアを開けた。
「ロルカノイ公使閣下。お待たせいたしました」
「これはこれは大使閣下。お久しぶりでございます」
「これはこれは大使閣下。お久しぶりでございます」
ソファーに座っていた銀髪で長身の紳士は、グルーが入室するなり慇懃な口調で挨拶した。
ピシウス・ロルカノイ公使は、フリンデルド帝国外交省より派遣された使節である。
年は若くないが、その面長の顔は幾つもの難事を乗り越えてきた、歴戦の戦士を思わせる凄みがあった。
事実、ロルカイノ公使は元軍人であり、大佐で軍を退役した後に外交官となっている。
体つきも程良くがっしりとしており、身長も190センチ以上と背丈も大きく、かなりの偉丈夫だ。
年は若くないが、その面長の顔は幾つもの難事を乗り越えてきた、歴戦の戦士を思わせる凄みがあった。
事実、ロルカイノ公使は元軍人であり、大佐で軍を退役した後に外交官となっている。
体つきも程良くがっしりとしており、身長も190センチ以上と背丈も大きく、かなりの偉丈夫だ。
2人は挨拶と同時に握手を交わした後、そそくさと席に着いた。
「本来ならば、私が直接出向くべきでありましたが」
「何をおっしゃられますか。大使閣下」
「何をおっしゃられますか。大使閣下」
ロルカイノ公使は張りのある声音でグルーに言う。
「私こそが大使閣下の官邸に向かうべきでした。ですが、貴方方からレンベルリカ国内の治安状況が些か不安定な事を考慮し、アメリカ大使館と
フリンデルド公使館のほぼ中間地点にあるここを会談場所としたいと申された時、私は即座に理解いたしましたぞ」
フリンデルド公使館のほぼ中間地点にあるここを会談場所としたいと申された時、私は即座に理解いたしましたぞ」
ロルカイノは半ば微笑みながら、グルーに感謝の言葉を贈る。
「アメリカ側の手厚き配慮には心の底から感謝しております。ここなら、追剥ぎや旧マオンド脱走兵、それに危険な悪獣共の襲撃を受けずに
済みます」
済みます」
彼はグルーに対してそう言ってから、声のトーンを一段と下げた。
「それでは、早速本題に入りましょう」
ロルカイノは携えていた鞄から一枚の紙を取り出し、それを机の上に置く。
「先日、ロアルカ島で貴国の艦隊より発進した艦載機が、同島のシホールアンル軍艦船や軍関連施設と攻撃しましたが、その一部は我が国の
連絡事務所や、我が国とも関係のある友好国船舶にもおよび、幾ばくかの損害を受けました」
連絡事務所や、我が国とも関係のある友好国船舶にもおよび、幾ばくかの損害を受けました」
グルーは内心で来たかと呟いた。
ロルカイノの言う通り、海軍がシホールアンル帝国の僻地であるノア・エルカ列島の敵施設を攻撃中に中立国の船舶や施設を誤爆したという
情報は国務省からも届けられていた。
その詳細はまだ不明ではあるが、中立国船舶や関連施設に銃爆撃を加えて損害を生じさせた事は確かであると伝えられており、フリンデルド側
からは、レンベルリカ政府を経由して抗議文も送られている。
この事件の詳細は、予定されていた今日の会談でフリンデルド側から話されると共に、使者はアメリカ側に対して、本国からの伝言として米側に
それ相応の対応を希望する事を伝える、とのみ告げられていた。
情報は国務省からも届けられていた。
その詳細はまだ不明ではあるが、中立国船舶や関連施設に銃爆撃を加えて損害を生じさせた事は確かであると伝えられており、フリンデルド側
からは、レンベルリカ政府を経由して抗議文も送られている。
この事件の詳細は、予定されていた今日の会談でフリンデルド側から話されると共に、使者はアメリカ側に対して、本国からの伝言として米側に
それ相応の対応を希望する事を伝える、とのみ告げられていた。
アメリカ側へのフリンデルドに対する希望……という、どこか曖昧な表現は、その中身が明らかにされていないだけに、どこか不気味な物を
グルーに強く感じさせていた。
グルーに強く感じさせていた。
「貴国の攻撃で生じた損害ですが、ロアルカ島の連絡事務所は爆弾と光弾らしき物を受けて半壊し、40名の人員のうち、29名が重軽傷を負って
人事不省に陥り、交代要員が来るまで連絡事務所の業務は停止を余儀なくされております。ただ、不幸中の幸いとして、死者は出ておりません」
人事不省に陥り、交代要員が来るまで連絡事務所の業務は停止を余儀なくされております。ただ、不幸中の幸いとして、死者は出ておりません」
ロルカイノは、フリンデルド語で書かれた文書の一文をなぞりながら説明する。
(死者はいないのか……)
グルーはロルカイノの口から人員が死亡していないと告げられた時、内心で胸を撫でおろした。
だが、表には出さずとも、幾らか安堵したグルーに向けて、ロルカイノはより重たい口調で言葉を続けた。
だが、表には出さずとも、幾らか安堵したグルーに向けて、ロルカイノはより重たい口調で言葉を続けた。
「正直に申しますが……これは明らかな戦争行為です」
ロルカイノは若干前のめりになった。
「アメリカ側は、我が帝国の臣民を爆撃で傷つけたのです。今、貴方は死者は出ていないではないかと思われておられるでしょうが、
死者が出たかどうかの問題ではないのです。我が国の臣民と、租借地内とはいえ、領土たる施設を傷つけられた事が問題なのです」
「ロルカイノ公使の言われる通りです。事の重大さは本国でも認識されており、今も国務省内では、賠償金の支払い等の対応策を
協議しております。我が国もフリンデルド側と問題を起こすつもりはありません……私個人としても、そう願っております」
「グルー閣下としては、確かにそう思われているのでしょう」
死者が出たかどうかの問題ではないのです。我が国の臣民と、租借地内とはいえ、領土たる施設を傷つけられた事が問題なのです」
「ロルカイノ公使の言われる通りです。事の重大さは本国でも認識されており、今も国務省内では、賠償金の支払い等の対応策を
協議しております。我が国もフリンデルド側と問題を起こすつもりはありません……私個人としても、そう願っております」
「グルー閣下としては、確かにそう思われているのでしょう」
グルーの言葉を聞いたロルカイノは、その剣呑な表情をより露わにしながら自らの胸の内を明かしていく。
「私自身、フリンデルドとアメリカが事を構えるのは是が非でも避けたいと感じています。ですが……先の屈辱的な襲撃を知った
本国はそう収まりそうにありません」
「と……言われますと……?」
本国はそう収まりそうにありません」
「と……言われますと……?」
グルーの質問に、ロルカイノは重い口調で返答する。
「軍の上層部からは開戦止む無し、という言葉も上がり始めているようです」
「開戦ですと?それは……穏やかではありませんな」
「確かに。しかしながら、フリンデルド帝国はリーダスク大陸一の強国として、そして、かつてはシホールアンル帝国とも
覇を競い合った事もある、知勇兼ね備えた由緒ある国家です。その強国に、事故とはいえ牙を剥かれ、噛みつれたとあっては……
穏やかに済まそうとは思いますまい?」
「なるほど。貴国の上層部は先の事件で我が国に手厳しい対応を検討しておられるのですな」
「開戦ですと?それは……穏やかではありませんな」
「確かに。しかしながら、フリンデルド帝国はリーダスク大陸一の強国として、そして、かつてはシホールアンル帝国とも
覇を競い合った事もある、知勇兼ね備えた由緒ある国家です。その強国に、事故とはいえ牙を剥かれ、噛みつれたとあっては……
穏やかに済まそうとは思いますまい?」
「なるほど。貴国の上層部は先の事件で我が国に手厳しい対応を検討しておられるのですな」
グルーはそう断言した。
「大使閣下の言われる通りです。また、先の事件では我が国の施設のみならず、我が国とも友好関係を結ぶイズリィホン将国の船が
攻撃を受け、被害を受けております。この事に関しても、わが国では貴国の常軌を逸した、見境の無い攻撃に強い非難の声が次々と
上がっております」
「かなり手厳しいお言葉ですが……貴国としましては、既に我が国に対する要求などはありますでしょうか?」
「本国より私宛に伝えられた案があります。この案はグルー閣下の言われる、ロアルカ島事件に対するフリンデルド帝国の要求であります
が……フリンデルド帝国はアメリカ合衆国に対して、賠償金を請求しません」
攻撃を受け、被害を受けております。この事に関しても、わが国では貴国の常軌を逸した、見境の無い攻撃に強い非難の声が次々と
上がっております」
「かなり手厳しいお言葉ですが……貴国としましては、既に我が国に対する要求などはありますでしょうか?」
「本国より私宛に伝えられた案があります。この案はグルー閣下の言われる、ロアルカ島事件に対するフリンデルド帝国の要求であります
が……フリンデルド帝国はアメリカ合衆国に対して、賠償金を請求しません」
ロルカイノの口から、意外な答えが返ってきた。
(まさか……合衆国を怒らせまいと考えたか?)
グルーは内心そう呟いた。
フリンデルド帝国も、シホールアンル経由でアメリカ軍の実力は知っている筈だ。
事件を引き起こしたのは、フリンデルドと同等か、それ以上の力を有していたマオンドを屈服させ、シホールアンルさえも追い詰めつつある
アメリカだから、ここは表面的に怒っていると見せつつ、実際は穏便に済まそうと考えているのではないか。
フリンデルド帝国も、シホールアンル経由でアメリカ軍の実力は知っている筈だ。
事件を引き起こしたのは、フリンデルドと同等か、それ以上の力を有していたマオンドを屈服させ、シホールアンルさえも追い詰めつつある
アメリカだから、ここは表面的に怒っていると見せつつ、実際は穏便に済まそうと考えているのではないか。
と、心中で思ったが……ロルカイノの口からは言葉が続いていた。
「その代わり、対シホールアンル戦終結後、シホールアンル領より得られる各種資源の1年分、金銀、宝石類2年分を賠償金の代わりとして
請求する……と」
「各種資源と金銀宝石類ですと……」
請求する……と」
「各種資源と金銀宝石類ですと……」
ロルカイノの答えを聞いたグルーは、思わず目がくらみそうになった。
シホールアンル本土内の各種資源採掘場や鉱山は、B-29やB-36等の戦略爆撃機によって片っ端から猛爆を受けており、戦略航空軍の報告では、
既にシホールアンル帝国内の資源採掘場は、全体の4割、特に金銀類、宝石採掘場は重点的に狙われており、主だった鉱山は既に壊滅
状態にあると言われている。
既にシホールアンル帝国内の資源採掘場は、全体の4割、特に金銀類、宝石採掘場は重点的に狙われており、主だった鉱山は既に壊滅
状態にあると言われている。
フリンデルドはシホールアンルから各種情報の提供を定期的に受けているようだが、シホールアンルも超大国としての面子があるのか、
都合の悪い情報は隠している可能性が高かった。
そのため、フリンデルド側は未だに、シホールアンル国内の各種鉱山が健在だと思っているのであろう。
都合の悪い情報は隠している可能性が高かった。
そのため、フリンデルド側は未だに、シホールアンル国内の各種鉱山が健在だと思っているのであろう。
(フリンデルド側が要求する資源の量は膨大な上に実現が難しい。それ以前に、今では北大陸に展開する戦略爆撃機の恰好の目標となって
次々と爆撃を受けている有様だ。ここで資源の譲渡は無理と返せば………)
次々と爆撃を受けている有様だ。ここで資源の譲渡は無理と返せば………)
この異世界に転移後、アメリカは同盟国の協力を得て、シホールアンル帝国に関する調査を進めてきたが、1946年現在では、
シホールアンル帝国本土内だけで出土する資源や、金銀類の採掘で得られる国家収入を簡易ながらも推定する事が出来ている。
シホールアンル帝国本土内だけで出土する資源や、金銀類の採掘で得られる国家収入を簡易ながらも推定する事が出来ている。
その推定額は、実に15憶ドル以上にも上ると言われており、これは大国の国家予算に匹敵する。
フリンデルドが資源を譲渡できないと知れば、賠償金を要求するかもしれない。
それほどの膨大な量の賠償金を、アメリカは払おうとはしないだろう。
それほどの膨大な量の賠償金を、アメリカは払おうとはしないだろう。
現実問題として、払えない金額ではない。
だが、実際に払うとなると、様々な問題が沸き起こってくる。
第一、互いの通貨の違いもある上に、その価値も違いがある。
貨幣が使えない場合は、合衆国が保有する金を、賠償金代わりに要求する可能性もある。
だが、実際に払うとなると、様々な問題が沸き起こってくる。
第一、互いの通貨の違いもある上に、その価値も違いがある。
貨幣が使えない場合は、合衆国が保有する金を、賠償金代わりに要求する可能性もある。
(いや、賠償金等よりも、場合によってはそれ以上に価値のある物を指定するかもしれぬ。そう……北大陸のシホールアンル領を)
グルーは、心中で更なる懸念を抱いた。
賠償金も駄目。資源と金銀宝石類も駄目となれば……それを生み出す領土を要求する。
過大な要求だが、この世界ではこれまでの常識が全く通用しない事は、嫌というほど思い知らされている。
当然にのように、領土を要求すると言い放ってもなんら不思議では無いと、グルーは心中でそう断言していた。
過大な要求だが、この世界ではこれまでの常識が全く通用しない事は、嫌というほど思い知らされている。
当然にのように、領土を要求すると言い放ってもなんら不思議では無いと、グルーは心中でそう断言していた。
「貴国の要求ですが……誠に残念ではありますが、それに応えられるだけの各種資源は集まらぬかと思われます」
「と、申しますと?」
「と、申しますと?」
ロルカイノは怪訝な表情を浮かべながらグルーに質問する。
「貴国は、我が国の要求は受け入れられぬ、と申されますかな?」
「受け入れられるのなら、すぐにでも頭を縦に振りましょう。しかしながら、現状ではそれが出来ぬ状況にあるのです」
「シホールアンルは世界有数の資源産出国です。戦後、シホールアンルを下すであろうアメリカは、その膨大な資源を
独り占めにしたい、と申されるのですな」
「いえ、それ自体が出来ぬのです。主だった資源採掘場や精錬工場等は、我が空軍が手あたり次第に爆弾を叩き込んでおりますので」
「受け入れられるのなら、すぐにでも頭を縦に振りましょう。しかしながら、現状ではそれが出来ぬ状況にあるのです」
「シホールアンルは世界有数の資源産出国です。戦後、シホールアンルを下すであろうアメリカは、その膨大な資源を
独り占めにしたい、と申されるのですな」
「いえ、それ自体が出来ぬのです。主だった資源採掘場や精錬工場等は、我が空軍が手あたり次第に爆弾を叩き込んでおりますので」
グルーの答えを聞いたロルカイノは、瞬時に表情を凍り付かせた。
それを見たグルーは、
それを見たグルーは、
(なるほど。シホールアンルからは都合の良い情報しか与えられていないのか)
と、心中でそう確信した。
「私は外交官であり、爆撃作戦の詳細は知らされておりませんが、それでも、空軍からは主要な魔法石鉱山や金銀宝石採掘場は
最重要目標として爆撃を行い、目的は達成しつつあると聞かされております。どのような損害を与えたかはわかりません。
しかしながら、やる時は徹底して仕事を果たすのが空軍です。こうしてあなたとお話を交わしている間にも、戦略爆撃機は目標へ
向けて爆弾の雨を降らせている事でしょう」
最重要目標として爆撃を行い、目的は達成しつつあると聞かされております。どのような損害を与えたかはわかりません。
しかしながら、やる時は徹底して仕事を果たすのが空軍です。こうしてあなたとお話を交わしている間にも、戦略爆撃機は目標へ
向けて爆弾の雨を降らせている事でしょう」
「シホールアンルからは、アメリカの大型飛空艇が頻々と来襲するも、その都度被害を与えて撃退に成功しているとしか話されて
おりませんでしたが……しかしながら、貴国はシホールアンルの有する莫大な資源を手中に収めようとせず、そればかりか山ごと
吹き飛ばそうとするとは、我々からしてみれば、貴国のやり方は常軌を逸しておりますぞ?」
「常軌を逸しておりますか……なるほど、貴国から見ればそうでしょうな。ですが……」
おりませんでしたが……しかしながら、貴国はシホールアンルの有する莫大な資源を手中に収めようとせず、そればかりか山ごと
吹き飛ばそうとするとは、我々からしてみれば、貴国のやり方は常軌を逸しておりますぞ?」
「常軌を逸しておりますか……なるほど、貴国から見ればそうでしょうな。ですが……」
グルーは一呼吸置きつつ、ロルカイノの目をじっと見据えた。
「敵対国の継戦能力を割くには、これが有効なのです。これもまた……戦争に勝つためです」
「……」
「……」
グルーは、最初と変わらず、低めで単調な声音でロルカイノに言う。
その何気なく聞こえた一言が、ロルカイノの背筋を凍り付かせた。
その何気なく聞こえた一言が、ロルカイノの背筋を凍り付かせた。
「そういう状況でありますので、各種資源を賠償金代わりに帰国を譲渡するのは非常に困難。いや……」
グルーは咳払いしてから最後の言葉を放つ。
「無理と言えますな」
「無理という言葉は、こちらの要求を拒絶するという答であると……受け取ってよろしいのですな?」
「いえ、この方法でなら無理という話であり、賠償自体は無理であるとは申しておりません」
「その他に代替するものを希望すると?我が国としてはそれが最善であると考えております。いや」
「無理という言葉は、こちらの要求を拒絶するという答であると……受け取ってよろしいのですな?」
「いえ、この方法でなら無理という話であり、賠償自体は無理であるとは申しておりません」
「その他に代替するものを希望すると?我が国としてはそれが最善であると考えております。いや」
ロルカイノは表面上は平静さを維持しながら交渉を続ける。
「我が国のみではありません。友好国イズリィホンへの賠償も行っていただきます。かの国の船も貴国の誤爆によって損害を受け、
寄港地から今なお動けぬ状態にあります。また、船員多数が負傷したとの知らせが入っており、一部の船員は今も生死の境を
彷徨うか、または死亡したらしいとの未確認情報も受けております」
「その話は本当でございますか?」
寄港地から今なお動けぬ状態にあります。また、船員多数が負傷したとの知らせが入っており、一部の船員は今も生死の境を
彷徨うか、または死亡したらしいとの未確認情報も受けております」
「その話は本当でございますか?」
グルーはすかさず質問を飛ばすが、なぜか、ロルカイノは即答しなかった。
「友好国イズリィホンは、我が国のように長距離航海が可能な船舶を複数有しておりません。このため、イズリィホンを収める
幕府首脳部には、我が国がイズリィホンへの補償も同時に受け取り、後に幕府側へ引き渡す事が決定しております」
「友好国への賠償も貴国へ支払いせよと?」
「預かるだけです。無論、賠償をお受けした後は、可及的速やかにイズリィホン側へお渡しします」
「賠償の内訳ですが、先に提示した資源量は貴国と、貴国の友好国イズリィホンの分を足した物でございますか?」
「いえ、あれは我が国のみの量となっております」
幕府首脳部には、我が国がイズリィホンへの補償も同時に受け取り、後に幕府側へ引き渡す事が決定しております」
「友好国への賠償も貴国へ支払いせよと?」
「預かるだけです。無論、賠償をお受けした後は、可及的速やかにイズリィホン側へお渡しします」
「賠償の内訳ですが、先に提示した資源量は貴国と、貴国の友好国イズリィホンの分を足した物でございますか?」
「いえ、あれは我が国のみの量となっております」
それを聞いたグルーは、内心で何か怪しいと思った。
「イズリィホンはイズリィホンで決める量があります。まぁ、先程、貴国は提示した資源量は譲渡できぬときっぱりと言っておられましたから……
資源が無理であるのならば、本国は貴国の保有する純金を賠償金代わりとして要求するでしょう。貴国の通貨単位であるドル紙幣でしたかな?
そちらは要求致しませんが、純金の量は、貴国の金保有量や我がフリンデルドや、イズリィホンの要求する量を記した文書をお渡します。
そちらを拝見後に、別で協議を重ねる事になるでしょうな」
資源が無理であるのならば、本国は貴国の保有する純金を賠償金代わりとして要求するでしょう。貴国の通貨単位であるドル紙幣でしたかな?
そちらは要求致しませんが、純金の量は、貴国の金保有量や我がフリンデルドや、イズリィホンの要求する量を記した文書をお渡します。
そちらを拝見後に、別で協議を重ねる事になるでしょうな」
(金を要求してきたか……先程は賠償金を要求しないと言っていたのに、結局は要求しているではないか!)
グルーは矛盾するロルカイノに内心で腹を立てたが、同時に予想通りの展開になったと呟いた。
現在、アメリカは23憶ドル相当の金塊を保有している。
先程も述べた通り、シホールアンル本土で採掘される各種資源量は膨大であり、その価格は15億ドル以上に上ると推測されている。
現在、アメリカは23憶ドル相当の金塊を保有している。
先程も述べた通り、シホールアンル本土で採掘される各種資源量は膨大であり、その価格は15億ドル以上に上ると推測されている。
要するに、フリンデルド側は資源を貰えなければ、合衆国が保有する金塊のうち、15億ドル相当の金塊を要求しようとしているのだ。
実際にはフリンデルド側とイズリィホン側の実情を把握してから賠償請求を行うであろうから、要求する量は幾分下がるかもしれない。
とはいえ、相手はシホールアンルと同様の覇権国だ。
相当量の賠償を行う事は目に見えていた。
実際にはフリンデルド側とイズリィホン側の実情を把握してから賠償請求を行うであろうから、要求する量は幾分下がるかもしれない。
とはいえ、相手はシホールアンルと同様の覇権国だ。
相当量の賠償を行う事は目に見えていた。
(したたかな国かもしれんな、フリンデルドは。物怖じせずに話を通そうとするその姿勢はなかなか見上げた物だ)
グルーは小さくため息を吐きつつ、顔を俯かせ、右手で両目の瞼を揉んだ。
「アメリカ側には、我が国と、友好国イズリィホンへの、確かな誠意を見せて頂けることを強く……希望しておりますぞ」
ロルカイノは、余裕すら感じさせる笑みを顔に張り付かせながら、グルーをじっと見据えた。
ふと、グルーには、一瞬だけロルカイノが見せた異変を見ることが出来た。
ふと、グルーには、一瞬だけロルカイノが見せた異変を見ることが出来た。
ロルカイノは一瞬だけ、顔を引きつらせていた。
(ふむ……フリンデルドはかつて、シホールアンルと覇を競い合い、争った事もあると言う紛れもない大国だ。国土も広いと聞くから、
懐の深い国でもあるのだろう。だが……そのシホールアンルを圧倒しつつあるのは、合衆国。そう……)
懐の深い国でもあるのだろう。だが……そのシホールアンルを圧倒しつつあるのは、合衆国。そう……)
グルーは、俯かせていた顔をロルカイノに向け直した。
(私の祖国だ)
「貴国のお怒りはごもとっともです。そして、友邦国にも気を掛けるその気配りさ……感服いたしました」
「畏れ多いお言葉、感謝いたします」
「しかしながら」
「畏れ多いお言葉、感謝いたします」
「しかしながら」
グルーは唐突に、声を張り上げた。
「貴国の提示した条件は、恐らく受け入れられぬかと思われます。無論、可及的速やかに本国へ連絡し、確認をとりますが」
「……何故ですかな?」
「私なりの所見を幾つか申し述べますが、まずは、事の発端となった誤爆事件の事について」
「……何故ですかな?」
「私なりの所見を幾つか申し述べますが、まずは、事の発端となった誤爆事件の事について」
彼はロルカイノに伝わりやすいように、若干ゆっくりとした口調で説明を始める。
「先の誤爆は誠に痛ましい事件でありました。ですが、後に海軍側から聞いた話によると……貴国の有していた施設は、誤爆を受けても致し方ない状況にあったと
言われています」
「なんですと!?」
言われています」
「なんですと!?」
グルーの口から飛び出した意外な言葉に、ロルカイノは目を丸くして叫んでしまった。
彼は色めき立つロルカイノを無視するかのように言葉を続ける。
彼は色めき立つロルカイノを無視するかのように言葉を続ける。
「当時、爆撃を行ったパイロットの証言によりますと、貴国の施設の付近にはシホールアンル側の対空火器と軍事施設が隣接されており、対空部隊は付近に広く配備されていた
ようです。また、パイロットは誤爆した貴国の施設も、シホールアンル側の軍事施設と似たような作りになっており、誤爆に気付いたのは施設の屋上に掲げられていた、小さな旗を見た
後だったと」
ようです。また、パイロットは誤爆した貴国の施設も、シホールアンル側の軍事施設と似たような作りになっており、誤爆に気付いたのは施設の屋上に掲げられていた、小さな旗を見た
後だったと」
「それが誤爆を招いしてしまったと、言われるのですな……?」
ロルカイノの問いに、グルーは頷く。
「馬鹿な!操る飛空士は視力が良い筈ですぞ!」
「確かにその通りですが……先も申した通り、誤爆は戦闘中に起こった出来事です。つまり、これは非常時に起きてしまった不幸な出来事であると言えます」
「何を言われますか!?そもそも、ロアルカ島は辺境の後方地域であり、それまでの戦闘では無縁の島でした。そこを戦火の渦に巻き込んだのは貴国では
ありませんか。貴国の部隊が功を焦ったのかどうかは分かりませんが、とにかく……誤爆のきっかけを作ったのは貴国の艦隊にありますぞ」
「いえ、きっかけは我が艦隊ではありません。お言葉ですが……そもそもの原因は、ロアルカ島が重要な資源地帯であり、その資源や戦略物資はシホールアンル
の戦力増強、戦線維持に活用されているからであります」
「確かにその通りですが……先も申した通り、誤爆は戦闘中に起こった出来事です。つまり、これは非常時に起きてしまった不幸な出来事であると言えます」
「何を言われますか!?そもそも、ロアルカ島は辺境の後方地域であり、それまでの戦闘では無縁の島でした。そこを戦火の渦に巻き込んだのは貴国では
ありませんか。貴国の部隊が功を焦ったのかどうかは分かりませんが、とにかく……誤爆のきっかけを作ったのは貴国の艦隊にありますぞ」
「いえ、きっかけは我が艦隊ではありません。お言葉ですが……そもそもの原因は、ロアルカ島が重要な資源地帯であり、その資源や戦略物資はシホールアンル
の戦力増強、戦線維持に活用されているからであります」
感情的になりがちなロルカイノに対し、グルーは平静な声音で説明を続ける。
「魔法石や希少鉱物の産地だから、艦隊が狙ったと言われるのですか……」
「そうです。我々が狙うのは、敵の戦力だけではありません。その戦力の源となるものは全て叩く……これが、我がアメリカが行う戦争です」
「し、しかし……そのような戦争を行うにしても……いや、それ以前に!同地の資源地帯は、後にシホールアンルから我が帝国に返還される予定であり、
以前お話した時は、我が方からルィキント、ノア・エルカ地方への攻撃はなるべく避けて頂きたいと要請した筈ですぞ」
「私は無論、善処するように本国へお伝えしております。しかしながら、軍の作戦は機密事項であり、決定済みの作戦行動を制限することなどはとても」
「そうです。我々が狙うのは、敵の戦力だけではありません。その戦力の源となるものは全て叩く……これが、我がアメリカが行う戦争です」
「し、しかし……そのような戦争を行うにしても……いや、それ以前に!同地の資源地帯は、後にシホールアンルから我が帝国に返還される予定であり、
以前お話した時は、我が方からルィキント、ノア・エルカ地方への攻撃はなるべく避けて頂きたいと要請した筈ですぞ」
「私は無論、善処するように本国へお伝えしております。しかしながら、軍の作戦は機密事項であり、決定済みの作戦行動を制限することなどはとても」
グルーは眉を顰めながら、ロルカイノをじっと見据える。
「ましてや、未だに敵国、シホールアンルを支えている資源地帯を放置するのはあり得ない事です。貴国は同地方の資源地帯が自らの物であると思われて
いるようですが……我が方はそうは見ておりません」
「な……」
「彼の地の資源地帯は、未だに”シホールアンル帝国が所有”しておるのです。シホールアンル帝国の所有する軍部隊や戦略拠点であるのならば、全力を
尽くして叩く。そうしなければ……この戦争には勝てません」
「なんと……しかしながら、魔法石鉱山や精錬工場を主とした関連施設への攻撃は、是が非でも止めて頂きたい。そして、誤爆の犠牲となった者の賠償も
必ずや行う事を確約していただきたい」
いるようですが……我が方はそうは見ておりません」
「な……」
「彼の地の資源地帯は、未だに”シホールアンル帝国が所有”しておるのです。シホールアンル帝国の所有する軍部隊や戦略拠点であるのならば、全力を
尽くして叩く。そうしなければ……この戦争には勝てません」
「なんと……しかしながら、魔法石鉱山や精錬工場を主とした関連施設への攻撃は、是が非でも止めて頂きたい。そして、誤爆の犠牲となった者の賠償も
必ずや行う事を確約していただきたい」
ロルカイノは感情を押し殺しながらグルーにそう伝える。
「……先程も申しましたが、この一連の件については、本国へお伝えしてからになります。私は確かに全権を委任されておりますが、現時点では貴国への
要求を確認するだけしか、すべき事はありません」
要求を確認するだけしか、すべき事はありません」
グルーもまた、変わらぬ口調で返答していく。
「ぅ……無論、そうでありましょうな。ですが、我が帝国も貴国に、納得の行く判断を求めておるのです。また、本国は何も純金のみを要求しているのでは
ありません。対シホールアンル戦終結後に、貴国が得られるであろう同地の資源を、一定量お譲りして頂けるだけでも良いのです。シホールアンル本土は
資源量が豊富です」
「その資源についても、私から所見述べましょう」
ありません。対シホールアンル戦終結後に、貴国が得られるであろう同地の資源を、一定量お譲りして頂けるだけでも良いのです。シホールアンル本土は
資源量が豊富です」
「その資源についても、私から所見述べましょう」
グルーはロルカイノの言葉を遮るように口をはさむ。
「シホールアンル帝国はやはり、貴国に対して都合の良い情報ばかりをお送りしているようですな」
「なんですと?」
「シホールアンルの主だった魔法石鉱山や金銀鉱山を始めとする資源採掘量は、そう遠くない内に急速に低下し、各種資源の生産量も落ち込むする事でしょう」
「……まさか
「なんですと?」
「シホールアンルの主だった魔法石鉱山や金銀鉱山を始めとする資源採掘量は、そう遠くない内に急速に低下し、各種資源の生産量も落ち込むする事でしょう」
「……まさか
グルーの返答を聞いたロルカイノは、瞬時に先ほどの言葉を思い出した。
(シホールアンルの有する戦略拠点は、全力を尽くして叩く)
「貴国はシホールアンル本土の各種鉱山をも狙い撃ちにしておるのですか?」
「はい。主だった魔法石鉱山や各種鉱山は、隣接する精錬工場や関連施設も含めて、戦略爆撃の主目標となっており、現時点でかなりの数の目標が、
我が軍の戦略爆撃機によって猛爆を受けたとの事です。恐らく、シホールアンル経済は加速度的に悪化し、頼みの綱となる各種資源も、鉱山ごと
埋められるか、関連施設ごと灰燼に帰している事でしょう」
「そんな筈はない!そんな筈は……」
「はい。主だった魔法石鉱山や各種鉱山は、隣接する精錬工場や関連施設も含めて、戦略爆撃の主目標となっており、現時点でかなりの数の目標が、
我が軍の戦略爆撃機によって猛爆を受けたとの事です。恐らく、シホールアンル経済は加速度的に悪化し、頼みの綱となる各種資源も、鉱山ごと
埋められるか、関連施設ごと灰燼に帰している事でしょう」
「そんな筈はない!そんな筈は……」
急にロルカイノは声を荒げたが、すぐに萎んだ口調になってしまった。
彼は内心、賠償を拒否したいアメリカ側が嘘をついているのではないかと疑った。
だが、グルーのこれまでの説明を加味して改めて考えてみると、とても嘘には思えなかった。
彼は内心、賠償を拒否したいアメリカ側が嘘をついているのではないかと疑った。
だが、グルーのこれまでの説明を加味して改めて考えてみると、とても嘘には思えなかった。
それ以前に、フリンデルド側がシホールアンル側から入手する正式な情報の他に、別ルートからの情報も入手し、国の上層部や
一部外交官にも秘密裏に伝えていた。
別ルートで入手する情報はどれも断片的であり、正確な物も少なかったが、それでもシホールアンルに派遣された特使からもたらされた
情報には、
一部外交官にも秘密裏に伝えていた。
別ルートで入手する情報はどれも断片的であり、正確な物も少なかったが、それでもシホールアンルに派遣された特使からもたらされた
情報には、
「シホールアンルは連日の空襲を受けて損害が累積しつつある」
「アメリカ側がシホールアンル有数の大都市であるランフック市に大空襲を行い、何十万名という市民が一夜にして犠牲になった」
「アメリカ側がシホールアンル有数の大都市であるランフック市に大空襲を行い、何十万名という市民が一夜にして犠牲になった」
といった物も含まれていた。
本国上層部では、不明瞭ながらも事の重大さを認識しており、今回の一見、高圧的にも思える賠償案の提示も、実際は大国としての
意地を見せるだけに出した物であり、米側が払わぬと言うのであればそれで良いと判断し、米側の態度が硬化する場合は要求を即座に
取り下げる予定であった。
本国上層部では、不明瞭ながらも事の重大さを認識しており、今回の一見、高圧的にも思える賠償案の提示も、実際は大国としての
意地を見せるだけに出した物であり、米側が払わぬと言うのであればそれで良いと判断し、米側の態度が硬化する場合は要求を即座に
取り下げる予定であった。
とはいえ、フリンデルド帝国も列強として名を馳せてきた。
可能か不可能かはともかく、まずは帝国首脳部の意志を伝えなければならなかった。
可能か不可能かはともかく、まずは帝国首脳部の意志を伝えなければならなかった。
言葉を途切れさせたロルカイノに対して、グルーは片手を上げながら首を横に振った。
「大使閣下。まずは落ち着いてください。興奮されるお気持ちも十分にわかりますが……」
「は……これは失礼いたしました…」
「いえ……胸中お察しいたします。しかしながら、情報開示が満足に行われていない事は、戦局が思わしくない国にはありがちの事です。
貴国も列強ですが、シホールアンルも軍の質はともかくとして、規模に関してはまだまだ列強として恥じぬ物を有しております。
列強としてのプライドも……」
「は……これは失礼いたしました…」
「いえ……胸中お察しいたします。しかしながら、情報開示が満足に行われていない事は、戦局が思わしくない国にはありがちの事です。
貴国も列強ですが、シホールアンルも軍の質はともかくとして、規模に関してはまだまだ列強として恥じぬ物を有しております。
列強としてのプライドも……」
グルーは浅くため息を吐きながら言葉を続けていく。
「強いプライドを持つが故に、弱気は見せたくないと思う物です。窮地に陥った状況に置いても……」
「列強のプライド……か」
「列強のプライド……か」
ロルカイノは小声で、その言葉を反芻した。
「閣下。私が申した所見は以上になります。私は今確認した貴国の要求をすぐさま、本国にお伝えしたいのですが、フリンデルド側の要求は、
先述した物以外に何かございますか?」
先述した物以外に何かございますか?」
「いえ。本国から伝えられた要求は以上になります。賠償を純金でお支払いされる場合に関しましては、先述した通り、こちらの文書を
お渡しいたしますので、ご参考までに」
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
お渡しいたしますので、ご参考までに」
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
ロルカイノから差し出された封筒を、グルーは受け取った。
「それでは、私から最後に確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「私が答えられる範囲であれば、なんなりと」
「私が答えられる範囲であれば、なんなりと」
ロルカイノがそう答えると、グルーは軽く咳払いしてから質問を投げかけた。
「イズリィホン将国の位置を教えて頂きたい。賠償金の支払いの是非については本国が判断致しますが、イズリィホンには恐らく、合衆国から
直接使者が出向く可能性が高いと思われます。賠償金支払いが国別となった場合には、使者からイズリィホン政府首脳部にお渡しする事はほぼ確実と言えます。
その時に備えて、イズリィホンの位置を出来る限り早く、我が国に教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「何をいきなり……」
直接使者が出向く可能性が高いと思われます。賠償金支払いが国別となった場合には、使者からイズリィホン政府首脳部にお渡しする事はほぼ確実と言えます。
その時に備えて、イズリィホンの位置を出来る限り早く、我が国に教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「何をいきなり……」
ロルカイノはあからさまに不快気な表情を浮かびかけた。
その直前に、脳裏にある光景が思い浮かぶ。
その光景は、この会合場所に向かう直前に見たある物であった。
その直前に、脳裏にある光景が思い浮かぶ。
その光景は、この会合場所に向かう直前に見たある物であった。
見た事も無い巨大な箱。
それは、港の中にあり、海の上に浮いていた。
それは巨大な船だった。
そして、中には真っ平らな甲板を敷いた、幾分小さな船が鎮座している
それは、港の中にあり、海の上に浮いていた。
それは巨大な船だった。
そして、中には真っ平らな甲板を敷いた、幾分小さな船が鎮座している
一見不可思議な光景だったが、共について来た海軍士官が、その建造物を見つめながらくぐもった声で次の言葉を発した。
「あれがエセックス級空母と呼ばれる艦なのか……同盟国シホールアンルの大海軍を散々に痛めつけたという、あのエセックス級……」
「……お安い御用です。今ここでお教えいたしましょう」
ロルカイノは平静さを装いながら、グルーにそう答えた。
しばしの時間が過ぎ、グルーはイズリィホン将国の正確な位置をフリンデルド側から伝えられた。
「迅速なご対応に、心から感謝いたします。それでは、貴国からお伝え頂いた要望をすぐに本国へお伝えいたします」
「色よい返事がもらえる事を、心よりご期待いたしますぞ」
「色よい返事がもらえる事を、心よりご期待いたしますぞ」
彼は笑みを浮かべながら、席から立ちあがり、右手を差し出した。
グルーも立ち上がって握手を交わした。
グルーも立ち上がって握手を交わした。
「今日はこれでお開きに致しましょう。ロルカイノ閣下、また近いうちにお会いいたしましょう」
「無論です。その時は……」
「無論です。その時は……」
ロルカイノは、グルーの手を一際強く握りしめた。
「アメリカ、いや……東側諸国のご判断をお聞きする時になるでしょう。どのような回答が来ようとも、互いに良い関係を歩めることを
切に願っておりますぞ」
切に願っておりますぞ」
ロルカイノ大使が退出した後、グルーは体にどっと疲れが押し寄せるような疲労感を感じた。
ゆっくりと席に腰おろしたところで、閉められていたドアが開かれる。
ゆっくりと席に腰おろしたところで、閉められていたドアが開かれる。
「グルー大使。具合がよろしくないのですか?」
キンケイド提督がグルーの随員と共に入室してきた。
「いや。別に何ともありません」
グルーは苦笑しながら右手を振ったが、額には冷や汗が滲んでいた。
彼はポケットのハンカチを取り出し、汗を拭う。
彼はポケットのハンカチを取り出し、汗を拭う。
「先方はやや浮かぬ顔つきでここから立ち去って行きましたが、何かございましたか?」
「いや、特にはありません。ただ、フリンデルド側もプライドが強い事がわかりました。かの国も列強と呼ばれるだけあって、
相当の国力を有しているようですな」
「いや、特にはありません。ただ、フリンデルド側もプライドが強い事がわかりました。かの国も列強と呼ばれるだけあって、
相当の国力を有しているようですな」
グルーは深呼吸を数度繰り返してから、席を立ち上がった。
部屋から出た後、ふと、ある事を思い出した。
部屋から出た後、ふと、ある事を思い出した。
「そう言えば。外の港に停泊しているあれですが」
「浮きドッグですかな?」
「ええ……正確には、その中にある艦です」
「フランクリンの事ですな」
「浮きドッグですかな?」
「ええ……正確には、その中にある艦です」
「フランクリンの事ですな」
キンケイドは何気ない口調で答えていく。
「先日、本国より第7艦隊にも高速機動部隊を編成し、配備する旨が伝えられましてね。フランクリンは駆逐艦4隻と共にその第一陣として3日前に
入港しましたが、フランクリンは第2次レビリンイクル沖海戦で受けた損傷が完全ではないので、あの浮きドッグで修理の続きを行っておるのです。
また、近いうちに別の正規空母も第7艦隊に配備される予定で、3月以降はフランクリンと共に大西洋で任務にあたる予定ですな」
「そうでしたか」
入港しましたが、フランクリンは第2次レビリンイクル沖海戦で受けた損傷が完全ではないので、あの浮きドッグで修理の続きを行っておるのです。
また、近いうちに別の正規空母も第7艦隊に配備される予定で、3月以降はフランクリンと共に大西洋で任務にあたる予定ですな」
「そうでしたか」
グルーはそう相槌を打ったが、同時に疑問が沸き起こった。
(なぜ大西洋に正規空母を?フリンデルドは列強とはいえ、シホールアンルやマオンドのような現代海軍を有していないはずだ。
それ以前に、修理の成っていない正規空母をなぜこの地に派遣したのだろうか……)
それ以前に、修理の成っていない正規空母をなぜこの地に派遣したのだろうか……)
彼は本国が起こした、不可解な行動に納得がいかなかった。
レーフェイル大陸周辺の制海権は既に合衆国海軍の物であり、現状の戦力だけでも十分に事足りている筈だ。
そこに正規空母2隻を追加するのは過剰ではないだろうか?
レーフェイル大陸周辺の制海権は既に合衆国海軍の物であり、現状の戦力だけでも十分に事足りている筈だ。
そこに正規空母2隻を追加するのは過剰ではないだろうか?
そのような疑問も胸中で沸き起こったが、グルーは建物を出ると、別の事に意識を切り替え、公用車に乗って海軍基地を去って行った。
1946年2月11日 午前7時 アメリカ合衆国ワシントンDC
ホワイトハウスの大統領執務室内では、執務机に座る主の前に5人の軍幹部と政府閣僚が報告と説明を行っていた。
「ふむ。フリンデルド帝国は我が国に賠償金を支払えという事だな。しかも、友好国の分も含めて」
ホワイトハウスの主である、アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトは、コーデル・ハル国務長官から報告を聞かされた後、訝し気な表情を浮かべながら
そう言い放った。
そう言い放った。
「駐レンベルリカ大使の報告を読む限りは、そう取れます」
「フリンデルドは確かに、現金での賠償金は要求しなかった。ドル基準ではないから当然と言えば当然ではあるが、我が国が保有する純金を代わりに欲しいと言って
きている。相手方の要求内容が矛盾しているが、それはさておき。純金が用意できなければ、シホールアンル本土より産出される資源一年分を要求か」
「フリンデルド帝国が要求する資源量が、シホールアンルが産出していた最盛期の量を要求するのならば、それは無理な話です」
「フリンデルドは確かに、現金での賠償金は要求しなかった。ドル基準ではないから当然と言えば当然ではあるが、我が国が保有する純金を代わりに欲しいと言って
きている。相手方の要求内容が矛盾しているが、それはさておき。純金が用意できなければ、シホールアンル本土より産出される資源一年分を要求か」
「フリンデルド帝国が要求する資源量が、シホールアンルが産出していた最盛期の量を要求するのならば、それは無理な話です」
統合参謀本部議長のウィリアム・リーヒ元帥が、首を振りながらルーズベルトに進言する。
「陸軍航空隊は、シホールアンルの資源地帯に対しても積極的な戦略爆撃を行っております。既に多大な損害を与えたという報告を受けて
おりますから、例え資源を渡すとしても、フリンデルド帝国が希望する量よりも遥かに少ない物になるかと」
「純金を用意するにしても、我々が用意しようとしている量はアメリカ人成年男子が5年から10年稼げる金額分を負傷した人数分になります
から、金額分にすれば、100名分と仮定して大体200万から300万ドル相当です」
おりますから、例え資源を渡すとしても、フリンデルド帝国が希望する量よりも遥かに少ない物になるかと」
「純金を用意するにしても、我々が用意しようとしている量はアメリカ人成年男子が5年から10年稼げる金額分を負傷した人数分になります
から、金額分にすれば、100名分と仮定して大体200万から300万ドル相当です」
財務長官のヘンリー・モーゲンソーはルーズベルトを直視しながら説明していく。
「ですが、フリンデルド側から手渡された資料によれば、希望する純金の量は1億ドル相当。我々が想定している分よりも遥かに多額の純金を要求
しております。これはフリンデルド側のみの希望量であり、イズリィホン国の物も含めると、2億ドル近くに上ります。これはかなりの量です」
「いやはや……フリンデルド側は相当怒り狂っているようだ」
しております。これはフリンデルド側のみの希望量であり、イズリィホン国の物も含めると、2億ドル近くに上ります。これはかなりの量です」
「いやはや……フリンデルド側は相当怒り狂っているようだ」
モーゲンソー財務長官の説明を聞いたルーズベルトは、困り顔で呟いた。
「フリンデルド側は純金での支払いが困難であれば、先にも申しました通り、資源の引き渡しで応ずる事も可能とありますが、資源の引き渡しで
応じた場合、ドルに換算すると10憶ドル以上の支出に相当します。これはこれでかなり法外な量と言えますな」
「相手がどのような国なのか、深く考えぬのはシホールアンルもフリンデルドも同じという事でしょうかな?」
応じた場合、ドルに換算すると10憶ドル以上の支出に相当します。これはこれでかなり法外な量と言えますな」
「相手がどのような国なのか、深く考えぬのはシホールアンルもフリンデルドも同じという事でしょうかな?」
リーヒ提督と共に同席していたアーネスト・キング海軍作戦部長が皮肉を込めた口調でモーゲンソーに言う。
それをジョージ・マーシャル陸軍参謀総長否定した。
それをジョージ・マーシャル陸軍参謀総長否定した。
「それはどうかと私は思う。シホールアンルは唐突に合衆国を併合するかのような文言を吐いたが、フリンデルド側は、あくまで“提案”に終始
しているように思える。そうですな、ハル長官?」
「はい。グルーの報告を見る限り、フリンデルド側は強硬姿勢を見せつつも、同時に、合衆国側にそれは可能なのかと提案し、お伺いを立てている事がよくわかり
ます。少なくとも、かの国は内心、合衆国と事を構えるのを避けているように思えます」
「つまり……フリンデルド側は駄目元でこの提案をしてきたという訳か」
しているように思える。そうですな、ハル長官?」
「はい。グルーの報告を見る限り、フリンデルド側は強硬姿勢を見せつつも、同時に、合衆国側にそれは可能なのかと提案し、お伺いを立てている事がよくわかり
ます。少なくとも、かの国は内心、合衆国と事を構えるのを避けているように思えます」
「つまり……フリンデルド側は駄目元でこの提案をしてきたという訳か」
ルーズベルトはそう確信した。
「シホールアンルとの戦争も満4年を過ぎております。合衆国や同盟国を除いた外国にも現在遂行中の大戦の情報は行き届いており、それはこれらの
国々の国民までもが、時には脚色を交えたりして伝えているらしいとの情報も入っており、人によっては、太平洋の戦いは古代の神話時代の戦争よりも
激しい戦争であると断言する者も、少なからず現れているようです」
国々の国民までもが、時には脚色を交えたりして伝えているらしいとの情報も入っており、人によっては、太平洋の戦いは古代の神話時代の戦争よりも
激しい戦争であると断言する者も、少なからず現れているようです」
ハルがそう言うと、ルーズベルトは意外だと言わんばかりの表情を浮かべた。
「それはまた……特に最後の神話時代よりも激しいと言うのはかなり大袈裟な物だな。我々は怪物などではないぞ?」
「ですが、合衆国軍がこれまでに戦った戦闘での軍の規模や被害の規模等が、外国では前代未聞であると言われているようです。昨年のレーミア湾海戦や
第2次レビリンイクル沖海戦も、諸外国は世界史上空前の大海戦として広く知れ渡っており、陸軍が主導で行ったジャスオ領の大規模上陸作戦や
カイトロスク会戦も、前例の無い大規模戦闘として諸外国の注目を浴びていると聞きます」
「ですが、合衆国軍がこれまでに戦った戦闘での軍の規模や被害の規模等が、外国では前代未聞であると言われているようです。昨年のレーミア湾海戦や
第2次レビリンイクル沖海戦も、諸外国は世界史上空前の大海戦として広く知れ渡っており、陸軍が主導で行ったジャスオ領の大規模上陸作戦や
カイトロスク会戦も、前例の無い大規模戦闘として諸外国の注目を浴びていると聞きます」
リーヒ提督は単調な声音でルーズベルトに返答する。
それに対して、ルーズベルトは幾分不快気な表情を浮かべた。
それに対して、ルーズベルトは幾分不快気な表情を浮かべた。
「それでは、まるで合衆国が見世物小屋の野生動物みたいではないか。この戦争は一方的に仕掛けられた末に、嫌々行っている物だ。
必死に生存権を得ようとしている時に、外野はジュースと菓子を味わいながら観戦を楽しんでいるという事かね」
「それを否定しない国もいる事でしょう。ですが、諸外国はむしろ、羨ましがっているかもしれません。大国1つを叩き潰し、更にもう1つを追い詰め
ている合衆国の国力を」
必死に生存権を得ようとしている時に、外野はジュースと菓子を味わいながら観戦を楽しんでいるという事かね」
「それを否定しない国もいる事でしょう。ですが、諸外国はむしろ、羨ましがっているかもしれません。大国1つを叩き潰し、更にもう1つを追い詰め
ている合衆国の国力を」
キング提督がそう言うと、ルーズベルトもなるほどと呟いた。
「フリンデルドも同じでしょう。そして、恐れてもいる事は、先の“提案”を行う事からして明らかです」
ハルがフリンデルド側の真意を断言すると、ルーズベルトは即座に判断を下した。
「ふむ……提案であれば、その通りにする必要も無いという事だな」
「その通りです」
「ならば、この提案は受け入れられぬな」
「その通りです」
「ならば、この提案は受け入れられぬな」
ルーズベルトがそう言うと、ハルは僅かに頷いた。
「フリンデルド側には、賠償金の支払いの意志はあるが、貴国側の要求通りには受け入れられない旨を伝えるとしよう。
そして、合衆国側から先の事件に謝罪するとともに、被害者数に応じた量を合衆国で精査し、支払いを行う事も同時に伝える」
そして、合衆国側から先の事件に謝罪するとともに、被害者数に応じた量を合衆国で精査し、支払いを行う事も同時に伝える」
ルーズベルトはそこまで言ってから、更にもう1つ付け加えた。
「それから、フリンデルド側への賠償金支払いは、フリンデルド側のみの分を直接支払う。イズリィホン国への支払いは、後日イズリィホン本国に
合衆国が直接出向き、首脳部に誤爆の謝罪と被害者への賠償金を支払う、と付け加えよう」
「わかりました。良い判断であると思われます、大統領閣下」
合衆国が直接出向き、首脳部に誤爆の謝罪と被害者への賠償金を支払う、と付け加えよう」
「わかりました。良い判断であると思われます、大統領閣下」
ハルがそう言うと、ルーズベルトは満足気に頷いた。
「フリンデルドはシホールアンルと違って賢いと私は思っている。かの国なら、必ず分かってくれるはずだ」
(現在、世界最強の軍事力を有している国は、少なくとも……フリンデルドではないからな)
(現在、世界最強の軍事力を有している国は、少なくとも……フリンデルドではないからな)
最後の一言を、彼は誇らしげに胸中で呟いた。
「閣下。ハル長官も言われていましたが、相手が形ばかりの強がりを発しているのならば、今のところは脅威ではないでしょう。
しかしながら……それを行うという事は、それなりの軍事力を有している証拠でもあります」
しかしながら……それを行うという事は、それなりの軍事力を有している証拠でもあります」
リーヒ提督は、手提げ鞄から封筒を取り出し、それをルーズベルトに差し出した。
無言で受け取ったルーズベルトは封筒を開け、中身を取り出した。
封筒の中から、数枚の写真が出され、その1枚1枚をルーズベルトはじっくり見つめていく。
封筒の中から、数枚の写真が出され、その1枚1枚をルーズベルトはじっくり見つめていく。
「……なるほど」
写真を全て見終わったルーズベルトは、小声でつぶやきながら小さく頷く。
「写真2枚は、第5艦隊の偵察機が捉えた物です。1枚目に移っている写真では、目標物は偵察機から距離が離れており、不明瞭ではありますが」
キング提督はよどみない口調でルーズベルトに言った。
「これは明らかに空母です。そして、その空母は……シホールアンルの物ではありません」
更に、キングは執務机に置かれたもう1枚の写真を指差した。
「また、この飛行物体はワイバーンではなく、合衆国軍が保有する航空機の類と全く同じ物であると確信しております。ワイバーなら、
上下に翼を動かしますが、この飛行物体は、左右の翼が真っ直ぐに伸びております。また、速力も遅くはありません」
上下に翼を動かしますが、この飛行物体は、左右の翼が真っ直ぐに伸びております。また、速力も遅くはありません」
キングは身振り手振りを交えながら説明を続けていく。
「合衆国海軍の主力偵察機であるS1Aハイライダーは、改良も進んでいて時速700キロ以上のスピードを出せますが、この未確認機は
スピードを上げ始めたハイライダーとの距離を幾分縮めたほか、スピードが乗り始めた時もしばらくは追随しており、640キロに
達した頃から徐々に引き離すことが出来たと伝えられています」
「キング提督は、その報告を信じるのかね?」
スピードを上げ始めたハイライダーとの距離を幾分縮めたほか、スピードが乗り始めた時もしばらくは追随しており、640キロに
達した頃から徐々に引き離すことが出来たと伝えられています」
「キング提督は、その報告を信じるのかね?」
ルーズベルトがすかさず聞いてきたが、キングは顔を頷かせた。
「無論であります。国家の規模としては最大ではないにしろ、フリンデルドの技術は侮れない物があります」
「キング作戦部長の言う通りです」
「キング作戦部長の言う通りです」
ジョージ・マーシャル陸軍参謀総長も同調した。
「情報部が入手したある情報によりますと、シホールアンルの主要技術の大元は、殆どが外国より取り入れた物であることが、捕虜となった
敵の技術将校やシホールアンル民間人の尋問の結果明らかになっています。シホールアンル自慢の高速飛空艇は、シホールアンル側が30年の
歳月をかけて作り上げた航空技術の結晶とも言えますが、そもそもはフリンデルドが研究していた、非生物型飛行体の基礎を参考にして
作り上げた物であると判明しました」
「なんだと。飛空艇はシホールアンルが独力で作り上げたものではないのかね?」
「いえ。シホールアンルが純粋に独学で研究開発した物ではなかったのです。シホールアンルは過去に、フリンデルドに戦勝した際に、
賠償として多くの技術供与を得ており、その中にワイバーンを用いぬ飛行隊の研究資料が含まれていたのです」
敵の技術将校やシホールアンル民間人の尋問の結果明らかになっています。シホールアンル自慢の高速飛空艇は、シホールアンル側が30年の
歳月をかけて作り上げた航空技術の結晶とも言えますが、そもそもはフリンデルドが研究していた、非生物型飛行体の基礎を参考にして
作り上げた物であると判明しました」
「なんだと。飛空艇はシホールアンルが独力で作り上げたものではないのかね?」
「いえ。シホールアンルが純粋に独学で研究開発した物ではなかったのです。シホールアンルは過去に、フリンデルドに戦勝した際に、
賠償として多くの技術供与を得ており、その中にワイバーンを用いぬ飛行隊の研究資料が含まれていたのです」
ルーズベルトは憂鬱そうな表情を浮かべた。
マーシャル元帥の言葉は、ひとつひとつが鋭いナイフとなってルーズベルトの内心に突き刺さっていく。
マーシャル元帥の言葉は、ひとつひとつが鋭いナイフとなってルーズベルトの内心に突き刺さっていく。
「フリンデルドの非生物型飛行体研究は、50年以上前には既に開始されたようであり、これは、我が国のライト兄弟が初めて飛行機を飛ばし、
合衆国の技術者や企業が血の滲む研究開発を経て、進化させていった月日よりも長い事になります」
「問題は他にもあります」
合衆国の技術者や企業が血の滲む研究開発を経て、進化させていった月日よりも長い事になります」
「問題は他にもあります」
キングは別の2枚の写真を交互に指差した。
「こちらは、去る2月2日。南大陸西岸部沖を定期哨戒していた、ミスリアル軍のPBMマリナーが捉えた物です。この2枚の写真に写っている物は、海中に
潜航中の潜水艦でありますが……当時、この海域には我が軍の潜水艦は1隻も存在せず、例え存在したとしても」
潜航中の潜水艦でありますが……当時、この海域には我が軍の潜水艦は1隻も存在せず、例え存在したとしても」
彼はルーズベルトの顔を注視しながら説明を続ける。
「このように、慌てて潜航するような事はありません」
「この未確認艦の所属はどこなのかね?」
「所属は判明しておりませんが……南大陸の南西3000マイル(4800キロ)には、幾つもの列島で構成された列強国、ヲリスラ深海同盟と呼ばれる
大国が存在します。同盟国からの情報によりますと、人口1億を越え、この他にも幾つかの属国を従える強力な国家であるとの事す。その詳細は
秘密のベールに包まれており、同盟国も分からないままとなっておりましたが」
「シホールアンルが開発した潜水艦ではないのかね?」
「それはあり得ません。シホールアンルも開発は進めていたようですが、頓挫したとの事です。ですが」
「この未確認艦の所属はどこなのかね?」
「所属は判明しておりませんが……南大陸の南西3000マイル(4800キロ)には、幾つもの列島で構成された列強国、ヲリスラ深海同盟と呼ばれる
大国が存在します。同盟国からの情報によりますと、人口1億を越え、この他にも幾つかの属国を従える強力な国家であるとの事す。その詳細は
秘密のベールに包まれており、同盟国も分からないままとなっておりましたが」
「シホールアンルが開発した潜水艦ではないのかね?」
「それはあり得ません。シホールアンルも開発は進めていたようですが、頓挫したとの事です。ですが」
キングは更に、衝撃的な事実をルーズベルトに話していく。
「シホールアンルの潜水艦開発計画は、20年前にヲリスラから得た技術を基にして進められた、という情報を入手しております」
「なんと……方や空母を保有し、方や潜水艦を運用できる。いずれの艦も、開発には相当の技術力と、国力を必要とする。それを開発、運用できるだけの
国力があるのならば、当然ながら軍事力も相当な規模を誇るはずだ。なのに、なぜこの2国は……この大戦に参加しなかったのだ」
「詳細は無論、不明であります」
「なんと……方や空母を保有し、方や潜水艦を運用できる。いずれの艦も、開発には相当の技術力と、国力を必要とする。それを開発、運用できるだけの
国力があるのならば、当然ながら軍事力も相当な規模を誇るはずだ。なのに、なぜこの2国は……この大戦に参加しなかったのだ」
「詳細は無論、不明であります」
リーヒ提督はルーズベルトの問いに答えた。
「ですが、推測は出来ます。かの2国は、純粋に国力が足りなかったかもしれません」
リーヒに続いて、ハルもルーズベルトに言う。
「ヲリスラはシホールアンルとは同盟関係にないため、参戦義務は生じませんが、フリンデルドは同盟を結んでおり、その限りで張りません。
しかしながら、フリンデルドは長年の不況や内乱の鎮定に当たっていたため国力が無く、現在はようやく、国力の増強を成しつつある段階
です。要するに、この2国は参加したくても出来なかった……という事になるのでしょう」
「ヲリスラとフリンデルドは、過去にシホールアンルとの戦争で敗戦したという共通点もあります。戦後は同盟を結び、または国交を
結んで交流を進めていたりもしたようですが、裏では世界最強となったシホールアンルの消耗を狙った可能性もあります」
しかしながら、フリンデルドは長年の不況や内乱の鎮定に当たっていたため国力が無く、現在はようやく、国力の増強を成しつつある段階
です。要するに、この2国は参加したくても出来なかった……という事になるのでしょう」
「ヲリスラとフリンデルドは、過去にシホールアンルとの戦争で敗戦したという共通点もあります。戦後は同盟を結び、または国交を
結んで交流を進めていたりもしたようですが、裏では世界最強となったシホールアンルの消耗を狙った可能性もあります」
マーシャルも続けるように発言する。
「なるほど。フリンデルドの租借地返還要求は、まさに漁夫の利を狙った行動とも取れるな。しかし、国力が低いとはいえ、これら2国の
技術力は、シホールアンルにとっても脅威となり得ただろう。私が皇帝なら、大陸統一戦争開始時に、近代兵器を未だに持たぬ北大陸諸国や
南大陸を襲うより、フリンデルドかヲリスラに軍を進めようと思う物だが」
技術力は、シホールアンルにとっても脅威となり得ただろう。私が皇帝なら、大陸統一戦争開始時に、近代兵器を未だに持たぬ北大陸諸国や
南大陸を襲うより、フリンデルドかヲリスラに軍を進めようと思う物だが」
ルーズベルトは疑問に思った。
シホールアンルが北大陸統一を実行に移した当初、北大陸各国の軍事力はシホールアンルに比べて隔絶していた。
北大陸第2位のヒーレリですら、その装備では遅れを取っていたと言われている。
シホールアンルが北大陸統一を実行に移した当初、北大陸各国の軍事力はシホールアンルに比べて隔絶していた。
北大陸第2位のヒーレリですら、その装備では遅れを取っていたと言われている。
それに対して、フリンデルドやヲリスラは、空母と潜水艦を有する程の技術力を持った強国だ。
それは必然的に、保有する陸軍力もそれ相応に強力であると容易に推測できる。
それは必然的に、保有する陸軍力もそれ相応に強力であると容易に推測できる。
だが、シホールアンルは、同盟国たるフリンデルドに助力を要請する事も無く、ヲリスラに軍を進める事も無く、ただ一国のみで真っ先に
大陸の統一事業に乗り出した。
大陸の統一事業に乗り出した。
シホールアンルが当時、世界最強の軍事力を有していたから助力は必要なかった事もあり得るだろうが、とはいえ、かの2国の軍事力も並みの
規模ではなかったはずだ。
同盟国を一切頼らず、潜在的敵性国をほぼ無視するかのように、軍を自由に動かすと言うのは、常識的には幾分考えられない事でもあった。
規模ではなかったはずだ。
同盟国を一切頼らず、潜在的敵性国をほぼ無視するかのように、軍を自由に動かすと言うのは、常識的には幾分考えられない事でもあった。
会議室は、しばしの間沈黙に包まれた。
沈黙を破ったのは、ハルの一言であった。
「能ある鷹は、爪を隠す……という諺があります」
ハルの一言を聞いた一同は、ハッとなった。
「そうか……つまり、2国は自国の兵器を秘匿していた、という訳だな」
「大統領閣下のおっしゃる通りかと思われます」
「大統領閣下のおっしゃる通りかと思われます」
ルーズベルトがそう言うと、ハルも頷きながら答えた。
「それどころか、軍の秘匿のみならず、国内の発展を意図的に遅らせていた可能性もあります。シホールアンル側はフリンデルドやヲリスラ軍の
装備はマオンド並みかそれ以下で、国の規模は大きい物の、国内はまだ発展していない、という見方が常にあったようです」
「国内の発展には資源が必要です。フリンデルドが膨大な資源量を要求したのも、急拡大しようとしている国内の需要を賄うためであると考えれば、
納得がいきますな」
装備はマオンド並みかそれ以下で、国の規模は大きい物の、国内はまだ発展していない、という見方が常にあったようです」
「国内の発展には資源が必要です。フリンデルドが膨大な資源量を要求したのも、急拡大しようとしている国内の需要を賄うためであると考えれば、
納得がいきますな」
それまで黙って話を聞いていたモーゲンソーも口を開く。
「とはいえ、2国の真の実情をシホールアンルは掴めなかったとなると、彼らは早々以上に厳重な秘匿行為を行っていたという訳か」
「ですが、宿敵と定めていたシホールアンルの弱体化は、その真の姿を我が合衆国が掴むきっかけにもなりました」
「ですが、宿敵と定めていたシホールアンルの弱体化は、その真の姿を我が合衆国が掴むきっかけにもなりました」
リーヒが、幾分安堵の表情を浮かべながら言う。
「もし2か国が尻尾を出していなければ、我々は無警戒のまま、この世界で過ごそうとしていましたな」
「フリンデルド、ヲリスラを警戒する場合、それはそれであまりよろしくない未来が待っています」
「フリンデルド、ヲリスラを警戒する場合、それはそれであまりよろしくない未来が待っています」
モーゲンソーが幾分沈んだ表情で発言する。
「財務長官の言う通りです。グルーの報告の中には、東側諸国という言葉が出てきています」
「東側諸国だと?それはどこを指しているのだね?」
「東側諸国だと?それはどこを指しているのだね?」
ルーズベルトが思わず頓狂な声音を上げた。
「……合衆国です。正確には合衆国と、南大陸諸国を含む連合国を指しているかと思われます」
ハルの言葉を聞いた3人の軍首脳は、一様に表情を強張らせた。
「なぜ我が連合国を東側と呼ぶのかね」
「これは推測ですが……フリンデルドは常に、東のシホールアンルを注視してきたと思われます。そこを、合衆国は諸外国と連合を組んで
猛攻を加えています。フリンデルドから見れば、シホールアンルの立ち位置を連合国が取って代わろうとしているように思えるのでしょう
東の位置に居座る新たなる脅威と、フリンデルド側は捉えている節があります」
「であるが故に、我々を東側諸国と呼ぶか」
「これは推測ですが……フリンデルドは常に、東のシホールアンルを注視してきたと思われます。そこを、合衆国は諸外国と連合を組んで
猛攻を加えています。フリンデルドから見れば、シホールアンルの立ち位置を連合国が取って代わろうとしているように思えるのでしょう
東の位置に居座る新たなる脅威と、フリンデルド側は捉えている節があります」
「であるが故に、我々を東側諸国と呼ぶか」
ルーズベルトは、納得したようにそう言い放った。
「そして、我が方を注視するのは、専制主義を標榜する西側陣営……という構図が、戦後に出来上がるのかもしれません」
ハルの一言は、大統領執務室内に大きく響いたように思えた。
「諸君らの言う事はよくわかった。ひまずは、賠償金の支払い額のすり合わせをフリンデルド側と行い、その反応を見て決め得ると言う事で
良いだろう。軍部の報告に関しても、私は深く感謝している。情報の有無は今後の国政に大きく影響するという事を、改めて痛感したと私は
思うよ。ところで……」
良いだろう。軍部の報告に関しても、私は深く感謝している。情報の有無は今後の国政に大きく影響するという事を、改めて痛感したと私は
思うよ。ところで……」
ルーズベルトはハルに視線を向け直した。
「もうひとつの賠償先であるイズリィホン将国だが……正確な位置は分かっているのかね?」
「フリンデルド側から位置情報を入手しております。叩き台ではありますが、簡単な地図も作成しております」
「フリンデルド側から位置情報を入手しております。叩き台ではありますが、簡単な地図も作成しております」
ハルは地図を手渡す前に、一言付け加えた。
「イズリィホン国の形ですが、大統領閣下も最初は驚くかと思われます」
「ん?それはどういう事だね」
「ん?それはどういう事だね」
ルーズベルトはすかさず問い質したが、ハルはそれに答えず、紙を手渡した。
ルーズベルトは一瞬見ただけで、ハルの言わんとしている事が分かった。
ルーズベルトは一瞬見ただけで、ハルの言わんとしている事が分かった。
「この形は……正確には違う部分も多く、向きも逆に思えるだが」
フリンデルドと書かれた大きな大陸の下に、ポツンとたたずむ様に、斜め横に細長い地形があった。
「外見的には前世界で我々とも関係が深かった、あのサムライの国を思い出すな」
「私もそう思いました。違いは大きいですが」
「私もそう思いました。違いは大きいですが」
ルーズベルトは、日本を彷彿させる地形に驚いたが、その次には、イズリィホン国の位置に新たな驚きを感じていた。
「諸君。これがイズリィホン国だ。国の形を見れば驚くだろうが、真に驚くのは、その位置だ」
ルーズベルトは、彼らにそう言いながらイズリィホンとフリンデルドの間を交互になぞった。
「どうだ。絶妙の位置にあるとは思わんかね?距離的にも、悪く無い位置にあると、私は思うが」
その後、しばらくの間話し合いが続いたが、ひとまずはフリンデルド側への回答と、次回以降の会談で賠償金の支払う金額をフリンデルド側と
協議しつつ、対シホールアンル戦後の軍縮計画の一部見直しをする事を決定し、緊急会議を終えた。
協議しつつ、対シホールアンル戦後の軍縮計画の一部見直しをする事を決定し、緊急会議を終えた。
キングは、自然と一番最後に大統領執務室を退出する形となり、今しも室外に足を運ぼうとしていた。
「キング提督。最後に少しいいかね?」
ルーズベルトは微笑みながら、キングを執務机の前に手招きした。
「は。何でしょうか、大統領閣下」
「フリンデルドを始めとする諸外国は、我が国を注視している事は、君も知っているだろう?」
「無論、存じております」
「フリンデルドを始めとする諸外国は、我が国を注視している事は、君も知っているだろう?」
「無論、存じております」
キングは即答する。
「彼らは、合衆国の一挙手一投足を、今もじっくりと見据えている。対シホールアンル戦が片付けば、それはさらに強くなる。
連合国以外の各国は、鵜の目鷹の目で我が方を監視するに違いない」
「東西対立確定的になれば、避けられぬ事ですな」
「うむ。時には、嘘を掴ませることも重要になる」
連合国以外の各国は、鵜の目鷹の目で我が方を監視するに違いない」
「東西対立確定的になれば、避けられぬ事ですな」
「うむ。時には、嘘を掴ませることも重要になる」
ルーズベルトはそう言うと、体を前のめりにしてキングの目を見つめた。
「嘘を掴ませれば、ハメた方は多少なりとも楽になる。それを合衆国もやりたいと思うのだ」
「それは良い事です。戦後は化かし合いが主体になるでしょう。最も海軍は軍縮の煽りを受け、戦中と違って小さな規模になるでしょう
特に、戦艦部隊は旧式艦を始めとして、大多数が退役し、解体され、以降は空母機動部隊と潜水艦を中心とした艦隊編成になるかと
思われます」
「かつて、大海を制したアルマダが小さくなることは悲しくなることだが、致し方あるまいな。ところで……」
「それは良い事です。戦後は化かし合いが主体になるでしょう。最も海軍は軍縮の煽りを受け、戦中と違って小さな規模になるでしょう
特に、戦艦部隊は旧式艦を始めとして、大多数が退役し、解体され、以降は空母機動部隊と潜水艦を中心とした艦隊編成になるかと
思われます」
「かつて、大海を制したアルマダが小さくなることは悲しくなることだが、致し方あるまいな。ところで……」
ルーズベルトは、一際声の調子を高めながら言った。
「建造計画中止が予定されている艦の名前は何と言ったかな……確か、ジョージアだったかね?」
1486年(1946年)2月18日 午前8時
アメリカ合衆国 カリフォルニア州サンフランシスコ
「出港!両舷前進微速!」
「両舷前進微速!アイ・サー!」
「両舷前進微速!アイ・サー!」
戦艦イリノイの艦橋内で、イリノイ艦長を務めるフレデリック・モースブラッガー大佐は命令を下した。
航海科士官が命令を復唱し、すぐさま艦内の関連部署に伝達されていく。
カルフォルニア州サンフランシスコ海軍基地を出港した戦艦イリノイは、第2次レビリンイクル沖海戦で受けた損傷の修理を終えたあと、
上層部からの命令を受け、今日の出港を迎えた。
出港からしばらくの間は、タグボートのサポートを受けながらゆっくりと航行していたが、湾内の広い箇所に到達しあとは自力で航行を始めた。
航海科士官が命令を復唱し、すぐさま艦内の関連部署に伝達されていく。
カルフォルニア州サンフランシスコ海軍基地を出港した戦艦イリノイは、第2次レビリンイクル沖海戦で受けた損傷の修理を終えたあと、
上層部からの命令を受け、今日の出港を迎えた。
出港からしばらくの間は、タグボートのサポートを受けながらゆっくりと航行していたが、湾内の広い箇所に到達しあとは自力で航行を始めた。
イリノイの前方500メートル先には、ボルチモア級重巡洋艦のピッツバーグが陣取り、イリノイと同じように時速8ノットで航行している。
モースブラッガー艦長は艦橋からゆっくりと前方を見渡していく。
モースブラッガー艦長は艦橋からゆっくりと前方を見渡していく。
「前方にゴールデンゲートブリッジ」
「後方よりオリスカニーが続行します。続けてガルベストンが湾内に到達、オリスカニーに続きます」
「後方よりオリスカニーが続行します。続けてガルベストンが湾内に到達、オリスカニーに続きます」
見張り員からの報告が艦橋に伝えられて来る。
モースブラッガー艦長は小声で了解と返しつつ、前方を見渡し続ける。
モースブラッガー艦長は小声で了解と返しつつ、前方を見渡し続ける。
フレデリック・モースブラッガー大佐は元々、駆逐艦部隊の指揮官として太平洋戦線に従軍していたが、昨年5月よりアイオワ級戦艦6番艦として竣工
したイリノイの初代艦長として任命され、第2次レビリンイクル沖海戦ではウィリス・リー提督指揮下の戦艦部隊の一艦艇として敵戦艦と殴り合った。
同海戦でイリノイは損傷を受け、海戦後にサンフランシスコ海軍工廠で修理を受けている。
イリノイの損傷は中破レベルと判断されていたが、ドッグに入渠後の調査では思った以上に損傷のレベルは軽く、2ヵ月近く集中して修理を行えば
前線復帰は可能と判断され、12月19日よりドッグ内で修理を施された。
修理自体は2月13日に完了し、2月15日にはドッグから出されて修理後の公試運転と訓練に励んでいた。
モースブラッガー艦長は、イリノイは近いうちに、第5艦隊の高速機動部隊に再び編入されるだろうと、心中で確信していたが……
したイリノイの初代艦長として任命され、第2次レビリンイクル沖海戦ではウィリス・リー提督指揮下の戦艦部隊の一艦艇として敵戦艦と殴り合った。
同海戦でイリノイは損傷を受け、海戦後にサンフランシスコ海軍工廠で修理を受けている。
イリノイの損傷は中破レベルと判断されていたが、ドッグに入渠後の調査では思った以上に損傷のレベルは軽く、2ヵ月近く集中して修理を行えば
前線復帰は可能と判断され、12月19日よりドッグ内で修理を施された。
修理自体は2月13日に完了し、2月15日にはドッグから出されて修理後の公試運転と訓練に励んでいた。
モースブラッガー艦長は、イリノイは近いうちに、第5艦隊の高速機動部隊に再び編入されるだろうと、心中で確信していたが……
「艦長。サンフランシスコとはこれでお別れになってしまいますな」
イリノイの副長を務めるケネス・フリンク中佐が名残惜しそうな口調でモースブラッガーに言う。
「仕方ないさ。命令とあらば任地に行く。それが仕事という物だ」
モースブラッガーはそう言ってから、フリンク副長に顔を向けた。
「そう言えば……副長はサンフランシスコの出身だったな」
「はい。いい町ですよ」
「となると、久しぶりに故郷で休暇を取れたという訳だな」
「はい。いい町ですよ」
「となると、久しぶりに故郷で休暇を取れたという訳だな」
彼がそう言うと、フリンク副長は満足気な笑顔を見せた。
イリノイはゆっくりとした速度を維持したまま、ゴールデンゲートブリッジ(金門橋)の真下を通過していく。
モースブラッガーは艦橋からサンフランシスコ名物の橋をじっくりと見つめた。
その特徴的な朱色の橋は転移前の前世界で世界一を誇り、それはこの世界に来ても維持されている。
また、この橋はいつ見ても美しく、初めて目にするものは誰しもが心を奪われているという。
イリノイはゆっくりとした速度を維持したまま、ゴールデンゲートブリッジ(金門橋)の真下を通過していく。
モースブラッガーは艦橋からサンフランシスコ名物の橋をじっくりと見つめた。
その特徴的な朱色の橋は転移前の前世界で世界一を誇り、それはこの世界に来ても維持されている。
また、この橋はいつ見ても美しく、初めて目にするものは誰しもが心を奪われているという。
金門橋の全景は異世界人たちにも人気があり、ある吟遊詩人はこの橋を題材にした歌で人気が高まり、とある絵師は
渡米後にこの橋をモデルに絵を描いた所、その絵が故郷の貴族に高値で売れて財を成せたという話もある。
渡米後にこの橋をモデルに絵を描いた所、その絵が故郷の貴族に高値で売れて財を成せたという話もある。
だが、金門橋はその美しい全景とは裏腹に、自殺の名所という顔も持ち合わせており、37年に完成して以来、複数の人がここから
身を投げ出している。
つい先日の新聞でも、戦死者の遺族が金門橋から投身自殺を図ったという報道があったばかりだ。
ゴールデンゲートブリッジは、アメリカの光と影を顕在化している橋と言っても過言ではなかった。
身を投げ出している。
つい先日の新聞でも、戦死者の遺族が金門橋から投身自殺を図ったという報道があったばかりだ。
ゴールデンゲートブリッジは、アメリカの光と影を顕在化している橋と言っても過言ではなかった。
「この美しい橋から身を投げるような事は、是が非でも避けたい物だ」
モースブラッガーは小声で独語しつつ、この橋で身を投げた者たちの冥福を祈った。
ゴールデンゲート海峡を抜けたイリノイは、外海に出た後に変針を命じた。
「艦長より操舵室。これより変針する。面舵一杯、針路350度」
「面舵一杯、針路350度、アイ・サー」
「面舵一杯、針路350度、アイ・サー」
モースブラッガーが新たな命令を下し、イリノイの航海科員がそれに従って艦を操作する。
しばらくしてから、イリノイの巨体が若干左に傾き、舳先が右に回っていく。
基準排水量57000トン、満載時には70000トンに達する大型戦艦が回頭を行う様子はまさに圧巻である。
しかしながら、モースブラッガーの脳裏は、イリノイの雄姿を思い浮かべていなかった。
しばらくしてから、イリノイの巨体が若干左に傾き、舳先が右に回っていく。
基準排水量57000トン、満載時には70000トンに達する大型戦艦が回頭を行う様子はまさに圧巻である。
しかしながら、モースブラッガーの脳裏は、イリノイの雄姿を思い浮かべていなかった。
(なぜ、第5艦隊ではなく、第7艦隊の指揮下に入れと言われたのだろうか……)
彼は心中でそう呟く。
上層部からは何の説明も無く、ただ大西洋艦隊所属の第7艦隊編入を命ぜられたうえに、同艦隊の指揮下で作戦行動に当たれとしか伝えられていなかった。
イリノイと共にサンフランシスコを出港した艦は、正規空母オリスカニーと重巡洋艦ピッツバーグに、軽巡洋艦ガルベストン、そして8隻のギアリング級
駆逐艦である。
正規空母オリスカニーには、クリフトン・スプレイグ少将が座乗しており、現在はスプレイグ提督の指示に従って艦を動かしている状態だ。
スプレイグ提督は、後に第7艦隊所属の第77任務部隊第1任務群の指揮官に任ぜられることが内定しており、イリノイもその指揮下で行動する事になるだろう。
現在、第7艦隊は大西洋戦線で活躍したオーブリー・フィッチ大将にかわり、トーマス・キンケイド中将が司令長官に任命され、レーフェイル大陸沖合の
警備に当たっている。
同艦隊に配属された高速正規空母と高速戦艦は、マオンド共和国降伏後に全て太平洋艦隊に移動となり、現在はニューメキシコ級戦艦3隻の他に、
護衛空母、駆逐艦、護衛駆逐艦を主力として活動していた。
レーフェイル大陸方面では、主に陸地でのトラブル……危険動物の跳梁や、ゲリラ化した反政府勢力の対応がメインであるが、海軍の出番はあまり無い
のが現状であり、時折別大陸から来た海賊船の取り締まりや、有害な海洋生物の駆逐、交易船への臨検等を行うぐらいだ。
つい先日、そのレーフェイル方面には、正規空母フランクリンが駆逐艦4隻と共に配備されており、現在は同地に常駐浮きドッグで整備を受けているようだ。
上層部からは何の説明も無く、ただ大西洋艦隊所属の第7艦隊編入を命ぜられたうえに、同艦隊の指揮下で作戦行動に当たれとしか伝えられていなかった。
イリノイと共にサンフランシスコを出港した艦は、正規空母オリスカニーと重巡洋艦ピッツバーグに、軽巡洋艦ガルベストン、そして8隻のギアリング級
駆逐艦である。
正規空母オリスカニーには、クリフトン・スプレイグ少将が座乗しており、現在はスプレイグ提督の指示に従って艦を動かしている状態だ。
スプレイグ提督は、後に第7艦隊所属の第77任務部隊第1任務群の指揮官に任ぜられることが内定しており、イリノイもその指揮下で行動する事になるだろう。
現在、第7艦隊は大西洋戦線で活躍したオーブリー・フィッチ大将にかわり、トーマス・キンケイド中将が司令長官に任命され、レーフェイル大陸沖合の
警備に当たっている。
同艦隊に配属された高速正規空母と高速戦艦は、マオンド共和国降伏後に全て太平洋艦隊に移動となり、現在はニューメキシコ級戦艦3隻の他に、
護衛空母、駆逐艦、護衛駆逐艦を主力として活動していた。
レーフェイル大陸方面では、主に陸地でのトラブル……危険動物の跳梁や、ゲリラ化した反政府勢力の対応がメインであるが、海軍の出番はあまり無い
のが現状であり、時折別大陸から来た海賊船の取り締まりや、有害な海洋生物の駆逐、交易船への臨検等を行うぐらいだ。
つい先日、そのレーフェイル方面には、正規空母フランクリンが駆逐艦4隻と共に配備されており、現在は同地に常駐浮きドッグで整備を受けているようだ。
太平洋方面と比べれば、レーフェイル方面は比較的平穏と言える。
そこに、正規空母を含んだ高速機動部隊を送り込もうというのだ。
そこに、正規空母を含んだ高速機動部隊を送り込もうというのだ。
「バーでのんびりとしている所に、剣呑な保安官が突如現れるようなものだな」
モースブラッガーは、オリスカニー、イリノイのレーフェイル大陸派遣に対して、そのような印象を抱いていた。