自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

032 第26話 祝賀パーティー

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第26話 祝賀パーティー

1482年 6月1日 ヴィルフレイング

第16任務部隊司令官である、レイモンド・スプルーアンス少将は、参謀長のブローニング大佐と共に、
ヴィルフレイングの司令部に出頭していた。
彼らを呼び寄せたのは、未だにヴィルフレイングにいたキンメル司令長官である。

「ふむ。これで、貴重な戦訓を得ることが出来たな。ご苦労だった。」

キンメルは、渡された戦闘詳報に一通り目を通してから、2人にねぎらいの言葉を掛けた。

「予想外の敵機動部隊出撃という、最悪の事態になっても、よくぞ敵を撃破してくれたな。私も鼻が高いよ。」
「少なくない犠牲は払わされましたが。」

キンメルに対して、スプルーアンスはそう返答する。
「エンタープライズが大破されたのは痛いが、それを含めても、今作戦の成果は大きい。戦術的にも、戦略的にもな。
まあ、シホールアンル側の機動部隊がかなりの精強揃いと言う事が判明した事も、あの海戦で得た物は大きい。」

史上初となった、竜母対空母の戦いで、アメリカは確かに勝った。
しかし、あの海戦で、スプルーアンスの第16任務部隊は、駆逐艦ファラガットが撃沈され、軽巡のホノルルも損傷し、
主役たるエンタープライズは飛行甲板を叩き潰され、修理に最低3ヶ月は必要であると戦闘詳報に書かれている。
シホールアンル側は、陸上支援のみならず、対機動部隊戦闘においても、アメリカ海軍の機動部隊に勝るとも劣らぬ
実力を有している事が、あの海戦ではっきり示されている。
この事は、太平洋艦隊司令部のみならず、本国の上層部を唸らせ、今後勢力を増すであろうシホールアンル機動部隊に
対抗すべく、建造中のエセックス級正規空母や、インディペンデンス級軽空母の建造ペースを上げる事にした。

「新鋭空母が就役するまで、現存の空母は無闇に消耗できませんな。」
「全くだ。勝ったとは言え、シホールアンルと言う奴らは頭痛の種ばかりを残していくものだ。」

キンメルは苦笑しながらそうぼやいた。

「とりあえず、グンリーラ沖海戦の詳細は確かに受け取った。今後は空母戦闘においてどうやったら被害を軽減でき、
どうやれば敵に大ダメージを与えられるか、後々検討して行こう。」

キンメルはこれで終わりとばかりに、読んでいた戦闘詳報を机に置いた。
「さて、これで今日は終わりだ、と言いたかった所だが、実はもう少し話がある。」
「話し、でありますか?」
「そうだ。今回の海戦に関係する話だが。」
スプルーアンスは首を捻った。グンリーラ海戦の詳細は、既に報告書として渡したし、口頭でも詳しく説明した。
海戦の一部始終はほとんど聞いたはずなのに、何を聞くのだろうか?

「実はな、バルランド側から作戦成功を祝って、首都で祝賀パーティーを開くと我々に伝えてきた。
その祝賀パーティーに、君とニュートンも招待されているのだ。」
「祝賀パーティーですって?」

スプルーアンスは異界の言語を耳にした、というような感じに見舞われた。

「ああ。主催者はバルランド王室と有力貴族の方々だ。」
「長官、私は少々賛同しかねますな。」

スプルーアンスは怜悧な表情で言い放った。

「カレアントの前線では、友軍が常に敵と対峙して、いつ死ぬか分からぬ緊張を強いられているのです。
それに、今回の海戦で我が海軍も少なからぬ犠牲を出しているのですよ?武運つたなく逝ってしまった将兵が居るのに、
首都でパーティーですと?どうも納得できません。」
「まあ、レイ。君の気持ちも分かるのだが、今回はキング作戦部長もパーティーに参加城と言って来ている。
それに、ヴォイゼ国王はどうか分からんが、この国の貴族連中は、プライドが高い奴が多い。それだけに、
国粋主義者も少なからぬ混じっている。我々がパーティーの誘いを断ったら、奴らは自分達の国を馬鹿にしているとか
言い出しかねん。」
「何を言うのです。今は非常時ですよ。こう着状態にあるとはいえ、シホールアンルの地上部隊や残存の艦隊が
大攻勢に出てもおかしくはありません。誘いを断ったら馬鹿にするなんて、今は・・・・・」

スプルーアンスは言いかけてはっとなった。

「・・・・中世・・・・なのだよ。レイ。確かにこの世界は変わっているが、本質的には中世と似たり寄ったりだ。
だから、現世界に居た時とはやり方も異なって来る。」
「と、なると。我々も、やり方を少し変えねばならぬと言うことですな?」

それまで話を聞いていたブローニング大佐が言う。その言葉に、キンメルは頷いた。
「バルランドは、南大陸連合のリーダー的な国家だ。ヴォイゼ国王は賢明な指導者だが、その周りにいる
貴族連中が厄介でな。色々問題を起こしているようだ。そんな馬鹿野郎に限って大臣の仕事をやっているから、
ヴォイゼ陛下もおいおいと処断できんらしい。それに、バルランドとの関係が悪くなれば、後々の戦争遂行にも支障が出る。
レイ、戦争をやりやすくするためには、その貴族連中を“あやしながら”やるしかないのだよ。」
「あやしながら、ですか。名言ですな。」

スプルーアンスは少し皮肉ったような口調で言う。

「最も、最後の一言は大統領閣下がキング部長に言った言葉を、私が盗んだ物だがね。」

キンメルはニヤリと笑みを浮かべた。

「いずれにしろ、国と国の付き合いも、大変なものですな。」
「その通りだ。それはともかく、パーティーには出ねばならんよ。私も行きたくは無いのだが、
仕事だと割り切って行くさ。」
「それで、作戦はいつごろですかな?」

ブローニング大佐は陽気な口調で質問した。
ブローニング本人はストレスの溜まるパーティーには出ないため、気が楽なのであろう。、

「6月4日だ。本国からは休日のつもりで行って来いと言われたが、首都にうごめくモンスター達に
会うとなると、休日出勤しに行くような物だな。」

その言葉に、プルーアンスとブローニングは思わず苦笑した。


6月4日 午後8時 バルランド王国首都オールレイング

それから3日後、椅子に座りながら、その祝賀パーティーを見つめていたスプルーアンス少将は、内心不満であった。
祝賀パーティーはオールレイングの王国宮殿で行われた。
パーティー会場には、ヴォイゼ国王や各官庁の大臣が出席し、アメリカ側は太平洋艦隊司令部の幕僚と、
TF15司令官のニュートン少将と、TF16司令官のスプルーアンスが招かれた。
最初、スプルーアンスは緊張していた。
ヴォイゼ国王は何度か、新聞の写真で見た事はあるが生で見るのは初めてだ。

そのヴォイゼ国王の第一印象は、苦労人という言葉に尽きた。
だが、驚くのはそれからである。ヴォイゼ国王は玉座に座るなり、

「今回の作戦成功の立役者である、スプルーアンス提督、並びにニュートン提督に、バルランド名誉騎士章の称号を授ける。」

と言い出したのだ。こればかりは、冷静沈着で通っている彼も仰天した。
言われるがままに、スプルーアンスとニュートンは、ヴォイゼ国王に何やら精巧に出来た勲章のような物を授与され、
そして、装飾の付いた長剣までも渡された。
その後の談義で、スプルーアンスはヴォイゼに聞いたのだが、勲章と長剣は、戦場で著しい戦功を立てた者に送られる物であり、
勲章は名誉騎士章という名で、長剣はバルランドでも精鋭中の精鋭と言われるヴリンク・ナイツ師団の騎士が使う物と
同じ物で、それだけに値も馬鹿にならないのだと言う。
それを聞いたスプルーアンスとニュートンは驚き、それでいてどこか複雑な思いが芽生えた。
そして1時間経った。
宮殿のパーティー会場には、正装に身を包んだ男性や、きらびやかで、眼を引くようなドレスに身を包んだ
女性があちこちで酒を飲み交わしたり、大広間でダンスを踊っている。
一生に一度しかお目にかかれないような華やかな光景であり、普通の人なら手の空いている男や女を引っ掛けて遊んで
やりたいと思うであろう。
だが、スプルーアンスとしてはどうも遊ぶ気持ちにはなれなかった。

「スプルーアンス提督。どうです?」

隣に座っていたマックモリス大佐が声をかけてきた。酒を飲んでいるのか、少し顔が赤い。

「リラックスしているよ。表面上はね。」

彼はいつもに増して、棒読み口調で返事した。

「提督、分かりますか?」
「何がだね?」
「先ほどから注目の的ですよ。」
「それの事か。私には本国で待っている人が居るのでな。今日はこのまま時を過ごしたいのだよ。」

スプルーアンスも分かっていた。
実を言うと、国王との談義が終わって彼が椅子に座ってからしばらくして、若い女性がちらちらと見ている。
女性達は今の所、スプルーアンスに声を掛けようとはしていないが、いずれにせよ、誘いに来るのは目に見えていた。

「あの娘達と、一緒にダンスを送るのもいいのでは?ストレスも発散されますよ。」
「ミスターマックモリス。どうせ政略結婚とか、ろくでもない事を考えているのが関の山だよ。
私の一番やりたいことは何だと思うかね?」

スプルーアンスは人差し指をあげてマックモリスに質問した。

「読書、ですか?」
「外れだな。私が一番やりたいのは、散歩だよ。散歩はいいぞ。何もかも忘れて歩く事に専念できる。」

いつもは無表情な彼が、目を活き活きとさせながら言った。
(この人が、他人を困惑させた程の散歩好きというのは本当だな)
内心、マックモリスはそう思った。スプルーアンスは、過去に部下達が休日の誘いを行ったところ、

「私が好きなのは散歩だね」

と言って困惑させた事があった。
その事は海軍中に知れ渡って、スプルーアンスと付き合うならよほどの散歩好きでなければならないとまで言われた。

マックモリスは何を大げさな、と思い、兵達の話すガセネタが大きくなって広まったのだろうとしか見ていなかった。
だが、その事は、今のスプルーアンスの言葉で確実に覆された。
(この人の参謀になったら、どんな出来事にあうのだろうか・・・・)
マックモリスはやや不安げな気持ちで考え始めた。

「すみません。1曲、よろしいでしょうか?」

不意に、甘いながらも、どこか芯の通った声音が耳に入った。
マックモリスとスプルーアンスは声のした方向に顔を向けた。
そこには、他と比べて、やや露出の少ないドレスに身を包んだ女性がいた。

「私ですかな?それとも、彼ですかな?」
「グンリーラの英雄である、貴方にお願いしたいのですが。」

その女性は、よく見ると肌が褐色で耳が長い。ダークエルフである。

「提督、ご指名ですぞ。」
「う~む・・・・・・」

スプルーアンスはやや戸惑った。心の内では、断ろうかと思った彼だが、実際に声をかけられると心が揺らぐ。

「では、1曲だけ。踊りはいまいち分かりませんが。」
「大丈夫です。簡単な動作ですからすぐに分かりますよ。」
「・・・分かりました。では、ご教授願います。」

スプルーアンスは苦笑しながら、そのダークエルフの女性と踊る事にした。

よくよく見ると、顔はエルフ特有の端整さで、どこかあどけない感じはあるが美麗だ。
身長は177センチぐらいあるだろうか。
スタイルは良く、特に張った胸元は若い男なら誰でも目を引くものであろう。
(美人だな)
スプルーアンスは、どこか冷めた感情でそう思った。美人ではあるが、既に妻子持ちの彼にとってはどうでも良い事である。
やがて、この国特有の楽器が、程よい音色を弾き出し、スプルーアンスはそのダークエルフの女性と共に踊る。

「なかなかお上手です。もしかして、若い頃に踊りの心得があるので?」
「いえ、初めてですよ。私は若い頃からずっと海軍一筋でしたよ。」
「何年になります?」
「かれこれ30年以上になりますな。」
「そんなに。なかなか粘り強いです事。」
「まあ、元々、私は軍隊というものが大嫌いでしたが、どうしてか、ずるずると居続けて、今に至るのですよ。」
「それでもご立派ですわ。ずるずると居続けたという事は、逆に言えば、あなたは粘り強い性格の持ち主なのですよ。そして、それはあなたの身になりました。」
「確かに。」

スプルーアンスは、彼女の言葉に苦笑した。
そのダークエルフとの踊りは、短い時間ではあったが、つまらなくもなかった。
曲が終わると、2人は会った場所に戻って来た。

「提督、お付き合いいただいてありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。そういえば、名前をお聞きしていませんでしたな。」
「はっ、失礼しました。私はベレイス。ベレイス・ヒューリックと申します。」
「ヒューリックさんですね。覚えておきましょう。」
「恐縮です。あっ、自分は予定がありますので、これで失礼を。」

ヒューリックと名乗ったダークエルフの女性は、恭しく一礼すると、その場を去って行った。

「提督。貴族界に見事、デビューを飾りましたな。」
「ミスターマックモリス。これはただの付き合いだよ。今の光景は、マーガレットには見せられんな。」

スプルーアンスは苦笑しながら言った。

「それよりも、ベレイスとか言ったか。あのダークエルフの女性、ただ者ではないな。」
「ただ者ではない、ですか?一見普通の女性に見えますが。」
「私も最初、そう思ったんだが、腑に落ちない点がいくつかある。第1に、彼女の筋肉だが、普通の女性と違って
意外に鍛えられている。第2に、胸元に見えた傷跡だ。私が気になるのは傷跡だが、あれは普通の人なら死ぬかどうかの
重傷だっただろう。それ以外は、普通の女の人に見えたが・・・・」
「提督も、見るところは見ておられますな。」
「誤解しないでくれ。踊りの最中、嫌でも目に付いてしまうのだ。まっ、なんとも思わなかった自分に感謝するがね。」

その時、ヴォイゼ国王が彼の元に歩み寄って来た。

「提督、パーティーを楽しんでおられるようですね。」
「これは国王陛下。ええ、楽しんでおります。先ほど、ミスリアルの女性の方と、ひとしきり踊りを楽しみました。」
「なかなか筋が良かったですよ。所で提督、先ほどの女性、何者であるか分かりますかな?」

ヴォイゼ国王は人の悪い笑みを浮かべながら、スプルーアンスに問うた。

「一目で見て、判断するのは早計ですが。ミスリアルの有力貴族の娘さんですかな?」
「当たらずも遠からずですな。彼女は、ミスリアル王国の第4皇女ですよ。」
「なっ!?」

スプルーアンスとマックモリスは仰天した。

スプルーアンスと踊った相手は、あろうことか、ミスリアル王国の皇女なのだ!

「つまり、私はお姫様と踊ったと言う事ですね。」
「その通りですな。しかし、彼女にお姫様という言葉が似合うかどうか。」

ヴォイゼは苦笑しながらそう言う。それに、マックモリスが食いついた。

「それは、どういう事でしょうか?」
「まあ・・・・一言で言えば、彼女は血生臭い姫様ですかな。」
「血生臭い、ですと?」
「ええ。実は彼女、皇族ではあるのですが、ミスリアル王国のスパイ組織の長なのです。あなた方の艦隊に送る
情報のうち、何件かは彼女のスパイ機関のものも含まれています。」
「スパイ機関と言うと・・・・別に情報を取るだけでありますから、血生臭いと言う事にはならないのでは?」

スプルーアンスが疑問を投げかけた。
普通、スパイというのは、荒事を起こさぬよう慎重に行動し、情報を味方に送る役目を担う、というのがスプルーアンスのイメージである。
だが、それは違っていた。

「それもあるのですが、敵のスパイや工作員の捕縛、抹殺。あるいは敵に加担する不満分子の処理という
物も担っているのです。時には、荒事も大々的に行う時があるのですよ。彼女自身、敵の工作員殲滅に陣頭指揮を
取った事も1度や2度ではないようです。」
「なるほど・・・・」

スプルーアンスが、ベレイスに抱いた違和感はこれであった。

「やり方が激しい物で、一部の者には吸血鬼とまで言われているようです。」

「時には、汚い裏仕事もやるお姫様・・・・か。表舞台で、各艦隊の動向を考える事だけが、戦争ではないと言う事か。」

マックモリスは小さく呟いた。

「それにしても、提督は運が良かったですな。」
「運が良かった?」
「ええ。実は彼女、ベッドでの楽しみもかなりのものでして、ミスリアルでは19の頃からそれで女王陛下を悩ませたようで。
提督、あなただけが彼女の狙いを受け付けつけなかったのですよ。」
「それは・・・・また豪快な話ですな。」

スプルーアンスは呆れたように苦笑した。

「とりあえず、世の中は色々な人間がいるのですよ。おっと、他にも回らねばならないところがあるので。」
「分かりました。それでは。」

スプルーアンスとヴォイゼは、互いに握手をし、ヴォイゼもまたどこかに消えて行った。

「狙われていたのですか。提督。」

マックモリスがおずおずとした口調で言って来た。彼は、ベレイスの素性を知ってからか、顔がやや赤い。

「そのようだな。最も、何も感じなかったが。」

スプルーアンスはそう言うと、時計に目をやった。彼が頷いた時、

「「あ、あの~。」」

後ろから甘い声が聞こえた。
振り返ると、4人ほどの若い女性がスプルーアンスの下に近寄って来ている。
(提督、意外にモテモテだな。)
マックモリスが呆れたようにそう思った。

「一緒に、踊ってくれませんか?」
「グンリーラの英雄さんと話したいのですが・・・」
「今日の夜はこの私と」
「いえ、私とお願いします!」

女性はいずれも美人で、若い兵や将校なら喜んで誘いに乗っていただろう。
だが、彼女たちは相手が悪かった。

「済まないが。今日はもう寝る時間なので、これで失礼したいのです。それでは。」

スプルーアンスはわざとらしく頭を下げると、その場から去って行った。
女性達は呼び止めようとしたが、彼は全く気にせず会場を後にした。
キンメルは国王との談義が終わったら、帰るなり残って踊るなり、好きにして良いと言っていた。
だから、スプルーアンスは帰る事にした。
時間は午後9時を回っていたため、スプルーアンスは寝るために会場を離れたに過ぎなかったが、スプルーアンスに
狙いを付けた4人の女性達は、かつて、スプルーアンスに意外な言葉を返され、当惑した幕僚達の表情と、
瓜二つのものを浮かべていた。

1482年 6月10日 ノーフォーク沖

第23任務部隊旗艦、ワスプの艦橋から、司令官であるレイ・ノイス少将は発艦して行くアベンジャーを見つめていた。

「デヴァステーターと比べて、頼りになりそうな機体だな。」
「パイロットからは、扱いやすいとの評判ですよ。」

艦長のジョン・リーブス大佐は微笑みながら返事した。

「あれから半年以上が経つが、このワスプもよく前線に戻って来たな。」

ノイス少将は、飛行甲板に視線を移した。
今から半年以上前の11月12日、ノイスが眺めている飛行甲板は、あちこちがまくれ上がり、格納庫の内部が見渡せた。
速力は半分以下に落ち、一時は放棄も検討されたが、ワスプは乗員の努力のお陰で母港に帰って来た。
それから、ワスプは本格的な修理及び改装を施された。
脆弱性を指摘された防御は、ヨークタウン級並みに強化され、以前と比べて格段に打たれ強くなった。
また、機関も旧式のものから、エセックス級空母に搭載する予定の最新式のものに換え、
航試運転では32.2ノットの最高速力を発揮している。
対空火力も強化され、従来の28ミリ4連装機銃4基はそのままだが、12.7ミリ機銃は20ミリ機銃32丁に変えられ、
近接防御力も上昇した。
その反面、搭載機数は最大84機から76機に減少している。航空戦は数が命の現代では痛いものであるが、致し方ないことである。

「搭載機数は減ったが、前よりは逞しくなったワスプだ。新しい作戦が決定すれば、前の憂さ晴らしは十分に出来るよ。」
「それに、第26任務部隊も加わりますからな。この陣容で、侵攻してくるマオンドに当たれば、次ぎこそは息の根を止められます。」
「そうだな。第26任務部隊の頭痛の種だったハーミズも、スピードが28ノットに上がり、搭載機数も10機増えたから、
今度から大いに活躍するだろう。これなら、マオンドの侵攻を十分に防げる。少なくとも、前のように心細い数の航空機で、
敵の大船団に当たる事はもう無いだろう。」

ワスプの復活により、大西洋艦隊の空母戦力は充実している。
空母はレンジャー、ワスプ、ホーネット、イラストリアス、ハーミズの計5隻。
搭載機数は合計で323機であり、竜母を持たぬマオンド艦隊には大きな脅威となるだろう。

「とは言っても、当のマオンドは一向にレーフェイル大陸に引っ込んだままですな。」
「引っ込んだままなら、こちらが出て行くまでさ。とは言え、防御の姿勢を取る今の時点では
そんな事はあり得ないだろうが。」

ノイス少将は何気ない口調で呟いただけだが、1週間後に開かれた会議で、彼は驚く事になる。
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