<D-4南部の民家:保安官―マウンテン・ティム>


話は至ってシンプルだ。
いたはずの徐倫がいない。席をはずしていた花京院君の姿が見えない。
この状況から予想できるのは、子供だって簡単に思いつく一つの可能性―――。

保安官である俺は察した。
徐倫がここにいないのは、花京院君が関係しているの違いない、と―――。

「離せッ、ティムッ!」
「落ち着け、アナスイッ!」

そして、それはアナスイも同じこと。
俺と同時に結論に達したアナスイはわき目も振らず玄関へと突進する。
俺はそんな彼を必死で止める。

愛する彼女のことになるとこの男は目の色が変わる。
普段の冷静さを失い、感情的に行動してしまう。
自らのスタンドを行使することさえ、判断できないほどに。
ダイバー・ダウンを使えば羽交い絞めにしてる俺の腕など簡単に『分解』できるというのに。

それをしないのはどうしてか?
彼がそれだけ冷静さを失っているのだろうか。それとも俺に気でも使ってるのだろうか。
とにかく、今はアナスイを落ち着けることが第一だ。
俺は必死でもがくアナスイの耳元で怒鳴った。

「いいか、徐倫を連れ去っていったのは間違いなく、花京院君だッ!
 だがそうだとしてもお前はどうする気だッ?! 当てもなくさまようのか?
 今はここで彼を待つのが一番だ! 彼だって何も考えずには徐倫を開放したりするまいッ!」
「徐倫……徐倫ィィーーーーン!」

そのまま取っ組み合うこと、どれぐらいだろうか。
大の男が、それもスタンド使いが取っ組み合いの喧嘩なんて滑稽だ。

アナスイが暴れるのをやめたのを合図に俺は腕の力を緩める。
お互い肩で息をしながら呼吸を整えると、俺はチラリと視線をアナスイに向けた。
膝に手を置き俯いていた彼は体を起こすと、手近な椅子に身を投げる。
なんとも言えない、本当の無表情だ。不安と焦りに染められていた瞳も、今はなにも宿さない。

俺は外の様子を窺うため窓際に立った。

時間にして、10分ぐらいだろうか。
庭に人影が浮かび上がり、コンクリートを踏みしめると音が聞こえてきた。
部屋の中の緊張感が増す。俺は何も言わない。アナスイも黙ったままだ。
来訪者はそのまま立ち止まることなく、玄関の扉を開いた。

「……………徐倫はどうした」
「アナスイさん、貴方と彼女は一体どんな関係なんですか……?」

質問に対して質問で返す。
そんな挑発行為とも言える行動に、アナスイの表情が僅かに変化する。
ゆっくりと立ち上がると彼はそのまま玄関へと向かう。
殺気はない。スタンドも出現させていない。

脇を通り抜けようとしたアナスイの前に花京院君が立ちふさがる。
二人はにらみ合ったまま、会話を再開する。

「……徐倫はどこにいる」
「……気持ちが通じ合わせるってことは難しいことです。それが短時間なら尚更です」
「徐倫は無事なのか」
「友情と愛情を比べるなんてことは愚かしいかもしれない。
 まして、僕にはどちらもわからないことですから。
 でもそれが一時の感情かもしれないと疑うのは愚かでしょうか?」
「徐倫をどうした」
「僕は、貴方が理解できない」

瞬間、二人が同時に動く。
ダイバー・ダウンが花京院君の心臓を抉りだそうと右腕を振るった。
民家の窓をたたき割りながら、四方八方より緑の宝石がアナスイに迫る。

そしてまるで自動車に跳ね飛ばされたように、二人は吹き飛ぶ。
アナスイが俺の脇を通り抜け、玄関の反対に壁に叩きつけられた。
花京院君が宙を舞い、玄関前のアスファルトに体を激しく打ち付ける。

お互いの攻撃は五分と五分。
致命傷を負うことなく、だが二人とも軽症とは言えないダメージを負った。

それでも、戦いは始まったばかりだ。不屈の闘志を持って二人は体を起こす。
そして扉が吹き飛んだ玄関を挟んで、再びにらみ合う。

「貴方は徐倫さんが大切なんじゃない……。貴方は感情を押しつけて自分に酔っているだけだ。
 自分を必要として欲しい、自分を肯定してほしい。一種の洗脳を徐倫さんに施そうとしているッ!」

花京院君の叫びが向かいの民家に反響する。
一人の叫び声なのに、まるで何人もが同時にアナスイを批判しているようだった。
ゆっくりと身を起こしたアナスイは玄関を通り、道路に出る。
俺はそのあとについていく。

見上げると、星がよく見えるきれいな夜だった。
1890年、俺が知っている夜空と、今俺が見ている夜空は同じだった。
月が明るく、辺りを照らしだすほどだった。

花京院君の叫びは続いた。
アナスイの行為はただの感情の押しつけだ。本当に大切なのは徐倫じゃない。
自己満足だ、欺瞞だ、偽善だ、うそつきのくそったれ野郎だ。
だいたいそんなところだった。アナスイは黙ったまま、静かに耳を傾けていた。

そして花京院君が黙ったのを見て、口を開く。

「一目見た時、その時から俺は徐倫しかいない、そう思えたんだ。
 今だってそうだ……俺の中には徐倫しかいない。でも俺は変わったさ。彼女の中に俺がいなくてもいい、そう思えたんだ」

アナスイの声が叫び声へと変わる。

「俺は、徐倫が俺のことをどう思うともッ! たとえ徐倫の『目』に俺が映らなくともッ!
 彼女だけはッ! 彼女だけは守って見せるッ!
 ああ、そうさッ! これは俺の自己満足だッ! 感情の押しつけだ、俺個人の自分勝手さッ!
 それでもッ! 俺は彼女を守りたいッ!」

そして再び辺りが静寂に包まれる。住宅街と闇と無音。
俺はやはり黙ったままだ。二人も何も言わなかった。

だが三人ともわかっていた。
「正しい」と思ったから二人は「そう」した。
こんな殺し合いなんて腐りきった世界だからこそッ! 彼らは自分の『信じる道』を歩くのだッ!
善でも、悪でも、最後まで貫き通した信念に偽りなどは何一つないッ!
ならば、その信念がぶつかり合った時……もはや言葉は必要ないッ!

カウボーイハットを右手に持つと俺はそいつを空高く放り投げる。
……今の俺に出来ること、それはこの『決闘』を見届けることだ。
この決闘が卑怯者の行為になること、そして二人をゲス以下の『殺人者』になることを防ぐのが俺の役目だ。

風に舞った帽子がゆらりゆらりと流されていく。二人のちょうど真ん中、帽子は気ままに舞っている。

だが、はたして俺にそれが可能なのか? はたしてそれをするのは俺にとって「信じた道」を歩くことになるのか?

二人の視線が帽子へ移る。帽子はもう一度だけ、ふわりと舞うと、地面にゆっくりと着地する。

お互い納得ずくの『決闘』。
意志と意志とのぶつかり合い。
漆黒の『殺意』をもった男たちの神聖なる儀式。
何者にも邪魔されない世界、法や道徳や倫理、それを超えた世界。
人はこんな世界をこう呼ぶのだ。

『男の世界』、と――――――。






【D-4 南部 /1日目 夜中】
【ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:身体ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、ラング・ラングラーの首輪、トランシーバー(スイッチOFF)
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫を守り抜き、ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.花京院をぶちのめし、徐倫の居場所を吐かせる、
1.徐倫の敵は俺の敵。徐倫の障害となるものはすべて排除する
2.徐倫の目的、荒木のもとに彼女(と自分)が辿り着くためなら何でもする
3.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
[備考]
※マウンテン・ティム、ティッツァーノと情報交換しました。
 ブチャラティ、フーゴ、ジョルノの姿とスタンド能力を把握しました。
※ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません。
※F・Fが殺し合いに乗っていることを把握しました。
※ポルナレフが得た情報について知りました。
※マウンテン・ティムと改めて情報を交換し、花京院の持っていた情報、ティムが新たに得た情報を聞きました。

【マウンテン・ティム】
[時間軸]:SBR9巻、ブラックモアに銃を突き付けられた瞬間
[状態]:服に血の染み。右足が裸足
    肋骨骨折(戦闘になれば辛いが動けなくはない)、右肩切断(スタンドにより縫合)
    貧血(目眩はしない程度まで回復したが血液そのものが不足しているため行動に支障が出る可能性あり)
[装備]:物干しロープ、トランシーバー(スイッチOFF)
[道具]:支給品一式×2、オレっちのコート、ラング・ラングラーの不明支給品(1~3。把握済)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.二人の決闘を見届ける
1.もしアナスイが再び殺人鬼になるようなら止める。生死を問わず
2.アナスイが正直に話してくれて少し嬉しい
[備考]
※第二回放送の内容はティッツァーノから聞きました。
※アナスイ、ティッツァーノと情報交換しました。アナスイの仲間の能力、容姿を把握しました。
 (空条徐倫、エルメェス・コステロ、F.F、ウェザー・リポート、エンポリオ・アルニーニョ
  ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ、ジョルノ、チョコラータ)
※自分達が、バラバラの時代から連れてこられた事を知りました。
※花京院と情報を交換しました。お互いの支給品およびラング・ラングラーの支給品を把握しました。
※アナスイと徐倫の事の顛末を聞きました。

【花京院典明】
[時間軸]:ゲブ神に目を切られる直前
[状態]:精神消耗(小)、身体ダメージ(中)、右肩・脇腹に銃創(応急処置済)、全身に切り傷
[装備]:なし
[道具]:ジョナサンのハンカチ、ジョジョロワトランプ、支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:打倒荒木!
0.アナスイの無力化
1.自分の得た情報を信頼できる人物に話すため仲間と合流したい
2.仲間と合流したらナチス研究所へ向かう?
3.巻き込まれた参加者の保護
4.荒木の能力を推測する
[備考]
※荒木から直接情報を得ました。
「脅されて多数の人間が協力を強いられているが根幹までに関わっているのは一人(宮本輝之助)だけ」
※フーゴとフェルディナンドと情報交換しました。フーゴと彼のかつての仲間の風貌、スタンド能力をすべて把握しました。
※マウンテン・ティムと情報を交換しました。お互いの支給品を把握しました。
※アナスイの語った内容については半信半疑です。その後アナスイがティムに語った真実は聞いていません。






<E-4中央:復讐者―空条徐倫>


机の上にあるペンや地図、紙切れを片づけながら私は視線を目の前の青年に向ける。
難しそうな顔をした彼は踏ん切りがつかなそうに見えた。

……それも当り前のことよね。
いくら友人の娘、と言っても私たちは赤の他人。
それも時代超えた、本当に実在しているのかさえ分からない人物だもの。
信頼されなくても当然のことだし、私もそれを前提で話をした。

花京院は正直に情報交換をしてくれたように思えた。
この環境の中でナーバスになってるようにも見えたけど、話の中で不審な点はなかった。
けど私は全部が全部、そのまま正直に話をしたわけではなかった。

『なにが正しいのか……僕にはわかりません。
 ただ……僕は貴方をそんな風にしたアナスイさんを許すことはできません』
『そう……』

アナスイと私の関係、私はそこをでっちあげた。
DIOの館へ向かった。そこで混戦中に気を失った。
そして気がついたら私はアナスイに分解され、あんな姿になっていた。
アナスイと私は元々の知り合い。
だけどあんな風に『分解』される理由は見当もつかない。
これが私がついた嘘。


『彼を止めに行ってきます。勿論説得できればそれに越したことはありませんが……。
 どうもそう簡単にはいきそうにないですし。徐倫さんはどうしますか?』
『貴方がアナスイを止めたいと思うように私にもやりたいと思うことがある。
 残念だけどここでお別れだわ。助けてくれたことは本当に感謝してる、ありがとう』


少し可哀想だけどこれも私の目的のため。
花京院にはアナスイの足止めをしてもらおう。
私は去り際に言葉を残すと、振り向くことなくその場を後にした。


―――――――――――――――



リハビリがてら、夜の街を私は一人歩く。
体は思ったより軽い。怪我も大したことないし、多少の傷はストーン・フリーで縫うことでカバーした。

シーツと一体化していた体は強引に元に戻した。
もとはと言えば、シーツと一体化できたのは私のスタンドが糸のスタンドだから。
花京院に手伝ってもらいながら、重要な器官や関節は守りつつ、余分な糸を引きちぎる。
そうすることで傷は負いながらも、無事こうして自由になれた。

久しぶりの開放感に体を伸ばし、私はゆっくりと歩く。
調子は上々、結果的に良い休憩となったのかもしれない。

けどあまりのんびりもしてられない。
こうしてる間にもアイツは、『荒木』のやつはのうのうと生きてるのだから。

やつを思い出すだけで私の頭は憎しみで一杯になる。
憎しみ、という言葉じゃ表現しきれない。
これほど人を憎めるのかと思うぐらい、私はあいつが憎い。
私から大切な人を奪っていったアイツを、私は許せない。

いなくなってしまった大切な人たちが頭の中に思い浮かんでくる。
母さんも、エルメェスも、エンポリオも、ウェザーも、そして父さんも。
もう誰も私の中に残っていない。

―――今は忘れよう。
悲しいとか、もう会えないとか、苦しむのは全部終わってからでいい。
迷いを消すように頭を振る。靄がかかったような気分が少しだけすっきりする。

それでも、どうしても消えない人がいた。
ナルシソ・アナスイ。
私を『分解』してまで、私を止めようとした人。

「アナスイ……」

彼のことを考えると罪悪感が湧き上がる。
なぜだろう、ほかの人を利用することには躊躇わないと思ってたのに。
私にとって今考えるべきことは、荒木への復讐だけであって、それ以外はどうでもいいと思っていたのに。

『いつまでも絶えることなく、友達でいよう』

それは貴方が私の中の大切な人のうちの一人だから。
彼が私を守ろうとしてくれたから。
傷つけまいと私を庇ってくれたから。

『今日の日は――――さようなら』

それでも……それでも、私には成し遂げたい目的がある。
アナスイの気持ちを裏切ってでも成し遂げたい目的が。

だから、ただ見守っていてほしい。
アナスイが私を見てくれてる、そう思うだけで勇気がわいてくる。
貴方が私のことをどう思っていようと、私も貴方を失いたくない。

私も貴方を守りたい。
もう誰もいなくならないでほしい。


「私は私の道を行くわ、アナスイ」


ビュウとひときわ強い風が頬をなでる。
握りこぶしを作り、向かい風の中を私は歩いていく。

心は決まってる。
打倒荒木、それが私のやるべきことだ。
そこに迷いはない。




歩き始めてどれぐらいだろうか、そろそろ調子も戻ってきた。
足であるバイクを失くしたのは痛いけどいまさら言っても仕方ない。
とりあえず目差すべき場所は……そうね、やっぱりDIOの館かしら。
そう考えて私が地図を取り出そうとした時だった。

「!」
「…………!」

少女を腕に抱えたインディアンの男がこちらに猛スピードで迫っていた。
屈強な肉体、人間を超えたスピード、そして腕の中にはぐったりとした少女。
それは即ち―――



「ストーン・フリー!」

このくそったれな殺し合いにのった参加者!

「オラッ!」

すれ違いざまに拳をぶつけようとした瞬間、男の姿が消える。
同時に私が影に覆われる。今日は満月、つまりやつは……上!

「オラオラオラッ!」

跳躍し、私を飛び越え逃げようとするインディアンに拳の雨をお見舞いする。
当然のようにスタンドを繰り出し、私の拳をガードするインディアン。
空中で身動きが取れない今が叩くとき。私はさらに拳を振るう。が―――

「?!」

ふわりと舞い降りてきた木の葉に小石。
拳で触れた瞬間、電撃が走ったかのような衝撃を受け、たまらず私の手が止まる。
その隙にインディアンは私を飛び越え、すこし距離をとり、止まった。
そして言う。

「……俺に戦いの意志はない。とりあえず話を聞け。
 俺が今お前にしたことは『正当防衛』であって『攻撃』ではない。
 とにかく話がしたい。それに怪我人の治療もしたい……」

そう言って脇に抱えた少女へ目を向ける。
右腕を失った彼女はぐったりとしていて、動かない。
出血を止めなければならない、極めて危険な状態だと言える。

怪しい。状況的に見たらこの男は疑わしいというのが正直な感想だ。
この男が言ってることをそのまま信じてしまってもいいのだろうか……?
少しの間私は考え込んでいたが、ゆっくりと口を開いた。

「……わかったわ。今回は私が早合点してしまった。
 幸い私のスタンドは治療にも使える。ついでに情報交換、ってのはどうかしら?」
「……いいだろう」

まだ、わからない。果たしてこのインディアンは本当に『善』なのだろうか。
けれども構わないわ。今の私に必要なのは『足』と『情報』。
そしてこの男はその両方を持ってる。
利用できるなら利用させてもらう。駄目だったらその時は……。




近くの民家に入ると、まずは少女(と言っても私と同じぐらいの年に見えたけど)の治療に取り掛かる。
怖いぐらいきれいな切り口だった。一体何を使えばこんな綺麗に切れるのかしら。
傷口をストーン・フリーの糸で縫い、心臓より高い位置で固定する。
お粗末かもしれないけど、とりあえずの治療は終わった。

ソファーに彼女を寝かしつけると、私はあらためて男と向かい合う。
男は黙ったままわたしの動きを見ていた。まるで見張るかのように。
腕の断面図を見ても眉一つ動かさず、私のスタンドを見ても動じない。
つかめない男、私は彼のことをそう思った。

「意識は戻りそうにないか?」
「今のところは、ね。こればっかりはわたしもわからないわ」
「そうか」
「それじゃ、情報交換といきましょうか?」

私が口を開くと彼はそれを予期していたようにこう返してきた。

「……構わないがその前に一つだけ条件がある」
「……?」

条件という言葉に身構える。
彼は相変わらず何を考えているかわからない目で私をじっと見つめる。

「俺は情報を提供する。だが今は緊急事態、とてもじゃないがゆっくり話している暇はない」
「どういうことよ?」
「俺は今敵から逃げていた途中だった。
 その敵は俺の足をもってしても、振りきれるかどうかは微妙なところだった。
 だが実際、俺は追い付かれていない。つまり誰かがやつを足止めしてるのだろう……」
「それで?」

嫌な予感がする。立ち上がったインディアンを追うように私も立ち上がる。

「俺は今からそいつの元へ向かう……。
 勝てるようだったら加勢すればいいし、駄目だったら逃げる。
 お荷物もいない俺なら逃げ切れる可能性は高いだろう……」
「でも、あんた情報交換は!?」
「……俺が帰ってきたらその時にしてやる。それに、まずはその女から情報交換すればいい」
「ちょっと!」

引き留めようと出した手をスルリとかわし、インディアンは足早に玄関へと向かう。
あわてた私が外に出るころには、彼は隣の民家の屋根に上っていた。

「しばらく経っても俺が返ってこないようならナチス研究所へ迎え。
 そこに行けば充分な情報も手に入るだろう……」
「ちょっ……!」
「それと、彼女が目を覚ましたら伝えてくれ
 『広瀬康一は打倒荒木のもとに死んだ、その意志はまだ消えていない』と」

そして返事を待つこともなく、彼は去っていった。
その場に取り残された私はさぞかし間抜けな顔をしていただろう。
少しすると、悔しさと怒りがわいてきた。
悔し紛れに近くのゴミ箱を蹴りあげてみたけど気分は晴れない。

まったく、やれやれだわ……! 利用しようとした相手に逆に利用されるなんて!
仕方なくリビングに戻ってみたはいいけど、正直一刻も早くここを出ていきたい。

当初の目的地、DIOの館に向かいたい。
さっきの男を追って『敵』とやらをぶちのめすのもいい。
あるいはナチス研究所に向かうのもいいかもしれない。

「……やれやれだわ」

けど、この少女を放っておくってのも心苦しい。
放っておいたらあのインディアンから情報も貰えなくなってしまうし……。
頭が痛い問題だわ……。たまらずため息を吐いた。

「こうなった以上、この子から情報をもらうのがベター」

危険人物の可能性もあるし、まあ故障明けというのもある。
ソファーにどさりと座り、私は無理矢理自分に言い聞かせる。
焦る気持ちもある。荒木に対する憎しみがじわじわと込み上げてくる。

けど、今は仕方ない。
とりあえずはこの子が目を覚ますまでは―――

「……………ん」

言ったそばから、だ。
机を挟んだ向こう側のソファーで彼女が意識を取り戻したみたい。

私は立ち上がると彼女の脇にしゃがみ込む。
焦点の定まらない目でぼんやりと彼女は私を見る。
どうやらまだまだ全快とはいかないようだ。

「気分はどう?」
「康一……君は?」
「え?」
「エコーズ……音の能力……さっき康一君がいたの。
 死んだはずの康一君……。
 でも、やっぱり、彼は生きてるのよ…………」

康一君。それはさっきのインディアンが私に伝えた名前だ。
うわ言のように彼女は康一君、と繰り返す。
私は何も言えない。机の上にあったデイバッグから名簿を出すとその名前を探してみた。
広瀬康一、その名前には棒線が引いてあった。

「康一君……私の、私の大切な人。もう会えないと思ってた……。
 死んでしまったと信じ込んでた。でもやっぱり康一君なのよ。
 会いたい、会いたいわ。どこに行ったの……? どうして、いないの?」

彼女は呟き続ける。意識はまだはっきりとしていないのかもしれない。
けど、それだから、彼女は涙を流し、呟いている。

もう会えないと思ってた人に会える嬉しさ。
やはり会えないとわかった悲しさ。
その二つがせめぎ合い、現実と妄想の中で彼女はさまよっている。
私はそんな彼女を見て、何も言えなかった。

この子は、私と一緒だ。
この子は……大切な人をこのくそったれなゲームで失った。
私が父さんを失ったみたいに……母さんを見殺しにしてしまったように……。

失った、失った……。
母親も、父親も……友達も、親友も共に戦ってくれる仲間も、失った。
同じだわ……。
この子と私は、『似てる』……。

次第に意識がはっきりし始めたのか、彼女の眼に光が宿り始める。
同時に彼女の中で悲しみが押し寄せる。
一瞬でも希望を持ってしまった彼女。けど、やっぱり違った。
現実が彼女へと襲いかかってくる。やっぱり彼女の大切な人は、いないんだと。

呟きはすすり泣きへと変わっていく。
涙が頬を伝い、雫となって床へ落ちる。
顔を覆おうにも彼女は今、片腕しかない。
すり抜けた水滴が次から次へと零れ落ち、あふれ出る。

私は何も言えなかった。私はただそんな彼女を見ていることしかできなかった。
ただ私の中で何かが込み上げてきた。
母さんが死んで、イギ―と出会って、アバッキオが隣にいて……。
第一回放送でエルメェスとエンポリオの死を知って、二人が励ましてくれて……。
そして、第二回放送で、友が、父さんが……。

もう話すことができない人たちが現れては消え、浮かんでは沈んでいく。
取りとめのない思い出、大切な記憶。
思いっきり笑ったこと、大声で泣いたこと。
私の頭の中が、たくさんの人たちで埋め尽くされていく。

そして――

『君に殺されるのなら本望だ』
『いつまでも絶えることなく、友達でいよう』
『今日の日は――――さようなら』

例え私と闘うことになろうとも、私を止めようとしてくれたアナスイ。
なにがあろうとも、守ると誓ってくれたアナスイ。

『いつだって……想っていた』
『いつだって……愛していた』

危険に巻き込まないよう遠くで私を見守ってくれていた父さん。
いつだって私のことを大切に思っていてくれた父さん。



開け放たれた窓からやわらかい風が吹き込んでくる。
温かく、優しく私を包み込んでくれる風。



私は何も言わなかった。
ただ彼女が泣きやむまで待とう、そう強く心に誓った。






【E-4とE-5の境目 /1日目 夜中】

【サンドマン】
【スタンド】:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
【時間軸】:ジョニィの鉄球が直撃した瞬間
【状態】:健康、暗殺チーム仮入隊(メッセンジャー)
【装備】:サヴェジ・ガーデン
【道具】:基本支給品×2、不明支給品1~3(本人確認済み)、紫外線照射装置、音を張り付けた小石や葉っぱ、スーパーエイジャ、荒木に関するメモの複写
【思考・状況】
基本行動方針:元の世界に帰る
0.とりあえずエシディシとリンゴォの元へ向かう。そこでどうするかはついてから考える。
1.出来ればテレンスとの約束の場所へ向かいたい
2.ナチス研究所へ向かい、同盟を組んだ殺人鬼達の情報を伝える
3.初めて遭遇した人物には「ナチス研究所にて、脱出の為の情報を待っている」「モンスターが暴れている」というメッセージも伝える。
4.もう一度会ったなら億泰と行動を共にする。
[備考]
※億泰と情報交換をしました。
※プッチの時代を越えて参加者が集められていると考えを聞きました。
※リゾットと情報交換しました。が、ラバーソールとの約束については、2人だけの密約と決めたので話していません。
※F・F、ブチャラティチーム、ホル・ホース、ミューミューの容姿と能力を知りました(F・Fの能力は、リゾットが勘違いしている能力)。
※ホルマジオの容姿を知りました。
※盗聴の可能性に気付きました。
※DIOの館にて、5人の殺人鬼が同盟を組んだことを知りました。それぞれの名前は把握していますが、能力・容姿は知りません。 。
※リンゴォ・ロードアゲインと情報交換をしました。
 内容は『お互いの名前・目的』『吉良(とその仲間)の居場所』『お互いの知る危険人物』『ナチス研究所について』です。


【山岸由花子】
[時間軸]:4部終了後
[状態]:右腕の二の腕から先を欠損(重症:止血済み)、精神不安定(大)、貧血(重症)
[装備]:サイレンサー付き『スタームルガーMkI』(残り7/10)
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1、承太郎の首輪
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して広瀬康一を復活させる。
0.康一君……
1.吉良吉影を利用できるだけ利用する。
2.他にも利用できそうな人がいるなら利用する。
3.正直知り合いにはなるべくあいたくない。
[備考]
※荒木の能力を『死者の復活、ただし死亡直前の記憶はない状態で』と推測しました。
 そのため、自分を含めた全ての参加者は一度荒木に殺された後の参加だと思い込んでます
※空条承太郎が動揺していたことに、少し違和感。
※プッチの時代を越えて参加者が集められていると考えを聞きました。
※ラバーソールのスタンド能力を『顔と姿、声も変える変身スタンド』と思ってます。依然顔・本名は知っていません。 。
※リゾットのメモを見ました。

【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:身体ダメージ(小)、体中縫い傷有り
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:荒木と決着ゥ!をつける
0. この子と私は、『似てる』……。
1.危険人物排除、そして荒木打倒へ。
2.アナスイの愛情をなんとなく理解、けれど自分は自分の道を進む
3.DIOの館に向かい、DIOと決着ゥ!つける
[備考]
※ホルマジオは顔しかわかっていません。名前も知りません。
※最終的な目標はあくまでも荒木の打倒なので、積極的に殺すという考えではありません。
 加害者は問答無用で殺害、足手まといは見殺し、といった感じです。
※アナスイから『アナスイが持っていた情報』と『ポルナレフが持っていた情報』を聞きました。
※花京院から支給品一式を返してもらいました。
※居間で行われていた会話はすべて聞いていません。





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キャラを追って読む

193:不帰ノ道 山岸由花子 201:ニュクスの娘達
193:不帰ノ道 サンドマン 195:生きることって、闘うことでしょう?
190:夜の三者会談SOS 空条徐倫 201:ニュクスの娘達
190:夜の三者会談SOS ナルシソ・アナスイ 200:存在の堪えがたき軽さ
190:夜の三者会談SOS マウンテン・ティム 200:存在の堪えがたき軽さ
190:夜の三者会談SOS 花京院典明 200:存在の堪えがたき軽さ

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最終更新:2011年01月23日 23:24