さて。君らには何度か『強さ』とは、『勝利』とは、そういった事について語ってきたよなァ。
で、だ。さっき思い出したんだ。俺自身も完全に失念してたんだよ、君らに話すのを。

『敗者』について。

――え?あぁ、確かに話したけども。それとはまた少し違うんだよ。
あくまで俺の中での定義とはいえ“どんなやつを敗者と呼ぶか”は確かに話した。だが――だが、だ。

敗者というのは、一度負けたらもうずっと『敗者』で居るしかないのか?
一対一の決闘ならまだしも、ただひとりの勝者に対して大多数の敗北者が出るような事はザラにあるだろう?だというのに?

これに関して君らにふたつの言葉を紹介しよう。有名な偉人たちの言葉だ、知っている人も多いはずだが――
『飲茶視点』と『モトベが強くて何が悪い』
どちらも一度、あるいはそれ以上に敗北を経験したものの言葉なんだが……

――おっと、時間が来たようだ。始まるぞ。さあ、耳をすまして、彼らの声に耳を傾けよう。


●●●


時刻は18時、日も沈み、闇が顔を出すこの時間に、第三回放送を開始させてもらおう。

さしあたっては――君たちも気になるであろう情報をまずは開示しようではないか。
さあ、この六時間で命を散らしていった敗者たちの名を心に刻みたまえ。




以上、26名が……敗者となった。

さて。今回は早速の情報開示となったので、今、このタイミングで私の話を聞いてもらいたい。

彼らの名を挙げる際、私は彼らのことを『敗者』と呼んだ。『死亡者』ではなく――それが何を意味するのか。

私はかつて……ある大レースのプロモーションをしたことがある。
そのレースも『勝者はただのひとりだけ。その他の3851人は僅差の着順だったものも、リタイアしたものも、死亡したものも、全てが等しく敗者だった』

……それらの世論と私の考えは少し異なる――いいか、よく聞けッ!

真の『敗者』とはッ!
挑戦の心を忘れ!その結果、何者にも“想いを残せなかった者たちの”事をいうのだッ!

先に挙げた名は――そう、確かに死亡した者たちだ。しかしその中に何人の『敗者』が居るのか……私には決めかねる。
ゆえに全員をそう呼んだ。もちろんそうではないことを期待しており……

そして、この私、スティーブン・スティールは絶対にこのゲームの『敗者』にならないことを此処に宣言するッ!

この殺戮の舞台に渦巻く意思、戦い、犠牲、そして勝者たちを纏め上げ――


全てを己の手中に収めようとせんアメリカ合衆国大統領!ファニー・ヴァレンタインを打ち倒すために皆の


●●●


たった今、カエルをひっぱたいたような音を立てたのは、ついさっきまで喋っていたスティーブン・スティールの頭だ――私の横で潰れている。


さて。紹介に預かった、ファニー・ヴァレンタインだ。
こんなタイミングで諸君に私の存在を明かすことになったのはいささか不本意ではあるが、仕方あるまい。
すでに我々と接触した参加者もいることだし、いずれこうなることは分かっていた。とも言える。


先のスティーブンのセリフだが……確かにそうだ。こんな大々的に皆に思いを伝えて死んでいったのだ。
彼を敗者と呼ぶべきではない。とても良い死に方をしたといって良いだろう。

そして同時に私の立場を著しく危険なものに変えた彼を私は許しはしなかった。ゆえに私が自ら手を下したのだ。


それから。


私の立場が危うくなったように、君らにもこの6時間は危険な綱渡りをしてもらおう。


次回の放送までの6時間で設定される禁止エリアを明かさないことにする。


いや――厳密に言うなら、私も知らないのだ。
実は、この定期放送は『禁止エリア設定と承認』をスイッチの一部に組み込んであってな……ゆえに禁止エリアが発生しない放送というものは存在しない。放送できないのだ。
そして、それを一手にになっていたのがスティーブン・スティールだったというわけだ。
無論、調べればすぐにわかる。だがそれはこの放送が終わってから一人でゆっくりとさせてもらおう。

今から1時間後、3時間後、5時間後の3箇所。確実に作動はする。
スティーブン・スティールのこと、無意味な位置を設定することなどはしなかったろうが――6時間後の放送で“事後報告”をさせて頂く、とだけ伝えておこう。


次回の放送には誰か代役を考えておこう。楽しみにしていたまえ。


【主催者:スティーブン・スティール 死亡】


●●●


――いやぁ、まさかこんなコトになるとは思っていなかった。君らに言おうと思っていたことをまんま彼らに話されちゃうとは。

そう。敗者と一口に言ってもだ。要は『負け方』こそが重要だと。そういうこと。

先に挙げた二つの言葉に話題を戻すけど……
敗北を味わった自分の戦闘力に限界を見つけてしまい、周囲の強さのインフレについていくことが出来なくなったもの。
たった一度の敗北に甘んじることなく、自分のやり方で己の強さを大勢に、そして強烈に印象づけることができたもの。
前者は“想いを伝えられなかった”ものだし、後者は“伝えられた”ものだと俺は解釈している。

あ、いや待てよ――想いを伝えるだとかいう表現だと少々語弊があるか?そんな大ゲサな言い方じゃあなくても構わないんだ。
要は『みんな見ろよ、俺はこの場にしっかりと立っていたんだぞ』と胸を張って言えない奴が敗者だということ。かな。


さて、この放送で名の上がった者たち、無論主催者たちを含め、という意味だが。
一体何人の『敗北者』がいただろうな?……君らも考えてみてくれよ。


しかしなんだな。この話は放送のタイミングではないところでしておきたかった。
だって、俺が彼に話したこと、一言一句おんなじように言うんだもん。自分のセリフのように。悔しいったらありゃしない――



【?-? バトル・ロワイヤル運営本部(仮称) / 1日目 夜】

【ファニー・ヴァレンタイン】
[スタンド]:『D・D・D・D・C』
[時間軸]:???
[状態]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイヤルの運営……?
1.設定された禁止エリアの確認(ただし参加者には通知しない)
2.第4回放送におけるスティーブン・スティールの代役の選定
[備考]
スティーブン・スティールを殺害しました。



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最終更新:2015年09月09日 21:37