ワムウとこいしのDOKIDOKI添い寝物語

暁の空の下を風が駆け抜ける。
柱の男・風のワムウは襲い来る眠気と脱力を精神力ではね除け、何とか目的である廃洋館に辿り着いた。
表情は依然、形容出来ぬほど歪んでいる。
一万と数千年を生きたワムウでさえ、己が感情を持て余し整理できずにいた。
だが弱点である太陽は登りつつあり、外で思索しているわけにもいかないので、
ひとまず陽の光から逃れるべくワムウは館の中へと入った。



ワムウは館の中に入ると、まず探索することから始めた。
いざという時地理を把握していなければ、戦闘になった時不利になるからである。
見渡すと館はそれなりに広く、外観からは考えられないほど整頓されていた。
入り口であるエントランスホールであれば戦闘をするにも十分な広さがある。
造りは二階建てのようで、二階にも多くの部屋があった。
先に二階から全ての部屋を見て回ったが、二点ほど気になることがあった。
一つは、一室だけベッドもシーツが無い。他の部屋には会ってそこにだけないのは不自然だ。
今は何の気配もないが、おそらく先にこの館に入ったものが持ち去ったのだろう。
二点目は、どの部屋にも共通して、各種様々な楽器があった。
弦楽器、吹奏楽器、鍵盤楽器、打楽器など、年代物やどこの国の物かも分からないものまで含めて複数置かれていた。
館の住人の趣味だと考えられるが、あいにくワムウには楽器への興味など一切なかったので、一瞥すると再び探索に戻った。
続いて一階の奥の部屋へと進む。
一階の奥はリビングとなっており、隣室には客室やキッチンやバスルーム、トイレなどもあった。
おそらく館の住人たちはこのリビングでくつろぎ、生活を送っていたものと思われる。
そして更に調べてみると、キッチンの奥に勝手口を発見した。
これで地理的に把握が必要であった出入口や窓の位置を全て知ることが出来たので、
ワムウは位置的に最も条件が良いリビングで待機することを決めた。
リビングの奥にある暖炉の前にどっしりと座り込み、ワムウは傷の回復を待つ間、思索を始めた。



何故、自分は奥義である神砂嵐の隙を突かれて敗北し、経験したことのない敗走を情けなく味わったというのに、
屈辱や怒りと共に喜びと楽しさを感じているのか。
ワムウには自分の感情が分からなかった。
本来ならば相応のショックを受け、呆然としていてもおかしくない。
ある意味この経験したことのない感情の昂ぶりが一種のショックなのかもしれないが。
思えば敗走といいこの昂ぶりといい、この殺し合いの場に来てからワムウは初めて味わうことばかりだった。
そう、今の今までワムウは無類無敵、敗北を知らない歴戦の戦士だった。
だからこそ、今の感情がある。
ワムウは純粋なまでに、生来の格闘者だった。
一万数千年の生の中一度の敗北もなければ、額に傷を付けられることすら、
一月ほど前ジョセフ・ジョースターにやられるまでなかった。
故に格闘者として確固たる自信を持っていたし、その実力はワムウの主であるカーズエシディシも一目置くほどで、
自他ともに認める『戦闘の天才』だった。
だが同時に、一万数千年の時は、彼に『敵』を与えなかった。
宿敵である波紋戦士も惰弱。主と戦うなどもっての外であるし、同輩であるサンタナも落ちこぼれ。
ワムウにとっては強者こそが真理であり、勝者こそが正義であり友情であるのに、永い長い時の中、ワムウは孤独だった。
しかし、この殺し合いの場に来てからは違った。
翼の娘、ジョリーン、マリサ。半日も経たぬうちに三人もの素晴らしい戦士と相まみえ、戦った。
恋い焦がれた闘争がここにはあったのだ。
それは戦士として至上の喜びであったし、ずっと待ち望んでいたことだった。
それでもワムウは一戦士である前に、主のために戦う戦士、そしてそうしてきた時があまりに長すぎた。
戦士としてのワムウと、カーズとエシディシのためのワムウ、そのせめぎあいも混ざり、
今のワムウの混沌とした感情を形成していたのだ。
つまり今ワムウが感じている全ては正解であり、それ故に混乱へとつながっていたのだ。
言葉にまとめてしまえばそれまでだが、思い悩む当のワムウは中々整理がつけられずにいた。
果たして自分はどうすべきなのか。
この場に主たちがいればワムウは思い悩むこともなかっただろう。
命令さえあれば私情より忠義を優先できるのだから。
だが今この場に主たちはいない。同じ地にいれども傍にはいない。
一万数千年の絆と一万数千年の渇望、相反する考えが混在し、ワムウを思い悩ませる。



ワムウはしばらく考えていたが、一旦思索を止め、一向にまとまらない思考と昂ぶる感情を少しでも落ち着けるべく、
立ち上がりキッチンへと向かった。
そして水を貯めている瓶に頭を突っ込む。
冷水がワムウの高まった体温を下げるが、心の内にまでは作用してくれない。
ワムウはしばらくそうしていたが、突然、どこからか声が響き顔を上げる。
すわ敵かとワムウは一瞬のうちに臨戦態勢に入ったが、よく聴けばその声はおよそ六時間前に聴いた、
主催者の一人”荒木飛呂彦”の声だ。

「成る程、これが放送とやらか」

最初言われていた放送のことを思い出し納得する。
禁止エリアや死亡者の情報は必要なので、ワムウは思考を切り替えた。
まず死亡者から読み上げられる。
死者の総数は18。その中でワムウが知る名はシーザー・アントニオ・ツェペリ一人。
友を殺された怒りで無謀にも自分に挑みかかってきた未熟な波紋戦士だった。
より強くなり再戦を挑んでくることを期待していたが、それは叶わなかったようだ。
同じツェペリ姓のウィルという名も気にはなったが、所詮は死者。
ワムウは何の感慨もなく死者たちの名を死者として記憶する。
だがその死者の数と、死者と自分の違いを考えた時、ワムウには思うところがあった。
続いて禁止エリアの発表。これはエリアB-4と遠く、今の所何の影響もなかった。
そして最後に、おそらく自分や他の柱の一族、吸血鬼たちに対しての言葉。
曰く会場内には地下が存在し、その中には太陽を克服出来る『面白いもの』とやらがあるとのこと。
ワムウはこの洋館内の地下までは詳しく調べていなかったので、傷が回復し次第探索することを考えた。
そして、放送は終わる。



ワムウは放送が終わったことを認識すると、またリビングに戻った。
そして、思索を再開する前に、突如ワムウは奇行に走った。
なんとワムウは突き立てた親指を自らの眼の前に構え、その瞳を刺し抉ったのだ。
勿論ワムウは気がふれた訳ではない。
それはワムウにとっての精神回復の儀式、スイッチング・ウィンバックにあたる行為だった。
だがなぜ突然その行為をしたかといえば、放送を聞き、ワムウは考えたのだ。
果たして死者と自分になんの違いがあったのかを。
一戦目の翼の娘との戦いの時はまだよかった。十全いつも通り、自身の戦闘スキルを駆使し最大限の戦いをした。
偶然がなければあのまま翼の娘を仕留められただろう。
だが二戦目、ジョリーンとマリサとの戦いは違った。
決定的に、浮き足立っていたのだ。戦えないことに感情を乱し、ようやく出会えた敵を前に、
まるで飢えた野獣のように盲目に戦ってしまった。結果虚を突かれ、情けなく敗北を喫した。
もし、相手に波紋や太陽の力があれば、もし自分が屈強な柱の一族でなければ、
自分がこの放送の19人目として読み上げられていても何らおかしくなかった。
だが自分はこうして生き延びている。多少の手傷を負ったのみで、その傷も治りかけている。
このままでは二戦目と同じことを繰り返すだけではないのか?。
そう思ったが故に、ワムウは自らへの戒めとして眼を抉ったのだ。
そしてその傷をあえて残すことで、反省を心体共に深く刻み込んだ。
すると、鋭い痛みは冷水などよりずっと、ワムウの精神を落ち着けた。
この傷が治るのは、ワムウが真に自身の感情を克服出来たと確信する時だろう。
そうして、落ち着きを取り戻した精神で、ワムウは再び思索を再開した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆



あてどもなく、幽鬼の如く彷徨う影一つ。
閉じた恋の瞳、古明地こいしだ。
こいしは相次いだ混乱と悲劇と自責で、茫然自失となりながら、ただ歩くことしかできなかった。
もともと一度は壊れた心だった。だが、地底を出て、幻想郷の不思議な住人達と触れ合ううちに、
その心は少しづつ柔らかくほぐれ、こいしの心は少しだけ元に戻りかけていた。
しかし、そんな時に起きたこの凄惨な殺し合いは、孵化したばかりの蝶の様に柔く脆い
こいしの心を、再びボロボロに叩き壊したのだ。
利用され、翻弄され、その果てに助けられたかもしれなかった友達を見捨てた。
ただでさえ不安定だった心は、自責の念がとどめとなり、いびつに歪み、考えることを放棄させた。
今はただ誰かの肌のぬくもりが、優しい言葉が、欲しかった。
だが同時に、こんな自分が優しくされる価値はないとも思っていた。

「お姉ちゃん……お燐、お空……私……私……」

姉やそのペット、親しい人達の顔が浮かんでは消える。
何が正しいことなのかを見失ったこいしの、最後の寄る辺は『家族』だった。
だが声を出せども、その声に応えるものはいない。
差し込む暖かな日差しも、絶望的な孤独と虚無感を埋める役には立たない。
そんな風に、消えてしまいそうな足取りで彷徨っていた時である。
先程森を抜けた際発見した、朽ちかけの、古い洋館のような建物の門前に辿り着いた。
門が開いていて、明らかに先に入ったものがいる痕跡があったが、
こいしは迷うことなくその洋館に入っていった。
理由は、そのボロボロな外装が今の自分にお似合いだと思ったし、
幻想郷には珍しい洋風建築がどこか地霊殿を思い出させたからだ。
もちろん大きさも華美さも地霊殿とは比べ物にならないが、今はただ、何も考えずに休める場所があればよかった。
それに例え人がいても、それが自分に害なす存在だとしても、
自分は誰かに殺されても仕方がない奴だと思っていたし、だれでもいいから人に会いたかった。



扉を開くと、それなりに広いエントランスホールがあった。
窓からカーテン越しに差し込む光だけの、ぼんやりとした明るさでいまいち仔細な内装は分からないが、
外装に比べれば幾分も整頓されている。
二階建てのようだが、人の気配は一階の奥から感じるのでこいしはそのまま一階を進む。
そして開け放たれた扉からリビングと思われる部屋を覗くと、いた。
やはりこの館には先客がいたようだ。
暖炉の前に座り込み、まるで石のように動かない。
変わったセンスの持ち主の多い幻想郷においてもなお憚られるような服装の、
屈強な肉体を持った男性だった。
見るからに危険な雰囲気を醸し出している。
しかし擦り切れすぎて、こいしは恐怖を感じることすら忘れていた。
何の警戒もなく無防備に、ただフラフラとその男――ワムウに近づいていった。

「ねえ、おじさん」

無音に近しい部屋に、朧気な声が響く。
歴戦の戦士ワムウと言えど、突如、意識の外から話しかけられたことには驚愕した。
今になってみれば部屋の気流の乱れからも何者かが侵入したことは明らかだったが、
気付かずにここまで接近を許してしまった。
だがワムウは動じない。何故なら侵入者にあまりに気迫がなかったのだ。
殺気どころか何の覇気すら感じない。真昼の月のようなぼんやりとした存在感。
目の前にいるかさえ辛うじてしかわからない程だ。
ワムウの判断からすれば、そのような気勢の者が例え自分に戦闘を仕掛けてきたとしても、
自分が負ける道理は一切ない。それに相手は少女のようだった。

「貴様、どうやってここまで接近したか分からんが、即刻立ち去れ。
 さすれば命は獲らん」

低い凄みのある声で、わざと恐怖を感じて逃げるように殺気も織り交ぜて、ワムウは忠告をした。
ワムウは戦士であれば女だろうと容赦はしないが、そうでない女子供をいたぶる趣味はなかった。
主達の命令でさえ躊躇してしまうほどだ。
それが例え殺し合いの場であったとしても、必要に迫られるまでその考えを改める気はない。
だが――

「お願い……何も悪いことしないから……一緒にいさせて……
 一人は嫌なの……お願い……」

――少女は、こいしはワムウの忠告を無視して、その場に座り込み懇願した。



その後ワムウがどれだけ立ち去らせようと脅しても一切逃げようとせず、すがるような瞳でその場にいつづけたので、
ついにワムウ側が折れた。
決して同情したわけでもセンチになったわけでもない。
ただどう言っても聞かないならばどうしようもないので、条件付きでそこにいることを許可したのだ。
その条件とは、決してワムウの行動に干渉しない。敵が来れば安全は保証しない。基本的に相手はしない。
その三つだ。守れなければ力づくで追い出すと宣言したが、こいしは「それでもいい」というので話は成立した。

そうして話が落ち着くと、一転してこいしはワムウに次々と話しかけた。

「ねえおじさん、おじさん名前なんて言うの?私は古明地こいし。こいしって呼んでね」

「……ワムウ。風のワムウだ。言っておくがおれは最低限のことしか相手はせんぞ。あまり話しかけるな」

「へぇぇ~、おじさんワムウさんっていうのね。ワムウおじさん!変わった名前ね。
 それでワムウおじさんは何をしてる人なの?私ちょっと世間知らずだからおじさんみたいな人見たとない」

「…………」

「大道芸人?剣闘士?それとも宇宙人だったり!?」

「…………」

「おじさんの友達とか家族もそんな恰好なの?もしそうなら人類の夜明けだねそりゃ」

「…………」

ワムウが一切相手をせずとも、こいしは言葉を止めない。まるで言葉を止めれば死んでしまうかのように、話し続けた。
言葉を絶やさぬことで忘れようとしていたのかもしれない。今の状況を、自らの罪を。



だがしばらく話し続け、話の内容が身の上話に変わり始めた頃からこいしは再び暗い表情になり、うつむきがちになっていった。

「私ね、覚っていう心を読むことの出来る妖怪なの。でもね、ほんとのことを知りたくなくて、嘘をほんとと信じたくて、
 誰からも嫌われたくなくって、心を読むための第三の瞳を閉じちゃったの。
 そうすれば嫌われずに済むと思ったから……。
 でも現実はそうじゃなくて、誰からも認識されなくなるだけだった……」

「…………」

「そう言えばおじさんの両目も潰れているけど何かあったの?
 だれかから何かされた風には見えないけど」

こいしは答えが帰ってくることを期待せず質問をしてみたが、これにはワムウは答えてくれた。

「これはおれ自身への戒めだ。二度と感情を乱さぬためのな」

ワムウはそのことを自分に再認識させるように短く答えた。

「そっか……おじさんは見た目だけじゃなくて強いんだね……私は逃げるために眼を閉ざしたけど、
 おじさんは立ち向かうために光をなくしたんだ……。
 私は……弱くて……ここに来てからも何も変わらなくって……
 何を信じていいか分からなくって、流されて、人を傷つけて、友達を……見捨てて……!
 無意識なんて言い訳にならないの……!全部……全部私が弱いから……
 だから神父様も、あのお兄ちゃんも、チルノちゃんも……!私が、私が!」

「そうだな」

「えっ?」

こいしの慟哭を、突如ワムウは肯定した。

「おれから言わせれば、貴様が弱いことが全ての原因だ」

ワムウはそう断言した。



「そう……だよね……」

こいしは体育座りの体勢で、自分を抱きかかえるように体に腕を回しうつむく。

「私……どうしたらいいんだろう……寂しくって怖くって、私なんて誰にも関わるべきじゃないのに、
 おじさんにも迷惑かけて……本当にごめんなさ――」

「『強さ』とはなんだ?」

ワムウはいきなりこいしの言葉を遮り、こいしに問う。
ある種その問いかけはワムウ自身への問いでもあるのかもしれない。

「えっ……えーと……それは力が強かったり、凄い能力があったり、誰かを守ることが出来たりすること、かな?」

こいしは少し考えてみたが、一般的な答えしか浮かばなかった。
その答えを聞きワムウは語り始める。

「それがお前の答えか?確かにそれもあるかもしれない。だがそれは強さの一側面、強さの結果に過ぎん。
 強さにはそれの源となる各々の信念がある。おれにとっては強者こそが真理であり、勝者こそが正義であり友情、
 この掟こそ信念。故に強者を尊敬し全霊を尽くし闘う、それがおれの強さだ。そしてその信念は一つではない。
 ある者は友の復讐を果たすために、ある者は家族を守るために、ある者は己が願いを叶えるために、
 潜在する力以上を発揮する。お前はそれが無い故に弱い、故に流される、故に失う。
 もう一度考えてみろ、お前にとっての強さを。他人のものではない自分自身の信念を」

そう言い、ワムウはまた黙った。
ワムウはこいしの後悔を、弱さを、その吐露を聞くことで、自身の答えを見出していた。
二戦目、ジョリーンとマリサと戦った時は、闘いに溺れ自己を、信念を見失っていた。
闘うことだけに心を奪われてしまっていたのだ。そのことが分かった。
自身の強さ、その根源は始めから何も変わらない。掟を貫く、それさえ守れればそれでいい。
忠義も己が願望も、掟さえ守れば真実は後からついてくる。
正しさを見失い翻弄されるこいしを見て、それに気付くことができた。
そしてその礼代わりに、こいしに助言を与えた。



「私自身の強さ……そんなこと考えてもみなかった……
 ねえおじさん、こんな私にも、強さってあるのかな……?」

自分の手のひらを見つめてこいしはワムウに訊く。

「そこまでは知らん。だが強さ、信念は他人から与えられるものではない。
 精々考えるのだな、答えを見つけるまで。
 ……ふん、柄にもなく喋りすぎたな」

ワムウは自嘲気味に呟き腕を組んだ。
こいしはそんなワムウを見つめて微笑み、礼を告げる。

「ありがとう、ワムウおじさん。私も見つけてみる、私の強さを。
 それで迷惑をかけた人たちへの償いになるとは思わないけど、少しでも報いるために」

「ふんっ……それをおれに告げる意味など無い。勝手にするがいい」

そう言いワムウは違う方向に顔を向けた。

「……おじさん、優しいんだね。私は心が読めないけれど、それだけはきっと分かる。
 ちょっぴり怖いけど、ワムウおじさんは悪い人じゃないって」

こいしはワムウの純粋さを理解しつつあった。決して聖やプッチ神父のような善人ではないけれど、
草原を吹き渡る風のような清冽な人柄であることを。
ワムウは答えずそっぽを向いているが、そのそっけなさが、今のこいしにはありがたかった。



そうして会話が終わると、こいしは急にうとうとし始めた。

「ふふっ、おじさんのおかげかな……少しだけ心が軽くなって眠くなってきちゃった……」

こいしは目をこすりながら呟く。
今まで起こった凄惨な出来事は、こいしの体にも心にも重い疲労を与えていた。
当然のようにそれは眠気に直結する。

「寝たければ寝るがいい。もっともおれは傷が治り次第再び行動を開始するがな」

「ええ~おじさんともうちょっと一緒にいたいな……でも……眠いや……
 おじさん、お休み……きっとまた、お話しようね……」

そう言い終えると、こいしは眠りに就いていた。
その寝顔は安らかとは言いがたいが、館に入ってきた時に比べれば少しは生気を取り戻している。
ワムウとしてはこれ以上世話を焼く気もないので、自身の回復を図るため瞑想を始めようとした。
が――

「ヌウウッ……!」

――それは無意識だった。こいしは眠りに落ちた完全に無意識の状態で、ワムウに気づかれること無く、
そのたくましい足を抱きまくらにするようにして抱きついていた。
これには流石のワムウも困惑する。



「おい、貴様離れろ、意識があるのだろう、おい」

呼びかけてもこいしは一切答えない。当然だろう、寝ているのだから。
無意識の願いが、無意識にこいしを行動させたのだろう。
ワムウは何度揺さぶっても声をかけてもこいしが目を覚まさないので、
一旦起こすことを諦めた。足を思い切り振れば離れるだろうが、
より面倒なことになりそうなので自身の傷が回復するまでの間、その状態であることを容認した。
歴戦の戦士ワムウであろうと、無意識少女の奇行にはペースを乱される。
それでもとにかく、ワムウ自身の道は定まった。
この殺し合いの場であろうと掟を貫く、ただそれだけだ。



こうして、柱の男と覚れぬ覚りの奇妙な朝は過ぎていく。
柱の男との添い寝など、地球史上初めてのことだろう。
目を潰し苦悩した純粋な二人は、奇縁を共にする。
寂れた洋館の中で、ただゆっくりと時間は進んでいった。



【D-3 廃洋館内/朝】


【古明地こいし@東方地霊殿】
[状態]:肉体疲労(大)、精神疲労(大)、睡眠中、ワムウの足に抱きついている
[装備]:三八式騎兵銃(1/5)@現実、ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部(懐に隠し持っている)
[道具]:基本支給品、予備弾薬×7
[思考・状況]
基本行動方針:…………
1:少女睡眠中。
2:自分自身の『強さ』を見つける。
3:ワムウおじさんと一緒にいたい。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降、命蓮寺の在家信者となった後です。
※ヴァニラからジョニィの能力、支給品のことを聞きました
※無意識を操る程度の能力は制限され弱体化しています。
気配を消すことは出来ますが、相手との距離が近付けば近付くほど勘付かれやすくなります。
また、あくまで「気配を消す」のみです。こいしの姿を視認することは可能です。

【ワムウ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に中程度の火傷(再生中)、右手の指をタルカスの指に交換(いずれ馴染む)、頭部に裂傷(再生中)、
失明(いつでも治せるがあえて残している)、足にこいしが抱きついている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:掟を貫き、他の柱の男達と合流し『ゲーム』を破壊する
1:傷の回復が終わり次第、廃洋館内の地下を調べる。
2:カーズ・エシディシと合流する。南方の探索はサンタナに任せているので、北に戻る。
3:霊烏路空(名前は聞いていない)と空条徐倫(ジョリーンと認識)と霧雨魔理沙(マリサと認識)と再戦を果たす。
4:ジョセフに会って再戦を果たす。
5:主達と合流するまでは『ゲーム』に付き合ってやってもいい。
6:こいしが面倒。
[備考]
※参戦時期はジョセフの心臓にリングを入れた後~エシディシ死亡前です。
※失明は自身の感情を克服出来たと確信出来た時か、必要に迫られた時治します。

102:呼び覚ませ、猿人時代の魂 投下順 104:カゴノトリ ~寵鳥耽々~
102:呼び覚ませ、猿人時代の魂 時系列順 104:カゴノトリ ~寵鳥耽々~
097:進むべき道 古明地こいし 121:meet again
080:嵐の中で輝いて ワムウ 121:meet again

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最終更新:2015年07月20日 17:53