迷いの竹林の奥に、その建物―――永遠亭はある。
純和風の佇まいが情緒あふれるその場所は、
かつて月より移り住んだ者たちが永久にも等しい時間を過ごすための場所。
尤も、満月異変が終わってからは「永遠の魔法」も解かれ、他と同じく時が過ぎていく。
この和を極めた屋敷の中に彼は連れてこられた。
屋敷とは完全にミスマッチな、つば広帽子にゴーグルとアメリカの荒野を旅する方がお似合いの恰好だ。
彼、
ジャイロ・ツェペリは未知なる和風空間を探索している最中だった。
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「いきなり殺し合いをしろと言ってきて、妙なところに連れてくるとはな」
ジャイロはヨーロッパのネアポリス王国にて、代々死刑執行人を務める家系である。
無論、このような純日本的な建物など、生まれてこの方一度も訪れた事などなかった。
そのため、畳を踏み締める足の感覚も、障子や襖を開閉する腕の感覚も、人生初めてのものばかりである。
だが、それよりも彼を驚愕させたのは、永遠亭に存在する「設備」であった。
彼は処刑人の家系ではあるが、副業として医師としても活躍する。
そのため医療関連の代物には敏感であるが、それ故この建物は興味深かった。
数多ある医薬品に、その材料の数々。
手術台も、彼が国で用いていたそれより圧倒的にハイテクであり、
なにやら不可思議な機器―――近くにあったマニュアルによれば、レントゲンという体内を撮影する機器らしい―――まであった。
「こりゃスゲエや。父上に報告したらなんて言うか。
鉄球も用いずに体内を観測するなんて、こんなの国にあったら商売あがったりだぜ」
半ば冗談めいた事を口にしながら、彼は様々な医療機器を調べていた。
そんなときだった。
―――ギィ……ギィ……―――
木の板を踏み締める音が聞こえた。
誰かが外の廊下にいるようだ。しかも近づいてきている。
(まずいな)
ジャイロは内心毒づいた。
仮に接近している人物が、この殺し合いに積極的だった場合、自衛がままならないからだ。何故か?
永遠亭の周りは竹林である。彼も先ほど探索中にチラリと見たが、
竹の葉や竹の節と節の間にも、しっかりと「黄金長方形のスケール」があるのを確認している。
だが―――肝心の鉄球が手元にないのだ。
デイパックの中身は確認したが、「アレ」に付いていた説明通りなら戦闘には使えない。
通常、鉄球がなくなった場合は削ることで作成するのだが、和風屋敷のほとんどは植物由来であり、
数少ない金属製のほとんどが医療機器であり破壊したくなかったのだ。
しかたがなしに、近くにあったメスを数本拝借する。
刃物は本来の得物ではないのだが、この際贅沢は言えない。
いざとなったら、黄金長方形の回転を加えれば、使い捨ての飛び道具ぐらいにはなる。
(にしても、この足音の主……「軽い」のか)
先ほどすぐ近くの曲がり角を過ぎた足音を聞きながら、ジャイロは思った。
一般的な大人の踏む音にしては軽い。自分が歩いた時とは音の感覚が違うのだ。
むしろ子供が歩くような体重の軽さを覚える音。
そうこうしているうちに音の主はジャイロのいる部屋の入口まで数メートルという所まで接近してきた。
メスを握る手にも、緊張の汗が滲みそうになる。
障子に接近者の影が映し出された。足音の軽さの通り、背丈はジャイロよりずっと低い。
身構えたまま障子が開くのを待とうとしたときだった。
「君が武器を持っているなら収めて欲しい。私は殺し合いにはのっていないわ」
件の影が障子越しに声をかけてきた。少女特有の高い声だ。
「生憎とよぉ、そんなこと言われて『はいそうですか』って構えを解くバカがいるか?
アンタが何者か俺は知らねぇんだぜ」
ジャイロは表情を変えずに反論する。
視界の隅に、丸い窓から見える竹の「黄金長方形のスケール」を捉えておいたままだ。
「君はそうかもしれないけれど、私は君の事が良くわかるわ。
君は殺し合いに乗る気はなく、むしろあの主催者たちへの義憤と医療機器への興味がよく聞こえるのよ」
それと親友に会いたい気持ちね、と声の主は付け加える。
「!?」
ジャイロは呆気にとられた。確かこの屋敷を探索していたときに人の気配はなかったはずだ。
何故コイツは医療機器を興味津々に探索していたことを知っているのか。
それだけじゃない。なぜコイツは親友―――ジョニィを探そうかと考えていたことまで知っている?
名簿までは確認したわけではないが、あの謎の場所にジョニィがいたのはチラリとだが確認していた。
荒木と太田を打破するためにも、ジョニィと合流しようと思っていたのは、メモにも言葉にもしていなかった。
つまり、この障子の向こうにいる人物は……
「……わかった。武器は捨てる。殺し合いにのっていないというその言葉も信じるぜ」
思いつく限りの能力を持っていた場合、おそらく今の自分では勝ち目は万に一つもない。
そう結論付けたジャイロはメスを近くの机に置き、障子を開けた。
「信じてくれて、なによりです」
そこにいたのは、2つに尖った金髪と、耳当ての特徴的な少女だった。
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畳の上に座り込んで、二人が対峙する。
ジャイロは、金髪の少女―――
豊聡耳神子と情報交換をすることに決めたのだ。
二人の手には、
参加者名簿が握られていた。
ジャイロはジョニィやディエゴら3人の名前を、神子は青娥や神霊異変にやってきた4人、
そして3者会談を行った白蓮と神奈子の名前を確認した。
「となると、まずはジョニィや博麗の巫女と接触するのが当面の目的となりそうね」
「そうなってくるな。にしても、身内より商売敵のほうが信用できるって、お前んとこどうなってんだよ?」
「青娥については、この際とやかく言うつもりはありませんよ。わたしにとっては反面教師って奴ですからね」
「いいのかそれで……」
コイツの身内関係については深く考えないようにしよう。そうジャイロは思った。
「しかし、疑問点もある。まずリンゴォの奴だが、アイツは確かに死んだはずだ。
俺が決闘の末に止めを刺したから間違いない。
それにディエゴは大統領に殺されたのをジョニィを確認している」
「つまり死亡したはずの者たちが参加していると?」
「あぁ。それと気になるのが名簿に多くいる『ジョースター』と『ツェペリ』の姓だな。
ジョニィの血縁についてはよくわからんが、ここに載っているウィルやらシーザーやらは俺の親類にいないのは確かだな」
(そもそも俺自身の名前がシーザーなんだけどな)
この事はジョニィとの秘密である。
「とは言え、最初の疑問についてはある程度目星がついてる。
さっき言った大統領なんだが、コイツは並行世界へ移動する能力を移動する能力を持っているんだが、
他人も連れてくることが可能らしい」
「つまり、『まだ生きている世界』から連れてきた存在というわけですか」
「つまりはそうなるな。もっともこの場合あの二人も同じ能力を持っているという事になるだろうが」
「もしかしたら、その『ジョースター』と『ツェペリ』の姓を持つ者たちも
並行世界から連れてこられた可能性があるわね」
「なるほど、そうかもしれねぇな。しかしそうなると奴さんたちの能力を打破する方法をどうするかだな……」
最初に考えていたより相手は強敵かもしれない。そんな懸念にジャイロが頭を抱えていたときだ。
「打破する方法と言えば、君の支給品はなんだったの?」
神子が不意に、ランダムアイテムの話題を振ってきた。
「あぁ、アレか。付属の説明書を読んでよ、武器に仕えなさそうだから仕舞っといたんだが……」
ジャイロはそうぼやきながら、自らのデイパックの中を漁る。
取り出された紙を開くと、中から出てきたのは水晶のネックレスだった。
金属の鎖に、藍色の輝きの眩しい八面体カットの水晶が繋がっている。
「これは、命蓮寺にいるネズミが持っている振り子ですね」
「お前コレ知ってるのか? 説明書きには『
ナズーリンのペンデュラム』って書いてあったがな。
物探しには使えそうなんだが、武器としては使い勝手が悪すぎるみたいでよ」
ジャイロは、手に持っていたその説明書きをパンと叩いた。
「……それは例えば」
神子が自身のデイパックから何かを取り出した。
「こんな鉄球とか、かしら?」
その手に握られていたのは、模様のついた手の平大の鉄球だった。
「それ、俺の鉄球じゃねえかッ!?」
ジャイロは立ち上がるほど驚いた。
神子の手に、自分の愛用する鉄球があるのだから当然である。
「先ほどから鉄球を欲する気持ちが手に取るように分かったのよ。どうやらただの鉄球みたいだし、私には無用の長物だわ」
「なぁなぁ、そう言うんならよ、俺にその鉄球くれないか? 条件があるなら飲むからよぉ」
「どうしようかしらねぇ……」
ジャイロの必死の訴えに神子がどうするか考えていた時だった。
「……ん!?」
「この音、馬の足音か?」
遠くの方から、蹄の鳴る音が響いてきた。
竹林の中を馬が駆けていっているのである。
ジャイロは神子の隣を通り抜けて、障子の向こう側にある庭に降り立った。
その眼は馬のいるであろう方向を見つめている。
と思うと、おもむろに手に持っていたペンデュラムを前に突き出し、その水晶を凝視しだした。
水晶は少しずつ揺れ動きだし、やがてある方向を明確に指し示す。
その方向は、先ほどまでジャイロが見つめていた、馬の方向である。
「やっぱり、思った通りだぜ」
「一体どうしたと言うの?」
「あの蹄の音に聞き覚えがあったから、ペンデュラムで探知してみたのさ。
さっきはそこまで言わなかったが、説明書きには明確なイメージがあればより確実に探知するらしい。
そうしたらビンゴだぜ。あの音は、俺のヴァルキリーの蹄だ!」
ジャイロは馬の方向へ歩き出した。
それを制止するように、神子が声をかけた。
「話によればここは『迷いの竹林』といって、自然の迷宮となっているわ。
道に迷った挙句奇襲されてしまうかもしれない」
「そう言われても、ここで待っていたところでヴァルキリーが来てくれるとは思えねェ
第一、ジョニィ達を探すためにもここに留まっているわけにはいかねぇだろ」
そういうとジャイロはペンデュラムの指し示す方向へ進みだす。
神子も、それもそうだと思い直し、ジャイロを見失わないよう後をついていくのだった。
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【D-6 永遠亭/深夜】
【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す
2:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン大統領、青娥は警戒
3:俺の愛馬(ヴァルキリー)、待っててくれよ
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と
博麗霊夢、
八坂神奈子、
聖白蓮、
霍青娥の情報を共有しました。
※この会場でも、自然には黄金長方形のスケールが存在するようです。
※豊聡耳神子の能力を読心能力と認識しています。
【豊聡耳神子@東方神霊廟】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部
[思考・状況]
基本行動方針:聖人としてこの殺し合いを打破する
1:博麗の巫女など信頼できそうな人物を探し出す
2:今のところジャイロに味方する
3:あのペンデュラムを白蓮に渡したら面白いかも
4:……青娥、もしかしたら裏切るかもしれないわねぇ
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談を終えた後です。
※ジャイロ・ツェペリと
ジョニィ・ジョースター、
リンゴォ・ロードアゲイン、
ディエゴ・ブランドー、
ファニー・ヴァレンタインの情報を共有しました。
※能力制限については、後の書き手の方にお任せします。
【支給品情報】
○ナズーリンのペンデュラム
【出典:東方星蓮船】
ジャイロ・ツェペリに支給。
ナズーリンが探し物をする際に用いているダウジング用振り子。
銀色の金属製の鎖の先に、藍色の八面体カットの水晶がついている。
このロワでは誰でも使用でき、生物、器物問わず半径200m以内のものを探知できる。
探しているもののイメージが明確であるほど探知精度が高い。
(例えば「移動手段」よりも「馬」、更に馬の固有名詞と身体的特徴が分かっている方が精度が高い)
ただし一度に探知できる対象は一つのみ。
またスペルカードのような攻撃・防御手段に使用できるのはナズーリン本人のみである。
○ジャイロの鉄球
【出典:ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティールボールラン】
豊聡耳神子に支給。
模様の刻まれた手の平大の鉄球(1個)。
回転の技術を取得しているものなら万能の武器になるが、そうでなければただの鉄球である。
最終更新:2014年03月17日 19:43