太陽が昇る。
きっと今頃はこの世界の有象無象は白日の下に晒されていることだろう。
白日の下に晒される、という言葉は隠された物事がこの世に明るみになる意味が込められている。
滅多なことに降りてこないであろう日差しがこの森の天蓋を破ってくるのを見て一人合点する。
この世界、日ノ本に生きるヒトにとって全てを照らす太陽の陽から逃れられない、白日に晒されるのみなのだ、と。
か細いレンブラントビームを顔に受けてしかめた少女は、なんとなしにそう感じた、些細な徒然事である。
幻視するまでもない。沈んだ雲霧を払いたければ空を仰げということだ。先ほど二人でそうしていたように。
光芒の直撃を避け薄目で天を睨む。
例外が見つかった。星空が天日に塗りつぶされていく様が見える。もうほとんど明け空へとすり替わっている。
無数にして無秩序に佇む星斗はなすがまま日差しにかき消されていくのだ。
余りにも強すぎる陽光に呑み込まれ、微弱な光しか放たない星はそこにあるにも関わらず、ヒトの眼には映らなくなる。
そう、正に白日の下に晒された星々は、言葉の意味とは裏腹に、この世に曝け出されてはいないのだ。
少しだけ滑稽だと思った。原初の光である太陽に照らされた結果、姿を隠した星々。これのどこが白日の下に晒されたと言えるのか。
少女は考える。
白日の下に晒されたのは我々の世界のみなのだ、と。
そもそもヒトがいつ作ったのか分からぬ言の葉に宙の果てのことまで考えてはいないのだ、と。
極めて現実的に、ぶしつけに解釈する。
ヒトの指す『世界』に『星』は含まれることはない。世界にとって星は埒外なのか。
見えなくなっていく星々を、隠れてしまった星々を、全て映し出してほしいと思うのはワガママなのだろうか、と少女の些末な所感であった。
だがその思考も、太陽に全てを塗りつぶされた空の頃には終わりを迎えていた。
「思ったほど、悲しくないもんだな。」
その言葉に嘘偽りはない、つもりだ。だからこそ、そう言えたことが悲しく思えた。
「……無理しなくていいんだぞ、あたしは…そこら辺見回ってくるからさ。」
しかし、私を嘘つきにしたいのか、コイツは余計な気遣いをしてきてくれた。
「……無理しなくていいんだぜ、私は…そこら辺見回ってくるからな。」
できるだけ声色を目の前の誰かさんと合わせて言葉を返す。
「……何の真似よ?」
思ってたよりも私のことを慮ってくれていたようで、結構怒っている様子だ。
「オウムの鳴く真似」
「あたしの真似だろうが!」
突っ込み気味のローキックを小さな小さな百騎兵で受け止める。
「これがオウムじゃないならウソだな」
「やっぱりウソなんだろ!ったくもう…!だから、その無理しなくていいって言ってるでしょ!」
「無理しなくていいって言ってるんだぜ!」
「はぁ!?」
「いやいやオウム」
「………」
「………」
思いやりの気遣いが気違いを見る視線へと変わった気がする。まあ、すぐに誤解は解けるさ。
「私はウソに啄まれる。ウソかホントか保証できない。」
「だからアンタはウソをついたんでしょ!それとも、そうかアレか!
そっとしてほしいタイプじゃなくて……こう、そのギュッとしてほしいタイプなワケ?」
「それはいい」
「どーしてそこだけはっきり断る」
「私は親離れしているからな」
「おい、ちょっと待て!誰がアンタのお母さんだって!?」
「ズレてるズレてる」
「? …ってその台詞、今のアンタには言われたくないんだけど」
いやはや、話がちっとも進まないなそもそも何の話をしていたのやら、これでは時間の無駄だ。まあ、私は無駄がすきだけども。
「残念だけど、私はウソをついちゃあいないぜ」
ここじゃあ、それもままならないな。
「ウソだのなんだの言ってただろ!」
「アレは焼き鳥美味しいって話だ」
「お前は嘘を食べるのか?」
「ウソを食べるのがウソだ。私はそいつらの美味しい親子丼をいただくだけさ」
「こらこら。腹が減る話をするな」
「アンタは大好きなチョコレートケーキでもいただけばいいじゃないか。」
「……世の中甘くないわよ」
「とにかく、アンタがウソをついていないってことでいいのよね?」
「そもそもいつ私がウソをついたんだ」
「アンタが泥棒だからでしょ?さっき盗んでたし」
「嘘つきは泥棒の始まりとな?論理の逆は証明にならないぜ?」
「何言ってるの。逆でない方がいいんだから、論理なんて必要ないのよ。そもそもね」
「論理なんて必要ないよな。そもそも」
「あ?」
「いやいやオウム」
「あ?」
「あ?」
「あ?」
「いやいや―『うるさい』― 」
ここは魔法の森。
ジメジメとした空気と原生林が鬱蒼とした空間は人妖問わず人気のない場所である。
だが日差しをロクに通さないことも相まってキノコ自然栽培の聖地でもある。
とは言っても、近寄るだけで幻覚を引き起こすほどの代物が群生することもあって、やはり人気のない場所であった。
そんな場所に二人の少女が隣り合って座している。二人して黙っている。
湿気と瘴気のよすが、とも言うべきこの地が二人を愚図つかせ、白けさせてしまっているかのように静かな様であった。
やれやれだわ。まったく……あたしはどうしてやればいいのかしらね?
二人の内の非行少女の方、
空条徐倫。
胡坐をかいた脚に肘をついて何度目かの逡巡を迎えた。
目下の悩みは正に目の前の相方、
霧雨魔理沙にあった。
いつもより難しい顔をしている彼女を盗み見る。
先ほどのやり取りの後、彼女は閉口を保ち続けている。
何を考えているのだろうか、やはり知り合いの死にショックを受けているのだろうか。
ウソをついちゃいない、か。アンタは本当に悲しくないのか?
左で座っている少女が知り合いの死に対して無関心であるとは徐倫は考えなかった。
先の共闘で彼女の人となりを信頼していたし、むしろ徐倫に気遣われないよう無関心を装うのではないかと踏んでいた。
無理しているって考える方が自然なのよね。
自分の弱いところを見せたがらない、人間なら持っているであろう自尊心から成る防御行動。
それが起因して徐倫にウソをついたと考えるのが、まだ容易であった。
でも……もし、本当に悲しくないのだとしたら―――
徐倫が魔理沙を信頼したように彼女もまた、ありのままの胸中を語ってくれたのだとしたら。
―――あたしと同じ気持ちなのかもな。
空条徐倫。魔理沙の言葉が真実なら、彼女の悲しみもまた、なりを潜めていた。
エルメェス・コステロの死。ストーンオーシャンを共に生きてきた仲間の訃報を受けたというのに。
どうしたんだろう、不思議と悲しくない。
悲しみから涙が流れることはおろか、怒りで手が震えることもない、静かな心持ちであった。
そうでなければ、今こうして考えてなどいない。きっと取り乱していただろう。
あるいはスデに慣れたのか?
徐倫がここに至るまでに体験した仲間の死、その二つの体験が彼女を一つ上のステージへと押し上げたのか。
あの時と、何かが違うんだろうな……
そこまで考えると眼をゆったりと瞑り、決して遠くない二つの死を掘り起こす。
FF。ああ、覚えている。私たちと生きた、同じ時間を過ごした『
フー・ファイターズ』。さよならを言うアイツのその姿を忘れるわけがない。
ウェザー・リポート。覚えている。あたしが……殺したかもしれない人。風が止んだあの瞬間を、彼の声は空を揺らすことなく凪に呑み込まれていった。
エルメェス・コステロ。覚えている、覚えているとも、覚えているさ。だけどそれはアイツの生きている姿……終わった瞬間を、あたしは知らない。
溜息が漏れる。そういうことか、と。いや、最初から分かっていたことだった。こんな回りくどく思い出さなくても、当に答えは出ていた。
エルメェスはFFみたいにさよならなんて言ってないの、ウェザーと違ってまた会って話すことができるのよ―――
でも、それはきっと…
―――あたしの中の話、だけどな。
とどのつまり、エルメェス・コステロが死んだという実感、リアリティが不足していた。
先の二人と違い、彼女の死は耳から聞こえてきた放送、それはあまりにも安っぽい訃報、信じるに足らない、唾棄すべき情報なのだ。
だけど、エルメェスは………もう、いない。
だが、その情報の主に踊らされている以上、受け止めなければならない事実もある。主催者の放送など正にそうだ。
さよならよ、エルメェス。一先ずはここでお別れ。ちゃんと悲しんでやれなくてゴメンね。
だから徐倫は友人の死を頭で理解してあげた。当然すぐに心は納得しない。
だが待てないのだ、自分の心の整理に時間を費やしてなどいられない。
それは彼女が今誰を失ったのかを見れば分かる、全ての機会は有限なのだ。
さて魔理沙。アンタはどうなんだ?
徐倫は早々に頭を切り替えていた、それは今より前を向き始めていた。
視線は自分ではなく、相棒に向いていた、それは今より遠くを見据え始めていた。
どこまでも遠くを映す瞳は殺し合いの檻の中、ヨレ出した軌道の流星をしかと捉えているのだ。
って、アレ……魔理沙はどこだ??
すぐ隣にいたはずの相棒の姿が見えない。いや、それどころではなかった!
視界が暗い!?いや黒い!!目の前で暗幕を張られているかのように黒いぞ!!
徐倫の直感が告げる!危険信号!
敵襲!奇襲!スタンド攻撃!それも先手を取られた!最悪手
視力を奪われるディスアドバンテージ!空条徐倫!チンタラ考え事をしていたらこの様とは!
「魔理沙!!どこだ!!」
スタンドを駆り、手から放つは糸の結界。下手人と相棒を探るべく、いの一番に最善手を選び取る!
何だ!?近いぞ、近すぎる!ゼロ距離!?完全な密着!?ヤらなきゃ!ヤられる!!
間隙。自身とスタンドを挟み込む2mのインコーナー。敵はそこにいる!
「喰らえ!!」
「おい!?バカ!徐倫!」
目の前から声―――魔理沙か!?殴った先に……ってヤッバッッ!!
「うおおおおおッッ!!??止まれェッ!!」
緊急停止。ストーンフリーの右ストレートが徐倫の全身全霊の命令に受け応える、が。
マズ、い。止まらねえわよぉおお!!
スローな感覚。一つ分かるのは魔理沙の位置からは逃れられないことのみ。
ゴメン魔理沙。あたしは善処したわ。痛いで済むといいわね。
ばふん。異音の瞬間、柔らかい触感が徐倫の顔を包み、視界が完全にダークゾーンに突入。
そのまま何かにもたれ掛かられる形で、顔から不可抗力的に膝立ちの体勢が崩される。
エッ?あたしが、倒れて……!?
徐倫は何かと縺れるように上体から派手に地面へと激突した。
「いってぇッ!!」
「あぶねぇッ!!」
直後、腕が空を切る音がしたのだが二人の耳には届いていないだろう。
「あー徐倫、中々面白い状況だな。」
徐倫の上からややくぐもった誰かの声が聞こえた。この状況を理解した上で発せられる、謀ったような声だ。
徐倫はようやく合点いったようだ。それは盛大な一人相撲。完全に自分の、そしてしょうもない失態。
思考の波に呑まれていただけであった。スタンド攻撃などといった危険なモノではなく、魔理沙は徐倫に声をかけていただけだった。
魔理沙があんな近づいていたのも、一向に反応がなかったからなのだろう。
自分に覆いかぶさっている奴はそれを分かっているようだ。心配してあげていた身として、これはあまりにも面白くない。
「ほうでしょ。」
ぶふー、と少々苦しいけど思いっきり息を吐きかけてやったわ。
「まったく、私が咄嗟に飛び込んだから良かったものの。それとも私を三途の川に飛び込ませるつもりだったのか?」
べろん、と一つ。思ったより鈍いわね、それそれ。
「あん?」
シャブチュバペロンペロ―――
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
おっ、流石に堪えたか。
軽く圧し掛かっていた重さがなくなる。悪かった視界も元に戻る。徐倫は久しぶりに立ち上がると、うーんと背伸びをした。
そして、衣服を手で払う音がする方へ視線を寄越す。悲鳴を上げながら忙しなく叩いている誰かの背中が映った。
「ジョリーン!!なんってことしてくれたんだ!!」
当然、霧雨魔理沙である。
「アンタがいつまで経っても退かなかったからでしょー」
「うっかり殴り掛かっといてどういう了見だよ、そいつは~!」
魔理沙は赤ら顔を引きつらせて徐倫にズカズカ近づいていく。彼女はその様をニヤけながら見ていたが、目の前まで近づいた魔理沙に頭を下げた。
「まあ、そのことに関してはごめんなさいってことで、魔理沙。ゴメンね、あたしちょっとボーっとしてたわ。」
魔理沙は少々訝し気にその様子を見て口を開く。
「やめろよ。頭下げている姿、アンタ誰って感じで全然似合ってないぜ」
「育ちが悪くてごめんなさいね。じゃあこうしましょ」
魔理沙の顔と同じ高さまで屈み、両手を合わせてニコリと笑った。
「ゴメンね、魔理沙。でも大事なくて良かった、良い反応だったわよ」
「へん、気にするなよ。あれぐらい、まさに日常茶飯事だぜ」
徐倫の手を指差し、別段気にする様子もなく答える魔理沙。徐倫は合わせた手を見比べて、ああ、と合点した。
「茶飯事ね。そーゆー意味なら、これはご馳走様の手合わせだわ。」
「何を頂いたんだって言うんだ?」
「美味しく頂きました。」
「あん?」
「美味しく頂きました。」
「おい」
「美味しく頂きました。」
「だから、なんだって言―――」
魔理沙の台詞は途切れる。徐倫が指差した方を見たから。先ほどの魔理沙のそれとは違い、手に向けられていなかった。
ややあって、わりと純粋な乙女の悲鳴が森に響き渡る。乙女と呼び難い女性はやっぱり良い反応ね、と呑気に思うのだった。
「さて、と。それじゃあどこ目指して行こうかしらね?」
「………」
徐倫の尤もな言葉に対し魔理沙は沈黙で返す。地べたに体育座りの姿勢で嫌そうに上目の視線を送りながら。
「ちょっとちょっと、そんなに根に持たなくていいんじゃない?」
「アンタ。サイテー…だぜ……」
「まったく直の上からでもないのにねぇ、直でしてやってたらどう―――」
「……………………」
いよいよ視線が徐倫を呪い殺さんとより鋭くなり、彼女は不格好に言葉を切ってあげた。魔理沙はというと目いっぱい睨んだかと思ったら顔を伏せてしまう。
「ほらほら。時間もないんだし、いい加減切り替えな」
「ほとんどアンタのせいだろ、まったく……」
渋々といった風に顔を上げ、ゆらりと立ち上がる。
「それじゃ行くぞ」
「なあ、魔理沙」
「何だよ」
「その、怒ってる?」
魔理沙は意味を呑み込めず一瞬眉根を狭めたが、徐倫のバツの悪そうな表情を見て、大きな溜息を吐き出す。
「アレで怒らない方がどうかしてるぜ。半分ぐらいは怒ってるさ」
「意味有り気な残りの半分は?」
「感謝してるよ、コンチクショー。だから、そのなんだ……私に気を配りすぎるなよな?」
「ふーん。」
「……」
「……」
「………そんなに良かったのかしら?」
徐倫……良いヤツなんだが、もっとこう何だ。デリカシーある発言というか、オブラートに包んだ表現とかなかったのか?
いや、そもそも先の発言はテンで的外れで、デリカシーもオブラートも必要ないぞ、絶対にないから。
……まあ、ワザとああしたことを言っているのかもしれないけど。元気付ける為とか、在り得そうだ、大いに。
ああ、気ぃ遣われているなぁ。私。気を遣われるほど私は参っちゃあいないぜ、ホントに。
最初に言った通り、私は今そんなに悲しくないんだ。
理屈で良く分かっているから。
ワムウの様な化物じみた存在、徐倫の様な変……スタンド使い。私たち幻想郷に住んでいる連中からしても、未知数の相手。
未知と幻想はこちらの専売特許なのだが、それがこうも打ち砕かれ、その凶刃に十人は斃れた。
そして私ら含め総勢九十名をしょっぴいてみせた主催者の二人。奴らの力の程はこの状況を鑑みれば嫌でも分かる。
事実を、六時間流れた結果を、口伝されただけだ。絶対的な現実を告げただけなんだ。そこに虚を盛り込む間隙は一つもない。
夜明けと引き換えに十の命は流星となって燃え尽き果てた。それは決然とした事実なのだ。なのに何故悲しくないのだろう?
答えは知っている。とうに分かっている。星は燃え尽きてなどいない、燃え尽きたのなら、私の脳裏にしかと刻まれているはずなんだ。
息を呑み、呼吸を忘れるほど綺麗な流星を私は誰よりも知っている。だというのに、それを私は一つも拝んでいない。
これはあまりにも可笑しい。可笑しいんだ。
大仰だな。
実感がない、そう言い表すのには余りにも大げさで不格好だ。ああ、なんてちっぽけなんだろう。
別に死に対して疎い環境で育ったつもりじゃなかったのに。死ぬときは死ぬ、そういう側面がある場所だ。
私だって死にかけた経験なんか、両手両脚の指じゃ数えきれない。
そりゃ今でこそ、本気で事を構える真似をしなければ平気なほど強くなった自覚はある。それこそこんな殺し合いでもしなければ。
だけど、昔は…特に、家を出てからすぐの毎日は地獄のような日々だった。
肉体的にも精神的にも擦り減らして、擦り切れるギリギリでよく助けてもらった気がする。二人に。
そう。私にはあるのだ。命を失いかけるような経験が。ならば、なにが足りない、なぜ仲間の死が真に迫ってこない?
私には一体何が足りないんだ?
死んだのは誰だ?私?バカを言え。死んだのは私ではなく、
十六夜咲夜であり、
魂魄妖夢であり……とにかく私ではない。
死にかけた経験は十六夜咲夜でも、魂魄妖夢でもない。当たり前だ。そんなもの見たこともないし、そんな話聞いたことない。当然、私のことじゃないか。
見たことも聞いたこともない?十六夜咲夜や魂魄妖夢の死を?当たり前だ。そんな経験があるなら……今こうして、もがいちゃいない、苦しんでなんか、いないんだ。
そんな経験があるなら、か。
そういうことか。何だよ、随分あっさりしているな。
足りないのか?いや、それどころではなく。ないんだ。全くと言っていいほどに、誰かが死んだ経験が私には…………ない…。
当然のことだった。
私の周りには妖怪、魔法使い、神といった人外ばかり。妖怪は肉体的にヒトを遥かに凌ぎ、
魔法使いは捨虫の魔法により不老となる。神は幻想郷の中においては信仰が絶えることはないと言っていい。
それぞれ死という概念から、ヒトより大きく踏み外しているのだ。私はそんな連中と知り合ってそこそこだ。オサラバする経験など、あるはずがない。
それでも人里で誰それが死んだ、という話ならしばしば聞いた。それは貴重な死の体験記だ。だが、こんなもの何の腹の足しにもならない。
所詮、それは私にとって『誰それ』でしかないからだ。本当に誰なんだそれは?
誰それに名前と顔が浮かび上がらないのは、私が普通の人間との関係が希薄だからだ。
森に居を構えたあの時から、私の人間関係は概ね失ったと言っていい。あんな住めば都に遷都したんだ、羨み僻まれも止む無しだ。
だけど、その結果人里の誰かが死んだという報を受けても、私にとっては誰それでしかなくなった。
それをおかしいなど欠片も思わなかった、現にこうして考えに耽るまでは。
人外の内にありながら、外と共にする私。それはどこまでも死の見聞から逃避している行為に他ならない。そこにそんな意図はなくとも、だ。
―――私は幻想郷のヒトの中で最も『死』を知らない人間なのかもしれない―――
……慣れなくちゃな。いつまでもこのままじゃいられない。でも、どうすればいい?どう慣れていけばいい?
たとえ答えが分かっていたとしても、そう思わずにはいられない。だって、そんなの、あんまりじゃないか?
私は嫌だ。見知った奴らの死に目なんか、どんな形だって見たくなんてない。
本末転倒だ。殺し合いを止めようとしているのに、誰かの死を看過しなきゃいけないなんて。
きっと間違っている。だけど身体に走るむず痒いこの感覚、あるはずでない片手落ち感、払わなければいけない。そんな気がしてならない。
ああくそ、考え過ぎたかな。いい加減止めだ止めだ。頭を使っているとロクな方に転がらない。頭脳労働は匙加減を間違えると身体に毒だ。いい加減戻って……
………ん?何かおかしくないか?何で私はこんなに『考えて』いるんだ?徐倫と一緒に『歩いて』いたはずじゃなかったか?
歩く感覚なんて、どこにもない、ぞ?
……………………戻れない?いつまで、こうしているんだ私は?身体の感覚が鈍い?目を瞑っているのだけが分かるけど、開けることができない?
連続しない途切れたシーン。自分を追いつめる思考。鈍った身体の感覚。
おかしい。おかしすぎる。いつまでこうしてなくちゃいけない。
何かの異変か、いや、こんな直截に届く異変なんてない。あるとしたら、それはもう一つしかない……!
「スタンド攻撃か!!ぁああああぁあああああ―――
浮遊感。背中が嫌な意味でゾクゾクする。
―――っでえええええええええ!?」
衝撃。予感は的中し背中が強かに打ち付けられた。痛い。
「おっ?起きたか?」
仰向けで倒れている私の視界に徐倫の顔が映った。
「徐倫。私はどうなっている?」
「痛そうに顔を歪めているわ」
「そうじゃなくて」
「なら大方アンタの予想通り」
「さいか」
悩み過ぎて頭の中がショートしたか、眠気に襲われたかしてフェードアウトしたのか。
まったく……私は何をしているんだ…
「ほら、立ちな?いつまでそうしているんだ?」
徐倫に差し伸べられた手を右手で掴んだ―――その瞬間だった。
私の全身から汗が噴き出した。
立ち上がろうとする反射で空いた手は『床』を触っていた。滑らかなフローリングを。ここは外では、なかったのだ。
その時私は一つの予感が脳裏に出来上る。その瞬間感覚は小刻みに情報を伝達し始めた。
身体が起きるごとに徐倫だけが映っていた視界が変わっていく。その時見えたアイツの顔越しに、天井があった。
予感が完成へと迫る。何故か私はそれを恐れていた。
自分の両脚で立ち上がる。目を瞑って何回か軽く床を踏む。分からない。足の触感で分かるほど気にするわけがない。そういう相手だったから。
それは私にとって、予感が外れている可能性も示唆されていた。私の希望的観測。
逆を言えば、眼を開けて確認しろ、と『この家』に言われている気もしてしまった。
腹を括った。
木を主とし引き戸は硝子で作られた食器棚。その奥に見える色形豊富な食器が行儀よく収まっている。
どんな客を迎え入れられるよう、種類の違う4つのイス、ソファに四面楚歌される背の低いテーブル。
そこにいた誰かに似て透かした模様が映えるテーブルクロス。
その近くには暖炉といつでも使えるように薪も十分に用意されている。
壁には時計に写真、風景画に装飾皿をと無数の調度品が立て掛けられており、見栄えが良い。
本棚には無数の本とそれ以上に不自然に空いていた空間が目立った。
もう、間違い様がない。ここはあそこだった。
「アリスの、うち。」
目の前に二つの選択肢があったとして、そのどちらかを選び取ったとする。
当然、未来に起きることはその選択した方に沿うわけで、選び取らなかった方の結末は知ることなどできない。
たらればで考えることはあっても、選び取らなかった選択の未来を視ることはできない。
そんなもの視る必要がないし、視たところで今の状況を根本から変えることは難しい。
だから必要はない。
そこまで深く考えてはなかっただろうけど、多分、本能的にそうやって行動してきたんだと思う。
だけど今は、少しだけ思うところがある。
自分の行動にほんの少し迷いを覚えるのだ、その瞬間を感じてしまいハッとしてしまうのだ。
ある相手の言葉が、自分の失態が、枷を付けさせられるきっかけになった。認める気は毛筋一本分もないけど、屈服させられたのかもしれない。
自分の行動は果たして自分の目的へと通じているのか、という枷。
ひょっとして全ては奴の思惑の上なのではないか。
ここまで這い上がってきた道程は奴にとっての予定調和なのではないか。
切り開いてきた運命もまた運命の中に組み込まれているのではないか。
もう一回言うけど、そんなもの信じるつもりはない。
そんな頑なな自分の考えさえも、ひょっとしたら……こうなると永遠の疑心暗鬼だ。
これ以上はもう考えない。癪だ。あまりにも癪に触る。
自分の在り方を否定されるみたいで、あそこでの日々を否定されるみたいで。
今のあたしはあたしだけじゃあ成りたっていないんだ。
だと言うのに、あたしの行動が奴の掌の上だって?
構うものか、お前の掌に乗っているのはあたし一人じゃあないんだ。
奴の掌をあたしらの重みで潰してやる。
たとえ、そこから一人失ってでも、だ。
いや、それはもう三人なのかもしれないけど、それでも。
その重みはあたしがそこにいる限り、絶対に変わらない。
だからあたしはそいつらと過ごしたあたしが迷うわけにはいかないのよ。
私が是とした選択を簡単に否定しない。アイツにとってそれがどう転ぶのか、正直分からない。
でもやっぱり放っておけない。同じ様に苦しんでいる相手をただ見て放っておけない。
だって私だって、あの日、きっと私は、そうしてほしかったから。
「なぁ徐倫。これはどういうことだ?」
魔理沙は努めて平静に声を絞らせる。
「それとも、これも件の質の悪いスタンド攻撃の続きか?」
「そうね。プッチ神父ならこういうこともしてくるかもね。」
顔を嫌そうに歪めお道化た少女に徐倫は便乗する。
「それを、アンタがやるのか?」
打倒すべき相手と同じようなマネをお前はするのか、魔理沙はそう言った。
「ええ、そうよ。」
その意図に何が隠れていようとそんなマネを選んだのだと、徐倫は返した。
沈黙。
魔理沙は言葉を返すことが出来なかった。言葉を返したら、どれほど醜く罵倒したかわからなかったから。
徐倫を信頼していたから、なけなしの理性が彼女の罵詈雑言を押し込めたのだ。
「家主のいない家って、どんなモノなんでしょうね?」
徐倫は相対していた魔理沙に背を向け言葉を連なり出す。
「あたしは訪れたことはないんだけど、別の経験ならあってね。いなくなった仲間の部屋を見たことはある。何があったと思う?」
首だけを俯いた少女へと向けて、軽い感じでクイズのように尋ねる。
「…………………何も無かったか?」
「当てられると、こっちが困っちゃうわね」
ややあって答えた少女のそれに、徐倫は本当に困ったように笑った。
「そう。もう、そこには何も無かった、というよりは別の女囚がいたの。
当然と言えば当然のことで、そいつがいなくなって、あたしが自由に動けるようになる間に数日経っていたわ。」
「囚人のおかわりか、世知辛い話だ」
「まったくもって、その通りよ。こっちもいい迷惑ね」
「それで話は終わりなのか?」
「ほぼほぼ終わりよ」
徐倫の意外な言葉に、あっけない話の終わり方に、魔理沙は一瞬面食らってしまう。だが即座に噛み付いた。
「もっとあるだろ!アンタはそこでそいつの部屋を見たんだろ!?結局何もないんなら ―『さっきも言ったけど』― 本当に何考えてここ……
「そこにいるのは別の誰かだったのよ。そいつのいた証なんかあるわけでもなく、客観的にいなくなった事実だけが突き付けられただけだった。」
淡々と話すその様はその時の徐倫の心情そのままであった。
「それこそ、さっきの放送みたく、ね。」
まあ、あれよりかマシだけど、と小さく付け足した。
「でも、ここはそうじゃあないでしょう?」
徐倫の指先から糸が伸びる。彼女の背負っていたデイパックにまで届いたかと思うと、そのまま手中へと引き寄せていた。
「人形使いの魔法使いだったわよね?アリスって子の証になるはずと思って失礼承知で見繕ったわ。」
人形であった。ただし愛用の上海人形とは比較にならないほど簡素な綿人形。
金色の髪に黒の帽子を被り、洋装に身を包んでいる、ことが分かる程度のものだった。
「何で、私にこれを…?」
魔理沙はその本心とはどこまでも心無い言葉を並べた。
「アンタは悲しくないって言っていた。それはきっとアンタの中で『死』にリアリティを抱いていないからよ。これで少しは決着がつくと思ってね。」
徐倫の表情はどこか厳しい、だが魔理沙は俯いたままでそれに気づく様子はなかった。
「だけど今すぐ全てを受け止めろなんて言わないし言えないわ。あたしだってまだ心の整理が付いちゃあいないもの。」
そこまで言うと、逆に声色を明るくして魔理沙に告げた。
「でも、受け入れちゃった時にさ。何か傍にあった方がいいでしょ?だからお節介したの。」
徐倫は尚も俯き加減の魔理沙に近づき、人形を寄越す。
魔理沙は受け取ろうと手を差し出す。
そして―――
「いらない、ぜ」
人形の腕が爆ぜた。パァンと乾いた音と共に中の綿が飛び散る。
魔理沙の人差し指は真っ直ぐに伸び、人形の腕があった場所を指していた。
「魔理沙。アンタは……」
徐倫は驚かない。自分の意志に相反する行動を見せた魔理沙に対して。
「アンタはその仲間の証なんて、持っていないんだろ?」
魔理沙は挑発的に白い歯を見せる。
「アンタに出来て、私に出来ないなんて、そんなの在り得ないんだぜ。」
それはまるで相手を威嚇するかのように、必要以上に獰猛さを誇示した笑みだった。
徐倫は分かっていた。分かっていたが、これ以上の言及を避けた。避けなければと判断した。
「そっか……悪かったわね、魔理沙。余計なお世話だったかしら?」
「放送を聞いた時から腹積もりは出来ていたさ。今更取り乱したりしてられないからな。」
尤もらしい事を言っている少女の姿が徐倫には背伸びしているようにしか見えなかった。
徐倫に追いつこうと無理をして限界ギリギリの足先立ちでプルプル震えている。
それを少女と呼ばずして何と呼ぶか。
それらを無下にして、少女を地に叩き付ける真似を徐倫は選べなかった。
勿論。それで良いわけがない。徐倫の本心はそう思っていた。
魔理沙は死んだ仲間のことを、どこまでも目を逸らしているのではないか、そう思えてならなかった。
だからこそ、ここで少しでも慣らそうと思ったのが徐倫の考えであった。
もう一歩踏み込んで言ってやるべきだと思う。だが、それで魔理沙を傷つけた時、立ち直るのにどれほどの時間を要するだろう。
いや、その時は徐倫自身が守ってやればいいだけのことだ。本当に、本当に困っているのは―――
あたしは魔理沙に何て言ってやればいいんだ?言葉が見付からない、分からないんだ……
―――何を伝えたらいいのか、分からないということだった。それこそぶっきらぼうな誰かに似て、あれ以上の言葉が出てこなかった。
「……分かった。無駄な時間を過ごしてしまったし、さっさとここを出るぞ。」
徐倫は魔理沙から目を逸らすように、逃げるように入口へ向かっているが、背中越しから待ったの声がかかる。
「おい、徐倫。忘れ物だ。」
声と同時に徐倫は背後から何か迫るのを感じた。物だ。何かが空を切っているのだ。
咄嗟に振り返り、それを掴む。
「あぁ!?」
驚愕一色。それを手に取った瞬間、アリス邸に訪れて一番の衝撃が徐倫を襲った。
「早く行くんだろ?そいつを使うぞ。」
「えっ、魔理沙、ちょっ!アンタ本気か!?」
竹箒であった。柄になくたじろぐ徐倫に魔理沙は近づき、強引に箒をふんだくる。
「まあ、そもそも徐倫に渡しても使えないか。私が手本を見してやるよ。」
魔理沙は自分のすぐ隣に箒をひょいと放り込んだかと思うと、股をくぐらせるため箒の柄を足の側面で蹴りつける。
すかさず逆の脚で柄の先端を思いっきり踏みつけて箒の筆を起立させ、それを掬うように手を滑らせ、掴み取る。
すると少女はちょっとだけキメ顔で鮮やかに箒に跨ぐ形となった。
「よし!それじゃあ一丁試してみるか!」
そして、いよいよ少女が箒へと乗りかかった。
徐倫が必要以上にハラハラしていたが、それは置いておく。
ふわり、と魔理沙の両脚が床から離れる。
そのままゆっくりと、箒は小柄な身体を持ち上げ少女を宙へと導いた。
「そ、そう使うモノだったのか!?」
「へへっ先に外で待っているからな!さっさと来いよ!」
魔理沙はそのまま徐倫を見下ろし舌を突き出して、扉を蹴り開けて出て行ってしまった。
見下ろされた方はというと、珍しく事態に付いて行けず再び茫然としていた。
誰もいないのに何だかバツが悪くなり、後頭部を軽く掻いた。
魔理沙はどこまで受け止めきれているのだろう?
床に腰を下ろし、少女らしい調度品の数々をぼんやりと眺める。
正直、今すぐ受け入れられるなんて思っちゃあいない。あたしだって同じだから。
エルメェスの死を奥底に仕舞った徐倫は思う。やはり自分自身で解決するしかないのではないか、と。
でも、黙って見ておきたくなかったのよねー。やっぱりさ。だってあたしと同じように苦しんでいるワケじゃん?
少しは分かち合えるんじゃないかってさ、それにアイツ、今よりガキの頃に親から勘当されてるって言うじゃない。
小さいくせに大したタマだと思ってさ、発破をかけたら立ち直れると思ったんだけどなぁ……
自分への言い訳にように頭から浮かんでは消え、やがてたどり着いた。
あーそっか。親いないんだアイツ、だったらそれもそうか。今ある関係が本当に大事に決まってる。そりゃあ認めたくないわよね。
そして彼女の仲間は往々にして『命名決闘法(スペルカードルール)』という『遊び』が元で知り合ったという。
『遊び』とは『殺し』の対極のようなものだ。
理由は余りにも明快で、遊びにはそれこそルールがあり、殺しにはない。
殺せばそれは殺しだから、それこそがルールでそこに辿り着くまでの過程など一切問わない。
強いて言ってルール無用こそが殺しのルールであった。
特にただの人間である魔理沙は命名決闘法の恩恵が最も大きく、それに依存するのも仕方がない話なのだった。
「やれやれだわ。お節介が過ぎたかしらねーこれは。」
うん、と背伸びをし立ち上がる徐倫。そのままの体勢でゆっくりとドアに向かって歩き出す。
あたしの独り善がりだった、か。ちょっとナイーブになってたせいで、勝手にダブらせちゃって、あーもう!しゃらくさい!!
「いいさ。魔理沙、ゆっくり悩みな。大切な仲間のことを割り切ろうと、割り切るまいと
アンタがアンタならあたしは付いて行ってやる。その代わり―――
伸びをしたままの右腕の先端、人差し指から糸が走る。
しなる糸は落ちていたそれを拾い上げ、再びデイパックへと運び込む。
―――大事な友達のことまで、楽しかった日々まで、否定するんじゃあないぞ。」
アリス邸のドアが開いた時、そこの床には何一つ落ちているモノは消え去っていた。
私はどうして、あの人形を撃ってしまったのだろう。
アリス邸の入り口の少し先に、魔理沙は考えていた。
深い意味はない。ただ、単純に嫌だっただけだ。
宙に浮いてぼうっとしている様はマーダーに見つかれば格好の餌食だが、それでも考えた。
アリスの死んだ証に、それを持っていけば死んだのを認めたことと同じ。だから拒否したんだ。
それに私はあの時、感じた。家の中を見た時にどこまでも自分が動揺したのを、恐れたのを。
だれもいない
アリス・マーガトロイド邸を、私は見たくなかったんだ……
魔理沙はアリスの家で起きた全てから逃げ出してきた、と言えるかもしれない。
あの時、徐倫に言った言葉はほとんど出まかせだった。
箒を実際に使って見せたのも、家から出たかったという理由も含まれていた。
情けないな、私は……ひょっとしたら誰かが目の前で死ぬまで、私はこんな風なのかもしれない。
いつになく、覇気の薄い魔理沙、この時の彼女はどこまでも少女で、どこまでも弱々しかった。
でも、私はやっぱり目の前で誰かに死んでほしくなんかないんだ。
あの場から立ち去った人間が思うには余りにも滑稽なのだろうが、それでも魔理沙は思うのだ。
確かに私は誰かが死んだ事実を受け止めきれていない。でも、その迷いが枷で他の誰かが死ぬのは嫌だ。
そのためになら、私は色んなモノを捨ててでも足掻いて守ってやる。
魔理沙はそのことをアリスにそれを教えてもらったのだ。周りから見ればそれはちっぽけな喪失感かもしれないが
少女はそのためになら、誰よりも戦う決意を固めていた。
そんな少女の背後から扉が開く音が聞こえた。
女性と言葉をいくつか確認するように交わすと早速、箒に跨り宙へと漕ぎ出した。
少女の決意は固いが、余りにも脆い。
今どれだけの知り合いが死の崖っぷちに立たされているのだろう。突き落とされてしまっているのだろう。
彼女はどこまでも顔が広く知り合いが多すぎるのだ。それらを守ろうなど、身体が幾つあっても足りはしない。
絶望的な現実をやはり、魔理沙は知らないでいるのだ。
それはやはり知り合いの死を認め切れていない時点で、どうしようもない話であった。
そんな彼女には現実味の無い虚無感に包まれていた方が遥かに幸せであった。
虚無の向こう側に見える景色は一体何なのかを知るのは、きっとそう遠くはない。
せめて、彼女の行く先々だけは、彼女の掌に収まる者たちだけは、救われることを信じる他ない。
剣呑のようでそうでない、呑気なようでそうでもない、取り留めのない時間が過ぎていった。
だが、この時間はきっとどこよりも生暖かく、緩やかな一時と言える数少ない憩いの時でもあった。
【C-4 アリスの家/午前】
【空条徐倫@ジョジョ第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:体力消耗(中)、左頬・後頭部、両腕を打撲(痛みは治まってきている)、全身に裂傷(縫合済み)、脇腹を少し欠損(縫合済み)、竹ボウキ騎乗中
[装備]:ダブルデリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品(水を少量消費)、綿人形@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父とDIOを倒し、主催者も打倒する。
1:魔理沙と同行、信頼が生まれた。彼女を放っておけない。
2:エルメェス、
空条承太郎と合流する。
3:行先は魔理沙に任せる。
4:襲ってくる相手は迎え討つ。それ以外の相手への対応はその時次第。
5:ウェザー、FFと会いたい。だが、敵であった時や記憶を取り戻した後だったら……。
6:
姫海棠はたて、ワムウを警戒。
7:しかし、どうしてスタンドDISCが支給品になっているんだ…?
[備考]
※参戦時期はプッチ神父を追ってケープ・カナベラルに向かう車中で居眠りしている時です。
※残りのランダムアイテムは「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」でしたが、姫海棠はたてに盗まれています。
※「ダブルデリンジャー@現実」を姫海棠はたてから奪い取りました。
※霧雨魔理沙と情報を交換し、彼女の知り合いや幻想郷について知りました。
どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。
【霧雨魔理沙@東方 その他】
[状態]:体力消耗(中)、精神消耗(小)、顎・後頭部を打撲、軽い頭痛、全身に裂傷と軽度の火傷 、竹ボウキ騎乗中
[装備]:スタンドDISC「ハーヴェスト」@ジョジョ第4部、ダイナマイト(6/12)@現実、一夜のクシナダ(120cc/180cc)@東方鈴奈庵 、竹ボウキ@現実
[道具]:基本支給品×2(水を少量消費、一つはワムウのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。会場から脱出し主催者をぶっ倒す。
1:徐倫と同行。信頼が生まれた。『ホウキ』のことは許しているわけではないが、それ以上に思い詰めている。
2:このスタンド、まだまだ色々な使い道が有りそうだ。
3:行先は未定。助けに行けそうなら積極的に動く。霊夢との合流も一旦は保留。
4:出会った参加者には臨機応変に対処する。
5:出来ればミニ八卦炉が欲しい。
6:何故か解らないけど、太田順也に奇妙な懐かしさを感じる。
7:姫海棠はたて、
エンリコ・プッチ、DIO、ワムウを警戒。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※徐倫と情報交換をし、彼女の知り合いやスタンドの概念について知りました。
どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。
※C-4 アリスの家の「竹ボウキ@現実」を回収しました。愛用の箒ほどではありませんがタンデム程度なら可能。
やっぱり魔理沙の箒ではないことに気付いていません。
※二人は参加者と主催者の能力に関して、仮説を立てました。
内容は
•荒木と太田は世界を自在に行き来し、時間を自由に操作できる何らかの力を持っているのではないか
•参加者たちは全く別の世界、時間軸から拉致されているのではないか
•自分の知っている人物が自分の知る人物ではないかもしれない
•自分を知っているはずの人物が自分を知らないかもしれない
•過去に敵対していて後に和解した人物が居たとして、その人物が和解した後じゃないかもしれない
です。
【綿人形@現地調達】
アリスの家にあった唯一の人形。彼女の愛用する通称、上海人形とは違い綿を詰め込まれた人形である。
造形も上海人形とは遥かに劣り、黒の帽子に金色の髪に洋装を着たことが分かる程度。
武器としての用途はアリス本人でなければ難しい代物で、同様の運用は絶望的。
最終更新:2016年09月05日 05:29