「何なのだ……何だと言うのだ此度の聖杯戦争は!」
秋流市郊外の教会、そこに男の叫びが響いた。
聖堂教会より派遣された、今回の聖杯戦争の監督役、ジーノ・マッケンジー。そろそろ小皺が目立ち、髪には白髪が混じり始める年頃の男である。
彼は、それなりに優秀だが、心配性でストレスに弱い性格であった。此度は補佐役として数名のシスターを連れ、この教会に滞在している。
「お気を落ち着けください、マッケンジー様」
補佐役のシスターの一人が、やんわりと彼を宥める。
「しかしッ!しかしだな!マスターは未だに七名確認できず!開催者であるハインルードのマスターまで顔を見せない!街には既に甚大な被害が出ている!行方不明者の数!原因不明の意識不明者の数!あああ、数えるのも恐ろしい!」
「行方不明者は28名。意識不明者は130名ですよ、マッケンジー様。無論、分かっている限りの数ですが」
「ぬああ!教えんでいい!やめろ!やめろ!」
マッケンジーは、頭をガシガシと掻き毟りながらヒステリックに叫ぶ。
「本格的な開戦を前にして、この有様とは!秘匿と言うものを知らんのか!誤魔化しにも限度というものがある!おのれおのれクソマスター共めがァ!」
「マッケンジー様!」
シスターの一人が、切迫した様子で声を上げた。
「ななな何だぁ!これ以上何がぁ!なんのトラブルだ!」
「戦いに、動きがあったようです」
「…なんだと?なんだ、何があった」
「サーヴァントの一角が落ちました」
「何ぃ!?」
早い。早すぎる。まだ最後のサーヴァントである
セイバーが召喚され、全てのサーヴァントが揃ってから半日程しか立っていない筈だ。
「いったい脱落したのは、どのサーヴァントだ!」
シスターが答える。
「脱落者は、セイバーのサーヴァントです」
「なんだと?セイバー?セイバーのクラスが?」
セイバーは三騎士と呼ばれるクラスの中でも、最優と称される存在。それが、こうも早く、脱落―――?
「なんだと言うのだ、この聖杯戦争は……」
一つの犠牲をもって戦いの狼煙は上がった。此れ此処よりは、尋常ならざる戦い。
聖杯戦争、開幕―――。
最終更新:2016年09月22日 03:53