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黄昏の君

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「ふぅ~」
解いていた数学の問題集にシャーペンを転がし、グーと背伸びをする。
量も多いわけではなく、しかも自分の得意分野の数学の宿題なのに思ったように以上にペンが進まない。

「はぁ…」
深い溜め息をつきながら、ノートに書かれた数字の羅列を見る。

原因は分かっている。

気分転換を兼ねての宿題だったが…気分転換どころかますます深みにはまっている気がした。
ちょっと休憩をはさむか、と読みかけのラノベに手を伸ばすと、狙いすましたようにベッドの上にある携帯がなった。

『ひ~だまりですぅ~♪』

って、アイツまた勝手に人の携帯の設定変えやがったな。
見覚えのない某アニソンの着信音を鳴らしている携帯を手にとり画面も見ずに通話ボタンを押す。
どうせこの時間にかけてくる人物は一人しかいない。

「…アニヲタめ」
「ふぉ、第一声がソレですかっ?!」
思った通り、泉こなたの声が受話器ごしから聞こえてきた。
「なんなのよ、この着信音は…」
「なんのことかな~♪」
「こんな事すんのはアンタぐらいしかいないでしょ」
油断も隙もないんだから…と溜め息を交じえながら愚痴をこぼす。
「いやいや、かがみん。アニソンは、もはや神曲と言っても過言ではないのだよ。」
「いや、過言すぎだろ…」
「うぅ、かがみが冷たい」
うぐぅ~、と漫画みたいな泣き声を出すこなた。
って、これもなんかのネタなのか?


「あ、そーいえば…あの答え出た?」


テスト後にあの問題の答えって『p-ヒドロキシアゾベンゼン』だよね、的なノリで聞かれた言葉。
いや、なんとなく思いついた言葉がp-ヒドロキシアゾベンゼンだったんだけどね。
ともかく、深い意味も思想もなさそうな普段のゆる~い口調で発せられた言葉を私が理解するのに数秒の時間がかかった。

「……あの答え、って」
もう私の中では何のことか分かってはいたが、念の為に聞いてみる。

「…ア、アレはアレだよ」
普段私を弄るような声色とは違う、少し慌てたような口調でこなたが答える。
「アレ…?」
「えっと、一昨日の…放課後の…」

一昨日の放課後、厳密に言えば下校中だけど、つかさとみゆきが珍しくて買い物に行くらしく、私とこなたの二人きりで帰路についていたことを思い出す。
いつも通りの帰り道、いつも通りのたわいもない会話の中、いつも通りではない出来事が起こったのだ。


『私ね、かがみのこと…好きかも』



ステーキの焼き加減について話していた途中、こなたから呟かれた言葉。
いや、私的にミディアムが一番美味しい食べ方…って、え?
私の少し後ろで停止しているこなたを振り返ると、こなたのいる方が西なのか、後ろの夕日が眩しくて目を細めてしまう。
その狭まった視界に捕らえたのは夕日のせいなのか仄かに染まるこなたの頬。
髪の毛で表情までは見えないけど、いつもの猫口ではなくキュッと結ばれた口元がやけにはっきりと見えた。
からかわれているのだろうか、それにしてはやけに緊迫した空気だけど…

「…っ」

状況を把握しようと、こなたに声をかけようとするが、口の中が乾燥していて上手く声がでない。

「こ、なた…?」
ようやく出た親友の名前を呼ぶとピクっとこなたの肩が揺れる。
その微動な行動を見て、何故か分からないけど、さっきの言葉はいつもの私へのからかいではない、と思った。
ようやく夕日に慣れてきた目を少しずつ開けてみる。
こなたの真後ろにあった夕日はもうこなたの肩まで位置を下げていて、やっぱりこの時期になると日は短くなるのね、なんて冷静に考えている自分に少し驚いた。
ぐっと覚悟を決めたように顔を上げたこなたが少し潤んだような瞳で私を見つめる。
その瞳が私に何か訴えるような、でも少し困ったように見えて、視線を外すことが出来ない。
「困ったような顔、してるね…」
ふっ、と何かを諦めたような悲しい笑顔をしてこなたが呟いた。
私は今どんな顔をしているのだろう、こなたが言うように困った顔をしているのだろうか。
全神経が麻痺して唾を飲み込もうとしても、上手く喉を動かせない。
そんな中、視覚と聴覚だけが研ぎ澄まされていて、目はこなたの顔を、耳はこなたの声だけを受け入れていた。

待て、待て。
少し考えたい。さっきこなたは何て言った?

『かがみのこと…好きかも』
告白の際に『好きかも』なんて曖昧3cmな表現を使うのはこなたらしいなぁ。
…いや、だからそうじゃなくて。
こなたが私を好き?
そりゃあ、私だってこなたが好きだ。入学時、ただの妹の友達という位置だったこなたがいつの間にか高校生活で欠かすことのできない親友になっているくらいだもの。
でもきっとこなたの言う好きは私と同じ、友情的好意ではないのだろう。
わざわざ、友情的好意を告げるために、二人きりの、しかも夕日までセットでついた絶好調の告白シチュで言うはずがない。
というか、泉こなたという人間の性格ではない。
私をからかうだけのものならば、いつものように細い線みたいな目でニヤニヤ笑いながらもっとクサイ演技をするであろう。
と、いうことは…
やっぱりこれは恋愛的告白なわけで…。

カッーと今まで平熱を保っていた体がメーターの如く熱を帯始めた。
普通は『好きかも』という告白の時点でこうなるべきだと思うけれど、なにゆえ、告白というシチュに一度も会ったことのない私にはコレを告白と認識するまでの時間がかかってしまったのだ。
今まで、冷静だった脳が急にグワングワンと揺れている感じがする。

こなたが私を好き?!
しかも恋愛感情で?!
いつ?!
どこで?!
どのように?!

5W1H的な疑問が頭の中で飛び交っている。

「かがみ」

少し間延びした、でも普段とは何か違う声で私の名前を呼ぶ。
そんなに距離があるわけではない私とこなたとの距離を一歩一歩踏み締めるように歩くこなた。

「かがみ?」
脳内はパニックのまま、こなたの顔を眺めるしか出来ない私に、少し首を傾けてこなたがまた私の名前を呼ぶ。
「な、なによ…」
この状況で『なによ』はないだろうけど、何か言わないとこの空気に耐える術はなかった。

「かがみは私が嫌い?」
「そんなわけっ…」
ない、という言葉が小さくなったのは、こなたが発するだろう次の言葉を予測してしまったからだ。

「じゃあ……好き?」

普段からフラグがどうとかギャルゲがどうとか言ってるけど、アンタもデフォな言い回しじゃない。
いつも通りつっこみを入れることも出来たのにそう出来なかったのは、こなたの瞳があまりにも真剣だったから。
夕日のオレンジがこなたのエメラルドグリーンと交ざりあって憂いを帯びた、綺麗な色で私を見つめる。

さっきも言ったけど、私はこなたが好きだ。
だけど残念ながら恋愛感情の好きではない。
ん?残念?なんで?

チラっとこなたの後ろを見ると、もうすぐ沈むであろう夕日が見えた。
その夕日が何故だか私の答えを急かしているようで、思わず視線をこなたの足元へと移す。
こなたから伸びた影が私を浸食するかのように静かに長さを増していく。
頭がぐちゃぐちゃで何も考えてられない、いや、周囲の状況を理解しているんだから冷静なのか。
とっくに超えてる頭の容量処理を諦め、完全に落ちる夕日より先に発した言葉。


「少し考えさせて」





あれから土日を挟んで2日。
ゲームや漫画の発売日でさえ待ちきれないこなたが私に答えを求めるのには十分の時間がたっていた。
しかし、それは泉こなたの場合であって、私にしては短すぎる時間である。
告白を受けた後、お互い終始無言のまま帰宅していた時から今の今まで、ずっと考えていた答え。
しかし、一向に答えは見えず、気晴しで机にも向かったけど案の定、ペンが進むはずがない。
大体、何故こなたは私に告白したのだろう。
今まで友達だと思っていたこなたからの告白。
告白をしたってことは、今までの友達関係に変化をもたらしたかった…ってことよね。
友達関係に変化、つまり…こ、恋人関係になりたいのよね、こなたは。

「か、かがみ?」
無言になった私を不安に思ったのか、こなたが私を呼んだ。

「こなたは……私と、その、恋人に…なりたいの?」
告白してきた相手に我ながらバカな質問だと思うけど、問い掛ける。

「えっ?う、うん!!」
相当びっくりしたのか、間髪を入れず返された肯定の言葉。
恋人…つまり、こなたと、その…キ、キ、キスとか…するのよね。
この前つかさと見たドラマのキスシーンを思い返してみる。
潤んだ瞳で私を見つめるこなたの肩に手を置いて、キスする自分。
え、なんで私からキスしてんの?!
ってか、なんて妄想してんのよ!!!
自分自身にツッコミを入れていると、

「私ね…」
とこなたが言葉を紡ぎ出した。
「ずっとかがみが好きだったんだよ」
「え?」
「あれ、やっぱり気付いてなかったんだ」
気付くもなにも、ずっと私を好きだった?一体いつから…?
「好きだな、って気付いたのは2年のクラス変えの時かな」
「…クラス変え?」
「うん、結構ショックだったんだよ。」
あんなに黒井先生にレアアイテムあげたのに、と呟く。
いや、ていうか黒井先生だけに賄賂あげても意味ないだろ。

「かがみと一緒にいたいのに…って思ってたら、いつの間にか好きになってたわけだよ」
アハハ~と照れ隠しをするこなたの声がする受話器が何故か恋しくてギュウと強く握り締める。
「だから、かがみの恋人になりたい、っていうか…もっと、かがみの近くにいたくて…さ」
え、な、何これ…。
半端なく嬉しい、てか顔がニヤける。
それと同時にドクンドクンと、全身に心臓が転移したんじゃないかと思うくらい鼓動がうるさい。
この心臓の速さの理由が分からない。いや、もう十分に分かってはいる。
ただ気持ちの整理がつかないのだ。

告白される前から泉こなたという人間は私にとって特別だった。
本気でなんでも言い合えたし、ボケとツッコミの相性はバッチリだった。
私の弱いところも、意地っぱりなところもきちんと分かってくれている。


―じゃあ、私は?
私はこなたの何を知っているのだろう。
アニヲタで、エロゲとかも平気でやる変な奴だけど…

たまに見せる笑顔とか、きちんと場の空気を読む性格とか、よく分からない猫口の構造とか、開いてるんだか閉じてるんだか分からない細い目とか、それから…。
と、私の知っているこなたの特徴をあげていく。

あぁ、そうか、きっと私はこなたが好きなのだ。
そりゃ、恋愛感情よりかは友情感情の方が多いけど…
小さいあの体を丸めて受話器を握っているだろうこなたを、今すぐ抱き締めたいと思ったのも事実だ。

ホント、毒されてるわね…私。
でも決して嫌な感情ではない。むしろ…

「こなた」

考えるより先にこなたの名前を呼んだ。

「あの答えだけど――」


数秒後、こなたが発するリアクションを予想しながら、充電器を携帯へと繋いだ。















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  • 神だーーー
    神が来たぞー -- 名無しさん (2008-08-22 13:20:16)
  • いや…なんだこれは…神過ぎてもはやあなたは唯一神か?GJ -- 名無しさん (2008-08-22 07:11:08)
  • 別コメでかがこな希望していた者です。
    GJ過ぎて泣きそうになりました。
    続編をお考えであれば是非よろしくお願いします。

    あなたはやはり神か -- 名無しさん (2007-11-16 23:57:22)
  • 非常にGJ!
    続編希望します! -- 名無しさん (2007-11-16 23:25:08)

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