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黄昏と私

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「頑張ってね」

私がこの言葉をかけた友人は、はにかんだような、でも少し緊張しているような笑顔を浮かべた。
その笑顔があまりに可愛くて、初々しくて、思わず抱き締めたくなる衝動をなんとか自制し、伸ばした腕をゆっくり肩の位置まで上げて手を振る。

「じゃあ、またね。こなちゃん」



その日、私の好きな人は私のお姉ちゃんに告白した。




―――黄昏と私―――





「ヤフー、つかさ&かがみん」
ぴょんと重力に逆らったあほ毛を立たせながらこなちゃんが私達の方へ向かってくる。
「こなちゃん、おはよー」
「おーっす」

少し息を切らして走ってくるこなちゃんに挨拶をする。
今日は憂鬱だった中間テストもなんとか終了し、勉強の気晴しでもと、こなちゃんとお姉ちゃんと私で遊ぶ約束をしていた。
いつも通り5分前に待ち合わせ場所についた私達が待つ事10分。
って、あれ?今日はいつもより早い気が…

「アンタにしては、早いんじゃない?」

私と同じ事をお姉ちゃんも思ったらしく、私より先にこなちゃんに尋ねる。

「愚問だなぁ、かがみん。好きな人を待たせまいと早起きする女の子に理由などないのだよ」

「待ち合わせ時間は過ぎてるけどな」

ニヤニヤと意地悪くお姉ちゃんにうぐっと言葉につまるこなちゃん。
口じゃお姉ちゃんに勝てないと思ったのか、くるりと私の方を向く。

「つかさー、かがみがいじめる~」

両手を広げ、私に助けを求めるこなちゃん。
よしよしと私より少し背の低いこなちゃんの頭を撫でると、ふぁっとシャンプーのいい匂いが私の鼻孔をくすぐる。
「もう、つかさはこなたに甘いんだから」

「んべー、凶暴かがみ」

「誰が凶暴だっ!」

私を板挟みにして喧嘩する二人。
喧嘩するほと仲がいいっていうけど、この二人はホントにその格言通りだなぁと苦笑する。


『私、かがみに告白しようと思うんだ』


突然、数日前のこなちゃんの言葉が脳裏を掠めた。
数日前、そう、こなちゃんがお姉ちゃんに告白する前日の昼休みのことだ。
お姉ちゃんとゆきちゃんが委員会の集まりに行っていて、二人でお弁当を食べている時に、こなちゃんが頬を少し赤くして呟いた。

「……え?」

急に振られた告白宣言に頭が機能停止する。

「前に、つかさに私はかがみをどの…好き、なんだろうって聞いたじゃん?」

手に持つチョココロネから視線を離して、普段通り半分しか開いていない瞳が私を見つめる。

私は…ずっとかがみと一緒にいたい」

何も言わない、いや正確には言えない私に先程のような疑問系ではなく、しっかりとした口調で私に告げる。
こなちゃんの言葉を上手く処理出来ない。えっと、つまり…

「だから、私は……かがみの事恋愛感情で好き、なんだと思う」

私が言語理解処理をする前にこなちゃんが言葉を発した。脳停止状態が続いていて、じっとこなちゃんの顔を見ているだけの私の視線から逃げるように、頬を赤らめながらこなちゃんは何もない机の上に視線を移した。
その行動を見てドクンと自分自身が心臓になったように脈を打つのを感じる。
その感覚がなんなのか分からなくて、行き場のない感情を紛らそうと箸をぎゅっと握り直す。

「……そ、っか」

精一杯言葉を紡ごうとしたけど、上手く口が動かない。
恥かしさを隠してかこなちゃんがチョココロネに視線を固定しながら、先程のこなちゃんの言葉を頭の中で反芻させる。

『私は……かがみの事恋愛感情で好き、なんだと思う』

こなちゃんがお姉ちゃんのことを好きなのはずっと前から気付いていた。
無意識だろうけどいっつもお姉ちゃんの事を見ていたし、なによりお姉ちゃんと一緒にいるこなちゃんは凄い楽しそうだったから。
私はそんなこなちゃんを好きだったし、そんなお姉ちゃんを少し羨ましくも思っていた。

『私は…かがみをどの、好きなんだろう』

こなちゃんは自分の事に無頓着だと思う。悪い意味じゃなくて、なんて言うか…自分より他人を大事にするって言うのかな?
とにかく、自分が誰かを好きだとか自分に向けられる好意にだとかに鈍感なんだと思う。
だから、こなちゃんがお姉ちゃんを意識したこの言葉を言い出した時には心底びっくりした。

「こなちゃんは、お姉ちゃんといつも一緒にいたいって思わない?」

私はこなちゃんと一緒にいたい。それを言うチャンスはだったかもしれない場面だったのに、言えなかった。
こなちゃんはお姉ちゃんが好きで、私はただの友達でしかないのだ。

「多分、それが答えなんじゃないかな?って私も人のこと言えないんだけどね」

だから、ほんの僅かでもいいから…
こなちゃんに気付いて貰いたくてこの言葉を告げた。

「え?」

予想通りのこなちゃんの反応に少しの幸福感を感じたけれど、それ以上に何故か分からないけど涙が出そうになって慌ててその場を離れた。



「……さ、つかさってば」

「ふぇっ?!」

過去に振り返っていた私を現実に引き戻したのはこなちゃんの声だった。

「えっ、あれ、こなちゃん?」
こなちゃんがずいっと顔を近付けて私を見上げる。
綺麗なエメラルドグリーンな瞳が、寒さで蒸気して赤く染まっている頬が、柔らかそうな唇が、目の前にある。

欲しい…。

ドロッとした感情が頭から心臓へ血液を運ぶようにゆっくり流れていくのが分かった。
その感覚に耐えられなくなった私はバッとこなちゃんから顔を背ける。

「つかさ?」

心配そうなお姉ちゃんの声が聞こえたけど、もう一度こなちゃんを見たら自分の欲望のまま全てを口に出しそうな気がする。

「ご、ごめん…」

ドキドキとした鼓動の早さを抑えつつ、こなちゃんに謝罪の言葉をかける。

「う、うん。つかさ、大丈夫?」

「え?」

「いや、なんか最近上の空な事多いし…悩み事?」

恐る恐るこなちゃんの顔を見ると眉毛をハの形にして心配そうな顔をしていた。

「だいじょ…っ!」

こなちゃんとお姉ちゃんに笑顔で大丈夫と答えようとした時、フッと見えたのは二人の手。
ぎこちなく結ばれているこなちゃんの右手とお姉ちゃんの左手。

『つかさっ!かがみと付き合う事になったよ』

数日前、嬉しそうに私に交際宣言をするこなちゃんに「そっか」としか言えなかった私。
こなちゃんとお姉ちゃんが付き合ってからも私はどうしようもなくこなちゃんが好きで…
自分の理性を抑えるにも限界を感じていた。

―いっそ、言ってしまおうか?

だめだ、私が思いを打ち明けたって何も変わらない。
こなちゃんはお姉ちゃんが好きなのだから。

―じゃあ、このまま何も言わずに友達で満足するの?

それは…

―満足してるの?

……っ。

さっきのこなちゃんを見た時のドロドロが胸の中で再発していくのを感じた瞬間、私は二人に背を向けて走り出していた。

「ちょ、つかさっ?!」

「つかさっ!!!」

後ろからこなちゃんとお姉ちゃんが私の名前を呼ぶのが聞こえたけど、ガヤガヤとした人込みをかき分けるように私はそのまま走った。



はぁはぁと喉の渇きと心臓の早さが痛くて足の回転数を落とす。
どれだけ走ったんだろうか、たった数分だった気もするけど、何時間も走っていた気もする。

「何やってんだろ、私」

不規則に乱れる息を整えようと溜め息混じりに小さく呟く。
お姉ちゃんもこなちゃんも心配してるだろうなぁ…
ふっと顔を上げると、辺りは少し薄暗くてなっており、橙色をした夕日が西に落ちようとしていた。

「つかさっ!!!」

トボトボと歩いていた私の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。

「こな…ちゃん?」
後ろを振り返ると、はぁはぁと肩で呼吸をしているこなちゃんがいた。
なんでここに?

「つかさを、探しに来た、に決まってるじゃんっ!」

少し怒ったような声で所々に呼吸を挟んでこなちゃんが答える。
周囲を見回すとお姉ちゃんはいないみたいだった。おそらく手分けして私を探していたのだろう…

「でも……見つかってよかった」
先程の怒ったような顔から普段の優しい顔で私に声をかける。
だめだよ、こなちゃん。
これ以上こなちゃんを見てたら私は絶対こなちゃんに自分の思いを打ち明けてしまう。
それがこなちゃんを苦しませることになると分かっていても。

「つかさは…」

息を整え終えたのか、こなちゃんを直視出来ずに下を向いていた私に優しく話し出す。

「好きな人いるの?」

「…っ」

バッと顔をあげると首を少し右にかしげるこなちゃんがいた。

「なっ…んで?」

心臓の音がうるさい。
こなちゃんを見ると高まるドキドキとは違う、ドロドロとした感情が私の中を占めていく。

「いや…前に、『私も人のこと言えない』って言ってた…から」

「覚えててくれたんだ…」

「え?」

覚えててくれた嬉しさが私を暴走させる。次に私が言おうしている言葉を分かっているのに、止められない。


「私ね……こなちゃんが好きなんだ」


ざぁ、とタイミングを見計らったように風が吹いて私の髪とこなちゃんの髪を靡かせる。
こなちゃんの長い髪が夕日の橙色に映えてキラキラ光っていた。
綺麗だな、とこなちゃんの顔に視線を戻すと、さっきより夕日が落ちたのか辺りが暗くなっていてよく表情が見えない。

「わ、私は…」
きゅっと口を結んだと思うと、周囲の音にかき消されそうな小さな声でこなちゃんが話し出す。

「かがみが、好きだから…」
「知ってるよ」

…っ、と息を飲んで私の顔を見上げるこなちゃん。
自分でも意地悪だと思うくらいの笑顔を浮かべるとパタパタと近付く足音が聞こえた。
「こんなとこで、何してんのよ」

こなちゃんが来た方向と同じ道からツインテールを揺らしながらお姉ちゃんがかけてきた。

「かがみ…」

振り返って少し安堵したようにお姉ちゃんの名前を呼ぶこなちゃん。


その声に、私の中で何かがプツッときれた。



グイッとこなちゃんの右腕を私の方へ引っ張り、驚いているこなちゃんの唇に自分の唇を押し付ける。

「んんっ?!」

くぐもったこなちゃんの声がする。
そんなことをお構いなしに、こなちゃんが離れられないように背中に腕を回すと、開けていた目に茫然と立ちつくすお姉ちゃんが映った。
びっくりしてるよね、でも…ごめんね。
柔らかい唇を堪能する暇もなくドンドンと肩を叩くこなちゃんを見て、ゆっくりと強めていた腕を離すと、こなちゃんは重心を失って崩れるようにその場にへたれ込んだ。

「っ…こなた!!!」

その行動我に返ったようにお姉ちゃんがこなちゃんの元へかけ寄って私を見上げた。

なんで?

そう言ってるかのような驚愕と非難するお姉ちゃんの瞳。

「こういうことだよ」

自嘲気味に笑うと、こなちゃんとお姉ちゃんの後ろで夕日が沈むのが見えた。
その姿がまるで私みたいで。沈んでいく自分は果たしてどこにいけばいいのだろう。


もうすぐ黄昏が終わる、そんな中、私達は立ち尽くしていた。






分岐ルート
かがみhappyEND→月夜の君
つかさ鬱END→月夜と私






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  • 神よ、凄い展開にしましたね。
    今後の展開にワクテカしてます。
    あんま無理しないでゆっくり書いてくださいね〜 -- 名無しさん (2007-11-29 23:06:04)

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