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かがみの決意

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...ここは何処だろう

タクシーの料金メーターを睨み続ける事、2時間と15分。財布の中に数泊できるだけの余裕を残して、私は適当な場所で歩道に降り立った。

深呼吸も兼ね、軽くため息をついて見回すと...辺りにはコンビニどころか民家さえも見当たらず、道路を点々と灯す薄暗い街灯が少し先に伺えるだけの、無表情な景色が目に映る。

もう少し金銭的余裕があれば、多分此処よりはマシな所で降りられたのに...はぁ、前もって貯金しとくんだったなぁ.....。

お金の事を考えていると、自然と本当のため息がでた。
白く色付いた私の吐息は、少しの間視界を支配すると、さっと薄れて消えてゆく。
それはまるで今の私.....そんなクサイ事を考えるつもりはないが、消えてしまうそれは、私をより感傷的にさせていた。
今までの暮らしを全て捨て、逃げるようにしてタクシーに乗り込んだ私には、冬のため息のような結末しか待っていないのだろうか...。


ふと、後ろで小さな靴音が鳴った。

それを待っていたかのように、タクシーのドアが閉まる音。
これも無表情なエンジン音を響かせて、私の傍から消えていった。

「うわ...何にも無い」

小さな靴音の主が呟く。
唯一表情のあるその声からは、呆然とするような、しかし他人事であるかのようにも聞こえた。

「仕方ないでしょー?アンタが殆んど無一文で来ちゃったんだから...」

呆れたような声を作って振り返る。
すると、視界には青いアホ毛。さらに少し見下げると、その青い髪を羽織り物のように纏ったこなたが私を見上げている。

「にしてもさー、民宿どころかコンビニすらないじゃん。あぁー....これは早くも野垂れ死にかな~」

普段の、のほほんとした表情で道路の先を見渡す。
それを見て、何故か不安に駈られていた私の心はホッと息をついていた。
この子は、本当は付いてきたくはなかったのではないか。そんな事を私はいつしか気にしていたのかも知れない。
冗談を言うこなたを前に、私の心配事は、それこそため息のように薄れて消えていた。

「勝手に殺すな。
...取り敢えず、歩いてみない?どこか座って休めそうな所でも探しながらさ」

「...今夜はそこで寝るの?」

「まぁ...そうなるわね」

こなたの顔がぶす~っと歪む。私はやはり申し訳なくなり、少しだけ頬を掻いた。

「はぁ~...冬の寒空の下、かがみんと二人で寂しく野宿かぁ~...」

わざとらしくため息をつくと、渋々歩道を歩き始めるこなた。

「わ、悪かったわね...私で...」

すぐに隣に並ぶと、小柄なこなたに合わせ、少し加減して歩く私。
この無表情で、それが物悲しくも感じるこの景色に、そんな私達は酷く不釣り合いに見えただろう。


雪が降った。
ただでさえ厚着をしてこなかった私達に追い討ちをかけるように、その氷屑はしんしんと降り注がれる。

少し辛そうに、それでもおどけてみせるこなたを横に、私はそっと差し出した手で雪粒を受け止め、転がしてみる。

そのふわふわとした、柔らかく温かい雪粒の表情に、私は妹を重ねていた。

つかさ....心配してるかなぁ...」

ふと呟いた私に、隣のこなたは口元をにんまり。

「おやおやかがみん、女々しくもホームシックとやらですかな?」

「なっ...ち、違うわよ!
その...つかさには悪い事したかなって...」

やっぱり恥ずかしくなってしまった私は、こなたの視線から逃れるように俯いた。

その様子をじっと見ていたこなたには、私が落ち込んでいる、後悔しているように映ったのかもしれない
少しだけ静まった声を、その口からそっと呟いた。

「かがみ...、今から戻ってもいいんだよ...?
ちょっぴし怒られるかもしんないけど...つかさが心配なら--」

「...いいのよ」

顔を上げた私が、ため息混じりにそう言い放った。
私はとうに吹っ切っていたのだ。こなたにこの話を持ち出す、その前の日には決心していた。もうこの道しか無いのだと、それしか信じはしなかった。

それでも心配そうに見つめてくるこなた。私がそっと手を差し出すと、すがるように両手で握り締めた。


いつしか、人気のない公園に辿り着いた。
夜中なので人が居ないのは当然だが、そうでなくてもこの辺りに人が来るような気はしなかった。

中央の廃れた花壇、それに沿って一つのベンチがあった。

「や~っと休めるー...、もう足が棒みたいだよ~」

真っ先に腰掛けたこたな。存分に背をもたれさせ、両足をぷらぷらと揺らしている。

「お疲れ~、ほれ...これ飲んであったまんな」

公園の門付近に備えられた自動販売機で買った、「あったか~い」缶コーヒー。一つをこなたにトスし、私も隣に腰掛けた。

「おぉかがみん...気が利くね~、これに免じて今日は野宿も許すとしようか」

「はいはい、そりゃどーも」

相変わらずおどけるこなたを軽く流し、プルタブを開けて口に運ぶ。
長く歩いたせいか、どこにでもある缶コーヒーの味が私の身体をひどく癒した。一息に飲んでもしまっても良かったが、身体を縮め、ちびちびと口にふくむのが好きだった。

こなたはと言うと、未だプルタブも開けないまま、手の内で転がして暖をとっていた。小さな手の為か、それがおぼつかなく見えて可愛らしい。

私はしばらく、こなたを見ていた。ちっちゃくて子供みたいで、それでも私をからかい、いっつも手玉に取るこなたを。


....あの時も、からかってるんだ。そう思った。

誰も居なくなった、夕焼けに染まるこなたの教室。呼び出された私は、紅い陽射しを背中に浴びるこなたを前に、暫く呆然と立っていた。
そりゃそうだ、同じ女の子にあんな事を言われれば誰だって---

「...かがみん、そろそろ眠くなってきたね...」

ふとこなたの声。見れば缶を手に納めたまま、下がってきたまぶたを押し上げるように擦っている。

「あぁ...ちょっと待って、いま毛布出すから」

足元のリュックサックに手を伸ばすと、中から一枚の毛布を取り出す。これだけでリュックサックの中は空だ。

「むぅ...かがみんめ、最初から野宿するつもりだったとは...」

「ちち、違うわよ!念のためにって...持ってきただけよ」

ブツブツと不平を呟くこなたの肩に毛布を掛けてやる。私も風邪をひくまいと、こなたに寄り添い同じ毛布を羽織った。

「........」

するとこなたは少し俯いて、急に黙ってしまう。

ん?...コイツ、もうねちゃったとか...?
寝顔を覗き込もうとも思ったが、肩に掛かった毛布がずれてしまう。そう考えて止めた。

暇になって、ふと顔を空に向ける。未だ静かに雪は降って、鼻先に少し積もった。
それを払う事もなく、私は考え事をした。

これからどうやって食べていくか、どこで寝泊まりするか、どこで働くか...
明日にでもバイト先を見つけ、少しでも稼がなければ...
そうすれば、何時かは二人で部屋を借りて、野宿なんてしなくてもすむようになる...

そんな事を考えた。都合良く事が進むとは思わないが、それでも努力してみよう。だって、やっと夢が叶ったんだから...

いつの間にか、私の左手が暖かい。
こなたが小さな手のひらを重ねていた。
そして呟いた。
あの時と少しだけ違う、同じ言葉...

「かがみ.....好きだよ..」

そうして目を閉じ、私に寄りかかって眠るのだ。


「...私もよ、こなた...」

だからこうして野宿をしている。
私達が許される場所を求めて...今は、その過程だ。

頭に雪を積もらせた私達は、お互いに寄り添い合って夢を見た。

おわり



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  • もしかしたらサバイバることになったりね -- 名無しさん (2023-02-04 01:15:42)
  • どうなんだろ?俺的に文章読んでなんとなく考えてみたら、親に認めてもらえなくて、でも一緒にいたいからこなたと話をして自分達のもってるお金で逃避行したみたいな感じじゃね?(推測) 作者じゃないからわからんけどもww -- 名無しさん (2009-03-14 15:52:51)
  • えっとここにいたる状況描写がもう少しあれば -- 名無しさん (2009-02-11 20:09:31)

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