- 20.前に進もう!
「あ、おかえりっ。かがみ」
「たっ、ただい……ま」
行き場をなくし、家に戻ってくるとまず呆気にとられた。
こなたが、笑顔で迎えてくれたからだ。
しかも部屋じゃなくて、台所。
そこで鼻歌混じりで料理を作っている。
機嫌は何ていうか、最高潮。
心の陽気が伝わってくるかのよう。
「いとこの子ね、無事だって」
動揺する私に振り返り、笑顔を光らせる。
今朝の落ち込んでいた様子が、嘘のよう。
「まだ意識は戻らないけどね……もう危険な状態は越えたんだって」
胸から伝わるのは、暖かな優しさ。
きっとその子は、大切な人なんだ……こなたにとって。
……ズキン
心臓が、痛む。
「ゆーちゃんは強い子だもん、きっとすぐに目を覚ましてくれるよっ」
愛情が溢れるのが伝わり、こなたの顔に笑顔が咲く。
こんなに長く笑ってるのを見るのは、初めてかもしれない。
「明日じゃなくても明後日じゃなくても……いつか、目が覚める日があるんだよね」
料理を作る手が少し止まる。
その目は少し、涙で滲んでた。
……ズキンズキン
「良かったよ……生きてて、本当に」
その涙に気がついたのか、慌ててそれを拭う。
そしてこちらを向き、誤魔化すように苦笑い。
「お父さんももうすぐ病院から返ってくるってさ」
その言葉とともに漏らした笑顔が……歪んだ。
『最後に、もう一つ』
……ズキン
心臓がまた痛む。
天使の言葉が蘇っていき、痛みが全身に広がる。
「ねぇ」
「うん?」
こなたと、視線が交わった。
『目撃した少女の名前は』
ジワジワと、足元から黒い何かが上ってくる。
それが私の体を麻痺させ、思考を奪っていく。
「いとこの子の名前……なんて、言うの?」
「え? ああ、えっとね」
こなたの動作が、いやにゆっくりに見えた。
心臓の音が、耳を劈いていく。
「小早川ゆたか」 『小早川ゆたか』
二人の声が、重なった。
まるで調子を合わせたかのように、二つがハミングする。
『……事故にあった、貴方の宿主のいとこです』
そこに天使の言葉が混ざり、耳障りな音を奏でる。
その不協和音と共に、世界が反転していく。
天使は言った。
ゆたかちゃんを迎えに行った日……言った。
『貴方は事故にあいました』
事故。
そう……事故。
私もそう、交通事故にあった。
……誰かに、突き飛ばされて。
だからそれは事故じゃない、『事件』だ。
そしてそれを見ていたのは……ゆたかちゃん。
その彼女も、事故に?
そんな……そんな偶然ってある!?
それともゆたかちゃんも、誰かに?
誰に?
つかさ……に?
『二人の女性が歩いていた』
私と……つかさ。
そして。
そして……。
『そして横断歩道の直前で』
言葉が反響する。
嘘。
嘘……うそうそうそうそ。
『片方がもう片方を突き飛ばした』
嘘っ!!!
「かがみ?」
「あっ……」
こなたが私を不思議そうに見上げている。
私の頬から落ちたのは、涙。
何で泣いたのかは、分からない。
怖かったから?
哀しかったから?
ううん、きっと信じられなかったから。
妹を……つかさを。
「ち、違うのっ」
慌ててそれを拭う。
でも、一度落ちた涙は止まってくれない。
拭うたびに溢れる涙は、みっともなくて恥ずかしい。
「かがみ……」
「違う……違う、から」
自分で言ってて、訳が分からない。
何が、違うの?
私は……つかさに?
ゆたかちゃんも、つかさに?
いいや、きっと偶然なんだ。
ゆたかちゃんの証言が間違ってて。
そのゆたかちゃんがたまたま事故にあっただけで。
……そう。
きっと……そう。
……。
否定してるはずなのに、次々と突きつけられる事実は一つの事象しか認めてくれない。
「つかさのはずない、つかさのわけ……ないよ」
零れた涙と一緒に嗚咽が漏れる。
私はただ、泣き崩れるしか出来ない。
「ど、どうしたのさっ。かがみっ」
こなたが手を伸ばすが、それも空を切る。
天使が居なければ、何も出来ない私。
私をこんな体にしたのは誰?
つかさじゃない。つかさのわけない。つかさのはずがない!!
じゃあゆたかちゃんが見たのは何?
どうしてゆたかちゃんまで?
どうして……どうして!?
「無駄、よ」
「えっ」
泣きながら嗚咽と共に、言葉を漏らす。
「待っても……無駄」
そのまま馬鹿にするように。
嘲るように言葉を紡ぐ。
「私ね……妹に、殺されたんだって」
言葉にして、涙がまた溢れた。
だって、それしかない。
つかさが、私を殺したんだ。
理由なんて分からない……でも、殺した。
そして……。
「ゆたかちゃんも、その子に……殺された」
「!」
こなたの顔が強張り、緊張が伝わる。
動揺、逡巡、驚き……色んな感情がこなたの中で混ざっていく。
「だから目が覚めてもきっと一緒、また殺される……私も、ゆたかちゃんも!」
そうだ。
生かしておくわけがない。
きっとまた殺される。
そしたらまた、こんな体に?
こんな……何も出来ない体に?
「だから無駄! どんなに待ったって、目を覚ましたって……また死ぬんだ!」
泣き喚きながら、こなたに向かって叫ぶ。
こなたを傷つけるのが分かっているのに。
私が傷つくのが分かっているのに。
「……」
こなたは、黙って聞いていた。
いつものように、怒る事もなく。
不機嫌なわけじゃなく。
ただ……聞いてくれた。
「大丈夫だよ」
「!」
そしてこなたの声が聞こえ、私が顔を上げる。
彼女は……不思議な顔をしていた。
私を見るのは、軽蔑とか怒りじゃない。
あの天使にも似た……慈愛の眼。
「妹さんの事、信じてるんでしょ?」
「えっ……」
ここで私は不思議な感覚に囚われた。
まるで、私の心が見透かされてるような……錯覚。
だってそんな事……こなたには一言も言ってないっ!
私の感情は、私だけのもののはず!
私だけ。
そう、私……だけ?
「伝わってきたよ、かがみの気持ち……だって、かがみが言ったんだよ?」
その笑みが、私を包む。
それと一緒だった。
胸の奥から溢れてくる……不思議な感情に気がついたのは。
「キョウユウしてる、でしょ?」
こなたが両手で自分の体を抱くように手を体に這わせる。
その感覚まで、肌を通して伝わってきた。
……ああ、あったかい。
「触れなくてもこうすれば……伝わる」
その両手の温かさが、私の体に広がっていく。
今私は、彼女に……こなたに抱きしめられているのと、同じだ。
だって……共有してるんだ。
そうだ、今まで感じてきたじゃないか……彼女の気持ちを。
彼女の感覚を……彼女の全てを。
共有というのは、共に分け合う事。
私が彼女の感覚を感じていたなら……彼女も同じだ。
私の心の中までも、彼女には伝わっていた。
「私も、かがみと同じだった」
こなたが呟く。
その表情には少し、悲哀。
「ずっと……泣いてた。心で、体で……それで、全部が信じられなくなった」
彼女の母親は死んだ。
もう、会えない。
だから、父親も同じ。
友人も同じ。
人間は……同じ。
いつかは死ぬ。
いつかは居なくなる……そんな存在。
そんなものを、どう信じればいいんだろう。
彼女はその堂々巡りの謎かけの答えに……自分を隔離した。
それが彼女の……答え。
「だけど……かがみは違うって今、分かった」
でもそれは、答えじゃない。
答えじゃなくて……逃げ。
現実を見ないという、逃避。
「それでもかがみは……信じたんだね。そんな体になっても誰かを信じて、自分を捨てたりしなかった。逃げたりしなかった」
こなたの手に力が入る。
私に言いながら、その自分の体にも響かせている。
それはきっと、彼女にもあったから。
誰かを信じたいという……気持ちが。
逃げずに答えを出したいという、願いが。
「口でどんなに言ったって、伝わってくるよ。かがみは妹さんの事、心では疑いきれてない」
「……っ」
その言葉に、つかさの事が頭の中であふれ出す。
そう……だ。
つかさは……そんな子じゃない。
誰かを、私を殺すような子なんかじゃ決してない。
だって私たちは……双子。
神様が悪戯に分けた、生命の芽。
「かがみが信じるなら、私も信じる。その子がゆーちゃんを……かがみを、殺すわけない」
彼女の言葉が、その両腕が、優しさが……私を包む。
その暖かさが嬉しくて。
胸から溢れてくる感情が、恥ずかしくて。
私は……何も、言い返せなかった。
お礼も、謝罪も……。
ただ私は……泣いたんだ。
彼女の、腕の中で。
「ただいまー」
その涙が地面に零れ落ちるのと、同時だった。
玄関から音が聞こえた、温かみに溢れた男性の声が響いたのは。
「……私、も」
その父親の声が、彼女を縛る。
体が震え、心が凍りついていくのが伝わる。
いつかは居なくなる存在。
それが何時かも分からなくて。
不安定で。
曖昧で。
信じられ、なくて……。
「私も、信じてみるから」
「えっ……」
こなたが笑う。
必死に体の震えと戦いながら。
その眼に涙を堪えながら。
「だから、見ててね……かがみ」
そのまま彼女は、深呼吸をした。
その動作の意味が分かり、私は自分の体を抱きしめた。
こなたの体にしっかり、伝わるように強く。
ただ……強く。
「おかえりっ、お父さん」
その声と共に彼女は、置いた。
一人分だけ用意されていた食卓にもう一膳、お箸を。
……大丈夫だよ、こなた。
私、見てるから。
だから一緒に……。
「たっ、ただい……ま」
行き場をなくし、家に戻ってくるとまず呆気にとられた。
こなたが、笑顔で迎えてくれたからだ。
しかも部屋じゃなくて、台所。
そこで鼻歌混じりで料理を作っている。
機嫌は何ていうか、最高潮。
心の陽気が伝わってくるかのよう。
「いとこの子ね、無事だって」
動揺する私に振り返り、笑顔を光らせる。
今朝の落ち込んでいた様子が、嘘のよう。
「まだ意識は戻らないけどね……もう危険な状態は越えたんだって」
胸から伝わるのは、暖かな優しさ。
きっとその子は、大切な人なんだ……こなたにとって。
……ズキン
心臓が、痛む。
「ゆーちゃんは強い子だもん、きっとすぐに目を覚ましてくれるよっ」
愛情が溢れるのが伝わり、こなたの顔に笑顔が咲く。
こんなに長く笑ってるのを見るのは、初めてかもしれない。
「明日じゃなくても明後日じゃなくても……いつか、目が覚める日があるんだよね」
料理を作る手が少し止まる。
その目は少し、涙で滲んでた。
……ズキンズキン
「良かったよ……生きてて、本当に」
その涙に気がついたのか、慌ててそれを拭う。
そしてこちらを向き、誤魔化すように苦笑い。
「お父さんももうすぐ病院から返ってくるってさ」
その言葉とともに漏らした笑顔が……歪んだ。
『最後に、もう一つ』
……ズキン
心臓がまた痛む。
天使の言葉が蘇っていき、痛みが全身に広がる。
「ねぇ」
「うん?」
こなたと、視線が交わった。
『目撃した少女の名前は』
ジワジワと、足元から黒い何かが上ってくる。
それが私の体を麻痺させ、思考を奪っていく。
「いとこの子の名前……なんて、言うの?」
「え? ああ、えっとね」
こなたの動作が、いやにゆっくりに見えた。
心臓の音が、耳を劈いていく。
「小早川ゆたか」 『小早川ゆたか』
二人の声が、重なった。
まるで調子を合わせたかのように、二つがハミングする。
『……事故にあった、貴方の宿主のいとこです』
そこに天使の言葉が混ざり、耳障りな音を奏でる。
その不協和音と共に、世界が反転していく。
天使は言った。
ゆたかちゃんを迎えに行った日……言った。
『貴方は事故にあいました』
事故。
そう……事故。
私もそう、交通事故にあった。
……誰かに、突き飛ばされて。
だからそれは事故じゃない、『事件』だ。
そしてそれを見ていたのは……ゆたかちゃん。
その彼女も、事故に?
そんな……そんな偶然ってある!?
それともゆたかちゃんも、誰かに?
誰に?
つかさ……に?
『二人の女性が歩いていた』
私と……つかさ。
そして。
そして……。
『そして横断歩道の直前で』
言葉が反響する。
嘘。
嘘……うそうそうそうそ。
『片方がもう片方を突き飛ばした』
嘘っ!!!
「かがみ?」
「あっ……」
こなたが私を不思議そうに見上げている。
私の頬から落ちたのは、涙。
何で泣いたのかは、分からない。
怖かったから?
哀しかったから?
ううん、きっと信じられなかったから。
妹を……つかさを。
「ち、違うのっ」
慌ててそれを拭う。
でも、一度落ちた涙は止まってくれない。
拭うたびに溢れる涙は、みっともなくて恥ずかしい。
「かがみ……」
「違う……違う、から」
自分で言ってて、訳が分からない。
何が、違うの?
私は……つかさに?
ゆたかちゃんも、つかさに?
いいや、きっと偶然なんだ。
ゆたかちゃんの証言が間違ってて。
そのゆたかちゃんがたまたま事故にあっただけで。
……そう。
きっと……そう。
……。
否定してるはずなのに、次々と突きつけられる事実は一つの事象しか認めてくれない。
「つかさのはずない、つかさのわけ……ないよ」
零れた涙と一緒に嗚咽が漏れる。
私はただ、泣き崩れるしか出来ない。
「ど、どうしたのさっ。かがみっ」
こなたが手を伸ばすが、それも空を切る。
天使が居なければ、何も出来ない私。
私をこんな体にしたのは誰?
つかさじゃない。つかさのわけない。つかさのはずがない!!
じゃあゆたかちゃんが見たのは何?
どうしてゆたかちゃんまで?
どうして……どうして!?
「無駄、よ」
「えっ」
泣きながら嗚咽と共に、言葉を漏らす。
「待っても……無駄」
そのまま馬鹿にするように。
嘲るように言葉を紡ぐ。
「私ね……妹に、殺されたんだって」
言葉にして、涙がまた溢れた。
だって、それしかない。
つかさが、私を殺したんだ。
理由なんて分からない……でも、殺した。
そして……。
「ゆたかちゃんも、その子に……殺された」
「!」
こなたの顔が強張り、緊張が伝わる。
動揺、逡巡、驚き……色んな感情がこなたの中で混ざっていく。
「だから目が覚めてもきっと一緒、また殺される……私も、ゆたかちゃんも!」
そうだ。
生かしておくわけがない。
きっとまた殺される。
そしたらまた、こんな体に?
こんな……何も出来ない体に?
「だから無駄! どんなに待ったって、目を覚ましたって……また死ぬんだ!」
泣き喚きながら、こなたに向かって叫ぶ。
こなたを傷つけるのが分かっているのに。
私が傷つくのが分かっているのに。
「……」
こなたは、黙って聞いていた。
いつものように、怒る事もなく。
不機嫌なわけじゃなく。
ただ……聞いてくれた。
「大丈夫だよ」
「!」
そしてこなたの声が聞こえ、私が顔を上げる。
彼女は……不思議な顔をしていた。
私を見るのは、軽蔑とか怒りじゃない。
あの天使にも似た……慈愛の眼。
「妹さんの事、信じてるんでしょ?」
「えっ……」
ここで私は不思議な感覚に囚われた。
まるで、私の心が見透かされてるような……錯覚。
だってそんな事……こなたには一言も言ってないっ!
私の感情は、私だけのもののはず!
私だけ。
そう、私……だけ?
「伝わってきたよ、かがみの気持ち……だって、かがみが言ったんだよ?」
その笑みが、私を包む。
それと一緒だった。
胸の奥から溢れてくる……不思議な感情に気がついたのは。
「キョウユウしてる、でしょ?」
こなたが両手で自分の体を抱くように手を体に這わせる。
その感覚まで、肌を通して伝わってきた。
……ああ、あったかい。
「触れなくてもこうすれば……伝わる」
その両手の温かさが、私の体に広がっていく。
今私は、彼女に……こなたに抱きしめられているのと、同じだ。
だって……共有してるんだ。
そうだ、今まで感じてきたじゃないか……彼女の気持ちを。
彼女の感覚を……彼女の全てを。
共有というのは、共に分け合う事。
私が彼女の感覚を感じていたなら……彼女も同じだ。
私の心の中までも、彼女には伝わっていた。
「私も、かがみと同じだった」
こなたが呟く。
その表情には少し、悲哀。
「ずっと……泣いてた。心で、体で……それで、全部が信じられなくなった」
彼女の母親は死んだ。
もう、会えない。
だから、父親も同じ。
友人も同じ。
人間は……同じ。
いつかは死ぬ。
いつかは居なくなる……そんな存在。
そんなものを、どう信じればいいんだろう。
彼女はその堂々巡りの謎かけの答えに……自分を隔離した。
それが彼女の……答え。
「だけど……かがみは違うって今、分かった」
でもそれは、答えじゃない。
答えじゃなくて……逃げ。
現実を見ないという、逃避。
「それでもかがみは……信じたんだね。そんな体になっても誰かを信じて、自分を捨てたりしなかった。逃げたりしなかった」
こなたの手に力が入る。
私に言いながら、その自分の体にも響かせている。
それはきっと、彼女にもあったから。
誰かを信じたいという……気持ちが。
逃げずに答えを出したいという、願いが。
「口でどんなに言ったって、伝わってくるよ。かがみは妹さんの事、心では疑いきれてない」
「……っ」
その言葉に、つかさの事が頭の中であふれ出す。
そう……だ。
つかさは……そんな子じゃない。
誰かを、私を殺すような子なんかじゃ決してない。
だって私たちは……双子。
神様が悪戯に分けた、生命の芽。
「かがみが信じるなら、私も信じる。その子がゆーちゃんを……かがみを、殺すわけない」
彼女の言葉が、その両腕が、優しさが……私を包む。
その暖かさが嬉しくて。
胸から溢れてくる感情が、恥ずかしくて。
私は……何も、言い返せなかった。
お礼も、謝罪も……。
ただ私は……泣いたんだ。
彼女の、腕の中で。
「ただいまー」
その涙が地面に零れ落ちるのと、同時だった。
玄関から音が聞こえた、温かみに溢れた男性の声が響いたのは。
「……私、も」
その父親の声が、彼女を縛る。
体が震え、心が凍りついていくのが伝わる。
いつかは居なくなる存在。
それが何時かも分からなくて。
不安定で。
曖昧で。
信じられ、なくて……。
「私も、信じてみるから」
「えっ……」
こなたが笑う。
必死に体の震えと戦いながら。
その眼に涙を堪えながら。
「だから、見ててね……かがみ」
そのまま彼女は、深呼吸をした。
その動作の意味が分かり、私は自分の体を抱きしめた。
こなたの体にしっかり、伝わるように強く。
ただ……強く。
「おかえりっ、お父さん」
その声と共に彼女は、置いた。
一人分だけ用意されていた食卓にもう一膳、お箸を。
……大丈夫だよ、こなた。
私、見てるから。
だから一緒に……。
一緒に……前に進もう。