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Elope 第5話

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 5.  (つかさ視点)


「もうっ! 」
 電話口で、散々怒鳴っていたお姉ちゃんは、荒っぽい仕草で携帯を切った。
「ゆたかちゃんが、あんな頑固な子だなんて思わなかったわ」
 詳しいやり取りは分からなかったけど、話し合いは決裂してしまったみたい。
 おねえちゃんの表情はとってもつらそうだ。
 こなちゃんがいなくなってから、お姉ちゃんの本当の笑顔を見たことが無い。

 もしかして、お姉ちゃんにとって、今のゆたかちゃんは……

 とても嫌な想像を振り払って、お姉ちゃんに声をかける。
「お姉ちゃん。これからどうしよう? 」
「とりあえず。みんなを集合させるわ」

 お姉ちゃんからの招集を受けて、地下街の中心にある、ファーストフード店に
再度集まる。
「泉さんたちは、意外とすぐ近くにいるのではないでしょうか? 」
 腹ごしらえに、ハンバーグとポテトを食べている皆を見渡しながら、
黙っていることが多かった、ゆきちゃんが口を開いた。
「つかささんの話によれば、小早川さんは、時計台から躊躇わずに、地下街に
飛び込んだ、とのことですね」

 私が頷くと、ゆきちゃんは、小さく息を吐き出してから続ける。
「結論から言うと、小早川さんは地下鉄で、名古屋駅まで来たと思われます」
「どうしてそう思うのかしら? 」
 おねえちゃんは首をかしげている。
「小早川さんにとっても、名古屋は、私たち同様に見知らぬ場所です。当然、
土地勘がありません。つまり、逃げるとしたら、無意識にでも一度通った道を
選んでしまう可能性が高いと思います」
「なるほど、一理あるわね」

 お姉ちゃんは、ゆきちゃんの意見に頷いた。
 すると、私たちはどうすれば…… 自分の考えがまとまる前に、
ひよりちゃんがお姉ちゃんに尋ねた。
「先輩方。私達、どうやって動けばいいっスか? 」
 ひよりちゃんは、名古屋のガイドブックを眺めながら首を捻っている。
「私は、ナゴヤに来たことアリマスヨ」
 パティちゃんの言葉に、みんなが振り返った。

「ナゴヤの地下街は、いわゆる現代のダンジョンと呼ばれてイマス」
「あのねえ…… 」
 お姉ちゃんは眉をしかめているけど、確かに地図を見ても迷路としか
思えない。
 パティちゃんは、ガイドブックを見ながら説明をはじめた。

「コノMAPを見ての通り、ナゴヤは、シテツの『ナゴヤ鉄道』を
中心にして、地下街がひろがってイマス」
 パティちゃんは私たちのいる場所を細長い指でさした。『JR名古屋駅』の
東側に寄り添うようにして、『名鉄名古屋駅』がちょこんと書かれている。

 ちなみに、名古屋鉄道は、『名鉄』と呼ばれていて、駅のホームは
地下にあるそうだ。
 どうして名古屋ってみんな地下にあるんだろう?

「ナゴヤの地下街は、メイテツのナゴヤ駅から四方、八方に伸びてマス。
メイテツの傍には『メイチカ』がアリマス。北には『テルミナ』、
東には『ユニモール』、南には『サンロード』というNameの地下街が
のびてマス」

 地図を凝視している一同に、パティちゃんは指で示しながら
丁寧に教えてくれる。

「そして、駅の西側へは『ファッションワン』を通って、『エスカ』
に繋がってイマス』
「本当に迷路みたいっスねえ」
「TRPGにうってつけの難易度が高いダンジョンデス」
「えっと、てぃーあーるぴーじー? 」
 聞きなれない言葉だけど。
「Oh、つかさ。TRPGをやったことないですか? トテモ面白いデスヨ」
 パティちゃんは陽気な表情で話してくる。


「つかさ先輩、TRPGは、テーブルトーク・ロールプレイングゲームの
略っす」
 ひよりちゃんも、丸い眼鏡の縁に指をあてながら話に加わってくる。
「えっと、テーブルトーク? 」
 なおも首を捻っている私に、ひよりちゃんは教えてくれる。
「つかさ先輩。ドラクエとか、FFとかやったことありますよね」
「うん。やったことはあるけど、難しくて最後までいけなかったよ~ 」
「あれは、コンピューターのロールプレイングゲームなんですけど、
コンピューターの役割を、ゲームマスターと呼ばれる人間が担当する、
つまり、みんなで集まって遊ぶRPGを、TRPGというっスよ」

「なるほど~ 」
「あんたたち、いい加減に脱線はやめなさいよ」

 おねえちゃんは苦虫を噛み潰したような表情で止めにかかった。
 確かに、ゆたかちゃんとこなちゃんを、すぐにでも連れ戻さないと
いけないのに、どうして私って集中力がないんだろ。

「まずは、2人ずつで3組ペアを組むの」
 お姉ちゃんは、パティちゃんの説明を聞いている時から案を
練っていたみたい。
ふたりっスか? 」
「そうよ。みゆきとみなみちゃんは地下鉄の改札口を見張って
くれるかしら」
「でもかがみさん。入り口といっても複数ありますよ」
「確信を持てないけど、たぶん『東山線』の入り口だと思う。
『桜通線』の方は、乗降客が少ないから」

「わかりました。地下鉄で脱出するところを抑えるわけですね」
 ゆきちゃんは真剣な表情で頷いた。
「パティと田村さんは、『サンロード』方面をあたって欲しいの」
 お姉ちゃんは、地下街のマップを広げながら指示を出していく。
「ラジャー 『サンロード』から、もっと奥の『ミヤコ地下街』
あたりまでを探索シマス」
 パティちゃんは、楽しそうな顔つきで答える。
「私とつかさは、『テルミナ』と『ユニモール』を探すことにするわ」


 私は、ガイドブックをもう一度覗き込んだ。
 『テルミナ』は北で、『ユニモール』は東だから…… 探す範囲は
かなり広いかな。
 お姉ちゃんは、真剣な表情で地図を見つめている皆にむかって
注意を加えた。
「こなたやゆたかちゃんを見つけても、すぐに捕まえようとしちゃ駄目よ」
「お姉ちゃん、どうして? 」
 みんなも不思議そうな顔をしている。
「ゆたかちゃんはともかく、こなたは小さいけれど格闘経験者よ。
素人が下手に捕まえようとしても、反撃されたら対抗できないわ」

「ソレデハ、どうすればイイノデスカ? 」
 困ったような表情でパティちゃんが尋ねた。
「ふたりを見つけたら携帯で全員にメールを送るのよ。余裕がなければ
電話でもいいわ」
 お姉ちゃんの頭が、いつものように冴えてくる。
 チアの時もそうだったけど、大事な時にリーダーシップを発揮できる
ところに、憧れてしまう。

「携帯のメールを見たら、みんな持ち場を離れて、全員でこなたたちを
捕まえる。みゆき、どうかしら? 」
 お姉ちゃんは、ゆきちゃんの意見を求めた。
「現段階では最良の案だと思いますが…… 地上と、駅の西側は
あきらめないといけませんね」
「みゆきのいう通りよ。たった6人だと限界があるわ。だから本当に
賭けになるわ」
「了解したっす。必ず小早川さんを連れて帰るっスよ」
 ひよりちゃんは掌をぎゅっと握り締めて決意をあらわした。隣にいる
みなみちゃんも、瞳に静かな決意を秘めているようで、コクンと頷く。
 方針が決まり、私たちは分散して地下街の探索を始めた。


 まずは『ユニモール』を歩き始める。
 この地下街は広いけれど、大通りが2本あるだけで比較的に構造は単純だ。
 もちろん、途中で2本の大通りを繋ぐ通路がいくつもあるし人通りも多い。
地下の2階には駐車場もある。
 お店を眺めながら、行き交う人々に目線を走らす。年末だけあって、
平日の昼間にも関わらず人通りは多い。
 私たちは、隣の『国際センター』駅の近くまで進んで、Uターンして戻る。

 奥まで歩いて戻るだけで30分かかるって、どんだけー
 しかも、これだけ長い距離を歩いても、ほんの一部しか地下街を
通っていない。
 こんな入り組んだ広い場所で、こなちゃんを探すなんて無理だよって、
言葉が喉から何度もでかかるけど、懸命に抑える。

 お姉ちゃんが必死になって、こなちゃんを探している。
 それに、私だってこなちゃんと離れたくない。
 もちろん、こなちゃんとは4月からの進路が違う。こなちゃんは、
大学受験をするかどうかすらも決めていない。
 でも、卒業するまでに学校で一緒に過ごしたいし、4月からだって、
こなちゃんと会うことは、いくらでもできるはずだ。

 だから、こんな形で別れちゃうなんて絶対嫌だ。


 なのに…… あの『事件』の後、こなちゃんは、ゆたかちゃんと、
まるで周囲の全てを拒むかのように、二人だけの世界に
逃げてしまった。
 今の機会を逃すともう2度と会えないかもしれない。

 私は、さっき、ゆたかちゃんを逃したことをすごく後悔している。
 もしかしたら千載一遇の機会を逸したかもしれない。
 お姉ちゃんも、みんも、ひとことも言わないけれど、私自身が
一番後悔しているんだ。
 だからこそ、次は絶対に逃さないよ。ゆたかちゃん。
もちろん、こなちゃんも……

『ユニモール』をぐるりと、一巡した後は『テルミナ』に戻って
探索を続ける。
『テルミナ』には、みんなが集合したファーストフード店もある。
 ちなみに、ゆきちゃんとみなみちゃんが見張っている、
地下鉄の改札口も、通りを挟んですぐそばにある。

 地下街を歩いていくと通路の幅が狭くなる、更に進んでいくと、
突き当たりに『三省堂書店』の看板がみえる。
 目の前にエスカレーターがあらわれて、私たちは地下二階に降りていく。
「本当に迷宮みたいだね」
「そうね」
 お姉ちゃんと一緒に、下に降りると看板通りに本屋さんがあった。
 すごく奥行きが深くて広い本屋さんだ。子供だったら、かくれんぼが
出来てしまいそう。

 一番奥にライトノベルのコーナーがあって、お姉ちゃんは好みの作家の
新作が並んでいるのを見つけて、一瞬、物欲しそうな顔をしていたけど、
すぐにあきらめて、きびすを返した。
 本屋の隣にある文房具屋の脇を通って階段をあがり、地下1階に戻った時に、
お姉ちゃんの携帯が鳴った。


『もしもし、高良です』
「こなたがいたの? 」
 お姉ちゃんの表情が変わる。
『ええ。東山線の改札口の近くにある自販機で、小早川さんと一緒に
切符を買っています』
「まずいわ」
 お姉ちゃんは舌打ちをした。
 こなちゃんたちに、地下鉄に乗られてしまえば追う手段が
なくなってしまう。

「みゆき、こなたたちを絶対に地下鉄に乗せないで! 」
『計画を変更して、実力で阻止するということですね』
「私たちもすぐにいくから! 」
『分かりました、お願いします』
 ゆきちゃんからの電話を切ったおねえちゃんは、すぐに、ひよりちゃんと
パティちゃんのペアに電話をかける。
『東山線』の改札口に集結するように指示を出す。

 ひよりちゃん達は、名古屋駅の南側に向かって伸びる『メイチカ』
から、更に奥にある『ミヤコ地下街』まで突き進んでいたから、
少し遅れるみたい。
「つかさ。走るよ」
「うん。おねえちゃん」
 私とお姉ちゃんはスカートの裾を翻しながら、混雑する地下街を
縫うようにして駆け始めた。

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Elope 第6話へ続く











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  • やべえワクワク*1 -- 名無しさん (2009-11-28 00:14:01)

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