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世界は私を中心としない

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だれでも歓迎! 編集
 ゆたかちゃんから告げられた衝撃の事実。
 私は初めてこなたとの関係が周りの人を巻き込んでいると知った。
 こなたの大切な従姉妹、ゆたかちゃんを。





 世界は私を中心としない





「それで……」
 私はこなたから今日もゆたかちゃんが学校を欠席した事を聞いて、重い口を開いた。
 話があると言ってきたこなたを家に招いたのは、私達の関係をゆたかちゃんに告げ、そしてゆたかちゃんの想いがこなたに告げられてから数日後の放課後。
 ゆたかちゃんは最近連日に渡って風邪で寝込んでいる。身体が弱く頻繁に体調を崩す事は知っていたが、こんなにも長く風邪を引いたままというのは久しぶりだそうだ。
 原因は容易に推測出来る。
 私達が付き合っている事を、そして自分の気持ちがこなたに伝わらないと知ったから。
「ゆたかちゃんの具合はどうなの?」
 こなたの話によると、また今度ゆっくり話し合おうという結論に至り私が帰路へついた直後に、廊下で苦しそうに倒れているゆたかちゃんを発見したらしい。すぐにおじさんに手伝って貰ってベッドへと寝かせ安静にさせたが、発熱や咳などの症状が未だ治まってないと言う。
「大分良くなったみたいだけど、まだ完全には治ってないって」
 こなたもおじさんから伝聞した話なのだろう、断言はせずに私の質問に答えた。
 学校に行っている間は仕方がないとして、帰宅してからこなたはゆたかちゃんの看病をしているのだろうか。今顔を合わせても気まずい空気に取り込まれるだけのような気がする。
「お粥とか作るのは私だけど持っていくのはお父さん」
 聞くと思ったとおりの答えが返ってきた。間接的には色々とやっているが顔を合わせたりはしていない、という事だろう。
「おじさんは何か言ってた?」
 度重なる私の質問に、今度は首を横に振って否定するこなた。
「もしかしたら知ってるのかもしれないけど……こっちからは聞けないしね」
「そうね……」
 指を顎に宛がい考える。
 同じ一つ屋根の下に住んでいるのに顔も見ず言葉も交わさないなんて辛いに決まっている。こなたもゆたかちゃんも元の関係に戻りたいと思っているだろう。
 或いはゆたかちゃんは、それ以上の関係を望むかもしれない。むしろこの可能性のほうが高いと言える。
 今のゆたかちゃんを支配する一途な感情が爆発したら―――
 ゆたかちゃんが私やこなたを拒み続けたら―――
 嫌な想像ばかりが私の頭を過る。
 もうこの関係を変える事は不可能なのだろうか。
「ゆーちゃん、きっと怒ってるだろうな……」
 こなたが悲しげに目を伏せて呟いた。
「このまま看病を続けたらきっと良くなるわよ」
「……もし良くならなかったら?」
 ありきたりの励ましを投げ掛ける私にこなたが最悪の仮定をした。
 私はそれに咄嗟に答えられず言葉に詰まってしまう。
「そうなったら、私達もう……」
「こなたっ」
 声を大にした私に驚きこなたが身体を震わせる。
 私は手を伸ばしてこなたの震える肩を掴んだ。

 一瞬何をしたのか自分でも分からなかった。
 気づいたら私はこなたを床に押し倒していて、揺れる瞳を真上から覗き込んでいた。
 心が折れそうなこなたを見ていると私まで弱気になってしまいそうで、高ぶった感情が身体を勝手に動かしたのだろうか。
 それとも、気持ちを通じ合わせるのはこうするのが良いと本能が判断したのだろうか。
 私はゆっくりとこなたに顔を近づけ、唇を重ね合わせた。
「んっ……」
 目を細めて小さく声を上げるこなた。段々と頬を染め上げて、切なげな眼差しを私に向けてくる。
 今思うと私の部屋でするのは初めてだ。恋人を自分の部屋に招いて、そして強引に押し倒して唇を奪ったという事実が普段より一層私を興奮させる。
 底知れない不安を感じているであろうこなたに自分の気持ちを伝えるかのように、私はむさぼるかのごとく唇を押し付けていった。
「あ……むぅ……」
 こなたが目を閉じながら喘ぐ。火傷しそうなほどの熱さを感じながら、私は更に強くこなたの唇を求めていった。
 こなたの華奢な肩を押さえつけていた両手を離して手の平に優しく添え、こなたの細い指をからめとる←漢字変換。暖房が効いている部屋で密着しているからだろう、私達の手はじっとりと汗ばんでいたが、妙に心地良かった。
「んむぅ……」
 互いの唇を触れ合わせつつ、舌を伸ばしてこなたの柔らかい唇を舐め回す。どちらのか区別がつかない唾液が一部こなたの口の端から顎へと伝う。
 その淫靡な光景は酷く私を高ぶらせた。舌の動きを激しくすると、それに比例するようにこなたが私の手を強く握る。
 やがてこなたが私を受け止める用意が出来たのか、口を開いて僅かな隙間を作り出した。
 私はそこからこなたの口内に下を割り入れる。
「あっ……」
 私の部屋に甘美な嬌声と乱れた息遣いが響く。
 そう言えば先程からかなりの量の唾が出ているはずだ。摂理には逆らえない液体は、自然の法則に従って空間を落ち行く。
 仰向けになったこなたの上に位置している私は平気だが、こなたの口内には二人分の唾液が溜まっている事だろう。
 それのやり場はどう考えても一つしか思い浮かばない。
 瞬間、こなたが喉を鳴らして無色透明の粘っこい液を嚥下した。
 飲み下した時の音、少し目を顰めたこなたの顔、それらはとても扇情的で、上手く表現出来ないけど胸が少し締め付けられるような感覚に私はなった。
 揺さぶられた情動をどうする事も出来ずに、私はこなたの唇を強く吸った。
 すると、苦しくなったのかこなたが身じろいで足をばたつかせた。
「んっ……」
 踵が床をのたうつ衝撃が私にも伝わり、名残惜しさを感じながらも私はこなたの舌と唇を開放した。
「吃驚したなぁ……」
 急に押し倒した事か急にキスした事か。恐らくは両方だろうと思いながら、口を尖らせながらもとろんとした表情のこなたを見つめる。
 徐々に細くなる、光を反射して輝いていた糸はやがてちぎれて、私達の口に収束していった。手の甲で拭うように処理して、惚けているこなたの背中に両手を回す。
 こなたは僅かに床から身体を浮かせてくれた。形成されたスペースに手を潜り込ませ、抱きかかえるようにこなたの上半身を起こす。私達の距離が再び縮まった。
 物憂げな瞳を見ていると私の本能は吸い込まれてしまいそうな魔力を見出したが、それを口実に折角抱き上げたこなたを再び横たえようとする自分がいて、考えを忘却の海へと投げ捨てる。
「何かさ、かがみと触れ合ってるとかがみの気持ちが伝わるんだよね」
 優しく微笑んで嬉しい事を言ってくれるこなた。そしてこのアングルはヤバい。
「かがみが告白してくれた時もそうだったけど、キスされてかがみの気持ちが私の身体に流れ込んでくる感じ?」
 こなたがゆっくりと目を閉じる。
「それで私は初めて、自分の本当の気持ちや大切な事に気づけるんだ」
 腕の中のこなたは本当に心地が良さそうだった。
 私だってそうだ。こなたと唇を重ねる事で、沢山得るものがある。
 言葉じゃ足りないから行動で表すんだ。
 嬉しい気持ち、悲しい気持ち、楽しい気持ち、切ない気持ち。
「私弱気になってた……ごめんね」
「ううん、良いのよ」
 私はこなたの顔を引き寄せると、おでこに軽く口づけた。
「ゆたかちゃんの調子が良くなったら、もう一度話し合いましょ」
 きっと分かってくれるはずだから、とこなたにというよりは自分に言い聞かせるように、言葉にした後も繰り返し心の中で復唱する。
「うん……」
 しかしやはり不安が拭いきれないのだろうか、こなたの返事は絞り出したようなか細い声だった。
 不安に支配されそうな身体、込み上げてきそうな嗚咽、実現しそうな最悪の想定を封じ込めるように、私はひたすらにこなたを抱き締める。
 それだけがお互いの気持ちを通わせる唯一の手段だった。

 私の心を映し出すかのように、薄暗い雲が限りなく広がる空を覆う日曜日。
 午後から雨が降るかもしれないわね。昼食を取り終えて部屋に戻った私は、窓を通して外界の天候の悪さをぼんやりと眺めていた。
 ここ最近の休日は連日こなたの家にお邪魔していたが、今日は特に誰とも一緒に過ごす予定はなかった。偶には一人でいるのも良いかもしれない。
 私の頬を支えていた手を動かし今読み進めている途中のラノベへと手を伸ばす。頁を捲っても殆ど頭に内容が入らなかったので、すぐに本棚へと仕舞う。
 昼寝でもしようかと思いベッドに仰向けになるものの、睡魔は全くやってこなかった。次に思い立ったのは明日の授業の予習だが、眠くないにしても一度寝転んでしまうとやけに身体が重く、机が遠く感じる。
 何も手につかないのは、押し寄せてくる不安の所為だろう。集結して大波を形成する、半端じゃない量のどす黒い感情は容赦なく私の心に入り込む。
 こなた何してるのかしら……目を閉じて暗闇の世界に最愛の恋人の笑顔を描く。
 魔のトライアングルを人知れず作っていたゆたかちゃんと同じ家で過ごしているのだから、私よりも遥かに苦しんでいるに違いない。
 こなたの家を訪れたい衝動に駆られたが、今は止めておいた方が良いのだろうか。
「お姉ちゃん、お客さんだよ」
 色々と思考を巡らせていると、ドアの外からつかさの声がした。我家に私に用事があって来訪してきた者がいるらしい。
「誰?」
 私は頭を掻きながら身体を起こし、ベッドから降り立った。
「こなちゃん―――」
 ……こなたっ!?
「―――のおじさん」
 ……のおじさんっ!?一瞬の内に歓喜と驚愕が繰り返される。
 こなたのおじさんが休日の昼間から私に何の用だろうか。不思議に思いつつも対面を謝絶する理由もないので、私は軽く身だしなみを整えて部屋から出る。
 客人の来訪を教えてくれたつかさにお礼を言って階段を降りる。自然と早足になるのは待たせると申し訳ないからか、わざわざ訪ねてきた理由を知りたいからか。
 玄関には茶色のコートを羽織り類似した色のシャツとズボンを召しているこなたのおじさんが立っていた。開け放たれた扉から見える道路脇には一台の車が停めてある。
「突然押しかけたりしてすまないね」
「いえ……それより、どういったご用件で?」
 おじさんは真摯な眼差しのまま、言った。
「こなたとゆーちゃんが家で待っている。一緒に来てくれるね?」

「ゆたかちゃんの具合はどうですか?」
 助手席に座った私は隣でハンドルを握るおじさんに聞いた。
「大分良くなったよ。俺の職業が幸いしたかな」
 運転中だから当たり前なのだが、私の方を見ずにおじさんは答える。作家という職業柄、家にいる事が多いからつきっきりで看病出来たのだろう。
「ゆーちゃんは元々身体が弱かったが……」
 ふとおじさんが語りだしたので、私は静かに続きを待つ。それを見計らったかのように信号が赤色に点灯した。
 ブレーキを踏んでおじさんは沈黙を催促と感じたようだ。
「今回みたいに症状が長引くのは久し振りの事なんだ」
 言い終ると同時に私の方を向いた。
「ええ、こなたから聞きました」
「そうか」
 おじさんは一つ頷くと、青色が進めを示したので一時的に停止させていた車を再び走らせるべく前方に向き直った。
 私は意味もなくシートベルトを握り締め、あっという間に移り変わる外の景色に目をやった。
 今までは意識していなかったから知らなかったが、道行くカップルは殆どの割合で手を繋いでいる事に気づく。しっかりと握り合っていたり、指先を少し絡ませただけだったりと、その様子は非常に多様だったが、誰もが幸せそうに見えた。
 私達にもあんな風になれる日が来るのだろうか。
「三人の間に何があったかは知らないが、ゆーちゃんは俺にとってもこなたにとっても大事な家族だ」
 不意に聞こえたおじさんの声に視線を移動させる。その横顔はとても凛々しかった。
「早く仲直りしてくれよ」
 車が止まったと思うともうこなたの家の前だった。
「同席されないんですか?」
 私はドアを開けながら尋ねた。おじさんは力強く頷いた。
「こなたが選んだ道を俺は応援するさ」
 何もかも知っているかのような口調に本当にそうなのではないかと疑いを持ってしまう。ある程度は想像がついているのかもしれないけど。
 降車して車内のおじさんに頭を下げる。おじさんはそれを見届けてから颯爽と車を操作し何処かへ走っていってしまった。
 何度も見ているはずの泉家の玄関。それが今は試練への門に見える。
 大事な家族―――おじさんの言葉を頭の中で繰り返す。
 そこに私が入り込む余地はあるのだろうか。

「いらっしゃい、かがみ」
「おっす、こなた」
 インターホンを押して、来た事を知らせるとすぐにこなたが出迎えてくれた。挨拶もそこそこに私は早速上がらせて貰う。
「お父さんから聞いてると思うけど、今からゆーちゃんと話をつけるよ」
 こなたの真摯な瞳に私は頷く。こういうところもおじさんから受け継いでいるようだ。
「おじさんは私達三人の事知ってるのかな」
 先導するこなたの後姿に聞いてみた。
「多分……知ってると思うよ」
 こなたは振り返ると何の思案もなく肯定した。
「私達の問題は私達で解決しろって事じゃないかな」
 そう続けるとこなたは再度前に目線を直した。
 これもある意味信頼の形、なのだろうか。
 そんな事を考えている内にゆたかちゃんの部屋の前まで辿り着いた。心臓が早鐘を打っているのが分かる。
 こなたは何の躊躇いもなく扉を二回ほど叩く。
「ゆーちゃん、私……とかがみ」
「……入って良いよ」
 沈んだ声に歓迎を受け、こなたがドアノブに手を掛ける。
 部屋の中には、ベッドに寝たまま窓の外を見て儚んでいる一人の少女の姿があった。

「調子はどう?ゆーちゃん」
「大分良くなったよ。皆が看病してくれたから」
 本人はそう言っているものの、顔はすっかり痩せ細り嘘でも健康だと言うのが憚られるほどだった。
 こんなになるまで悩ませていたのか―――私の胸に申し訳なさが募る。
「心配掛けてごめんね」
 ゆたかちゃんがそう言うと、室内は静寂を纏い始めた。
 今日もまた、分かり合えないまま悪戯に時間だけが過ぎてゆくのだろうか。
「ゆーちゃんが家に来てから大分経った」
 沈黙を打ち破るようにこなたが呟いた。
「ゆーちゃんは本当に可愛くて、本物の妹みたいだった」
 昔の自分とゆたかちゃんを思い浮かべているのだろう、こなたは目を細めて続ける。
「今ではもう、ゆーちゃんは私の家族の一員だよ」
 一つ一つ、言葉を探しながら丁寧に紡いでいくこなた。それを黙って聞いている私、俯きがちに耳を傾けているゆたかちゃん。
 目尻には大粒の涙が溜まっている。
「だからこそ……ゆーちゃんには理解して貰いたかった」
 そこでこなたの話は途切れ、再び重たい空気がやってくる。
 やたらと響く、枕元の目覚し時計定期的な音。
「……だったら」
 それが六十を数えようかという時―――
「どうしてすぐに言ってくれなかったのっ!?」
 ゆたかちゃんの秘めていた想いが爆発した。いきなりベッドから起き上がり、その弾みで雫が煌きながら零れる。
「家族だと思ってくれてるんなら、どうしてもっと早くっ」
 思わず己の目を疑ってしまうほどの激しい剣幕。熱くなりすぎて抑制が効かないのだろう、最後の方は感情に支配されて途中までしか言えてなかった。
 私達が答えを出せずにいた質問は一週間前と同じく、私達を封じ込める。
「もう私、お姉ちゃんと今まで通り過ごすなんて出来ないよ……!」
 好きな人と一つ屋根の下。
 それはとても理想的な関係に見えて、今のゆたかちゃんには生き地獄のような場所なのだと瞬時に理解する。
「……最初から知ってればこんな事にならずに済んだのに……」
 ゆたかちゃんは決壊した涙腺を隠すように顔を伏せて言った。
 自分で悔やんでいるだけかもしれない。残忍な神様を呪っているのかもしれない。
 しかし私には、それは私に向けて言われているような気がした。
「あなたが私から何もかもを奪ったんだ……」
 そして私は確信した。
 ゆたかちゃんは私を恨んでいるのだと。
 背筋に戦慄を覚える。
「私のお姉ちゃんも、私の居場所も……」
「かがみを悪く言わないで!」
 こなたが立ち上がって叫んだ。
「こなた……」
「ゆーちゃん、それは我儘ってもんだよ」
 こなたの冷徹な言葉にゆたかちゃんの腫れた目元が反応した。
「自分の意気地のなさを棚に上げて何言ってるの。ゆーちゃんがもっと早く私に気持ちを伝えていればこの状況は違ってたかもしれないんだよ?今のゆーちゃんは自分の非は無視して駄々捏ねる子供と一緒だよ」
 ゆたかちゃんに言っている言葉のはずなのに、私の胸に何かが刺さってくるのは何故だろう。
「ゆーちゃん、私は元の関係に戻りたいよ。仲良かった家族に……」
「じゃあお姉ちゃんの言う家族って何なの!?」
 ゆたかちゃんが怒りに似た感情を露にして、勢いに任せて声を張り上げる。
「おじさんとお姉ちゃんは家族だけど私は血は繋がってない、従姉妹じゃないっ」
 一度口から出てしまった憤りは止まる術を知らなかった。家族に関しての口論が二人の間で飛び交う。
 手が震えた。
 私がこなたの家庭を崩壊させている、二人を苦しめているという事実に。
「ゆーちゃんは私やお父さんを家族だと思ってないの?信じてくれてないの?」
「そんなわけないじゃない」
 家族が、崩れていく。
「お姉ちゃんは私が二人を信頼してないとでも思ってたの?」
「そうじゃないよ」
「じゃあどうしてっ」
「止めてっ!!」
 家中に響き渡るかのような大声を上げて、私はこなたとゆたかちゃんの間に割って入った。
「こんなの……ダメだよ」
 他に言葉が見つからなくて、私はそう呟くと部屋を飛び出した。

 走って走って行き着いた先の公園は、私を迎え入れるかのように人気がなかった。良く見れば遊具は所々破損していたりして、人が全くいないのも納得がいく。
 ブランコやベンチなど腰を下ろせる場所は何箇所か近くに存在したが、私は興味を示さずゆっくりと歩いて公園の中央で止まる。
 寂れたこの場所は今の私にお似合いだ。
 あれだけ逃げ出さないと誓ったのに。
 あれだけ後悔しないと誓ったのに。
 あれだけ離さないと誓ったのに。
 全て爆ぜてしまった。
 全て失ってしまった。
 全てなくなってしまった。
 鼻の頭に落ちた水滴に顔を上げれば、空は分厚い雲に完全に隠されていた。雨粒はあっという間に激しくなり私の身体を濡らす。
 それでも私は空を見上げていた。
「……そんなところにいたら風邪引くよ」
 背後から声が聞こえたけど振り返らない。返事もしない。
「どうして逃げたの?」
 私が何の反応も見せないからか、こなたは話題を変えた。
 逃げた―――その言葉が深く突き刺さる。
「かがみはもう……私を好きじゃないの?」
 そんなわけない。違う。あり得ない。
 否定の言葉は幾らでも思い浮かぶのに、声にはならなかった。
 こなたを好きという気持ちには変わりない。
 しかしそれは、こなたの家族を壊してまで優先するべき事なのか。
 頑なに自分の気持ちを押し通す。二人で何処か遠くまで駆け落ちする。
 他にも自分の気持ちを優先させる手段は多様にある。
 しかしそれは、周りの人達を巻き込んでまでする事なのか。
「……かがみっ!」
 苛立ちを覚えたこなたの声が聞こえる。
 逃げ出すなと言われてからまだ十日も経っていない。それなのにこのざまだ。もう逃げてしまった。我ながら情けなさすぎる。
 大丈夫だと励ましたにもかかわらず、その本人が挫けるなんて。
 約束の一つも守れない者が、周りに迷惑を掛ける者が、困難だらけの道を進み幸せになれるのか。
 なれるわけがない。こなたと共に絶望へと続く道程を歩くわけにはいかない。
 愛しさが溢れて、これ以上こなたを苦しめる前に、これ以上こなたを傷つける前に―――
「かがみ、何か言ってよっ!」
 右手首に痛みが走る。顔を顰めた途端強い力が加えられこなたに引き寄せられる。
「こなた……ごめん」
「かがみ……」
「私もう……頑張れない」
 力なく呟く私にこなたは一瞬悲痛の色を見せたが、すぐに目尻を吊り上げて私の手首を思い切り掴む。
 殴られる―――と私は直感で感じた。だがそれでも仕方がないと思えた。私はそれだけの事をしでかしたのだから。
 ところが来るべき衝撃に備えて目を瞑っていた私は、温もりに包まれた。
 こなたに抱き締められていると思ったら、私はまたすぐに冷たい雨に晒される。
 激しい雨の中、私は去り行くこなたの後姿を確認した。
 不思議と涙は出なかった。






 気持ちの欠片に続く










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  • 結構重い話になってきてますね。 -- チャムチロ (2012-10-19 12:40:23)
  • 最初からは想像もつかないシリアスな展開だな -- 名無しさん (2009-05-26 22:26:40)
  • ↓boatの綴りが間違ってるぞ、なんてオレには言えませんwww

    続編にwktk。 -- 名無しさん (2008-01-09 20:10:09)
  • nice bortend希望
    -- 名無しさん (2008-01-09 19:06:39)
  • 結末を知るのが…怖い -- 名無しさん (2008-01-09 07:46:36)

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