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気持ちの欠片

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 私は歩いていた。
 やけに冷たく感じる大粒の雨に打たれながら。
 歩いていた。





 気持ちの欠片





 雨水は靴の中まで濡らし、他の感覚がなくなるほど足を冷やしていた。
 重たい足取りで家路を辿る私はずぶ濡れ、すれ違う通行人から訝しげな目線を向けられるほどだ。家から傘を二人分持ってきたのだが、両方とも、想い出と一緒に公園に置いてきてしまった。それにここまで濡れたら今更雨を避けるのも無意味な気がしていた。
 少しふらつきながらも、私は着実に我家へと近づき、かがみから遠ざかっていった。
「こなた……ごめん」
 かがみの悲痛な声が、顔が私の脳内に蘇る。なおも私の心を締めつける鮮明に焼きついた情景は、茨の鞭を連想させた。
「私もう……頑張れない」
 記憶上の音声なのにリアルタイムで聞いているような感覚すら覚える。それだけに私の心は酷く痛んだ。
 私には飛び抜けて高性能な録音機でも搭載されているのだろうか。そんな馬鹿な考えを振り払うように、勢いをつけて首を左右させると髪から水滴が飛び散った。そしてまたすぐに新たな水分を含む。
 脳内のキャンパスに最愛の人を描く。笑っている顔、怒っている顔、悲しんでいる顔、楽しんでいる顔―――
 しかしその片隅には、決して消せない、切なげに俯くかがみの表情。
 私はそこからかがみの本心、かがみは私の事が好きだという事を読み取った。予想でも妄想でもない、絶対だと言いきれる事実。
 かがみは私を嫌って別れを告げたのではない。
 ―――私の事を想って別れてくれたのだ。
 ゆーちゃんと言い合っていたあの時、かがみが止めに入ってくれなかったらどうなっていた事だろうか。かがみが私達の口論の場に割って入ってきた図を思い描く。
 少なくとも私達が元の関係に戻る事は不可能となっていただろう。怒りに身を任せお互いの非を責め合って、最終的にはどうなるかなんて想像もしたくない。
 ゆーちゃんを、ゆーちゃんの気持ちを無視して今の関係を保っても、幸福には繋がらない。必ず破滅の運命が私達を待っている。
 かがみは自分の気持ちよりも私の将来、家族を優先してくれたのだ。
 最初は弱音を吐いているだけかと、現実から逃げているだけかと思って腹が立ったが、違ったのだ。私への気持ちはそんなものだったのかと憤りも感じた。
 だが、項垂れるかがみの胸座を掴んで、殴ってでも考え直させる―――
 優しいかがみにそんな事が出来るはずがなかった。
 私がかがみの事を大好きでも。
 だから私は抱き締めた。
 大好きだよって伝える為に。
 これからもずっと、私の気持ちは変わらないよって。
 ありがとうって。
 私の気持ちはちゃんと届いたのだろうか。かがみに伝えたのに、私は何故か一面に暗雲が立ち込める空を見上げる。
 何となく、後ろを振り返るのは憚られた。
「……家に帰ろう。急に出て行ったから、ゆーちゃんに心配掛けたかな」
 私は誰にともなく呟いて歩みを速めた。
 頬を伝った雫は、雨だという事にした。

 家に帰り着いた時には足の関節の数箇所が軋みを覚えていた。気だるさが込み上げてきたが、玄関で倒れるわけにはいかない。
「お帰りこなた……っておいおい、随分と濡れてるじゃないか」
 入れ違いになったのだろう、私より先に帰宅していたお父さんが、戸外で雨を吸って重くなった服の裾を絞っている私を見て驚いた。
「あ……お父さんただいま。帰ってたんだね」
 家の中で作務衣以外の服装をしたお父さんは久し振りに見た。着替えていないという事はまだ帰ってきてからそう時間は経っていないのだろう。
「待ってろ。今タオル持ってきてやるから」
 そんな事を考えていると、お父さんの声がずぶ濡れの私に降り掛かった。
「ありがとー……へくちっ」
 くしゃみをしながら受け答えする。風邪引いたかもなんて考えていると、お父さんはどたばたと居間へ入っていった。
 そう言えばゆーちゃんはどうしてるのかな。未だに水分の抜けきらないトレーナーにうんざりしながら、展開があったとはいえほったらかしにしてしまった従姉妹の事を思い浮かべる。
 ゆーちゃんがあそこまで声を張り上げるとは思ってもみなかった。とてつもなく激しい口論を繰り広げてしまった事を思い出す。
 それだけ私の事を想ってくれているのだろうか。
 あの時はかがみの事を悪く言われて頭に血が上っていたものの、少々強く言い過ぎてしまったかもしれない。後で謝っておこう。
 そう決心した私だったが、そこで何かから制止が掛かった。
 私はゆーちゃんに何と声を掛ければ良いのだろうか。
 そして、謝るべきは私なのか。
 こういう言い方はあまりしたくないが、ゆーちゃんは私とかがみを引き裂いた。かがみを睨みつけるゆーちゃんを見た時は、初めてゆーちゃんに本気で怒りを感じた。
 全てゆーちゃんの所為ってわけじゃないし私にも悪いところは勿論あるんだけど、私も、私の心も子供染みているのかそれを認めようとはしなかった。自分の非を受け入れるよりも相手の非を責めたかった。
 私達は元の関係に戻れるのだろうか。
 かがみの気持ちに応えられるのだろうか。
 心が沈む。正直自信はなかった。
 ―――出来る事なら逃げてしまいたい。
 刹那、ふともう一人の家族の顔が頭を過った。
「ほれ、こなた」
 その人は穏やかな顔で私にバスタオルを手渡してくれた。
 思い返されるリビングの空気、威厳を持ったお父さんの願い。
「そのまま風呂に入った方が良いんじゃないか?」
「……うん、そうするよ」
 切実に現実逃避を願っていた私はそう答えるのが精一杯だった。まともに視線を合わせられない。
 後ろめいた気持ちが押し寄せてくる。
「だったらもう一枚必要だな」
 風呂場に行くまでに家の中が濡れると困るから、とお父さんは続けた。このタオルで身体や服を拭いて浴場へ向かえという事だろう。私は静かに頷いた。
「今持ってくるからな。風邪引かないようにちゃんと拭いておくんだぞ」
 そう言い残して再び居間へと姿を消すお父さん。私は言われたとおり丹念に水分を抜き取っていった。
 受け取ったタオルが水分を吸いきって使い物にならなくなった頃を見計らったかのように、お父さんが二枚目のタオルを持ってくる。水滴が足下に滴り落ちない程度にはなっていたので、私はそれを受け取り感謝の意を告げると自室へと向かった。
 お父さんからも、逃げるように。

 部屋の箪笥の引き出しを開け、一番上にあった下着、トップ、ボトムを取り出す。それらを持ってきたバスタオルと一緒に腕に抱えて部屋を後にする。
 脱衣所で湿った服を脱いで洗濯籠に放り込むと、急に寒気が襲ってきた。一糸纏わぬ姿となった私は身を縮こませ、急ぎ足で浴室へと続く扉を通過する。
 つまみを捻ってお湯を放出させる。浴槽に溜めるのは時間が掛かると思ったので、簡単にシャワーを浴びるだけにとどめておく。
 無数の細い穴が開いた面から降りそそぐ温かさが、冷えきった私の身体を癒していく。
 身体を洗おうとスポンジへと目を移すと、私の頭の中をある光景が埋めた。
 そう、かがみと一緒に入浴した時の事。
 あの時は焦らされた私がかがみにお願いしたんだっけ。何だか思い出したら顔が赤くなってきた。恥ずかしさが浮かび出てしまう。
 同時に、悲しみも覚えた。
 もうかがみと一緒にお風呂に入る事は出来ないのだろうか。
 それどころか、もう会話をする事も、隣で笑う事も。
 ―――二人で過ごす事も出来なくなるのだろうか。
 お湯が噴出し降下する音だけが響く空間で、私は虚ろに目を伏せた。
 虚無感が私を嘲るように冷笑しているようだった。

 新たに取り出した服を着て、自分の部屋の扉を開ける。時刻は夕刻、雨は少しだけ穏やかになっただろうか。
 火照った身体、はっきりとしない意識のまま、私は倒れるようにベッドに身を投げた。
「はぁ……」
 溜め息をついても降り積もった想いまでは吐き出せない。先程から私の中を色々な感情が彷徨っていた。
 頭では理解している。
 私の為に、かがみは離別を選んだんだって。
 本当の気持ちを押し殺して、私の幸せを願ってくれたんだって。
 そんな事ぐらい、痛いほど分かっている。
 分かって、いる。
「うっ……うあぁ……」
 ならば、何故私は泣いているのだろうか。
 答えは至って単純なもの。
 私がかがみを愛しているから。
 だがそれはもう、表に出してはいけない、心の中に封印しておかなければいけない―――
 伝えてはいけない感情。
 かがみだってきっと、胸がはちきれそうな想いだったはずだ。
 それでもなお私がかがみを想い続けるのは、かがみの気持ちを無下にするようなもの。
 だから私もそれに応えなければならない。
 分かっては、いるのだ、けれど。
「うあぁ……!かがみぃ……!」
 愛しい気持ちが止まらない。
 それは苦しみとなって私を締めつけるのに。
 止まらない。
「…………」
 しかし止める術はたった一つだけあるような気がした。
 ごめんかがみ、折角くれた想いを無駄にして―――
 私は心の中で謝ると、ハーフパンツに手を掛けた。

 それをゆっくりと引き下ろすと、その下にはいていた純白のショーツが姿を現した。
 私はベッドの上で身体を動かし仰向けになると、自分の大切な部分に指を当てて上下運動を始めた。
「あっ……」
 下着の中にこもった熱と僅かな湿り気を、指先を通じて感じた。続けて振動を加えると、軽い痺れが下半身から全身へと伝わっていく。
「んっ……」
 私の秘裂は難なく私の指を濡れた布地ごと受け入れた。熱傷を負いそうなほどの熱い感覚が、割れ目に埋まった指を包む。
 私が手を動かすと、それと連動しているかのように身体も反応を示した。蜜を滲ませた秘所を刺激するとその都度電撃が駆け、腰を揺らして快楽に浸る。
「あ……あっ……」
 私が溜め息のような声を漏らせば漏らすほど、愛液は溢れ出し染みが広がっていった。
「かがみっ……!」
 今までの人生の中で最も睦んだ人の名前を呼ぶと、急にかがみの顔と共に罪悪感が浮かんできた。
 かがみはあんなにも私を気遣ってくれたのに、私は何もしてあげられてない。それどころか辛さを耐えてまでくれた思い遣りを無視している。
 止めなきゃって思う。かがみの事を想っているのなら、止めるべきだと、頭は認識している。
 だが己の感情に正直な私の身体は、今更行為を中止する事を拒否した。
 ショーツの端に指で掴み腰を浮かせる。そのままゆっくりと膝の辺りまで持ってくると、食い込んでいた下着が銀色の糸を引いて離れた。
「ふあっ……」
 やはり生地越しに触るのと直に触るのでは感じが全くといって良いほど異なる。全身を流れる電流は強さを増し、益々私を濡らす。
 発達の中途だと思われる薄い肉壁を指でなぞる。
「あふっ」
 異物の侵入を容易に許した私の秘所は既に粘り気のある液体にまみれていた。それでもまだ快感を得る度にその量を増やしていった。
 差し込んだ中指で自分の中を掻き回す。
「あっ……あん……」
 淫靡な水音が部屋を満たしていく。
 しかし、幾ら快楽を弄っても私は満たされなかった。
 どうしても思い出してしまう。
 かがみと手を繋いだ事を、唇を重ねた事を、身体を重ねた事を。
 その時の感覚を。
 もう味わう事の出来なくなったそれは、私を幸せにしてくれた。
 そして、何よりも温かかった。
 今の私に、それはなかった。
 いつの間にか私は自慰行為に耽る手を止めていた。
「あぁ……あ……」
 再び溢れ出す涙は頬を伝いシーツに落ちる。
「会いたいよ……かがみ」
 数時間も離れて過ごしていないのに、凄く長い間会わなかったかのように私は呟いた。
 もっとかがみに触れたい、触られたい。
 もっとかがみの事を知りたい、私の事を知られたい。
 もっとかがみを感じたい、私を感じられたい。
 もう何もかも、ないのに。

 その時だった。
「お姉ちゃん……」
 私の耳に扉が開かれる音と共にゆーちゃんの声が飛び込んでくる。
「!!」
 私は一気に冷静さと血の気を失った。急いで上半身を起こしショーツをはこうとしたが、手元がもたついて上手くいかない。
「柊先輩と別れたの?」
 それに手間取っている間に距離を詰められたのだろう。私は全意識をそちらに注いでいた為、ゆーちゃんが私の背後にいつの間にか腰を下ろしていたことに気づかなかった。
 私が一人でしているのを見られたのだろうか。ゆーちゃんは私に問い掛けながら私の手首をがっしりと掴んだ。然程力が強いわけでもなかったが、私は抵抗出来なかった。
 別れた―――その言葉は刺となり、私の心に深く突き刺さる。
「お姉ちゃん。私本当に、お姉ちゃんの事大好きなんだよ」
 ゆーちゃんは逃がさないとでも言うように私を背後から抱き締めて、耳元で囁いた。
「私だったらお姉ちゃんにこんな辛い思いはさせないよ」
 肩が震え、呼吸は荒くなる。
「いっぱい一緒に過ごせる。街でも堂々と手も繋げる」
 甘い言葉は私の気持ちを両天秤に掛けているようだった。
 確かにゆーちゃんとなら街で手を繋いでいても不自然ではないかもしれない。同じ家に住んでいるのだから殆どの時間を一緒に過ごせるかもしれない。
 でも私は―――
 急に訪れた感覚に私の思考は中断させられた。
「もうこうして、一人でする必要もなくなるんだよ……」
 ゆーちゃんはその小さい手を私のトレーナーの中に滑り込ませて、先程から高ぶって自己主張をしていた桜色の突起を摘んだ。
 私の首筋に唇がつけられる。大人しい印象だった従姉妹の面影は何処にもなくなっていた。
 微弱な電気が迸った。やはり私の身体は正直で、与えられた感覚に素直に反応していた。指先で弄ばれている両の突起物は硬くなり、既に濡れていた大切な所も更に蜜が湧き出てきたような気がする。
 それでも、ダメだった。
 確かに身体は満足しているかもしれないが、今度は心が不満の声を上げていた。
 ―――かがみじゃないとダメなんだ。
 先に出てしまったのは嬌声ではなく、目から滴り落ちた雫だった。
「…………」
 ゆーちゃんの手の動きが止まってもなお、私の目から流れる涙はシーツに染みを作っていた。
「……敵わないなぁ……」
 そう呟いて私から離れたゆーちゃんは、ベッドから降り立つと静かにドアの前まで移動した。
「私ね……お姉ちゃんの笑顔が大好きだったの」
 私の方を振り返らずにゆーちゃんは言う。
「でも、お姉ちゃんの笑顔を取り戻せる人は私じゃないんだね」
 悲しそうに呟くゆーちゃんだったが、言い終わって向き直ったゆーちゃんは―――
「さ、早く柊先輩を追いかけて」
 笑っていた。
「……ありがと、ゆーちゃん」
 心からの感謝を述べて、私はゆーちゃんの脇をすり抜けて出て行った。
 ありがとう、やっと目が覚めたよ。目を瞑って満面の笑みを浮かべたゆーちゃんの顔を思い浮かべる。
 今の私にはかがみが必要なんだ。かがみがいない生活なんてきっと出来なくなっている。
 未来がどうだからとか、そんなの別れる理由にならない。
 私達は今を共に生きて、想い合っているのだから。
「そして……ごめんね」
 部屋の中から聞こえるゆーちゃんのすすり泣く声を無駄にしない為にも、私は前を向く。
 もう気持ちを偽ったりなんかしない。

 階段を二段飛ばしで駆け降り、急いで玄関へ向かう。
「出掛けるのか?」
 扉が開きっぱなしだったリビングからお父さんの声がした。
「うん」
 私は目尻に溜まった涙を拭いながら、出来る限り明るい声で答えた。
 間もなくお父さんが私の前に姿を見せたが、今度はちゃんと顔を見る事が出来た。
「お父さん、ごめんね。私逃げようとしてた」
 お父さんが今の状況をどの程度理解しているのかは知らなかったが、私はそうとだけ伝えた。
「今から向き合うんだろう?それにこなたは一番大切な事からは逃げてないさ」
 そう言って胸に手を当てるお父さん。
「自分の本当の気持ちからはな」
 とても優しい目をしていた。
 目頭が熱くなるのを感じながら、私は声を張り上げた。
「よし、いってくるよ!」
「ああ、愛を貫いてこい!」
 お父さんと熱く言葉を交わすと、私は雨に包まれる外の世界へ飛び出した。
 かがみとちゃんと向き合う為に。
 私の本当の気持ちを伝える為に。
 本当の幸せを見つける為に。





 君の隣でに続く










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  • やはりこなかが! -- チャムチロ (2012-10-19 12:48:21)
  • やっぱ二人はお似合いです -- 名無しさん (2010-06-20 11:20:41)
  • どうでもいいが赤い悪魔のssは酷かった。 -- 名無しさん (2008-07-23 15:16:09)
  • 「愛を貫いて来い!!!」
    そうじろうかっこよすぎwwwww -- 名無しさん (2008-07-20 06:37:45)
  • 赤い悪魔www -- 名無しさん (2008-07-20 03:00:07)
  • ゆたか死ね -- W (2008-07-18 22:33:23)
  • 確かにwww
    でもこれは頑張ったとみていいかな
    -- 名無しさん (2008-03-24 15:40:04)
  • ↓対極杉www -- 名無しさん (2008-03-24 03:11:46)
  • ゆーちゃんよく頑張ったねб -- 九重龍太 (2008-03-16 16:08:59)
  • ゆたか死ね -- 名無しさん (2008-03-06 19:07:46)

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